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コレステロールについての考察。2014年3月。
おはようございます。

コレステロールについての質問はよくありあますので、少し詳しく考察してみます。

人体はタンパク質、脂質、無機質、水分等の主要成分により構成されています。

男と女で比べると、一般に女性は少し脂肪の割合が多いです。

人体全体の体組成はおよそですが以下のようです。

水分:55~65%
タンパク質:14~18%
脂肪:15~30%
ミネラル:5~6%
糖質は:1%以下・・・つまり糖質は人体の構成成分としては極微量。

その中で、脳は脂質に富み、ヒト脳の乾燥重量の65%が脂質です。

脳脂質の半分がリン脂質、コレステロールが1/4、糖脂質が1/4です。

コレステロールは、生体のあらゆる細胞膜の構築に必須の物質であり、肝臓で合成し腸肝循環によって制御・調節されています。

このように、コレステロールは、人体にとって必要不可欠な、重要な構成成分の一つです。

ヒトだけではなく、約2億2500万年前に哺乳類が誕生して以来、生命現象の根幹をなす細胞膜などの原料として一貫して利用されてきたのです。

そのため血清コレステロール値は、摂取された食物のコレステロールが少ない場合は肝臓での合成が高まり、一方、摂取コレステロールが多い場合は、肝臓での合成が徐々に減少して、一定量を必ず確保するよう調整しています。

食事中のコレステロール摂取量に対する血清コレステロールの上昇には、個人差が結構あります。

例えば玄米菜食の実践により「コレステロールを食事からあまりとらない食生活」だったとすれば、肝臓でのコレステロール合成能力はかなり高まっています。

この時、糖質制限食で食事からコレステロールがたくさん入ってきたら、

「肝臓のコレステロール合成増強+食事からのコレステロールの増加」

となりますので、普通の食事だった人よりは、血清コレステロールが高値となりやすいです。

玄米菜食を実践していて糖尿病を発症した人が、糖質制限食に切り替えた場合などですね。

この場合、基準値だったコレステロール値が、総コレステロールで300mg超え、LDLコレステロールで200mg超えに一旦上昇します。

しかし一旦上昇したコレステロールも、肝臓が徐々にコレステロール産生を調整するので、1年、2年単位で基準値に落ち着いてきます。

もともと卵とかコレステロールを多く含むものをよく食べていた人は、糖質制限食を実践しても血清コレステロール値はあまり変化ないと思います。

このように糖質制限食開始前の食生活において、コレステロールをどの程度摂取していたかで、開始後のコレステロール値が、かなり影響を受ける可能性があります。

なお、「総コレステロール高値と心筋梗塞は無関係」というエビデンスが蓄積したので、2007年4月の日本動脈硬化学会のガイドライン以降は、総コレステロール値は「脂質異常症」の診断基準から外れました。

従いまして、コレステロールに関して、動脈硬化のリスク要因として問題となるのは、HDLコレステロールが低値の人とLDLコレステロールが高値の人です。

2010年後半、日本脂質栄養学会と日本動脈硬化学会の間で、コレステロール論争が持ち上がったのは記憶に新しいところです。

日本動脈硬化学会が2007年に作成したガイドラインは、基本的に「コレステロールは低ければ低いほど良い」という立場です。

これに対して、日本脂質栄養学会は「コレステロールは高い方が長生き」というガイドラインを2010年に作成し、論争を挑みました。

2014年現在、論争に決着がついたとは言えませんが、私は脂質栄養学会の主張のほうに、一貫性と整合性があると思います。

長い進化の過程を経て、哺乳類・人類の生命活動の根幹をなすコレステロールが少々増えたからといって、人体に悪いと言うことは、基本的には考えにくいことでした。

しかし過去、疫学的研究で「LDL-コレステロール高値→心筋梗塞」というエビデンスが蓄積されたかに見えていました。

ところが、製薬会社との癒着研究の問題もあり、特に2004年以降、再検討が必要と考えられるようになってきました。

欧米では「利益相反」や「製薬企業によるエビデンスの不正」が問題となって、2004年以降、治験や医学論文に対して科学的厳密さがより強く要求されるようになりました。

その結果、2006年以降に発表されたコレステロール低下薬に関する無作為化対照試験(RCT)である、ASPEN(16)、ENHANCE(17)、SEAS(18)、GISS-HF(19)、 CORONA(20)、AURORA(21)などでは、スタチンによりLDL-Cは下がりましたが、心血管系イベントや総死亡には効果が無いと報告されるようになりました。

日本動脈硬化学会の「コレステロールは低ければ低いほど良い」という立場が、大きく揺らいでいるのが欧米の現状です。

英国のコクラン ライブラリー(2011)では、
健康診断でコレステロール値が高いというだけの人には
スタチンの処方は不必要と結論しています。
(COCHRANE Statins for the primary prevention of cardiovascular disease 2011)


日本においても、家族性高コレステロール血症の人や、過去に心血管疾患のある人以外は、スタチンの内服は必要ない可能性があり、今後検討が必要と思います。

一方、2013年11月に発表された、米国心臓協会(AHA)と米国心臓病学会(ACC)のガイドラインは、再びスタチンの使用を奨励していますが、早くも物議を醸しています。

米国心臓協会(AHA)と米国心臓病学会(ACC)は製薬企業との関係で、態度がぶれているように思えます。

米国のNationalガイドライン(NCEP ATPⅢ 2001年)は2004年改訂以降停止しています。

欧米でも日本でも当分は、コレステロール論争が続きそうです。


糖質制限食実践後の検査データ

1 血糖値はリアルタイムに改善します。
2 スーパー糖質制限食なら、HbA1cは月に、1~2%改善します。
3 中性脂肪も速やかに改善します。
4 HDL-コレステロールは増加します。増加しますが、増加の程度と速度に個人差があります。
5 LDL-コレステロールは低下・不変・上昇と個人差があります。
  上昇した人も、半年~1年くらいで落ち着くことが多いですが、個人差があります。
 糖質制限食開始前、菜食中心だった場合、LDL-コレステロールは一旦上昇します。
6 総コレステロールは、低下・不変・上昇と個人差があります。
  上昇した人も半年~1年くらいで落ち着くことが多いですが個人差があります。
 糖質制限食開始前、菜食中心だった場合、LDL-コレステロールは一旦上昇します。
7 尿酸も低下・不変・上昇と個人差があります。
  上昇した人も、半年~1年くらいで落ち着くことが多いですが、個人差があります。
 尿酸値が上昇した場合、エネルギー摂取不足がないかチェックする必要があります。
8 尿素窒素はやや増加傾向になる人が多いですが、そのうち落ちつくことが多いです。
9 クレアチニンは不変です。
10 カリウムも不変です。
11 血中ケトン体は現行の基準値より高値となりますが、生理的なものです。
12 尿中ケトン体は当初3ヶ月~半年は陽性になりますが、その後陰性化することが多いです。
   しかし、ケトン食レベルの厳格な糖質制限食だと、尿中ケトン体は常に陽性です。
13 脂肪肝に付随する、GPTやγGTP高値も改善します。




江部康二
テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
J-CLEAR(1)
 臨床研究適正評価機構(J-CLEAR)は、動脈硬化学会と脂質栄養学会とのバトルについて、第3者的立場から見解を述べている。ただし動脈硬化学会が2012年にガイドライン改定を行っており、それ以前の時期の見解と思われる

http://j-clear.jp/teigen1.html

 2009年の日本高血圧学会で、桑島巌氏は、慈恵医大と京都府立医大のvalsartan研究に対して、批判的な意見を述べた。それに対し京都府立医大の松原教授は、「法的手段も辞さない」と暴言を吐いた。

 これをきっかけとして、臨床研究論文の適正評価を目標としたJ-CLEARが結成された。その後のvalsartan騒動の結末は、ご存知のとおりである。

http://j-clear.jp/teigen3.html

 このように、J-CLEARは各学会のガイドラインや見解を盲信せず、「本当に正しいことは何か」を徹底追及している
2014/03/04(Tue) 15:35 | URL | 精神科医師A | 【編集
J-CLEAR(2)
 このJ-CLEAR、構成員は多岐の専門分野にまたがっている。糖尿病に関しても、吉岡成人氏が就任している。
http://j-clear.jp/gaiyo.html

 2014年3月の「糖尿病学の進歩」は吉岡氏が会長だが、J-CLEARの桑島巌・名郷直樹氏の講演が予定されている
http://www.48shinpo.com/program/index.html

 ところで『今日の治療指針(2014)』で吉岡成人氏は”代謝疾患 最近の動向”を執筆しているが、その内容は2013年3月18日の糖尿病学会の提言を丸写しにしており、「臨床研究適正評価」とはとても言えない内容である

 J-CLEARには、糖尿病の食事療法の適正評価を要請する次第である
2014/03/04(Tue) 15:37 | URL | 精神科医師A | 【編集
こんばんは。
唐突ですが、夏井先生の講座を高雄病院でやっていただけないでしょうか?
夏井先生の公開講座+夏井先生江部先生座談会です。糖質制限推進協会を通してなど大掛かりなものでなく講座のような形でお願いしたいです。
実は夏井先生のことは傷~の新書が出た時に知って興味深かったんです。
まさか江部先生達が夏井先生を高雄によんで講義してもらっていたなんて知りませんでした。
次の日は糖質制限推進協会さんの方で講演をするのもありだと思います。
前座としてライトに高雄病院で公開講座をしてもらい夜は先生方だけの勉強というなの懇親会をしてもらうのはどうでしょうか?
お忙しい先生方達ですのでなかなか難しいとは思いますがよろしくお願いします。
2014/03/04(Tue) 22:17 | URL | 高雄病院患者(アトピー漢方) | 【編集
Re: ○○キーワードでコメントできないので非公開でコメントし直します
るな さん

体重が64kgの糖尿人で、1gの糖質が3mg血糖値をあげます。
体重32kgなら、6mg上げます。
さらに個人差もあります。
尿酸値上昇は、原因として摂取エネルギー不足が多いので、兎に角、脂質・蛋白質はしっかり摂取して
エネルギー不足にならないようにしましょう。
2014/03/05(Wed) 08:07 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: タイトルなし
高雄病院患者(アトピー漢方) さん

そうですね。
企画、考えてみます。
2014/03/05(Wed) 08:12 | URL | ドクター江部 | 【編集
w( ̄o ̄)w オオー! ありがとうございます。
やっぱり体重関係あるんですね。
計算が合わない疑問が解けました。
痩せすぎは不利ですね~(T_T)
次の検査まで2ヶ月間、また頑張ります!
2014/03/05(Wed) 11:33 | URL | るな | 【編集
スタチンの問題
糖質制限食実践後の検査データのまとめはたいへん参考になります。私も患者さんへの指導に活用させていただきます。

さてコレステロールの問題は臨床医にとって、なかなか悩ましいものですね。
以前、LDL190~200程度の50代女性の方を診ていたことがあります。スタチンを処方すると筋痛があるというので薬なしで経過をみていました。糖尿病や肥満もありません。女性でHDLも60程度だったので問題ないだろうと思っていましたが、ある日急性心筋梗塞を起こしてしまいました。
おそらく世の中の90%以上の方は無駄にスタチンを服用していると思いますが、上記のような経験をすると怖くなって無駄な処方もしてしまいます。
2014/03/05(Wed) 12:10 | URL | 消火器内科医 | 【編集
Re: スタチンの問題
消火器内科医 さん

まれだとは思いますが、そういうこともあるのですね。
勉強になりました。
2014/03/05(Wed) 13:12 | URL | ドクター江部 | 【編集
糖尿病・認知症
江部先生

こんな記事がありました。

「血圧や脂質の改善は糖尿病患者の認知障害リスク低下に寄与しない(2014.2.13掲載)」

http://www.healthdayjapan.com/index.php?option=com_content&view=article&id=4901:2014213&catid=24&Itemid=108

2014/03/05(Wed) 16:12 | URL | Yamamoto_ma | 【編集
Re: 糖尿病・認知症
Yamamoto_ma さん

興味深い情報をありがとうございます。
2014/03/05(Wed) 22:46 | URL | ドクター江部 | 【編集
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