2014年02月17日 (月)
こんにちは。
消化器内科医さんから、コメント・アドバイスをいただきましたように「Low T3 syndrome(低T3症候群)」について考えてみます。
T3という甲状腺ホルモンだけが低値で、T4という甲状腺ホルモンは正常で、TSH(甲状腺刺激ホルモン)も正常な病態です。
これは、甲状腺機能低下症ではありません。
ただ、かのバーンスタイン先生でさえも、「低T3症候群」に関して、甲状腺機能低下症と誤解しておられたので、一般の方には特にわかりにくい状況と思います。
それで消化器内科医さんが気にかけられたものと思います。
2012年12月28日 (金)の本ブログ記事
「山田悟先生がバーンスタイン医師をインタビュー③。 MT Pro 。」
に詳しく記載してありますが、下記のバーンスタイン医師の見解(糖尿病患者と甲状腺機能低下症)に対して、きよすクリニック伊藤喜亮先生から、
「見かけ上の甲状腺機能低下症で、本当の低下症ではない」
と、ご意見をいただいたことがありました。
Bernstein医師
『私の診ている糖尿病患者さんの85%は,私が最初に診た時点では甲状腺機能が低下していました。そうした患者さんは易疲労感などを訴えてクリニックを受診するのですが,検査してみるとかなり進行した糖尿病で,かつ甲状腺機能の低下が認められます。活性型の甲状腺ホルモン(トリヨードサイロニン:T3)と非活性型の甲状腺ホルモン(サイロキシン:T4)では,特に前者の低下が顕著です。
T4の分子中にはヨードが4分子存在し,肝臓や腎臓でそのうちの1個が外れてT3になるのですが,糖尿病に伴い甲状腺機能の低下している人では,このT4からT3への変換がうまくいっていないわけです。
また,通常の甲状腺機能低下症では,T3が低下するとその代償として甲状腺ホルモン分泌刺激ホルモン(TSH)が上昇しますが,糖尿病に伴う甲状腺機能の低下ではTSHは上昇しません。』
きよすクリニック伊藤喜亮先生
『T3が低値で、T4、TSHとも正常な病態は「Low T3 syndrome」と呼ばれます。
記事の中にもあるように、代謝を低下させてエネルギー消費を抑えるための生体反応と考えられています。
甲状腺が悪いのではないので、TSHは上昇していません。
ですから「甲状腺機能低下」という言葉は適切ではなく、疲労感が出るほど悪い状態の糖尿病では、上述のようにエネルギー消費を抑えるために「T3を低く抑えている状態」と言えると思います。』
伊藤先生、ご指摘ありがとうございました。
私も伊藤先生のご意見に全面的に賛成です。
私も、バーンスタイン先生、いくらなんでも85%が甲状腺機能低下症とはありえないと思ってました。
T3が低値で、T4、TSHとも正常な病態「Low T3 syndrome(低T3症候群)」は、臨床上、時々見かけます。
バーンスタイン医師のいうコントロール不良の糖尿病以外にも、慢性消耗性の疾患で低栄養のときにも見かけます。
例えば神経性食思不振症などでは比較的よく見られます。
これらは、見かけ上T3が低値なだけで、本当の甲状腺機能低下症ではありません。
従って、甲状腺ホルモンのチラージンSなどを投与しても無意味です。
治療は原疾患の慢性消耗状態や低栄養状態を改善してやれば、おのずから低T3も改善して正常値となるのです。
スーパー糖質制限食を実践して、ヘロヘロになったり、筋力が落ちたり、髪の毛が抜けたりといった症状を訴える方々が
たまにおられます。
これは糖質制限食のせいではなく、脂質も制限して、結果として摂取エネルギーが低過ぎたために生じる症状です。
この時、血液検査をしてT3が低いと、甲状腺機能低下症と誤診する可能性があります。
しかしこれは「Low T3 syndrome(低T3症候群)」であり、本当の甲状腺機能低下症ではありません。
摂取エネルギーを標準まで増やせば、症状も改善してT3も改善します。
江部康二
消化器内科医さんから、コメント・アドバイスをいただきましたように「Low T3 syndrome(低T3症候群)」について考えてみます。
T3という甲状腺ホルモンだけが低値で、T4という甲状腺ホルモンは正常で、TSH(甲状腺刺激ホルモン)も正常な病態です。
これは、甲状腺機能低下症ではありません。
ただ、かのバーンスタイン先生でさえも、「低T3症候群」に関して、甲状腺機能低下症と誤解しておられたので、一般の方には特にわかりにくい状況と思います。
それで消化器内科医さんが気にかけられたものと思います。
2012年12月28日 (金)の本ブログ記事
「山田悟先生がバーンスタイン医師をインタビュー③。 MT Pro 。」
に詳しく記載してありますが、下記のバーンスタイン医師の見解(糖尿病患者と甲状腺機能低下症)に対して、きよすクリニック伊藤喜亮先生から、
「見かけ上の甲状腺機能低下症で、本当の低下症ではない」
と、ご意見をいただいたことがありました。
Bernstein医師
『私の診ている糖尿病患者さんの85%は,私が最初に診た時点では甲状腺機能が低下していました。そうした患者さんは易疲労感などを訴えてクリニックを受診するのですが,検査してみるとかなり進行した糖尿病で,かつ甲状腺機能の低下が認められます。活性型の甲状腺ホルモン(トリヨードサイロニン:T3)と非活性型の甲状腺ホルモン(サイロキシン:T4)では,特に前者の低下が顕著です。
T4の分子中にはヨードが4分子存在し,肝臓や腎臓でそのうちの1個が外れてT3になるのですが,糖尿病に伴い甲状腺機能の低下している人では,このT4からT3への変換がうまくいっていないわけです。
また,通常の甲状腺機能低下症では,T3が低下するとその代償として甲状腺ホルモン分泌刺激ホルモン(TSH)が上昇しますが,糖尿病に伴う甲状腺機能の低下ではTSHは上昇しません。』
きよすクリニック伊藤喜亮先生
『T3が低値で、T4、TSHとも正常な病態は「Low T3 syndrome」と呼ばれます。
記事の中にもあるように、代謝を低下させてエネルギー消費を抑えるための生体反応と考えられています。
甲状腺が悪いのではないので、TSHは上昇していません。
ですから「甲状腺機能低下」という言葉は適切ではなく、疲労感が出るほど悪い状態の糖尿病では、上述のようにエネルギー消費を抑えるために「T3を低く抑えている状態」と言えると思います。』
伊藤先生、ご指摘ありがとうございました。
私も伊藤先生のご意見に全面的に賛成です。
私も、バーンスタイン先生、いくらなんでも85%が甲状腺機能低下症とはありえないと思ってました。
T3が低値で、T4、TSHとも正常な病態「Low T3 syndrome(低T3症候群)」は、臨床上、時々見かけます。
バーンスタイン医師のいうコントロール不良の糖尿病以外にも、慢性消耗性の疾患で低栄養のときにも見かけます。
例えば神経性食思不振症などでは比較的よく見られます。
これらは、見かけ上T3が低値なだけで、本当の甲状腺機能低下症ではありません。
従って、甲状腺ホルモンのチラージンSなどを投与しても無意味です。
治療は原疾患の慢性消耗状態や低栄養状態を改善してやれば、おのずから低T3も改善して正常値となるのです。
スーパー糖質制限食を実践して、ヘロヘロになったり、筋力が落ちたり、髪の毛が抜けたりといった症状を訴える方々が
たまにおられます。
これは糖質制限食のせいではなく、脂質も制限して、結果として摂取エネルギーが低過ぎたために生じる症状です。
この時、血液検査をしてT3が低いと、甲状腺機能低下症と誤診する可能性があります。
しかしこれは「Low T3 syndrome(低T3症候群)」であり、本当の甲状腺機能低下症ではありません。
摂取エネルギーを標準まで増やせば、症状も改善してT3も改善します。
江部康二
江部先生、伊藤先生、明快な回答をいただきましてありがとうございました。
確かに甲状腺機能低下と診断する場合にはT3、T4の値よりTSH値で判断します。
T4からT3の変換のみの問題なら甲状腺機能の問題とは言えませんね。
(もっとも甲状腺機能の測定はけっこうコストがかかるのでよほど疑った時しかおこないませんが)
確かに甲状腺機能低下と診断する場合にはT3、T4の値よりTSH値で判断します。
T4からT3の変換のみの問題なら甲状腺機能の問題とは言えませんね。
(もっとも甲状腺機能の測定はけっこうコストがかかるのでよほど疑った時しかおこないませんが)
2014/02/18(Tue) 08:14 | URL | 消火器内科医 | 【編集】
消火器内科医 さん
今日も、もう一回、「低T3症候群」の記事を書こうと思います。
一方、本当の「甲状腺機能低下症」ですが、
仰る通りTSHが一番参考になると思います。
TSHが、30~60ng/ml(基準値0.44~4.95ng/ml)くらいあっても、無症状な人が時々おられます。
私は、一回、甲状腺機能を検査せずにいて、
徐脈で念のため検査して甲状腺機能低下症を発見してびっくりした経験があります。
他は全く無症状なので気がつきませんでした。藪医者でした。
無症状の甲状腺機能低下症の人、思ったより多いので、最近は結構積極的に
甲状腺機能検査をするようにしています。
今日も、もう一回、「低T3症候群」の記事を書こうと思います。
一方、本当の「甲状腺機能低下症」ですが、
仰る通りTSHが一番参考になると思います。
TSHが、30~60ng/ml(基準値0.44~4.95ng/ml)くらいあっても、無症状な人が時々おられます。
私は、一回、甲状腺機能を検査せずにいて、
徐脈で念のため検査して甲状腺機能低下症を発見してびっくりした経験があります。
他は全く無症状なので気がつきませんでした。藪医者でした。
無症状の甲状腺機能低下症の人、思ったより多いので、最近は結構積極的に
甲状腺機能検査をするようにしています。
2014/02/18(Tue) 09:40 | URL | ドクター江部 | 【編集】
私は現在低t3状態です。先生の仰せの通り、食事制限ダイエットにより脱毛、浮腫み、体力低下、背中の痛み、無月経等症状が出、甲状腺科に罹ったところ、ft3及びft4の数値が下がっていることが分かりました。ft3が2.2、ft4が1.1、tshは2.4です。甲状腺科の先生からは、抗体数値も、エコーもした結果、甲状腺機能低下症ではないと診断されました。それ以降食事改善して1ヶ月経過してるのですが、数値はあまり改善されてません。低t3症は治らないこともあるのでしょうか。
りんご さん
まずは、充分量のエネルギーを摂取して、標準体重のBMI18.5を目指しましょう。
その後は、BMI20を目指しましょう。
標準体重になれば、低T3血症は、治る可能生が高いと思います。
まずは、充分量のエネルギーを摂取して、標準体重のBMI18.5を目指しましょう。
その後は、BMI20を目指しましょう。
標準体重になれば、低T3血症は、治る可能生が高いと思います。
2019/10/06(Sun) 09:31 | URL | ドクター江部 | 【編集】
りんごです。
先生、御多忙の中御教示ありがとうございました。
まず、18.5を目指します。
基礎代謝1100キロカロリーくらいしか摂取していなかった生活を3ヶ月続けてしまい、かなり身体に負担を掛けてしまった様で、果たして身体が戻るのか心配になりました。ft4まで下がってるのですが予後不良の可能性もあるのでしょうか。
また、機能低下症に近い症状が出て以降、骨格筋が1%下がり、体脂肪率が2%近く上がりました。過度なダイエットによる影響でしょうか。
先生、御多忙の中御教示ありがとうございました。
まず、18.5を目指します。
基礎代謝1100キロカロリーくらいしか摂取していなかった生活を3ヶ月続けてしまい、かなり身体に負担を掛けてしまった様で、果たして身体が戻るのか心配になりました。ft4まで下がってるのですが予後不良の可能性もあるのでしょうか。
また、機能低下症に近い症状が出て以降、骨格筋が1%下がり、体脂肪率が2%近く上がりました。過度なダイエットによる影響でしょうか。
2019/10/06(Sun) 12:50 | URL | りんご | 【編集】
りんご さん
「1100キロカロリーくらいしか摂取していなかった生活を3ヶ月」
これでは、筋肉量が低下し、体脂肪率が上昇します。
TSHが2.4と正常なので、甲状腺機能低下症ではないと思います。
甲状腺データも、摂取エネルギー不足の影響と考えられます。
厚生労働省の言う「推定エネルギー必要量」を確保すれば、
徐々に体調は戻ると思います。
2019/10/06(Sun) 21:47 | URL | ドクター江部 | 【編集】
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