2013年11月16日 (土)
こんばんは。
今回の記事は、糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化について(7)
高血糖の記憶についてです。
糖尿病血管合併症のメカニズムを特徴的に説明する、高血糖の記憶(hyperglycemic memory)と呼ばれる概念があります。
「高血糖の記憶」とは、過去の高血糖レベルとその曝露期間が生体に記憶され、その後の血管合併症の進展を左右するという考え方です。
ヒトの糖尿病において、この「高血糖の記憶」の存在を示すエビデンス(証拠)として、米国の1型糖尿病患者の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告があります。
DCCTでは、1型糖尿病患者を従来の通常療法群と、より厳格に血糖管理を行う強化療法群に分け、平均6.5年間追跡しました。
その結果、通常療法群に比べ強化療法群で平均HbA1c値が1.9%低下し、強化療法群で血管合併症の進展リスクが大幅に減少しました。(*)
同研究終了後に行われたEDIC-DCCTでは、通常療法群にも強化療法を実施し、両群をさらに平均11年間追跡しました。
つまり「継続的な強化療法群」と「通常療法→強化療法群」の2つのグループの比較が、DCCT終了後11年間行われたことになりますね。
その結果、開始から3~4年で両群の平均HbA1c値がほぼ同等となったにも関わらず、11年間の心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクは「継続的な強化療法群」の方がやはり低かった(相対リスク57%低下)ことが報告されたのです。(**)
すなわち、糖尿人において一定期間血糖コントロールが不良であれば、高血糖の記憶が「借金」のように生体内に残り、その後良好なコントロールが得られても、血管合併症リスクの差は縮まらないことが示されたわけです。
この借金の正体が、組織沈着AGEではないかと言われています。
まだ仮説ではありますが、組織に沈着したAGEが血管を傷害し続け、動脈硬化の元凶となり「高血糖の記憶」を最もよく説明するとされています。(***)
高血糖の記憶・借金を残さないためには、糖尿病発症の初期の段階から血糖コントロールを保つことが大切です。
当然、早ければ早いほどいいわけです。
糖尿人の皆さん、カロリー制限食(高糖質食)では必ず、食後高血糖が生じ将来に借金を残します。
是非、糖質制限食で速やかな血糖コントロールを目指して下さいね。
「高血糖の記憶」が存在すれば、例え糖質制限食で血糖コントロール良好になっても、半年後や1年後や2年後に、過去の借金の動脈硬化のために、狭心症や心筋梗塞など糖尿病合併症をおこしえるということですね。
(*)N Engl J Med 1993; 329: 977-986
(**)N Engl J Med 2005; 353: 2643-2653
(***)AGE
タンパク質と糖が結びついた物質で、Advanced Glycation End-productの頭文字をとってAGEと呼ばれます。日本語では終末糖化産物と訳されています。
過剰な血糖は、糖化反応により血管壁のコラーゲンなど様々なタンパク質に付着します。付着した糖は一部変性してアマドリ化合物(変性ブドウ糖)となります。このアマドリ化合物と糖が結合しAGEができます。AGEは、糖尿病合併症を引き起こす、重大な原因の1つです。
江部康二
今回の記事は、糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化について(7)
高血糖の記憶についてです。
糖尿病血管合併症のメカニズムを特徴的に説明する、高血糖の記憶(hyperglycemic memory)と呼ばれる概念があります。
「高血糖の記憶」とは、過去の高血糖レベルとその曝露期間が生体に記憶され、その後の血管合併症の進展を左右するという考え方です。
ヒトの糖尿病において、この「高血糖の記憶」の存在を示すエビデンス(証拠)として、米国の1型糖尿病患者の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告があります。
DCCTでは、1型糖尿病患者を従来の通常療法群と、より厳格に血糖管理を行う強化療法群に分け、平均6.5年間追跡しました。
その結果、通常療法群に比べ強化療法群で平均HbA1c値が1.9%低下し、強化療法群で血管合併症の進展リスクが大幅に減少しました。(*)
同研究終了後に行われたEDIC-DCCTでは、通常療法群にも強化療法を実施し、両群をさらに平均11年間追跡しました。
つまり「継続的な強化療法群」と「通常療法→強化療法群」の2つのグループの比較が、DCCT終了後11年間行われたことになりますね。
その結果、開始から3~4年で両群の平均HbA1c値がほぼ同等となったにも関わらず、11年間の心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクは「継続的な強化療法群」の方がやはり低かった(相対リスク57%低下)ことが報告されたのです。(**)
すなわち、糖尿人において一定期間血糖コントロールが不良であれば、高血糖の記憶が「借金」のように生体内に残り、その後良好なコントロールが得られても、血管合併症リスクの差は縮まらないことが示されたわけです。
この借金の正体が、組織沈着AGEではないかと言われています。
まだ仮説ではありますが、組織に沈着したAGEが血管を傷害し続け、動脈硬化の元凶となり「高血糖の記憶」を最もよく説明するとされています。(***)
高血糖の記憶・借金を残さないためには、糖尿病発症の初期の段階から血糖コントロールを保つことが大切です。
当然、早ければ早いほどいいわけです。
糖尿人の皆さん、カロリー制限食(高糖質食)では必ず、食後高血糖が生じ将来に借金を残します。
是非、糖質制限食で速やかな血糖コントロールを目指して下さいね。
「高血糖の記憶」が存在すれば、例え糖質制限食で血糖コントロール良好になっても、半年後や1年後や2年後に、過去の借金の動脈硬化のために、狭心症や心筋梗塞など糖尿病合併症をおこしえるということですね。
(*)N Engl J Med 1993; 329: 977-986
(**)N Engl J Med 2005; 353: 2643-2653
(***)AGE
タンパク質と糖が結びついた物質で、Advanced Glycation End-productの頭文字をとってAGEと呼ばれます。日本語では終末糖化産物と訳されています。
過剰な血糖は、糖化反応により血管壁のコラーゲンなど様々なタンパク質に付着します。付着した糖は一部変性してアマドリ化合物(変性ブドウ糖)となります。このアマドリ化合物と糖が結合しAGEができます。AGEは、糖尿病合併症を引き起こす、重大な原因の1つです。
江部康二
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2013/020997.php
世界の糖尿病患者は、4億人に近づいたそうです。
40歳を過ぎた人の、3人に1人は、患者か予備軍という指摘もあります。
糖質の頻回・過剰摂取。糖質たっぷりな、ジャンクフード・ペットボトル商品の蔓延が原因ですね。
世界の糖尿病患者は、4億人に近づいたそうです。
40歳を過ぎた人の、3人に1人は、患者か予備軍という指摘もあります。
糖質の頻回・過剰摂取。糖質たっぷりな、ジャンクフード・ペットボトル商品の蔓延が原因ですね。
2013/11/16(Sat) 22:45 | URL | わんわんこと・板橋 長谷川 | 【編集】
先生こんばんは。
我が家は義母が糖尿病、私が機能性低血糖症のため、先生の著書やブログを拝見して、糖質制限の参考にさせて頂いております。
私は萎縮性胃炎があり、肉やナッツが消化しづらく、すぐ胃痛や消化不良を起こしてしまい、乳製品にもアレルギーがあるので、なかなか食事が大変です。
ところで、東南アジアでよく取れるタマリンドにグルコース吸収阻害作用があるらしいのですが、先生はどのようにお考えですか?
ご意見伺えますと、幸いです。
http://jglobal.jst.go.jp/public/20090422/201202296597301077
http://www.maruzenpcy.co.jp/jiten/sho_kino/indian.htm
我が家は義母が糖尿病、私が機能性低血糖症のため、先生の著書やブログを拝見して、糖質制限の参考にさせて頂いております。
私は萎縮性胃炎があり、肉やナッツが消化しづらく、すぐ胃痛や消化不良を起こしてしまい、乳製品にもアレルギーがあるので、なかなか食事が大変です。
ところで、東南アジアでよく取れるタマリンドにグルコース吸収阻害作用があるらしいのですが、先生はどのようにお考えですか?
ご意見伺えますと、幸いです。
http://jglobal.jst.go.jp/public/20090422/201202296597301077
http://www.maruzenpcy.co.jp/jiten/sho_kino/indian.htm
2013/11/17(Sun) 00:23 | URL | usaco | 【編集】
usaco さん
サイトを見ると、
ラットとマウスの実験では、一定の血糖降下作用があるようですね。
ヒトにおいてどうかは、まだまだわかりません。
動物で有効 → ヒトで有効
この間には、基本的に大きな壁があります。
サイトを見ると、
ラットとマウスの実験では、一定の血糖降下作用があるようですね。
ヒトにおいてどうかは、まだまだわかりません。
動物で有効 → ヒトで有効
この間には、基本的に大きな壁があります。
2013/11/17(Sun) 08:13 | URL | ドクター江部 | 【編集】
長谷川 さん
情報をありがとうございます。
糖尿病、凄い勢いで増えてますね。
糖質の持つ危険性に気がつかないと、状況の改善は見込めません。
情報をありがとうございます。
糖尿病、凄い勢いで増えてますね。
糖質の持つ危険性に気がつかないと、状況の改善は見込めません。
2013/11/17(Sun) 08:17 | URL | ドクター江部 | 【編集】
夏井先生の著書『炭水化物が人類を滅ぼす』に軽く目を通させてもらいました。
おもしろおかしくというと変ですが、書かれてますね。
メタボのおっさんには読んでもらいたくないとも・・。
食欲なのですが、私は消費するエネルギーが多いのか、燃費効率が悪いのか、確かにお腹が空いて空いて仕方がないという現象はないのですが、食べればかなりの量は食べれます。
鳥串などは15本くらいは大丈夫ですね。
この1年、当初はスーパーでしたが、スタンダード的な糖質制限になって本当に健康的になったと思います。
病気に罹患する回数が減ってますね。
周りが風邪、嘔吐下痢などを発病しても大丈夫です。
そういえば、夏井先生のリバースしたときとか、食後10分くらいして胃を見ると、炭水化物系以外は消化されていて見ることができないとか・・・。
江部先生の著書にもあったように、病状のときの豚汁というのは最高の滋養食なんですね。
おもしろおかしくというと変ですが、書かれてますね。
メタボのおっさんには読んでもらいたくないとも・・。
食欲なのですが、私は消費するエネルギーが多いのか、燃費効率が悪いのか、確かにお腹が空いて空いて仕方がないという現象はないのですが、食べればかなりの量は食べれます。
鳥串などは15本くらいは大丈夫ですね。
この1年、当初はスーパーでしたが、スタンダード的な糖質制限になって本当に健康的になったと思います。
病気に罹患する回数が減ってますね。
周りが風邪、嘔吐下痢などを発病しても大丈夫です。
そういえば、夏井先生のリバースしたときとか、食後10分くらいして胃を見ると、炭水化物系以外は消化されていて見ることができないとか・・・。
江部先生の著書にもあったように、病状のときの豚汁というのは最高の滋養食なんですね。
2013/11/17(Sun) 08:52 | URL | クワトロ | 【編集】
いつもお世話になっています。
少し理解できなかったので、教えてください。
夫はココ最近Hba1cが6.3ぐらいに安定してきています。
半年前は7代でしたし、それ以前は10年ぐらいの借金があります。
その場合は、2年ぐらいはリスクがあるとのことですが、
借金返済はやはり3.4年かかるのでしょうか?
それとも、10年かけただけかかるのでしょうか。
それとも返済できない?!
・・・って事はないですよね。
糖質制限、グルファストにも助けられながら、ようやく食後血糖値も120ぐらいになってきました。
これからも、がんばりま〜す!
少し理解できなかったので、教えてください。
夫はココ最近Hba1cが6.3ぐらいに安定してきています。
半年前は7代でしたし、それ以前は10年ぐらいの借金があります。
その場合は、2年ぐらいはリスクがあるとのことですが、
借金返済はやはり3.4年かかるのでしょうか?
それとも、10年かけただけかかるのでしょうか。
それとも返済できない?!
・・・って事はないですよね。
糖質制限、グルファストにも助けられながら、ようやく食後血糖値も120ぐらいになってきました。
これからも、がんばりま〜す!
2013/11/17(Sun) 18:41 | URL | 糖質セイゲニストのヨメです。 | 【編集】
クワトロ さん
体調良好、良かったです。
夏井先生、へそ曲がりと自称しておられますが、
ユーモアの達人ですね。
へそ曲がり大将兼ユーモア大将です。
体調良好、良かったです。
夏井先生、へそ曲がりと自称しておられますが、
ユーモアの達人ですね。
へそ曲がり大将兼ユーモア大将です。
2013/11/17(Sun) 20:21 | URL | ドクター江部 | 【編集】
糖質セイゲニストのヨメ 様
【「継続的な強化療法群」と「通常療法→強化療法群」の2つのグループの比較が、DCCT終了後11年間】
少なくとも、11年間は借金は消えなかったということとなります。
残念ながら高血糖の記憶は返済できないと考えられます。
即ち、血糖コントロール不良で、既に完成されてしまった動脈硬化は、元に戻りません。
ご主人、10年間の借金があるかも知れませんが
幸い、合併症がでていないのなら、現在コントロール良好なので、ほぼ大丈夫と思います。
しかし、頸動脈エコーや眼底検査や心電図・心エコーなど借金(動脈硬化)のチェックは
したほうがいいと思います。
コントロール良好なら、今後の動脈硬化の進行はないと思います。
【「継続的な強化療法群」と「通常療法→強化療法群」の2つのグループの比較が、DCCT終了後11年間】
少なくとも、11年間は借金は消えなかったということとなります。
残念ながら高血糖の記憶は返済できないと考えられます。
即ち、血糖コントロール不良で、既に完成されてしまった動脈硬化は、元に戻りません。
ご主人、10年間の借金があるかも知れませんが
幸い、合併症がでていないのなら、現在コントロール良好なので、ほぼ大丈夫と思います。
しかし、頸動脈エコーや眼底検査や心電図・心エコーなど借金(動脈硬化)のチェックは
したほうがいいと思います。
コントロール良好なら、今後の動脈硬化の進行はないと思います。
2013/11/17(Sun) 20:38 | URL | ドクター江部 | 【編集】
| ホーム |