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血中ケトン体の安全性と基準値、そして糖質制限食、2013年
こんにちは。

ケトン体シリーズ、第2弾です。

<血中ケトン体の生成と安全性>

ケトン体は肝細胞内で、

「脂肪酸→アシルCoA→カルニチンシャトル」でミトコンドリア内に

ミトコンドリア内で「アシルCoA→β酸化→アセチルCoA→ケトン体」

という順番で日常的に生成されていて、肝臓では使用されずに、他の臓器、脳や筋肉のエネルギー源として血中に供給されます。

分解されているので、大きさは脂肪酸よりだいぶ小さくなっています。

糖質を普通に摂取している人の血中ケトン体の基準値は、施設により差はありますが、「26~122μM/L 」くらいです。

つまり、日常的に糖質を摂取している人でも、これくらいの血中ケトン体は常に存在していて、心筋や骨格筋など多くの体細胞において、空腹時や睡眠時の主たるエネルギー源となっているのです。

つまり、人体のごく普通のエネルギー源であり、当然安全性は高いです。

どれくらい安全かを、もう一つのエネルギー源であるブドウ糖と比べてみると、わかりやすいですね。

絶食療法中やスーパー糖質制限食の初期には、血中ケトン体は、3000~4000μM/Lくらいで、基準値の30~40倍の高値になりますが、それ自体は、人体の各細胞において全く安全なものです。

このようなとき、一時的に酸性血症(アシドーシス)となりますが、人体には体内のpHを一定に保つため、血液や体液の緩衝作用(緩衝機構)、呼吸による調節作用、腎臓による調節機構があるので、生理的な血中ケトン体の高値があっても、しばらくして正常のPHに戻ります。

農耕前の100万年前や10万年前のご先祖とかでは、獲物が捕れないときなどには日常的に、絶食状態があってこのような数値を繰り返していたことでしょうし、当然、血管内皮にも無害です。

一方、血中ブドウ糖の基準値は空腹時で「70~109mg/dl」です。

食後とかで血糖値が180mg/dlを超えてくると、リアルタイムに血管内皮を傷害し酸化ストレスを引き起こし、繰り返せば動脈硬化の大きなリスクとなります。

血糖値が高値であれば、胎児にも悪影響があることは確認されています。

血糖値が300mgでも充分危ないですが、基準値の30倍の3000mgなど想像を絶した数値では、当然生体は生命を保てないでしょう。

そのため、インスリンが速やかに大量に分泌されて、食後血糖値が140~180mg/dlを超えないように、厳しく管理しているわけです。

このように検討してみると、ケトン体はブドウ糖よりは、はるかに安全性の高いエネルギー源ということができますね。

スーパー糖質制限食を実践しているとケトン体は現行の基準値よりは高値となります。

例えば、2002年からスーパー糖質制限食実践中の江部康二の血中ケトン体は、「400~800~1200/μM/L」くらいですが、血液のpHは勿論正常範囲です。

このくらいが、狩猟・採集だったころ700万年間の人類の基準値、そして生肉・生魚が主食の伝統的食生活を維持していたころのイヌイットの基準値、と思われます。

そして、農耕前の人類もイヌイットもスーパー糖質制限食を実践しながら、妊娠・出産・育児をしてきたという事実もケトン体の安全性を保証するものです。

<ケトン食における血中ケトン体の安全性の評価>

本ブログでも何回か紹介してきたKetogenic Diet(ケトン食)が、

2010年版The Cochrane Library(コクラン ライブラリー)(*)
2011年版NICE(英国立医療技術評価機構)(**)

において、難治性小児てんかん治療に採用されました。

これまでは、ケトン食に対して小児てんかんへの有効性は一定認められていましたが、治療の選択肢には入れられず、「推奨しない」とされていました。

今回、採用されたのは、難治性の小児てんかん発作を50%削減する点で有意差が得られたことが、評価されたのだと思います。

また、一時的な副作用はありえますが、重篤な副作用が無いことも認められました。ケトン食の総摂取エネルギーに占める脂質の割合は75~80%であり、高雄病院のスーパー糖質制限食を上回る、究極の糖質制限食であり、血中ケトン体は2000~4000μM/Lとなります。

脳はブドウ糖だけでなく、ケトン体をいくらでも利用するのは、生理学的事実です。

ケトン食の場合、脳のエネルギー源はほとんどがケトン体であり、ブドウ糖は少ないです。

「コクラン ライブラリー」と「NICE」という、世界の医学界で高い評価を受けているガイドラインにおいて、生理的血中ケトン体高値の安全性が確認されたということは、糖質制限食を実践・推進している私達にとって、大きな追い風と言えます。

(*)The Cochrane Library2010;Issue1:1-9
  (コクラン ライブラリー 2010年版)
(**)NICE (National Institute for Health and Clinical Excellence・2011)
  (英国立医療技術評価機構・2011年版)


江部康二


テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
ケトン体上昇は危険?
以前(7/25)、50%以上狭窄していた頸動脈プラークが1年でほぼ半減できたことを書いたSHUKAN(68歳男)です。

先日、ドッグの脳神経外科医師の説明を受ける機会があり、これほどの改善例は経験したことがないと驚かれ、褒めて下さいました。医師自身もなかなかHDLが上がらず苦心しているとおっしゃっていました。

秘訣を聞かれたので、HDLを上げるには糖質制限食と有酸素運動で中性脂肪を下げるのがいいことを話したところ、わかって下さいました。まだ残っているプラークは低輝度の粥腫なのでさらに退縮が望めるそうです。ますます、モチベーションがあがりました。

話は変わりますが、かかりつけ医にケトン体を検査してもらったところ総ケトンで0.4mM/Lと基準値を超えていて危険だと言われました。糖質制限をしていることは前に話していますが、意見がまだ合わなくて、次回までにケトン体が上昇しても安全だという証拠を求められています。

インスリンが発見される1921年より前は、糖尿病では飢餓療法が行われ、その後米国で脂肪悪玉説が出る1986年までは糖質制限療法が続いたことや、長期の断食、ケトン食の例ではケトン体が数mM/Lで安定するということをケーヒルのグラフなどで話そうと思っています。

ケトン体の安全な場合と危険な場合の違いについては、江部先生のパーフェクトガイド第5章やブログ記事を何度も読み返しています。

なお、つぎのPeter Attia医師のブログにある図は、糖尿病性ケトアシドーシスの仕組みがよくわかり、江部先生のおっしゃることの理解の助けになりました。

http://eatingacademy.com/nutrition/is-ketosis-dangerous
2013/09/07(Sat) 18:13 | URL | SHUKAN | 【編集
SGLT2阻害薬によるケトン体上昇
近く日本でも投与可能となる、SGLT2阻害薬に関してのこんな記事

http://www.aspsawai.co.jp/2012092503.pdf#search=%27sglt2%E9%98%BB%E5%AE%B3%E8%96%AC%27

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t181/201208/526387.html

『糖を尿中に排泄させる、新機序のSGLT2阻害薬』
京都大学糖尿病・栄養内科学教授 稲垣暢也

 また、SGLT2阻害薬の投与中に、血中の総ケトン体が平均0.3mmol/L増加したことが報告されており、ケトアシドーシスとの違いを見極めて治療する必要がある。これは、SGLT2阻害薬が1日当たりおよそ400kcalのエネルギーに相当する糖を尿中に捨てていることに起因する現象だ。

 低炭水化物ダイエットと似たような状態になるため、脂肪をエネルギー源とする際に、アセチルCoAを経て、最終産物のケトン体が増加する。稲垣氏は「SGLT2阻害薬投与によってケトン体が増加するのは当然の現象だが、インスリン分泌不全患者にSGLT2阻害薬を投与してしまうと、簡単にケトアシドーシスを引き起こすことが想定されるので慎重な観察が必要」と指摘する。


   □

 血中の総ケトン体が平均0.3mmol/L増加しても、大きな有害事象は報告されていません
2013/09/08(Sun) 10:18 | URL | 精神科医師A | 【編集
Re: ケトン体上昇は危険?
SHUKAN さん

頸動脈プラークが1年でほぼ半減とは、素晴らしいです。
ドッグの脳神経外科医師さんは、柔軟な考えで良いですね。

血中ケトン体ですが、私も、0.3~0.4~1.2mM/Lくらいです。
スーパーを厳しくすると1.2mM/Lになります。
勿論、生理的なもので何の問題もありません。

かかりつけ医も理解してくれたらいいですね。

Peter Attia医師の説明もわかりやすいです。
2013/09/08(Sun) 12:02 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: SGLT2阻害薬によるケトン体上昇
精神科医師A さん

情報をありがとうございます。

「SGLT2阻害薬の投与中に、血中の総ケトン体が平均0.3mmol/L増加したことが報告」

このことは初めて知りました。興味深いです。
2013/09/08(Sun) 12:06 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: ケトン体上昇は危険?
SHUKAN さん
産婦人科医師です。私自身も糖質制限でケトン体は 0.6~1.5mM/Lくらいです。お産する方のケトン体を測っているのですが、1.2mM/Lくらいの方はよく見られます。
最近7.6mM/Lという方がいました。この方は糖質制限していないで、2日くらいあまり食べずに点滴も拒否されてお産した方です。医師も医療もない時代にもお産はあったわけですし、今よりも食べ物はない時代にも子どもを生んできたのがヒトの歴史です。こういうデーターを調べている医師はいないようですが、血糖値が高くない場合のケトン体は何も危険ではないことがよくわかります。その他、新生児もケトン体は高値です。これは少し知られていますが、よく脱水のせいにされますが、そうではなくヒトの栄養は、本来ケトン体中心だったことの証明だと思っています。

先日の江部先生のブログの豆蔵さんのコメントで紹介されていた日本屈指の筋肉量を誇るボディビルダーである山本義徳氏のブログに書かれていたこの言葉を主治医に贈りたいですね。http://ameblo.jp/doronjo7/entry-11599159896.html
1. ケトーシスは身体に悪い、という医者がいたら、それは無学である。

2. 脳のエネルギーはブドウ糖だけである、という栄養士がいたら、それは無知である。

3. ローカーボだと筋肉が落ちやすい、というトレーナーがいたら、それは無能である。

2013/09/08(Sun) 12:42 | URL | 千葉の産婦人科医師A | 【編集
Re: Re: ケトン体上昇は危険?
千葉の産婦人科医師A さん

コメントありがとうございます。

全く同感です。
2013/09/08(Sun) 18:14 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: Re: ケトン体上昇は危険?
千葉の産婦人科医師Aさん
SHUKANです。貴重なご意見とコメントありがとうございました。

ケトン体については、正しい知識が大切ですね。糖尿病妊娠や妊娠糖尿病の方は別でしょうが、通常の妊婦さんがつわりで絶食を余儀なくされるとき、ケトン体の上昇は異常ではないといった正しい知識があれば、不安が少しは解消されると思います。このブログにもそのような記事が過去にありました。

私の主治医の先生は糖質制限には理解を示して下さっていますが、私のデータをみて慎重に考えて下さっています。限られた診察時間ですので、これからも有意義な相談を続けていこうと思います。

ありがとうございました。
2013/09/08(Sun) 20:49 | URL | SHUKAN | 【編集
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