2013年08月29日 (木)
こんにちは。
2012年5月の週刊現代のネットの記事に、
「ボストン大学医学部のバーバラ・コーキー博士の研究によると、
すい臓は人工甘味料にも反応し、大量のインスリンを出すことがわかりました。」
という文言が掲載されたようです。
以後様々なサイトで「人工甘味料が、大量のインスリン分泌を促す」といった記事が後を絶ちません。
本ブログにも、「人工甘味料とインスリン分泌」に関して複数回の質問がありましたので、考察してみようと思います。
2012年5月の週刊現代のネットの記事の、ネタ元となった論文(☆)がネットでフリーに手に入るので、ざっと読んでみました。
「高インスリン血症:原因あるいは結果?」という原題の論文で、高インスリン血症とインスリン抵抗性とその要因を考察していて、本文だけでも一太郎(1ページ40字×40行)で11ページに及ぶ長大なものです。
その内容のほとんどは、高インスリン血症やインスリン抵抗性に関する言及です。
そして、FIG. 4.の棒グラフの、一部の説明において、人工甘味料とインスリンに関する記載が9行だけありました。
つまり膨大な論文の極々一部を取り上げて、大騒ぎしているわけで、「何でそうなるの!?」と驚きを禁じ得ません。
しかも動物実験で、ラットの培養したβ細胞に、直接人工甘味料を投与して、ごく微量のインスリン分泌の変化を観察するという実験系です。
つまり、ラットに人工甘味料を経口的に摂取させたのではなく、シャーレ内での培養実験です。
そしてその結果は、
「人工甘味料もインスリン分泌に影響を与える。
基礎ブドウ糖濃度と負荷ブドウ糖濃度で、アスパルテーム、スクラロース、サッカリンを比較した。
3者とも、インスリン基礎分泌をすぐに上昇させた。
サッカリンが一番基礎分泌インスリン濃度を上げたが、負荷ブドウ糖濃度でのインスリン分泌はコントロールよりも抑制した。
アスパルテーム、スクラロースは基礎分泌インスリンを上昇させたが、ブドウ糖負荷時のインスリン分泌はコントロールと変わりないレベル。」
ですので、
『人工甘味料が、(培養したラットのβ細胞の)基礎分泌インスリンを少し上昇させた。
0.2ナノグラム→約0.3ナノグラム。
ブドウ糖負荷したとき、サッカリンではかえってインスリン追加分泌を抑制した。』
というのが、バーバラ・コーキー博士の論文の記載です。
論文の人工甘味料関連の記載をまとめると
1)人工甘味料(アスパルテーム、スクラロース、サッカリン)をシャーレの培養実験で、
ラットのβ細胞に投与したところ、極少量の基礎分泌インスリンを上昇させた。
2)ブドウ糖を負荷した場合には、アスパルテーム、スクラロースは追加分泌インスリンは
コントロールと変わらないレベルであった。
3)サッカリンは一番基礎分泌インスリン濃度を上げたが、
負荷ブドウ糖濃度でのインスリン分泌はコントロールよりも抑制した。
ということです。
当該の週刊現代の記事を読んだら、
「人工甘味料を摂取したら、人の膵臓のβ細胞からインスリンが大量に分泌される」
というふうに思いますよね。
真相は、
「ラットのβ細胞のシャーレでの培養実験では、人工甘味量が極少量の基礎分泌インスリンを上昇させたが、ブドウ糖負荷時のインスリン追加分泌には影響を与えなかった。サッカリンはブドウ糖負荷時のインスリン追加分泌を抑制した。」
ということに過ぎません。
結論です。
「人工甘味料が直接、人の膵臓のβ細胞に作用して、大量のインスリン追加分泌を出させる」というのは、全く事実無根の誤解です。
(☆)
Banting Lecture 2011
Hyperinsulinemia: Cause or Consequence?
Barbara E. Corkey
Diabetes January 2012 vol. 61 no. 1 4-13
http://diabetes.diabetesjournals.org/content/61/1/4.full
江部康二
2012年5月の週刊現代のネットの記事に、
「ボストン大学医学部のバーバラ・コーキー博士の研究によると、
すい臓は人工甘味料にも反応し、大量のインスリンを出すことがわかりました。」
という文言が掲載されたようです。
以後様々なサイトで「人工甘味料が、大量のインスリン分泌を促す」といった記事が後を絶ちません。
本ブログにも、「人工甘味料とインスリン分泌」に関して複数回の質問がありましたので、考察してみようと思います。
2012年5月の週刊現代のネットの記事の、ネタ元となった論文(☆)がネットでフリーに手に入るので、ざっと読んでみました。
「高インスリン血症:原因あるいは結果?」という原題の論文で、高インスリン血症とインスリン抵抗性とその要因を考察していて、本文だけでも一太郎(1ページ40字×40行)で11ページに及ぶ長大なものです。
その内容のほとんどは、高インスリン血症やインスリン抵抗性に関する言及です。
そして、FIG. 4.の棒グラフの、一部の説明において、人工甘味料とインスリンに関する記載が9行だけありました。
つまり膨大な論文の極々一部を取り上げて、大騒ぎしているわけで、「何でそうなるの!?」と驚きを禁じ得ません。
しかも動物実験で、ラットの培養したβ細胞に、直接人工甘味料を投与して、ごく微量のインスリン分泌の変化を観察するという実験系です。
つまり、ラットに人工甘味料を経口的に摂取させたのではなく、シャーレ内での培養実験です。
そしてその結果は、
「人工甘味料もインスリン分泌に影響を与える。
基礎ブドウ糖濃度と負荷ブドウ糖濃度で、アスパルテーム、スクラロース、サッカリンを比較した。
3者とも、インスリン基礎分泌をすぐに上昇させた。
サッカリンが一番基礎分泌インスリン濃度を上げたが、負荷ブドウ糖濃度でのインスリン分泌はコントロールよりも抑制した。
アスパルテーム、スクラロースは基礎分泌インスリンを上昇させたが、ブドウ糖負荷時のインスリン分泌はコントロールと変わりないレベル。」
ですので、
『人工甘味料が、(培養したラットのβ細胞の)基礎分泌インスリンを少し上昇させた。
0.2ナノグラム→約0.3ナノグラム。
ブドウ糖負荷したとき、サッカリンではかえってインスリン追加分泌を抑制した。』
というのが、バーバラ・コーキー博士の論文の記載です。
論文の人工甘味料関連の記載をまとめると
1)人工甘味料(アスパルテーム、スクラロース、サッカリン)をシャーレの培養実験で、
ラットのβ細胞に投与したところ、極少量の基礎分泌インスリンを上昇させた。
2)ブドウ糖を負荷した場合には、アスパルテーム、スクラロースは追加分泌インスリンは
コントロールと変わらないレベルであった。
3)サッカリンは一番基礎分泌インスリン濃度を上げたが、
負荷ブドウ糖濃度でのインスリン分泌はコントロールよりも抑制した。
ということです。
当該の週刊現代の記事を読んだら、
「人工甘味料を摂取したら、人の膵臓のβ細胞からインスリンが大量に分泌される」
というふうに思いますよね。
真相は、
「ラットのβ細胞のシャーレでの培養実験では、人工甘味量が極少量の基礎分泌インスリンを上昇させたが、ブドウ糖負荷時のインスリン追加分泌には影響を与えなかった。サッカリンはブドウ糖負荷時のインスリン追加分泌を抑制した。」
ということに過ぎません。
結論です。
「人工甘味料が直接、人の膵臓のβ細胞に作用して、大量のインスリン追加分泌を出させる」というのは、全く事実無根の誤解です。
(☆)
Banting Lecture 2011
Hyperinsulinemia: Cause or Consequence?
Barbara E. Corkey
Diabetes January 2012 vol. 61 no. 1 4-13
http://diabetes.diabetesjournals.org/content/61/1/4.full
江部康二
江部先生 CKD5/Cr7.16になり腎臓内科医から、体重53kg台は栄養不良の疑いがあり、1日100gの糖質制限を緩めて、炭水化物をすこし増やしてエネルギーを確保せよと毎回言われます そこで朝夕パン30g107kcal糖質19.2gと昼低蛋白ごはん50g80kcal糖質18.8gを試してみましたら、トレシーバ3単位+昼だけノボラピッド3単位ではFBS127・食後2時間値190~230になり、トレシーバ4単位、朝夕ノボ2単位+昼ノボ5単位にしたら、FBS81~95 朝食1時間値127~149 夕食2時間値117~179でした でも昼は202~262でした=昼前に測ったら146~200と安定しません・・・血圧では20年前に24時間モニターのCPMをやって起床時に高いことが分かり、降圧薬を就寝前の服用になった覚えがあります そこで、血糖値もCGMができれば自分の血糖値の動きが把握できるのでしょうか
2013/08/29(Thu) 15:10 | URL | 柚木信也 | 【編集】
Yamamoto_ma さん
情報をありがとうございます。
糖尿病代謝内科のドクターのブログ「一人抄読会」ですね。
参考になります。
情報をありがとうございます。
糖尿病代謝内科のドクターのブログ「一人抄読会」ですね。
参考になります。
2013/08/29(Thu) 20:45 | URL | ドクター江部 | 【編集】
柚木信也 さん
大病院で、インスリンポンプを扱っているところで、CGMが保険で可能です。
大病院で、インスリンポンプを扱っているところで、CGMが保険で可能です。
2013/08/29(Thu) 20:49 | URL | ドクター江部 | 【編集】
ヒトはなぜ太るのか?そしてどうすればいいか | No Second Life
http://www.ttcbn.net/no_second_life/archives/35968
http://www.ttcbn.net/no_second_life/archives/35968
2013/08/29(Thu) 21:04 | URL | マコスケ | 【編集】
マコスケ さん
『ヒトはなぜ太るのか? そして,どうすればいいか』
ゲーリー・トーベス著 太田喜義訳 Medical Tribune
2013年4月28日発行 A5判上製288ページ 2,800円+税
この本の書評を、出版社に頼まれて私が書きました。
2013年04月24日 (水)の本ブログ記事
『ヒトはなぜ太るのか? そして,どうすればいいか』 書評
をご参照いただけば幸いです。
『ヒトはなぜ太るのか? そして,どうすればいいか』
ゲーリー・トーベス著 太田喜義訳 Medical Tribune
2013年4月28日発行 A5判上製288ページ 2,800円+税
この本の書評を、出版社に頼まれて私が書きました。
2013年04月24日 (水)の本ブログ記事
『ヒトはなぜ太るのか? そして,どうすればいいか』 書評
をご参照いただけば幸いです。
2013/08/30(Fri) 10:34 | URL | ドクター江部 | 【編集】
私も以前から この事を考えていました。 人工甘味料が インスリンだしちゃうかもって。
色々な文献読むより 事実がすべてなので、糖尿病患者さんに ペプシ0 または ラカントで作った甘い水を飲ませて、 OGTTのように IRI と血糖を 測ってみようかと考えていました。
まだ実践していませんが、機会があったら 私が何人か患者さんに 試してみたいです。
色々な文献読むより 事実がすべてなので、糖尿病患者さんに ペプシ0 または ラカントで作った甘い水を飲ませて、 OGTTのように IRI と血糖を 測ってみようかと考えていました。
まだ実践していませんが、機会があったら 私が何人か患者さんに 試してみたいです。
2014/01/04(Sat) 21:18 | URL | 森園茂明 | 【編集】
森園茂明 先生
興味深いです。
結果がでましたら、ご教示いただけば幸いです。
興味深いです。
結果がでましたら、ご教示いただけば幸いです。
2014/01/05(Sun) 19:11 | URL | ドクター江部 | 【編集】
立寄りドクター さん
人口甘味料とインスリン分泌に関する記事(2013年08月29日)ですが、
取り上げた研究は
1)シャーレの中のラットの培養β細胞に直接人工甘味料を投与するという
特殊な条件です。
2)ラットに経口摂取させての実験ではないです。
3)人工甘味料投与で基礎分泌インスリンが「0.2ナノグラム→約0.3ナノグラム」と増加ですが、ブドウ糖負荷時の追加分泌インスリンには影響なしです。
人のインスリン分泌において、
一人前の主食(糖質)を摂取した場合は、
インスリン追加分泌は、10倍~30倍レベル放出されます。
これに比べるとわずかな上昇と思います。
また、人工甘味料に関する最新の総説論文において
人工甘味料のみでは、
インスリンやインクレチン分泌が促進されることはないことが記載されています。
2013年08月31日 (土)の本ブログ記事
「人工甘味料は、予想に反して代謝を障害し疾患リスクを増加させる?」
をご参照いただけば幸いです。
人口甘味料とインスリン分泌に関する記事(2013年08月29日)ですが、
取り上げた研究は
1)シャーレの中のラットの培養β細胞に直接人工甘味料を投与するという
特殊な条件です。
2)ラットに経口摂取させての実験ではないです。
3)人工甘味料投与で基礎分泌インスリンが「0.2ナノグラム→約0.3ナノグラム」と増加ですが、ブドウ糖負荷時の追加分泌インスリンには影響なしです。
人のインスリン分泌において、
一人前の主食(糖質)を摂取した場合は、
インスリン追加分泌は、10倍~30倍レベル放出されます。
これに比べるとわずかな上昇と思います。
また、人工甘味料に関する最新の総説論文において
人工甘味料のみでは、
インスリンやインクレチン分泌が促進されることはないことが記載されています。
2013年08月31日 (土)の本ブログ記事
「人工甘味料は、予想に反して代謝を障害し疾患リスクを増加させる?」
をご参照いただけば幸いです。
2014/03/29(Sat) 19:00 | URL | ドクター江部 | 【編集】
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