医事新報『糖質制限食による長期的な影響』能登論文への反論(3)
こんにちは

精神科医師Aさんから

日本医事新報2013年4月6日号に載った『糖質制限食による長期的な影響』 という

国立国際医療研究センター病院糖尿病・代謝・内分泌科医長
東京医科歯科大学医学部臨床教授
能登 洋 先生

の論文情報をコメントいただきました。

精神科医師Aさん、ありがとうございます。

一つ一つ反論していきます。

今日のブログは、能登先生ご自身が報告された論文への批判記事です。



【*糖質制限食による長期的な影響

一方,長期的なアウトカムや安全性は不明であった.前述のように糖質制限食は2年程度なら減量などの効果が示されているものの総カロリー制限のほうが影響が大きい可能性があること,長期的には減量効果が持続しないこと,継続が容易でないことを考慮すると,医学的利点は少ない可能性がある.肥満者の急増と糖質制限ダイエットの人気に鑑み,筆者らは糖質制限食による長期的な死亡・心血管疾患リスクの系統的検証を行った
4) Noto H, et al: PLoS One 8: e55030, 2013. 】

***能登論文
Low-Carbohydrate Diets and All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies PLoS ONE, 8(1), e55030 25-Jan-2013 Hiroshi Noto



能登先生は、492の英文論文から、最終的に9論文に絞って、メタ解析をしておられます。

そしてこの9論文、私が既に読んでいるものがあり、わかっている範囲ですが、玉石混交です。

能登論文の引用文献は1~39まであり、文献番号7.8.9.1011.12と29.30.31が選択された9論文です。→文末に記載。

文献9は、本ブログ記事で何回か取り上げた、信頼度ゼロの、「低糖質・高蛋白質食、心血管イベント上昇」というBMJの論文です。

•栄養分析が登録時の1992年1回、15年以上その食生活が継続という仮定。
•塩分摂取量での調節がなされていない。
•質問事項が食物の項目で、糖質量など各栄養素の算出方法が不明確。
•糖質摂取とタンパク質摂取の点数化が恣意的で歪曲されている。
•この論文の平均摂取カロリーは1561kcal。
同時期のスウェーデンの論文の平均摂取カロリー1999.5Kcalに比し過少申告。 
•BMJ には、本記事に対する専門家のコメントが12件よせられ、その全てがこの論文に対して否定的見解。
→希有なこと


上記からこの論文は、極めて信頼度の低い論文です。

データベースとしてもアンケートそのものが信頼がおけないものです。

この信頼度のない論文を含めた時点で、能登論文の信頼度もまた地に落ちています。

文献11も、文献9と同じ著者(Lagiou )の論文です。


一方、最も信頼度が高い文献は、7と30です。症例数も追跡年数も申し分ありません。

アンケートも精緻で、文献9とは大きな違いがあります。

20年間以上の追跡は、選択された9論文の中で、この2つの文献だけです。

文献7は<NHS85168名+HPFS44548名>がデータベースで、NHS、HPFSはハーバード大学で行われている世界的に有名な2つの大規模前向きコホート研究です。
the Nurses' Health Study(NHS) 女性
the Health Professionals Follow-up Study (HPFS) 男性
それぞれ26年間と20年間の追跡期間です。

植物性由来の蛋白質・脂質を摂取した場合には、低糖質になるほど、総死亡率・心血管死が減少しています。

文献30は、NHSがデータベースで、82802名を20年間の追跡です。

低炭水化物・高脂肪・高タンパク食に冠動脈疾患のリスクなし
ニューイングランドジャーナルのコホート研究  82802人 2006年 ハーバード大学

•1980年、米国の女性看護師82,802人に食事調査を行い、研究を開始 。

•質問票を使った食事調査を、1980年から1998年までのあいだに、2-6年間隔で6回実施。
•低炭水化物食「得点」が上位10%のグループの冠動脈疾患の発生率は下位10%のグループの0.94倍で有意差なし。
2000年の時点で10グループを解析。炭水化物摂取比率36.8±6.1%グループと58.8±7.0%のグループの比較。
•即ち20年間の追跡で、脂肪と蛋白質が多く炭水化物が少ない食事をしているグループでも、心臓病のリスクは
上昇しなかった。
•glycemic load が低いとCHD(冠疾患)リスクが低下。
•「低糖質+高植物性タンパク+高植物性脂肪摂取」がCHD(冠疾患)リスクを低下。
•一方総炭水化物摂取量は冠動脈疾患リスクの中等度増加に関連していた。
高GL(glycemic load )は冠動脈疾患リスク増加と強く関連していた。


最も信頼度が高い文献30の結論は、能登論文の結論とは正反対で

「低炭水化物・高脂肪・高タンパク食に冠動脈疾患のリスクなし」
「glycemic load が低いとCHD(冠疾患)リスクが低下。」
「低糖質+高動物性タンパク+高動物性脂肪摂取」がCHD(冠疾患)リスクを低下。」
「総炭水化物摂取量は冠動脈疾患リスクの中等度増加に関連。 高GLは冠動脈疾患リスク増加と強く関連。」

です。

すなわち高炭水化物食の危険性を明確に指摘しています。

結局、能登論文、折角信頼度の高い、文献7、文献30をもってきたのに、信頼度ゼロの文献9などを加えたために、メタ解析結果が全く信頼のおけないものになってしまっています。

文献7、文献30は、「低糖質+高動物性タンパク+高動物性脂肪摂取」や高GLや「植物性タンパク+低糖質」といった、きめ細かいデータまで検討しています。

しかし、文献9はそのような精緻なデータはありませんので、そもそも一緒に混ぜることができるレベルのデータではありません。

結論として、このような信頼度の低いメタ解析など不必要で、信頼度の高い文献30や文献7の結論で必要充分と言えます。

さらに、文献31の論文は「高GL食・高GI食を食べている中年女性は、心血管リスクが上昇する。」という明確な結論であり、高炭水化物食の危険性を指摘しています。



江部康二



7. Fung TT, van Dam RM, Hankinson SE, Stampfer M, Willett WC, et al. (2010) Low-carbohydrate diets and all-cause and cause-specific mortality: two cohort studies. Ann Intern Med 153: 289–298. Find this article online
極めて信頼度の高い論文。



8. Sjogren P, Becker W, Warensjo E, Olsson E, Byberg L, et al. (2010) Mediterranean and carbohydrate-restricted diets and mortality among elderly men: a cohort study in Sweden. Am J Clin Nutr 92: 967–974. doi: 10.3945/ajcn.2010.29345. Find this article online



9. Lagiou P, Sandin S, Lof M, Trichopoulos D, Adami HO, et al. (2012) Low carbohydrate-high protein diet and incidence of cardiovascular diseases in Swedish women: prospective cohort study. BMJ 344: e4026. doi: 10.1136/bmj.e4026. Find this article online
BMJの信頼度の低い論文。



10.Nilsson LM, Winkvist A, Eliasson M, Jansson JH, Hallmans G, et al. (2012) Low-carbohydrate, high-protein score and mortality in a northern Swedish population-based cohort. Eur J Clin Nutr 66: 694–700. doi: 10.1038/ejcn.2012.9. Find this article online



11.Lagiou P, Sandin S, Weiderpass E, Lagiou A, Mucci L, et al. (2007) Low carbohydrate-high protein diet and mortality in a cohort of Swedish women. J Intern Med 261: 366–374. doi: 10.1111/j.1365-2796.2007.01774.x. Find this article online
BMJの信頼度の低い論文と同じ著者の論文。



12.Trichopoulou A, Psaltopoulou T, Orfanos P, Hsieh CC, Trichopoulos D (2007) Low-carbohydrate-high-protein diet and long-term survival in a general population cohort. Eur J Clin Nutr 61: 575–581. doi: 10.1038/sj.ejcn.1602557. Find this article online



29. Oh K, Hu FB, Cho E, Rexrode KM, Stampfer MJ, et al. (2005) Carbohydrate intake, glycemic index, glycemic load, and dietary fiber in relation to risk of stroke in women. Am J Epidemiol 161: 161–169. doi: 10.1093/aje/kwi026. Find this article online


30. Halton TL, Willett WC, Liu SM, Manson JE, Albert CM, et al. (2006) Low-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women. N Engl J Med 355: 1991–2002. doi: 10.1056/NEJMoa055317. Find this article online
極めて信頼度の高い論文。


31.Beulens JW, de Bruijne LM, Stolk RP, Peeters PH, Bots ML, et al. (2007) High dietary glycemic load and glycemic index increase risk of cardiovascular disease among middle-aged women: a population-based follow-up study. J Am Coll Cardiol 50: 14–21. Find this article online




【13/04/17 精神科医師A
日本医事新報2013年4月6日号, pp72-73

『糖質制限食による長期的な影響』

国立国際医療研究センター病院糖尿病・代謝・内分泌科医長
東京医科歯科大学医学部臨床教授
能登 洋

近年,「糖質制限ダイエット」が人気を集めている.実際,糖質制限食は短期的(1~2年間)な体垂減少や動脈硬化リスクファクター改善に有効であることが示唆されている.本稿では,筆者らが発表したメタアナリシスの結果を中心に,糖質制限ダイエットの効果と危険性について解説する.

*糖質制限食による減量効果
 糖質制限食による減量効果を示す臨床研究は多くあるが,いずれも最長1年間程度の短期間のデータであった.2008年になり,糖質制限食・脂肪制限食・地中海式食の3食群による減量効果比較試験の結果がイスラエルから発表され,2年間の追跡期間で糖質制限食による効果が最も大きい (ベースライン平均体重約91kg,平均減量約5kg) ことが実証された[1].また,糖質制限食により心血管疾患リスクファクターが改善する報告も増加し,長期的予後改善の可能性も期待されるようになった.
 しかし,このイスラエルでの臨床研究には問題点がいくつか存在する.まず,他のダイエット介入研究と同様に1年以上糖質制限式を継続できた人は約80%であった.また,3食群間で総カロリーが異なっており,糖質制限食の総カロリーが最も低かったため,減量効果が糖質制限によるものなのか総カロリー制限によるものなのか結論づけることができない[1].さらに,その後発表された報告では,6年後には3食群ともほぼベースラインの体重に戻っていた[2].

*総カロリー制限食による減量効果
 前述の研究に対し,総カロリーは同じだが糖質・蛋白質・脂質の構成比率が異なる食事による減量効果比較試験が2009年に米国から発表された.その結果は,高糖質摂取群と糖質制限群では2年後の減量効果に有意差を認めなかったというものだった(ベースライン平均体重約93kg,平均減量約3kg)[3].蛋白質・脂質に関してもそれぞれ高摂取群と制限群で有意差を認めなかった.興味深いことに,この研究では栄養指導回数に比例して減量効果が増加することが示唆され,頻回の個別化指導の効果が期待される.

*糖質制限食による長期的な影響
一方,長期的なアウトカムや安全性は不明であった.前述のように糖質制限食は2年程度なら減量などの効果が示されているものの総カロリー制限のほうが影響が大きい可能性があること,長期的には減量効果が持続しないこと,継続が容易でないことを考慮すると,医学的利点は少ない可能性がある.肥満者の急増と糖質制限ダイエットの人気に鑑み,筆者らは糖質制限食による長期的な死亡・心血管疾患リスクの系統的検証を行った[4].

 まず,2012年9月付けの糖質制限食と死亡・心血管疾患に関する文献検索を行ったところ492報ヒットした.その中から適切な妥当性の高い全9件の論文がメタアナリシスに選択された.メタアナリシスの結果を以下にまとめる(表1).

表1 低糖質摂取者の死亡・心血管疾患リスク(メタアナリシス)
アウトカム-----文献数(報)---総対象者数(人)---リスク比---P値
総死亡-----------4---------272,216----------1.31----0.007
心血管疾患死------3---------249,272----------1.10-----0.12
心血管疾言罹患----4---------220,691-----------0.98----0.87

・解析対象として選抜されたのはいずれも欧米の研究で,30歳以上の健常人を5~26年間追跡した観察研究であった.介入研究や日本からの報告はなかった.
・全カロリーに占める糖質カロリーの割合を10段階に分け,最小糖質摂取率群(総カロリーの30~40%)と最大糖質摂取率群(総カロリーの60~70%)のリスクを統合比較した.
・27万2216人(女性66%,総死亡1万5981人)の全死亡リスクは,低糖質摂取群は高糖質摂取群よりも31%有意に高かった.
・24万9272人(女性67%,心血管疾患死3214人)の心血管疾患死リスクには低糖質食に伴う有意なリスクを認めなかった.
・22万691人(女性100%,心血管疾患罹患5081人の心血管疾患罹患リスクにも低糖質食に伴う有意なリスクを認めなかった.
以上より,低糖質食による長期的な効用は認めず,死亡リスクが有意に増加する可能性が示された.

*今後の研究課題
死亡リスク増加の原因が今後の究明課題であるが,糖質制限食では蛋白質・脂質の摂取量が増えることが報告されており,その結果,心血管疾患リスクが増加することが一因として想定されている.実際,筆者らの研究でも心血管疾患死リスクの増加傾向を認めた.また,介入研究が存在しなかったため,日本人や糖尿病患者も対象とした長期的な介入研究の必要性が改めて浮き彫りとなった.

*まとめ
 糖質ダイエットは2年程度の期間なら利点があり危険性は少ないと考えられる.しかし,今回の研究に基づいて「糖質制限ダイエット]の賛否について論じることはできないものの,長期間実施する場合はリスクの可能性を考えて慎重になったほうがよいであろう.

<文献>
1) Shai l, et al: N Engl J Med 359: 229,2008.
2) Schwarzfuchs D, et al : N Engl J Med 367: 1373,2012.
3) Sacks FM, et al : N Engl J Med 360: 859, 2009.
4) Noto H, et al: PLoS One 8: e55030, 2013. 】



テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
江部先生、皆様、こんばんは。

江部先生の記事はもちろん、精神科医師A様はじめコメント欄の皆様の情報や体験談、とてもありがたいです。勉強してます。
先日の北九州三島様がupされた麻生副総理の糖尿病メッタ斬り?の記事、私はその会見の「病院を集会所代わりにするお年寄りが多すぎる。『あら、今日は〇〇さん来てないね。病気かしら』というジョークまである。一年間病院に行かなければ10万円差し上げる、とした方が医療費の削減になる」という記事だけ読んでいたのですが、情報をありがとうございます。
面白いし、賛成なので、また手紙を出します。


「HERS」という熟女向けファッション誌(笑)の中で、タレント森久美子さんが、「33キロダイエットに成功して維持、さらに今年からダイエットを再開した」という振付師のパパイヤ鈴木さんと森さん手作りの低糖質料理を食べながら対談というコーナーがありました。

おすすめの甘味料はラカントS。高野豆腐にアンチョビやチーズをのせたブルスケッタ。ルーを使わない厚揚げ入りカレー。湯葉を使った焼き春巻きと、糖質制限的メニューで美味しそうです。ただ、低脂肪にもこだわってました。

お二人の会話

鈴木「元々、甘いものは苦手だし、肉も積極的には食べなかったんですよ(お酒好き)」

森「え?じゃあ肥満の理由は?」

鈴木「ズバリ、炭水化物です。それと、麺」

森「はあ、なるほど!」

鈴木「ラーメン、オムライス、焼きそば、天津丼、それからホルモンですね。焼き肉屋で肉を食べないでホルモンばかり食べてました」

森「ホルモンはいけませんね」


‥なんだか、惜しい!ですね(笑)
炭水化物も脂も駄目とは厳しいです。
パパイヤ鈴木さんが「炭水化物、それと麺」というのは、何故、別に思われたのか笑ってしまいました。

お二人には是非江部先生の本を読んで頂きたいです。
また教えて差し上げようかな。

2013/05/01(Wed) 21:02 | URL | もんたろ | 【編集
日本医事新報の公平性
日本医事新報はvalsartan の論文捏造事件で、公平な立場からopinion を掲載しています

「J- CLEAR通信」(11) JIKEI–HEARTから NAGOYA–HEARTまで-日本のEBMをどうしようというのか-
桑島 巌 No.4550 2011年7月9日

Valsartanを用いた日本の高血圧臨床試験の血圧値に関する統計学的懸念
由井芳樹 No.4595 2012年5月19日

高血圧臨床試験の血圧データに関する統計学的考察-VARTを事例として
佐藤泰憲 No.4618 2012年10月27日

日本のvalsartan臨床試験血圧値の統計学的懸念に関する反論へのコメント
由井芳樹 No.4623 2012年12月1日

J-CLEAR通信(29) KYOTO HEART Study論文撤回に関して(緊急寄稿)
桑島 巌 No.4638 2013年3月16日

KYOTO HEARTから学ぶこと
No.4642 2013年4月13日

  ◇   ◇

 糖質制限食についても、学問的に公平な論争を行う場所を提供してくれると確信しています
2013/05/02(Thu) 22:29 | URL | 精神科医師A | 【編集
Re: 日本医事新報の公平性
精神科医師A さん。

そうですね。
医事新報は、ニュートラルなスタンスですね。

私も医事新報に、「糖質制限食の実際と効果」と題して
No.4628,2013年1月5日の一週一話に、原稿を載せて頂きました。

医学雑誌「内科」「治療」などにも、糖質制限食に関する原稿を掲載して頂きました。
2013/05/04(Sat) 13:14 | URL | ドクター江部 | 【編集
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