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日本医事新報『糖質制限食による長期的な影響』能登氏の論文への反論
こんばんは.

精神科医師Aさんから、日本医事新報2013年4月6日号に載った

『糖質制限食による長期的な影響』

という

国立国際医療研究センター病院糖尿病・代謝・内分泌科医長
東京医科歯科大学医学部臨床教授
能登 洋 先生

の論文情報をコメントいただきました。

精神科医師Aさん、ありがとうございます。

一つ一つ反論していこうと思います。


【*糖質制限食による減量効果

糖質制限食による減量効果を示す臨床研究は多くあるが,いずれも最長1年間程度の短期間のデータであった.2008年になり,糖質制限食・脂肪制限食・地中海式食の3食群による減量効果比較試験の結果がイスラエルから発表され,2年間の追跡期間で糖質制限食による効果が最も大きい (ベースライン平均体重約91kg,平均減量約5kg) ことが実証された[1].また,糖質制限食により心血管疾患リスクファクターが改善する報告も増加し,長期的予後改善の可能性も期待されるようになった.

しかし,このイスラエルでの臨床研究には問題点がいくつか存在する.まず,他のダイエット介入研究と同様に1年以上糖質制限式を継続できた人は約80%であった.また,3食群間で総カロリーが異なっており,糖質制限食の総カロリーが最も低かったため,減量効果が糖質制限によるものなのか総カロリー制限によるものなのか結論づけることができない[1].さらに,その後発表された報告では,6年後には3食群ともほぼベースラインの体重に戻っていた[2].】


1年以上糖質制限食を続けることができた人が約80%というのは、個人的に立派な数字と思います。逆にカロリー制限食を1年間続けることはできる人がどれくらいいるか、糖尿病学会には、是非示して頂きたいですね。

【3食群間で総カロリーが異なっており,糖質制限食の総カロリーが最も低かったため,減量効果が糖質制限によるものなのか総カロリー制限によるものなのか結論づけることができない。】

これは、不思議です。論文をきっちり読まれたのでしょうか?

まずベースラインの総摂取カロリーや、タンパク質・脂質・糖質摂取組成は、無作為割り付け試験ですので基本的に同一で、それが出発点です。

原著の論文には、試験開始後3群とも、出発点のベースラインからは、日々の摂取カロリーが、6ヶ月後、12ヶ月後、24ヶ月後と全て、有意に減少しています。

そして、ベースラインからのカロリー減少幅に3群で有意差はないということが明記してあります。

つまり、原著において、著者が総摂取カロリーに有意差がないと明記しているのを無視して「3食群間で総カロリーが異なっており,糖質制限食の総カロリーが最も低かった」と能登先生が述べておられるのは、いくら何でも著者のShai先生に失礼だと思います。

それから、低脂肪食と地中海食は女性1500kcal、男性1800kcalというカロリー制限があったのに対して、糖質制限はカロリー無制限というハンディキャップがありました。

それにも関わらず、糖質制限食群の場合も他の2群と同等の摂取カロリー減が認められたのは一見不思議です。

理由があるとすれば、満足感の高い食事であったので多くのカロリーを摂取する必然性がなかったということでしょうか。

これは、あくまでも仮説ですが、糖質制限食の一つの利点と言えるかもしれませんね。

【その後発表された報告では,6年後には3食群ともほぼベースラインの体重に戻っていた[2].】

これも、結論をねじ曲げた表現でフェアではありません。

6年後も、体重減少の幅は小さくなりましたが、糖質制限食と地中海食では体重減少に関してまだ統計的有意差を保っていました。

唯一脂質制限食だけが、6年後には体重減少の有意差が無くなっていました。

同じ論文を読んで、能登先生がこのような歪曲した解釈を、医事新報という定評ある医学雑誌に載せられたことは、極めて残念です。


江部康二



【13/04/17 精神科医師A
日本医事新報2013年4月6日号, pp72-73

『糖質制限食による長期的な影響』

国立国際医療研究センター病院糖尿病・代謝・内分泌科医長
東京医科歯科大学医学部臨床教授
能登 洋

近年,「糖質制限ダイエット」が人気を集めている.実際,糖質制限食は短期的(1~2年間)な体垂減少や動脈硬化リスクファクター改善に有効であることが示唆されている.本稿では,筆者らが発表したメタアナリシスの結果を中心に,糖質制限ダイエットの効果と危険性について解説する.

*糖質制限食による減量効果

 糖質制限食による減量効果を示す臨床研究は多くあるが,いずれも最長1年間程度の短期間のデータであった.2008年になり,糖質制限食・脂肪制限食・地中海式食の3食群による減量効果比較試験の結果がイスラエルから発表され,2年間の追跡期間で糖質制限食による効果が最も大きい (ベースライン平均体重約91kg,平均減量約5kg) ことが実証された[1].また,糖質制限食により心血管疾患リスクファクターが改善する報告も増加し,長期的予後改善の可能性も期待されるようになった.

 しかし,このイスラエルでの臨床研究には問題点がいくつか存在する.まず,他のダイエット介入研究と同様に1年以上糖質制限式を継続できた人は約80%であった.また,3食群間で総カロリーが異なっており,糖質制限食の総カロリーが最も低かったため,減量効果が糖質制限によるものなのか総カロリー制限によるものなのか結論づけることができない[1].さらに,その後発表された報告では,6年後には3食群ともほぼベースラインの体重に戻っていた[2].


*総カロリー制限食による減量効果
 前述の研究に対し,総カロリーは同じだが糖質・蛋白質・脂質の構成比率が異なる食事による減量効果比較試験が2009年に米国から発表された.その結果は,高糖質摂取群と糖質制限群では2年後の減量効果に有意差を認めなかったというものだった(ベースライン平均体重約93kg,平均減量約3kg)[3].蛋白質・脂質に関してもそれぞれ高摂取群と制限群で有意差を認めなかった.興味深いことに,この研究では栄養指導回数に比例して減量効果が増加することが示唆され,頻回の個別化指導の効果が期待される.

*糖質制限食による長期的な影響
一方,長期的なアウトカムや安全性は不明であった.前述のように糖質制限食は2年程度なら減量などの効果が示されているものの総カロリー制限のほうが影響が大きい可能性があること,長期的には減量効果が持続しないこと,継続が容易でないことを考慮すると,医学的利点は少ない可能性がある.肥満者の急増と糖質制限ダイエットの人気に鑑み,筆者らは糖質制限食による長期的な死亡・心血管疾患リスクの系統的検証を行った[4].
 まず,2012年9月付けの糖質制限食と死亡・心血管疾患に関する文献検索を行ったところ492報ヒットした.その中から適切な妥当性の高い全9件の論文がメタアナリシスに選択された.メタアナリシスの結果を以下にまとめる(表1).

表1 低糖質摂取者の死亡・心血管疾患リスク(メタアナリシス)
アウトカム-----文献数(報)---総対象者数(人)---リスク比---P値
総死亡-----------4---------272,216----------1.31----0.007
心血管疾患死------3---------249,272----------1.10-----0.12
心血管疾言罹患----4---------220,691-----------0.98----0.87

・解析対象として選抜されたのはいずれも欧米の研究で,30歳以上の健常人を5~26年間追跡した観察研究であった.介入研究や日本からの報告はなかった.
・全カロリーに占める糖質カロリーの割合を10段階に分け,最小糖質摂取率群(総カロリーの30~40%)と最大糖質摂取率群(総カロリーの60~70%)のリスクを統合比較した.
・27万2216人(女性66%,総死亡1万5981人)の全死亡リスクは,低糖質摂取群は高糖質摂取群よりも31%有意に高かった.
・24万9272人(女性67%,心血管疾患死3214人)の心血管疾患死リスクには低糖質食に伴う有意なリスクを認めなかった.
・22万691人(女性100%,心血管疾患罹患5081人の心血管疾患罹患リスクにも低糖質食に伴う有意なリスクを認めなかった.
以上より,低糖質食による長期的な効用は認めず,死亡リスクが有意に増加する可能性が示された.

*今後の研究課題
死亡リスク増加の原因が今後の究明課題であるが,糖質制限食では蛋白質・脂質の摂取量が増えることが報告されており,その結果,心血管疾患リスクが増加することが一因として想定されている.実際,筆者らの研究でも心血管疾患死リスクの増加傾向を認めた.また,介入研究が存在しなかったため,日本人や糖尿病患者も対象とした長期的な介入研究の必要性が改めて浮き彫りとなった.

*まとめ
 糖質ダイエットは2年程度の期間なら利点があり危険性は少ないと考えられる.しかし,今回の研究に基づいて「糖質制限ダイエット]の賛否について論じることはできないものの,長期間実施する場合はリスクの可能性を考えて慎重になったほうがよいであろう.

<文献>
1) Shai l, et al: N Engl J Med 359: 229,2008.
2) Schwarzfuchs D, et al : N Engl J Med 367: 1373,2012.
3) Sacks FM, et al : N Engl J Med 360: 859, 2009.
1) Noto H, et al: PLoS One 8: e55030, 2013. 】


テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
黒田暁生論文
月刊糖尿病5(5)72-76、 2013年5月号
◇糖質制限食をめぐって
黒田暁生、松久宗英

 平均BMI 31の肥満者322名に対して、エネルギー制限を伴わない糖質制限食、エネルギー制限を伴う低脂肪食、地中海食(オリーブ油、魚類、果物、豆、野菜類を多く使用する料理)を2年間にわたって比較したところ、低脂肪食に比べて、地中海食と糖質制限食では有意な低下が認められたとされている(図1)[10]。しかし、摂取エネルギー制限を伴わないにもかかわらず、糖質制限食摂取群では1日摂取エネルギー量が低脂肪食摂取群と地中海食摂取群に比して有意に少なかったため、この効果は単に摂取エネルギーの差によって生じた可能性が示唆されている[12]。
 また、この研究の4年後のフォローアップの成績が報告された。介入中止後、参加者の67%である259名は指示された食事療法を継続していた。地中海食と糖質制限食では、体重に少しのリバウンドを認めたものの、試験終了後4年後でも継続していた(図2)[13]。このように、指示された食事療法が6年間に及んで継続され、その効果が持続することが少数例の報告ながら可能であることが示された。

10) 著者の文献間違いである。Shai l, et al: N Engl J Med 359: 229,2008の事と思われる
11) http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc081747
 …Moller 氏は低炭水化物食はカロリーがかなり低下した結果ではなかろうかと質問したが、著者は総カロリーの減少は、各群とも同様であったと回答している

12) http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc1204792
2013/04/29(Mon) 22:41 | URL | 精神科医師A | 【編集
黒田暁生論文(訂正)
月刊糖尿病5(5)72-76、 2013年5月号
◇糖質制限食をめぐって
黒田暁生、松久宗英

 平均BMI 31の肥満者322名に対して、エネルギー制限を伴わない糖質制限食、エネルギー制限を伴う低脂肪食、地中海食(オリーブ油、魚類、果物、豆、野菜類を多く使用する料理)を2年間にわたって比較したところ、低脂肪食に比べて、地中海食と糖質制限食では有意な低下が認められたとされている(図1)[10]。しかし、摂取エネルギー制限を伴わないにもかかわらず、糖質制限食摂取群では1日摂取エネルギー量が低脂肪食摂取群と地中海食摂取群に比して有意に少なかったため、この効果は単に摂取エネルギーの差によって生じた可能性が示唆されている[12]。
 また、この研究の4年後のフォローアップの成績が報告された。介入中止後、参加者の67%である259名は指示された食事療法を継続していた。地中海食と糖質制限食では、体重に少しのリバウンドを認めたものの、試験終了後4年後でも継続していた(図2)[13]。このように、指示された食事療法が6年間に及んで継続され、その効果が持続することが少数例の報告ながら可能であることが示された。

10) 著者の文献間違いである。Shai l, et al: N Engl J Med 359: 229,2008の事と思われる
12) http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc081747
 …Moller 氏は低炭水化物食はカロリーがかなり低下した結果ではなかろうかと質問したが、著者は総カロリーの減少は、各群とも同様であったと回答している

13) http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc1204792
2013/04/29(Mon) 22:48 | URL | 精神科医師A | 【編集
Re: 黒田暁生論文(訂正)
精神科医師A さん

貴重な情報をありがとうございます。

しかし、黒田暁生先生も、
Moller 氏の「低炭水化物食はカロリーがかなり低下した結果ではなかろうかいう質問」を
ニューイングランド・ジャーナルのサイトで見たのなら
著者のShai先生の「総カロリーの減少は、各群とも同様であったという回答」も
見ているはずです。
Shai先生の回答を意図的に無視するやり方は、いかにもアンフェアです。
2013/04/30(Tue) 09:36 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 低血糖症。
まゆみ さん

パニック障害そのものには、薬物療法や精神療法(認知療法など)が治療法としてあります。

一方、パニック障害と診断されている患者さんの一部が、機能性低血糖の症状を間違えて
パニック障害とされている場合があり得ます。

その場合、機能性低血糖の症状に関しては、糖質制限食で改善する可能性があると思います。
2013/04/30(Tue) 11:47 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: ありがとうございます。
まゆみ さん

私はサプリメントは、原則として使用しません。
2013/04/30(Tue) 14:45 | URL | ドクター江部 | 【編集
黒田暁生論文の間違い(1)
(2013/04/29(Mon) 22:41 の書き込みで、文献Noを間違えたので、再入力しました)

同論文の間違い箇所は他にもあります。図の間違いを示します

図2 地中海食群と低炭水化物食群を入れ違えて転載した

図5 (誤) 低血糖高蛋白食群
  (正) 低糖質高蛋白食群
2013/05/01(Wed) 21:24 | URL | 精神科医師A | 【編集
黒田暁生論文の間違い(2)
P74
…摂取された蛋白質および脂質に頼らずにグルコースのみをエネルギー源としたときに、ヒトの脳でのグルコース消費量は1日で130g程度とされており[5]、その数値は1日糖質摂取量の最低基準となっている[16]

5) American Diabetes Association, Diabetes Care 2012; 35 Supp1: S1-63
http://care.diabetesjournals.org/content/36/Supplement_1/S11.full#sec-18

16) Institute of Medicine, Dietary Reference lntakes: Energy, Carbohydrate, Fiber, Fat, Fatty Acids, Cholesterol, Protein, and Amino Acids. National
Academies Press, 2002
http://www.nap.edu/openbook.php?record_id=10490&page=275

…5) の原文をよく読むと、ここから黒田氏は引用しています
It should be noted that the RDA for digestible carbohydrate is 130 g/day and is based on providing adequate glucose as the required fuel for the central nervous system without reliance on glucose production from ingested protein or fat.

130gとはRDA( Recommended Dietary Allowance=推奨量 )のことです。米国食事摂取基準では、健常者の98%の人達もの需要量を満たす量、という意味です。最低基準ではありません。また原文では次のようにも書かれている

Although brain fuel needs can be met on lower carbohydrate diets, long-term metabolic effects of very low-carbohydrate diets are unclear and such diets eliminate many foods that are important sources of energy, fiber, vitamins, and minerals and are important in dietary palatability
この値より炭水化物量が低い食事でも、脳の栄養必要量は維持されるが、極端な低炭水化物食の長期的な代謝効果は不明であり、このような食事法ではエネルギー、食物線維、ビタミン、ミネラルの重要な供給源となり、嗜好性にも大切な食物を除外してしまう。(ちなみに高雄病院のスーパー糖質制限食はエネルギー、食物線維、ビタミン、ミネラルの必要量を満たしている)

16) は、米国食事摂取基準の解説書ですが、同書275頁にはこのような記載があります

The lower limit of dietary carbohydrate compatible with life apparently is zero, provided that adequate amounts of protein and fat are consumed.

生命に必要な炭水化物の明確な摂食下限量は、適切な蛋白質と脂肪が摂取されていれば、ゼロである

 ちなみに日本の食事摂取基準では、ブドウ糖100g/day相当が必要とあるが、これは真に必要な最低量でなく、糖新生が行われるとある。日本では炭水化物の推奨量は設定されていない
2013/05/01(Wed) 21:26 | URL | 精神科医師A | 【編集
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