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『ヒトはなぜ太るのか? そして,どうすればいいか』 書評
おはようございます。

この度、株式会社メディカルトリビューン から

『ヒトはなぜ太るのか? そして,どうすればいいか』
ゲーリー・トーベス著 太田喜義訳 Medical Tribune
2013年4月28日発行 A5判上製288ページ 2,800円+税

が出版されます。

予約段階で、医学・薬学のベストセラーに入っているそうです。

私が書評を書いたのですが、2013年4月23日(火)のMT Pro の記事になっていました。
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1304/1304001.html

内容的にも長さ的にも結構読み応えがある本です。

本が苦手のひとには、ちょっとしんどいかもしれませんね。

あとは、医学書扱いなので、やや値段が高いです。

ともあれ、興味がある人は、是非どーぞ。


江部康二



肥満における「カロリー神話」を覆した力作

評:江部康二(高雄病院理事長)

肥満の元凶はインスリンによる脂肪蓄積,「脂肪を操るインスリンを,炭水化物が操る」


著者のゲーリー・トーベスは,雑誌『サイエンス』の他『ディスカバー』『アトランティック』『ニューヨークマガジン』などに記事を寄稿している科学ライターであり,カリフォルニア大学公衆衛生バークレー校で研究員も務めている。米国科学ライター協会,米国物理学会,パン・アメリカン健康機構などの賞を獲得していることが彼の実力を示している。本書は,その彼が10年以上かけて完成させた力作である。豊富な科学的根拠により,カロリーを過剰摂取するから太るという従来の「カロリー神話」を真っ向から覆すことに成功した。

まずは,本書のエッセンスを簡単に紹介してみよう。

肥満の元凶はインスリンによる脂肪蓄積であり,その血中濃度と総量が関係する。そしてインスリンを大量に分泌させるのは炭水化物のみである。ハーバード大学医学部元教授のジョージ・ケーヒルが著者に言う。

「脂肪を操るインスリンを,炭水化物が操る」と。

摂取するエネルギーと消費するエネルギーのバランスにより,体重の増減が決まるというのが従来信じられている「カロリー神話」であるが,これは消費するエネルギーを固定的に考えていることから来る誤解である。摂取するエネルギーと消費するエネルギーは相互に依存する。

2007年,ハーバード大学医学部長であるジェフリー・フライアーは論文を発表し,「動物の食餌量を減らすと消費エネルギーを減らすので,いったん体重が減少しても,食餌量を元に戻すと体重も元に戻る」と報告した。ヒトにおいても同様と考えられ,過去にカロリー制限食が減量に失敗し続けたのも当然である。

卵巣摘出ラットの動物実験も興味深い。このラットに好きなだけ餌を与えたら過食して瞬く間に肥満となった。次に,同様の手術後ラットに術前と同じだけの食餌量に制限したところ,驚くべきことに過食ラットと同様に肥満になった。

エストロゲンはリポタンパクリパーゼ(LPL)の作用を抑制する働きがある。エストロゲンがないと脂肪細胞(の周囲の毛細血管壁にある)LPLが活発になり血中の中性脂肪を遊離脂肪酸(とグリセロール)に分解して,遊離脂肪酸を脂肪細胞内に取り込み中性脂肪に合成して蓄え太っていく。閉経後や卵巣摘出後の女性が太りやすいのも,この理屈である。

インスリンは脂肪細胞(の周囲の毛細血管壁にある)LPLを活性化させるので,脂肪細胞内に中性脂肪を蓄える方向に働く。これに対してホルモン感受性リパーゼ(HSL)は脂肪細胞内にあって,中性脂肪を遊離脂肪酸(とグリセロール)に分解して血中に放出させる作用がある。

つまり,脂肪細胞のLPLは内部に中性脂肪を蓄えて太らせる働きがあり,HSLは逆に内部の中性脂肪を分解して痩せさせる働きがある。インスリンは脂肪細胞のLPLを活性化させ,HSLを抑制するので,インスリンが分泌されると太りやすい。さらにインスリンは,血糖を脂肪細胞内に取り込み,中性脂肪として蓄えてしまう。


「我が意を得たり」の読後感,糖質制限の意味を論理的かつ科学的に論証

47年間,両大腿にインスリン注射を打った1型糖尿病女性の写真が本書に載っており,局所にメロン大の脂肪の塊が見られる。インスリン療法によりしばしば太る。『ジョスリン糖尿病学』には「食物摂取とは無関係の,インスリンの脂肪組織への直接的な脂肪生成効果」と説明されている。健康を損なうことなく,痩せていたいのであれば,炭水化物を制限し,血糖値とインスリン濃度を低く保たねばならない,というのが本書の結論である。

読後は「我が意を得たり」というのが感想である。本書にはアトキンスダイエットも登場しており,米国肥満治療における主流派(カロリー制限派)に対して炭水化物(糖質)制限の持つ意味を論理的かつ科学的に論証している。ジョスリン糖尿病センターでは,肥満のある2型糖尿病患者には炭水化物の比率を40%に推奨しており,日本のように50~60%ということはない。米国の一般的な内科医や産婦人科医などもジョスリン式が結構多いと思える。

本書では,ライフスタイル医学クリニックデューク大学センターの「砂糖なし,澱粉なし食」が巻末の付録で紹介してあるが,最も効果的な減量には,炭水化物の総量を1日20g以下に保つことが必要であるとしている。私が実践している高雄病院のスーパー糖質制限食でさえ1日40~60g以下なので,かなり厳しい設定と言いえる。私自身でさえも1日2食なので,20~40g/日である。

ともあれ,インスリンが脂肪細胞のLPLを活性化させ,HSLを抑制し,余剰の血糖を脂肪細胞に取り込んで中性脂肪に合成して蓄える,すなわち「三重の肥満ホルモン」がインスリンといえる。そしてインスリンを大量に分泌させるのは炭水化物,脂質,蛋白質のうち炭水化物だけである。ケーヒルの「脂肪を操るインスリンを,炭水化物が操る」は,けだし慧眼である。

糖質制限食そして人間栄養学に興味がある人は一読の価値がある。ぜひご一読を。


テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
1日当たりの糖質量
私は朝夕の1日二食で、糖質摂取量は、つまみのnutsを除いて15gぐらいです。別に苦になりません
2013/04/24(Wed) 13:10 | URL | わんわん | 【編集
またまた勉強になりました
体重・・糖質制限食以前は気にしておりませんでした。
実施して減りだしてからは気になりましたが、今ではあまり気にならなくなりました。
体重は50㎏に位置しております。
49~51㎏の間ですが、反対に炭水化物なしで太りたいくらいです。
消費カロリー<摂取カロリーで徐々に体重が増加とおっしゃってましたが、糖質制限食を開始してからは、一定で落ち着いて変化なしです。
今では、私の身体はここがベストだと判断してるのだと思い、その身体で週に2回ほど軽い筋トレ、毎日の30分くらいの散歩などをして維持しております。

科学に絶対はないですが、こういった実証レポートがあるのですから、本当に人の健康をいうものを考えておられるのなら、国という大きな組織に属する科学者の皆様は、少しでも現状より良いものは実施するべきでだと思いますし、科学は、経験則だと思うのですが・・。
早く夜明けが来ることを祈ります。
2013/04/24(Wed) 14:52 | URL | クワトロ | 【編集
お世話になります。
先生のご回答で安心しました。
ありがとうございます。
2013/04/24(Wed) 22:21 | URL | ライオン | 【編集
糖質制限半年経ちました
江部先生のブログでいつも励まされています。
10月からのスーパー糖質制限で体重も16キロも減りました。
あまりの体型の変わりようにもしかしたら病気?と聞いてくる人。ご飯食べないの?絶対ムリ!と変人扱いする人。もうやめなさい体に悪いと忠告してくれる人。いろいろです。
いままでXLの洋服を探していたのに夢のMサイズです。カロリー制限で何度もリバウンドしていた事が
嘘のようです。先生本当にありがとうございました。
当初6.4あったHbA1ですが今回5.7でした。
1月末には4.9まで劇的に下がっていたので今回の結果はちょっとショックでした。
かかりつけの先生からも、少し気を引き締めてと、注意を受けました。本当に一日、一日の積み重ねが大事なんだと実感しました。
これからまた、糖質制限の毎日が続いていきます。もう一度先生のご本を読み返し、基本に戻ってがんばっていきたいとおもいます。
先生これからもよろしくお願いいたします
2013/04/24(Wed) 23:35 | URL | 駒子 | 【編集
お礼
愛知県でスーパー糖質制限を始めて9ヶ月、DM歴15年のたかひろと申します。
昨年9月からスーパー糖質制限を開始し、HbA1c(NGSP)が10.3%もありましたが、今月の診察では5.1%と正常な人と同じ数字になりました。
更に脂質関連も正常値になり、最初は糖質制限に否定的だった主治医も消極的ながら認めて貰ったのは大きな収穫です。
更に江部先生もご存じの、きよすクリニックが割と近くにあり、伊藤喜亮先生にもご指導をいただいています。
このブログを見ながら、身近な糖質制限をやられている医師とも出会うことが出来、嬉しく思います。

これからも無理をしないように楽しく糖質制限ライフを楽しみたいと思います。

実は、自分の誕生日が1973年1月8日で、確か江部医師と同じではないか…と過去の記事から思いました。
なんかとても親近感が…。

そしてこちらのコメントで見つけた愛知県でブログを開設されていたしげりんさんのブログが無くなってしまったので、どうしたものか…と、そして東海地方にも集まりが出来たら…と思っています。
2013/04/25(Thu) 01:21 | URL | たかひろ | 【編集
糖質制限15ヶ月経過
小児科のおかだです。
糖質制限を始めて15ヶ月目が経過し、最初の2ヶ月で8kg体重が減り、その後はあまり変動無くBMI24前後で落ち着いています。毎晩ワインやウイスキーを飲んでもγ-GTPは13、肉や卵をたっぷり食べてもL/H比は1.2 と絶好調です。
父が糖尿病で私自身肥満もあり、以前は糖尿病を発症する恐怖があったにもかかわらず、適切な予防法を知りませんでした。
数年前、医師会のメタボ講習会で、食後高血糖、食後高インスリン血症が良くないと知り、夕食後に犬の散歩に行く程度でした。
それが今では、肥満も解消し、2型糖尿病は絶対に発症しないと確信しています。
熱傷の湿潤療法でこどもたちが救われ、糖質制限で私自身が救われたと夏井先生、江部先生には足を向けて寝られないと思っております。
アトピー性皮膚炎のひどい子や肥満のお母さんに少しずつ、糖質過剰摂取の弊害を説明し良い結果を得ています。
糖尿病の方でご希望があれば糖質制限で診ていくのはやぶさかではありませんが、夏井先生のHPにある糖質制限で糖尿病を診ている医師には登録していません。
小児科単科医院と言うことと私自身がたばこの臭いに非常に敏感なためです。
そこで、滋賀県の湖西、湖北地域の方で糖尿病を糖質制限でコントロールしたい方はたばこをお吸いにならない方のみ、当方で診察させていただきます。 ホームページからメールでご連絡ください。
たばこ吸いの医者とデブの医者に健康を語る資格は無いと最近思っています。
2013/04/25(Thu) 08:58 | URL | おかだ | 【編集
糖尿人五ヶ月目、スーパー糖質制限実践4ヶ月半目のカナダ在住の水晶です。江部先生のブログは毎日拝読しています。

とうとうWhy We Get Fatの和訳版が出るのですね!なぜ日本語で読めないんだ〜!とずっと思っていました。江部先生の書評を載せていただいて嬉しいです。 やっと去年買った英語版は、所々飛ばしてまだチラチラ読みしただけです。でも日本での糖質制限食普及の追い風になること確実な内容です。「我が意を得たり」との江部先生のご感想は、すごく納得です。先生、強い味方の本が出版されて喜ばしいですね!

著者はクリアな英語を話されるので、Youtubeで彼の話を聞くのも面白いと思います。 ごく一般の人向けに書かれたこの本の前に、長くて難解という評もあるGood Calories, Bad Caloriesが出ています。こちらも日本語で読めたら良いのですが、人はなぜ太るのか?の和訳版ですらお高いので、無理みたいですね。

ベーグルを重ねた写真の表紙が目を引く、Wheat Bellyという本も出ているようです。こちらの著者は心臓医らしいです。職場近くにWheat Freeを宣伝文句にしたファーストフードの店も出来ました。健康を欲する人たちにとって、糖質の素顔を知る機会が増えるのは良いことですね!もちろん江部先生のブログが一番ですが!
2013/04/25(Thu) 13:06 | URL | 水晶 | 【編集
日本循環器学会2013
2013/04/25(Thu) 15:24 | URL | 精神科医師A | 【編集
Re: タイトルなし
水晶 さん。

応援ありがとうございます。

Wheat Belly・・・小麦腹?
ビール腹は日本でよく言いますが、小麦腹ですか。

デンプンが太るということでしょうね。


2013/04/25(Thu) 19:09 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 日本循環器学会2013
精神科医師A さん。

いつも貴重な情報をありがとうございます。
2013/04/25(Thu) 19:24 | URL | ドクター江部 | 【編集
英語版
先生の書評を読んで、早速ネットで買いました。
まずは原文をしっかりと読みたいと思っています。
2013/04/25(Thu) 19:56 | URL | 光良 | 【編集
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