清野裕先生の「低インスリンダイエットを科学する」への批判
おはようございます。

清野裕先生の「低インスリンダイエットを科学する」への批判を精神科医師Aさんにコメントしていただきました

精神科医師Aさん、ありがとうございます。

清野裕先生の「低インスリンダイエットを科学する」という総合臨床の論文は、2007年のものです。

清野論文で、精神科医師Aさんご指摘の批判コメント以外に、私が気がついたことを述べます。

「食事中の脂肪によっても、GIP(gastric inhibitory polypeptide)・GLP-l (glucagon like peptide-1)といったインクレチン作用を持つ物質により、膵臓のβ細胞からインスリンが分泌される機構が明らかにされており[2](図1)、炭水化物の制限のみではインスリン分泌はコントロールできないことは明らかであります。」

インクレチンは、糖質と脂質の摂取で分泌されます。

インクレチンの特徴は血糖値が高い時は、膵臓のβ細胞に働いて、インスリンを分泌させますが、血糖値が正常の時はインスリンを分泌させません。

それで低血糖を生じないのが大きな利点なのです。

すなわち、脂肪だけを食べるとインクレチンは分泌されますが、血糖が上昇しないので、分泌されたインクレチンはインスリンを分泌させないのです。

この点を清野論文は、誤解しておられます。

「『ケトン体』は脳でも心臓でも利用できる大切なエネルギー源」

2007年時点で、この生理学的事実をご存知だったとは、清野先生、さすがです。

NHKためしてガッテンにでてくる、「脳はブドウ糖しか利用できない」といった医師とはレベルが違います。

「高炭水化物食は、高脂肪食に比較してインスリン感受性は増大させる可能性はありますが、食後血糖の上昇や空腹時の中性脂肪の上昇、HDLコレステロールの減少をもたらすとされており[5]、こちらにも注意する必要があります。 」
>2007年時点で、高炭水化物食が、食後血糖の上昇や空腹時中性脂肪の上昇、HDLコレステロールの減少を生じるということをご存知だったのは、再びさすがです。

しかし、高炭水化物食の弊害をご存知なら、日本糖尿病学会推奨の糖尿病食(高糖質食)をずっと容認されているのは如何なものでしょう。

「フルーツや野菜の摂取量が少なくなり、ビタミンやミネラル、食物繊維の摂取量減少」アトキンスダイエットは、兎も角として、高雄病院のスーパー糖質制限食なら、葉野菜・茸・海藻はOKで食物繊維も豊富です。

「高脂肪食品は、 2型糖尿病患者では、食後の急激な高血糖は抑制できますが、エネルギー過剰によるインスリンの持続的な分泌が起こり」この記述は完全な誤解です。

脂肪摂取では、血糖値は全く上昇しません。

そして脂肪摂取は高エネルギーですが、インスリンの分泌も全く生じません。


江部康二

以下、青字は精神科医師Aさんのコメントです。

清野裕氏の糖質制限批判論文以下に示すのが唯一の文献で、原文のまま紹介する。

清野裕氏の糖質制限批判論文
総合臨床56(1)58-60, 2007年1月
『低インスリンダイエットを科学する』
幣 憲一郎 (京都大学医学部附属病院疾患栄養治療部室長)
清野 裕 (関西電力病院院長)

これまで、世界各国で民間療法としてさまざまなダイエット法が流行しました とくに、「低インスリン・ダイエット」については、話題性が高く日本でも大きな反響を呼びました。

これは、アメリカで人気の「アトキンス ダイエット」と呼ばれていたもので、従来の減量方法のように「摂取カロリーを減らして消費カロリーを増やす」というものではなく、日本でのキヤッチフレーズとしては「無理に食事量を制限せずに、好きなものは好きなだけ摂取でき、激しい運動をする必要もない!」と表現されていたことが話題になった理由の一つと言えるでしょう。

◇低インスリンダイエットとは?

低インスリンダイエットの原理は、その名前から想像できるように、インスリンの分泌を抑制し、(エネルギー源として体脂肪を分解)脂肪蓄積を抑制、減量を行うという考え方です。すなわち、低インスリンダイエットは、インスリン分泌を刺激する食事の炭水化物を標的とし、脂肪が効率的に分解できるようにするという考え方です。具体的には低炭水化物ダイエットとも言えるでしょう。

この低炭水化物ダイエットについては、低脂肪ダイエットよりも減量効果が大きく、除脂肪体重を維持し、脂質代謝を改善する(中性脂肪値は顕著に低下し、総コレステロール値も低下が認められる)などの効果が報告[1]され、欧米で流行したと考えられます。

◇インスリン分泌に関する問題点

一般的には、炭水化物がインスリン分泌に関与していることは理解しやすく、炭水化物の摂取を抑制すれば良いと安易に考えられます。しかし、インスリン分泌は炭水化物の摂取を控えただけでは調整できるものではありません。清野らの研究では、炭水化物による刺激により膵臓のβ細胞からインスリンが分泌される機構以外に、食事中の脂肪によっても、GIP(gastric inhibitory polypeptide)・GLP-l (glucagon like peptide-1)といったインクレチン作用を持つ物質により、膵臓のβ細胞からインスリンが分泌される機構が明らかにされており[2](図1)、炭水化物の制限のみではインスリン分泌はコントロールできないことは明らかであります。

さらに、インスリン分泌は、神経系も影響し、とくに迷走神経は食物の摂取により緊張し、GLP-1やインスリンを分泌させます。インスリンはエネルギー代謝などに関与する大変重要なホルモンであり、インスリン分泌が枯渇すると(1型糖尿病状態)、脂肪が分解され、肝臓で『ケトン体』というエネルギー物質が作られます。

この『ケトン体』は脳でも心臓でも利用できる大切なエネルギー源ですが、多過ぎると血液を酸性に傾けることになります。すなわち、低炭水化物、高脂肪、高たんぱく質の「低インスリンダイエット」は、栄養バランスをわざと崩して減量しようという、問題のあるダイエット法と言い換えることができます。

◇低インスリン・ダイエットのその他の問題点

炭水化物の1日の摂取量は、健常人においては第六次改定日本人の食事摂取基準[3]によると「総エネルギーの少なくとも55%以上であることが望ましい」とされています。また、糖尿病患者の場合ADAのNutrition Recommendations and Intervention for Diabetes-2006によると[4]、「1日130g以下の低炭水化物食は推奨できない」とエビデンスレベルで注意喚起されており、食事管理を行ううえでは必要量の炭水化物を摂取することが必須の条件となっています。

必要以上に供給量が低下した場合、生命維持活動にも大きな影響を与えることになり、最も気になるのがケトアシドーシス(酸血症)と高タンパク食の腎臓への影響です。高タンパク食については、腎臓病のある人は避けるべきであることは言うまでもありませんが、1型糖尿病の方々も腎臓障害へと進行しやすいとの報告もあり注意すべきであると考えます。

さらに、脂質の摂取割合が増えれば、中・長期的に肥満やインスリン抵抗性を招き、動脈硬化を促進するとの報告もあり、心筋梗塞など心血管系の病気の発生リスクも同様に高くなり、疾患を抱える患者には大きな治療上の問題が生じます。逆に高炭水化物食は、高脂肪食に比較してインスリン感受性は増大させる可能性はありますが、食後血糖の上昇や空腹時の中性脂肪の上昇、HDLコレステロールの減少をもたらすとされており[5]、こちらにも注意する必要があります。

その他、この低インスリンダイエットを始めると、どうしても穀類や芋類、フルーツや野菜の摂取量が少なくなり、ビタミンやミネラル、食物繊維の摂取量減少に関連して、便秘や皮膚症状など関連する問題点も危惧されています。

◇結 論

低インスリンダイエット(低炭水化物食)による減量効果を検証した臨床試験結果によると、従来型の低脂肪食よりも減量効果が得られやすく、脂質改善効果も示されていることから話題となっていましたが、あまり実施されなくなっているのが現状です。

また「低インスリンダイエット」の説明の中で、“ 摂取カロリーは気にせず!”といった文言があるようですが、このダイエット法は、従来の食事療法で一定の減量効果が期待できない、合併疾患のない単純肥満者を対象としたものと考えるべきであり、血糖管理が必要な糖尿病患者にはあてはまりません。

とくに、低インスリンダイエットで多用される高脂肪食品は、 2型糖尿病患者では、食後の急激な高血糖は抑制できますが、エネルギー過剰によるインスリンの持続的な分泌が起こり、余分となったエネルギーは脂肪細胞へと蓄積が促進され、肥満をさらに助長することになります。あくまでも糖尿病管理は総エネルギーの管理が基本となります。


最後に、低インスリンダイエットは、合併症に関する長期的な懸念も議論されており、これまでお示ししたエビデンスから判断すると、決して糖尿病患者が実践することのないように指導すべきと考えます。

文献
1) Volek JS, Westman EC: Very-low-carbohydrate weight-loss diets revisited. Cleve Clin J Med 69(11): 849, 853, 856-858, 2002.
2) 宮脇一真, 山田祐一郎, 清野 裕: GIPと肥満. 肥満研究 8:86-88, 2000.
3) 厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2005年版)、(日本人の栄養所要量―食事摂取基準―策定検討会報告書)、平成16年10月。厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室、東京、2005
4) ADA: Position Statements: Diabetes Care 29:2140, 2006
http://care.diabetesjournals.org/content/29/9/2140.full
5) Franz MJ, et al: Diabetes Care 17: 490-518, 1994.
6) Lichtenstein AH, et al: Atherosclerosis, 150:227‐243, 2000



以上が清野裕氏の論文であるが、これに対して反論していく

A) ADA見解について

確かに、2006年当時はADAは1日量130g未満の低炭水化物食を推奨していなかった。これは、当時の米国の食事摂取基準の炭水化物の推奨量が1日130gとなっていたからである。ところが本論文は「130g以下」と誤訳している。これは単なる誤訳でなく、栄養学理論を理解していないことになる。ただし実地臨床上は、130.0gでも129.9gでも同じだが…。

次に、2006年の原文をよく読んでみよう
http://care.diabetesjournals.org/content/29/9/2140.full

ENERGY BALANCE, OVERWEIGHT, AND OBESITY

Low-carbohydrate diets (restricting total carbohydrate to <130 g/day) are not recommended in the treatment of overweight/obesity. The long-term effects of these diets are unknown and although such diets produce short-term weight loss, maintenance of weight loss is similar to that from low-fat diets and impact on CVD risk profile is uncertain. (B)

 低炭水化物食(炭水化物を1日130g未満に制限)は、過体重/肥満の治療には推奨できない。長期的な影響が不確かで、短期間には体重が減少しても、体重維持には低脂肪食と変わらず、心血管疾患への危険因子が不明である(B)

The optimal macronutrient distribution of weight loss diets has not been established. Although low-fat diets have traditionally been promoted for weight loss, two randomized controlled trials found that subjects on low-carbohydrate diets (<30 g/day of carbohydrate) lost more weight at 6 months than subjects on low-fat diets (19,20). However, at 1 year, the difference in weight loss between the low-carbohydrate and low-fat diets was not significant and weight loss was modest with both diets. Changes in serum triglyceride and HDL cholesterol were more favorable with the low-carbohydrate diets. In one study, those subjects with type 2 diabetes demonstrated a greater decrease in A1C with a low-carbohydrate diet than with a low-fat diet (20).

減量食事法における最適な主要栄養素の割合は、確立していない。伝統的には低脂肪食が体重減少を推進してきたが、2篇の無作為対照研究では低炭水化物食(1日30g未満)が、6ヶ月の時点で低脂肪食より体重減少が顕著であった。しかるに1年の時点では、低炭水化物食と低脂肪食との間で体重減少の有意差はなく、体重減少は両食事法とも平均的であった。血漿TGとHDLの変化は、低炭水化物食でより良好であった。ある研究では、2型糖尿病において低炭水化物食は、低脂肪食よりすぐれたA1cの減少が得られた。

A recent meta analysis showed that at 6 months, low-carbohydrate diets were associated with greater improvements in triglyceride and HDL cholesterol concentrations than low-fat diets; however, LDL cholesterol was significantly higher on the low-carbohydrate diets (21). Further research is needed to determine the long-term efficacy and safety of low-carbohydrate diets (13).

 近年のメタ回析では、6か月の時点では、低炭水化物食は低脂肪食より、TGやHDLを著しく改善した。しかるにLDLは低炭水化物食で有意に高かった。低炭水化物食の長期的な有効性や安全性についてさらなる研究が必要である

NUTRITION RECOMMENDATIONS FOR THE MANAGEMENT OF DIABETES (SECONDARY PREVENTION)
Low-carbohydrate diets, restricting total carbohydrate to <130 g/day, are not recommended in the management of diabetes. (E)

 炭水化物を1日130g未満に制限する低炭水化物食は、糖尿病の治療には推奨できない(E)

Although there are no data specifically in patients with diabetes, diets restricting total carbohydrate to <130 g/day are not recommended in the management of diabetes.

特に糖尿病に限った研究データがないのであるが、炭水化物を1日130g未満に制限する低炭水化物食は、糖尿病の治療には推奨できない

Evidenceの解説
http://care.diabetesjournals.org/content/29/suppl_1/s4/T1.expansion.html

読めばわかるように、過体重/肥満の治療に関してはevidence-B で推奨していなかったが、糖尿病の治療にはevidence-Eの次元であった。低炭水化物食には6ヶ月間の有効性を認めて一定の評価を与えており、『注意喚起』しているわけでなく、「決して糖尿病患者が実践することのないように指導すべき」とは解釈できない。2007年のJAMA;297(9):969-977 のChristopher 論文" A to Z Study "により、ADAは2008年1月より低炭水化物食の1年間の有効性を推奨し、2011年よりは2年間の有効性にまで延長された。2年を超える長期間にわたる調査を行った研究論文の数は現時点では不十分である。

結論的には、短期間の安全性と有効性が積もり積もって、その後長期間の推奨へと進展していった
2013/02/20(Wed) 16:47 | URL |



B) 食事摂取基準(2005)について

さらに大きな間違いは、本文に「第六次改定日本人の食事摂取基準」などと記載し、引用文献欄には「日本人の食事摂取基準(2005年版)」と記載したことである。「第六次改定日本人の栄養所要量-食事摂取基準」は1999年6月28日に答申され、2000~2004年度適用であった。食事摂取基準(2005) は2004年11月22日に公表され、2005~2009年度に適用された。2007年当時、第六次改定はすでに前世紀の遺物となっており、食事摂取基準(2005)に沿って解説しないとおかしいはずである。食事摂取基準の内容すら理解できないようでは栄養科学生以下である。

従来からの“栄養所要量”という用語が欠乏の回避を中心とする考え方につながるということから、食事摂取基準(2005) では“所要量”という用語は用いなくなった。5大栄養素については、推定平均必要量・推奨量・目安量・目標量・上限量のうち一つ以上が設定された。

炭水化物の目標量は、50%以上70%未満と定められた。この決め方は、①必要なエネルギー量を決定、②必須アミノ酸、必須脂肪酸を摂取するため蛋白質と脂質を目標量だけ摂取、③残りのエネルギーを炭水化物で摂取すると目標量は、50%以上70%未満となった。

また脂質目標量(下限)の項目には、「低脂肪/高炭水化物食は食後血糖値および血中中性脂肪値を増加させ、血中HDL-コレステロール値を減少させる。健常人において、このような食事をしても、動脈硬化症、肥満、糖尿病が増加することを示す報告はないが、長期間にわたってこのような血中脂質プロフィールが続くと、冠動脈性心疾患のリスクを高くするのは確実である」との記載がある。

食事摂取基準(2005)のどこを読んでも「総エネルギーの少なくとも55%以上であることが望ましい」とは書かれていない。

文字色*   *

結論的には、この論文には相当な間違いがある。ちなみに筆頭著者の幣憲一郎氏は、2005年6月30日に尾池和雄京大総長(当時)の栄養指導を行っている。

http://homepage2.nifty.com/cat-fish/cr060430.html
尾池氏は、「総長カレー」の発案者だが、糖質制限のカレーをぜひ食べていただきたいものである
2013/02/20(Wed) 16:48 | URL | 精神科医師A |



テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
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