2013年01月11日 (金)
こんばんは。
maw さんから「糖質オフダイエット」の弊害というタイトルの記事に関して、コメント・質問をいただきました。
【13/01/11 maw
炭水化物摂取について
江部先生殿
糖尿病ではなく健康のため糖質オフを実施始めたばかりで今回の2冊の本で勉強中ですが、
笠井奈津子 [栄養士、食事カウンセラー] という方が
http://diamond.jp/category/s-foodlesson
の中で、 炭水化物を摂らない「糖質オフダイエット」の弊害 というタイトルで
最近よく言われる糖質オフダイエット。
ごはん、パン、麺などの炭水化物の摂り過ぎは、中性脂肪の原因となりやすいし、糖質オフにして、タンパク質をしっかり意識すれば痩せるスピードは速い。なにより、主食さえ気にすれば、他はある程度自由に食べて良い、という手軽さから、ビジネスマン、特にお酒好きな人には実践しやすい方法でもあるだろう。
ただ、注意しなくてはいけないのは、糖質を控えておかずを増やすと必然的に脂質の割合が多くなること。体重は落ちても、炭水化物を摂らないことによって食物繊維やビタミン、ミネラルが減り、コレステロール値が上がって生活習慣病予備軍の仲間入りをしかねない。仕事の効率を上げるためには、朝はきちんと炭水化物を摂る必要がある。
とありますが、先生のコメントをいただけたらと思い書き込みました。】
mawさん。
拙著の御購入ありがとうございます。
結論から言うと「糖質オフダイエット」の弊害というのは、ありません。
糖質制限食は、700万年間の狩猟採集時代に人類が食べていたものを食べるというのが基本的な考えです。
すなわち人類本来の食生活、人類の健康食です。
人類の身体は、700万年間の進化を経て糖質制限食に順応・適応したシステムをもっています。
その人体にとって、総摂取カロリーの60%を穀物(糖質)から摂取するというのはとんでもなくバランスが悪い食事ということです。
農耕が始まって穀物を食べ始めて、わずか1万年に過ぎません。
現代の糖質の頻回・過剰摂取と血糖値の上昇、インスリンの頻回・過剰の分泌が様々な生活習慣病の元凶と考えられます。
そもそも必須脂肪酸、必須アミノ酸は存在しますが、必須糖質は存在しません。
食事から、糖質を摂取しなくても肝臓で、アミノ酸、乳酸、グリセロールなどからブドウ糖を作ります。
脂質、タンパク質の摂取比率は、糖質を制限する分、相対的に増加しますがニューイングランドジャーナルの信頼度の高いコホート研究で冠動脈疾患のリスクが増加しないことが報告されています。
一方、同研究で、炭水化物摂取量が多いと冠動脈疾患のリスク増加が報告されています。
•1980年、米国の女性看護師82,802人に食事調査を行い、研究を開始 。
•質問票を使った食事調査を、1980年から1998年までのあいだに、2-6年間隔で6回実施。
•低炭水化物食「得点」が上位10%のグループの冠動脈疾患の発生率は下位10%のグループの0.94倍で有意差なし。2000年の時点で10グループを解析。炭水化物摂取比率36.8±6.1%グループと58.8±7.0%のグループの比較。
•即ち20年間の追跡で、脂肪と蛋白質が多く炭水化物が少ない食事をしているグループでも、心臓病のリスクは上昇しなかった。
• 一方総炭水化物摂取量は冠動脈疾患リスクの中等度増加に関連していた。 高GLは冠動脈疾患リスク増加と強く関連していた。
Halton TL, et al. Low-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women.
New England Journal of Medicine 2006;355:1991-2002.
そして、糖質制限食では、穀物や芋などデンプンを摂取しませんが、葉野菜、海藻、茸など食物繊維をたっぷり摂取します。
また、肉類、魚介類、卵、大豆製品など豊富な食品を摂取するので、ビタミン、ミネラルが不足することもありません。
コレステロール値を含め、現在まで動脈硬化のリスク要因とされている検査データは、全て基準値内となります。
以下は、スーパー糖質制限食を11年間実践している2型糖尿人の江部康二の検査データです。
総コレステロール値は、現在ガイドラインからはずれているので、無視できます。
総コレステロール値とケトン体以外は基準値です。
HDLコレステロールが多いのも問題ないです。
LDL-C/HDL-C=1.05 で好ましい数値です。
空腹時血糖値:104mg
HbA1c:5.6%(6.2未満、NGSP)
ケトン体:514μM/L(26~122) 糖質制限食中は生理的で正常値
アセト酢酸:117μM/L(13~69)
3ヒドロキシ酪酸:397μM/L(76以下)
尿酸:3.0mg/dl(3.4~7.0)
TC:256mg/dl(150~219)
TG:88mg/dl(50~149)
HDL-C:116mg/dl(40~98)
LDL-C:122mg/dl(140未満)
BUN:18.2mg/dl(8~20)
クレアチニン:0.59mg/dl(0.6~1.1)
IRI:4.0(3~15μU/ml)
γGTP:37IU/L(48以下)
GOT:23IU/L(9~38)
GPT:22IU/L(5~39)
アルブミン:4.6g/dl(3.8~5.3)
尿中アルブミン:12.6mg/g・c(30.0未満)
尿蛋白:陰性
尿糖:陰性
尿中アセトン体:陰性
江部康二
maw さんから「糖質オフダイエット」の弊害というタイトルの記事に関して、コメント・質問をいただきました。
【13/01/11 maw
炭水化物摂取について
江部先生殿
糖尿病ではなく健康のため糖質オフを実施始めたばかりで今回の2冊の本で勉強中ですが、
笠井奈津子 [栄養士、食事カウンセラー] という方が
http://diamond.jp/category/s-foodlesson
の中で、 炭水化物を摂らない「糖質オフダイエット」の弊害 というタイトルで
最近よく言われる糖質オフダイエット。
ごはん、パン、麺などの炭水化物の摂り過ぎは、中性脂肪の原因となりやすいし、糖質オフにして、タンパク質をしっかり意識すれば痩せるスピードは速い。なにより、主食さえ気にすれば、他はある程度自由に食べて良い、という手軽さから、ビジネスマン、特にお酒好きな人には実践しやすい方法でもあるだろう。
ただ、注意しなくてはいけないのは、糖質を控えておかずを増やすと必然的に脂質の割合が多くなること。体重は落ちても、炭水化物を摂らないことによって食物繊維やビタミン、ミネラルが減り、コレステロール値が上がって生活習慣病予備軍の仲間入りをしかねない。仕事の効率を上げるためには、朝はきちんと炭水化物を摂る必要がある。
とありますが、先生のコメントをいただけたらと思い書き込みました。】
mawさん。
拙著の御購入ありがとうございます。
結論から言うと「糖質オフダイエット」の弊害というのは、ありません。
糖質制限食は、700万年間の狩猟採集時代に人類が食べていたものを食べるというのが基本的な考えです。
すなわち人類本来の食生活、人類の健康食です。
人類の身体は、700万年間の進化を経て糖質制限食に順応・適応したシステムをもっています。
その人体にとって、総摂取カロリーの60%を穀物(糖質)から摂取するというのはとんでもなくバランスが悪い食事ということです。
農耕が始まって穀物を食べ始めて、わずか1万年に過ぎません。
現代の糖質の頻回・過剰摂取と血糖値の上昇、インスリンの頻回・過剰の分泌が様々な生活習慣病の元凶と考えられます。
そもそも必須脂肪酸、必須アミノ酸は存在しますが、必須糖質は存在しません。
食事から、糖質を摂取しなくても肝臓で、アミノ酸、乳酸、グリセロールなどからブドウ糖を作ります。
脂質、タンパク質の摂取比率は、糖質を制限する分、相対的に増加しますがニューイングランドジャーナルの信頼度の高いコホート研究で冠動脈疾患のリスクが増加しないことが報告されています。
一方、同研究で、炭水化物摂取量が多いと冠動脈疾患のリスク増加が報告されています。
•1980年、米国の女性看護師82,802人に食事調査を行い、研究を開始 。
•質問票を使った食事調査を、1980年から1998年までのあいだに、2-6年間隔で6回実施。
•低炭水化物食「得点」が上位10%のグループの冠動脈疾患の発生率は下位10%のグループの0.94倍で有意差なし。2000年の時点で10グループを解析。炭水化物摂取比率36.8±6.1%グループと58.8±7.0%のグループの比較。
•即ち20年間の追跡で、脂肪と蛋白質が多く炭水化物が少ない食事をしているグループでも、心臓病のリスクは上昇しなかった。
• 一方総炭水化物摂取量は冠動脈疾患リスクの中等度増加に関連していた。 高GLは冠動脈疾患リスク増加と強く関連していた。
Halton TL, et al. Low-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women.
New England Journal of Medicine 2006;355:1991-2002.
そして、糖質制限食では、穀物や芋などデンプンを摂取しませんが、葉野菜、海藻、茸など食物繊維をたっぷり摂取します。
また、肉類、魚介類、卵、大豆製品など豊富な食品を摂取するので、ビタミン、ミネラルが不足することもありません。
コレステロール値を含め、現在まで動脈硬化のリスク要因とされている検査データは、全て基準値内となります。
以下は、スーパー糖質制限食を11年間実践している2型糖尿人の江部康二の検査データです。
総コレステロール値は、現在ガイドラインからはずれているので、無視できます。
総コレステロール値とケトン体以外は基準値です。
HDLコレステロールが多いのも問題ないです。
LDL-C/HDL-C=1.05 で好ましい数値です。
空腹時血糖値:104mg
HbA1c:5.6%(6.2未満、NGSP)
ケトン体:514μM/L(26~122) 糖質制限食中は生理的で正常値
アセト酢酸:117μM/L(13~69)
3ヒドロキシ酪酸:397μM/L(76以下)
尿酸:3.0mg/dl(3.4~7.0)
TC:256mg/dl(150~219)
TG:88mg/dl(50~149)
HDL-C:116mg/dl(40~98)
LDL-C:122mg/dl(140未満)
BUN:18.2mg/dl(8~20)
クレアチニン:0.59mg/dl(0.6~1.1)
IRI:4.0(3~15μU/ml)
γGTP:37IU/L(48以下)
GOT:23IU/L(9~38)
GPT:22IU/L(5~39)
アルブミン:4.6g/dl(3.8~5.3)
尿中アルブミン:12.6mg/g・c(30.0未満)
尿蛋白:陰性
尿糖:陰性
尿中アセトン体:陰性
江部康二
江部先生殿
mawです。
下名の質問に対し早速のコメントを頂きまして恐縮です。
大変よくわかりました。糖質オフを安心して推進したいと思います。
先生の数値を見させていただいたので
下名の健康診断の数値を書き込んでみました。
年齢:63歳
身長:174cm
体重:74→72kg 11月から1月までに減少した数値です。
→朝 パンを全粒粉入りに。
夜 白米から雑穀米にして最後に食べ30回噛む
サラダには先生紹介のオリーブオイルに変更。
1万歩以上/日を維持の実施結果です。
◆昨年8月の健康診断数値
白血球:5930
赤血球:484
血色素量:14.6
ヘマトクリット:46.9
血小板:19.5
総コレステロール:238
HDLーC(善玉):43
中性脂肪:180
LDLーC(悪玉):151
動脈硬化危険 L/H:3.51
AST(GOT):22
ALT(GPT):18
γーGTP:28
尿酸:3.3
クレアチニン:0.87
血糖:98
PSA:3.07
以上ですが、何か悪い数値がありますでしょうか。
会社の健康診断では測定されない項目として何を追加検査すると
もっとよくわかるようになるでしょうか。
失礼を承知で厚かましく書き込みました。
コメントいただけたら幸いです。
mawです。
下名の質問に対し早速のコメントを頂きまして恐縮です。
大変よくわかりました。糖質オフを安心して推進したいと思います。
先生の数値を見させていただいたので
下名の健康診断の数値を書き込んでみました。
年齢:63歳
身長:174cm
体重:74→72kg 11月から1月までに減少した数値です。
→朝 パンを全粒粉入りに。
夜 白米から雑穀米にして最後に食べ30回噛む
サラダには先生紹介のオリーブオイルに変更。
1万歩以上/日を維持の実施結果です。
◆昨年8月の健康診断数値
白血球:5930
赤血球:484
血色素量:14.6
ヘマトクリット:46.9
血小板:19.5
総コレステロール:238
HDLーC(善玉):43
中性脂肪:180
LDLーC(悪玉):151
動脈硬化危険 L/H:3.51
AST(GOT):22
ALT(GPT):18
γーGTP:28
尿酸:3.3
クレアチニン:0.87
血糖:98
PSA:3.07
以上ですが、何か悪い数値がありますでしょうか。
会社の健康診断では測定されない項目として何を追加検査すると
もっとよくわかるようになるでしょうか。
失礼を承知で厚かましく書き込みました。
コメントいただけたら幸いです。
2013/01/11(Fri) 21:09 | URL | maw | 【編集】
maw さん
HDLーC(善玉):43
中性脂肪:180
スーパー糖質制限食なら、HDL-Cがもう少し増加して
中性脂肪が基準値になると思います。
HDLーC(善玉):43
中性脂肪:180
スーパー糖質制限食なら、HDL-Cがもう少し増加して
中性脂肪が基準値になると思います。
2013/01/11(Fri) 22:08 | URL | ドクター江部 | 【編集】
誕生日コメントをした まりあん です。
A1cが前回から急アップしたと書きましたが、再検査で誤計測と判明しました。
導入されたばかりの計測器と従来の計測器とで、誤差があった?ようです。
多少のアップはありましたが、納得の範囲です(JDSで11月5.1→1月5.3)。
中華圏へ旅行、年末年始の行事等、ずっとコントロールが良かったための油断、セイブル持ってるから…と、甘いところもあったのでしょう。
後の数値は全く問題ありません。
コレステロール値もHDL66 / LDL106と改善していました。
これを教訓に、スーパーな一年を過ごしたいと思います。
これからもよろしくお願いいたします。
A1cが前回から急アップしたと書きましたが、再検査で誤計測と判明しました。
導入されたばかりの計測器と従来の計測器とで、誤差があった?ようです。
多少のアップはありましたが、納得の範囲です(JDSで11月5.1→1月5.3)。
中華圏へ旅行、年末年始の行事等、ずっとコントロールが良かったための油断、セイブル持ってるから…と、甘いところもあったのでしょう。
後の数値は全く問題ありません。
コレステロール値もHDL66 / LDL106と改善していました。
これを教訓に、スーパーな一年を過ごしたいと思います。
これからもよろしくお願いいたします。
2013/01/11(Fri) 22:17 | URL | まりあん | 【編集】
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。さすらいのホテルサービスマン兼アマチュアパティシエの、DJニューエラと申します。僕自信三度の飯よりお菓子好きで、DMになってしまいましたが、祖母からお菓子づくりの英才教育を受けたので、今ではラカントを使って、チョコブラウニーやチーズケーキを作って、糖質制限菓子を極めております。幸いHbA1cも5・8~5・9(NGSP)で安定しているので、正直ほっとしています。
さて、僕の手作り料理を甥や姪が楽しんで食べてくれるので、感謝しているのですが、幼い子供のうちから糖質制限菓子を食べさせるのは心配ないでしょうか?
味覚が狂ってしまうような恐れもあるのですが?
さて、僕の手作り料理を甥や姪が楽しんで食べてくれるので、感謝しているのですが、幼い子供のうちから糖質制限菓子を食べさせるのは心配ないでしょうか?
味覚が狂ってしまうような恐れもあるのですが?
2013/01/11(Fri) 23:03 | URL | DJニューエラ | 【編集】
mawwです。
早速の返信ありがとうございます。
検査数値の2011年からの変化としましては、
2011年/2012年
体重:70.3Kg/74Kg
HDLーC(善玉):55/43
中性脂肪:105/180
と変化しています。
単純に食べすぎかと思い
まずプチ糖質制限食からと思っていましたが、スーパー糖質制限食に変更すべき値でしょうか。
早速の返信ありがとうございます。
検査数値の2011年からの変化としましては、
2011年/2012年
体重:70.3Kg/74Kg
HDLーC(善玉):55/43
中性脂肪:105/180
と変化しています。
単純に食べすぎかと思い
まずプチ糖質制限食からと思っていましたが、スーパー糖質制限食に変更すべき値でしょうか。
2013/01/11(Fri) 23:24 | URL | maw | 【編集】
以前、コメントさせていただきました。
久しぶりのご報告です。
先生の著書「食品別糖質量ハンドブック」
参考にさせていただいています。
今はどの食品が糖質が少ないか覚えています。
さて
私自身スーパー糖質制限を始めて8ヶ月目。
体重は18kg落ちて
身長160cmで50kgで安定しています。
体脂肪は21%。
HbA1cは 新 5.1 旧 4.7
こちらも数ヶ月、変わらず安定しています。
江部先生の本や糖質制限と出会い
大きく変わりました。
本当にありがとうございます。
さて
質問なのですが
今度発売される
糖質制限「主食もどき」の著書について
どのような内容を教えていただけますか?
どこかでご案内していたら
そのサイトやブログでも構いません。
よろしくお願い致します。
久しぶりのご報告です。
先生の著書「食品別糖質量ハンドブック」
参考にさせていただいています。
今はどの食品が糖質が少ないか覚えています。
さて
私自身スーパー糖質制限を始めて8ヶ月目。
体重は18kg落ちて
身長160cmで50kgで安定しています。
体脂肪は21%。
HbA1cは 新 5.1 旧 4.7
こちらも数ヶ月、変わらず安定しています。
江部先生の本や糖質制限と出会い
大きく変わりました。
本当にありがとうございます。
さて
質問なのですが
今度発売される
糖質制限「主食もどき」の著書について
どのような内容を教えていただけますか?
どこかでご案内していたら
そのサイトやブログでも構いません。
よろしくお願い致します。
2013/01/12(Sat) 08:35 | URL | ポリちゃん | 【編集】
まいまい さん
154cm 45kg BMI:18.97
まだ痩せ気味だと思います。
BMI20以上を目指すのがよいと思います。
BMI20以上25未満が推奨です。
154cm 45kg BMI:18.97
まだ痩せ気味だと思います。
BMI20以上を目指すのがよいと思います。
BMI20以上25未満が推奨です。
2013/01/12(Sat) 08:35 | URL | ドクター江部 | 【編集】
ごはんやパンを控える糖質制限ダイエット 極端な制限には注意も
【桜井林太郎】 ごはんやパンなどを控える「糖質制限ダイエット」が話題です。「お肉や魚はいくら食べてもOK」という文句はとても魅力的に聞こえますが、何に気をつけたらよいのでしょうか。
このダイエットは元々は糖尿病治療として始まった。1999年から採り入れている京都市の高雄病院内科医、江部(えべ)康二理事長も、当初は効果を信じていなかった。だが自身が糖尿病になり、始めると、みるみるうちに体重が減り、血糖値が改善。「従来の厳しいカロリー制限食に比べて楽で、効果も大きい」
減量の効果は、科学的にはほぼ実証されている。米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載された論文(2008年)では、約300人を、低脂肪食、糖質の少ない低炭水化物食、地中海食(オリーブオイルや魚介類、野菜、豆類が中心)を食べる3グループにわけ、2年間追跡したところ、低炭水化物食が最も効果が高かった=グラフ。血糖値の改善も効果が示され、米国や英国の糖尿病学会は治療の選択肢の一つとして認めた。
江部さんによると、糖質をとりすぎると、血糖値が急上昇するのを抑えようとインスリンが過剰分泌されるが、インスリンには体脂肪を合成する働きもある。糖質制限で血糖値を安定させ、糖尿病の悪化を防ぐとともに、インスリンによる体脂肪の合成も抑えられて減量にもつながる、という理屈だ。
だが、メカニズムや安全面で不明な点も多い。「長期間続けても大丈夫という科学的な証拠はない」「肉食中心だと、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中のリスクが高まる可能性がある」との指摘もあり、日本糖尿病学会ではどう扱うか慎重に議論をしている。
病気の治療でなく、減量のための糖質制限に問題はないのか。どの程度すればよいのか。
日本人の大人は1日250グラム程度の糖質をとっている。江部さんの病院では、1食10~20グラムしかとらない糖質制限もある。これは白米なら1日茶わん1杯分ほどとかなり厳しい。
北里研究所病院(東京都港区)の山田悟糖尿病センター長は、1日70~130グラムという比較的緩やかな糖質制限をすすめている。「極端な糖質制限は、食事の楽しみを減らし、生活の質を落としかねない」
対象は肥満やメタボの人ら。「やせている人の健康に効果があるという明白な証拠はない」と山田さん。腎臓に障害がある人や高齢者、子ども、妊婦らはすすめられない。治療中の人は医師と相談した方がいい。
ちなみに、糖質を制限すれば、たんぱく質や脂質をいくらとっても太らないというわけではない。大食いの人は一定のカロリー制限も必要だ。
ある糖尿病専門医は「試すならば、短期的な手法として考え、やせたらバランスよい食事に見直し、運動をしてほしい」という。
◆インフォメーション
糖質は、ごはんやパン、ケーキなどの菓子類だけでなく、様々な食品に含まれている。野菜でも、葉ものは少ないが、カボチャやイモ類には多い。お酒でも焼酎やウイスキーは少ない。江部さん監修の「食品別糖質量ハンドブック」(洋泉社、税別800円)には様々な食品の糖質、カロリー、塩分などの量が示されていて参考になる。
http://apital.asahi.com/article/hiketsu/2013010800004.html
【桜井林太郎】 ごはんやパンなどを控える「糖質制限ダイエット」が話題です。「お肉や魚はいくら食べてもOK」という文句はとても魅力的に聞こえますが、何に気をつけたらよいのでしょうか。
このダイエットは元々は糖尿病治療として始まった。1999年から採り入れている京都市の高雄病院内科医、江部(えべ)康二理事長も、当初は効果を信じていなかった。だが自身が糖尿病になり、始めると、みるみるうちに体重が減り、血糖値が改善。「従来の厳しいカロリー制限食に比べて楽で、効果も大きい」
減量の効果は、科学的にはほぼ実証されている。米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載された論文(2008年)では、約300人を、低脂肪食、糖質の少ない低炭水化物食、地中海食(オリーブオイルや魚介類、野菜、豆類が中心)を食べる3グループにわけ、2年間追跡したところ、低炭水化物食が最も効果が高かった=グラフ。血糖値の改善も効果が示され、米国や英国の糖尿病学会は治療の選択肢の一つとして認めた。
江部さんによると、糖質をとりすぎると、血糖値が急上昇するのを抑えようとインスリンが過剰分泌されるが、インスリンには体脂肪を合成する働きもある。糖質制限で血糖値を安定させ、糖尿病の悪化を防ぐとともに、インスリンによる体脂肪の合成も抑えられて減量にもつながる、という理屈だ。
だが、メカニズムや安全面で不明な点も多い。「長期間続けても大丈夫という科学的な証拠はない」「肉食中心だと、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中のリスクが高まる可能性がある」との指摘もあり、日本糖尿病学会ではどう扱うか慎重に議論をしている。
病気の治療でなく、減量のための糖質制限に問題はないのか。どの程度すればよいのか。
日本人の大人は1日250グラム程度の糖質をとっている。江部さんの病院では、1食10~20グラムしかとらない糖質制限もある。これは白米なら1日茶わん1杯分ほどとかなり厳しい。
北里研究所病院(東京都港区)の山田悟糖尿病センター長は、1日70~130グラムという比較的緩やかな糖質制限をすすめている。「極端な糖質制限は、食事の楽しみを減らし、生活の質を落としかねない」
対象は肥満やメタボの人ら。「やせている人の健康に効果があるという明白な証拠はない」と山田さん。腎臓に障害がある人や高齢者、子ども、妊婦らはすすめられない。治療中の人は医師と相談した方がいい。
ちなみに、糖質を制限すれば、たんぱく質や脂質をいくらとっても太らないというわけではない。大食いの人は一定のカロリー制限も必要だ。
ある糖尿病専門医は「試すならば、短期的な手法として考え、やせたらバランスよい食事に見直し、運動をしてほしい」という。
◆インフォメーション
糖質は、ごはんやパン、ケーキなどの菓子類だけでなく、様々な食品に含まれている。野菜でも、葉ものは少ないが、カボチャやイモ類には多い。お酒でも焼酎やウイスキーは少ない。江部さん監修の「食品別糖質量ハンドブック」(洋泉社、税別800円)には様々な食品の糖質、カロリー、塩分などの量が示されていて参考になる。
http://apital.asahi.com/article/hiketsu/2013010800004.html
2013/01/12(Sat) 08:41 | URL | ツーサン | 【編集】
1型糖尿病患者への影響を検討した米研究
北里研究所病院糖尿病センター 山田 悟
研究の背景:脂質摂取は食後の血糖上昇に影響しないと考えられてきた
1型糖尿病患者の血糖コントロールは,必要にして十分なだけの基礎インスリン投与および食事中の糖質量に応じた追加インスリン投与によって果たされるものと一般には考えられ(Pediatr Diabetes 2007; S6: 57-62),脂質摂取は食後の血糖上昇に大きな影響は及ぼさないとされてきた。
しかし,多くの1型糖尿病の専門家たちは,脂質(や蛋白質)の摂取によっても血糖上昇が見られることを経験し,糖質量によって追加インスリン量を計算するだけでは不十分である可能性を指摘していた(『1型糖尿病の治療マニュアル』南江堂)。このたび米国のジョスリン糖尿病センターのグループから,脂質摂取によって血糖上昇が生じうることをきれいに証明した論文がDiabetes Care 2012年11月27日オンライン版に報告されたのでご紹介したい。
研究のポイント1:2泊3日で2回のクローズドループ試験を実施
本研究では11人の1型糖尿病患者を入院させ,18時から翌日正午まで18時間クローズドループ〔持続血糖モニター(CGM)を行い,その値に応じたアルゴリズムでインスリンポンプのスピードを調整し,血糖を管理するシステム〕で血糖を管理し,その間に頻回に採血して実際の血糖値やインスリン濃度をチェックした。
入院は2泊3日で,上記のクローズドループの試験が2回実施された。朝食(Day2とDay3)と昼食(Day1とDay2)のメニューは固定化されており,夕食(Day1とDay2)については糖質および蛋白質の量は固定化されていたが,脂質量のみ異なる量(飽和脂肪酸が中心で10g vs. 60g)で設定されていた。本研究の目的は,夕食の脂質量の差異が血糖やインスリンに与える影響の相違を検討することにあった(図1)。
研究のポイント2:高脂質食の方が食後の血糖値が高い
11人のうち,4人ではインスリンポンプの作動が悪かったり,活動量がDay1とDay2で異なっていたりして解析には不適切であったため,計7人のデータで解析がなされた。7人の患者は平均年齢55歳,糖尿病平均罹病年数42年で,HbA1c 7.2±0.8%※,BMI 26.3±3.6,インスリン投与量0.50±0.14単位/日・kg体重という集団であった。
クローズドループでインスリンが自動的に調節されている間の夕食後の血糖値の変動を見てみると,高脂質食のときの方が,低脂質食のときよりも明確に高値になっており(図2上),一方,翌日の食事内容が固定化されている朝食後の血糖値の変動は両者に差異はなかった。
また,夕食後のインスリンの投与は高脂質食のときの方が(特に食後4時間前後で)多めであり(図2中),食後4時間から10時間くらいまでの血中インスリン濃度は高脂質食で高値であった(図2下)。
研究者(Wolpert)らは,こうした高脂質食による血糖上昇は,脂質摂取が遊離脂肪酸(FFA)を上昇させ,その結果,数時間のうちにインスリン抵抗性が悪化して血糖値が上昇するものと考察している。実際,1単位のインスリンが何gの糖質を処理できるのか,というグラム/インスリン比を夕食について求めると,低脂質のときには13±3g/単位であったのに対し,高脂質のときには9±2g/単位とインスリンの効果が悪くなっていたと報告している。ただし,このインスリン必要量の増大は,平均では42%増であったが,7人の患者での個体差が大きく,-17~108%という分布であった。
研究者らは,追加インスリン量の推定には糖質摂取量のみでは不十分であることははっきりしているが,高脂質食にしたときの摂取脂質量を加味した追加インスリン量の計算法については,個体差を考えずに一概に設定することは難しいとのことであった。
私の考察:1型糖尿病ではなぜ脂質摂取で血糖値が上昇するのか…栄養学はますます奥深い
これまで,食後血糖に影響を与える栄養素はほぼ糖質のみであると考えられてきた。しかし,今回のWolpertらの詳細な検討により,食後2時間あたりから脂質が血糖を上昇させることは間違いないものと証明されたように思う。
実際,同様の報告が他にも散見されており(Diabetes Care 1993; 16: 578-580,Diabetes Technol Ther 2012; 14: 16-22,Diabetes Technol Ther 2012年12月21日オンライン版),Pankowskaらは既に,糖質だけでなく蛋白質,脂質を加味して追加インスリン量を計算するソフトをオンライン上で販売している(J Diabetes Sci Tech 2010; 4: 571-576,Pediatr Diabetes2012; 13: 534-539)。
しかし,脂質による血糖上昇の機序が今回のWolpertらの言うようにFFAを介したインスリン抵抗性増大によるものだとすると,主たる脂質が今回の研究で用いられた飽和脂肪酸ではなく,インスリン抵抗性を改善するとされるω-3不飽和脂肪酸であったり(Cell Metab 2012; 15: 564-565),血糖管理を改善させるという単価不飽和脂肪酸であったり(Ann Nutr Metab 2011; 58: 290-296)した場合にはどうなるのであろうか。
脂肪酸の種類によってインスリン抵抗性が悪化したり改善したりするとすれば,脂質負荷で血糖が低下することもあるはずである。よって,私には今回の脂質負荷に伴う血糖上昇がインスリン抵抗性を介したもの(だけ)とは思えない。
数年前にRadulescuらは,健康者を対象にして50gの糖質(ポテト)に25gの脂質を加えて摂取させた場合,飽和脂肪酸(ラード)であれ,不飽和脂肪酸(オリーブ油,サフラワー油)であれ,食後の急峻な血糖上昇は抑制されると報告している(図3,J Am Coll Nutr 2009; 28: 286-295)。
この際,インスリン分泌はピークとしては抑制され,さらに,この間,脂質を負荷しても血中のFFAは全く増加しなかった。それどころか,インスリン分泌に呼応して糖質のみの摂取のときと同様にFFAは低下していた(図4,J Am Coll Nutr 2009; 28: 286-295)。
つまり,今回のWolpertらの「脂質を摂取すると血中FFAが増加して数時間のうちにインスリン抵抗性が悪化し,血糖が上昇する」という仮説は,少なくともβ細胞機能が正常な集団には当てはまらないことが分かる。また,脂肪酸の飽和度による血糖・インスリン反応の差異がないので,(少なくとも健常者における)脂質の血糖に対する影響はインスリン抵抗性を介していないように思える。
また一方で,脂質摂取によって消化管蠕動が抑制されることにより糖質による血糖上昇作用が鈍化するという考え方もあるが,これは(少なくとも1型糖尿病患者における)血糖上昇作用を説明できない。
ここで,浅学の身で恐縮ではあるが,1つの解釈をご提示したい。私はβ細胞上のG蛋白共役型受容体(GPR)40やGPR119などの脂肪酸受容体の存在とそれを介したインスリン分泌の影響を考えたい(図5,Diabetes Obes Metab 2009; 11 suppl 4: 10-20)。
脂肪酸受容体は膵β細胞や腸管K細胞,L細胞上に発現しており,脂肪酸をリガンドとしてインスリンやGIP,GLP-1の分泌を促す。その結果,β細胞が存在している健康者ではこれらの受容体を介した脂肪酸による(血糖依存性)インスリン分泌が十分に生じ,結果として血糖上昇は抑制される(Radulescuらのデータでインスリン分泌のピークが減少しているのは,インスリン分泌反応が早くて血糖上昇が抑制されるためだと推測する)。
一方,β細胞が消失している1型糖尿病患者では,脂肪酸による(血糖依存性)インスリン分泌促進が生じず,結果としてグリセロールからの糖新生を生じて,あるいは飽和脂肪酸においてはインスリン抵抗性が上昇して,血糖上昇が促進されてしまう(Wolpertらのデータ)のではなかろうか。すなわち,脂質そのものは基本的に血糖上昇作用をもっているが,それ以上にインスリン分泌促進に大きな作用があるという考え方である。
今後,2型糖尿病患者を対象に,今回のような検討を加えた場合の血糖・インスリン分泌反応の検討が待たれるところである。ますます栄養学の奥行きの深さを痛感するばかりの今回の論文であった。
※ NGSP値,以下同;JDS値では6.8±0.8%
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/doctoreye/dr130101.html
北里研究所病院糖尿病センター 山田 悟
研究の背景:脂質摂取は食後の血糖上昇に影響しないと考えられてきた
1型糖尿病患者の血糖コントロールは,必要にして十分なだけの基礎インスリン投与および食事中の糖質量に応じた追加インスリン投与によって果たされるものと一般には考えられ(Pediatr Diabetes 2007; S6: 57-62),脂質摂取は食後の血糖上昇に大きな影響は及ぼさないとされてきた。
しかし,多くの1型糖尿病の専門家たちは,脂質(や蛋白質)の摂取によっても血糖上昇が見られることを経験し,糖質量によって追加インスリン量を計算するだけでは不十分である可能性を指摘していた(『1型糖尿病の治療マニュアル』南江堂)。このたび米国のジョスリン糖尿病センターのグループから,脂質摂取によって血糖上昇が生じうることをきれいに証明した論文がDiabetes Care 2012年11月27日オンライン版に報告されたのでご紹介したい。
研究のポイント1:2泊3日で2回のクローズドループ試験を実施
本研究では11人の1型糖尿病患者を入院させ,18時から翌日正午まで18時間クローズドループ〔持続血糖モニター(CGM)を行い,その値に応じたアルゴリズムでインスリンポンプのスピードを調整し,血糖を管理するシステム〕で血糖を管理し,その間に頻回に採血して実際の血糖値やインスリン濃度をチェックした。
入院は2泊3日で,上記のクローズドループの試験が2回実施された。朝食(Day2とDay3)と昼食(Day1とDay2)のメニューは固定化されており,夕食(Day1とDay2)については糖質および蛋白質の量は固定化されていたが,脂質量のみ異なる量(飽和脂肪酸が中心で10g vs. 60g)で設定されていた。本研究の目的は,夕食の脂質量の差異が血糖やインスリンに与える影響の相違を検討することにあった(図1)。
研究のポイント2:高脂質食の方が食後の血糖値が高い
11人のうち,4人ではインスリンポンプの作動が悪かったり,活動量がDay1とDay2で異なっていたりして解析には不適切であったため,計7人のデータで解析がなされた。7人の患者は平均年齢55歳,糖尿病平均罹病年数42年で,HbA1c 7.2±0.8%※,BMI 26.3±3.6,インスリン投与量0.50±0.14単位/日・kg体重という集団であった。
クローズドループでインスリンが自動的に調節されている間の夕食後の血糖値の変動を見てみると,高脂質食のときの方が,低脂質食のときよりも明確に高値になっており(図2上),一方,翌日の食事内容が固定化されている朝食後の血糖値の変動は両者に差異はなかった。
また,夕食後のインスリンの投与は高脂質食のときの方が(特に食後4時間前後で)多めであり(図2中),食後4時間から10時間くらいまでの血中インスリン濃度は高脂質食で高値であった(図2下)。
研究者(Wolpert)らは,こうした高脂質食による血糖上昇は,脂質摂取が遊離脂肪酸(FFA)を上昇させ,その結果,数時間のうちにインスリン抵抗性が悪化して血糖値が上昇するものと考察している。実際,1単位のインスリンが何gの糖質を処理できるのか,というグラム/インスリン比を夕食について求めると,低脂質のときには13±3g/単位であったのに対し,高脂質のときには9±2g/単位とインスリンの効果が悪くなっていたと報告している。ただし,このインスリン必要量の増大は,平均では42%増であったが,7人の患者での個体差が大きく,-17~108%という分布であった。
研究者らは,追加インスリン量の推定には糖質摂取量のみでは不十分であることははっきりしているが,高脂質食にしたときの摂取脂質量を加味した追加インスリン量の計算法については,個体差を考えずに一概に設定することは難しいとのことであった。
私の考察:1型糖尿病ではなぜ脂質摂取で血糖値が上昇するのか…栄養学はますます奥深い
これまで,食後血糖に影響を与える栄養素はほぼ糖質のみであると考えられてきた。しかし,今回のWolpertらの詳細な検討により,食後2時間あたりから脂質が血糖を上昇させることは間違いないものと証明されたように思う。
実際,同様の報告が他にも散見されており(Diabetes Care 1993; 16: 578-580,Diabetes Technol Ther 2012; 14: 16-22,Diabetes Technol Ther 2012年12月21日オンライン版),Pankowskaらは既に,糖質だけでなく蛋白質,脂質を加味して追加インスリン量を計算するソフトをオンライン上で販売している(J Diabetes Sci Tech 2010; 4: 571-576,Pediatr Diabetes2012; 13: 534-539)。
しかし,脂質による血糖上昇の機序が今回のWolpertらの言うようにFFAを介したインスリン抵抗性増大によるものだとすると,主たる脂質が今回の研究で用いられた飽和脂肪酸ではなく,インスリン抵抗性を改善するとされるω-3不飽和脂肪酸であったり(Cell Metab 2012; 15: 564-565),血糖管理を改善させるという単価不飽和脂肪酸であったり(Ann Nutr Metab 2011; 58: 290-296)した場合にはどうなるのであろうか。
脂肪酸の種類によってインスリン抵抗性が悪化したり改善したりするとすれば,脂質負荷で血糖が低下することもあるはずである。よって,私には今回の脂質負荷に伴う血糖上昇がインスリン抵抗性を介したもの(だけ)とは思えない。
数年前にRadulescuらは,健康者を対象にして50gの糖質(ポテト)に25gの脂質を加えて摂取させた場合,飽和脂肪酸(ラード)であれ,不飽和脂肪酸(オリーブ油,サフラワー油)であれ,食後の急峻な血糖上昇は抑制されると報告している(図3,J Am Coll Nutr 2009; 28: 286-295)。
この際,インスリン分泌はピークとしては抑制され,さらに,この間,脂質を負荷しても血中のFFAは全く増加しなかった。それどころか,インスリン分泌に呼応して糖質のみの摂取のときと同様にFFAは低下していた(図4,J Am Coll Nutr 2009; 28: 286-295)。
つまり,今回のWolpertらの「脂質を摂取すると血中FFAが増加して数時間のうちにインスリン抵抗性が悪化し,血糖が上昇する」という仮説は,少なくともβ細胞機能が正常な集団には当てはまらないことが分かる。また,脂肪酸の飽和度による血糖・インスリン反応の差異がないので,(少なくとも健常者における)脂質の血糖に対する影響はインスリン抵抗性を介していないように思える。
また一方で,脂質摂取によって消化管蠕動が抑制されることにより糖質による血糖上昇作用が鈍化するという考え方もあるが,これは(少なくとも1型糖尿病患者における)血糖上昇作用を説明できない。
ここで,浅学の身で恐縮ではあるが,1つの解釈をご提示したい。私はβ細胞上のG蛋白共役型受容体(GPR)40やGPR119などの脂肪酸受容体の存在とそれを介したインスリン分泌の影響を考えたい(図5,Diabetes Obes Metab 2009; 11 suppl 4: 10-20)。
脂肪酸受容体は膵β細胞や腸管K細胞,L細胞上に発現しており,脂肪酸をリガンドとしてインスリンやGIP,GLP-1の分泌を促す。その結果,β細胞が存在している健康者ではこれらの受容体を介した脂肪酸による(血糖依存性)インスリン分泌が十分に生じ,結果として血糖上昇は抑制される(Radulescuらのデータでインスリン分泌のピークが減少しているのは,インスリン分泌反応が早くて血糖上昇が抑制されるためだと推測する)。
一方,β細胞が消失している1型糖尿病患者では,脂肪酸による(血糖依存性)インスリン分泌促進が生じず,結果としてグリセロールからの糖新生を生じて,あるいは飽和脂肪酸においてはインスリン抵抗性が上昇して,血糖上昇が促進されてしまう(Wolpertらのデータ)のではなかろうか。すなわち,脂質そのものは基本的に血糖上昇作用をもっているが,それ以上にインスリン分泌促進に大きな作用があるという考え方である。
今後,2型糖尿病患者を対象に,今回のような検討を加えた場合の血糖・インスリン分泌反応の検討が待たれるところである。ますます栄養学の奥行きの深さを痛感するばかりの今回の論文であった。
※ NGSP値,以下同;JDS値では6.8±0.8%
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/doctoreye/dr130101.html
2013/01/12(Sat) 08:46 | URL | ツーサン | 【編集】
2013/01/12(Sat) 08:53 | URL | ツーサン | 【編集】
江部先生
いつもブログ読者に丁寧に回答されている姿勢に頭が下がる思いです。
カンブリア宮殿というテレビ番組でカザフスタンを取材している番組で、オオカミの次に肉を食べる民族のようです。年間消費量は27キロで日本人の平均の3倍だそうです。
イスラム系が多いので、豚肉以外は羊、牛、馬など食肉市場は圧倒される量が並んでいました。78歳の老人は主食は肉だというのに少しも太っていませんでした。
中年の婦人も東欧諸国のように太っている人が少ないのも目につきました。
この国の平均寿命や死因のランキングなど調べると面白いでしょうね。
どこかに発表論文などあれば興味深いですね。
いつもブログ読者に丁寧に回答されている姿勢に頭が下がる思いです。
カンブリア宮殿というテレビ番組でカザフスタンを取材している番組で、オオカミの次に肉を食べる民族のようです。年間消費量は27キロで日本人の平均の3倍だそうです。
イスラム系が多いので、豚肉以外は羊、牛、馬など食肉市場は圧倒される量が並んでいました。78歳の老人は主食は肉だというのに少しも太っていませんでした。
中年の婦人も東欧諸国のように太っている人が少ないのも目につきました。
この国の平均寿命や死因のランキングなど調べると面白いでしょうね。
どこかに発表論文などあれば興味深いですね。
2013/01/12(Sat) 13:32 | URL | mmx | 【編集】
2013/01/12(Sat) 17:59 | URL | ドクター江部 | 【編集】
ツーサン さん。
情報をありがとうございます。
情報をありがとうございます。
2013/01/12(Sat) 18:01 | URL | ドクター江部 | 【編集】
mmx さん
興味深い情報をありがとうございます。
興味深い情報をありがとうございます。
2013/01/12(Sat) 18:09 | URL | ドクター江部 | 【編集】
江部先生こんにちは ブログ勉強になります。
質問があるのですが、この糖質制限食は、肥満の糖尿病の方なら、HbA1c の数値が正常値に
なりやすいものでしょうか?
効果が出やすいものでしょうか?
私の父は2型糖尿で、胃を半分切除しており、肥満でもなく、3年前から夜だけ炭水化物を食べない生活です。
食後は、運動しています。
現在A1cは、6.1ですが 5.9くらいになりたいらしく、やはりスーパー糖質制限食でないと
なかなか難しいのでしょうか・・・?
お忙しい中、質問申し訳ないですが宜しくお願い致します。
質問があるのですが、この糖質制限食は、肥満の糖尿病の方なら、HbA1c の数値が正常値に
なりやすいものでしょうか?
効果が出やすいものでしょうか?
私の父は2型糖尿で、胃を半分切除しており、肥満でもなく、3年前から夜だけ炭水化物を食べない生活です。
食後は、運動しています。
現在A1cは、6.1ですが 5.9くらいになりたいらしく、やはりスーパー糖質制限食でないと
なかなか難しいのでしょうか・・・?
お忙しい中、質問申し訳ないですが宜しくお願い致します。
2013/01/13(Sun) 11:31 | URL | mukuge | 【編集】
京都国際会館での第16回日本病態栄養学会年次学術総会に参加してまいりましたが,今回は糖尿病性腎症がメインテーマとのことで,糖質制限をテーマとしたものは,山田先生の1件のみでした(Meet the ExpertⅡ-1).先生は糖質=100g/日程度の糖質制限で血糖値変動を少なくすべきと,例によって多数のスライドで説明されました.その後に続いた東大糖尿病・代謝内科の植木先生(Meet the ExpertⅡ-2)は,中立的な意見でしたが,興味を引いたのは,講演の折々で,
『脳はケトン体も利用できる』
『脂肪摂取率 25%未満でなければならないということに科学的根拠はない』
『蛋白質摂取量も体重基準で推奨しているが,これも科学的根拠はない』
『カロリー制限食に糖尿病患者の寿命を延長させるというエビデンスはない』
などを,サラリと述べておられました.
しかし,興ざめだったのは,これらの講演の最後に,座長指名により清野先生が,
『三大栄養素はすべて人間に必須のもの. インスリンを出さないことがいいことだという極端な議論ではなく,インスリンを分泌させて,血糖を筋肉や組織に取り込ませるのが正しい姿』と締めくくり.これは昨年座長がDebateと全く関係ない発言で締めくくったので、今回は座長が言いたいことを代弁するようおおせつかったのでしょうか.
なお,驚いたのは,糖質制限どころか,カーボカウントにすら真っ向から反対という講演がありました.(Meet the ExpertⅢ-1).またその理由というのが,【とてもわかりやすくできている】食品交換表にカーボカウントを持ち込むと計算が煩雑になるから反対だ,というので二重に驚いて思わず椅子から転げ落ちそうになりました. 賛否両論を出すという運営の設定上,否定論の役割を押し付けられたのでしょうが,これはあんまりですね.これでは食品交換表のために患者があるのであって,患者のために食品交換表あるのではない,ということになってしまいます.案の定,講演の後に出たのは,『食品交換表は使えない』『せいぜい表1,2くらいを参照する程度』と,否定的意見でした.
合同パネルディスカッションでは,糖尿病の食事療法がとりあげられていましたが,杏林大学の石田先生は相変わらずの『糖質制限では動脈硬化・腎症が悪化し,のみならず癌・総死亡率も上昇する』とのネガティブキャンペーンです. ところがその根拠とするものは,やっぱりラットの動物実験と,例のBMJ論文だけでした.この2つのみを延々と多数のスライドで紹介して『糖質を摂らないと,心疾患で死ぬ』と断定していました. 最後に『食品交換表が理想的』とやっぱりねの結論.なお看過できないのは、糖尿病患者を侮辱するような発言もあったことです. 次回食品交換表改訂で,一部カーボカウントの考えを取り入れる予定と述べた後で,『まあ,糖尿病の方,1,000万人いますからね.1%でも1万人ですからね,結構変な人もおられます.まあ,そういう人にはこういうオプション(=カーボカウントにようる糖質管理)で』ときました.こんな人が日本糖尿病学会の食事療法の中心にいていいものでしょうか?ところがその後に続いた,臨床最前線の方々の講演は,血糖値コントロールを良くするために,いかにカーボカウントを取り入れるか,という実にまっとうなお話ばかりだったので,なおさら石田先生のスタンスの奇怪さが目立ちました.
皮肉なことに,今回の学会で一糖尿病患者にとって,もっとも参考になったのは,ランチョンセミナーでした.
1日目の『糖尿病の診療・療養指導における血糖自己測定の活用とピットフォール(落とし穴);LS-1-7』と,2日目の『CGMから見た糖尿病治療の最適化;LS-2-10』により,スポットデータに過ぎない空腹時血糖値と,平均血糖値指標であるHbA1cだけでは,食後高血糖などの急峻な日内血糖値変動,及び夜間の低血糖を見過ごしてしまい,病態が全く異なるのに,同じ治療・投薬が行われてしまう危険性をあきらかにしていました.
『脳はケトン体も利用できる』
『脂肪摂取率 25%未満でなければならないということに科学的根拠はない』
『蛋白質摂取量も体重基準で推奨しているが,これも科学的根拠はない』
『カロリー制限食に糖尿病患者の寿命を延長させるというエビデンスはない』
などを,サラリと述べておられました.
しかし,興ざめだったのは,これらの講演の最後に,座長指名により清野先生が,
『三大栄養素はすべて人間に必須のもの. インスリンを出さないことがいいことだという極端な議論ではなく,インスリンを分泌させて,血糖を筋肉や組織に取り込ませるのが正しい姿』と締めくくり.これは昨年座長がDebateと全く関係ない発言で締めくくったので、今回は座長が言いたいことを代弁するようおおせつかったのでしょうか.
なお,驚いたのは,糖質制限どころか,カーボカウントにすら真っ向から反対という講演がありました.(Meet the ExpertⅢ-1).またその理由というのが,【とてもわかりやすくできている】食品交換表にカーボカウントを持ち込むと計算が煩雑になるから反対だ,というので二重に驚いて思わず椅子から転げ落ちそうになりました. 賛否両論を出すという運営の設定上,否定論の役割を押し付けられたのでしょうが,これはあんまりですね.これでは食品交換表のために患者があるのであって,患者のために食品交換表あるのではない,ということになってしまいます.案の定,講演の後に出たのは,『食品交換表は使えない』『せいぜい表1,2くらいを参照する程度』と,否定的意見でした.
合同パネルディスカッションでは,糖尿病の食事療法がとりあげられていましたが,杏林大学の石田先生は相変わらずの『糖質制限では動脈硬化・腎症が悪化し,のみならず癌・総死亡率も上昇する』とのネガティブキャンペーンです. ところがその根拠とするものは,やっぱりラットの動物実験と,例のBMJ論文だけでした.この2つのみを延々と多数のスライドで紹介して『糖質を摂らないと,心疾患で死ぬ』と断定していました. 最後に『食品交換表が理想的』とやっぱりねの結論.なお看過できないのは、糖尿病患者を侮辱するような発言もあったことです. 次回食品交換表改訂で,一部カーボカウントの考えを取り入れる予定と述べた後で,『まあ,糖尿病の方,1,000万人いますからね.1%でも1万人ですからね,結構変な人もおられます.まあ,そういう人にはこういうオプション(=カーボカウントにようる糖質管理)で』ときました.こんな人が日本糖尿病学会の食事療法の中心にいていいものでしょうか?ところがその後に続いた,臨床最前線の方々の講演は,血糖値コントロールを良くするために,いかにカーボカウントを取り入れるか,という実にまっとうなお話ばかりだったので,なおさら石田先生のスタンスの奇怪さが目立ちました.
皮肉なことに,今回の学会で一糖尿病患者にとって,もっとも参考になったのは,ランチョンセミナーでした.
1日目の『糖尿病の診療・療養指導における血糖自己測定の活用とピットフォール(落とし穴);LS-1-7』と,2日目の『CGMから見た糖尿病治療の最適化;LS-2-10』により,スポットデータに過ぎない空腹時血糖値と,平均血糖値指標であるHbA1cだけでは,食後高血糖などの急峻な日内血糖値変動,及び夜間の低血糖を見過ごしてしまい,病態が全く異なるのに,同じ治療・投薬が行われてしまう危険性をあきらかにしていました.
2013/01/13(Sun) 17:39 | URL | しらねのぞるば | 【編集】
mukuge さん
肥満でもやせでも、胃切後でも
糖質制限食は糖尿病に有効です。
6.1%でもコントロール優秀ですね。
5.9%を目指すなら、スーパー糖質制限食です。
肥満でもやせでも、胃切後でも
糖質制限食は糖尿病に有効です。
6.1%でもコントロール優秀ですね。
5.9%を目指すなら、スーパー糖質制限食です。
2013/01/14(Mon) 13:33 | URL | ドクター江部 | 【編集】
江部先生、こんにちは。
お忙しい中、ご回答ありがとうございました。
父に話して見ます。
ありがとうございました。
お忙しい中、ご回答ありがとうございました。
父に話して見ます。
ありがとうございました。
2013/01/15(Tue) 15:14 | URL | mukuge | 【編集】
私も健康とダイエットの為に緩やかな糖質制限を
始めて半年経ちました。先日、糖質制限開始後初めての血液検査をし、結果を聞いてきました。
結果は、始める前と今、LDLが164のままでした。体重は半年で11キロ落ちました。
主治医の先生は、LDLが高いのが問題だと言います。糖質制限をしていて、上がるのは大丈夫だと江部先生はおっしゃいますが、やはり高いと気になるのも事実です。
他の数字は、中性脂肪が激減し、66から42になりました。HDLも71から89になり、動脈硬化指数は1.8下がりました。
糖質制限は続けていきたいと思いますが、LDLを下げるには、やはり乳製品を控え、もっと運動をするべきなのでしょうか・・
運動は。。週1、90分のテニスと、家で筋トレを主にしています。正直、ウオーキングは苦手です。アドバイスお願いいたします。
始めて半年経ちました。先日、糖質制限開始後初めての血液検査をし、結果を聞いてきました。
結果は、始める前と今、LDLが164のままでした。体重は半年で11キロ落ちました。
主治医の先生は、LDLが高いのが問題だと言います。糖質制限をしていて、上がるのは大丈夫だと江部先生はおっしゃいますが、やはり高いと気になるのも事実です。
他の数字は、中性脂肪が激減し、66から42になりました。HDLも71から89になり、動脈硬化指数は1.8下がりました。
糖質制限は続けていきたいと思いますが、LDLを下げるには、やはり乳製品を控え、もっと運動をするべきなのでしょうか・・
運動は。。週1、90分のテニスと、家で筋トレを主にしています。正直、ウオーキングは苦手です。アドバイスお願いいたします。
2013/01/17(Thu) 18:27 | URL | ちゃぶりん | 【編集】
ちゃぶりん さん
HDLが増えていて、動脈硬化指数が下がっているので問題ないと思います。
LDLもそのうち基準値になると思います。
HDLが増えていて、動脈硬化指数が下がっているので問題ないと思います。
LDLもそのうち基準値になると思います。
2013/01/17(Thu) 18:46 | URL | ドクター江部 | 【編集】
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