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山田悟医師のケトーシスに対する懸念への私の見解
こんばんは。

山田悟医師のケトーシスに対する懸念への私の見解を述べます。


アトキンスダイエットとケトアシドーシスについて

「Dr. Atkins Diet Revolution」が出版されたのは1970年代初頭です。

今が2012年です。

約40年にわたり世界中で、アトキンスダイエット(スーパー糖質制限食)が行われてきました。

アトキンスダイエットを実践した人は、世界中で数十万人以上、或いは100万人以上はいるでしょう。

アトキンスダイエット(スーパー糖質制限食)で生じるケトン体上昇は、インンスリン作用がある限り生理的なもので正常です。

この間、アトキンスダイエットでケトアシドーシスを生じたという論文は

2006年1月に、ニューイングランドジャーナルに1例報告
2006年7月に、ランセットに1例報告

40年間で、この2つだけです。

40年間で、わずか2例で、しかも2006年だけです。

極めてまれな事象です。

上述のランセットの論文には

「アトキンスダイエットで健康な成人に生命の危険のあるケトアシドーシスを生じたという論文報告は今までない。」

という記載があります。

ランセットの論文は、アトキンスダイエットで生理的ケトーシスがあった人(40才白人女性・肥満)が、たまたま胃腸疾患で嘔吐を数日繰り返して食事摂取もできず脱水となり、脱水のためにアシドーシスが生じたと考えられ、短期間で回復しています。

ニューイングランドジャーナルの論文は、同じ人(51才白人女性・肥満)が4回もケトアシドーシスを起こしており、何らかの代謝異常が背景にある可能性があります。

すなわち、ケトン体を上手く利用できない、極めてまれな特殊な体質であった可能性があります。

まれではありますが、ケトン代謝に異常がある人があり、この場合はアトキンスダイエット(スーパー糖質制限食)の適応となりません。

例えば、私が最近ブログに記載している「長鎖脂肪酸代謝異常症」というまれな病気の人は、糖質制限食の適応となりません。

長鎖脂肪酸代謝異常症の人が糖質制限食を実践すれば、本当に病的ケトアシドーシスを生じる可能性があります。

このように、アトキンスダイエット(スーパー糖質制限食)実践中のケトアシドーシスの報告は、全世界で2例です。

しかも、私見ではありますが、脱水によるアシドーシスの例と、そもそもアトキンスダイエットの適応ではない特殊体質による可能性が高い例です。

これに対して、ペットボトル症候群(清涼飲料水ケトーシス)による糖尿病ケトアシドーシスは、年余にわたり多発しています。

今でも日本中でペットボトル症候群で救急車で運ばれる人は後を絶ちません。

ペットボトル症候群は、決してまれな病気ではなく、日常診療で遭遇する病気です。

日本だけでも少なくとも過去、数千人以上は報告されていて、中には死亡例もあります。

ペットボトル症候群の元凶は、ほとんどにおいて液体の糖質であり、タンパク質・脂質は無関係です。

清涼飲料水の大量摂取により、膵臓のβ細胞が疲弊してインスリンを分泌できなくなり、インスリン作用が欠落して、その結果、糖尿病ケトアシドーシスになります。

すなわち糖質摂取以外では決して起こりえない重症な病態がペットボトル症候群であり、インスリン作用の欠落が必用条件で、血中ケトン体高値はあくまでも結果に過ぎません。

言い換えると、インスリン作用の欠乏がない限り、「糖尿病ケトアシドーシス」は絶対に起こりません。

ペットボトル症候群において、インスリン作用の欠乏の原因は、「清涼飲料水」すなわち「液体の糖質」以外の何者でもありません。

高糖質食と糖質制限食とどちらが危険なのかは、火を見るよりも明らかです。


(☆)
Ketoacidosis during a Low-Carbohydrate Diet.
N Engl J Med  2006; 354:97-98 January 5

(☆☆)
A life-threatening complication of Atkins diet
Lancet July 2006;367:958



江部康二



山田悟医師の
ケトーシスを来すレベルの極端な糖質制限食に対する4つの懸念事項 抜粋


ご自身が1日30gの糖質摂取を推奨され,40年以上実践されているBernstein先生が,そのレベルまで糖質を制限すべきだと主張される気持ちは理解できる。しかし,私自身は,その言葉に強い説得力を感じることはなかった。その理由は4点ある。

まず第一に,この概念が提唱された後で,極端な糖質制限食の代表格であるアトキンスダイエット(1日20~40g以下の炭水化物摂取に制限)によりケトアシドーシスが発症した症例が複数報告されていることである(Lancet 2006; 368: 23-24,N Engl J Med 2006; 354: 97-98)。こうした症例が存在する以上,極端な糖質制限食により生じるのは生理的ケトーシスであって,病的ケトアシドーシスではないという概念には普遍性がない。

第二に,Bernstein氏も共著者になっているAccurso氏の論文(糖質制限食の有効性とその理論的背景を述べた総説論文)においても,ケトン産生に対して議論があるとしてケトーシスから距離を置いていることである(Nutr Metab 2008; 5: 9)。インタビューの中でそのことをBernstein氏に指摘すると,この論文はFeinman氏(米ニューヨーク州立大学)の意見が強く反映されたものであるとの弁であった。これはBernstein氏のケトーシスに関する意見が彼の仲間の中においても十分な説得力を持たないことの表れと感じる。




テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
山田先生は、見解を変えたのでしょうか?
『糖質制限食のススメ』(本年5月刊)の中で、山田先生は、以下のように書いています。
P151 「今のところ、ケトン体がどの程度まで増えてもいいのか、よくわかっていないのが現実です。これまで報告されているケトアシドーシスは何十万例に一つという割合ですし、報告されたケースではなぜケトアシドーシスが起こったのかはっきりしていません。
 私個人としては糖質制限食によってケトン体が増えることをさほど気にする必要はないと考えるものの、もっとこの問題がはっきりするまではケトン体増加は避けておいたほうが無難だろうと現時点では思っています」

 だいぶニュアンスが違いますね。

「こうした症例が存在する以上,極端な糖質制限食により生じるのは生理的ケトーシスであって,病的ケトアシドーシスではないという概念には普遍性がない」
「ケトン体産生を伴う極端な糖質制限を広く勧めることは難しいと確信した数時間であった」

山田先生は、バーンスタイン先生ともっと議論を深めるべきではありませんか。日本とアメリカ離れていても、インターネットなどで話ができるはずです。B先生の話に疑問点があったのだけれど、実は私はこう思っているというのは、このことで影響を受ける患者のことを考えるなら安易に言うべきではありません。
 山田先生には今後の活躍を期待しているだけに、中途半端なコメントは避けていただきたい。
糖質制限食療法を安全に行うには、課題がいくつかあると思います。例えば、腎機能の低下がみられる人にはどの程度の糖質制限が可能で、たんぱく質の摂取を抑えるかなど・・。
 江部先生は、ご自身の見解を以前からはっきり出されています。臨床の積み重ねの上で、冷静で科学的な結論が出されるよう、当事者の2型患者として願っています。
2012/12/20(Thu) 20:33 | URL | わんわんこと長谷川 | 【編集
先生お久しぶりです。シュガーライフです。
現在第2子妊娠中で7ヶ月になりますが血糖値
の管理に困っています。

現在測定器にて血糖値の管理をしています。

今日夕食後に血糖値を計ったところ199と言う見た事もない数値が出ました。
糖質を食べてもいきなりこんなに高くなる事はありません。
※因みにたんぱく質を沢山食べた後にどうしても
ご飯やパンがどうしても食べたくて一膳食べてます。食べて直後に測りました。

びっくりして慌てて測りなおしたら96・101・126と誤差程度の数値になりま
したが同じ測定器でこんなに誤差が出るものでしょうか??
4回とも指先での測定ですが指は違います。

先月のA1cは4.9でした。

先生の昔の記事も読みましたが測定器の誤差は20%
程度あるそうですが同じ測定器でもこれほど誤差が出るものでしょうか?
因みに1回目と2回目以降の血糖値はどちらが
正常だったんでしょうか?
担当医師に聞いても良くわかりませんでした。

私インスリン導入になっちゃうのかなぁ・・・・。と不安です。。。
2012/12/21(Fri) 06:45 | URL | シュガーライフ | 【編集
豆腐しらたき
ここカリフォルニアでブレークしています。ハウス食品が広めたらしいです。夏の冷麺、冬のにゅう麺をここ数年諦めていましたが、しっかり出汁をとれば充分満足できます。
主婦ではないので、日本でも販売されてるのでしょうか。
2012/12/21(Fri) 13:25 | URL | mmx233 | 【編集
ADAガイドライン
2013年版が、現地時間12/20に公表されました

http://care.diabetesjournals.org/content/36/Supplement_1/S11.full#sec-18
2012/12/21(Fri) 14:38 | URL | 精神科医師A | 【編集
Re: 山田先生は、見解を変えたのでしょうか?
わんわんこと長谷川 さん。

そうですね。

山田悟先生、『糖質制限食のススメ』と今回では
血中ケトン体高値に対するニュアンスが大分違います。

バーンスタイン先生とのインタビュー連載も、
今回のような番外編では、
バーンスタイン先生側の反論の余地がなく、アンフェアと言われてもしかたないです。
私も、
大事なところなので、山田先生、バーンスタイン医師としっかり討論してほしいと思います。
2012/12/21(Fri) 16:03 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: タイトルなし
シュガーライフ さん。

「先月のA1cは4.9」

食後血糖値:199mgで、HbA1c4.9%はあり得ませんので

「測りなおしたら96・101・126」
こちらが正しいと思います。
心配いりません。

199mg・・・たまたま、その指先に果物の汁とか、ついていたのかもしれませんね。
2012/12/21(Fri) 16:08 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 豆腐しらたき
mmx233 さん

ハウス食品の豆腐しらたき、日本では売ってないように思います。

記文の豆腐そうめんなどはあります。
2012/12/21(Fri) 16:19 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: ADAガイドライン
精神科医師A さん

情報をありがとうございます。
見てみます。
2012/12/21(Fri) 16:21 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: お伺いしたいことがあります
匿名希望の いずみ さん 

BMI:14.7 なら、プチでいいと思います。

もともと摂取エネルギー不足があり、体重が痩せすぎです。
充分量のカロリーを摂取しましょう。
魚、肉、揚げ物、ナッツ、チーズ・・・オリーブオイル・・・
しっかり摂取してカロリーを確保しましょう。
2012/12/22(Sat) 17:15 | URL | ドクター江部 | 【編集
油断禁物
お世話になっています。久しぶりの投稿です。
10ヶ月ぶりに健診に。
結果は嘘つかないですねぇ。健診1ヶ月前に遠方から遊びにきた友と
出雲蕎麦やぜんざいの食べ歩きに行って、
やはりのHbA1c5,5 血糖値102でした。
スーパー制限食で心が燃えていた頃は5,4血糖値90でしたのに。
境界型だからと油断したのがいけませんでした。
これからクリスマスにお正月とつい自分に甘くなる時期ですが、時々は楽しみながらも
帳尻が合う食べ方をするつもりです。
しかし、健診2ヶ月前からスーパー糖質制限をすれば全くの正常値になるんだ、ということも認識してしまいました。私、ずるいですねぇ。
今回のコレステロール値はHDL84 LDL158と
スーパーを始めた時のLDL183より随分
値が良くなりました。
思えば昨年、境界型だと医師に言われ、カロリー制限を教えられましたが、私は黙って江部先生のスーパー糖質制限を即実施。2ヶ月後の健診では血糖値は
90まで下がり、今度はLDLが高くなったため、
今度はコレステロールを下げる薬を処方されて、、、
とまるで、モグラたたきみたいな感じでした。
自分の体は自分で上手くコントロールしないといけませんね。
私も血糖測定器を買おうかしら?
でも痛そうだし。と考慮中です。
江部先生、皆様 良いクリスマスを!
良いお正月をお迎え下さいませ。
2012/12/22(Sat) 17:26 | URL | みどり | 【編集
ノロウィルスに感染中
先生のブログ、糖尿病の教育入院(先月11月20日入院)を経てから、見させてもらっています。
入院するまえの会社の健康診断では、HbA1cが11近くあり、入院することになりました。
入院時空腹で血糖値190。12日間の病院生活でインシュリンを使い、早朝空腹時107までさがり、退院。

退院後はメトグルコを朝晩食事後に2錠飲む生活で、糖質制限食を自分なりに工夫してご飯の代わりにおかずや野菜でおなかを満たしていたら、3週間ほどで、80kg>>76kgと4kg近くやせました。炭水化物メインの食事をやめただけで、こんなにも楽にやせられるとは思いませんでした。^o^
現在は、HbA1c8.0でメトグルコを朝晩1錠に下げてもらいました。
早朝空腹時は、血糖値100~110ぐらいです。

ただ、4日ほど前に、朝の血糖値が173になり、ええーー!?とおどろきました。
おかしくなった晩から下痢がひどくなり食あたりか、風邪かなと思って、これが教育入院中に教わったシックデイなのかなと考えながら、出勤。
でも、あまりにも下痢がひどかったので会社を早退後、病院で検査をしたら、ノロウィルスにかかっていました。(病院で検査してもらった結果:陽性)。

初日は嘔吐と下痢、その後は、ずっと下痢がつづき、4日目の今日、ようやく下痢がおさまりました。来週明けには、仕事に復帰できそうです。

この間、脱水だけは気をつけようと心がけました。(病院では、スポーツ飲料を勧められましたが、糖尿病と伝えると、塩分のあるおすましを飲みなさいと指導されました。)
こういう状況で脱水になると、病的ケトアシドーシスになってしまうのか、心配でした。

先生の本「糖尿病がどんどんよくなる糖質制限食」P206の風邪をひいた病気のときの糖質制限食の項目をタイミングよく読んでいたので、あわてずに湯豆腐なんかを少しづつ食べながら、しのいできました。
現在は、朝の空腹時の血糖値113まで、落ちてきました。食欲も回復w

病気のときは、ほんとに血糖値って、変な数字になるんですね。びっくりしました。
2012/12/22(Sat) 18:54 | URL | Y.Ma | 【編集
Re: 油断禁物
みどり さん

私が使っている、血糖自己測定器は、ニプロフリースタイルフリーダムライトです

測定まで4秒で、必要な血液量は微量(1mm径くらいで一番少ない)
採血部位も手のひらの外側のふくらんでいるところでOKでほとんど痛くないです。
指先でも測定できますが、指先はやはり痛いですね。
2012/12/23(Sun) 18:05 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: ノロウィルスに感染中
Y.Ma さん

シックデイからの脱出、良かったです。
拙著がお役に立てて嬉しいです。
2012/12/23(Sun) 18:07 | URL | ドクター江部 | 【編集
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