2012年12月18日 (火)
おはようございます。
石田均先生とBradley論文について、精神科医師Aさんから詳しいコメントをいただきました。
ありがとうございます。
Bradley論文は英国砂糖局(SUGAR BUREAU U.K.)がスポンサーの一つである例の歪曲論文です。
本部ブログでも何度か取り上げました。
2012年になっても、相変わらず、RCT研究論文は、2009年のBradley歪曲論文しか引用できないのはお気の毒としか言いようがありませんね。
2012年01月22日 (日)の本ブログ記事
「糖質制限食批判の根拠として引用されているDiabetesの論文について」
もご参照いただけば幸いです。
4) 月刊糖尿病4(1)111-120, 2012年1月
「全身の動脈の硬化度が、低炭水化物食においてむしろ悪化する」
5) 臨床栄養121(6)696-701 ,2012年11月
「全身の動脈の硬化度が低炭水化物食で相対的に悪化する」
精神科医師Aさんがご指摘の如く、石田先生、「むしろ悪化する」から「相対的に悪化する」にトーンダウンしてますね。
Bradley論文を読み直されたのでしょうか?
Bradley論文の本文には、「低炭水化物食で非有意な増加」すなわち統計的に有意差なしと明記してあるので、いずれにせよ「悪化する」とは言えません。
このように本文では、「低炭水化物食で有意差なし」にも関わらず、冒頭の「結論」では「悪化を意味するかもしれない」と歪曲記載してあります。
Bradley論文の結論の「悪化を意味するかもしれない」を石田先生はさらに誤解釈して「悪化する」と断定されているのは、さすがに如何なものでしょう。
江部康二
『12/12/17 精神科医師A
石田均DrとBradley論文
臨床栄養121(6)696-701, 2012年11月号
「食品交換表改定への動きとカーボカウント」
石田均 杏林大学医学部第三内科
*日本人のための正しいカーボカウント
一方でもっとも注意すべき問題点として、日本人の糖尿病症例の日常生活のなかで、実際にカーボカウントの考え方を食事療法のなかに活用するとしても、現状ではいまだに炭水化物の摂取下限に関するコンセンサスが得られていないことがあげられる。したがって、この方法の一種の悪用によって極端な糖質制限に走ることのないように留意すべきと考えられる。実際に近年のFooらの動物実験での成績[3]から、極端な糖質制限食(炭水化物12%、たんぱく質45%、脂質43%)を長期に摂取すると、“いわゆる西洋食”(炭水化物43%、たんぱく質15%、脂質42%)―― ここで興味深いのは、脂質の含量については両者間に差がない点である――と比較して、炭水化物が12%の極端な糖質制限食では、ある意味で予想通り血糖値がむしろ低下を示し、見かけ上は“いわゆる西洋食”に比し血糖コントロールは改善するものの、一方で大動脈での動脈硬化をさらに促進することが明らかにされている(図2)。そしてそのメカニズムとして、血管修復に関与する血管内皮前駆細胞の骨髄からの動員が有意に減少することが考えられている。また、最近のBradleyらの肥満2型糖尿病症例を対象としたRCT[4]においても、低脂肪食(炭水化物60%、脂質20%)と低炭水化物食(炭水化物20%、脂質60%)を比較すると、予想に反して全身の動脈の硬化度が低炭水化物食で相対的に悪化するとの成績が示されている さらに低炭水化物食で動物性のたんぱく質、脂質を中心に摂取した場合、糖尿病の発症[5]や総死亡、心血管イベントを増加させたとの報告もなされている[6]。一方で、同様の低炭水化物食でも植物性のたんぱく質、脂質の場合には、糖尿病の発症[5]や総死亡、心血管イベントの明らかな増加は認めなかつた[6]ことから、単に食事のなかで炭水化物が占める割合だけではなく、そのたんぱく質や脂質の質にも常に留意が必要であると思われる。
3) Foo SY, Heller ER, Wykrzykowska J, et al. Vascular effects of a low‐carbohydrate high‐protein diet. Proc Natl Acad Sci USA 2009; 106: 15418‐23
4) Bradley U, Spence M, Courtney H, et a.l Low-fat versus low‐carbohydrate weight reduclon diets-effcts on weight loss, insulin resistance, and cardiovascular risk: a randomized control trial. Diabetes 2009; 58: 2741-8
5) de Koning L, Fung TT, Liao X, et al. Low‐carbohydrate diet scores and risk of type 2 diabetes in men. Am J Clin Nutr 2011; 93: 844-50
6) Fung TT, van Dam RM, Hankinson SE et al. Low-carbohydrate diets and all‐cause and cause-specific mortality. Ann Intern Med 2010; 153: 289‐98
【解説】
石田Drはあいかわらずの低炭水化物食批判を書いている。動物実験の結果は人間にはそのままあてはまらない。2012年2月頃、トマトが糖尿病ラットのメタボを改善すると話題になったが、それも人間にはそのままあてはまらない
Bradley(2009)の論文の英文抄録を読めばわかるように、「低炭水化物食ではAIが非有意な上昇、低脂肪食ではAIが有意に低下」というだけである。ちなみに久保明Drは2012年の日本病態栄養学会のスライドでは「低炭水化物食ではAIが上昇傾向、低脂肪食ではAIが有意に低下」としている。最近の石田氏の業績目録を示す
1) 学会誌「糖尿病」54(4)257-259, 2011年4月
「(極度の低炭水化物食で)全身の動脈の硬化度がむしろ悪化しているとの成績が示されており…」
2) からだの科学269号41-44, 2011春
また、ごく最近のBradleyらの肥満2型糖尿病症例を対象としたRCTにおいても、低脂肪食(炭水化物60%、脂質20%)と低炭水化物食(炭水化物20%、脂質60%)を比較すると、予想に反して全身の動脈の硬化度が低炭水化物食においてむしろ悪化するとの成績が示されています。
3) PRACTICE 28(5)485-491, 2011年9-10月
「全身の動脈の硬化度が低炭水化物食においてむしろ悪化する」
4) 月刊糖尿病4(1)111-120, 2012年1月
「全身の動脈の硬化度が、低炭水化物食においてむしろ悪化する」
5) 臨床栄養121(6)696-701
「全身の動脈の硬化度が低炭水化物食で相対的に悪化する」
あれっと思いませんか? 当初は“むしろ悪化する”と言いまくっていましたが、臨床栄養の2012年11月号では“相対的に悪化する”に変わっている。このblogや、山田悟Drの「糖質制限食のススメ」で批判されたために、表現を変えたようです
そこで改めてBradleyの論文を読んでみました
diabetes.diabetesjournals.org/content/58/12/2741.full
低脂肪群(LF)と低炭水化物群の群間検定(ANOBA)で有意差がでたのは、TG (p=0.01)とAortic Augmentation Index (AI) (p=0.04)の2項目だけである。これだけでは「全身の動脈の硬化度が低炭水化物食で相対的に悪化」とは結論づけられない
全身の動脈硬化の評価法としては、下記のHPを参照されたい。
www.jhf.or.jp/mediaWS/8th/index01.html
つまり、形態的異常については頸動脈エコー検査が、機能的異常については脈波伝播速度(PWV)がもっとも一般的である。脈波増大係数(AI)は主流ではない』
石田均先生とBradley論文について、精神科医師Aさんから詳しいコメントをいただきました。
ありがとうございます。
Bradley論文は英国砂糖局(SUGAR BUREAU U.K.)がスポンサーの一つである例の歪曲論文です。
本部ブログでも何度か取り上げました。
2012年になっても、相変わらず、RCT研究論文は、2009年のBradley歪曲論文しか引用できないのはお気の毒としか言いようがありませんね。
2012年01月22日 (日)の本ブログ記事
「糖質制限食批判の根拠として引用されているDiabetesの論文について」
もご参照いただけば幸いです。
4) 月刊糖尿病4(1)111-120, 2012年1月
「全身の動脈の硬化度が、低炭水化物食においてむしろ悪化する」
5) 臨床栄養121(6)696-701 ,2012年11月
「全身の動脈の硬化度が低炭水化物食で相対的に悪化する」
精神科医師Aさんがご指摘の如く、石田先生、「むしろ悪化する」から「相対的に悪化する」にトーンダウンしてますね。
Bradley論文を読み直されたのでしょうか?
Bradley論文の本文には、「低炭水化物食で非有意な増加」すなわち統計的に有意差なしと明記してあるので、いずれにせよ「悪化する」とは言えません。
このように本文では、「低炭水化物食で有意差なし」にも関わらず、冒頭の「結論」では「悪化を意味するかもしれない」と歪曲記載してあります。
Bradley論文の結論の「悪化を意味するかもしれない」を石田先生はさらに誤解釈して「悪化する」と断定されているのは、さすがに如何なものでしょう。
江部康二
『12/12/17 精神科医師A
石田均DrとBradley論文
臨床栄養121(6)696-701, 2012年11月号
「食品交換表改定への動きとカーボカウント」
石田均 杏林大学医学部第三内科
*日本人のための正しいカーボカウント
一方でもっとも注意すべき問題点として、日本人の糖尿病症例の日常生活のなかで、実際にカーボカウントの考え方を食事療法のなかに活用するとしても、現状ではいまだに炭水化物の摂取下限に関するコンセンサスが得られていないことがあげられる。したがって、この方法の一種の悪用によって極端な糖質制限に走ることのないように留意すべきと考えられる。実際に近年のFooらの動物実験での成績[3]から、極端な糖質制限食(炭水化物12%、たんぱく質45%、脂質43%)を長期に摂取すると、“いわゆる西洋食”(炭水化物43%、たんぱく質15%、脂質42%)―― ここで興味深いのは、脂質の含量については両者間に差がない点である――と比較して、炭水化物が12%の極端な糖質制限食では、ある意味で予想通り血糖値がむしろ低下を示し、見かけ上は“いわゆる西洋食”に比し血糖コントロールは改善するものの、一方で大動脈での動脈硬化をさらに促進することが明らかにされている(図2)。そしてそのメカニズムとして、血管修復に関与する血管内皮前駆細胞の骨髄からの動員が有意に減少することが考えられている。また、最近のBradleyらの肥満2型糖尿病症例を対象としたRCT[4]においても、低脂肪食(炭水化物60%、脂質20%)と低炭水化物食(炭水化物20%、脂質60%)を比較すると、予想に反して全身の動脈の硬化度が低炭水化物食で相対的に悪化するとの成績が示されている さらに低炭水化物食で動物性のたんぱく質、脂質を中心に摂取した場合、糖尿病の発症[5]や総死亡、心血管イベントを増加させたとの報告もなされている[6]。一方で、同様の低炭水化物食でも植物性のたんぱく質、脂質の場合には、糖尿病の発症[5]や総死亡、心血管イベントの明らかな増加は認めなかつた[6]ことから、単に食事のなかで炭水化物が占める割合だけではなく、そのたんぱく質や脂質の質にも常に留意が必要であると思われる。
3) Foo SY, Heller ER, Wykrzykowska J, et al. Vascular effects of a low‐carbohydrate high‐protein diet. Proc Natl Acad Sci USA 2009; 106: 15418‐23
4) Bradley U, Spence M, Courtney H, et a.l Low-fat versus low‐carbohydrate weight reduclon diets-effcts on weight loss, insulin resistance, and cardiovascular risk: a randomized control trial. Diabetes 2009; 58: 2741-8
5) de Koning L, Fung TT, Liao X, et al. Low‐carbohydrate diet scores and risk of type 2 diabetes in men. Am J Clin Nutr 2011; 93: 844-50
6) Fung TT, van Dam RM, Hankinson SE et al. Low-carbohydrate diets and all‐cause and cause-specific mortality. Ann Intern Med 2010; 153: 289‐98
【解説】
石田Drはあいかわらずの低炭水化物食批判を書いている。動物実験の結果は人間にはそのままあてはまらない。2012年2月頃、トマトが糖尿病ラットのメタボを改善すると話題になったが、それも人間にはそのままあてはまらない
Bradley(2009)の論文の英文抄録を読めばわかるように、「低炭水化物食ではAIが非有意な上昇、低脂肪食ではAIが有意に低下」というだけである。ちなみに久保明Drは2012年の日本病態栄養学会のスライドでは「低炭水化物食ではAIが上昇傾向、低脂肪食ではAIが有意に低下」としている。最近の石田氏の業績目録を示す
1) 学会誌「糖尿病」54(4)257-259, 2011年4月
「(極度の低炭水化物食で)全身の動脈の硬化度がむしろ悪化しているとの成績が示されており…」
2) からだの科学269号41-44, 2011春
また、ごく最近のBradleyらの肥満2型糖尿病症例を対象としたRCTにおいても、低脂肪食(炭水化物60%、脂質20%)と低炭水化物食(炭水化物20%、脂質60%)を比較すると、予想に反して全身の動脈の硬化度が低炭水化物食においてむしろ悪化するとの成績が示されています。
3) PRACTICE 28(5)485-491, 2011年9-10月
「全身の動脈の硬化度が低炭水化物食においてむしろ悪化する」
4) 月刊糖尿病4(1)111-120, 2012年1月
「全身の動脈の硬化度が、低炭水化物食においてむしろ悪化する」
5) 臨床栄養121(6)696-701
「全身の動脈の硬化度が低炭水化物食で相対的に悪化する」
あれっと思いませんか? 当初は“むしろ悪化する”と言いまくっていましたが、臨床栄養の2012年11月号では“相対的に悪化する”に変わっている。このblogや、山田悟Drの「糖質制限食のススメ」で批判されたために、表現を変えたようです
そこで改めてBradleyの論文を読んでみました
diabetes.diabetesjournals.org/content/58/12/2741.full
低脂肪群(LF)と低炭水化物群の群間検定(ANOBA)で有意差がでたのは、TG (p=0.01)とAortic Augmentation Index (AI) (p=0.04)の2項目だけである。これだけでは「全身の動脈の硬化度が低炭水化物食で相対的に悪化」とは結論づけられない
全身の動脈硬化の評価法としては、下記のHPを参照されたい。
www.jhf.or.jp/mediaWS/8th/index01.html
つまり、形態的異常については頸動脈エコー検査が、機能的異常については脈波伝播速度(PWV)がもっとも一般的である。脈波増大係数(AI)は主流ではない』
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