2012年12月12日 (水)
こんにちは。
スエーデン在住の雪ん子さんから、スエーデンにおける糖質制限食・・・LCHF(Low Carb High Fat)について、興味深いコメント・情報をいただきました。
【12/12/11 雪ん子
スウェーデンの低炭水化物食療法、LCHF
はじめまして。
人づてに低糖質制限食を教わり、10月末より実践しています。私はスウェーデンに住んでおり、日本と同じような豆腐やおからの料理が出来ないので、こちらの食材で続けられるレシピをネットで検索していたところ、LCHF(Low Carb High Fat)と呼ばれる、スウェーデンのアニカ・ダールクヴィスト医師が提唱し始めた食事療法に行き当たりました。江部先生のように「低糖質」と細かく限定していませんが、砂糖と炭水化物を押さえて血糖値を上げないことで、2型糖尿病と肥満(およびメタボリックシンドローム)の解消を目指しています。
ダールクヴィストは1型糖尿病を患っており、スウェーデンでは一般的な保健所の医師として勤務していました。2004年に、医学部で学ぶ娘さんが学部の課題として2週間実践した低炭水化物食を知ったそうです。これまでご本人が全く減量できなかったのに見るまに痩せたことや、それにともなって長年不調だった腸の調子が良くなり(スウェーデン人に多いそうです)、関節炎や頭痛がなくなり精神的に上向きになるということを身をもって体験したことで、保健所の診察にやってくる2型糖尿病患者や肥満に悩む人に、このLCHF食事療法の指導を始めたそうです。
しかし、 これまで提唱されていたものとは正反対の食事療法なので、 日本の現状と同じようにこれを危惧する人がいて、社会庁( Socialstyrelsen)に栄養士2名がダールクヴィストを通報したそうです。食品衛生局(Livsmedelsverket) の目安では、炭水化物の摂取量は全体の食事の60%です。ダールクヴィストの食事指導が間違っていると判断された場合には医師免許の剥奪もあり得るという事態になり、社会庁がスウェーデンの糖尿病の権威クリスチャン・バーネ教授に調査を依頼しました。これが2005年のことでした。2007年12月に提出されたバーネ教授の調査報告で、長期的な結果がまだ科学的に出ていないものの、科学的な見解に基づいた実績の証明されたものであると結論づけられたことにより、LCHF食事療法に社会庁が青信号を灯しました。2008年1月のことです。
「数十年に渡るエビデンスが…」とおっしゃる方が日本にはいるようですが、プラグマティズムの国スウェーデンだからか、影響力の強い医学ジャーナルに掲載された論文でも低炭水化物食の効果が証明されているからか、社会庁に認められて以来、スウェーデンではLCHFブームが巻き起こったそうです。こちらでは現在4人に1人がLCHFを実践しているそうです。(カルピンチョ医師のブログにもスウェーデン式ダイエットが紹介されていましたね。http://低糖質.com/review/cat16/41.html)
ダールクヴィストの食事療法の場合、タンパク質摂取量はこれまでと変わらずに、エネルギーを天然の動物性脂肪(バター、生クリーム、サワークリーム、チーズなど)と、オーガニックのオリーブオイルと菜種油(どちらもエキストラバージンのコールドプレス)で摂取することを奨めています。日本と違って、動物性タンパク質の摂取量(肉や乳製品)はもともと多いです。
2011年には、公共放送でも、このLCHFについて賛成派/反対派のインタービューを交えながら、低炭水化物食療法に関するドキュメンタリーを放送しました。糖尿病患者がスーパーで食材選びの指導を受けて料理の講習会をすることで、この食事療法について学んだり、食後の血糖値を実際に計って違いを実感することで、患者さんの中には3ヶ月間この食事を実践した人たちがいて、その成果も紹介されていました。(江部先生のブログで読むみなさんの体験談と同じ傾向の結果です。)ただ、江部先生がブログに書いていらっしゃるように、スウェーデン人は肥満がある程度進んでから糖尿病にかかるようで、この番組を見る限り、糖尿病の治療と減量は二足のわらじのように捉えられているという印象でした。
マイナー言語の国なので、なかなか日本とスウェーデンではお互いの情報が伝わりにくいですが、こういうことがありましたというご紹介をと思い、長くなりましたが筆をとりました。別にわけて、バーネ教授の答申とその日本語訳や、公共放送のドキュメンタリーへのリンクを貼ります。何かのお役に立てれば幸いです。】
雪ん子さん。
貴重な情報をありがとうございます。
スエーデンでは、糖質制限食が、公的に認められているとは、心強いかぎりです。
ダールクヴィスト医師は、アニカさんなので、女性なのかな?
ともあれ、ご自身が1型糖尿病で、2004年に娘さんから低炭水化物食の情報を得て、即実践されたのは素晴らしいです。
2004年、ダールクヴィスト医師(1型糖尿病)自らLCHF食事療法(糖質制限食)開始。
2004年、ダールクヴィスト医師が自分の保健所の診察にやってくる2型糖尿病患者や肥満に悩む人に、
このLCHF食事療法(糖質制限食)の指導を開始。
2005年、栄養士2名が、が社会庁( Socialstyrelsen)に「従来とは異なる異端の食事療法」として通報。
2005年、社会庁が糖尿病の権威クリスチャン・バーネ教授に調査を依頼。
2007年12月、バーネ教授の調査報告で、LCHF食事療法(糖質制限食)は長期的な結果がまだ科学的に出ていない
ものの、科学的な見解に基づいた実績の証明されたものであると結論づけられた。
2008年1月、LCHF食事療法(糖質制限食)に社会庁が青信号を灯した。
スエーデン、対応が早いですね。
日本の厚生労働省が、同様に調査を開始してくれたらいいのですが・・・。
ただクリスチャン・バーネ教授の如く、糖質制限食に対してニュートラルに科学的見解を発表できるような人材が、日本にいるのか?いったい誰に調査を依頼したらいいのか?
それを思うと、我が日本国ではますます混迷を深めそうな懸念もありますね。
それでも、2000kcalの糖質制限食 VS 1600kcalのカロリー制限食(高糖質食)のハンディをあえてつけたとしてもCGMを検査すれば、症例数は少なくても一目瞭然で、100%血糖変動幅(MAGE)の優位差がでます。
2000kcalの糖質制限食 VS 1600kcalのカロリー制限食というハンディをあえてつけたとしても、新患の糖尿病患者さんのHbA1cや空腹時血糖値データを、3ヶ月くらい追えばこちらも症例は少なくとも、明確な優位差がでます。
厚生労働省、やってくれないかな?
江部康二
スエーデン在住の雪ん子さんから、スエーデンにおける糖質制限食・・・LCHF(Low Carb High Fat)について、興味深いコメント・情報をいただきました。
【12/12/11 雪ん子
スウェーデンの低炭水化物食療法、LCHF
はじめまして。
人づてに低糖質制限食を教わり、10月末より実践しています。私はスウェーデンに住んでおり、日本と同じような豆腐やおからの料理が出来ないので、こちらの食材で続けられるレシピをネットで検索していたところ、LCHF(Low Carb High Fat)と呼ばれる、スウェーデンのアニカ・ダールクヴィスト医師が提唱し始めた食事療法に行き当たりました。江部先生のように「低糖質」と細かく限定していませんが、砂糖と炭水化物を押さえて血糖値を上げないことで、2型糖尿病と肥満(およびメタボリックシンドローム)の解消を目指しています。
ダールクヴィストは1型糖尿病を患っており、スウェーデンでは一般的な保健所の医師として勤務していました。2004年に、医学部で学ぶ娘さんが学部の課題として2週間実践した低炭水化物食を知ったそうです。これまでご本人が全く減量できなかったのに見るまに痩せたことや、それにともなって長年不調だった腸の調子が良くなり(スウェーデン人に多いそうです)、関節炎や頭痛がなくなり精神的に上向きになるということを身をもって体験したことで、保健所の診察にやってくる2型糖尿病患者や肥満に悩む人に、このLCHF食事療法の指導を始めたそうです。
しかし、 これまで提唱されていたものとは正反対の食事療法なので、 日本の現状と同じようにこれを危惧する人がいて、社会庁( Socialstyrelsen)に栄養士2名がダールクヴィストを通報したそうです。食品衛生局(Livsmedelsverket) の目安では、炭水化物の摂取量は全体の食事の60%です。ダールクヴィストの食事指導が間違っていると判断された場合には医師免許の剥奪もあり得るという事態になり、社会庁がスウェーデンの糖尿病の権威クリスチャン・バーネ教授に調査を依頼しました。これが2005年のことでした。2007年12月に提出されたバーネ教授の調査報告で、長期的な結果がまだ科学的に出ていないものの、科学的な見解に基づいた実績の証明されたものであると結論づけられたことにより、LCHF食事療法に社会庁が青信号を灯しました。2008年1月のことです。
「数十年に渡るエビデンスが…」とおっしゃる方が日本にはいるようですが、プラグマティズムの国スウェーデンだからか、影響力の強い医学ジャーナルに掲載された論文でも低炭水化物食の効果が証明されているからか、社会庁に認められて以来、スウェーデンではLCHFブームが巻き起こったそうです。こちらでは現在4人に1人がLCHFを実践しているそうです。(カルピンチョ医師のブログにもスウェーデン式ダイエットが紹介されていましたね。http://低糖質.com/review/cat16/41.html)
ダールクヴィストの食事療法の場合、タンパク質摂取量はこれまでと変わらずに、エネルギーを天然の動物性脂肪(バター、生クリーム、サワークリーム、チーズなど)と、オーガニックのオリーブオイルと菜種油(どちらもエキストラバージンのコールドプレス)で摂取することを奨めています。日本と違って、動物性タンパク質の摂取量(肉や乳製品)はもともと多いです。
2011年には、公共放送でも、このLCHFについて賛成派/反対派のインタービューを交えながら、低炭水化物食療法に関するドキュメンタリーを放送しました。糖尿病患者がスーパーで食材選びの指導を受けて料理の講習会をすることで、この食事療法について学んだり、食後の血糖値を実際に計って違いを実感することで、患者さんの中には3ヶ月間この食事を実践した人たちがいて、その成果も紹介されていました。(江部先生のブログで読むみなさんの体験談と同じ傾向の結果です。)ただ、江部先生がブログに書いていらっしゃるように、スウェーデン人は肥満がある程度進んでから糖尿病にかかるようで、この番組を見る限り、糖尿病の治療と減量は二足のわらじのように捉えられているという印象でした。
マイナー言語の国なので、なかなか日本とスウェーデンではお互いの情報が伝わりにくいですが、こういうことがありましたというご紹介をと思い、長くなりましたが筆をとりました。別にわけて、バーネ教授の答申とその日本語訳や、公共放送のドキュメンタリーへのリンクを貼ります。何かのお役に立てれば幸いです。】
雪ん子さん。
貴重な情報をありがとうございます。
スエーデンでは、糖質制限食が、公的に認められているとは、心強いかぎりです。
ダールクヴィスト医師は、アニカさんなので、女性なのかな?
ともあれ、ご自身が1型糖尿病で、2004年に娘さんから低炭水化物食の情報を得て、即実践されたのは素晴らしいです。
2004年、ダールクヴィスト医師(1型糖尿病)自らLCHF食事療法(糖質制限食)開始。
2004年、ダールクヴィスト医師が自分の保健所の診察にやってくる2型糖尿病患者や肥満に悩む人に、
このLCHF食事療法(糖質制限食)の指導を開始。
2005年、栄養士2名が、が社会庁( Socialstyrelsen)に「従来とは異なる異端の食事療法」として通報。
2005年、社会庁が糖尿病の権威クリスチャン・バーネ教授に調査を依頼。
2007年12月、バーネ教授の調査報告で、LCHF食事療法(糖質制限食)は長期的な結果がまだ科学的に出ていない
ものの、科学的な見解に基づいた実績の証明されたものであると結論づけられた。
2008年1月、LCHF食事療法(糖質制限食)に社会庁が青信号を灯した。
スエーデン、対応が早いですね。
日本の厚生労働省が、同様に調査を開始してくれたらいいのですが・・・。
ただクリスチャン・バーネ教授の如く、糖質制限食に対してニュートラルに科学的見解を発表できるような人材が、日本にいるのか?いったい誰に調査を依頼したらいいのか?
それを思うと、我が日本国ではますます混迷を深めそうな懸念もありますね。
それでも、2000kcalの糖質制限食 VS 1600kcalのカロリー制限食(高糖質食)のハンディをあえてつけたとしてもCGMを検査すれば、症例数は少なくても一目瞭然で、100%血糖変動幅(MAGE)の優位差がでます。
2000kcalの糖質制限食 VS 1600kcalのカロリー制限食というハンディをあえてつけたとしても、新患の糖尿病患者さんのHbA1cや空腹時血糖値データを、3ヶ月くらい追えばこちらも症例は少なくとも、明確な優位差がでます。
厚生労働省、やってくれないかな?
江部康二
被験(検)が必要なら、私は参加します。
早くやりたいですね。
しかし、どこもバックアップしてくれないでしょうね。
まして、薬剤メーカーは・・・。(笑)
そうだ、食品メーカーならできるかも。
糖質ゼロ食品のキャンペーンの一環として。(笑)
早くやりたいですね。
しかし、どこもバックアップしてくれないでしょうね。
まして、薬剤メーカーは・・・。(笑)
そうだ、食品メーカーならできるかも。
糖質ゼロ食品のキャンペーンの一環として。(笑)
2012/12/12(Wed) 20:51 | URL | 北九州 三島 | 【編集】
ミナミ さん。
BMIが22前後なら、体重はそれ以上は減少せずに、そんなものかもしれません。
生理については、今まで「糖質制限食で不正出血」というのは聞いたことがありません。
BMIが22前後なら、体重はそれ以上は減少せずに、そんなものかもしれません。
生理については、今まで「糖質制限食で不正出血」というのは聞いたことがありません。
2012/12/12(Wed) 23:04 | URL | ドクター江部 | 【編集】
雪ん子さん 貴重な情報を詳細にありがとうございました。
(日本のこういう件に関する管轄(厚生労働省が?)など、さっぱり分らない私ですが・・)。
私は脂質を増やす、という部分に興味があります。
(難しくて分らない部分もあるので、何度かよ〜く読み込んでみます)
>エネルギーを天然の動物性脂肪(バター、生クリーム、サワークリーム、チーズなど)と、オーガニックのオリーブオイルと菜種油(どちらもエキストラバージンのコールドプレス)で摂取することを奨めています。
脂質のカロリーは、糖質・タンパク質の約2倍、でも良質なオイルやバターを選んでも、カロリー辺りのコストは割と安価に上がる気がします(脂質の種類と質をきちんと見極めないとダメですが)。
タンパク質と糖質のカロリーは同だけど、日本での価格は倍以上かなと・・私は生活が忙しくなり摂取カロリーを増やすと、とたんに食費に跳ね返ってきます(私はスーパー糖質制限にした時点で2倍近くに既になっています)。
江部先生のスーパー糖質制限も、脂質56%とのことで、そもそも私がこの脂質率をカバーしているのか正確に把握できていないのですが、いったいいくつお弁当を持ち歩くんだ・・な状態になりつつあるので、とりあえず、良さそうな脂・油を揃えて、お弁当のカロリーアップを計ってみようかと思います。
前に、小児てんかんの高脂肪食療法、ケトン食の紹介記事がありましたし、こういう手もあったかとちょっと嬉しい視点でした。
タンパク質不足にならないよう必要分を確保しつつ、良質な脂質を増やし、しばらく料理を工夫してみようかと思います。
今日は出先でお腹が減りすぎてしまって、レバニラ定食を食べたのですが、手元にあった『食品別糖質量ハンドブック』の中から4品を参考にしたら対応できました。
出先にある食べ物の糖質がある程度分るって便利だし、心強いです。
小さくて中のデザインも可愛いので、手がすくと取りだしてはふむふむと眺めています。
ちなみに、日本で売れてる糖質ゼロ、といえば、発泡酒でしょうか?! 大きなメーカー揃いです。
(日本のこういう件に関する管轄(厚生労働省が?)など、さっぱり分らない私ですが・・)。
私は脂質を増やす、という部分に興味があります。
(難しくて分らない部分もあるので、何度かよ〜く読み込んでみます)
>エネルギーを天然の動物性脂肪(バター、生クリーム、サワークリーム、チーズなど)と、オーガニックのオリーブオイルと菜種油(どちらもエキストラバージンのコールドプレス)で摂取することを奨めています。
脂質のカロリーは、糖質・タンパク質の約2倍、でも良質なオイルやバターを選んでも、カロリー辺りのコストは割と安価に上がる気がします(脂質の種類と質をきちんと見極めないとダメですが)。
タンパク質と糖質のカロリーは同だけど、日本での価格は倍以上かなと・・私は生活が忙しくなり摂取カロリーを増やすと、とたんに食費に跳ね返ってきます(私はスーパー糖質制限にした時点で2倍近くに既になっています)。
江部先生のスーパー糖質制限も、脂質56%とのことで、そもそも私がこの脂質率をカバーしているのか正確に把握できていないのですが、いったいいくつお弁当を持ち歩くんだ・・な状態になりつつあるので、とりあえず、良さそうな脂・油を揃えて、お弁当のカロリーアップを計ってみようかと思います。
前に、小児てんかんの高脂肪食療法、ケトン食の紹介記事がありましたし、こういう手もあったかとちょっと嬉しい視点でした。
タンパク質不足にならないよう必要分を確保しつつ、良質な脂質を増やし、しばらく料理を工夫してみようかと思います。
今日は出先でお腹が減りすぎてしまって、レバニラ定食を食べたのですが、手元にあった『食品別糖質量ハンドブック』の中から4品を参考にしたら対応できました。
出先にある食べ物の糖質がある程度分るって便利だし、心強いです。
小さくて中のデザインも可愛いので、手がすくと取りだしてはふむふむと眺めています。
ちなみに、日本で売れてる糖質ゼロ、といえば、発泡酒でしょうか?! 大きなメーカー揃いです。
2012/12/12(Wed) 23:27 | URL | ロバート・ダウっ子 | 【編集】
はじめまして。
田舎の小さな病院で管理栄養士をしております。
糖質制限食、Dr.と共に勉強中です。
患者さんに栄養指導をする際、どのようにお話すれば良いか考え中なのですが、何か注意するポイントなどありますか?
田舎の小さな病院で管理栄養士をしております。
糖質制限食、Dr.と共に勉強中です。
患者さんに栄養指導をする際、どのようにお話すれば良いか考え中なのですが、何か注意するポイントなどありますか?
2012/12/13(Thu) 13:12 | URL | しんのすけ | 【編集】
スウェーデンのLCHF食事療法を取り上げてくださってありがとうございます。少しでもお役に立てて嬉しいです。
長期的な臨床実験の事例が少ないと言われる糖質制限食ですが、スウェーデンでは『カールスハムン・スタディー(Karlshamns studien)』と呼ばれる臨床実験が有名で、これまでに何度も引用されています。スウェーデン最南部に位置する人口31185人の港町、カールスハムン市が独自に研究者(ヨルゲン・ヴェスティ・ニールセンなど)に依頼する形で、糖質制限食(炭水化物20%、蛋白質30%、脂質50%)と高炭水化物食(およそ炭水化物60%、蛋白質15%、脂質25%)の2型糖尿病患者への効果を6ヶ月間調査しました。Lasting Improvement of Hyperglycaemia and Bodyweight: Low-carbohydrate Diet in Type 2 Diabetes. – A Brief Reportというタイトルの論文で2005年に結果が発表されています。
そして、22ヶ月後のフォローアップが2006年に、44ヶ月後のフォローアップが2008年に発表されました。その間に、最初のグループ分けで高炭水化物食を摂取していた人の半分以上が、糖質制限食に自主的に切り替えて成果を上げていたり、それぞれのグループでその後発症した疾病や死亡者についても報告されているようです。もうご存知かもしれませんが、下に論文のリンクを添付いたします(英語)。
Jørgen Vesti Nielsen, Eva Jönsson, Anna-Karin Nilsson, Lasting Improvement of Hyperglycaemia and Bodyweight: Low-carbohydrate Diet in Type 2 Diabetes. – A Brief Report, 2005.
http://fhskola.ltblekinge.se/download/18.483745d1110dfd532008000736/Lasting_Improvement.pdf
Jørgen Vesti Nielsen and Eva Joensson, Low-carbohydrate diet in type 2 diabetes. Stable improvement of bodyweight and glycemic control during 22 months follow-up, 2006.
http://www.biomedcentral.com/content/pdf/1743-7075-3-22.pdf
Jörgen V Nielsen and Eva A Joensson, Low-carbohydrate diet in type 2 diabetes: stable improvement of bodyweight and glycemic control during 44 months follow-up, 2008.
http://www.nutritionandmetabolism.com/content/5/1/14
ダールクヴィスト医師(おっしゃる通り、女性です)のブログで公開されている、カールスハムン・スタディーでの一日の平均的な栄養の内容です。この表でみると 体重60kgの女性の場合、体重1kgあたり2g近い蛋白質を摂取している計算だと、ブログには書かれていました。(スウェーデン語のままですみません。)
Genomsnitt per dag.
Kcal 1670
Protein 111g 27%
Fett 100g 53%(脂質)
Kolhydrater 80g 20%(炭水化物)
Fiber 25g
C-vitamin 135mg
Järn 12mg(鉄分)
Kalcium 835mg
tiamin 1,4mg
riboflavin 1,9mg
Rekv 3,34mg
d-vit 15,35 ug
e-vit 16mg
Niekv 46,3mg
B6 2,7mg
B12 10ug
Magn 302mg
Zink 10,8mg
Fola 409,9 ug
Sele 100,4ug
ダールクヴィストのLCHF食事療法では、糖尿病患者は一日の炭水化物摂取量を20g、そうでない人も30 - 40%に留めることを目安にしています。(バーンスタイン医師のメソッドも参照にしていました。)LCHFのモットーは、1、低炭水化物、2、自然の油分/脂肪分をもっと摂取、3、添加物や有害物質の入っていない食品(できるだけ有機栽培のオーガニック製品)を摂取だそうです。蛋白質は握りこぶし大の量を目安に、1日1、2度食べることを奨めていて、炭水化物に代わるエネルギー源には、江部先生と同じようにいい油をとるように指導しています。
ダールクヴィストも現代人のomega-6の過剰摂取を問題視しており、先日のコメントで少し書きましたが、コールドプレスのエクストラヴァージンオリーブオイルと、同じ方法で搾油したオーガニックの菜種(キャノーラ)油(スウェーデンの特産)を使うようにいっています。ただ、従来のセイヨウアブラナは有害なエルカ酸を含むので、長期的な健康への影響は不明だということです。また、オリーブオイルは体にいいとはいえ、産地が主に地中海周辺に限定されるので、 輸送にかかる二酸化炭素の排出量・フードマイル(Food Miles)を考慮すると、環境への配慮から多少消極的な奨め方になっています。
牧草や干し草を食べて育った乳牛や、自然の放し飼いで草を食べる鶏の卵は、ダールクヴィストの本によるとomega-3が豊富だそうです。(天然の魚はもちろんomega-3が豊富なのですが、養殖では穀物が飼料のベースなので、omega-6の割合が多いと、この本で知りました。) 同じ本では、ナチュラルチーズとバターは乳糖を含まないので、牛乳やヨーグルトに比べて減量に効果的だと書いてありました。(もちろん、一日の必要摂取カロリー内ですが。)
マーガリンは第二次世界大戦中に広まったバターの代用品で、化学的に生産されたものです。しかも減量のパーム油は成長が早く低コストなので多くの食品に使われていますが、熱帯雨林を大量に伐採して栽培されています。コレステロール神話が崩された現代では、こういう背景のマーガリンでなく積極的にバターを選ぶべきだとダールクヴィストは主張しています。牛乳や生クリームも高脂肪の製品を選び、肉を食べるときは周りの脂も一緒に食べるそうです。
公共放送のLCHF特集番組で調理指導をしていた人の話では、脂肪分は味が濃厚なので砂糖がなくても気持ちが満足しやすく、一度に大量に食べられないことも利点だそうです。
スウェーデンは冷凍食品や缶詰などを利用する人がとても多いのですが、LCHFでは添加物(特に旨味調味料)を避けることも重視されています。料理にかけるとろっとしたソースやドレッシングを家庭で作ることが奨められているので、生クリーム、サワークリーム、クリームチーズやブルーチーズを上手に利用するといいみたいです。(日本の家庭料理でも、バリエーションが広がるかと思います。)出来合いの食品といえば、こちらのソーセージは原料の半分近くが片栗粉で、添加物が何種類も入っています。そういう事情なので、肉類の加工品も中身に気をつけた方がいいそうです。
日本の糖質制限食とスウェーデンのLCHFでは食べるものが少し違うので、 また長くなりましたが、こちらに書き込みました。食材選びの幅が少しでも広がればと思います。
長期的な臨床実験の事例が少ないと言われる糖質制限食ですが、スウェーデンでは『カールスハムン・スタディー(Karlshamns studien)』と呼ばれる臨床実験が有名で、これまでに何度も引用されています。スウェーデン最南部に位置する人口31185人の港町、カールスハムン市が独自に研究者(ヨルゲン・ヴェスティ・ニールセンなど)に依頼する形で、糖質制限食(炭水化物20%、蛋白質30%、脂質50%)と高炭水化物食(およそ炭水化物60%、蛋白質15%、脂質25%)の2型糖尿病患者への効果を6ヶ月間調査しました。Lasting Improvement of Hyperglycaemia and Bodyweight: Low-carbohydrate Diet in Type 2 Diabetes. – A Brief Reportというタイトルの論文で2005年に結果が発表されています。
そして、22ヶ月後のフォローアップが2006年に、44ヶ月後のフォローアップが2008年に発表されました。その間に、最初のグループ分けで高炭水化物食を摂取していた人の半分以上が、糖質制限食に自主的に切り替えて成果を上げていたり、それぞれのグループでその後発症した疾病や死亡者についても報告されているようです。もうご存知かもしれませんが、下に論文のリンクを添付いたします(英語)。
Jørgen Vesti Nielsen, Eva Jönsson, Anna-Karin Nilsson, Lasting Improvement of Hyperglycaemia and Bodyweight: Low-carbohydrate Diet in Type 2 Diabetes. – A Brief Report, 2005.
http://fhskola.ltblekinge.se/download/18.483745d1110dfd532008000736/Lasting_Improvement.pdf
Jørgen Vesti Nielsen and Eva Joensson, Low-carbohydrate diet in type 2 diabetes. Stable improvement of bodyweight and glycemic control during 22 months follow-up, 2006.
http://www.biomedcentral.com/content/pdf/1743-7075-3-22.pdf
Jörgen V Nielsen and Eva A Joensson, Low-carbohydrate diet in type 2 diabetes: stable improvement of bodyweight and glycemic control during 44 months follow-up, 2008.
http://www.nutritionandmetabolism.com/content/5/1/14
ダールクヴィスト医師(おっしゃる通り、女性です)のブログで公開されている、カールスハムン・スタディーでの一日の平均的な栄養の内容です。この表でみると 体重60kgの女性の場合、体重1kgあたり2g近い蛋白質を摂取している計算だと、ブログには書かれていました。(スウェーデン語のままですみません。)
Genomsnitt per dag.
Kcal 1670
Protein 111g 27%
Fett 100g 53%(脂質)
Kolhydrater 80g 20%(炭水化物)
Fiber 25g
C-vitamin 135mg
Järn 12mg(鉄分)
Kalcium 835mg
tiamin 1,4mg
riboflavin 1,9mg
Rekv 3,34mg
d-vit 15,35 ug
e-vit 16mg
Niekv 46,3mg
B6 2,7mg
B12 10ug
Magn 302mg
Zink 10,8mg
Fola 409,9 ug
Sele 100,4ug
ダールクヴィストのLCHF食事療法では、糖尿病患者は一日の炭水化物摂取量を20g、そうでない人も30 - 40%に留めることを目安にしています。(バーンスタイン医師のメソッドも参照にしていました。)LCHFのモットーは、1、低炭水化物、2、自然の油分/脂肪分をもっと摂取、3、添加物や有害物質の入っていない食品(できるだけ有機栽培のオーガニック製品)を摂取だそうです。蛋白質は握りこぶし大の量を目安に、1日1、2度食べることを奨めていて、炭水化物に代わるエネルギー源には、江部先生と同じようにいい油をとるように指導しています。
ダールクヴィストも現代人のomega-6の過剰摂取を問題視しており、先日のコメントで少し書きましたが、コールドプレスのエクストラヴァージンオリーブオイルと、同じ方法で搾油したオーガニックの菜種(キャノーラ)油(スウェーデンの特産)を使うようにいっています。ただ、従来のセイヨウアブラナは有害なエルカ酸を含むので、長期的な健康への影響は不明だということです。また、オリーブオイルは体にいいとはいえ、産地が主に地中海周辺に限定されるので、 輸送にかかる二酸化炭素の排出量・フードマイル(Food Miles)を考慮すると、環境への配慮から多少消極的な奨め方になっています。
牧草や干し草を食べて育った乳牛や、自然の放し飼いで草を食べる鶏の卵は、ダールクヴィストの本によるとomega-3が豊富だそうです。(天然の魚はもちろんomega-3が豊富なのですが、養殖では穀物が飼料のベースなので、omega-6の割合が多いと、この本で知りました。) 同じ本では、ナチュラルチーズとバターは乳糖を含まないので、牛乳やヨーグルトに比べて減量に効果的だと書いてありました。(もちろん、一日の必要摂取カロリー内ですが。)
マーガリンは第二次世界大戦中に広まったバターの代用品で、化学的に生産されたものです。しかも減量のパーム油は成長が早く低コストなので多くの食品に使われていますが、熱帯雨林を大量に伐採して栽培されています。コレステロール神話が崩された現代では、こういう背景のマーガリンでなく積極的にバターを選ぶべきだとダールクヴィストは主張しています。牛乳や生クリームも高脂肪の製品を選び、肉を食べるときは周りの脂も一緒に食べるそうです。
公共放送のLCHF特集番組で調理指導をしていた人の話では、脂肪分は味が濃厚なので砂糖がなくても気持ちが満足しやすく、一度に大量に食べられないことも利点だそうです。
スウェーデンは冷凍食品や缶詰などを利用する人がとても多いのですが、LCHFでは添加物(特に旨味調味料)を避けることも重視されています。料理にかけるとろっとしたソースやドレッシングを家庭で作ることが奨められているので、生クリーム、サワークリーム、クリームチーズやブルーチーズを上手に利用するといいみたいです。(日本の家庭料理でも、バリエーションが広がるかと思います。)出来合いの食品といえば、こちらのソーセージは原料の半分近くが片栗粉で、添加物が何種類も入っています。そういう事情なので、肉類の加工品も中身に気をつけた方がいいそうです。
日本の糖質制限食とスウェーデンのLCHFでは食べるものが少し違うので、 また長くなりましたが、こちらに書き込みました。食材選びの幅が少しでも広がればと思います。
2012/12/14(Fri) 02:38 | URL | 雪ん子 | 【編集】
しんのすけ さん。
『糖質制限食は、実は人類本来の自然な食事です。人類が誕生したのが約700万年前で、1万年前に農耕が始まるまでは、生業は狩猟・採集であり、全ての人類が糖質制限食でした。即ち穀物を主食としたのは、人類の歴史の中でわずか1/700の期間に過ぎません。このように進化の過程をみると糖質制限食は、人類本来の食事、いわば人類の健康食ですので、糖尿病や肥満をはじめとして様々な生活習慣病が改善していきます。そしてカロリー制限なしで「美味しく楽しく」が特長です。』
患者さんへの説明は上記をアレンジして適宜どうぞ。
あとは、拙著や本ブログ記事をご参照ください。
『糖質制限食は、実は人類本来の自然な食事です。人類が誕生したのが約700万年前で、1万年前に農耕が始まるまでは、生業は狩猟・採集であり、全ての人類が糖質制限食でした。即ち穀物を主食としたのは、人類の歴史の中でわずか1/700の期間に過ぎません。このように進化の過程をみると糖質制限食は、人類本来の食事、いわば人類の健康食ですので、糖尿病や肥満をはじめとして様々な生活習慣病が改善していきます。そしてカロリー制限なしで「美味しく楽しく」が特長です。』
患者さんへの説明は上記をアレンジして適宜どうぞ。
あとは、拙著や本ブログ記事をご参照ください。
2012/12/14(Fri) 18:09 | URL | ドクター江部 | 【編集】
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