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運動とエネルギー源
今日も寒い京都です。
マラソンの季節ですね。

今回は以前ブログで書いた記事をもとに、運動とエネルギー源について考えてみます。

ATP(アデノシン三リン酸)は、骨格筋の収縮に利用される唯一のエネルギー源です。

このATPを供給するために、人体には、いろいろなシステムがあります。

まずは、最高強度の運動(非常時の運動)です。

<最高強度の運動>

最高強度の無酸素運動とは、例えば100m競争などですね。

最高強度の運動の時は、即エネルギ-源が必要なので、筋肉細胞はまず自前で貯蔵していたATPを使います。

しかし、このATPは1~2秒でなくなるので、直後にクレアチンリン酸を利用してADP(ATPの分解産物)からATPを再合成します。

このクレアチンリン酸の生み出すATPは、数秒で減少し、10秒で半減します。

その代わりに、グリコーゲン分解と解糖からのATP供給が5秒で最大となり、20秒くらい持続します。

これらは、ほとんど全て嫌気的エネルギーで、供給速度が速いです。

最高強度の運動には、通常の脂質や糖質の酸化的リン酸化による好気的エネルギー供給では、速度が遅くて間にあわないので、非常用の嫌気的システムがあるのでしょう。

100m競争だと、嫌気的代謝が90%で好気的代謝が10%です。

なお、最高強度の運動というのは人類にとって、歴史的には非常時(逃走・闘争など)の時の十数秒間だけだったと思います。

次にマラソンなど長時間の運動の考察です。

<長時間の運動>

通常「長時間の運動」というのは、30~180分間は維持できる運動強度を示しています。

有酸素運動の持久力トレーニングを行えば、筋肉細胞のミトコンドリア密度が高まり、ミトコンドリアの近くにある脂肪滴が増えることがわかっています。

長時間の運動後、この筋肉内の脂肪滴が大幅に減っていることが確認されています。米国でアスリートの運動の前後で筋生検をしてそれを確かめています。

一流スポーツアスリートは、体脂肪率は一般人より低いですが、筋肉細胞中の脂肪滴は多く、また血液中の脂肪酸の利用能力も高まっており、これが鍛えた効果です。

それから、糖質制限食(高脂肪食)を実践中は、常に脂肪が分解され血中の脂肪酸・ケトン体が高値であり、筋肉細胞は血中からの脂肪酸も利用し易くなっています。

従って、筋肉細胞は、血液からも自身の内部からも上手に脂肪酸を利用することにより、筋肉中のグリコーゲンを節約することができるのです。

長時間の運動においても、筋肉中のグリコーゲンが節約できれば、持久力・スタミナがつきます。

すなわち糖質制限食実践者中の人は、持久力とスタミナが良い方に向上します。

逆に筋肉中のグリコーゲンが一定以下に減少・枯渇したら、筋肉は疲労のため動かなくなります。

なお長時間の運動のごく初期の1~2分は、高強度の運動と同様に嫌気的エネルギーが利用されますが、その後脂肪と糖質の酸化的リン酸化による、好気的エネルギー供給に代わります。

即ち、高強度の運動時と同様、筋肉細胞はまず自前で貯蔵していたATPを使います。

直後にクレアチンリン酸を利用してADPからATPを再合成します。

その後、グリコーゲン分解と解糖からのATP供給が始まり、20秒くらい持続します。

これらは全て嫌気的エネルギーで、供給速度が速いです。


<運動強度と嫌気的代謝・好気的代謝>

陸上競技を例にすると

100m競争だと、嫌気的代謝が90%で好気的代謝が10%
400m競争だと、嫌気的代謝が70%で好気的代謝が30%、
800m競争だと、嫌気的代謝が40%で好気的代謝が60%、
1500mは、それぞれ20%と80%
10000mは、それぞれ3%と97%
42.195km(マラソン)は、それぞれ1%と99%

となります。

好気的代謝には、「脂肪酸-ケトン体システム」と「グリコーゲン-ブドウ糖システム」があります。

脂肪酸-ケトン体のシステムより、ブドウ糖システムのほうが速くエネルギー(ATP)の供給ができるので、強度が高い運動のときほど、筋肉は、ブドウ糖を使う率が増えていきます。

中長距離の場合、脂肪酸システムを上手に利用して、筋肉中のグリコーゲンを温存し、ラストスパートの時に一気にブドウ糖を燃やして高強度運動を行うのが理想的ですね。

そして、長時間の運動(30~180分間は維持できる運動強度)であれば、筋肉は脂肪酸-ケトン体のシステムを中心に利用します。

一流スポーツアスリートは、筋肉細胞中の脂肪滴が多く、また血液中の脂肪酸の利用能力も高まっています。

勿論、筋肉中のグリコーゲン-ブドウ糖のシステムを全く利用しないということではありませんし、血液中のブドウ糖も利用します。

あくまでも脂肪とブドウ糖のどちらが主エネルギー源か比率の問題です。

一般には強度の高い運動ほど、エネルギー供給速度の速いグリコーゲン-ブドウ糖システムの利用比率が増します。

この時、鍛えられたアスリートほど、ある程度の強度の運動でも、脂肪酸-ケトン体システムを上手に使いこなしますので、筋肉中のグリコーゲンを最後まで節約できます。

そして、ラストスパートで高強度の運動の時に、一気にグリコーゲン-ブドウ糖システムを全開していきます。


江部康二
テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
素朴な疑問です
こんにちは。フトした素朴な疑問です。
先生の御著書は全て読破し、当然「糖質制限」実践者でもあります。
先生の略歴を見ますと、先生の病院に糖質制限食を導入したのが99年。
そして、先生ご自身の糖尿発覚が02年・・・とあります。
アレ??
病院食導入はもとより、提唱者である先生ご自身は、当然、糖質制限食実践されてたものと思われます。
なのに、99年から02年の間に(糖質制限しているのに)糖尿発症してしまっていますね。
これはなぜだとお思いになりますか?
糖質制限は人間本来の食。生活習慣病予防によい(健康に良い)と言う主張と矛盾しそうな気がします。
●糖質制限食提唱していたにも関わらず、ご自身は実践されていなかった。
●実践していたが発症してしまった。(予防効果がなかった)
どちらかでしょうか?
お応えづらいかもしれませんが、よろしくご指南ください。
2011/12/13(Tue) 17:31 | URL | エベレスト | 【編集
エベレストさんへ
「先生の御著書は全て読破し、当然「糖質制限」実践者でもあります。 」

とコメントにお書きですが、本当に読まれたのでしょうか?

江部先生のご著書には、表現は違えど

「高雄病院では1999年から院長江部洋一郎が低糖質を基本とした糖尿病治療食(糖質制限食)を実践し画期的な成果をあげていました。
当初、半信半疑だった私も2001年に糖尿病の患者さんに初めて実施し劇的改善を得ました。」

とお書きになられてますよ。

また、最新刊にも以下のように書かれておられますし、このことは、つい先日のブログにも掲載されておられます。

<はじめに>

1999年に、兄・江部洋一郎院長(当時)が高雄病院に初めて糖質制限食を導入しました。当初は半信半疑だった私も、2001年から糖尿病患者さんに積極的に実践して目覚ましい成果をあげ、その後は病院全体で研究を進めるようになりました。


江部先生が糖質制限食をご自分の患者さんに導入されたきっかけも、ご人身が糖尿病に気づかれ糖質制限食に取り組まれた経過も、すべてこのブログにお書きです。

揚げ足取ったつもりになるなら、もうちょっとちゃんと読まれた方がいいと思いますが。
2011/12/13(Tue) 21:14 | URL | 高安 | 【編集
Re: 素朴な疑問です
エベレスト さん。

高安さんに、ほとんど説明していただいてますが、

私が糖質制限食を開始したのは、糖尿病が発覚したあと、2002年以後です。

「自分はまさか糖尿病にはならんだろう」と油断して、患者さんに糖質制限食を導入した2001年以降も
糖質(ご飯)をしっかり摂取してました。

このあたりのことは、ブログにも新刊にも書いていますよ。
2011/12/13(Tue) 21:53 | URL | ドクター江部 | 【編集
体重と血糖値上昇の関係
こんにちは。
いつもかかさずブログ拝見させていただいております。ありがとうございます。
気になることがあり、1点ご教授いただけたら嬉しいです。
体重60kgの人で糖質1gに対して3mmの血糖値上昇だということですが、私の場合は、体重が48kg前後で食べモノにもよりますが、5mm上昇します。
糖質制限食で体重を増加させた場合、私でも60kgになれば1gの糖質摂取時の血糖値上昇値は、5→3に変わるのでしょうか?
また、どうして、体重によって血糖値上昇値が変わるのでしょうか?
素人にもわかりやすいご説明いただけたら嬉しいです。
2011/12/13(Tue) 23:16 | URL | 小福 | 【編集
有酸素運動+糖質制限食
先生、すばらしいです。

> 有酸素運動の持久力トレーニングを行えば、
> 筋肉細胞のミトコンドリア密度が高まり、
> ミトコンドリアの近くにある脂肪滴が増える

これは、ハーパー生化学にもギャノング生理学にも、書いてありませんでした。ガーーーーン(笑)

お陰様で、たいへん勉強になりました。

いっぽう、『代謝の栄養学』田川邦夫p178には
  > 筋細胞ミトコンドリアのβ酸化能力を増やすには、
  >低血糖時に持久トレをやれ
という意味のことが書いてあります。

この2つの情報を合体させますと・・・

要するに、「有酸素運動+糖質制限食」がベストである、と。

これで筋肉は、解糖系に頼れなくなるので、勢い、内臓脂肪の中性脂肪が分解され、門脈経由で肝臓に入り、肝臓では再び中性脂肪に戻って、血管経由で筋細胞に入り、その中でミトコンドリア付近で脂肪滴となり、β酸化&TCA回路入りしやすくなる、ということですよね?
2011/12/14(Wed) 00:24 | URL | りつゆみ | 【編集
一型糖尿病と糖質制限食
こんにちは、いつもブログ拝見させて頂いております。ありがとうございます。つい一ヶ月前に一型糖尿病と診断され、一日に4回のインスリン摂取とカロリー制限食を病院で勧められました。
食後2時間値の血糖が220→食後3時間血糖が56とか、血糖のふり幅がすごく大きいのが不安で、3日前から糖質制限食を開始致しました。
すると、食後血糖値も上がらず、空腹時も低血糖を起こすこともなくなりました。
現在は寝る前に持続型のインスリンを5単位うっているだけで、超速効型のインスリンは止めてます。ただし、血糖は70~110の間で常に安定しております。糖質制限食のおかげだと思います。
ただ、糖質の制限を行い始めてから若干頭痛がします…。
体重が51キロ 身長170の29歳男です。この頭痛は血糖が低く推移されている為の一時的な現象なのでしょうか?そのうち治まってくるのでしょうか?少し不安でコメントさせて頂きました。
2011/12/14(Wed) 12:09 | URL | ミヤ | 【編集
スタミナをつける意義を再確認できました
スタミナの意味を、代謝レベルで考えたのは初めてです。
今まで筋肉がつくと体力がつく位の認識しかありませんでした・・
長距離と短距離運動の違いも分かり易く、とても勉強になりました。

スーパー制限を続けつつ、気長に筋力不足の今の私に無理ない範囲で有酸素運動を続け、
徐々に運動量を増やしながら「ミトコンドリアの近くにある脂肪滴」を増やし、
「脂肪酸-ケトン体システム」を向上させ「血液中の脂肪酸の利用能力も高」めていく。

また新しい目標ができました。
脂肪滴が増えるよう頑張ります!
2011/12/14(Wed) 12:55 | URL | ロバート・ダウ | 【編集
Re: 体重と血糖値上昇の関係
小福 さん。

厳密にはいいようがないのですが、
例えば小児の薬用量は、大人より少ないですね。

アバウトに体重が半分の子供なら、同じ量の薬だと血中濃度が倍になるイメージです。

2011/12/14(Wed) 13:24 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 一型糖尿病と糖質制限食
ミヤ さん。

コントロール良好、良かったです。

体重が51キロ 身長170の29歳男・・・少しやせすぎですので
脂質・タンパク質はしっかり摂取してカロリー不足に
注意しましょう。
頭痛はカロリー不足の可能性があります。
2011/12/14(Wed) 13:31 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 有酸素運動+糖質制限食
りつゆみ さん。

一つの仮説と思いますが、なかなか断定は難しいですね。
2011/12/14(Wed) 13:37 | URL | ドクター江部 | 【編集
お返事ありがとうございました
お忙しいところお返事ありがとうございました。確かにカロリー足りてないかもしれないです…。ちょっと今日からもうちょっとたくさん食べてみます。
ありがとうございました!
2011/12/14(Wed) 16:39 | URL | ミヤ | 【編集
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