2011年08月25日 (木)
こんばんは。
αグルコシターゼ阻害薬について、ひがしさんからコメント・質問をいただきました。
【11/08/24 ひがし
ボグリボースの効果について
恐れ入ります。
αグルコシターゼ阻害薬について調べていたら先生のブログにぶつかりました。
この薬について質問させてください。
先生の過去の記事を拝見させてもらいまして、薬効時間は約2~3時間。
食直前の内服がベストで食事の30分前だと効果が落ちるというのは理解できました。
そこで質問なんですが、食事30分前に内服し、内服直後に牛乳など糖質のあるものを摂取すると薬剤の効果としてはどうなんでしょうか?
牛乳など内服直後に摂取したものは急激な血糖上昇を抑えられるでしょうが、 その後の食事についてもゆるやかな血糖上昇を維持できるのかというのがわからないんです。
こちらでも周囲の医療者に聞いたり、情報収集したんですが、意見が分かれていまして・・・内服直後に糖質を摂っていれば食事まで多少時間があっても効果は期待できるという人もいれば、あくまでも食直前でないと効果が期待できないのでは?という意見もありまして・・・
中には30分前内服だとボグリボース単体でも低血糖のリスクがあると言う人もいるくらいで、正直どれが本当だかわからなくなっています。
薬剤作用機序を考えればあくまでも血糖上昇を緩やかにするというところで、血糖を下げるわけではないので低血糖リスクは低いと思うのですが・・・
本来ならば周囲の医師など医療従事者に確認するのが筋なのですが、ここまで意見が分かれているとなると、スペシャリストの先生に聞くのがベストかと思いまして・・・
大変恐縮ですが先生のお考えを聞かせていただけると幸いです。
よろしくお願いします】
ひがしさん。
医療関係者の意見が分かれるのですね。
まずメーカーによれば、αグルコシターゼ阻害薬の作用時間は、直後から~おおよそ120分くらいと考えられます。
本来、食直前内服ですが、服用を忘れていて、食中(例えば食べ始めて15分後)に飲んだとしても、あるていど効きます。
つまり、服用を忘れていて慌てて飲んでもそれなりに効いて、飲まないよりはマシです。
ここからは、私見ですが、食直前がメーカー推奨なのは、αグルコシターゼ阻害薬内服直後から30分ぐらいが一番効果が期待できて、その後は徐々に効果が減弱していって、120分くらいで消失というようなパターンかと思います。
そのため食前30分とか内服が早すぎると、一番有効な時間帯を損しますね。
「・・・内服直後に糖質を摂っていれば食事まで多少時間があっても効果は期待できるという人もいれば、あくまでも食直前でないと効果が期待できないのでは?という意見もありまして・・・ 」
これは単純に、αグルコシターゼ阻害薬の薬理作用のピークが内服何分後くらいで、持続時間がどのくらいかというお話しだと思います。
αグルコシターゼ阻害薬の薬理作用がピークの時間帯に摂取した糖質は分解がよりゆっくりとなり血糖値上昇はより抑えられますが、60分以上経過していて薬理作用が減弱している時間帯に糖質を摂取すれば、血糖値上昇を抑える効果は弱くなると思います。
αグルコシダーゼ阻害薬は二糖類(麦芽糖・ショ糖・乳糖など)がグルコースに変換されるのを阻害します。ベイスンやセイブルは、αグルコシダーゼ阻害作用のみを有します。
グルコバイはそれに加え、αアミラーゼ阻害作用によりデンプンがオリゴ糖に変換されるのも阻害するため、より強力に食後高血糖を改善します。
薬理作用を考慮すると、仰有る通り、αグルコシターゼ阻害薬単独内服での低血糖は、ほとんどないと思います。
常用量で、
グルコバイは1時間値を50mg、2時間値を40mg
ベイスンは1時間値を40mg、2時間値を30mg
セイブルは1時間値を60mg、2時間値を20mg
ていど下げるとされています。しかし、それほど下がらない人もあります。
セイブルは、1時間値を下げるけれど、2時間値はあまり下げないのが特徴です。
従って、セイブルを30分前に飲んだりすると、効果は半減かもしれませんね。
いずれの薬も結構個人差が大きいですし、印象としては、上記の数字ほど下がらない人のほうが多いです。
食後の急峻な血糖値の上昇(グルコース・スパイク)が、活性酸素を増やし、活性酸素処理機能を低下させて、二重に<酸化ストレス>を増大させます。
酸化ストレスとは、「生体の酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れ、酸化反応が亢進した状態」のことで、当然生体にとって好ましくない現象です。
酸化ストレスは、細胞のDNA、細胞膜上のリン酸脂質、蛋白質、糖質を傷害し、血管傷害を進行させます。
酸化ストレスにより血管内皮の細胞が傷害され、動脈硬化が進行していき、将来の大血管障害(心筋梗塞、脳梗塞)のリスクとなります。
実際、IGT(食後2時間血糖値140~199mg/dl)のグループ1400人を対象に、「心血管疾患」の発症率をプラセボ群とアカルボース群とで3.3年間比較した研究においてアカルボース(グルコバイ)群で相対的に53%、心血管イベントを抑制し得ることがわかりました。(*)
このように食後高血糖を予防することは、大変大きな意味があります。
なお、αグルコシターゼ阻害薬を内服したからといって、どんぶり飯など食べたら食後血糖値は200mgを超えますので、節度が必要ですね。
糖質制限食なら、内服薬なしで食後高血糖を防ぐことができます。
江部康二
(*)
「STOP-NIDDM」試験
Journal of the American Medical Association(JAMA)誌7月23/30日号
αグルコシターゼ阻害薬について、ひがしさんからコメント・質問をいただきました。
【11/08/24 ひがし
ボグリボースの効果について
恐れ入ります。
αグルコシターゼ阻害薬について調べていたら先生のブログにぶつかりました。
この薬について質問させてください。
先生の過去の記事を拝見させてもらいまして、薬効時間は約2~3時間。
食直前の内服がベストで食事の30分前だと効果が落ちるというのは理解できました。
そこで質問なんですが、食事30分前に内服し、内服直後に牛乳など糖質のあるものを摂取すると薬剤の効果としてはどうなんでしょうか?
牛乳など内服直後に摂取したものは急激な血糖上昇を抑えられるでしょうが、 その後の食事についてもゆるやかな血糖上昇を維持できるのかというのがわからないんです。
こちらでも周囲の医療者に聞いたり、情報収集したんですが、意見が分かれていまして・・・内服直後に糖質を摂っていれば食事まで多少時間があっても効果は期待できるという人もいれば、あくまでも食直前でないと効果が期待できないのでは?という意見もありまして・・・
中には30分前内服だとボグリボース単体でも低血糖のリスクがあると言う人もいるくらいで、正直どれが本当だかわからなくなっています。
薬剤作用機序を考えればあくまでも血糖上昇を緩やかにするというところで、血糖を下げるわけではないので低血糖リスクは低いと思うのですが・・・
本来ならば周囲の医師など医療従事者に確認するのが筋なのですが、ここまで意見が分かれているとなると、スペシャリストの先生に聞くのがベストかと思いまして・・・
大変恐縮ですが先生のお考えを聞かせていただけると幸いです。
よろしくお願いします】
ひがしさん。
医療関係者の意見が分かれるのですね。
まずメーカーによれば、αグルコシターゼ阻害薬の作用時間は、直後から~おおよそ120分くらいと考えられます。
本来、食直前内服ですが、服用を忘れていて、食中(例えば食べ始めて15分後)に飲んだとしても、あるていど効きます。
つまり、服用を忘れていて慌てて飲んでもそれなりに効いて、飲まないよりはマシです。
ここからは、私見ですが、食直前がメーカー推奨なのは、αグルコシターゼ阻害薬内服直後から30分ぐらいが一番効果が期待できて、その後は徐々に効果が減弱していって、120分くらいで消失というようなパターンかと思います。
そのため食前30分とか内服が早すぎると、一番有効な時間帯を損しますね。
「・・・内服直後に糖質を摂っていれば食事まで多少時間があっても効果は期待できるという人もいれば、あくまでも食直前でないと効果が期待できないのでは?という意見もありまして・・・ 」
これは単純に、αグルコシターゼ阻害薬の薬理作用のピークが内服何分後くらいで、持続時間がどのくらいかというお話しだと思います。
αグルコシターゼ阻害薬の薬理作用がピークの時間帯に摂取した糖質は分解がよりゆっくりとなり血糖値上昇はより抑えられますが、60分以上経過していて薬理作用が減弱している時間帯に糖質を摂取すれば、血糖値上昇を抑える効果は弱くなると思います。
αグルコシダーゼ阻害薬は二糖類(麦芽糖・ショ糖・乳糖など)がグルコースに変換されるのを阻害します。ベイスンやセイブルは、αグルコシダーゼ阻害作用のみを有します。
グルコバイはそれに加え、αアミラーゼ阻害作用によりデンプンがオリゴ糖に変換されるのも阻害するため、より強力に食後高血糖を改善します。
薬理作用を考慮すると、仰有る通り、αグルコシターゼ阻害薬単独内服での低血糖は、ほとんどないと思います。
常用量で、
グルコバイは1時間値を50mg、2時間値を40mg
ベイスンは1時間値を40mg、2時間値を30mg
セイブルは1時間値を60mg、2時間値を20mg
ていど下げるとされています。しかし、それほど下がらない人もあります。
セイブルは、1時間値を下げるけれど、2時間値はあまり下げないのが特徴です。
従って、セイブルを30分前に飲んだりすると、効果は半減かもしれませんね。
いずれの薬も結構個人差が大きいですし、印象としては、上記の数字ほど下がらない人のほうが多いです。
食後の急峻な血糖値の上昇(グルコース・スパイク)が、活性酸素を増やし、活性酸素処理機能を低下させて、二重に<酸化ストレス>を増大させます。
酸化ストレスとは、「生体の酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れ、酸化反応が亢進した状態」のことで、当然生体にとって好ましくない現象です。
酸化ストレスは、細胞のDNA、細胞膜上のリン酸脂質、蛋白質、糖質を傷害し、血管傷害を進行させます。
酸化ストレスにより血管内皮の細胞が傷害され、動脈硬化が進行していき、将来の大血管障害(心筋梗塞、脳梗塞)のリスクとなります。
実際、IGT(食後2時間血糖値140~199mg/dl)のグループ1400人を対象に、「心血管疾患」の発症率をプラセボ群とアカルボース群とで3.3年間比較した研究においてアカルボース(グルコバイ)群で相対的に53%、心血管イベントを抑制し得ることがわかりました。(*)
このように食後高血糖を予防することは、大変大きな意味があります。
なお、αグルコシターゼ阻害薬を内服したからといって、どんぶり飯など食べたら食後血糖値は200mgを超えますので、節度が必要ですね。
糖質制限食なら、内服薬なしで食後高血糖を防ぐことができます。
江部康二
(*)
「STOP-NIDDM」試験
Journal of the American Medical Association(JAMA)誌7月23/30日号
先生 こんにちわ
先日検査をしたのですが、HbA1Cは相変わらず4.5くらい、でも空腹時は135・・・。
でも、血圧が145--93 もありました。
二年前はじめて負荷試験をして以降していませんが、 その時は
インスリン抵抗性5.37
HOMAβ 77.35
分泌指数 0.168
でした。
かなりインスリン抵抗性が大きかったです。
ちなみに、発覚(と言っても10年検査しなかった後の発覚です)から2ヶ月経過していてその間スーパー糖質制限により、
空腹時206⇒137 A1C7.3⇒5.1 体重7キロ減 LDL137⇒91の時の数値です。
血圧はこの時から変化がありません。
調べていたら、
http://hobab.fc2web.com/sub4-insulin.htm
このサイトの6番「インスリンと高血圧」の項目で、インスリン抵抗性との関係が書かれていました。
抵抗性を弱める薬を処方してもらった方がいいのでしょうか。
先日検査をしたのですが、HbA1Cは相変わらず4.5くらい、でも空腹時は135・・・。
でも、血圧が145--93 もありました。
二年前はじめて負荷試験をして以降していませんが、 その時は
インスリン抵抗性5.37
HOMAβ 77.35
分泌指数 0.168
でした。
かなりインスリン抵抗性が大きかったです。
ちなみに、発覚(と言っても10年検査しなかった後の発覚です)から2ヶ月経過していてその間スーパー糖質制限により、
空腹時206⇒137 A1C7.3⇒5.1 体重7キロ減 LDL137⇒91の時の数値です。
血圧はこの時から変化がありません。
調べていたら、
http://hobab.fc2web.com/sub4-insulin.htm
このサイトの6番「インスリンと高血圧」の項目で、インスリン抵抗性との関係が書かれていました。
抵抗性を弱める薬を処方してもらった方がいいのでしょうか。
2011/08/25(Thu) 21:36 | URL | ゆうこ | 【編集】
ゆうこ さん。
糖質制限食で減量し、標準体重に近づけば、
インスリン抵抗性も改善します。
すでに7kg減量、順調です。
このまま糖質制限食で減量していけば、薬は必要ありません。
糖質制限食で減量し、標準体重に近づけば、
インスリン抵抗性も改善します。
すでに7kg減量、順調です。
このまま糖質制限食で減量していけば、薬は必要ありません。
2011/08/26(Fri) 16:23 | URL | ドクター江部 | 【編集】
つまり、糖質制限食でもコントロールできないくらいならば、抵抗性を小さくする薬の処方も考えた方がいいけれど、そうでないなら、そのうちに自然と・・・という事でしょうか。
血圧で受診する必要もなさそう・・・でしょうか。
145--93 だと確実にいつも人間ドックにひっかかります。
まぁ、診てもらっても、薬を出されるだけでしょうけれど。
血圧で受診する必要もなさそう・・・でしょうか。
145--93 だと確実にいつも人間ドックにひっかかります。
まぁ、診てもらっても、薬を出されるだけでしょうけれど。
2011/08/27(Sat) 15:46 | URL | ゆうこ | 【編集】
ゆうこ さん。
体重が基準値に近づけば、インスリン抵抗性も血圧も、薬なしで
改善する可能性が高いです。
体重が基準値に近づけば、インスリン抵抗性も血圧も、薬なしで
改善する可能性が高いです。
2011/08/27(Sat) 16:19 | URL | ドクター江部 | 【編集】
先生 何度もありがとうございます。
最新の先生の記事を読んで、そもそも私の空腹時血糖値って高い・・と改めて実感(137)。
空腹時のIRIは2年前ですが15.9でした。(その時も空腹時137)。
この状態って、インスリンも多くて空腹時血糖値も高い っていう、よくない状況ですよね。
再度今 どのくらいの抵抗性があるのか、負荷試験をしてみた方がいいのでしょうか?
でも、300とかまで行くのちょっと怖いんですけれどね。(1gで2mg上昇します)
最新の先生の記事を読んで、そもそも私の空腹時血糖値って高い・・と改めて実感(137)。
空腹時のIRIは2年前ですが15.9でした。(その時も空腹時137)。
この状態って、インスリンも多くて空腹時血糖値も高い っていう、よくない状況ですよね。
再度今 どのくらいの抵抗性があるのか、負荷試験をしてみた方がいいのでしょうか?
でも、300とかまで行くのちょっと怖いんですけれどね。(1gで2mg上昇します)
2011/08/30(Tue) 18:14 | URL | ゆうこ | 【編集】
ゆうこ さん。
インスリン分泌能力は、充分あるタイプです。
インスリン抵抗性は、
「15.9×135/405=5.3」
2.5以上は、はっきりインスリン抵抗性があります。
負荷テストはいらないと思います。
体重減少を目指してください。
インスリン分泌能力は、充分あるタイプです。
インスリン抵抗性は、
「15.9×135/405=5.3」
2.5以上は、はっきりインスリン抵抗性があります。
負荷テストはいらないと思います。
体重減少を目指してください。
2011/08/31(Wed) 13:24 | URL | ドクター江部 | 【編集】
先生、丁寧な説明ありがとうございます。
より効果的な薬理作用を期待するならあくまで食直前、30分前だとより有意な作用を期待するのは難しいということですね。
勉強になりました。
ところで、先生がご専門にされている糖質制限食についてお聞きしたいんですがよろしいでしょうか?
現在、家内が妊娠6か月なんですが、今日の健診で尿糖4+で妊娠糖尿病疑いということだったんです。義母も糖尿病、妻も出生時巨大児だったというなので遺伝要因からしてもかなり疑わしいんです。
現在食品交換表を用意して妊娠糖尿病前提に20単位/dayで管理しようとしてるんですが、予想以上に主食の単位数が多く感じました。
しかし、糖質制限食の考え方でいくと主食、炭水化物は血糖を上げやすいので極力とらないほうがいいとのことでした。
主食でお茶碗軽めに一杯食べられる状態なので妻からすると食べた感じもしているようですが、より確実に血糖コントロールするにはどのような手法がベストなのかと思いまして。
普通に食品交換表にそって管理するのと糖質制限食の理論をベースに単位計算するのとどちらがベターでしょうか?
お手数ですがご教授いただけると幸いです
より効果的な薬理作用を期待するならあくまで食直前、30分前だとより有意な作用を期待するのは難しいということですね。
勉強になりました。
ところで、先生がご専門にされている糖質制限食についてお聞きしたいんですがよろしいでしょうか?
現在、家内が妊娠6か月なんですが、今日の健診で尿糖4+で妊娠糖尿病疑いということだったんです。義母も糖尿病、妻も出生時巨大児だったというなので遺伝要因からしてもかなり疑わしいんです。
現在食品交換表を用意して妊娠糖尿病前提に20単位/dayで管理しようとしてるんですが、予想以上に主食の単位数が多く感じました。
しかし、糖質制限食の考え方でいくと主食、炭水化物は血糖を上げやすいので極力とらないほうがいいとのことでした。
主食でお茶碗軽めに一杯食べられる状態なので妻からすると食べた感じもしているようですが、より確実に血糖コントロールするにはどのような手法がベストなのかと思いまして。
普通に食品交換表にそって管理するのと糖質制限食の理論をベースに単位計算するのとどちらがベターでしょうか?
お手数ですがご教授いただけると幸いです
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