2011年07月18日 (月)
こんにちは。
2008年の米国糖尿病学会学術集会で、ACCORDという大規模臨床試験の結果が報告されました。
ハイリスクな糖尿病患者を対象に、HbA1cの目標値を従来より低く設定して厳格な血糖管理を行い、大血管合併症予防効果を検討した試験でした。
大血管合併症とは、心・脳血管の障害で心筋梗塞や脳卒中のことです。
その結果は、予想を大きく覆し、有意な大血管障害予防効果は、証明できませんでした。しかも「厳格血糖管理群」の死亡率が、「通常血糖管理群」を上回るという、衝撃的な結果となりました。
ACCORDは、米国とカナダの77施設から10251例が登録されました。
厳格血糖管理群の目標HbA1cは6.0%未満、予定追跡期間は5年間でした。
しかしながら、2008年2月、ACCORDの厳格血糖管理群における総死亡率および、心血管死亡率が通常血糖管理群を有意に上回ることが確認され、同試験は期間満了を待たずに平均追跡期間3.4年で中止となりました。
中止時の平均HbA1cは厳格血糖管理群6.4%、通常血糖管理群7.5%でした。
総死亡のリスク比は、厳格血糖管理群が通常血糖管理群の1.22倍、心血管死は1.35倍で、いずれも統計的に有意の差がありました。
単純に考えたら
「インスリ注射や内服薬で厳格な血糖管理をしたらかえって死亡率が上昇する」
というとんでもない結論になります。
このACCORD試験の死亡リスクと低血糖のSMBG(血糖自己測定)サブ解析結果が、2011年6月開催の第71回 米国糖尿病学会で報告されました。
強化療法群では標準療法群と比し、SMBGで測定した血糖値は有意に低く(126.0mg/dL vs 157.6mg/dL)、
HbA1c値(6.7% vs 7.7%)も有意に低値でした。
1日の血糖値の変動をみると、両群ともに夜間から早朝にかけて低下し、早朝から日中を通じて徐々に上昇するサイクルを示しました。
1日のいずれの測定ポイントにおいても、強化療法群の血糖値は、標準療法群に比べて有意に低値でした。
また、少なくとも1回の低血糖を経験した集団では、夜間から早朝にかけての血糖値の低下幅が大きく、死亡例ではその変化がさらに急激でした。
低血糖(<70mg/dL)の頻度は、強化療法群で標準療法群に比べて約3倍でした。
死亡リスクは、強化療法群では低血糖を経験した集団で高くでました。
報告したBergen氏は、血糖コントロールを安全に行うためのポイントとして、
「血糖値やHbA1c値が目標値から著しく低下した場合には、治療の強度を緩め、低血糖が起こらないようにすることが重要」
と述べました。
結局、低血糖を防ぐことが、死亡リスクを減らすことにおいて最も重要という結論です。
この結論は
「強化療法を行ってインスリンやSU剤などで厳格にHbA1cを6.4%ていどに下げるように管理すれば死亡リスクが上昇する」
と、認めているに等しいですね。
結局、カロリー制限が主体の従来の糖尿病食(高糖質食)では、薬物療法を強化して血糖コントロールを良くしようとすれば、必ず低血糖の確率が増加します。
しかも、強化療法をしていても、糖質を一定量以上摂取すれば食後高血糖を起こす可能性も高いです。
食後高血糖が、大血管障害に強く関与していることは、複数の研究で明らかになっています。
糖質・脂質・タンパク質の中で食後高血糖を起こすのは、糖質だけです。
薬物に頼らずに、血糖コントロールを保ちHbA1c値を良好にするのは、唯一糖質制限食だけです。
糖質制限食VSカロリー制限食(高糖質食)
どちらがリーズナブルか、糖尿人の皆さんよくよくお考えくださいね。
**
なお米国のHbA1c値は、国際標準のNGSP値です。
同一の検体で測定すると日本のJDS値より0.4%高値になります。
つまり<NGSP値6.4%=JDS値6.0%>です。
江部康二
☆☆☆☆☆参考
m3.com 臨床トピックス 2011年6月30日 より転載
第71回 米国糖尿病学会(ADA2011) 【開催期間:2011年6月24日~28日】
血糖値が目標値を超えて著しく低下すると死亡リスク上昇:ACCORDのSMBGサブ解析
2型糖尿病患者を対象に強化療法と標準療法を比較したACCORDでは、強化療法群で死亡リスクが有意に上昇したが、その理由として強化療法群では重度低血糖が高頻度で発現したことが指摘されている。今回、米国ミネアポリスのRichard M. Bergen氏らは、ACCORD参加者の血糖自己測定(SMBG)のデータを解析し、その結果を第71回米国糖尿病学会学術集会の最終日(6月28日)に行われたLate Breaking Clinical Studiesで報告した。
--------------------------------------------------------------------------------
本研究の対象はACCORDの参加者10,251例のうち、少なくとも180日分のSMBGデータが得られた5,347例(52.2%)とした。対象の背景を見ると、SMBGデータが十分に得られなかった集団と比べ、地域の偏りは大きかったが、年齢、性別、糖尿病罹病期間、HbA1cなどは比較的マッチしていた。なお、SMBGデータが測定された期間は平均で約2年間であった。
対象のうち、強化療法群は2,691例、標準療法群は2,656例で、強化療法群では標準療法群と比し、SMBGが測定された日数(762.3日 vs 683.2日)、1日の測定回数(2.7回 vs 2.0回)が有意に多く、血糖値(126.0mg/dL vs 157.6mg/dL)、HbA1c値(6.7% vs 7.7%)は有意に低かった(いずれもp<0.0001)。
1日の血糖値の変動をみると、両群ともに夜間から早朝にかけて低下し、早朝から日中を通じて徐々に上昇するサイクルを示した。しかし、1日のいずれの測定ポイントにおいても強化療法群の血糖値は標準療法群に比べて有意に低かった(p<0.0001)。また、少なくとも1回の低血糖を経験した集団では夜間から早朝にかけての血糖値の低下幅が大きく、死亡例ではその変化がさらに急激であった。
低血糖(<70mg/dL)の頻度は、強化療法群で標準療法群に比べて約3倍高く、高血糖(>200mg/dL)は標準療法群で強化療法群に比べて約2倍多かった。また、死亡リスクは強化療法群では低血糖を経験した集団で高く、標準療法群では低血糖あるいは高血糖を経験した集団で高かった。
こうした結果を踏まえてBergen氏は、血糖コントロールを安全に行うためのポイントとして、「血糖値やHbA1c値が目標値から著しく低下した場合には、治療の強度を緩め、低血糖が起こらないようにすることが重要」と述べて講演を終えた。
山岸 倫也(医学ライター)
2008年の米国糖尿病学会学術集会で、ACCORDという大規模臨床試験の結果が報告されました。
ハイリスクな糖尿病患者を対象に、HbA1cの目標値を従来より低く設定して厳格な血糖管理を行い、大血管合併症予防効果を検討した試験でした。
大血管合併症とは、心・脳血管の障害で心筋梗塞や脳卒中のことです。
その結果は、予想を大きく覆し、有意な大血管障害予防効果は、証明できませんでした。しかも「厳格血糖管理群」の死亡率が、「通常血糖管理群」を上回るという、衝撃的な結果となりました。
ACCORDは、米国とカナダの77施設から10251例が登録されました。
厳格血糖管理群の目標HbA1cは6.0%未満、予定追跡期間は5年間でした。
しかしながら、2008年2月、ACCORDの厳格血糖管理群における総死亡率および、心血管死亡率が通常血糖管理群を有意に上回ることが確認され、同試験は期間満了を待たずに平均追跡期間3.4年で中止となりました。
中止時の平均HbA1cは厳格血糖管理群6.4%、通常血糖管理群7.5%でした。
総死亡のリスク比は、厳格血糖管理群が通常血糖管理群の1.22倍、心血管死は1.35倍で、いずれも統計的に有意の差がありました。
単純に考えたら
「インスリ注射や内服薬で厳格な血糖管理をしたらかえって死亡率が上昇する」
というとんでもない結論になります。
このACCORD試験の死亡リスクと低血糖のSMBG(血糖自己測定)サブ解析結果が、2011年6月開催の第71回 米国糖尿病学会で報告されました。
強化療法群では標準療法群と比し、SMBGで測定した血糖値は有意に低く(126.0mg/dL vs 157.6mg/dL)、
HbA1c値(6.7% vs 7.7%)も有意に低値でした。
1日の血糖値の変動をみると、両群ともに夜間から早朝にかけて低下し、早朝から日中を通じて徐々に上昇するサイクルを示しました。
1日のいずれの測定ポイントにおいても、強化療法群の血糖値は、標準療法群に比べて有意に低値でした。
また、少なくとも1回の低血糖を経験した集団では、夜間から早朝にかけての血糖値の低下幅が大きく、死亡例ではその変化がさらに急激でした。
低血糖(<70mg/dL)の頻度は、強化療法群で標準療法群に比べて約3倍でした。
死亡リスクは、強化療法群では低血糖を経験した集団で高くでました。
報告したBergen氏は、血糖コントロールを安全に行うためのポイントとして、
「血糖値やHbA1c値が目標値から著しく低下した場合には、治療の強度を緩め、低血糖が起こらないようにすることが重要」
と述べました。
結局、低血糖を防ぐことが、死亡リスクを減らすことにおいて最も重要という結論です。
この結論は
「強化療法を行ってインスリンやSU剤などで厳格にHbA1cを6.4%ていどに下げるように管理すれば死亡リスクが上昇する」
と、認めているに等しいですね。
結局、カロリー制限が主体の従来の糖尿病食(高糖質食)では、薬物療法を強化して血糖コントロールを良くしようとすれば、必ず低血糖の確率が増加します。
しかも、強化療法をしていても、糖質を一定量以上摂取すれば食後高血糖を起こす可能性も高いです。
食後高血糖が、大血管障害に強く関与していることは、複数の研究で明らかになっています。
糖質・脂質・タンパク質の中で食後高血糖を起こすのは、糖質だけです。
薬物に頼らずに、血糖コントロールを保ちHbA1c値を良好にするのは、唯一糖質制限食だけです。
糖質制限食VSカロリー制限食(高糖質食)
どちらがリーズナブルか、糖尿人の皆さんよくよくお考えくださいね。
**
なお米国のHbA1c値は、国際標準のNGSP値です。
同一の検体で測定すると日本のJDS値より0.4%高値になります。
つまり<NGSP値6.4%=JDS値6.0%>です。
江部康二
☆☆☆☆☆参考
m3.com 臨床トピックス 2011年6月30日 より転載
第71回 米国糖尿病学会(ADA2011) 【開催期間:2011年6月24日~28日】
血糖値が目標値を超えて著しく低下すると死亡リスク上昇:ACCORDのSMBGサブ解析
2型糖尿病患者を対象に強化療法と標準療法を比較したACCORDでは、強化療法群で死亡リスクが有意に上昇したが、その理由として強化療法群では重度低血糖が高頻度で発現したことが指摘されている。今回、米国ミネアポリスのRichard M. Bergen氏らは、ACCORD参加者の血糖自己測定(SMBG)のデータを解析し、その結果を第71回米国糖尿病学会学術集会の最終日(6月28日)に行われたLate Breaking Clinical Studiesで報告した。
--------------------------------------------------------------------------------
本研究の対象はACCORDの参加者10,251例のうち、少なくとも180日分のSMBGデータが得られた5,347例(52.2%)とした。対象の背景を見ると、SMBGデータが十分に得られなかった集団と比べ、地域の偏りは大きかったが、年齢、性別、糖尿病罹病期間、HbA1cなどは比較的マッチしていた。なお、SMBGデータが測定された期間は平均で約2年間であった。
対象のうち、強化療法群は2,691例、標準療法群は2,656例で、強化療法群では標準療法群と比し、SMBGが測定された日数(762.3日 vs 683.2日)、1日の測定回数(2.7回 vs 2.0回)が有意に多く、血糖値(126.0mg/dL vs 157.6mg/dL)、HbA1c値(6.7% vs 7.7%)は有意に低かった(いずれもp<0.0001)。
1日の血糖値の変動をみると、両群ともに夜間から早朝にかけて低下し、早朝から日中を通じて徐々に上昇するサイクルを示した。しかし、1日のいずれの測定ポイントにおいても強化療法群の血糖値は標準療法群に比べて有意に低かった(p<0.0001)。また、少なくとも1回の低血糖を経験した集団では夜間から早朝にかけての血糖値の低下幅が大きく、死亡例ではその変化がさらに急激であった。
低血糖(<70mg/dL)の頻度は、強化療法群で標準療法群に比べて約3倍高く、高血糖(>200mg/dL)は標準療法群で強化療法群に比べて約2倍多かった。また、死亡リスクは強化療法群では低血糖を経験した集団で高く、標準療法群では低血糖あるいは高血糖を経験した集団で高かった。
こうした結果を踏まえてBergen氏は、血糖コントロールを安全に行うためのポイントとして、「血糖値やHbA1c値が目標値から著しく低下した場合には、治療の強度を緩め、低血糖が起こらないようにすることが重要」と述べて講演を終えた。
山岸 倫也(医学ライター)
こちらの記事、参考になりました!
ありがとうございます。
ありがとうございます。
2011/07/18(Mon) 20:47 | URL | こころ | 【編集】
はじめまして。
私はもともと過食の気があって、糖質制限しても1日ものすごいカロリー摂取をしてしまいます。3000~6000キロカロリー・・・
くるみや高野豆腐、チーズが大好きなんです。
糖質制限をしていても、やっぱりカロリーの取り過ぎは肥満の原因になりますか???
私はもともと過食の気があって、糖質制限しても1日ものすごいカロリー摂取をしてしまいます。3000~6000キロカロリー・・・
くるみや高野豆腐、チーズが大好きなんです。
糖質制限をしていても、やっぱりカロリーの取り過ぎは肥満の原因になりますか???
まーやん 様
「糖質制限食+普通のカロリー」で肥満は解消します。
一方、3000~6000キロカロリーは、多過ぎますので、痩せにくいと思います。
「糖質制限食+普通のカロリー」で肥満は解消します。
一方、3000~6000キロカロリーは、多過ぎますので、痩せにくいと思います。
2011/07/19(Tue) 10:14 | URL | ドクター江部 | 【編集】
1日12時間くらい肉体労働をしていて、身長163cm57kgなのですが、この条件で一般的な摂取カロリーはだいたいで何キロカロリーくらいでしょうか????
2011/07/19(Tue) 12:32 | URL | まーやん | 【編集】
まーやん 様
「必要カロリー 計算」で検索すると出てくるサイトで
身長、年齢、標準体重、労働強度・・・などを入力したら、必要カロリーがでると思います。
「必要カロリー 計算」で検索すると出てくるサイトで
身長、年齢、標準体重、労働強度・・・などを入力したら、必要カロリーがでると思います。
2011/07/19(Tue) 16:17 | URL | ドクター江部 | 【編集】
「糖質制限食+普通のカロリー」頑張ります!!
江部先生
ソフトバンク新書、早速買わせていただきます。
さて、私ですが、糖質制限を開始し、2週間ほどで8,9キロ減りました。(もっとも開始前が117キロと強烈でしたが。身長は181センチ)
しかし、血糖値が空腹時で150と余り減りません。薬物は、メトグルコを1日1000ミリ、ジャヌビアを50ミリ飲み続けています。
友人の糖尿病専門医(彼は、先日私が糖質制限をカミングアウトしても、専門医にしては珍しくアンチじゃありませんでした)は、「体には防御反応があるから、
まだ下がらないんだ」と言っていました。
私は、もう少し(薬も飲んでいるのだし)ドラスティックに下がってほしいきがするのです。
お考えをお聞かせ願えると幸いです。
ソフトバンク新書、早速買わせていただきます。
さて、私ですが、糖質制限を開始し、2週間ほどで8,9キロ減りました。(もっとも開始前が117キロと強烈でしたが。身長は181センチ)
しかし、血糖値が空腹時で150と余り減りません。薬物は、メトグルコを1日1000ミリ、ジャヌビアを50ミリ飲み続けています。
友人の糖尿病専門医(彼は、先日私が糖質制限をカミングアウトしても、専門医にしては珍しくアンチじゃありませんでした)は、「体には防御反応があるから、
まだ下がらないんだ」と言っていました。
私は、もう少し(薬も飲んでいるのだし)ドラスティックに下がってほしいきがするのです。
お考えをお聞かせ願えると幸いです。
しゅん さん。
本のご購入予定、ありがとうございます。
「インスリン分泌不足+インスリン抵抗性」→インスリン作用不足→糖尿病発症
となります。
糖質制限食で膵臓が休養できるので、疲弊していたβ細胞が回復すれば、
あるていどインスリン分泌不足が改善します。
また体重が減少していけばインスリン抵抗性も減少します。
このまま、経過をみられていいと思います。
1~2ヶ月で、空腹時血糖値ももう少し改善する可能性があります。
本のご購入予定、ありがとうございます。
「インスリン分泌不足+インスリン抵抗性」→インスリン作用不足→糖尿病発症
となります。
糖質制限食で膵臓が休養できるので、疲弊していたβ細胞が回復すれば、
あるていどインスリン分泌不足が改善します。
また体重が減少していけばインスリン抵抗性も減少します。
このまま、経過をみられていいと思います。
1~2ヶ月で、空腹時血糖値ももう少し改善する可能性があります。
2011/07/20(Wed) 08:56 | URL | ドクター江部 | 【編集】
江部先生
早速のご回答を有り難うございました。
そうですね。もう少し様子を見てみます。
またご報告させていただきます。
早速のご回答を有り難うございました。
そうですね。もう少し様子を見てみます。
またご報告させていただきます。
| ホーム |