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満腹感と空腹感・2011年
こんにちは。

今日も春らしい一日の京都です。

今回は、復習を兼ねて満腹感と空腹感について考えて見ます。

高雄病院では、1984年から、絶食療法(断食療法)を病気治療の一環として導入していますが、こちらも玄米魚菜食と共に病院としては、珍しい取り組みでした。患者さんに断食してもらうなら自らもということで、早速試してみました。

最初の二日間は、午前中立ち眩み・脱力感がありましたが、三日目はそこそこの健康状態でした。

それでも血糖値は35mg/dlと、ビックリするような数値が記録されました。

普通なら意識不明で昏睡のレベルですが、断食中は血中ケトン体(脂肪の代謝産物)が高値となり、脳の主エネルギー源となるので、大丈夫なのです。

脳はケトン体を利用するという事実を、34才当時、既に自らの人体実験で証明していたみたいです。

記念すべき第1回目の断食は、水だけは飲むけれど、摂取カロリーはゼロカロリーで、塩分もなしという厳しい本断食でした。

断食中悟ったことは「空腹感と食欲とはどうやら別物ではないか」ということでした。

三日目ともなると空腹感は全くないのですが、頭の中にはいろんな食物が自然に浮かんできて、ふと気付くとよだれが出ていたりするのには閉口しました。

テレビコマーシャルの実に半分以上が、食品の宣伝であるのもこの時認識しました。

またゼロカロリーは勿論つらいものですが、塩分なしというのも脱力感やボーっとした感じにかなり影響します。

まずは、私の体験なのですが、空腹感はなくても、食べたいという欲求はしっかりあるということです。

さて、今回のブログ「満腹感と空腹感」は、

東京都神経科学総合研究所のホームページを参考にさせていただきました。
http://www.tmin.ac.jp/medical/12/feeding1.html

東京都神経科学総合研究所のホームページによると、古典的な説では、

①血糖値の上昇
②胃壁の拡張による迷走神経刺激

①②が視床下部の満腹中枢に伝わって満腹感が生じるとされてきました。

最近はこれに加えて、

「脂肪細胞の分泌するレプチンや摂取したアミノ酸も満腹中枢に影響をあたえる。」

とか

「視床下部に摂食に関連する神経ペプチドが多種存在する。」

とか、いろいろ複雑になってきているそうです。

要するに案外、満腹感に関して、きっちり理論的に説明できているわけではないようです。

人間はともかくとして、ライオンなどの肉食獣は、血糖値が上昇しなくても満腹になりますよね。また、牛や馬といった草食獣も、血糖値が上昇することはありませんが、満腹になります。

人類も農耕前の399万年間は、血糖値の上昇はほとんどなくて満腹しています。伝統的食生活だったころのイヌイットも4000年間、血糖値の上昇はなくても満腹しています。

そうすると、あくまでも仮説ですが、糖質制限食実践中の人、農耕前の人類、イヌイットにおいては、

「胃壁の拡張による迷走神経刺激」と「脂肪細胞の分泌するレプチンや摂取したアミノ酸」「視床下部に摂食に関連する神経ペプチド」

などが、満腹中枢に影響を与えていたと考えられます。

「血糖値の上昇」による満腹中枢の刺激というのは、人類においては農耕以後の比較的新しいシステムと考えられます。

糖質制限食実践中の人は、農耕前の399万年間のシステムにより、満腹感を得ていると考えられます。


空腹感の発生

満腹感に比べると、空腹感が生じる仕組みは、さらにわかっていないようです。

「血糖値が上昇していない」「胃壁が弛緩している」状態は、満腹感の裏返しなのですが、それだけでは空腹感が生じるには、不十分です。

確かに機能性低血糖症では血糖値が60mg/dl以下に下がって、異常な空腹感が生じることはあると思います。

しかし、正常人では、食後しばらくすると肝臓で糖新生をして、血糖値を一定レベルに保つので血糖値が60mg/dl以下に下がることはありません。

つまり、正常人では、血糖値が90mg/dlとかあっても、通常の空腹感を生じるわけです。

東京都神経科学総合研究所のホームページによれば、

「胃壁の弛緩も空腹感を生み出す直接的な刺激にもなっていないようです。実際に、食事の後ずいぶん時間が経って胃が空になっているはずなのに、遊びや仕事に熱中していると空腹を忘れるのはよく経験することです。血糖値が上昇せず、胃壁が弛緩している状態は空腹感を生み出すために必要ですがそれだけでは十分でないようです。しかし、それまで空腹だと感じていなくても、おいしそうな匂いを嗅いだり、他人が何かを食べるのを目撃したり、さらには食べ物の話をしたり、想像しただけで突然、猛烈な食欲に襲われることがあります。したがって、食欲は空腹時に、なんらかの食物に関連した刺激が加わることによって誘導されると考えた方が正しいかもしれません。つまり、視覚、聴覚、嗅覚などを介した食物刺激や食物に関する想いが脳を刺激し、食欲を生み出すと考えられるのです。ただし、満腹の時には、このような刺激に反応しないどころか時に嫌悪感を抱くことさえあります。」

「摂食に関連する機能には脳の様々な領域が関係します。一番最初に述べた食欲(空腹感)の発現には大脳新皮質の扁桃体(好き嫌いの決定)や前頭前野(意欲の発現)が関係すると言われています。また食物刺激の受容には視床や大脳新皮質の味覚野、視覚野、聴覚野などが関わります。また摂食の際の咀嚼・嚥下には下位脳幹の運動ニューロンが関係しますし、延髄から伸びる迷走神経は胃腸の蠕動運動や消化活動を調節します。このように摂食促進作用には単に視床下部だけでなく広範囲の脳の領域が関係します。」

結局、空腹感というのはまだ仮説のようですが、ベースに「血糖値が上昇していない」「胃壁が弛緩している」という状態があって、視覚・聴覚・嗅覚などを介した様々な食物刺激や食物に対する想いが、単に視床下部だけでなく広範囲な脳の領域に影響を与えて、生じるということになりますね。

まあ、私の断食体験では、刺身やステーキを食べたいという個別の食品に対する欲求は、断食中にも湧いて来るのですが、いわゆる「腹、減ったー!何でもいいから食べたい。」といった空腹感は、断食中にはなくなるのですが・・・。


江部康二

テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
No title
唐突で申し訳ないですが質問させて下さい。
糖尿発覚とともに糖質制限を始めました。
糖尿病発覚時   ヘモグロビンA1cは5.2
            空腹時血糖77
糖質制限二ヶ月後   ヘモグロビンA1c4.6
              空腹時血糖105

ヘモグロビンA1cの改善は素直に嬉しかったのですが、空腹時血糖の上昇にとても落ち込みました。
この悪化は何を意味しているのでしょうか?
スーパー糖質制限を実施中ですが、考えられることはありますか?
2011/04/11(Mon) 21:49 | URL | 匿名 | 【編集
BUN/クレアチニン比率
糖質制限を最近は楽しんでできるようになりました。
A1cは5.7から下がりませんので、次回はもっとがんばろうと思います。
さて、定期血液検査の結果ですが、分からない事があります。

クレアチニンは 0.65 (0.57-1.00) ・・正常 ()は正常値
BUN/クレアチニン比率が 28 (9-23)・・HIgh 異常値
との結果になりました。
早速調べましたら、ネットで「腎機能低下時高蛋白摂取」が1つの原因と書いてありました。
腎臓機能が低下しているということになりますか?
これ以上、タンパク質のとり過ぎをすると悪くなるのでしょうか?
A1cを下げようとすると、どうしてもタンパク質に偏ってしまいますが、どうしたら良いのか悩んでいます。
どうか、アドバイスをいただけますでしょうか?
2011/04/12(Tue) 07:40 | URL | usa | 【編集
余分なカロリーはどこへ?
江部先生初めまして。
糖質制限食を始めて2年ほどになります。(アトキンスからスタートしたので、スーパー糖質制限食です)

当初は減量目的でしたが、続けるうちに、年だから、体質だから、と諦めていた様々な体の不調が驚くほど軽減したので、これからもずっと続けて行こうと思っている者です。

体重は最初の1年ほどで20kg以上減りました。膝や腰の痛みがほとんどなくなり、髪や皮膚の状態もとてもよくなり、長年悩まされていた頭痛もほとんど起きなくなり、わずらわしいほどの飛蚊症もほとんど気にならないレベルになりました。

先生のブログや本を読んでいつもなるほどなるほどと思いながら参考にさせていただいているのですが、私の読み方や理解力が足りないせいだと思いますが、どうしてもわからないことがあるのです。

今は落ち着きましたが、順調に体重が減っていたころ、私はカロリー的にはものすごく食べていました。脂の乗ったお肉がおいしくて一食で300g、400g食べてしまったこともよくありました。そんなに食べていても太らない、適正体重をキープできる、ということは体感していますが、
私の場合まったく運動もしていなかったのに、食べた分のカロリーはどこに行ってしまったのかがいまだに疑問です。

食べた物のカロリーがすべて吸収されるわけでもないと思いますが、特にお腹を壊したわけでもないのに、必要分以外のエネルギーはどういった形で体から排出されるのでしょう?

ケトンで尿から出てしまう分だけでこんなにも減るものでしょうか?
尿のケトンは安定すると出なくなるということは、

体重が安定した今、以前よりカロリーを気にしていかないと体重は維持できないということなのでしょうか?

余分に取ったたんぱく質・脂肪がどういう形で体外に排出されるのか
教えていただけると、とても安心できます。よろしくお願いいたします。

2011/04/12(Tue) 08:08 | URL | gedda | 【編集
Re: No title
匿名 さん。

HbA1c即ち、過去1~2ヶ月の平均血糖値は、しっかり改善ですので、良いことと思います。
空腹時血糖値は、様々な要因でばらつきますので、一喜一憂はいりません。
例えば睡眠がいつもより短い程度でも20~30mgくらいは上昇しますので。
2011/04/12(Tue) 08:39 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: BUN/クレアチニン比率
usa さん。

BUN/クレアチニン比率が高いのは、腎機能以外の因子によるBUN高値を示しています。
高タンパク食でBUNがやや高値となることがありますが、この場合クレアチニンは正常です。
usa さんも、クレアチニンが正常値なので、腎機能は大丈夫です。
このまま糖質制限食で大丈夫です。
2011/04/12(Tue) 08:51 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 余分なカロリーはどこへ?
gedda さん。

糖質制限食で、適正体重になります。
太った人は減量で、痩せすぎた人は増加です。
糖質制限食で基礎代謝が増加することが、太った人が痩せる一番の要因と思います。

表紙、向かって右側の、月別アーカイブにある2010-11-30の本ブログ記事
「糖質制限食でなぜやせる?2010年11月30日」
をご参照ください。
2011/04/12(Tue) 09:02 | URL | ドクター江部 | 【編集
ホッとしました
先生、本当にありがとうございました。また明日から糖制限がんばろう!
と元気になりました。
2011/04/12(Tue) 09:26 | URL | usa | 【編集
Re: 画面の色など
サヌカイト さん。

善処しますので。
2011/04/12(Tue) 12:22 | URL | ドクター江部 | 【編集
糖質制限9か月です
夫が先生のご著書と出会い、その日のうちに糖質制限食を始めて9か月経ちました。昨日の血液検査でA1cが「5.6」とでたそうです。半年ぶりの血液検査でした。始めて3カ月後(半年前)は「6.3」でした。糖質制限を始める前は「9.1」でした。6カ月くらい前より、昼食だけは少しご飯を食べています。朝食と、夕食は炭水化物をとっていません。A1cが正常に近づいていくにつれ、顔色がみるみる良くなり、今では元気いっぱいです。食べたいものも制限して運動していた頃は、見ていて本当にかわいそうでした。今は大好きなお肉を毎日がっつり食べています。このままの食事を続けていけば大丈夫でしょうか?近くに江部先生の療法を理解していただける先生がいないので、主治医には糖質制限のことを伝えていません。よろしければ、コメントお願いします。
2011/04/12(Tue) 15:15 | URL | はらまき | 【編集
Re: 糖質制限9か月です
はらまき さん。

拙著のご購入ありがとうございます。
また、糖質制限食でHbA1c9.1→5.6%と改善し元気いっぱい、良かったですね。
いまやコントロール良好ですね。この調子を保っていけば合併症の進行はないです。
つらくなければ、スーパー糖質制限食で三食主食なしが、ブドウ糖スパイクゼロなので、
一番お奨めですね。1回の糖質量を10~20gまでが目標です。

一方、サラリーマンの場合は昼食は弁当や定食が多くて、主食抜きが結構大変です。
グルコバイあるいはグルファストを昼食前30秒くらいに内服して、弁当のおかずは全部食べて、
ご飯を1/3くらい食べるという技もあります。
2011/04/12(Tue) 16:04 | URL | ドクター江部 | 【編集
No title
初めてメールさせて頂きます。
然し乍ら、名古屋の佐橋さん主催の後援会また、先生の御執筆の著作本等は、すべて拝読させていていただきました。
その結果、糖質制限食を続けている限りは、毎日絶好調の健康体です。
さて、今回メールさせて頂きましたのは、義妹のことです。
今回の検査で、3度目の乳がんが発見されました。
一度目は、手術と抗がん剤(頭髪が全部抜ける)
2度目は、手術のみ(毛髪がぬけるのを極度に嫌う)
今回は、まだ小さく転移性のものでないらしいのです。
ブログ等拝見しておりますと、癌の餌は糖質のように思われます。
そこで、スーパー糖質制限で癌に効果があるように思われますがいかがでしょうか?
又、通常の治療を受けながら制限食をした方が良いか甚だ乱暴な質問になりますが、ご教導ください
2011/04/13(Wed) 13:23 | URL | やっチャーム | 【編集
糖尿病と癌(7)
やっチャームさんへ

画面右側インデックスの【カテゴリー】のなかに、 
「糖尿病と癌(7)」という項目があります。
参考にされてはいかがでしょうか。

 暁現象 (5)
 糖尿病と癌 (7)
 イヌイット (4)

  ※暁現象(5)と、イヌイット(4)の間にあります。

なお「糖尿病と癌(7)」のなかにまとめれれている、
【糖質制限食と癌①】で、ご質問に関連する見解・仮説を述べておられます。
2011/04/14(Thu) 10:29 | URL | ヘティ | 【編集
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