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米国糖尿病食事療法の変遷
こんばんは。

今回は復習を兼ねて米国における糖尿病食事療法の変遷を概観してみました。

1900年代初期までは米国では糖尿病食としては、糖質制限食が主流でした。

この頃すでに、食後血糖値を上昇させるのは、3大栄養素のなかで主として糖質であるということが、認識されていたからです。(☆)

例えば、糖尿病学の父と呼ばれるジョスリン博士が執筆された「ジョスリン糖尿病学」の初版は1916年出版ですが、炭水化物は総摂取カロリーの20%が標準と記載してあります。

1921年にカナダの整形外科医フレデリック・バンティングと医学生チャールズ・ベストがインスリンの抽出に初めて成功しました。

1922年に当時14才の1型糖尿病患者に初めて注射し、血糖コントロールに成功しました。

1型糖尿病はインスリンの登場までは、診断後平均余命6ヶ月の致命的な病気でしたが、インスリンにより生命を保つことが可能となりました。

その後、インスリンを注射しておけば糖質を摂取しても血糖値が上昇しないことが、徐々に周知されるようになりました。

その結果、正常人なみに糖質を食べても、インスリンさえ打っておけばいいという流れとなっていき、米国糖尿人の糖質摂取量は徐々に増えていきました。

ADA(米国糖尿病協会)ガイドラインが初めて制定されたのが1950年です。

上述の流れを受けて、第一回目のガイドライン制定時には、ADAは総摂取カロリーに対して、炭水化物の摂取量を以前より増やしました。

1950年のガイドラインでは炭水化物40%を推奨。
1971年のガイドラインでは炭水化物45%に増えました。
1986年のガイドラインでさらに炭水化物60%と増加。
1994年のガイドラインでは、総摂取カロリーに対してタンパク質10~20%という規定がありますが、炭水化物・脂質の規定はなくなりました。
1994年のガイドラインの時、オリーブオイルたっぷりの地中海食も選択肢に加わわりました。
*1994年以降、ガイドラインでは炭水化物と脂肪のカロリー比を固定しなくなりました。

2004年米国糖尿病協会の患者用テキストブックは
「血糖値を上昇させるのは、糖質だけで、タンパク質・脂質は上昇させない」という記載に1997年版から変更しました。(☆☆)

2005年、ボストンのジョスリン糖尿病センターは、炭水化物の推奨量を40%に下げました。
(Joslin Diabetes Mellitus 第14版、2005年、616ページ)
ジョスリン糖尿病センターは、全米で最も評価の高い糖尿病治療センターの一つです。

さらにADA(米国糖尿病協会)栄養勧告2008には

「糖質のモニタリングは血糖管理の鍵となる」

とgradeAで推奨され、

「減量が望まれる糖尿病患者には低カロリー食、もしくは低炭水化物食によるダイエットが推奨される」
(☆☆☆)

と低糖質食を一定支持する見解が初めてだされました。

2007年以前の栄養勧告では、全て低糖質食に否定的な見解でした。

現在米国では

①従来のカロリー制限食(糖質60%)→日本糖尿病学会推奨の糖尿病食と同じ
糖質管理食(糖質の摂取量を計算し、インスリンの量を決めるなどに役立つ)
③地中海食(オリーブオイルたっぷりで脂質が多い)
④低糖質食(糖質制限食

の4つの選択肢があります。

④は、バーンスタイン医師の推奨する、糖質摂取を「朝6g、昼12g、夕12g」という厳しいパターン(糖質が総摂取カロリーの10%以下)と総摂取カロリーの40%ていどが糖質という緩いパターンまで幅があります。

おもしろいことに、米国でも糖尿病専門医はまだ①を推奨する人が多いようですが、一般の医師は④推奨(緩い糖質制限食)が増えつつあるようです。また、全米最大の患者会は④推奨(緩い糖質制限食)のようです。

なお1型糖尿病は、米国では糖尿病専門医も一般の医師も②が標準治療食です。

日本糖尿病学会の2010年のガイドラインでは、相変わらず糖質制限食はおろか、糖質管理食でさえも一言も触れておらず、ADA2008年度実施臨床勧告との相違が目立ちます。

次回は、日本の糖尿病食の変遷について考察してみます。


(☆)この頃はおそらく「糖質は100%、タンパク質が50%、脂質が10%未満血糖に変わる」という米国糖尿病協会1997年版の患者用テキストブックと近い認識だったと思われます。

(☆☆)米国糖尿病協会2004年版のテキストブック
Life With Diabetes:A Series of Teaching Outlinesby the Michigan Diabetes Research and Training Center,ADA,3rd Ed,2004


(☆☆☆)Nutrition Recommendations and Interventions for Diabetes.A position statement of ADA. Diabetes Care,31:S61-S78,2008


江部康二
テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
1950年代の方が健康的!
時系列を追うと、インスリン注射に頼ると不健康な食事になったことが歴然ですね!
次号の「日本編」も楽しみにしてます!!!
2011/01/20(Thu) 18:37 | URL | らこ | 【編集
米国の変遷について
早速ご掲載いただき有り難うございます。よく理解できました。

戦後は糖質摂取率が次第に緩和されてきた流れにあるのは、日本においては国民が「甘い物に飢え」、例えば和菓子業界が「甘さの追求の歴史」をたどってきたのに似た状況だったのかも、と感じました。

また米国が多様な民族社会であるのを思えば、選択肢が多いのも納得できます。
ただ、近年まで一貫しで低糖質食に否定的だった根拠は何か、と疑問がわきます。栄養のバランスと言う事なのでしょうか。

やはり、日本の学会に動きが見られないのは心外ですね。独自の指針を出したいプライドなのでしょうか。
私が今定期的に検診している病院に、検査技師(にして医学博士)をしている友人がいるのですが、彼も「医療ビジネスの維持本能」と「怠慢」を指摘しています。
悲しいかな、頗る納得できます。
それだけに、先生を筆頭に啓蒙的な活動をされている一部の方に敬意を感じています。

次号を期待しております。有り難うございました。
2011/01/21(Fri) 03:38 | URL | 倉沢 蹊 | 【編集
高雄病院
仙台のきょんさん。

高雄病院に勤務していただけば、
いつでも診察できますので。
2011/01/21(Fri) 16:47 | URL | ドクター江部 | 【編集
定期検査の間隔について
初めまして、「我ら糖尿人、元気なのには訳がある」を拝見し、糖質制限を始めて2ヶ月になります、42歳の女です。
去年11月に3年ぶりに健診を受けたところ、空腹時血糖188 HbA1c9.2
尿糖+4 尿ケトン+4 で
2型糖尿と診断されました。
大学病院にて即入院とインスリン注射をすすめられましたが拒否し、ジャヌビアと糖質制限で
12月13日の検査では食後2時間半血糖値 132 HbA1c 8.5になりました。(尿糖+2,尿ケトン±)
しかし坑GAD抗体5.7で1型に診断変更になり、さらに強くインスリン注射をすすめられましたがどうしても嫌で拒否。
そして今年1月17日の検査では食後1時間半血糖値が
177 HbA1c 6.5にまでなりました(尿糖+2、尿ケトン±)が、担当医師は血中ケトンが高いし1型だからとインスリン注射をすすめます…
ちなみに血中ケトンは
静血アセト酢酸 103
静血β酪酸 211 μmol/L
です。
江部先生のこのブログで勉強させていただいたので、生理的ケトン上昇だから問題ないと私は解っているのですが、なにせ大学病院の医師は聞き入れてくれません。
どうしてもインスリンが嫌なら毎月診察に来るように言われました。
諸事情で通院が大変なので、この際病院を変えようと思っているのですが、次の検査は何ヵ月後位が妥当と思われますでしょうか。
やはり1型だと小まめに検査を受けた方が良いのでしょうか…?
もちろん毎日自己測定しています。
こんな質問で恐縮ですが、ご意見うかがえればと思います。
よろしくお願いいたします。
2011/01/21(Fri) 21:31 | URL | みいこ | 【編集
Re: 定期検査の間隔について
みいこさん。

「我ら糖尿人、元気なのには理由がある」ご購入、ありがとうございます。

坑GAD抗体5.7で1型なら、ランタスという、長時間作用型のインスリンを、1日1~2回少量注射して、
早朝空腹時血糖値を100mgくらいに保ちたいですね。
そのほうが、膵臓の保護になります。
最終的には1型なら、1日4回注射の可能性はあり得るのですが、スーパー糖質制限食で、
ランタスだけで、コントロールがしばらくできる場合もあります。
2011/01/23(Sun) 19:40 | URL | ドクター江部 | 【編集
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