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生理的ケトン体上昇は安全、病理的ケトアシドーシスは危険
こんばんは。

朝から雨がしょぼついている京都です。

寒さはぼちぼちです。

さて今回は、はなながおじさんから、ケトン体についてコメント・質問をいただきました。

「10/12/11 はなながおじさん
ケトーシス
最近このブログを発見して、最初の更新から一気に読みました。それ以降毎日更新を楽しみにしています。
その中で、ケトーシスについて疑問に思ったことを質問させていただきます。
インスリンの分泌不足が原因で、グルコースを骨格筋などでエネルギーとして使用できなくなります。そのため血液中に脂肪酸が増加し、余った脂肪酸を肝臓で蓄えることが出来ず、ケトン体として血液中に放出されるためケトーシスが起こると解釈しています。ということは、インスリンには肝臓で脂肪酸を脂肪として蓄える作用があるということなのでしょうか?」


はなながおじさん様

インスリンは、中性脂肪の分解を抑制し、脂肪酸の合成を促進します。食事で得たブドウ糖は代謝を経て、脂肪酸合成の原料になります。

インスリンの作用により脂肪酸は血液中のグリセロールと合わさって中性脂肪として、脂肪細胞に蓄積されます。

インスリン本来の作用は、「筋肉・肝臓・脂肪細胞におけるエネルギーの蓄積」です。人類の進化の過程では、インスリンによるエネルギーの蓄積は大きな利点でした。

しかし、現在では、インスリンが肥満ホルモンと呼ばれる所以でもあります。

さて、ケトン体が現在の基準値より高値でも、インスリン作用が保たれていれば、生理的な現象であり、安全なものです。

例えば、断食中とかスーパー糖質制限食実践中のケトン値が基準値より高値なのは、この生理的なものです。

日常的に糖質を摂取している場合の血中ケトン体の現行基準値は、施設により差はありますが、『26~122μM/L 』くらいです。

日常的に糖質を摂取している人でも、これくらいの血中ケトン体は常に存在していて、心筋や骨格筋など多くの体細胞の主たるエネルギー源となっているのです。

つまり、人体のごく普通のエネルギー源であり、当然安全性は高いです。

どれくらい安全かを、もう一つのエネルギー源であるブドウ糖と比べてみると、わかりやすいですね。

絶食療法中やスーパー糖質制限食の初期には、血中ケトン体は、3000~4000μM/Lくらいに上昇し、現行基準値の30~40倍の高値になりますが、それ自体は、各細胞において全く安全なものです。 (^_^)

血糖値が、基準値の30倍で3000mg/dlになったらなんて、想像もできませんね。ヾ(゜▽゜)

一方、はなながおじさんご指摘のケトーシスは、病理的ケトアシドーシスのことと思います。

糖尿病ケトアシドーシス

糖尿病はインスリンの作用不足があり、細胞内にうまくブドウ糖が取り込めなくなる病気で、そのため慢性の高血糖状態が生じます。

高血糖にもいろんなレベルがありますが、非常に重症の糖尿病を考えてみましょう。

血糖値が300~500mg/dl以上もあり、口渇・多飲・多尿・腹痛・悪心・嘔吐・脱水・意識レベル低下、尿中ケトン体が強陽性などの症状・所見があれば、糖尿病性ケトアシドーシスと診断できます。

もちろん血中ケトン体も高値であり、生理的食塩水の点滴・速効型インスリンの静注など緊急的治療が必要となります。

糖尿病ケトアシドーシスは、インスリン作用の欠乏による全身の高度の代謝失調状態です。強調しますが、前提にインスリン作用の欠乏があり、それが全ての出発点です。

つまり、インスリン作用の欠乏がなければ、糖尿病ケトアシドーシスは絶対に起こらないのです。

『インスリン作用の極度の低下、インスリン拮抗ホルモンであるグルカゴン・カテコールアミン・成長ホルモンの過剰』

などにより、全身の高度の代謝失調、糖利用の低下・脂肪分解の亢進がおこり、高血糖と高遊離脂肪酸血症を生じます。

遊離脂肪酸は、インスリン欠乏下の肝では、急速な酸化をうけケトン体に分解されます。

インスリン作用欠乏から始まる流れ、

「インスリン作用の欠乏→拮抗ホルモンの過剰→全身の代謝障害→糖利用低下・脂肪分解亢進→高血糖・高遊離脂肪酸→ケトン体産生亢進」

があり、結果としてケトン体が産生されて高値となるわけです。

ケトン体高値は、始まりではなくて、あくまでも結果なのです。

このように糖尿病ケトアシドーシスの本質は、インスリン作用の欠乏による全身の高度の代謝障害です。

その結果として血中ケトン体が高値となり、全身の高度の代謝障害のため緩衝作用がうまく働かなければ、アシドーシスや脱水となり、重症では昏睡にいたります。

結果としてのケトン体高値が、まるで、始まりであり原因であるかのように本末転倒して受けとめられ、誤解が生じたものと考えられます。

インスリン作用が確保されていて、緩衝作用も働いている限りは、ケトン体は極めて安全な物質です。

しかし、インスリン作用が欠落していて、緩衝作用もうまく働かない病態においては、
ケトン体そのものに毒性はなくても、酸性の物質なので結果としてアシドーシスになるということです。

即ち現実には「糖尿病ケトアシドーシス時のケトン体産生の亢進」は、インスリン作用の欠乏が前提にある病態であり、1型糖尿病患者さんのシックデイやインスリン注射を中断したときに起こることがほとんどです。

2型糖尿病では、清涼飲料水多飲による、所謂「ペットボトル症候群」でケトアシドーシスを生じることがあります。

断食や 糖質制限食実践に伴う「生理的ケトン体産生の亢進」の場合は、インスリン作用の欠乏はありませんし、血液の緩衝作用も有効に作用していますので何の問題もありません。

例えば断食の初期は一過性にアシドーシスになりますが、緩衝作用で徐々に補正されていきます。

また、健常人が激しい運動をした場合にも、一過性に血中ケトン体は増加しますが、勿論、生理的現象です。


結論です。

インスリン作用が欠乏していて高血糖を伴う高度の代謝障害は、それ自体その時点で重症です。この時結果として血中ケトン体が上昇してくれば、アシドーシスも合併して、さらに危険な病態となります。

一方、インスリン作用が確保されていて高血糖を伴わない血中・尿中ケトン体の上昇は、生理的範囲内の現象であり、人類400万年の歴史のなかで日常的に経験されてきたことなので安全です。


江部康二

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
食事の偏り
宮本輝さんの著書の読者です。54才男性です。「錦繍」が最もお気に入りだったりします。宮本輝さんはあまり単行本など出してくれないので、正直「小説でないからあまり気乗りがしないなあ。」などと思いつつ『我ら糖尿人、元気なのには理由(ワケ)がある。』を購入しました。

実は2年前にダイエットに挑戦し、2ヶ月ほどで10kg位は減量できました。こんなに簡単に減量できるのならいつでもできる、などと訳の分からないこと言って3ヶ月ほどでやめてしまいました(^^;)当然のことながら「カロリー計算」によるものです。1日1500kcal以下を守って、しかも通勤は自転車で往復に40分ほど。夜はウォーキングや筋トレなど。そうそう私も土日の早朝には2時間ほどのテニスを楽しんでおりました。(これは今も楽しみでやっています。)充実した日々を送っておりました。食事の方は、当時流行りのバナナダイエットで朝食を摂るだけで60kcalほどでしたから、そんなに無理はしませんでしたが。
でもやっぱり物足りなさがあったのでしょう。肉もあまり食べないようにしていましたから。

しかし、『我ら・・・』を読んで、衝撃を受けました。カロリー制限によるダイエットの時代は終わった。真実は糖質制限にある。しかも、お肉も食べ放題?ときているのですから飛びつきたくなります。「あの宮本輝が言うんやから、間違いないやろ。」と思い込みます。宮本輝の鋭い質問に対し、的確に答える江部医師。なかなか面白く読ませてもらいました。

単純な私は早速始めます。朝はHBでつくったふすまパン、目玉焼き、ベーコン、サラダ、無糖ヨーグルト、といった大変豪華なモノになりました。昼は残念ながら小学校勤めですから給食を食べないわけにはいきません。しかし、誤魔化して牛乳を半分くらい残したり、誰かにご飯を半分くらい食べてもらったりしています。体質なのかこれまたすぐに痩せ始めます。ほぼ2ヶ月で8kgは減ったでしょうか。見た目にもお腹の出っ張りが少なくなってきました。それに何と言っても糖質制限の特典はダイエットだけではありません。血液の状態が良くなることでの恩恵ははかりしれません。特に私の両親は共に認知症で、ここ二年で二人ともあの世へ旅立ちました。私は勝手に「血液の流れが良くなることで、きっとぼけることもなくなるのだ。」と思い込んでいます。それに痒かった体も痒くなることが少なくなりました。

前置きが大変長くなりましたが、少々心配なことが出てきました。体重減少と共にテニスの動きは良くなり、何よりも疲労感がとても少なくなっていますが、ここ10日間ほど下痢気味であることが一つです。どちらかというと柔らかめが普通だったのですが、糖質制限を始めてからは堅めのモノがキッチリと出るようになっていました。しかしここ10日間ほどは夕食後に水っぽいモノが出ることが多いのです。日によってはそうでもないのですが、糖質制限との関わりがあるのかどうか。基本的に食いしん坊ですから、おやつにクルミやアーモンド、マカデミアナッツなどをポリポリと食べたりしています。入浴後はシャトレーゼの「糖質でお悩みの方のアイス」を必ず食べていますが。
最大の心配事は、肉は大丈夫ということで安心して夕食では必ず肉を主にして食べている毎日ですが、偏りすぎということはないのでしょうか。基本は肉+サラダ+豆腐+(焼き魚)です。何事においても偏りすぎは良くない、と言いますが糖質制限に関してはこれでOKなのかということが気になり始めているのです。
きっと江部先生は「それでいいのです!」と言ってくれるだろうと期待しながらの質問なのですが、ちょっと怖いというのも正直なところ。

大変お忙しいことだと思います。時間がおありでしたら教えていただけると幸せです。結構緊張してかなりの長文になってしまい申し訳ありません。
2010/12/13(Mon) 22:04 | URL | Dragon | 【編集
Re: お世話になります
pink さん。

早朝空腹時血糖値が、前の晩より高値なのは、暁現象と思われます。
2010-05-14のブログ
「寝る前の血糖値より朝の血糖値が高い・暁現象」をご参照ください。

まずは早朝空腹時血糖値126mg未満を目指したいですね。

グラクティブは継続的に内服しても大丈夫と思いますよ。
2010/12/14(Tue) 09:37 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 食事の偏り
Dragonさん。

本のご購入ありがとうございます。
糖質制限食に切り替えて便通が落ち着くまで、個人差がありますが、約3ヶ月です。

世界がん研究基金によれば、がん予防には
赤肉(牛・豚・羊)は週500g以下にという目標を推奨しています。
鶏肉や魚は摂取OKですので、日本人にはそんなにハードルは高くないと思います。
2010/12/14(Tue) 10:17 | URL | ドクター江部 | 【編集
No title
回答ありがとうございました。
これ以上どうしたら早朝空腹時が下がるのか・・よくわからないんです。

グラクティブは忘年会の日だけ~とか頓服で呑んでも効果がありますでしょうか?
2010/12/14(Tue) 12:35 | URL | pink | 【編集
Re: No title
pink さん。

グラクティブは頓服でもそれなりの効果はありますが、
早朝空腹時血糖値を下げるなら、毎日内服のほうがいいでしょう。
2010/12/14(Tue) 13:56 | URL | ドクター江部 | 【編集
夜間、早朝高血糖
夜間や早朝の高血糖はホルモンの時間に寄る分泌によるものらしく、食事制限だけではなかなか対処しづらい事も有りますね。もっとも、私の経験上に限ってですが、夕食に多量の油物を食べない(衣の薄い唐揚げなども含む)、夕食は夜10時より前に済ませる、夕食後の軽い運動を毎日する、夜の間食はしない、などで少しましになるように思います。心配事などの精神的ストレスを夜中まで抱え込んで眠れないと夜間高血糖が起きやすくなるようです。邪道と言われるかもしれませんが、夕食時間帯にメトホルミンを服用していると、早朝高血糖は起きにくい、あるいは少しましになるように思えました。ジャヌビアやグラクティブのようなシダグリプチンは一日一度服用ですので、朝服用よりも夕方服用の方が早朝まで血中濃度が保たれて早朝高血糖予防には良いかもしれませんね。これはまだ「自分人体実験」をしてませんので何とも言えないのですが。
以上、すべて私個人一人での経験ですので、統計的な意味はありませんが、ご参考になりますれば。
2010/12/15(Wed) 00:37 | URL | 境界人間 | 【編集
ありがとうございました
江部先生、境界人間さん、ありがとうございました。

なんとか主人に早朝空腹時が低くなるまでグラクティブを飲んでとお願いしてみようと思います。

お薬を夜に服用・・・と言う手もあったのですね。
試してみたいと思います。

油ものは白米を我慢して食べていないのでつらいそうです。
夕食後の運動は通勤で往復2時間歩いているので、これ以上は・・・と・・・
確かにかわいそうではあります。
これが私自信だったら(多分)頑張るとは思うのですが、糖尿人と自覚が薄い主人に今の制限・運動だけで精いっぱいみたいです。

色々とありがとうございました。
2010/12/15(Wed) 08:53 | URL | pink | 【編集
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