イヌイットの平均寿命は何故短い?、ミニスパイク、玄米魚菜食

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こんにちは。

神経内科医のnaoki さんから、イヌイットの平均寿命が短い理由などについて、コメント・質問をいただきました。


「10/09/06 naoki
質問3つ
はじめまして。 大変興味深く拝見しております。
先生に質問させていただくのはこのブログのコメントを使うのでよいのですか?
私は糖尿病は専門外の医師(神経内科)です。
抗加齢医学→溝口徹先生のオーソモレキュラー→糖質制限の話題→江部先生というルートでこのブログにたどり着きました。
ご著書の「主食を抜けば....」の2冊を先に拝読し、現在このブログの過去ログを読み進めております。

9/1からの記事を一気に拝見しました。
いくつかたまってきた疑問を列挙させて下さい。とても素人っぽい質問です(^_^;)。
すでに出た話題でしたら申し訳ありません。

その1:
今年2月15日の記事で最後に紹介されていた柴田博先生のホームページ「食肉の栄養知識」http://kumamoto.lin.gr.jp/shokuniku/eiyochisiki/nihon_ichi/index.html
内の■栄養素摂取の日米比較 で、イヌイット(いつ頃の年代のかは不明)が短命であること、その影響は魚油の摂りすぎ(??)というような記載がありました。
正しいご意見と思われますか? 

確かに人類の歴史において、食生活は長らく糖質制限状態だったわけですが、精製糖質過剰状態になった現代の方が、平均寿命は長いですよね。ご先祖様達が短命だったのは、もちろん飢餓(総カロリーの不足)や苛烈な生活環境、衛生状態などが影響しているのでしょうが。しかし、食生活が糖質制限状態で、かつ清潔・快適な環境で長期間過ごした集団が本当に最高に長い平均寿命(健康寿命)を達成できるかどうかの実証はこれからか.....
あ、これは質問というよりつぶやきです。

その2:
糖尿病がない人でも精製された糖質を摂取して生じる「ミニスパイク」。
具体的にはピークでどれくらいの血糖値、あるいは血糖上昇度を考えておられますか?
蛋白質もある程度は血糖値が(遅れて)上がるようですが、多量に食べても(普通に一回に摂取できる量なら)ミニスパイクというほどの上昇はない、と考えてよろしいですか?

その3:
高雄病院でアレルギー疾患の治療のために出されている給食(玄米魚菜食)の、糖質量、一日摂取カロリーの中の割合はどれくらいですか?
もし糖質20~30%なら、アレルギー疾患用の食事も、糖質制限食をベースとした一つのバリエーションということですね。
もし糖質50%以上なら....アレルギーの人だって糖尿病になる可能性があるから...どうでしょう?
肉食を禁じるのは実は健康上問題があるんですよね?そこをあえて禁じるほど玄米魚菜食というのはアレルギー疾患に本当に効果(か、効果があるというエビデンス)があるんでしょうか?(このへんはまったく不勉強です。お許し下さい。)
糖質制限だけでアレルギー疾患にも効果があれば面白いですね。


以上、まとまりがなくて申し訳ありません。
お時間に十分余裕があるときで結構ですのでよろしくお願いします。

患者さんで、DMの診断基準は満たさないけどお腹が出ていたり中性脂肪だけ高かったりする方、いっぱいおられます。食事のアドバイスが従来とがらっと変わることになりますので、最近この勉強にはまっています。自分でも実践中。検査値異常なし、標準体型、BMI20ですがこの3週間で2kgやせました。どこで下げ止まるか、体調不良が出ないか、実験です。
今後ともよろしくお願い申し上げます。長文ご容赦ください。」


naoki さん。
本のご購入ありがとうございます。

その1:
『今年2月15日の記事で最後に紹介されていた柴田博先生のホームページ「食肉の栄養知識」http://kumamoto.lin.gr.jp/shokuniku/eiyochisiki/nihon_ichi/index.html
内の■栄養素摂取の日米比較 で、イヌイット(いつ頃の年代のかは不明)が短命であること、その影響は魚油の摂りすぎ(??)というような記載がありました。 正しいご意見と思われますか?』


柴田博先生のご意見、イヌイット関連以外のかなりの部分に賛成なのですが、魚油の摂りすぎでイヌイットが短命というのは違うと思います。

柴田博先生のホームページ「食肉の栄養知識」http://kumamoto.lin.gr.jp/shokuniku/eiyochisiki/nihon_ichi/index.htm
『イヌイット(エスキモーと呼ばれたことがある)は、魚や海獣をもっぱら食べています。海獣も魚を常食としていますので、体の脂肪酸構成は魚のそれと近似しています。このイヌイットは、世界で最も短命な部族の一つなのです。脳出血や肺動脱出血で死ぬ人が多いのは血液が固まりにくくなっているためです。老化の早いこともよく知られています。最近わが国には、魚油は多く摂るほど体に良いと考えている人もいます。しかし、これはきわめて危険なことです。総脂肪には適正な量と適正な脂肪酸の割合があります。アメリカの目標、あるいは日本の現状を大きく逸脱した摂取は有害なのです。』

イヌイットの平均寿命が短いのは、脳出血や肺動脈出血?のせいではありません。脳出血の頻度は、当時のヨーロッパ人と差はありませんが、多くはありません。脳梗塞は、当時のヨーロッパ人と比べて、はっきり少なかったと報告されています。

イヌイットは、1900年代初頭までは生肉・生魚が主食で、まさに糖質制限食を実践していました。結果、心筋梗塞・糖尿病・癌などが極めて少なかったことが報告されています。しかし、平均寿命は短かったのです。理由は、乳幼児期の死亡が多いことが一番大きいと思います。

何故かといいますと、出産時の死亡、出産前後の死亡、幼児期の自然環境での事故死が非常に多かったのです。感染症での死亡もあります。

また、若者が猟での事故で死亡することも、たびたびありました。なにしろ、当時の死亡順位の一位は、事故死でした。

乳幼児や若者の死亡率が高いので、必然的に平均寿命は短くなります。

人類の進化の歴史で、農耕が始まる前の399万年間は、naokiさんのご指摘通り、イヌイットと同じような状況、さらに飢餓も日常的であり、当然、平均寿命は短かったと考えられます。

「食生活が糖質制限状態で、かつ清潔・快適な環境で長期間過ごした集団が本当に最高に長い平均寿命(健康寿命)を達成できるかどうかの実証はこれからか.....」

糖質制限食実践により、血液検査における動脈硬化のリスク要因、全てが改善します。全身の代謝と血流が改善します。

また、アジア型のガン(胃ガン、肝ガン、子宮頸ガンなど感染症)は兎も角として、世界ガン研究基金がしめす肥満と関係のあるガン(西欧型のガン)に関しては、予防効果が期待できます。大腸・食道・膵臓・腎臓・子宮体・乳腺のガンと胆のうガンです。

これらは、スーパー糖質制限食時代のイヌイットには、極めて少なかったガンです。動脈硬化とガンがあるていど予防できれば、寿命にはおおいに貢献しそうですが、これはまだまだ、あくまで仮説ですね。

その2:
糖尿病がない人でも精製された糖質を摂取して生じる「ミニスパイク」。
具体的にはピークでどれくらいの血糖値、あるいは血糖上昇度を考えておられますか?
蛋白質もある程度は血糖値が(遅れて)上がるようですが、多量に食べても(普通に一回に摂取できる量なら)ミニスパイクというほどの上昇はない、と考えてよろしいですか? 」


血糖値を急峻に上昇させるのは、糖質だけである。*
②タンパク質・脂質は血糖値を上昇させない。*
③追加分泌インスリンが大量に必要なのは、糖質だけである。
④タンパク質を摂取すると、少量の追加分泌インスリンがでる。
⑤脂質を摂取しても、追加分泌インスリンは、分泌されない。
糖質制限食で高血糖は改善するが、肝臓の糖新生などにより、低血糖にはならない。

*1997年版のLife With Diabetes(ADA)では、「タンパク質は約半分が血糖に変わり、脂質は10%未満が血糖に変わる」という記載がありますが、2004年版では削除されています。
1) Life With Diabetes:A Siries of Teaching Outlines by the Michigan Diabetes Research and Training Center,American Diabetes Assoiation ,3rd Ed,2004

糖質だけが血糖値を上昇させ、タンパク質、脂質は血糖値を上昇させないというのが、現時点でのADAの見解です。

体重64kgとして
①1gの糖質が、正常人の血糖値を約0.6~0.9mg上昇させます。
②1gの糖質が、2型糖尿人の血糖値を3mg上昇させます。
③1gの糖質が、1型糖尿人の血糖値を5mg上昇させます。

①に関しては、50gくらいまでの糖質ならだいたい、言えますが、200gの糖質を食べたら180mg上昇ということはでは、ありません。

また、20才くらいまでの、耐糖能が完全正常な人は、糖質100g食べても200g食べても、食後血糖値が140mgを超えることはまずありません。

しかし、30代、40代の正常人は、精製炭水化物だと、1gの糖質が、0.9mg血糖値を上昇させます。そうすると食後血糖値が160~170mgとなりえます。

私見ですが、140mgを超えるとグルコースミニスパイクですね。

その3:
「高雄病院でアレルギー疾患の治療のために出されている給食(玄米魚菜食)の、糖質量、一日摂取カロリーの中の割合はどれくらいですか?
もし糖質20~30%なら、アレルギー疾患用の食事も、糖質制限食をベースとした一つのバリエーションということですね。
もし糖質50%以上なら....アレルギーの人だって糖尿病になる可能性があるから...どうでしょう?
肉食を禁じるのは実は健康上問題があるんですよね?そこをあえて禁じるほど玄米魚菜食というのはアレルギー疾患に本当に効果(か、効果があるというエビデンス)があるんでしょうか?(このへんはまったく不勉強です。お許し下さい。)」


高雄病院の玄米魚菜食は、1200~1800キロカロリー/日です。男女差や身長で、適宜摂取カロリーを調整します。 玄米や野菜分の糖質が、50~60%になると思います。

病院給食の限界で、なかなか、糖質30~40%の玄米魚菜食とかは困難です。

まあ、未精製の穀物と野菜の糖質なので、GIは低いです。GIが低い分、ミニスパイクを起こしにくいと思います。

糖尿人ではGIはあまり役に立ちませんが、正常人では一定の意味があります。主食を未精製穀物にすることや運動で、将来の糖尿病発症予防にはなると思います。運動量に応じて、主食の量を加減する必要があると思います。

ここらあたりのことは、2007年10月06日 (土)のブログ「食育3・テーラーメードダイエット」をご参照いただけば幸いです。

玄米魚菜食でも、肉は適宜食べてもらっています。ただ牛肉は高価なので、鶏や豚がおおいです。個人的には、肉を禁じる必要はないと思っています。

優先順位の第一番に大切なのは、グルコースミニスパイクを生じないような食生活と考えています。



江部康二

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