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妊娠糖尿病の新診断基準決定とその過程2010
こんにちは。

日本糖尿病・妊娠学会では、2009年末から日本産科婦人科学会、日本糖尿病学会とも協議し、妊娠糖尿病の新診断基準を決定しました。新診断基準は、2010年7月1日から施行されました。

急なことだったので、いつから新診断基準に移行したのかよくわからずに、ブログ記事でも、内容が2転・3転して読者の皆さんにはご迷惑をおかけしました。

今回、新診断基準に移行する過程の全容がほぼ把握できましたので、報告いたします。

従来、妊娠糖尿病の診断基準は、各国ばらばらで、世界共通の診断基準は存在していませんでした。そのため、世界統一基準が求められていました。

今回、国際糖尿病・妊娠学会

[International Association of Diabetes and Pregnancy Study Groups(IADPSG)]

が提唱した世界統一基準は、2009年に報告されたHAPO studyの結果に基づいています。

HAPO studyは、米国立衛生研究所(NIH)のイニシアティブのもとで、7年間にわたり9カ国15医療センターで、非糖尿病妊婦23316人に対して、妊娠24~32週に75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行い、胎児の成長や分娩、産後のデータを前向き調査したものです。この研究には、香港とアジア系米国人も含まれています。

この結果、母親の血糖値の軽度の上昇でも、児のインスリン分泌や脂肪蓄積に影響を与えることが明らかとなりました。そのため、従来より広く妊娠糖尿病を拾い上げる新診断基準の必要性が生じたのです。

このようにして、2度の国際会議を経て、日本でも診断基準検討委員会が中心となり、国際糖尿病・妊娠学会(IADPSG)の新診断基準に基づく、新たな妊娠糖尿病診断基準の導入が決定されたわけです。


妊娠糖尿病・新診断基準> 2010年7月1日 施行

定義:

妊娠糖尿病gestational diabetes mellitus (GDM):妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病にいたっていない糖代謝異常である。妊娠時に診断された明らかな糖尿病(overt diabetes in pregnancy)は含めない。

診断基準:

妊娠中に発見される耐糖能異常hyperglycemic disorders in pregnancyには、
1) 妊娠糖尿病gestational diabetes mellitus (GDM)、
2) 妊娠時に診断された明らかな糖尿病overt diabetes in pregnancy
の2つがあり次の診断基準により診断する

1)妊娠糖尿病 (GDM)
75gOGTTにおいて次の基準の1点以上を満たした場合に診断する。

1.空腹時血糖値 ≧92mg/dl (5.1mmol/l)

2.1時間値 ≧180mg/dl (10.0mmol/l)

3.2時間値 ≧153mg/dl (8.5mmol/l)


2)妊娠時に診断された明らかな糖尿病 overt diabetes in pregnancy
以下のいずれかを満たした場合に診断する。

1.空腹時血糖値≧126mg/dl

2.HbA1C ≧6.5%(HbA1C (JDS) ≧6.1%)註1

3.確実な糖尿病網膜症が存在する場合

4.随時血糖値≧200mg/dlあるいは75gOGTTで2時間値≧200mg/dlの場合*

*いずれの場合も空腹時血糖かHbA1Cで確認


註1.国際標準化を重視する立場から、新しいHbA1C値(%)は、従来わが国で使用していたJapan Diabetes Society (JDS)値に0.4%を加えたNational Glycohemoglobin Standardization Program(NGSP)値を使用するものとする。

註2.HbA1C< 6.5%未満(HbA1C(JDS)<6.1%未満)で75gOGTT 2時間値≧200mg/dlの場合は、妊娠時に診断された明らかな糖尿病とは判定し難いので、High risk GDMとし、妊娠中は糖尿病に準じた管理を行い、出産後は糖尿病に移行する可能性が高いので厳重なフォローアップが必要である。
「日本糖尿病・妊娠学会」と「日本糖尿病学会」の両方が合意した基準ということになります。


註2についてですが、妊娠時には、インスリン抵抗性が非常に高まるので、糖代謝に大きな変化が起きてきます。
従って75gOGTT 2時間値が200mg/dl以上の場合でも、必ずしも糖尿病と断定できません。

このため、糖尿病と診断するためには、HbA1Cか空腹時血糖値で再チェックすることが必要なのです。

ただし、註2のパターンは糖尿病とは断定できませんが、高リスク妊娠糖尿病として、厳重な管理とフォローが必要となります。

従来の基準から、新診断基準に移行することにより、妊娠糖尿病の頻度は2.92%だったのが、4倍程度に増えると予想されます。

妊娠中は、通常より軽度の耐糖能異常でも検出できる特殊な状態です。妊娠糖尿病を従来より広く網をかけて、高リスク予備群を早く発見し、母子共に将来の糖尿病人口の増加をくい止めることが今回の改訂の狙いといえます。



江部康二
テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
Re: タイトルなし

オレンジさん。

妊娠中のサプリや内服薬に関しては、やはり産婦人科医にご相談いただけば幸いです。
2010/08/20(Fri) 18:51 | URL | ドクター江部 | 【編集
こんにちは
江部先生

こんにちは、内科大学院生です。

ご多忙の中、新基準についてきちんとまとめていただき、本当にありがとうございます。
ブログの皆様にもわかって頂けたと思います。

僕は周産期センターがある病院の外来をしているので、改定後、軽度妊娠糖尿病の患者さまの依頼が増えて、週に10人見ることもあります。

カロリー制限を栄養士から散々説明されてきているらしく、糖質制限を説明してもなかなか理解してもらえないことも多いです。結局赤ちゃんが小さくなりすぎて、たくさん食べてインスリンを打つというスタイルに切り変えた患者さんもいました。

僕も微力ながら、糖質制限を広められるように頑張りたいと思います。
(なお、私の医局では当然のようにカロリー重視の指導しかしません。糖質制限なんてものは・・・という扱いです(>_<))


内科大学院生
2010/08/20(Fri) 21:42 | URL | 内科大学院生 | 【編集
Re: タイトルなし
なつさん

糖質制限食とフェリチンに関して直接の関係はないと思います。
肝炎やリンパ腫などで上昇することもありますので、主治医とよくご相談下さい。


2010/08/21(Sat) 07:49 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: こんにちは
内科大学院生 さん。

いつもありがとうございます。

「僕は周産期センターがある病院の外来をしているので、改定後、軽度妊娠糖尿病の患者さまの依頼が増えて、週に10人見ることもあります。」

新診断基準で、早くも妊娠糖尿病の患者さんが増えているのですね。

糖質制限食、確実にゆっくりでもいいので、医学会にも広げていきたいものです。
2010/08/21(Sat) 16:17 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: タイトルなし
keyeye さん。

兄上のことよかったです。

11月に岐阜ハートセンターで、医家向けの糖質制限食講演をさせていただきます。
岐阜ハートセンターでは、糖質制限食支持の医師が多数派ですので心強いです。
2010/08/21(Sat) 17:06 | URL | ドクター江部 | 【編集
体臭について
51歳の産婦人科医です。新妊娠糖尿病診断基準を厳密に実行すれば妊婦の8%以上が該当する可能性があり、現場は困惑しています。
それは別として、私は腹周りの脂肪がどうにも気になって一ヶ月前から糖質制限しましたが、体重5キロ、体脂肪5%低下し、皮下脂肪も明らかに減りました。もちろん肉食べほうだい、酒飲みほうだいです。糖尿病は診ていませんが、肥満に悩む患者さんは多く、もう少し勉強したら患者さんはにもしどうしたいと思います。
ただ、一つ気になるのが体臭です。恐らく高ケトン体のためと思いますが、ずっと続くものなのでしょうか?
2010/08/22(Sun) 19:07 | URL | 産婦人科医 | 【編集
Re: 体臭について
産婦人科医様

血中ケトン体が初期特に高値となり、尿中・呼気中にアセトンがでるのが
甘酸っぱいケトン臭です。

約3ヶ月くらいで、血中ケトン体が少々高値(人類の基準値で1000前後)でも
利用効率が高まることと腎臓の再吸収も高まり、外部に排泄されなくなります。
その時点でケトン臭もなくなります。
2010/08/22(Sun) 22:02 | URL | ドクター江部 | 【編集
GTT時の空腹時血糖の扱い
GDMについて教えて頂きたいことがあります。
新基準で、75gOGTT施行時に、もし空腹時血糖が≧92の場合、その時点でGDMと診断してもよろしいのでしょうか?もちろん検査は続けるでしょうが、要は空腹時血糖92以上でも決めていいのかどうなのかと言うことです。
ご教授願います。
2010/08/25(Wed) 15:55 | URL | 北の産科医 | 【編集
Re: GTT時の空腹時血糖の扱い
北の産科医 さん。

「新基準で、75gOGTT施行時に、もし空腹時血糖が≧92の場合、その時点でGDMと診断してもよろしいのでしょうか?」

その通りです。議論があったあと、1項目以上と決定されたそうです。
2010/08/25(Wed) 23:14 | URL | ドクター江部 | 【編集
旧基準で習っていたので新基準を知って少し驚きました。少し厳しくなりすぎな印象があります。調べても今一つわからなかったのですが、感度や特異度はどのように変化したのでしょうか?
ご存知の方はご教授いただけたらと助かります。
2015/12/31(Thu) 16:35 | URL | 若手麻酔科医 | 【編集
Re: タイトルなし
若手麻酔科医 さん

糖尿病ネットワーク
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2015/023740.php
妊娠糖尿病などの診断基準を統一 糖尿病・妊娠学会と糖尿病学会

日本糖尿病・妊娠学会
http://www.dm-net.co.jp/jsdp/information/024273.php
妊娠中の糖代謝異常と診断基準(平成27年8月1日改訂)

これらのサイトに経緯がと診断基準が記載されています。
感度や特異度は、直接、日本糖尿病・妊娠学会に問い合わせてみられては如何でしょう。
2016/01/01(Fri) 09:57 | URL | ドクター江部 | 【編集
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