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JUPITER試験とコレステロール降下剤(スタチン)疑惑2010
こんにちは。

EBM(証拠に基づいた医学)で、信頼度が高いはずの大規模無作為化偽薬対照二重盲検試験・JUPITERに重大な疑惑が生じました。

JUPITER試験は、心血管疾患既往でも糖尿病でもなく、LDL-C値もHDL-C値も正常な中高年、つまり、現在の治療ガイドラインでは、スタチンの適応にはならない人のうち、hsCRPが高い(2mg/L以上)人をスクリーニングして、強力なLDL-C低下作用を持つrosuvastatin(一日20mg)で血管性疾患初発予防を行った、無作為化偽薬対照二重盲検試験です。世界26ヶ国の施設で17802人を組入れ、03年から08年にかけて実施されました。

hsCRPというのは、高感度CRPのことです。

近年動脈硬化の元は、血管内の炎症がベースにあるとされ、高感度CRPはその指標となります。rosuvastatinは商品名はクレストールです。

2008年にNew England Journal of Medicine誌に、掲載されたJUPITER試験の結果は、44%もの1次エンドポイント(冠状動脈性心疾患)減少と20%の総死亡抑制を示していました。

この時点では、クレストール(スタチン製剤)の有効性を明確に表したものと言えました。

ところが、2010年6月28日のArch Intern Med誌に、JUPITER試験を巡る論文が4編も掲載されました。

そのいずれもが、44%もの1次エンドポイント減少と、20%の総死亡抑制を示したJUPITER試験の結果には不備があり、ロスバスタチンの心血管イベントに対する1次予防効果は、過大評価で慎重な解釈を要するというものでした。


日経メディカル オンライン *では、国立循環器病センター駒村和雄先生の解説で、

「Arch Intern Med誌から CVD1次予防としてのスタチン、総死亡は減少せず」

とのタイトルで報じています。

すなわち、JUPITERを含む11試験で1次予防効果について、英国ケンブリッジ大学のKausik K. Ray氏らが、メタ解析**を行ったところ、研究間のバラツキを考慮するランダム効果モデルでも、考慮しない固定効果モデルでも、スタチンによる死亡率の有意な減少は、認められなかったとのことです。

つまり、スタチン製剤の効果を確かめるためのJUPITERを含む大規模な11試験を、客観的に全て解析し直したところ、死亡率の有意な減少はなかったということで、これは衝撃的な内容です。

世界中で4000万人以上の人が内服しているスタチン製剤でLDL-コレステロールを下げても、死亡率を減少させる効果がなかったということになるのですが、これでは何のための薬かわかりませんね。

英国ケンブリッジ大学のKausik K. Ray氏らの、メタ解析だけで、スタチン製剤が無効と断定することはさすがに早計ではありますが、壮大な医療費の無駄遣いの可能性もあることには留意する必要があります。

スタチン製剤だけで300億ドル(2兆8000億円)近い医療費と思われます。ちなみに、世界の医薬品の売り上げトップは、リピトール(スタチン製剤)です。

さらに

「JUPITER試験の14人の著者のうち9人が企業との経済的関係があり、論文の筆頭著者で試験責任者のPaul Ridker氏が高感度C反応性蛋白(hsCRP)測定の特許を取得しており、データ安全性監視委員会委員長であるRory Collins氏が多数の企業主導の脂質低下試験にかかわっている――。」

ということならば、

「大規模無作為化偽薬対照二重盲検試験」という、本来EBMの王道ともいえる臨床試験でさえも、結果を鵜呑みにすることはできないということですね。


江部康二


Arch Intern Med誌・日経メディカル・オンライン2010・スタチン疑惑
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/cvdprem/lecture/komamura/201008/516261.html

JUPITER試験に対する疑惑表明か、平衡感覚か
同一号に4編の論文、いずれも同試験の解釈は慎重を要すると主張


【著者プロフィール
駒村 和雄(大阪大学)こまむら かずお氏。1956年生まれ。阪大医学部卒。同大第一内科(当時)に入局し、大阪警察病院、ハーバード大留学などを経て95年から国立循環器病センター。98年、同センター研究所・心臓動態研究室室長。2008年、兵庫医療大学教授。2010年、大阪大学大学院薬学研究科招聘教員。
連載の紹介
日々、多くの専門雑誌から新しい研究成果が発表されます。真っ先に原著論文には目を通しても、総説や論説まではなかなか読み込む時間がないという人が多いはず。国立循環器病センターで重症心不全の臨床に長年携わり、ACCやAHAのフェローを務める駒村氏が、注目される総説・論説をピックアップ。専門医の目による評価を加えながら解説します。】


6月28日付のArch Intern Med誌に、JUPITER試験を巡る論文が4編も掲載された。
そのいずれもが、44%もの1次エンドポイント減少と20%の総死亡抑制を示したJUPITER試験[1,2]の結果には不備があり、ロスバスタチンの心血管イベントに対する1次予防効果は過大評価で慎重な解釈を要するというものだった。


日経メディカル オンライン 循環器プレミアムでは、この4論文の中で英国ケンブリッジ大学のKausik K. Ray氏らによるメタ解析[3]、およびそれについての米国ミシガン大学のLee A. Green氏の論評[4]を既に紹介している。今回はこれに周辺の情報も加えて、改めて考えてみたい。

メタ解析について循環器プレミアムでは、「Arch Intern Med誌から CVD1次予防としてのスタチン、総死亡は減少せず」とのタイトルで報じた[5]。Ray氏らがJUPITERを含む11試験で1次予防効果についてメタ解析を行ったところ、研究間のバラツキを考慮するランダム効果モデルでも、考慮しない固定効果モデルでも、スタチンによる死亡率の有意な減少は認められなかった。

糖尿病患者のみを対象とした試験を除外しても、死亡率の有意な抑制効果は見られなかった。この結果からRay氏らは、JUPITER試験での総死亡の20%減少とは、試験を早期に終了した場合に起こり得る誇張された結果ではないかと推測した[3]。

論説[4]の中でGreen氏は、臨床試験の早期終了は有効性の過大評価とリスクの過小評価に結び付くことを関係者は分かっているだろうが、同時に、早期のマーケティングを可能にし、臨床試験の費用も節約できるなど、スポンサー企業はもとより研究チームにとっても大きな利益に結び付くこともよく分かっていると指摘した。

同号に掲載された「論文」で最も過激だっだのが、フランス・ジョセフフーリエ大学のMichel de Lorgeril氏らによるものだった[6]。彼らは、JUPITERにかかわる主要人物の利益相反に重大な問題が潜んでいると、個人攻撃とも取られかねない主張を行った。

14人の著者のうち9人が企業との経済的関係があり、論文の筆頭著者で試験責任者のPaul Ridker氏が高感度C反応性蛋白(hsCRP)測定の特許を取得しており、データ安全性監視委員会委員長であるRory Collins氏が多数の企業主導の脂質低下試験にかかわっている――。

臨床試験の科学上の問題点よりも、関係者たちの「strong commercial interest in the study」について、当のRidker氏が「一体どこが研究論文なんだ。データは何もなく、ただ意見を述べているだけじゃないか」[7]と憤慨するような内容の論文だった。



**メタ解析 薬学用語解説より
http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%E3%83%A1%E3%82%BF%E8%A7%A3%E6%9E%90%E3%80%80
Meta-Analysis、メタアナリシス

過去に独立して行われた複数の臨床研究のデータを収集・統合し、統計的方法を用いて解析した系統的総説。採用するデータは、信頼できるものにしぼり、それぞれに重み付けを行う。一般的には、様々な試験の要約統計量を用いるが、生データを結合して解析する場合もある。叙述的な総説とは異なり、体系的、組織的、統計学的、定量的に研究結果をレビューするという特徴がある。メタアナリシスは、複数の研究で得られた効果が一致しない場合、個々の研究の標本サイズが小さく有意な効果を見いだせない場合、大きな標本サイズの研究が経済的・時間的に困難な場合、に有用であるとされている。

医学分野では対象や研究方法が多様で、各種のバイアスが入りやすく、また研究の質のばらつきが大きい。例えば、公表論文は有意な結果のみが発表されることが多い。これは研究者がポジティブな結果が得られたときにのみ発表する「報告バイアス」や、学会誌等の編集者が,統計学的に有意な結果の得られていないものはリジェクトする「出版バイアス」のためである。このため、単に報告を集めるだけでは、ポジティブ方向へバイアスがかかるという懸念が指摘されている。また、質の低い論文を他の優れた研究成果と同等に評価対象としてしまうと過大評価することになる。メタアナリシスでは、バイアスの影響を極力排除し、評価基準を統一して客観的・科学的に多数の研究結果を数量的、総括的に評価しようとしている。

こうしたメタアナリシス研究を押し進めることを目的として、1992年には、英国政府の支援のもとにオックスフォードにコクラン・センター(Cochrane Centre)が作られた。The Cochrane Libraryとは、コクラン共同計画が行っているメタアナリシスである。ランダム化比較試験の行われたデータをすべて集め、その中から信頼できるものを選び、総合評価を行っている。(2007.8.31 掲載)

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
ホットペッパーを見ていたら見つけました
糖質制限食で女子会プラン
http://hpr.jp/strJ000026405/course/cnd01/

北海道のお店だそうです
2010/08/17(Tue) 13:18 | URL | たな | 【編集
外食について
先日は、お返事ありがとうございました。

先生にお聞きしたいのですが、現在(ここ三ヶ月)、ヘモグロビンの数値が5.8~6.0になっているのですが、どうしても会合に出席しなければなりません。今の現状を踏まえて一日だけ、他の正常な方たちと同じ食事をしても影響はないのでしょうか?
ご意見を伺いたいです。
2010/08/17(Tue) 13:47 | URL | スケ | 【編集
Re: タイトルなし
たなさん。

興味深いですね。
地道に糖質制限食が浸透しているようですね。

北海道
旨いものや ちょくちょく 4・5店

http://www.hotpepper.jp/strJ000026405/course_cnod01/
女子必見☆『糖質制限食』で平日女子会プラン登場!

今回ちょくちょくがお届けする女子会プランは話題の美味しく食べてキレイに痩せる『糖質制限食』でコースをご用意しました!飲み放題メニューにも糖質0%メニューを追加しました!リゾットはご希望のお客様だけに!

2010/08/17(Tue) 14:03 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 外食について
スケさん。

普通におかずは食べて、ご飯やパンを少量にすれば、影響は少ないでしょう。
2010/08/17(Tue) 14:04 | URL | ドクター江部 | 【編集
利権
現時点では「疑惑」以上の話をするのは時期早尚なのでしょうが、国際的な試験をこれほど大規模に行って利益誘導するとは恐ろしい話しです。

産業組合レベルが自らの商品に都合の良い研究を行い、または高名な研究者を抱き込むことは想像できても、医学においてこの裏切りはひどすぎます。

医学会をあげて追求するべき「疑惑」であると感じました。
2010/08/17(Tue) 17:09 | URL | 糖質ポリス | 【編集
Re: 利権
糖質ポリス さん。

コレステロールの基準値の設定の問題、
スタチンに死亡率を減らす効果があるのかという問題、
医師と製薬会社の利益誘導の問題・・・
今後も医学会で論争が続くと思います。
2010/08/18(Wed) 07:34 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: DPP-4阻害剤
Yotanさん。

スーパー糖質制限食を実践されていて、
HbA1cが悪化しているのは、通常はありえません。
1型か2型かなど、よく主治医と相談されご確認ください。
2010/08/18(Wed) 07:40 | URL | ドクター江部 | 【編集
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