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DPP-4阻害剤とSU剤の作用機序の違い
おはようございます。

今回は、DPP-4阻害剤(ジャヌビア、グラクティブ)とSU剤の作用機序の違いについて、しげるさんから、コメント・質問をいただきました。

「10/03/30 しげる
インクレチン関連薬
江部先生

お忙しいところ、インクレチン関連薬であるDPP-4の実際の有効性のお話、ありがとうございました。とても感謝しております。
さて、インシュリンを促進させるホルモンであるインクレチンですが、インシュリンを出すのは当然膵臓です。SU剤もそうですが、疲弊している膵臓から出るインシュリンなのに、どうして膵臓を疲れさせないのでしょう?しかもβ細胞を回復させる可能性もあるということです。もし、このことが本当であれば、むしろ初期の糖尿病患者にこそ、有効性が高いのではないでしょうか? 
血糖値を下げる膵臓のβ細胞の復活こそが、治療の根本的解決である筈であろうからです。
人間の体に元々具わっているホルモン―インクレチンだから膵臓に優しいというのは判りますが、どうも腑に落ちません。

お忙しいところ、大変申し訳ありませんが、もし、お答え頂ければ幸いです。」


しげるさん。
鋭い質問ですね。

小難しいところは避けて通る予定だった(∵)?

のですが、そうもいきませんね。

インクレチンは、食事摂取により消化管から分泌され、インスリン分泌を促進するホルモンで、上部小腸にあるK細胞から分泌されるGIPと、下部小腸にあるL細胞から分泌されるGlp1があります。

Glp1の主な生理作用はインスリン分泌促進作用ですが、それ以外に膵グルカゴン分泌抑制作用、消化管運動抑制作用、インスリン感受性亢進作用、そして膵β細胞保護・増殖作用が認められています。
GIPはGlp1に比べると作用は弱いとされています。

そして、Glp1やGIPを分解するDPP-4という酵素を阻害して分解を抑制し、血中濃度を上昇させて保つのがDPP-4阻害剤です。

そもそも2型糖尿人では、血中Glp1濃度の低下が認められ、膵β細胞におけるGlp1によるインスリン分泌の感受性も低いと言われています。その意味では、DPP-4阻害剤は、仰有るように初期の糖尿病患者には特に有効性が高い可能性がありますね。

さて、インクレチンがインスリン分泌を促す仕組みと、SU剤がインスリン分泌を促す仕組み(☆☆☆)は、実は異なっています。

難しい箇所は省いて、超簡単に言うと、SU剤はβ細胞表面のSU受容体と結合して、カリウムチャンネルを閉じっぱなしにしてしまい、その結果カルシウムが細胞内に流入してインスリンを分泌させます。

この場合、SU剤の作用時間(24~12時間)の間は、血糖が高かろうが低かろうが関係なく、ずっとインスリンはだだ漏れ状態です。だから低血糖が生じやすいのですね。

そして、インスリンを分泌しっぱなしのβ細胞が、疲弊していく可能性があるわけです。

まあ、人為的に無理矢理カリウムチャンネルを閉じて、β細胞を騙しているようなものですかね。

一方、インクレチンは、糖質や脂質を摂取すると消化管から分泌されて、β細胞のインクレチン受容体に作用してβ細胞内のサイクリックAMPを上昇させ、インスリン分泌の増幅経路に働きます。

こちらは、糖質を食べて血糖値が上昇し、β細胞内にとりこまれてATPが産生されて、カリウムチャンネルが閉じてカルシウムが細胞内に入ってきたときだけ、増幅経路に働いてインスリンを分泌させます。

血糖値が下がって108mg/dlくらいになると、β細胞はブドウ糖を取り込まなくなり細胞内カルシウムは増加しないので、インクレチン濃度が高くても増幅経路は作用せず、インスリンは分泌されません。

はてさて、どうころんでも、結構難しいお話しですね。 ε-(-Д-)

つまり、

①糖質摂取→血糖値上昇→糖輸送体でβ細胞内にブドウ糖取り込み→β細胞内ATP上昇→Kチャンネル閉鎖→脱分極→カルシウムチャンネル活性化→細胞内カルシウム濃度上昇→インスリン分泌

という、ブドウ糖刺激によるインスリン分泌の一般的な経路の最後の過程

②細胞内カルシウム濃度上昇→インスリン分泌

をインクレチンによるβ細胞内サイクリックAMP上昇が増幅させてインスリン分泌を促すわけですね。

③「細胞内カルシウム濃度上昇+サイクリックAMP」→インスリン分泌増幅

です。

こういう作用機序なので、インクレチンは血糖値が高いときのみにインスリン分泌作用を有し、108mg/dl以下に血糖値が下がってきたらインスリン分泌作用がなくなるわけなので、単独使用では低血糖は理論的には起こりません。

またSU剤のように、24時間β細胞を鞭打つといった側面は皆無なので、β細胞も疲弊しないのだと思います。


江部康二


(☆☆☆)<SU剤の作用機序とブドウ糖刺激による一般的なインスリンの分泌経路>

血液中のブドウ糖濃度が上昇すると、ブドウ糖は膵臓のβ細胞の表面に発現するGLUT2(糖輸送体2)により、
細胞の中に取り込まれます。

取り込まれたブドウ糖は代謝を受け、ミトコンドリアでATP(エネルギー)が産生されます。このATP濃度が増すと、β細胞表面のカリウムチャンネルが閉じます。

そうするとKが細胞外にでなくなり、細胞膜の脱分極が起こり細胞内外で電位差が生じます。その結果、カルシウムチャンネルが活性化しカルシウムが細胞内に流入します。カルシウム濃度が上昇すると、β細胞は活発になり、インスリンを分泌します。

この一連の流れが、ブドウ糖刺激による一般的なインスリンの分泌経路です。

SU剤は、カリウムチャンネルの一部を構成するSU受容体と結合して、ATP濃度とは無関係にカリウムチャンネルを閉じてしまいます。

SU剤によりカリウムチャンネルが閉じてしまえば、上述の一般的なインスリン分泌経路の一連の流れと同様に、(Kが細胞外にでなくなり、細胞膜の脱分極が起こり細胞内外で電位差が生じ、カルシウムチャンネルが活性化し)
カルシウムが細胞内に流入しカルシウム濃度が上昇し、β細胞は活発になりインスリンを分泌します。


テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
DPP-4阻害剤
みなさんこんにちは

江部先生 いつもありがとうございます


DPP-4阻害剤について詳しい説明有り難うございます。
1つ質問させてください。
私も一度DPP-4阻害剤を試してみようと思っていますが、DPP-4阻害剤を服用しても
血糖値が常に108以上の場合は結局インスリンがちょろちょろとインクレチンの作用で出っぱなしになると言うことでしょうか?
この辺りが気になっています。
よろしくお願いします。

2010/03/31(Wed) 16:01 | URL | 大阪のシンドバッド | 【編集
Re: DPP-4阻害剤
大阪のシンドバッド さん。

糖尿人では、自分自身のインスリン作用がどのくらい残っているのか個人差があります。

またインクレチンに対する感受性も糖尿病の進行度に応じて個人差があります。

DPP-4阻害剤を内服して、有効なのは当然、自分自身のインスリン分泌能力があるていど残っている糖尿人でしょうね。

つまりインクレチン感受性もインスリン分泌能力もある程度残っている糖尿人では
DPP-4阻害剤がよく効いて血糖値はさがるけれど、低血糖にはならないということです。

糖尿病が一定以上進行していて、インスリン分泌能力も低下していて、インクレチン感受性も低下している糖尿人は、DPP-4阻害剤も効きにくいですね。
そうなると、DPP-4阻害剤を飲んでもインスリンはあんまり分泌されずに効果もあまりないというパターンです。

「血糖値が常に108以上の場合は結局インスリンがちょろちょろとインクレチンの作用で出っぱなしになる」
単純に理論的にはありそうですが、上述のようなわけで、臨床的には出っぱなしということは
ないと思いますよ。
2010/03/31(Wed) 16:54 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: 処方についてお伺い
大阪のシンドバッド さん。

新薬なので、発売1年間は、14日分しか処方できませんが
宗本先生に相談すれば処方して頂けると思います。

2010/03/31(Wed) 21:06 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: メカにズムがよく分からないので・・・
糖尿病人の妻さん。

「①空腹時血糖より食後血糖の方が低い値が出るのはなぜでしょう? 」

基礎分泌インスリンがあるていど低下しているけれど、追加分泌インスリンが比較的保たれているのでしょう。

「②仕事をしているため、一日夜だけ1食にすることが難しく3食にしていますが、夜を多めにすると朝の血糖値が高くなります。夜を少なめにすると朝の血糖値は低く出ますが、空腹で夜眠れなくなります。また、あまり空腹になると反って高く出ることもあるように思います。」

「③本人の空腹感とか満腹感と血糖値との関連性、食事内容や量との関連性が掴めず、コントロールに行き詰っています。
薬を飲まないでこの数値にほっとしたものの、もう一つ山が乗り越えられないことに今いらついています。
状況が分かりにくいとは思いますが、よろしくお願いします。」

1日3食でもOKです。痩せておられることを考慮すれば、運動量に比して摂取カロリーが少ないようです。58~60kgくらいを目指して、おかず(脂質・タンパク質)を充分量食べましょう。脂質・タンパク質は血糖値を上昇させません。
2010/04/02(Fri) 17:20 | URL | ドクター江部 | 【編集
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