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低脂肪食および低炭水化物食はインスリン感受性に同程度の効果示す?
おはようございます。

糖尿病ネットワークの記事

「低脂肪食および低炭水化物食はインスリン感受性に同程度の効果示す。ただし低炭水化物食は血管障害に関連する可能性」(*)

http://www.dm-net.co.jp/healthdayjapan/2009/12/009629.php

に関して、andanteさんから、コメント・質問をいただきました。

検討した結果、andanteさんがご指摘のごとく、やはりこの論文アンフェアなものでした。

何とスポンサーがイギリス砂糖局とは・・・( ̄_ ̄|||)

私は英語が苦手なので、例によって良きアドバイザーのI先生にご協力いただきました。

以下は、I先生にいただいた意見をまとめたものです。

I先生、いつもありがとうございます。 m(_ _)m

まずは、論文解釈対するI先生の鋭いご指摘です。

『著者の意図するデータや結果は、慎重に解釈する必要があるということです。

一方、著者が意図しないデータや結果は、信頼性が高いと思います。

このDiabetesの論文でいうと、低炭水化物食で、中性脂肪が著明に低下する事、A1Cや空腹時インシュリンも有意に低下すること、低脂質食よりも約200kcal高いエネルギーの食事で同程度以上の減量が得られることなどは、とても信頼性の高い価値あるデータのように感じます。』


この論文で著者が意図的にだしたと思われる

「低脂肪食および低炭水化物食はインスリン感受性に同程度の効果示す。ただし低炭水化物食は血管障害に関連する可能性」

という要約の結論は、残念ながら科学的な考察を経たものではありません。

一方、要約には書いてないけど本文にはある、

「低炭水化物食で、中性脂肪が著明に低下する事、A1Cや空腹時インシュリンも有意に低下すること、低脂質食よりも約200kcal高いエネルギーの食事で同程度以上の減量が得られること」

に関しては、著者の意図とは異なっているけれど、信憑性が高いということですね。

以下は、糖尿病ネットワークに載ったdiabetesの論文に対するI先生の詳しい考察です。

『この論文ですが、
The Sugar Bureau(イギリス砂糖局?どうやら砂糖の消費を推進する団体のようです)
http://www.sugar-bureau.co.uk/

から資金提供を受けていて、またもや「最初から結論ありき」な論文のようです。

デザインですが、BMI27以上の肥満だが他は健康なボランティア24人を、ランダムに低炭水化物食、低脂質食にふりわけ、8週間介入しています。

摂取エネルギー量ですが、最低でも週に0.5kg減が達成できるように、 基礎代謝をもとに算出した推定必要エネルギーよりも500kcal少ないエネルギーとしています。そして、これは1週間ごとに見直され、0.5kg減が達成できていない場合は、さらに200kcal減としています。ですから、両群ともに体重が低下していたのは、当然で、そのようにデザインされていたわけです。

さて、このように摂取エネルギーを設定した結果、最終的には低炭水化物群で7.9MJ(1896kcal)、低脂質群で7.1MJ(1704kcal)となっています。体重は、低炭水化物群で97.7kg→90.3kgと7.4kg減、低脂質群で91.5kg→85kgと6.5kg減となっています。

有意差はないようですが、低炭水化物群の方が、約200kcl高いエネルギーで0.6kg多い減量となっています。元の体重が低炭水化物群で97.7kg、低脂質群で91.5kgと差があるので評価むずかしいですが、200kclの差というのは結構大きいような気がします。低脂肪群の方が、0.5kg/週のノルマ達成がむずかしかったのでしょうか?

他の検査データで気になるものを挙げると次のようになります。

空腹時インスリンは、 低炭水化物群 12.5→7.4mU/Iと有意に低下していますが、低脂質では、11.4→9.0 mU/Iで有意な低下なし。A1Cは、低炭水化物群 5.3±0.3→5.2±0.003%と有意に低下していますが、低脂質では、5.4±0.3→5.3±0.4%で有意な低下なし。中性脂肪は低炭水化物群では1.59→0.91mmol/lと有意に低下していますが、低脂質群では1.55→1.431mmol/lとほとんど変化ありません。これら、低炭水化物群に有利な結果は、要約ではなぜか触れられていません。

その他いろいろ検査しているのですが、低脂質食が唯一良い結果を出しているのは、aortic augmentation index 中心大動脈圧という検査です。次のようなものらしいです。
http://www.lifescience.jp/ebm/sa/2008/0810/0.html

低炭水化物群12.3±12.2%→14.5±11.9%(P値0.32で有意差なし)、低脂質群17.0±14.4%→13.3±16.3%(P値0.04でぎりぎり有意差あり)、グループ間の比較で、P値0.04とぎりぎり有意差がでています。結局のこの結果のみが、Conclusion(結論)に記載されています。

この検査について、詳しいことはよく知りませんが、標準偏差があまりにも大きく、本当に有意差がでているのか、信頼性のある検査なのか、疑問が残ります。

収縮期血圧・拡張期血圧は、両群で有意に低下しているのですが、これも要約には載っていません。

さっと読んだ感想ですが、いつものごとく、最初から結論ありきの不公平な論文のように感じました。』


過去、本ブログで批判した、

「低糖質食で精神不安定?」というオーストラリアの論文とか、「カロリーが一緒なら何を食べても体重減少効果は同じ」というニューイングランド・ジャーナルの論文とか権威ある医学雑誌でも要約だけみたら、体よく騙されることがあるので、要注意ですね。


江部康二


(*)
Low-Fat Versus Low-Carbohydrate Weight Reduction Diets
Effects on Weight Loss, Insulin Resistance, and Cardiovascular Risk: A Randomized Control Trial
http://diabetes.diabetesjournals.org/content/58/12/2741.abstract

(**)
「低糖質食で精神不安定?」というオーストラリアの論文への批判記事
2009年11月27日 (金) 、2009年11月28日 (土)、2009年11月26日 (木) のブログ

(***)
「カロリーが一緒なら何を食べても体重減少効果は同じ」というニューイングランド・ジャーナルの論文への批判記事
2009年04月09日 (木) のブログ

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
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