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2型糖尿病患者の死亡率はHbA1c7.5%前後が最も低い・Lancet
おはようございます。

2型糖尿病患者の死亡率はHbA1c7.5%前後が最も低い」

という衝撃的な研究報告が、ランセットという英国の権威ある雑誌に発表されました。

以下抜粋です。

『治療中の2型糖尿病患者の全死因死亡や大血管イベントのリスクは、HbA1c値が7.5%前後のグループで最も低い―。そんな後ろ向きコホート研究の結果を、英Cardiff大学のCraig J Currie氏らがLancet誌2010年2月6日号に報告した。

 2型糖尿病患者の血糖管理を向上させれば、様々な合併症のリスクが低下すると考えられている。しかし、ACCORD試験(関連記事1、関連記事2)以来、厳格な血糖降下療法の安全性に対する懸念が高まり、2型患者が目標とすべき血糖値に関する議論が続いている。

そこで著者らは、2型糖尿病患者のHbA1cと全死因死亡の関係を明らかにすべく、後ろ向きのコホート研究を行った。』

2型糖尿病患者の死亡率はHbA1c7.5%前後が最も低い」

という結果を単純に受け入れたならば、著者らの言う如く

「今後の研究で今回得られた知見が確認されれば、糖尿病治療ガイドラインを見直してHbA1cを特定の値より下げすぎないよう指示する必要が出てくるだろう。」

ということになりますが、この短絡的な結論は如何なものでしょう?

HbA1cが6.4%以下のグループを検討したときに

A)
① 空腹時血糖値110mg/dl未満
② 食後2時間血糖値140mg/dl未満
③ 理想的には食後1時間血糖値180mg/dl未満

を達成していたら、その人々は当然、死亡率は正常人と大差ないはずです。

B)
一方、食後血糖値は1日3回以上200mgを超えているけれど、空腹時には血糖値が60mg未満の低血糖気味であり、平均値としてのHbA1cが6.4%以下である場合は、食後高血糖のリスクは防げていないし、血糖値の乱高下のリスク、低血糖のリスクも高まります。当然、死亡率は高まります。

HbA1cが9.0%、10.0%といったコントロール不良の糖尿人をインスリン注射やSU剤で強力に治療した今回の研究の場合、食事療法が糖質を摂取している限りは、ほとんどの人が基本的に上述のB)群にならざるを得ません。

今回の研究では、A)群は基本的にほとんど存在しないと考えられます。糖質を摂取する限りは、食後高血糖を防ぐことは極めて困難だからです。

最近の糖尿病関係の話題として、空腹時血糖食後高血糖の差(グルコーススパイク)が大きいほど、大血管の内皮が傷害されて動脈硬化になりやすく、将来心筋梗塞の危険性が高まるという説が有力となっています。
 
この説は、糖尿病を発症しやすいラット(GKラット)の実験ではすでに実証されています。

驚くべきことに、ずっと好き放題に食べさせて、血糖値二八〇~三〇〇mg/dl前後で一日中持続したラット(高血糖であるがグルコーススパイクがほとんどない)より、一日二回だけの食事として、一日二回グルコーススパイク(空腹時100mg/dl程度で食後200mg/dl程度)を人工的に作ったラットの方が、動脈硬化の進行は速かったのです。

糖尿病の人は、糖質を摂取するたびに、大きなグルコーススパイクを生じているわけです。
 
このように、糖質を摂取して、HbA1cを正常に近く保とうと思えば、必然的にインスリンやSU剤の過剰投与となり、低血糖も生じやすくなります。

糖質を摂取する限りは、どのような薬物を使用しても食後高血糖(グルコーススパイク)のリスク、血糖値の乱高下のリスク、低血糖のリスクは防げません。 (*_*)

またACCORD試験で問題となったような、急速な治療による生体のひずみなども関わっているかもしれません。

ACCORD試験や今回のランセットの報告を考慮すると、糖質を摂取する限りは

「糖尿病治療ガイドラインを見直してHbA1cを特定の値より下げすぎないよう指示する必要が出てくるだろう。」

ということになりかねませんね。

一方、糖質制限食を実践してHbA1cが正常な場合は、食後高血糖(グルコーススパイク)も生じず低血糖にもならないし、血糖値の乱高下もありません。正常人と同じリスクと考えられます。 (^_^)

江部康二



以下は、日経メディカルオンラインに載った記事の全文転載です。
結構小難しいので、とばし読みでいいと思います。

☆☆☆
日経メディカルオンライン
海外論文ピックアップ
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/lancet/201002/514118.html
2010. 2. 12

Lancet誌から
2型糖尿病患者の死亡率はHbA1c7.5%前後が最も低い
英国で行われた後ろ向きコホート研究の結果
大西 淳子=医学ジャーナリスト

関連ジャンル: 糖尿病
 治療中の2型糖尿病患者の全死因死亡や大血管イベントのリスクは、HbA1c値が7.5%前後のグループで最も低い―。そんな後ろ向きコホート研究の結果を、英Cardiff大学のCraig J Currie氏らがLancet誌2010年2月6日号に報告した。

 2型糖尿病患者の血糖管理を向上させれば、様々な合併症のリスクが低下すると考えられている。しかし、ACCORD試験(関連記事1、関連記事2)以来、厳格な血糖降下療法の安全性に対する懸念が高まり、2型患者が目標とすべき血糖値に関する議論が続いている。そこで著者らは、2型糖尿病患者のHbA1cと全死因死亡の関係を明らかにすべく、後ろ向きのコホート研究を行った。

 英国のプライマリケアの診療記録を集めた一般開業医研究データベース(GPRD)に1986年11月から2008年11月に登録された患者の中から、50歳以上の2型糖尿病患者を選出、2つのコホートを作成した。

 コホート1は、経口血糖降下薬の単剤投与を受けた後に、スルホニルウレアとメトホルミンの併用に切り替えられた患者2万7965人。コホート2は、経口糖尿病薬からインスリンの単剤投与またはインスリンを他の経口薬と併用するレジメンに変更された患者2万5人からなる。

 主要アウトカム評価指標は全死因死亡に設定。2次評価指標は、心血管イベント歴のない患者の初発大血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術、頸動脈血行再建術、末梢動脈血行再建術、狭心症)に設定し、レジメン変更からこれらイベントが発生するまでのHbA1cの平均との関係を調べた。交絡因子として、年齢、性別、喫煙歴、コレステロール値、心血管危険因子、全般的健康状態で調整し、Cox比例ハザードモデルを用いてリスクを評価した。

 レジメンを変更する前のHbA1c値の平均は、コホート1が9.0%、コホート2が10.0%だった。

 追跡期間の中央値は、コホート1が3.9年(12万5968人-年)、コホート2は4.4年(10万4106人-年)。

 コホート1の全死因死亡は2035人、コホート2は2834人。コホート1と比較したコホート2の全死因死亡のハザード比は1.49(95%信頼区間1.39-1.59)で、インスリンを含むレジメンを適用されている患者の方が死亡リスクは高かった。

 1000人-年当たりの未調整死亡率は、コホート1が16.2、コホート2が27.2。


 レジメン変更後のHbA1c値に基づいて各コホートを十分位群に分け、最も死亡率が低かった第4十分位群(HbA1c中央値が7.5%、IQR 7.5-7.6%)を参照群として、各十分位群の全死因死亡のハザード比を求めた。

 各十分位群のHbA1c中央値は、最低十分位群が6.4%、第2十分位群は6.9%、第3十分位群は7.3%、第5十分位群は7.8%、第6十分位群は8.1%、第7十分位群は8.4%、第8十分位群は8.9%、第9十分位群は9.4%、最高十分位群は10.5%となった。

 全死因死亡のハザード比が有意な値を示したのは、コホート1では最低十分位群(HbA1c中央値6.4%)と最高十分位群(HbA1c中央値10.5%)のみ。コホート2では、それらに加えて第2、第3、第9十分位群にも有意差が見られた。いずれのコホートでも、横軸にHbA1c値、縦軸にハザード比を取ったグラフは、HbA1c 7.5%を最低とするU字型になった。

 2つのコホートを合わせて分析したところ、全死因死亡の調整ハザード比は、HbA1c最低十分位群が1.52(95%信頼区間1.32-1.76)、最高十分位群は1.79(1.56-2.06)だった。

 糖尿病の大血管合併症の進行とHbA1cとの関係を分析する目的で、二次評価指標に設定した初発大血管イベントの発生率は、コホート1が8.2%(大血管イベント歴のない2万817人中1707人)、コホート2は11.9%(1万3475人中1608人)だった。1000人-年当たりの未調整イベント発生率は、コホート1が18.8、コホート2は24.1。初発大血管イベントのリスクも、全死因死亡の場合と同様に、コホート1よりコホート2で有意に高かった(調整ハザード比1.31、1.22-1.42)。

 2つのコホートを合わせて調整ハザード比を求めたところ、HbA1c値との間にやはりU字型の関係が見られた。第4十分位群を参照群とすると、最低十分位群のハザード比は1.54(1.28-1.84)、最高十分位群は1.36(1.14-1.61)。

 得られた結果は、治療中の2型糖尿病患者の全死因死亡と大血管イベントのリスクは、HbA1c値が7.5%前後のグループで最低になることを示唆した。HbA1c値がそれより高い場合も低い場合も、これらのリスクは上昇した。

 2つのコホートの両方でU字型のグラフが描かれたことは、治療レジメンにかかわらずこうした関係が存在することを意味する。

 なお、経口治療薬を投与されたグループに比べ、インスリンを含むレジメンを適用された患者群で死亡と大血管イベントのリスクが有意に高かったことについては、その理由を今後明らかにしていく必要がある、と著者らは述べている。さらに著者らは、今後の研究で今回得られた知見が確認されれば、糖尿病治療ガイドラインを見直してHbA1cを特定の値より下げすぎないよう指示する必要が出てくるだろう、との考えを表明している。

 この試験のスポンサーであるEli Lilly社は、試験設計、データ収集、データ分析、データ解釈、論文執筆、投稿に関する判断のすべてに関与した。

 原題は「Survival as a function of HbA1c in people with type 2 diabetes: a retrospective cohort study」、概要は、こちらで閲覧できる。
テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
血糖値の高低差が最悪ですね!
「血糖値の高低差」が「最も血管に悪く」ですね。「食後高血糖タイプ」の私には耳が痛いですが、糖質制限食を続けて、食後1時間が180mmを越さないようにします。エサを喰い続ける「常時高いマウス」にはなりたくないですから。
2010/02/23(Tue) 14:20 | URL | らこ | 【編集
糖質は高低差のマザー
失礼いたします。

記事の主題である血糖値高低差について調べてみたところ
以下のサイトに、ほぼ要約がありました。

はじめに
血管内皮細胞を高血糖の状態で培養した場合、継続的に高血糖の状態にした場合よりも
断続的に高血糖を与えた場合に、細胞が自ら死滅するアポトーシスという現象が極めて高頻度に起こりやすくなる。
1.Honolulu Heart Program
食後血糖値が最も高いグループの死亡危険率は、最も低いグループに比較し3倍高かった。
2.DECODE Study
食後2時間血糖が200mg/dl 以上であれば、140mg/dl の場合より死亡率が2倍以上に上昇する。
空腹血糖が126mg/dlまでは、死亡率の上昇は認められない。
空腹時血糖が126mg/dl以上でも、死亡率は直線的に上昇しない。
3.舟形研究
空腹時高血糖の場合は、健常者との間で、生存率に差は認められない。
4.Diabetes intervention study
空腹時高血糖よりも、食後高血糖の場合の方が循環器疾患による死亡率が高まる。
5.Chicago Heart Study
空腹時血糖は正常でも、食後血糖が高い場合、死亡率が高まった。
6.RIAD Trial
IMTは、食後2時間血糖に相関するが、空腹時血糖とは相関しない。
http://www.ffcr.or.jp/zaidan/FFCRHOME.nsf/7bd44c20b0dc562649256502001b65e9/26d4072a47ff0949492570f2002333ac/$FILE/210(12)4J.pdf


研究報告見出しには誤りがありますね。
研究の重要な前提条件である『 』内の一文が抜けています。
「『(少量でない)糖質を摂取した場合』2型糖尿病患者の死亡率はHbA1c7.5%~~」

こうなると、血糖値の高低差を示す指標があれば、と思いますが。
2010/02/23(Tue) 15:38 | URL | tarouh | 【編集
運動すると血糖値があがる?
過去の記事を読んでいて、糖尿病の人は、食後、血糖値が上がりすぎたとき、ステップで運動して血糖値を下げることを知りました。

でもどこかで、運動すると血糖値があがるともききました。

確かに私はテニス、スノーボードやジョギングなど、
ちょっときつい運動をするときは、全くお腹がすかないのです。

運動を終了して1~2時間ぐらいすると、徐々にお腹がすいてくるので、
これは交感神経が優位になっているせいで、
副交感神経と関係する食欲がおさえられるのかとずっと思っていました。

実は、運動によって血糖値が上がるせいで空腹感を感じないのでしょうか?

糖尿病の人が血糖値を下げるために行うステップ運動では、血糖値は上がらないのかな?と不思議に思います。

ひとつ思ったのは、同じ運動でも私の場合、ウォーキングに関しては食欲は抑えられません。
楽な有酸素運動は血中の糖分をエネルギーとして使うので、血糖値が上がらず、お腹がすいたままなのでしょうか?

素朴な疑問ですみません。
2010/02/23(Tue) 15:42 | URL | りんりん | 【編集
Re: 糖質は高低差のマザー
tarouh さん

貴重な情報ありがとうございます。
早速山形大学のページ見ました。
2010/02/23(Tue) 16:00 | URL | ドクター江部 | 【編集
運動と血糖値
りんりん さんへ

運動と血糖値については、江部先生もこのプログで述べられていますが、個人差があり一概に運動すれば血糖値は下がるとは言えません。

2型糖尿病の私の場合は、空腹時にテニスのようにそこそこ激しい運動をすると血糖値は上がります。上昇の程度は30mgから70mgとかなりその時の状態により変わります。

一方、ウォーキングのような軽い運動は、空腹時では血糖値は変化しません。下がることもありません。
 これを食後に行った場合にはまた異なる結果になるかも分かりません。

江部先生も述べられていますが、個人差があるようで、血糖値が下がる人もいるようです。

りんりんさんも、運動前後の血糖値を測定し、自分の体質を把握され運動されるのが良いかと思いますが。

運動後の血糖値と空腹感については、りんりんさんの説明が私の場合は当てはまるかも知れません。
2010/02/23(Tue) 18:50 | URL | イーサン | 【編集
やはり糖質摂取が
運動による血糖値への影響のケースでも、糖質摂取(+薬物,注射)時の運動の方が非摂取時よりも血糖値高低差は大きいでしょう。

運動は抵抗性改善に役立ちますから、あまり目くじらを立てなくてもよいと思います。
2010/02/23(Tue) 19:33 | URL | 西大寺 | 【編集
マラソンのエネルギー補給方法
イーサンさん、西大寺さん、ありがとうございます。体質によるんですね。
いつか、マラソンに挑戦したいなとおもっていたのですが、マラソン雑誌などをよむと、マラソンには2500キロカロリー必要で、途中エネルギーきれにならないよう、大会前は「カーボローディング」といって炭水化物を大量にとるとか・・・
基本はあまくない白いもの、ということで、パスタやパン、白米、もち、あとは、カステラなど。
わたしは糖尿病ではないですが、カーボ系を食べると体調がわるくなるので控えています。
大会のたびにそんな食生活をしていたら、病気になりそうだなかと思ってました。

糖尿の方でマラソンをされている方は、どうやってエネルギーを補給されているんでしょうか?
ケトンでまかなえますか?


2010/02/23(Tue) 21:22 | URL | りんりん | 【編集
りんりんさん
私はマラソンはしませんが、登山は毎週行なっています。現在糖質制限1年3ヶ月で食事は1日2食、糖質量20g位の生活です。

この生活で体が脂肪代謝中心に切り替わっていますので、登山中は水分と塩分の補給のみで食事(行動食)は摂りませんが、空腹感もなく普通に歩けます。

マラソンで必要な2400kcalは脂肪換算で255gですので十分まかなえると思いますが、普段糖質を普通に摂る生活をしていると、糖質代謝が優先される体になっているので、シャリバテ(ガス欠)で走れなくなるかとは思います。

糖質制限(スーパー)をしっかりしてから(半年以上)、5km、10km、20km、フルマラソンと距離を伸ばしながらご自分で確認されてみて下さい。
2010/02/24(Wed) 07:36 | URL | waka | 【編集
脂肪代謝体質に変えられるんですね!
wakaさん、ご指南ありがとうございます。
糖質制限食に対する「慣れ」は、単なる精神的なものでなく、体質も変化しているんですね。
勉強になりました。不必要な体脂肪を燃やしながらマラソンに挑戦できるのならいいことだらけです。がんばります!
2010/02/24(Wed) 10:08 | URL | りんりん | 【編集
りんりんさんへ

ときたま、江部先生のブログへおじゃましているものです。
遅いレスポンスですが、以下をご参考ください。
http://kyoto-trailrun.lolipop.jp/main/2008/08/post_347.html

http://kyoto-trailrun.lolipop.jp/main/2008/02/post_293.html

私は糖尿ではないのですが、マラソン時の補給はトライアスロン用のゼリー、商品名としてはパワージェルを使っています。
30kmをこえてくると、1hに1発100kcal摂った方が安全かなという印象です。
上のリンクにあるように、ハーフだと、水以外はほぼ無補給、朝食なしでなんとかなりました。
2010/02/26(Fri) 17:42 | URL | ま@京都トレイルランナー | 【編集
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