糖質制限食とAGE
おはようございます。

今回の記事は昨日の続きで、内科大学院生さんの質問、糖質制限食とAGEについてです。

【こんにちは。内科大学院生です。
先日はたくさんの質問に対し、大変丁寧でわかりやすいご説明を頂き、誠にありがとうございました。
今日は2つ質問させて下さい。

②糖質制限食を実践すると、塩分過剰&血中のAGE増加には繋がらないでしょうか?
醤油や味噌、米酢、コーヒー、コーラや魚の焦げ、加工品のハムやベーコンには、AGEが多く含まれていますよね。先生が執筆&監修されている本は、すべて購入させて頂いているのですが、調味料に醤油を使っている料理も多いと思います。勿論、ビタミンEやカテキンの摂取量なども関係するのでしょうが、食品由来のAGE量を気にしなくても大丈夫なのでしょうか?
ちなみに私は、出来る限り 塩 で味付けをするようにしています。】


内科大学院性さん。
コメントそして全ての本のご購入、ありがとうございます。

「②糖質制限食を実践すると、塩分過剰&血中のAGE増加には繋がらないでしょうか?」

さて、ご質問のAGE*のことですが、まだ評価について、断定的な結論が出るほどの文献や研究が存在しない段階です。

この間、同級生や知人の糖尿病専門医に複数尋ねて、AGEに対する見解をご教示いただきました。それでやっと、現時点での結論らしきものに辿り着きました。

A)AGEについてある程度コンセンサスが得られていること

①体内で高血糖により産生されたAGEsが、細小血管合併症に関わることは、以前から指摘されていました。細小血管合併症とは、糖尿病網膜症や糖尿病腎症です。

②さらに近年「高血糖の記憶**」という概念で、
米国の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告、UKPDSの20年後の解析で、大血管合併症にもAGEが関わっているのではないかという説が浮上しています。大血管合併症とは、心筋梗塞や脳梗塞などです。

B)AGEについてまだコンセンサスが得られていないこと

食品に含有されるAGEが人体に有害か否かは、現在論争中です。
米国の文献では、食品中のAGEも人体に有害という論文もあります。

しかし、日本の糖尿病専門医のほとんどが、食品に含有されるAGEは、人体に有害という立場はとっていません。
その間接的証拠といいますか、日本では血中や尿中AGE濃度の検査は、全くといっていいほど実施されていません。

C)AGE値の検査

様々な AGEがあるので、一つの検査法でAGEsの総量を測定することは困難です。一方、近年各種AGEsの化学構造が解明されたことや抗体作成技術の進歩によって、CML、ピラリン、ペントシジン、クロスリンなど、個別AGEの測定法が確立されました。

2006年1月にはELISA法による血中ペントシジン測定が腎機能検査項目において保険収載(実施料130点)され、臨床検査として測定されるようになりました。

しかし、まだ一般的でなく、研究機関によって測定方法も異なっているなど課題が多い段階です。現在、日本最大の検査会社であるSRLにおいても、AGE値の検査はほとんど行われていません。

結論です。

1)高血糖により体内で産生された、AGEs糖尿病血管合併症の原因となる。
2)一方、食材から摂取されたAGEsが、人体に有害か否かは、結論は出ていない。
3)日本では、AGE値の検査自体が、ほとんど実施されていない。

江部康二

*AGE

タンパク質と糖が結びついた物質で、Advanced Glycation End-productの頭文字をとってAGEと呼ばれます。日本語では終末糖化産物と訳されています。

過剰な血糖は、糖化反応により血管壁のコラーゲンなど様々なタンパク質に付着します。付着した糖は一部変性してアマドリ化合物(変性ブドウ糖)となります。このアマドリ化合物と糖が結合しAGEができます。

AGEは、糖尿病合併症を引き起こす、重大な原因の1つです。AGEには多種の物質があります。それらを総称してAGEsといわれます。日常よく検査されるグリコヘモグロビンやグリコアルブミンは、糖化反応の前期生成物であるアマドリ転位生成物です。


**高血糖の記憶

糖尿病血管合併症のメカニズムを特徴的に説明する、高血糖の記憶(hyperglycemic memory)と呼ばれる概念があります。

高血糖の記憶」とは、過去の高血糖レベルとその曝露期間が生体に記憶され、その後の血管合併症の進展を左右するという考え方です。

ヒトの糖尿病において、この「高血糖の記憶」の存在を示すエビデンス(証拠)として、米国の1型糖尿病患者の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告があります。

DCCTでは、1型糖尿病患者を従来の通常療法群と、より厳格に血糖管理を行う強化療法群に分け、平均6.5年間追跡しました。

その結果、通常療法群に比べ強化療法群で平均HbA1c値が1.9%低下し、強化療法群で血管合併症の進展リスクが大幅に減少しました。(☆)

同研究終了後に行われたEDIC-DCCTでは、通常療法群にも強化療法を実施し、両群をさらに平均11年間追跡しました。

つまり「継続的な強化療法群」と「通常療法→強化療法群」の2つのグループの比較が、DCCT終了後11年間行われたことになりますね。

その結果、開始から3~4年で両群の平均HbA1c値がほぼ同等となったにも関わらず、11年間の心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクは「継続的な強化療法群」の方がやはり低かった(相対リスク57%低下)ことが報告されたのです。(☆☆)

すなわち、糖尿人において一定期間血糖コントロールが不良であれば、高血糖の記憶が「借金」のように生体内に残り、その後良好なコントロールが得られても、血管合併症リスクの差は縮まらないことが示されたわけです。

この借金の正体が、組織沈着AGEではないかと言われています。

まだ仮説ではありますが、組織に沈着したAGEが血管を傷害し続け、動脈硬化の元凶となり「高血糖の記憶」を最もよく説明するとされています。

高血糖の記憶・借金を残さないためには、糖尿病発症の初期の段階から血糖コントロールを保つことが大切です。当然、早ければ早いほどいいわけです。

糖尿人の皆さん、カロリー制限食(高糖質食)では必ず、食後高血糖が生じ将来に借金を残します。
是非、糖質制限食で速やかな血糖コントロールを目指して下さいね。


(☆)N Engl J Med 1993; 329: 977-986

(☆☆)N Engl J Med 2005; 353: 2643-2653
テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
Re: うっかり
ドリームさん

にんにくの芽は、100g中に約10gの糖質、
にんにくは、100g中に約20gの糖質です。

がっつり食べるのではなくて薬味・調味料としての使用くらいなら大丈夫ですね。
2010/02/19(Fri) 16:03 | URL | ドクター江部 | 【編集
AGEと食品、調理法
江部先生、
内科大学院生さん、

私もAGEと食品のことは気になっていました。

「食材から摂取されたAGEsが、人体に有害か否かは、結論は出ていない。」とはいえ、危うきには近寄らずならば、AGEが少ない調理法を取る方がいいように思います。

http://www.lef.org/magazine/mag2008/apr2008_Guard-Your-Proteins-Against-Premature-Aging_02.htm より>

DO: Marinate foods in liquids and seasonings: lemon juice, dry wine, broth, olive oil, cider vinegar. Feel free to add herbs and spices, including garlic, mustard, thyme, sage, tarragon, and others. Marinating foods can help delay the reactions that lead to glycotoxin formation.

DO: Eat foods prepared using low-heat cooking methods that employ water or liquid, like poaching, stewing, braising, boiling, steaming, slow-cooker cooking, and so on. Include a raw vegetable salad (and fruit) every day.

AVOID: Broiling, frying, hot-oven roasting, grilling, and barbecuing.

その他の参考URLです。

http://www.newcastleyoga.com.au/links/Food%20AGEs.pdf
2010/02/19(Fri) 23:56 | URL | あめり | 【編集
AGEなど
半月に及び海外出張して帰り、先生のブログを見てびっくり。小生の質問に実に懇切丁寧にお答えくださっていました。ありがとうございました。ありがとうございました。関空の丸善で帰りに牧田善二氏の『糖尿病はご飯よりステーキを食べなさい』(講談社)を購入。2月に出た本です。基本線は先生と同じですが、やはり焦点はAGEで、先生の推奨される低糖質でも高たんぱくな食品の幾つかがタブーとなっているのに困惑しました。このブログでお答えいただいたシナモンは「血糖値を激減させる有意の関連が無作為事件で論証済み」で激賞されています。シナモンは超高糖質で1グラムでも問題ありであるはずなのに、牧田氏は3グラムを「有意」の指標にされています。実は出張先はアメリカだったのですが、むかし肺結核の疑いで1年間お世話になった黒人の医師(ハーバード医学校病院)を訪問して糖尿の疑いをかけられたと話してきました。秘書を通じてアポを取ると気軽に久闊を辞して下さり、30分も時間を取って下さいました。この先生の治療というか雑談は人生の潤滑油で、私も毎週この先生と話をするのが楽しみでしたが、先生もそうだったとおっしゃって下さいました。先生いわく、「人体はホメオスタティックなメカニズムだから、糖尿のようなメカニズムそのものを狂わせる複雑な病気は癌と同じで、絶対にダメというタブーを避けるにしても、あとは一つの「犯罪者」を見つけてそれを追いかけるのはメディカル・ロジックとしてはまったく近代医学が克服したはずの古いものだね。血糖値と糖質の関連は明白だから、低糖質はエッセンシャルだよ(え、日本では低カロリー食にこだわっている医師もいるの?本当?ちゃんとライセンスを持っているの、民間療法ではないの?と大笑い。江部先生を思い出し溜飲を下げました)。ただし高糖質食品でもAGEネガティブなものがあって、低糖質をやみくもにするとホメオスタティックな、あるいはホーリスティックなメカニズムが結果的に高血糖に結果する場合もあって決してオールマイティではないのではないかな。自分の体を実験台にしていろんな食品で試してみたら面白いよ」といったアドヴァイスで、これも納得したのです。この医師は私が結核の疑いがかかったとき、「なに病気などゲームだよ。どう楽しむかだけのものさ」と開口一番おっしゃり、それ以降、人間的にもファンになってクリスマスカードを20年間も交換してきました。
長い話をすみません。要点は「絶対低糖質」ではなく(まして釜池氏の糖質ゼロでもなく)、相対的低糖質を前提として「ホメオスタティック」に各個人の血糖値をさげることが重要で、「犯人探し」的発想そのものを問題にすべきではないか、というのが私の質問です。
2010/02/20(Sat) 07:00 | URL | Gabi | 【編集
Re: 活動性の膵炎

ふくふくさん

血中アミラーゼ134くらいは、問題ないです。
急性膵炎による入院の80%以上を、胆道疾患とアルコール多飲が占めています。

糖質制限食を実践したため膵炎を生じるということはありません。
現在アミラーゼが1000~2000とかCRP陽性とか診断基準で活動性が
はっきりしていたら適応にならないということです。
2010/02/20(Sat) 08:05 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: AGEなど
Gabi さん。

米国の黒人医師さん、素晴らしい人格者ですね。
私もかれのような立場を目指している医師の一人です。

【「絶対低糖質」ではなく(まして釜池氏の糖質ゼロでもなく)、相対的低糖質を前提として「ホメオスタティック」に各個人の血糖値をさげることが重要で、「犯人探し」的発想そのものを問題にすべきではないか】

私も同感です。
だから、清く正しくより、美味しく楽しく糖質制限食という立場です。
2010/02/20(Sat) 08:16 | URL | ドクター江部 | 【編集
糖尿病治療目的
「AGE」。
この言葉がブログを賑わせていますね。
しかし、ちょっと冷静に考えてみます。

根本的治癒がまだ存在しない、現在の糖尿病治療の目的は各合併症の防止であり、
同じく現在存在する、その目的を達成し得る方法(手段)は
『血糖値正常化』こそが唯一最良ではないでしょうか。

『血糖値正常化』のための、「糖質制限」であり「血糖自己測定」であり、それは各人によって複数存在すると思います。

「AGE食品制限(除去)」が
『血糖値正常化』より上位に位置するとは到底思えません。
あくまで、「AGE食品制限(除去)」は『血糖値正常化』のための選択肢の1つに過ぎないのでは。

** 味噌や醤油が糖尿病に悪い(発症原因)とするならば、日本人は食の西欧化以前から糖尿病患者であふれ返っていてもおかしくないのでは
2010/02/20(Sat) 13:37 | URL | tarouh | 【編集
食品からAGEを摂ったとしても、その30%は尿中に排出されると考えられているようですね。
2010/02/20(Sat) 21:10 | URL |  | 【編集
AGE化LDL
AGEについて
1)高血糖由来
2)食品由来
と大きく分けて2つありますが
1)に属するAGE化LDLについて調べてみました

・動脈硬化原因:変性LDL(糖化LDL、酸化LDL)
・糖化LDL(→AGE化LDL)発生について;
 LDLが増加すると、通常肝臓は、LDL増加を認識しそれらを減少すべくはたらく。
 ただしブドウ糖がLDLに結合すると(糖化LDL)、結合体はLDLと認識されずLDL増加。
 (→結合体の最終形がいわゆるAGE)
・LDLがAGE化を受ける場合、LDLの酸化も起こり易くなるため、AGE化LDLの増加は酸化LDLの産生を高める。

つまりは、高血糖状態こそが
問題の根源である、ブドウ糖とLDLの結合リスクを高めている。

さらに、慢性長期高血糖ではLDLの値も高い。


やはり血糖値正常化が大切だと思われます。
2010/02/20(Sat) 21:13 | URL | tarouh | 【編集
Re: AGE化LDL
tarouh さん

貴重な情報をありがとうございます。
2010/02/21(Sun) 11:00 | URL | ドクター江部 | 【編集
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