2010年02月16日 (火)
おはようございます。
さて今回は、グルコーススパイクと動脈硬化の関係について、みやしたさんから、コメント・質問をいただきました。
【10/02/09 みやした
質問
先生はじめまして。
最近になって先生の本を読ませていただいた者です。宮本先生のファンだったのが幸いしました。親子2代の糖尿病患者です。私は42歳になります。
さて、先生の本を読んで、糖質制限することの重要性を再確認することができました。ただ、その中で一点気になったことがありました。
「高血糖は血管を傷つける」とありますが、実際には血管の中でどのような現象がおこっているのでしょうか?
例えば動脈硬化の場合に「血液がどろどろになる」「血管が硬くなる」という表現がありますが、これは「傷つける」という表現とは違うイメージです。
ネットでも調べてみたところ、コンペイトウのような形をしたブドウ糖が血管を傷つける絵が載っているところもありましたが、実際にブドウ糖が尖った形をしていて物理的に血管を傷つけるという解釈でよろしいのでしょうか?
「グルコーススパイク」という言葉のインパクトが非常に強かったので、そこで起こっている現象を詳しく知りたいと思った次第です。
素人の質問ですが、お手数でしたらしかるべき文献やホームページ等でも教えていただければ幸いです。厚かましいお願いですが、何卒、お願いいたします。
(もし、本に書いてあったことを私が読み落としている場合は申し訳ありません)】
みやしたさん。
コメントありがとうございます。
空腹時血糖値と食後高血糖値の差、急激な血糖値の上昇をグルコーススパイクといい、大きいほど血管内皮に悪影響を与えます
食後高血糖(グルコーススパイク)が、心血管疾患の強力な危険因子であることは、多くの疫学的研究や動物実験で明らかにされています。
それでは、なぜ高血糖が、血管を傷害するのでしょう?
高血糖により、細胞傷害が生じる機序の中心は、酸化ストレス(*)の亢進です。
血管内皮機能にはいろんな因子が関わっていて、弛緩と収縮のバランスをとっています。高血糖があると、酸化ストレスが増大し、血管内皮機能の弛緩に関係する因子の働きが悪くなり、動脈硬化のリスクとなります。
また高血糖があると、糖と蛋白質の非酵素的な反応により、AGE(終末糖化産物)が形成されます。AGE(**)の蓄積は、血管内皮細胞障害を引き起こします。
さらに、高血糖により体に必要な蛋白質が変性し、活性酸素が産生されます。また、糖化により、活性酸素を除去するSODという酵素も変性してしまいます。
次いで興味深い話題ですが、間欠的な高血糖は、抗酸化システムの増強を妨げるとされ、血糖の上昇・下降を繰り返す血糖変動では、慢性的な高血糖より細胞傷害機序が強く働く可能性が指摘されています。特に急激な食後血糖値の上昇(グルコーススパイク)が最も危険と言われています。
このように、食後高血糖が、「酸化ストレスの増大、血管内皮機能障害、血液凝固線溶系や脂質代謝の障害、インスリン抵抗性増大、膵β細胞の機能低下」を生じ、これらの悪循環の結果として、動脈硬化の進展とプラーク(***)脆弱性を招くことが判明しつつあります。
そして、食後高血糖を生じるのは「糖質・脂質・タンパク質」のうち糖質だけなのです。
カロリー制限が主の現行の糖尿病食では、グルコーススパイクは決して防げません。糖尿人の皆さん、是非糖質制限食で身を守ってくださいね。
*酸化ストレス
酸化ストレスとは、「生体の酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れ、酸化反応が亢進した状態」のことで、当然生体にとって好ましくない現象です。
高血糖、喫煙、活性酸素などが、酸化ストレスを増加させると考えられます。
酸化ストレスは、細胞のDNA、細胞膜上のリン酸脂質、蛋白質、糖質を傷害し、血管傷害を進行させます。
**AGE
タンパク質と糖が結びついた物質で、Advanced Glycation End-productの頭文字をとってAGEと呼ばれます。日本語では終末糖化産物と訳されています。
過剰な血糖は、糖化反応により血管壁のコラーゲンなど様々なタンパク質に付着します。付着した糖は一部変性してアマドリ化合物(変性ブドウ糖)となります。
このアマドリ化合物と糖が結合しAGEができます。
AGEは、糖尿病合併症を引き起こす、重大な原因の1つです。
***プラーク
動脈硬化症の中で、最も頻度が高く重要な疾患が粥状硬化症です。
粥状硬化症の初期病変は限局性の内膜肥厚を示しますが、この肥厚性斑状病巣をプラークと呼びます。
加齢や病変の進行とともに動脈のプラークの数は増加し、さらにプラーク同士の融合も見られるようになります。
プラークの成分により
①線維性プラーク
②脂質に富むプラーク
③両者の中間型(中間型プラーク)
の3群に大別されます。
脂質に富み、且つ、破裂しやすいプラークは「不安定プラーク」と呼ばれています。
破裂の結果、不安定狭心症、急性心筋梗塞、虚血性突然死などの急性冠動脈症候群を発症するので「危険なプラーク」とされています。
江部康二
さて今回は、グルコーススパイクと動脈硬化の関係について、みやしたさんから、コメント・質問をいただきました。
【10/02/09 みやした
質問
先生はじめまして。
最近になって先生の本を読ませていただいた者です。宮本先生のファンだったのが幸いしました。親子2代の糖尿病患者です。私は42歳になります。
さて、先生の本を読んで、糖質制限することの重要性を再確認することができました。ただ、その中で一点気になったことがありました。
「高血糖は血管を傷つける」とありますが、実際には血管の中でどのような現象がおこっているのでしょうか?
例えば動脈硬化の場合に「血液がどろどろになる」「血管が硬くなる」という表現がありますが、これは「傷つける」という表現とは違うイメージです。
ネットでも調べてみたところ、コンペイトウのような形をしたブドウ糖が血管を傷つける絵が載っているところもありましたが、実際にブドウ糖が尖った形をしていて物理的に血管を傷つけるという解釈でよろしいのでしょうか?
「グルコーススパイク」という言葉のインパクトが非常に強かったので、そこで起こっている現象を詳しく知りたいと思った次第です。
素人の質問ですが、お手数でしたらしかるべき文献やホームページ等でも教えていただければ幸いです。厚かましいお願いですが、何卒、お願いいたします。
(もし、本に書いてあったことを私が読み落としている場合は申し訳ありません)】
みやしたさん。
コメントありがとうございます。
空腹時血糖値と食後高血糖値の差、急激な血糖値の上昇をグルコーススパイクといい、大きいほど血管内皮に悪影響を与えます
食後高血糖(グルコーススパイク)が、心血管疾患の強力な危険因子であることは、多くの疫学的研究や動物実験で明らかにされています。
それでは、なぜ高血糖が、血管を傷害するのでしょう?
高血糖により、細胞傷害が生じる機序の中心は、酸化ストレス(*)の亢進です。
血管内皮機能にはいろんな因子が関わっていて、弛緩と収縮のバランスをとっています。高血糖があると、酸化ストレスが増大し、血管内皮機能の弛緩に関係する因子の働きが悪くなり、動脈硬化のリスクとなります。
また高血糖があると、糖と蛋白質の非酵素的な反応により、AGE(終末糖化産物)が形成されます。AGE(**)の蓄積は、血管内皮細胞障害を引き起こします。
さらに、高血糖により体に必要な蛋白質が変性し、活性酸素が産生されます。また、糖化により、活性酸素を除去するSODという酵素も変性してしまいます。
次いで興味深い話題ですが、間欠的な高血糖は、抗酸化システムの増強を妨げるとされ、血糖の上昇・下降を繰り返す血糖変動では、慢性的な高血糖より細胞傷害機序が強く働く可能性が指摘されています。特に急激な食後血糖値の上昇(グルコーススパイク)が最も危険と言われています。
このように、食後高血糖が、「酸化ストレスの増大、血管内皮機能障害、血液凝固線溶系や脂質代謝の障害、インスリン抵抗性増大、膵β細胞の機能低下」を生じ、これらの悪循環の結果として、動脈硬化の進展とプラーク(***)脆弱性を招くことが判明しつつあります。
そして、食後高血糖を生じるのは「糖質・脂質・タンパク質」のうち糖質だけなのです。
カロリー制限が主の現行の糖尿病食では、グルコーススパイクは決して防げません。糖尿人の皆さん、是非糖質制限食で身を守ってくださいね。
*酸化ストレス
酸化ストレスとは、「生体の酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れ、酸化反応が亢進した状態」のことで、当然生体にとって好ましくない現象です。
高血糖、喫煙、活性酸素などが、酸化ストレスを増加させると考えられます。
酸化ストレスは、細胞のDNA、細胞膜上のリン酸脂質、蛋白質、糖質を傷害し、血管傷害を進行させます。
**AGE
タンパク質と糖が結びついた物質で、Advanced Glycation End-productの頭文字をとってAGEと呼ばれます。日本語では終末糖化産物と訳されています。
過剰な血糖は、糖化反応により血管壁のコラーゲンなど様々なタンパク質に付着します。付着した糖は一部変性してアマドリ化合物(変性ブドウ糖)となります。
このアマドリ化合物と糖が結合しAGEができます。
AGEは、糖尿病合併症を引き起こす、重大な原因の1つです。
***プラーク
動脈硬化症の中で、最も頻度が高く重要な疾患が粥状硬化症です。
粥状硬化症の初期病変は限局性の内膜肥厚を示しますが、この肥厚性斑状病巣をプラークと呼びます。
加齢や病変の進行とともに動脈のプラークの数は増加し、さらにプラーク同士の融合も見られるようになります。
プラークの成分により
①線維性プラーク
②脂質に富むプラーク
③両者の中間型(中間型プラーク)
の3群に大別されます。
脂質に富み、且つ、破裂しやすいプラークは「不安定プラーク」と呼ばれています。
破裂の結果、不安定狭心症、急性心筋梗塞、虚血性突然死などの急性冠動脈症候群を発症するので「危険なプラーク」とされています。
江部康二
はじめまして江部先生
昨年4月に入院退院し2型糖尿病の者です
先生のブログで糖質制限食に出会えてからお先真っ暗というストレスや絶望感から解放されました。ありがとうございます
今現在、朝4昼4夕4とノボラピット。夜ランタス3を打ちながら生活していますが…起床時・昼食前・就寝時の血糖値はとても順調でだいたい90前後、HbA1c5.5なのですが、夕方17時に測る血糖値がいつも140~180と高くなります。主治医にも相談したのですが主治医曰わく
「薬が切れてるだけだから気にしなくていい」と言われただけでした。
しかしあまり血糖値の差がありすぎるとやはりいけないような気がして
16時あたりからいつも体がだるく辛いのですが…だいたいノボラピットは何時間くらい保つのでしょうか?昼に打つ薬単位を増やしても同じなのでしょうか?
初歩的な質問ですみません。お時間があれば宜しくお願いします
昨年4月に入院退院し2型糖尿病の者です
先生のブログで糖質制限食に出会えてからお先真っ暗というストレスや絶望感から解放されました。ありがとうございます
今現在、朝4昼4夕4とノボラピット。夜ランタス3を打ちながら生活していますが…起床時・昼食前・就寝時の血糖値はとても順調でだいたい90前後、HbA1c5.5なのですが、夕方17時に測る血糖値がいつも140~180と高くなります。主治医にも相談したのですが主治医曰わく
「薬が切れてるだけだから気にしなくていい」と言われただけでした。
しかしあまり血糖値の差がありすぎるとやはりいけないような気がして
16時あたりからいつも体がだるく辛いのですが…だいたいノボラピットは何時間くらい保つのでしょうか?昼に打つ薬単位を増やしても同じなのでしょうか?
初歩的な質問ですみません。お時間があれば宜しくお願いします
2010/02/16(Tue) 11:39 | URL | ゆみ | 【編集】
ベィビィ さん。
すいません。
削除しました。
すいません。
削除しました。
2010/02/16(Tue) 11:55 | URL | 江部康二 | 【編集】
ゆみさん
「夕方17時に測る血糖値がいつも140~180」
ノボラピッドは超速攻型インスリンです。
10~20分で効果が出始め
1~3時間が最大作用時間です。
持続時間は3~5時間です。
糖質制限を昼によりきっちりやる。
あるいは昼のノボラピッドを2単位増やすなどの選択肢があると思います。
主治医とご相談ください。
また起床時・昼食前・就寝時の血糖値はとても順調なので
例えば食後2時間血糖値も測定すると情報が増えますね。
「夕方17時に測る血糖値がいつも140~180」
ノボラピッドは超速攻型インスリンです。
10~20分で効果が出始め
1~3時間が最大作用時間です。
持続時間は3~5時間です。
糖質制限を昼によりきっちりやる。
あるいは昼のノボラピッドを2単位増やすなどの選択肢があると思います。
主治医とご相談ください。
また起床時・昼食前・就寝時の血糖値はとても順調なので
例えば食後2時間血糖値も測定すると情報が増えますね。
2010/02/16(Tue) 15:15 | URL | ドクター江部 | 【編集】
出来れば薬に頼りたくないので、昼食の糖質食をもう少し糖質調節してみます!ありがとうございました。主治医とも相談してみます!
2010/02/16(Tue) 15:36 | URL | ゆみ | 【編集】
1.血管の柔軟性がなくなり硬化する。
2.終末糖化産物を発生し、合併症を引き起こす
3.活性酸素を発生させる
4.粥状硬化を血管内で発生させる
ですか、、、
食後高血糖タイプの私は怖いことだらけです ><
糖質制限食を続ける励みになりました。
2.終末糖化産物を発生し、合併症を引き起こす
3.活性酸素を発生させる
4.粥状硬化を血管内で発生させる
ですか、、、
食後高血糖タイプの私は怖いことだらけです ><
糖質制限食を続ける励みになりました。
2010/02/16(Tue) 16:00 | URL | らこ | 【編集】
こんばんは
グルコーススパイクに関連し低血糖問題について質問させて下さい。
薬物服用およびインスリン注射の方には低血糖に注意すべく指導がありますが、高血糖200と低血糖40では、どちらがより危険で血管へのダメージが大きいしょうか。
私は後者かと考えるのです。
理由として、先生の著書からも人体システムは圧倒的に血糖上昇システムが多い。
低血糖は即死に繋がるが、高血糖障害は遅効性。
健常人が血糖値50以下になることはほぼ無い。
そう考えると、僅かな膵臓への負担を差し引いても、やはり可能な限り糖質制限によってコントロールするのがいいのでしょうか。
グルコーススパイクに関連し低血糖問題について質問させて下さい。
薬物服用およびインスリン注射の方には低血糖に注意すべく指導がありますが、高血糖200と低血糖40では、どちらがより危険で血管へのダメージが大きいしょうか。
私は後者かと考えるのです。
理由として、先生の著書からも人体システムは圧倒的に血糖上昇システムが多い。
低血糖は即死に繋がるが、高血糖障害は遅効性。
健常人が血糖値50以下になることはほぼ無い。
そう考えると、僅かな膵臓への負担を差し引いても、やはり可能な限り糖質制限によってコントロールするのがいいのでしょうか。
2010/02/16(Tue) 23:01 | URL | 通りびと | 【編集】
通りびと さん。
了解です。
記事の文章は訂正しました。
2010/02/18(Thu) 08:02 | URL | ドクター江部 | 【編集】
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