2010年01月22日 (金)
こんばんは。
今回で、内科大学院生さんからの質問の回答、最後です。
『⑥糖質を数時間以上摂取していない状態の時は、糖新生が行われますが、同時に筋肉の分解も促進されるのでしょうか? 』
肝臓の糖新生は、人体においてごく日常的に行われています。糖質制限食を実践中は、食事中でも肝臓で糖新生が行われています。
糖質を摂取している人においても、夜間睡眠中とか、食後数時間経過したら、誰でも肝臓で糖新生を行っています。
食物吸収が終了した直後には、肝臓のグリコーゲン分解が、循環血液中に入るブドウ糖の主要な供給源です。
食後数時間が経過し、絶食状態が持続すると、ブドウ糖の供給源は、肝のグリコーゲン分解から糖新生に切り替わります。
ですから、人類の400万年の歴史において、ごく普通に肝臓の糖新生は行われてきたわけで、珍しいことでも何でもありません。
①脂肪組織→グリセロール(脂肪酸の分解物)や脂肪酸→肝臓→糖新生→脂肪組織・筋肉
②筋肉→アミノ酸→肝臓→糖新生→筋肉・脂肪組織
③ブドウ糖代謝→乳酸→肝臓→糖新生→筋肉・脂肪組織
①②③はごく日常的に誰でも行っており、肝臓、筋肉、脂肪組織の間で行ったり来たり、日々糖新生の調節が行われているわけです。このように、筋肉も睡眠中などに、一定量の分解と再生を毎日繰り返しています。
『⑦糖質制限中に肝臓からのアミノ酸分解が亢進した際に、アンモニア生成亢進にはつながらないのでしょうか?』
アミノ酸は、アミノ基があるために酸化的分解を受けにくいので、アミノ酸を分解するには、まずアミノ基をはずすことが必要です。
①アミノ基転移:アミノ酸分解の過程で、αケト酸とグルタミン酸ができます。
②酸化的脱アミノ:グルタミン酸はミトコンドリアの中でαケトグルタル酸とアンモニアになります。
α-ケトグルタル酸はTCA回路の一員です。
③アンモニアの処理:生じたアンモニアは生体に有害であるため、肝臓の尿素回路によって無毒な尿素に変換され、腎臓から排泄されます。
脱アミノ化されて生じるα-ケト酸は、「ブドウ糖の合成」や「ケトン体や脂肪酸の合成」に利用されます。
アンモニアですが、検査会社のSRLのページによると、
「アンモニア(NH3)はタンパク質の代謝過程でアミノ酸から脱アミノされて生じ、肝で尿素合成に利用されるが、血中NH3の大部分は消化管(小腸粘膜と大腸内細菌)由来とされる。NH3の解毒は肝細胞での尿素回路に依存し、尿素は腎より尿中に排泄される。
したがって、肝臓機能の低下による尿素サイクル活性の低下、腸内におけるNH3産生の増加および門脈副血行枝による門脈血の大循環系への流入などの場合には血中NH3濃度が高値となる。」
人体の小腸や大腸で、酵素や腸内細菌の働きで、食物中のタンパク質や消化管への分泌液に含まれる尿素が分解され、アミノ酸が脱アミノされてアンモニアが生じます。血中アンモニアの大部分は、腸壁から血管内に吸収された消化管由来のものです。
糖質制限食だと高タンパク食になるので、腸管においてやや多めにアミノ酸からアンモニアが産生されます。
また、肝臓でのアミノ酸から糖新生の過程でも、一定のアンモニアができます。ミトコンドリア内でアンモニア産生なので、赤血球以外の細胞では人体どこでもアンモニアができる理屈ですね。
いずれにせよ、消化管由来のものも、体内のミトコンドリア内で生じたものも、アンモニアは肝臓の尿素回路で尿素に変換され、腎臓から尿中に排泄されます。
糖質制限食で少々アンモニアが多めに生じても、肝臓で処理して尿素にして腎臓から排泄するので問題はありません。
尿素がたくさん産生されたときには、尿素窒素(BUN)が生理的に今の基準値より高値となることがありますが、 クレアチニンは正常で腎機能の悪化ではありません。
なお、筋肉運動でもアンモニア産生は増加します。
☆☆☆
アミノ酸の分解に関しては
「アミノ酸の分解」代謝マップ
http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/amino_met.htm
のサイトの記述を参考にさせていただきました。
謝謝。m(_ _)mV
江部康二
今回で、内科大学院生さんからの質問の回答、最後です。
『⑥糖質を数時間以上摂取していない状態の時は、糖新生が行われますが、同時に筋肉の分解も促進されるのでしょうか? 』
肝臓の糖新生は、人体においてごく日常的に行われています。糖質制限食を実践中は、食事中でも肝臓で糖新生が行われています。
糖質を摂取している人においても、夜間睡眠中とか、食後数時間経過したら、誰でも肝臓で糖新生を行っています。
食物吸収が終了した直後には、肝臓のグリコーゲン分解が、循環血液中に入るブドウ糖の主要な供給源です。
食後数時間が経過し、絶食状態が持続すると、ブドウ糖の供給源は、肝のグリコーゲン分解から糖新生に切り替わります。
ですから、人類の400万年の歴史において、ごく普通に肝臓の糖新生は行われてきたわけで、珍しいことでも何でもありません。
①脂肪組織→グリセロール(脂肪酸の分解物)や脂肪酸→肝臓→糖新生→脂肪組織・筋肉
②筋肉→アミノ酸→肝臓→糖新生→筋肉・脂肪組織
③ブドウ糖代謝→乳酸→肝臓→糖新生→筋肉・脂肪組織
①②③はごく日常的に誰でも行っており、肝臓、筋肉、脂肪組織の間で行ったり来たり、日々糖新生の調節が行われているわけです。このように、筋肉も睡眠中などに、一定量の分解と再生を毎日繰り返しています。
『⑦糖質制限中に肝臓からのアミノ酸分解が亢進した際に、アンモニア生成亢進にはつながらないのでしょうか?』
アミノ酸は、アミノ基があるために酸化的分解を受けにくいので、アミノ酸を分解するには、まずアミノ基をはずすことが必要です。
①アミノ基転移:アミノ酸分解の過程で、αケト酸とグルタミン酸ができます。
②酸化的脱アミノ:グルタミン酸はミトコンドリアの中でαケトグルタル酸とアンモニアになります。
α-ケトグルタル酸はTCA回路の一員です。
③アンモニアの処理:生じたアンモニアは生体に有害であるため、肝臓の尿素回路によって無毒な尿素に変換され、腎臓から排泄されます。
脱アミノ化されて生じるα-ケト酸は、「ブドウ糖の合成」や「ケトン体や脂肪酸の合成」に利用されます。
アンモニアですが、検査会社のSRLのページによると、
「アンモニア(NH3)はタンパク質の代謝過程でアミノ酸から脱アミノされて生じ、肝で尿素合成に利用されるが、血中NH3の大部分は消化管(小腸粘膜と大腸内細菌)由来とされる。NH3の解毒は肝細胞での尿素回路に依存し、尿素は腎より尿中に排泄される。
したがって、肝臓機能の低下による尿素サイクル活性の低下、腸内におけるNH3産生の増加および門脈副血行枝による門脈血の大循環系への流入などの場合には血中NH3濃度が高値となる。」
人体の小腸や大腸で、酵素や腸内細菌の働きで、食物中のタンパク質や消化管への分泌液に含まれる尿素が分解され、アミノ酸が脱アミノされてアンモニアが生じます。血中アンモニアの大部分は、腸壁から血管内に吸収された消化管由来のものです。
糖質制限食だと高タンパク食になるので、腸管においてやや多めにアミノ酸からアンモニアが産生されます。
また、肝臓でのアミノ酸から糖新生の過程でも、一定のアンモニアができます。ミトコンドリア内でアンモニア産生なので、赤血球以外の細胞では人体どこでもアンモニアができる理屈ですね。
いずれにせよ、消化管由来のものも、体内のミトコンドリア内で生じたものも、アンモニアは肝臓の尿素回路で尿素に変換され、腎臓から尿中に排泄されます。
糖質制限食で少々アンモニアが多めに生じても、肝臓で処理して尿素にして腎臓から排泄するので問題はありません。
尿素がたくさん産生されたときには、尿素窒素(BUN)が生理的に今の基準値より高値となることがありますが、 クレアチニンは正常で腎機能の悪化ではありません。
なお、筋肉運動でもアンモニア産生は増加します。
☆☆☆
アミノ酸の分解に関しては
「アミノ酸の分解」代謝マップ
http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/amino_met.htm
のサイトの記述を参考にさせていただきました。
謝謝。m(_ _)mV
江部康二
江部先生、こんばんは。
半年前に受けたブドウ糖負荷試験で、1時間値が高かったので、半年間軽い糖質制限をして
再度、ブドウ糖負荷試験を受けてきました。
今回 前回
空腹 78(2.2) 空腹 91(4.63)
30分 146(32.6) 30分 153(24.9)
60分 110(38.1) 60分 171
120分 148(39.2) 120分 133(42.2)
今回、120分値が140を越えてしまったのですが
これは境界型になってしまったのでしょうか?
また、主治医の先生は「なぜ1時間値より2時間値が上がったのか分からない」と仰いましたが、
どのような事が考えられるのでしょうか?
お忙しいところ申し訳ありませんが、宜しくお願い致します。
半年前に受けたブドウ糖負荷試験で、1時間値が高かったので、半年間軽い糖質制限をして
再度、ブドウ糖負荷試験を受けてきました。
今回 前回
空腹 78(2.2) 空腹 91(4.63)
30分 146(32.6) 30分 153(24.9)
60分 110(38.1) 60分 171
120分 148(39.2) 120分 133(42.2)
今回、120分値が140を越えてしまったのですが
これは境界型になってしまったのでしょうか?
また、主治医の先生は「なぜ1時間値より2時間値が上がったのか分からない」と仰いましたが、
どのような事が考えられるのでしょうか?
お忙しいところ申し訳ありませんが、宜しくお願い致します。
2010/01/22(Fri) 19:55 | URL | サバ子 | 【編集】
素朴な疑問なんですがブドウ糖負荷試験半年に一回の間隔でする頻度てありえるのでしょうか?ちょっと疑問に思いまして質問させていただきました。
2010/01/22(Fri) 21:14 | URL | 通りすがり | 【編集】
糖質制限を始めて2年になります。今のところ職場の検診の結果も順調です。
ただ、定期的に通院するのに糖質制限に理解のある医師が神戸付近ににいらっしゃれば教えていただきたいと思っておりますが、いかがでしょうか?
ただ、定期的に通院するのに糖質制限に理解のある医師が神戸付近ににいらっしゃれば教えていただきたいと思っておりますが、いかがでしょうか?
2010/01/22(Fri) 21:28 | URL | あき | 【編集】
サバ子さん。
これはよくわかりませんね。
基準的には境界型ですが、
インスリンもそこそこでており、誤差範囲という気もします。
これはよくわかりませんね。
基準的には境界型ですが、
インスリンもそこそこでており、誤差範囲という気もします。
2010/01/23(Sat) 08:39 | URL | 江部康二 | 【編集】
通りすがりさん。
糖尿病の疑いのある人に、ブドウ糖負荷試験をしますので
通常そう頻回にはしませんね。
食事療法での変化をご本人が確認したいということなら
ありと思います。
糖尿病の疑いのある人に、ブドウ糖負荷試験をしますので
通常そう頻回にはしませんね。
食事療法での変化をご本人が確認したいということなら
ありと思います。
2010/01/23(Sat) 08:43 | URL | 江部康二 | 【編集】
江部先生こんにちは。
2週間ほど前にコメントさせていただきました、takayakkoです。
本日、久々に自己採血キットで調べてみたところ、食事前が214でした。(ただし、2時間前にマルチトールのベリーチョコレートを10gほど食した後ですが)
昨晩は同僚の送別会で、から揚げを食べてしまい、ちょっと反省していたのですが(涙)
糖質制限食をはじめた2週間前から体重も2kg、体脂肪は3%以上も減り、薬においては飲むと低血糖になってしまったため、ちょっとお休みしております。
すこぶる体調も良く、糖質制限食を始めてよかったです。
ありがとうございます。
来月の定期健診が楽しみです。
主治医の先生が理解を示してくれるとよいのですが。
まだまだ、寒い日が続きますのでご自愛くださいますよう。
2週間ほど前にコメントさせていただきました、takayakkoです。
本日、久々に自己採血キットで調べてみたところ、食事前が214でした。(ただし、2時間前にマルチトールのベリーチョコレートを10gほど食した後ですが)
昨晩は同僚の送別会で、から揚げを食べてしまい、ちょっと反省していたのですが(涙)
糖質制限食をはじめた2週間前から体重も2kg、体脂肪は3%以上も減り、薬においては飲むと低血糖になってしまったため、ちょっとお休みしております。
すこぶる体調も良く、糖質制限食を始めてよかったです。
ありがとうございます。
来月の定期健診が楽しみです。
主治医の先生が理解を示してくれるとよいのですが。
まだまだ、寒い日が続きますのでご自愛くださいますよう。
2010/01/23(Sat) 14:28 | URL | takayakko | 【編集】
あきさん。
吉田先生とご相談ください。
吉田光範先生
吉田内科クリニック
〒659-0067兵庫県芦屋市茶屋之町2-21 メイピース芦屋305
電話番号 0797-38-7210
吉田先生とご相談ください。
吉田光範先生
吉田内科クリニック
〒659-0067兵庫県芦屋市茶屋之町2-21 メイピース芦屋305
電話番号 0797-38-7210
2010/01/23(Sat) 16:30 | URL | 江部康二 | 【編集】
江部先生、こんばんは。
ご回答下さりありがとうございました。
今回の結果は、1時間値と2時間値が反対になってしまっているんじゃないかと疑ってしまいます。
ご回答下さりありがとうございました。
今回の結果は、1時間値と2時間値が反対になってしまっているんじゃないかと疑ってしまいます。
2010/01/23(Sat) 22:22 | URL | サバ子 | 【編集】
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