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運動時のエネルギーシステム
おはようございます。
今回は内科大学院生さんから、いろいろコメント・質問をいただきました。


『10/01/18 内科大学院生
質問です
江部 先生

はじめまして。内科大学院生と申します。いつも先生のブログを拝見させて頂いています。
先生の説明は、理論的でいつも感心といいますか、感動すら覚えています。内科医の鏡です。
実はいくつか質問がありまして、メールさせて頂きました。

①空腹時や安静時の心筋や骨格筋のエネルギーシステムは脂肪酸ケトン体なのは理解していますが、運動時はどうなっているのでしょうか?糖質制限食中に有酸素運動や筋トレを行った場合、エネルギー確保のために筋肉がより分解されるということはないのでしょうか?

②血中の中性脂肪を増やすのは糖質ですが、糖質制限食後にLDLが上昇するケースが多いのはどうしてでしょうか?勿論、中性脂肪が減っているので、HDLは少し増えたり、small dense LDLは減っているのでしょうが、やはりガイドラインなどではLDLの数値のみで評価しますし、LDLの性質を調べられる施設は限られています。食事由来のコレステロールは本来2-3割程度なのに、かなりLDLの値が上昇するのが、理解できずにいます。

③Creの値が上昇していない糖尿病腎症3期A/Bの患者さんでも、糖質制限(高蛋白)でも問題ないのでしょうか?

④糖質制限の際の脂質の摂取ですが、飽和脂肪酸でも不飽和(必須)脂肪酸でも構わないのでしょうか?また、必須脂肪酸には一価や多価がありますが、推奨している順番などがあればご教示ください。

⑤糖質制限を行っている最中は、インスリンが過剰に作用しない状態になっている訳ですが、糖尿病のインスリン作用不足の際に起こるように、脂肪組織からの遊離脂肪酸の放出は増えるのでしょうか?
もし増えるなら、FFAが増えた際のデメリットが心配です。

⑥糖質を数時間以上摂取していない状態の時は、糖新生が行われますが、同時に筋肉の分解も促進されるのでしょうか?

⑦糖質制限中に肝臓からのアミノ酸分解が亢進した際に、アンモニア生成亢進にはつながらないのでしょうか?』


内科大学院生さん。
お誉めのコメントありがとうございます。

まずは質問①について考えてみましょう。

『①空腹時や安静時の心筋や骨格筋のエネルギーシステムは脂肪酸ケトン体なのは理解していますが、運動時はどうなっているのでしょうか?糖質制限食中に有酸素運動や筋トレを行った場合、エネルギー確保のために筋肉がより分解されるということはないのでしょうか? 』

最高強度の運動の時は、即エネルギ-源が必要なので、筋肉細胞はまず自前で貯蔵していたATPやクレアチニンリン酸の生み出すATPを使います。そのあとは、グリコーゲン分解と解糖からのATP供給が5秒で最大となり、20秒くらい持続します。これらは、ほとんど全て嫌気的エネルギーで、無酸素運動で供給速度が速いです。

100m全力疾走とか、高負荷の筋力トレーニングであれば、最高強度の運動であり、脂肪酸はエネルギー源としてほとんど使われないので、筋肉中のグリコーゲン消費量は多くなり、数回繰り返せば一旦枯渇するくらいまで減少すると考えられます。

これに対して、低負荷のトレーニングの場合は、脂肪酸-ケトン体エネルギーシステム(好気的システム)も結構利用されるので、筋肉中のグリコーゲン消費量は少ないと考えられます。勿論低負荷のトレーニングでもグリコーゲンブドウ糖システム(好気的システム)もあるていど利用されると思います。

長時間の運動のごく初期の1.2分は、嫌気的代謝も利用されます。即ち、高強度の運動時と同様、筋肉細胞はまず自前で貯蔵していたATPを使います。直後にクレアチンリン酸を利用してADPからATPを再合成します。

その後、グリコーゲン分解と解糖からのATP供給が始まり、20秒くらい持続します。これらは全て嫌気的エネルギーで、供給速度が速いです。

この間、徐々に脂肪と糖質の酸化的リン酸化による、好気的エネルギー供給に代わります。
1.2分を過ぎてくると大部分が好気的代謝になっていきます。

嫌気的代謝と好気的代謝のどちらが主となるかは運動強度で違い、下記の如くです。

<運動強度と嫌気的代謝・好気的代謝>
100m競争だと、嫌気的代謝が90%で好気的代謝が10%
400m競争だと、嫌気的代謝が70%で好気的代謝が30%、
800m競争だと、嫌気的代謝が40%で好気的代謝が60%、
1500mは、それぞれ20%と80%
10000mは、それぞれ3%と97%
42.195km(マラソン)は、それぞれ1%と99%

好気的代謝には「脂肪酸-ケトン体システム」と「グリコーゲンブドウ糖システム」があります。

そして、長時間の運動(30~180分間は維持できる運動強度)であれば、筋肉は脂肪酸-ケトン体のシステムを中心に利用します。一流スポーツアスリートは、筋肉細胞中の脂肪滴は多く、また血液中の脂肪酸の利用能力も高まっています。

勿論、筋肉中のグリコーゲン-ブドウ糖のシステムを全く利用しないということではありませんし、血液中のブドウ糖も利用します。

あくまでも、脂肪とブドウ糖のどちらが主エネルギー源か、比率の問題です。

一般には、強度の高い運動ほど、エネルギー供給速度の速いグリコーゲン-ブドウ糖システムの利用比率が増します。

この時、鍛えられたアスリートほど、ある程度の強度の運動でも、脂肪酸-ケトン体システムを上手に使いこなしますので、筋肉中のグリコーゲンを最後まで節約できます。

そして、ラストスパートで高強度の運動の時に、一気にグリコーゲン-ブドウ糖システムを全開していきます。

運動時には、このようなエネルギーシステムで人体は稼働してますので、糖質制限食実践中でも、筋肉のタンパク質がより分解されるということはないと思います。


江部康二

テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
コメント
遅れましたが・・・
還暦おめでとうございます。
また、早々のお返事ありがとうございました。和歌山に理解ある先生が、おられないとの事で残念です。

前回、コメントさせていただいた後の診察で、再度主治医に糖質制限を続けていきたいと話をしましたが、受け入れてもらえず、「次回、ちゃんと栄養指導しましょう」と言われてしまいました。それからしばらく憂鬱な日々を送っていたのですが、悩んだ結果、和歌山にも糖質制限を広めたいとゆう思いもあり、昨日の診察でもう一度糖質制限の話をしようと思った矢先、尿中ケトンの反応があり「ほら、炭水化物とってないから体が悲鳴あげてますよ」と勝ち誇ったように言われました。ケトン体システムの事を話そうとも思ったのですが、あれだけ糖質制限の事を話したにも関わらず、何一つ糖質制限について調べてくれていない事に落胆し話す気力もなくなりました。(糖質制限を否定するなら、まず、それを調べてみてくれると思っていたのですが、甘かったみたいです・・・)
が、しかし、その後栄養指導していただいた看護士さんが私の話に耳を傾けてくれ、糖質制限について勉強して主治医と話し合ってみると言ってくださったので、江部先生の事を話させていただきました。
少しではありますが、和歌山に糖質制限を広める第一歩が踏み出せた気がします。
糖質制限の夜明けは近いぜよ~~^^
2010/01/19(Tue) 12:29 | URL | ゆきお | 【編集
内科大学院生Drの質問に興味
②の質問に大変興味を覚えています。どの位LDLが増加してくるのですか?数値を教えてください。食事は糖質制限・高脂肪食高タンパク食でしょうか?それは3食でしょうか?1食でしょうか?何時採血した値でしょうか?私retireした生化学者の糖尿病専門老健医です。
2010/01/19(Tue) 17:03 | URL | GreenIsar | 【編集
私個人はLDLは大巾に下落しました
江部先生のおかげで、境界糖尿病にも関わらず毎日「病状も悪くならない上に、蒸留酒が呑める夢の日々」を送っております「らこ」です。
 私個人のデータを記載します。
・・・と言うのは、「糖質制限食」を開始したら

1.LDLは大巾下落
2.HDLは小巾上昇
3.中性脂肪は上昇だが正常値の範囲内

となったからです。以下がその値。
--------
2009.01.26

HDL : 71
LDL : 105
中性脂肪: 47

2009.12.21

HDL : 76
LDL : 71
中性脂肪: 72

 味覚が鈍感なのか(?)、ほぼ毎日同じモノを
喰っており、(ヨーグルトを500g/日喰うなどはあるが)
江部先生の指標をほぼ達成していると思われます。
 「糖質制限食」は、HDL/LDL 数値は私個人に
関してだけ言うと、極めて高水準に改善したと思います。
 合併症も著しく軽減しており、日常生活も楽になりました。

 あくまで私個人の実体験&検査数値を記入しました。
 これも全て江部先生のおかげと感謝するばかりです!!!
2010/01/19(Tue) 21:45 | URL | らこ | 【編集
お世話になります。

糖質制限食(主食抜き)を開始してから約3ヶ月が経過しました。体重もピーク時の94kg→82kgまで減らすことが出来ました。身長は172cmですのでまだまだ太りすぎですが・・・。

開始から今まで運動はせずに食事制限だけで落としました。ただ、ここ2週間ほど以前のように体重が落ちないのです。ここからさらに体重を落とすには運動が必要になりますか?落ちないにしても最低限の運動はしなければいけないのですが。

運動の話は抜きにして、糖質制限食で今後体重が減ることは考えられるのでしょうか?また、糖質制限食だけで標準体重まで落とすことは可能なのでしょうか?
2010/01/19(Tue) 23:30 | URL | mk | 【編集
Re: はじめまして
大阪の英敬さん。

了解しました。
2010/01/20(Wed) 08:24 | URL | 江部康二 | 【編集
Re: 診断名が2型糖尿から1型糖尿に変わりました。
そ~ママさん。

1型糖尿病も、糖質制限食が有効です。
通常の糖尿病食に比べたら、インスリンの量が1/3以下ですみます。

採血困難なので入院も困難であれあb、外来でインスリン注射の指導をしてもらう選択肢もありますので、主治医とよくご相談ください。

肉は食べても大丈夫です。
体重64kgの成人で、1gの糖質が約5mg、1gのタンパク質が約0.93mg血糖値を上昇させます。
体重32kgの小児なら、1gの糖質が約10mg上昇という計算になります。

糖質制限食だと、イヌイット同様に血液はサラサラになるので血栓予防になります。
2010/01/20(Wed) 08:35 | URL | 江部康二 | 【編集
Re: 私個人はLDLは大巾に下落しました
らこ さん。

貴重な情報をありがとうございます。
改善よかったですね。
2010/01/20(Wed) 08:37 | URL | 江部康二 | 【編集
Re: タイトルなし
mk さん。

体重減少、よかったですね。
基礎代謝に個人差があるので、体重減少のていども個人差があります。
また、直線状に減少することはなく、階段状になります。

大多数の人は、糖質制限食でその人の若い頃の体重にもどります。
例えば私は学生時代56kg、52才で66kg、糖質制限食で56kgとなりました。

基礎代謝がかなり低い1割くらいの人は、<糖質制限食+カロリー制限>が必要です。
2010/01/20(Wed) 08:45 | URL | 江部康二 | 【編集
Re: タイトルなし
そ~ママ さん。

主治医がそこまで仰有っているなら、入院もやむを得ないですか。

高雄病院では小児のインスリン注射の経験はありません。

神大入院して、糖質ありのインスリンの量が決まると思います。
退院後は、糖質制限食に切り替えれば、即インスリンの量は1/3以下になります。
2010/01/20(Wed) 23:00 | URL | 江部康二 | 【編集
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