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糖尿病腎症と糖質制限食
こんばんは。

2010年12月の統計で、日本で慢性透析療法を実施している患者数は297,126人で、前年度より6,465人増加しています。

基本的に統計を取り始めて以来増え続けていますが、伸びは鈍化しています。

例えば、2010年の導入患者は37,532人で前年度より34人減少して、一応歯止めがかかってきています。

末期腎不全で透析導入にいたる原因疾患の1位は糖尿病腎症で、2010年度は16,271名で43.5%を占めています。

糖尿病腎症が一旦始まれば、じり貧で進行するのが、現在の西洋医学の常識的認識です。

特に顕性蛋白尿が出現する第3期以降は、既に不可逆病変と考えられています。

ACE阻害薬、または、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の投与により、微量アルブミン尿(第2期、早期腎症)が改善したという報告はあります。

また糖質制限食による血糖コントロールの改善で、薬物なしで微量アルブミン(第2期、早期腎症)が正常化した人は、私の患者さんでも何人かおられます。

さて、腎症第3期Aまでは、糖質制限食が可能と過去のブログで述べたのは、所謂EBMに基づくものではありません。

ただ、ご自身が1型糖尿病の米国のバーンスタイン医師は、小児期12才に1型糖尿病を発症され、以後インスリンを打ち続けておられます。

バーンスタイン医師は「バーンスタイン医師の糖尿病の解決」(メディカルトリビューン)の著者です。

バーンスタイン氏は、35才で顕性腎症前期(第3期A)となった頃、SMBGで血糖自己測定をしながら食事療法を研究し、徹底した糖質制限食を開始しました。

尿中微量アルブミンの増加する「早期腎症期、第2期」より進行した、蛋白尿が出現する段階の「顕性腎症前期、第3期A」から、糖質制限食で回復しタンパク尿が消失します。

45才で医学部に入学、49才で医師になり、糖尿病を徹底的に研究しました。以後、現在まで多数の糖尿病患者を診察し続けています。

2011年、77才現在、糖尿病合併症もなく、現役医師としてお元気にお過ごしです。

バーンスタイン医師の場合、HbA1c5%くらいでキープしておられると思います。

個人差も当然あるし、糖質制限食のコントロール・スタディなどはありません。従って、糖質制限食で尿中微量アルブミンや顕性腎症前期(第3期A)までなら、必ず改善すると断定したり保証することは当然できません。

ただ、糖質制限食でHbA1c:5.8%未満くらいまでコントロールすれば、バーンスタイン先生のような経過をたどる可能性もありえると思います。

ACCORD研究(2008年)と2010年2月のランセットの研究報告で、糖質を摂取して、薬物療法でHbA1cを厳格にコントロールすれば、総死亡率がかえって上昇することが示唆されました。

糖質を摂取することによる食後高血糖、そして過剰な薬物治療による低血糖、これらの繰り返しによる血糖値の乱高下が、死亡率上昇の主たる要因と思います。

糖質を摂取しながらインスリンなどでHbA1cをコントロールしても、食後高血糖を防ぐことは困難で、糖尿病腎症の進行は防ぎがたいと思います。

このように考察してみると、糖質制限食だけが食後高血糖を生じないし、薬物の使用もなく低血糖も生じないので、糖尿病腎症の進行を防ぎ、また総死亡率も減らす可能性をもっていることがわかります。

血糖コントロールが良くないと、糖尿病腎症第2期くらいから高血圧を合併してきます。そして高血圧が糖尿病腎症の進行に大きく関わっています。

患者さんへの説明は、結構難しいですが、

①「血糖コントロールが悪ければ、糖尿病腎症は転がるように進行する。」
  微量アルブミン尿→第3期A→第3期B→腎不全→透析

ということをまず説明します。

そして、

②「糖質制限食で血糖コントロールが良くなれば、100%とは言えないが進行が防げる可能性がある。」

と説明します。

第3期A(タンパク尿1g/日未満)の段階までは、

<高タンパク食による蛋白尿へのリスク>と<食後高血糖による蛋白尿へのリスク>を天秤にかける

という言い方もできます。

このような臨床試験はないので、結論は出ませんが・・・。

ただ、第3期A(タンパク尿1g/日未満)の段階までは兎も角として、第3期Bの段階(タンパク尿1g/日以上)の段階になると、糖質制限食でも治療に難渋します。

ともあれ、できるだけ早い段階で糖尿病腎症を発見し、糖質制限食実践で血糖コントロールを良好に保つことが、現時点で最善の道と考えられます。

糖尿人は、3ヶ月~半年に1回、尿中微量アルブミンを検査して、糖尿病腎症の早期発見に努めて下さいね。


江部康二

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
『腹いっぱい食べて楽々痩せる「満腹ダイエット」』ソフトバンク新書
こんばんは。

新刊のご紹介です。

ソフトバンクの新書のシリーズから

『腹いっぱい食べて楽々痩せる「満腹ダイエット」』江部康二

が出版されました。

新書は初めての出版となります。

新書で安価で、最新の糖質制限食理論と実践のノウハウがいっぱいつまっていますので、是非ご一読いただければ幸いです。 (^^)

本書で提唱する糖質制限食ダイエット、キーワードは「糖質制限」だけで、あと面倒なカロリー計算などは不要です。
あんまり簡単なので「ずぼらダイエット」と呼ばれることもあります。

「簡単なのはいいけれど糖質を食べなかったら低血糖になりはしませんか?」

と突っ込みが入りそうですが、

肝臓の「糖新生」でいつでもブドウ糖をつくっているので低血糖にはならず、全く問題はありません。
 
さて、初めて糖質制限食の内容を知ったとき、多くの人はきっとびっくりされたことでしょう。

「脂肪はしっかり摂取していいので、糖質だけは減らそう」

という糖質制限食の基本スタンスは、従来のダイエットの常識である「脂肪制限」とは、真っ向から対立するものだからです。

実は私も兄、江部洋一郎院長(当時)が、1999年に高雄病院に初めて糖質制限食を導入したときは、非常識でとんでもない代物と無視していました。

常識の壁は高く厚いものであり、私だけでなく3人いる管理栄養士も同様の対応でした。

そんなとき2001年に私の糖尿病患者さんが血糖値560mg/dl、HbA1c14.5%という重症で入院され、通常のカロリー制限食で1週間経過しても食後血糖値は400mg/dl以上と、あまり改善がありませんでした。

そこでものは試しにと、糖質制限食を導入したところ、食後血糖値はその日から180mg/dlを超えることはなくなり、劇的な改善をみました。内服薬もインスリン注射もまったくなしで、3ヶ月後にはHbA1c6.2%となりました。

この糖質制限食第一号患者さんを経験した後は、目から鱗が落ちた思いで糖質制限食を研究することになりました。

その後、2002年に自分自身が糖尿病と発覚してから、さらに徹底的に勉強し、糖質制限食は糖尿病だけでなく、肥満やメタボリック・シンドロームを始めとして、様々な生活習慣病に効果があることを多くの症例を経験して確信しました。

糖質制限食というと変わった食事というイメージですが、実は人類本来の自然な食事、人類の健康食なのです。

人類が、ゴリラやチンパンジーと分かれたのが約400万年前です。

その後、6属21種の人類が栄枯盛衰・進化を繰り返し、現在残っているのは、現世人類(ホモ・サピエンス)だけです。

この間農耕が始まるまでの400万年間は、生業は狩猟・採集で、全ての人類が糖質制限食でした。

このように人類の栄養・代謝・生理すべて糖質制限食に適応するように進化してきていますし、勿論妊娠・出産・子育て・日常生活も糖質制限食の中で行われてきました。

農耕が始まり定着して最近の約4000年間だけが、主食が穀物(糖質)へと変化しました。

即ち穀物(糖質)を主食としたのは、人類の歴史の中でわずか1/1000の期間に過ぎないのです。

糖質制限食と高糖質食、どちらが人類にとって自然な食事なのかはいうまでもありません。

糖質制限食という人類の本来の食事、人類の健康食を実践することで、肥満や糖尿病やメタボといった様々な生活習慣病が改善するのもむべなるかなです。
 
本書が読者の皆さんの、肥満解消そして健康に役立てば幸いです。



江部康二

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
養腎降濁湯(漢方)と腎不全
こんばんは。

糖尿病の合併症の一つに糖尿病腎症があります。

腎症の一番初期の段階は、尿中微量アルブミンの増加としてとらえられます。

血液検査でクレアチニン、などに異常が出現すれば腎不全となります。

さらに進行すれば、人工透析が必要となります。

現在、年間約1万の人が糖尿病腎症により人工透析を導入していますが、慢性腎炎を抜いて疾患別では1位となっています。

糖質制限食で糖尿病のコントロールを良好に保ち(食後2時間血糖値を140mg/dl未満、HbA1cを6.5%未満)、合併症が出現しないようにするのが理想です。

しかしながら、糖質制限食に出会う前に、既に腎症が出現している患者さんもおられます。

こんな時は漢方薬の出番です。

腎不全は、漢方薬の役割が大きいと考えられる病気の一つです。

血液検査で腎機能障害(血清クレアチニン値の上昇など)が確定していたら、西洋医学的にはそれを改善する方法はないというのが常識ですし、数年前までは、漢方薬でもさすがに無理と私達も考えていました。

しかし、2002年に黄耆を中心とした生薬の組み合わせで、クレアチニン値が改善する例を初めて経験しました。

当初は驚きましたが、その後、高雄病院で症例を積み重ねて明らかな効果を確認しました。

そして2007年6月17日(日)日本東洋医学会学術総会において、江部洋一郎院長(当時)が、「腎不全に対する養腎降濁湯の効果」という講演を1時間行いました。

この時点での症例数は、21例とまだ少ないのですが、初診時と半年後の検査で13例においてクレアチニン値が改善しました。

中には4.6→3.2(正常0.4~1.4mg/dl)、5.8→3.6と顕著な減少のあった例もありました。

不変が3例で悪化が5例でした。

全員の平均値は初診時5.2から半年後4.4と減少していました。

西洋医学的な治療も種々試みられていますが、クレアチニン値の上昇速度を遅らせるのが主目的で、減少させるような治療法は皆無です。

黄耆、芍薬、甘草、土茯苓などの漢方生薬で構成される養腎降濁湯加減を処方し、62%にクレアチニン値の減少が見られたことは、腎不全治療の一筋の光明と言えます。

原疾患が慢性腎炎でも糖尿病性腎症でも関係なく、約6割の人に養腎降濁湯で一定の効果が期待できます。

効果があるときは、最初の1~3ヶ月でクレアチニン値が改善します。

逆に言えば、最初の1~3ヶ月で改善がないときは、残念ながら養腎降濁湯の効果は期待できないということとなり、服薬は中止となります。

診察ご希望の場合は電話(高雄病院:075-871-0245)
でご相談いただけば幸いです。


江部康二



2017年7月、追加
養腎降濁湯で腎機能が一旦、改善しても、半年~1年くらいで、再び悪化する症例もあり、
なかなか一筋縄ではいきません。
なお、多発性嚢胞腎の場合は、嚢胞による物理的な腎障害なので、効果がでにくいです。



テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
ケトン食、あの「コクラン ライブラリー」が採用
おはようございます。

本ブログでも何回か紹介してきた、ケトン食のホットな話題です。

Ketogenic Diet(ケトン食)が、2010年版COCHRANE LIBRARLY(コクラン ライブラリー)と、2011年版NICE(英国政府ガイドライン)の、難治性小児てんかん治療に採用されました。

これまでは、ケトン食に対してある程度の効果は認められていましたが、治療の選択肢には入れられず、「推奨しない」とされていました。

RCTなどのエビデンスには乏しいとの指摘はありますが、難治性の小児てんかん発作を50%削減する点で有意差が得られたことが、評価されたのだと思います。また、一時的な副作用はありえますが、重篤な副作用が無いことも認められました。

2010年版COCHRANE LIBRARLY(コクラン ライブラリー)
2011年版NICE(英国政府ガイドライン)

という極めて権威のある二つのガイドラインが、ケトン食に対して明確にポジティブな評価を与えたことは歴史的転換点であり、ビッグニュースと思います。

私達、糖質制限食を推奨する立場の人間にとって、大きな追い風であり嬉しい限りです。

今回の記事は、東海大学の大櫛陽一先生から、メールで情報・コメントを頂いたものを引用させていただきました。

大櫛先生、ありがとうございました。


江部康二


☆☆☆ケトン食

小児のてんかんで極めて難治性の場合があります。これは、通常のてんかんの薬を飲んでもひきつけの発作が治まらないというものなのですが、その治療として用いられているのがケトン食です。

この食事は、総摂取カロリーの75~80%が脂質という内容で、これによって難治性てんかんの発作が治まるようになるのです。これは、欧米で1920年代から続いている治療法です。

日本でも、小児科領域でケトン食療法は実施されています。

ケトン食療法は、「糖質制限食」以上の超高脂肪食で脂肪からケトン体への変換を起こし、そのケトン体が、ブドウ糖の代わりのエネルギー源として利用されることにその名前が由来しています。実際、脳を始めとして身体のほとんどのエネルギー源としてケトン体が利用されます。


☆☆☆THE COCHRANE LIBRARLY(コクラン ライブラリー)

ヘルスケアにおける診療効果に関して世界中で最も信頼されている情報源の一つ。

テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
血糖値とHbA1cが乖離するときは?
こんにちは。

今回は、ゆうさんから、血糖値とHbA1cが乖離するときは?・・・

というコメント・質問をいただきました。

【 11/07/01 ゆう
血糖値とHbA1c
江部先生。さっそくの御回答ありがとうございました。

以前何かの本で、血糖値とHbA1cに解離があるときは、 何らかの理由でHbA1cが見かけ上低く出ている可能性がある という内容を読んだのですが、私の場合、それはあまり気にしなくて よろしいのでしょうか。

ちなみに、直近の健康診断の結果は以下のとおりです。

35歳、男性
白血球 6200、赤血球 548万、Hb 17.0、血小板 17.4万
AST 17、ALT 22、γ-GTP 29、Cr 0.67、UA 6.4
LDL-C 105、HDL-C 59、TG 42、血糖 110、HbA1c 4.2
尿検査の結果はいずれも正常範囲 】



ゆうさん。

ご質問の「血糖値とHbA1cに解離があるとき」は例えば貧血があるときです。

貧血があると、本来の血糖コントロールに比べて、HbA1cが見かけ上低値になり、乖離します。

貧血以外では肝硬変、異常ヘモグロビン血症などでも乖離することがあります。

貧血とHbA1cの関係を説明する前に、HbA1c(ヘモグロビンA1c)とは何かを考えてみましょう。

赤血球の中に含まれているヘモグロビンは、鉄を含む赤色の色素部分のヘムと、蛋白部分のグロビンでできています。

ヘモグロビンは、グロビン部分の違いによりHbA、HbA2、HbFの3種類に分けられます。成人では、HbAが97%を占めています。

血液中には、赤血球や糖類やその代謝産物が流れていて、お互いに結合する傾向があります。

赤血球中のヘモグロビンと、血中のブドウ糖など単糖類が結合したものが、グリケーティッドヘモグロビンです。

これを略してグリコヘモグロビンですが、HbA1とほぼ同義語として使用されています。

グリコヘモグロビンは、元のヘモグロビンとは電気的性質が異なるため、検査により識別することができます。

HbA1は、さらにHbA1a、HbA1b、HbA1cなどに分けることができます。

このうち糖尿病の検査の指標として汎用されているHbA1cは、ヘモグロビンA(HbA)にグルコース(ブドウ糖)が結合したものです。当然、血糖値が高値であるほど、ヘモグロビンと結合しやすいのです。

HbA1cの生産量は、Hb(ヘモグロビン)の寿命と血糖値に依存します。

赤血球は骨髄で作られ、血液中を循環し寿命は約120日間ですから、HbA1cは過去4ヶ月(120日間)の血糖値の動きを示しています。

より詳しく分析すると、HbA1c値の約50%は過去1ヶ月間の間に作られ、約25%が過去2ヶ月、残りの約25%が過去3、4ヶ月で作られます。

従いまして、HbA1cの値は、通常は過去1、2ヶ月の平均血糖値を反映していると考えればよいことになります。

さて、鉄欠乏性貧血、溶血性貧血、腎性貧血など赤血球の寿命が短縮するような病態のときは、HbA1cの生産された量が、赤血球の寿命が短い分蓄積されずに減りますので、実際の値よりも低くなります。

ゆうさんの場合、貧血も肝硬変も異常ヘモグロビン症もないと思います。

健康診断が朝食後8時間で血糖値が110mg、HbA1cは4.2%ですので、平均血糖値は75mgです。

夕方や夜間の空腹時の時間帯は、正常でもかなり低値の血糖値なのだと思います。まず問題はないと思います。



☆☆☆平均血糖値とHbA1cの関係

DCCTという米国で行われた1型糖尿病の大規模研究調査から、HbA1cの1%の違いは、平均血糖値の30mg/dlの差に相当し、HbA1cと平均血糖値の関係は以下の通りとされています。

ミズーリ大学のGoldsteinの式(DCCT研究から)
米国 平均血糖値÷30+2=HbA1c
平均血糖値=<HbA1c-2>×30

日本 平均血糖値÷30+1.7=HbA1c
平均血糖値=<HbA1c-1.7>×30

この当時、米国と日本のHbA1c測定の標準物質が異なるため、同じ検体でも日本のほうが0.3%低くなるということで、日本用の式は補正されています。

この式は、舟形町町研究で有名な富永真琴・山形大教授(当時)が、2004年にアステラス製薬のウェブサイトで、インタビューに答えておられた記事でみました。



江部康二
テーマ:糖尿病
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