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ダンピング症候群と糖質制限食
おはようございます。

あきらさんから、糖質制限食実践で、後期ダンピング症候群である、低血糖症状が改善したとの、嬉しいメールをいただきました。


「10/09/10 あきら
ダンピング症候群
わたしは現在53歳ですが、28歳時に十二指腸潰瘍穿孔にて十二指腸と胃の5分の4を摘出しました。以後、後期ダンピング症候群である低血糖症状に怯えながら生きてきました。毎食後2~3時間で起きる低血糖症状の恐怖は自分にとってかなりのストレスだったと思います。食後1時間弱で血糖値は200を越え、その後1~2時間で70~80まで一気に下がりました。医師の言うところによると、急激な血糖値の変化によって低血糖の症状が現れるとのことで、私はどこに出かけるにも、おにぎりやパンなどを持ち歩いていました。
そんな生活を長く送りすぎていたためでしょう、ここ数年は食後の血糖値が300近くになり、体重も増え、低血糖の発作は起きにくくなり、当然HBA1Cは最高9.4とかを示すようになりました。運動も積極的にし、体重も減らしましたが、そのためにかえって疲れを残すことも希ではありませんでした。色々な努力はすれども、HBA1Cが7.0を切ることはありませんでした。

今年になって、医師からジャヌビアを処方され、血糖値はは230~110位の間で推移しています。でも私はどこか納得できませんでした。そんな時、先生のブログを見つけ、先日試しに、豚肉150gと野菜を、ごま油で炒め、食べてみたのですが、その後1時間の血糖値は123でした。我が目を疑いました。2時間値は121。信じられなかったのが正直な感想です。わたしにすれば、低血糖を起こしていた値に近いものなのですから。ただ、食後高血糖になれきっている身体は不安感を覚えてしまいます。食後の高血糖が安心感を生み続けてきた長い年月の感覚は身体に染みついてしまっています。職場で仕事をしてにいるときは、なおさら怖いです。25年間も高血糖とダンピング症候群を繰り返してきたのですから。そこで、夕食を糖質制限食に変えていくことから徐々に身体を慣らしていきたいと思っています。

それにしても、胃切除後の症状に対して、「震えがきたら何か食べなさい」としか、アドバイスできなかった医師達に対して、今更ながらに絶望感を感じてしまいます。

私は宮本輝氏の「春の夢」が日本文学の傑作であると信じていますので、先生との対談本も早速読ませて頂きました。ちょうど、縄文の土偶に関心があったこともあり、縄文以前の人類の食生活も大変納得できました。

先生の勧められる糖質制限食は私のような胃切除後の後期ダンピング症候群に悩んでおられる方々にも光を与えてくれるものだと思います。出会えて幸せだと心から感謝申し上げます。そして、このブログが私のような症状で悩んでおられる胃切除された方々の目に触れんことを願っています。」



あきらさん。
貴重な体験報告、そして本のご購入ありがとうございます。

後期ダンピング症候群の患者さんに、糖質制限食を指導した経験はなかったので、とても勉強になります。

「食後1時間弱で血糖値は200を越え、その後1~2時間で70~80まで一気に下がりました。」

この症状は、まさに機能性低血糖そのものです。

胃・十二指腸切除のため、食物の通過・吸収が早く、急激な高血糖を生じ、そのためインスリンが過剰に分泌されて、2時間後の低血糖となっています。

胃を切っていない人でも、機能性低血糖の患者さんはおられます。

この場合も、精製炭水化物の摂取が、ブドウ糖ミニスパイクを生じ、そのためインスリンが過剰分泌され、2-3時間後に低血糖を生じます。

ともあれ、糖質制限食なら、食後高血糖が生じないので、インスリンの過剰分泌も起こらず、その後の低血糖も生じないと思います。


あきらさん、機能性低血糖を生じるくらいですので、インスリン追加分泌能は、かなり残っていると思います。

スーパー糖質制限食実践により、内服薬なしで、糖尿病も後期ダンピング症候群(機能性低血糖)もコントロールできると思いますよ。


江部康二
テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
糖質制限食とDPP-4阻害剤
こんばんは。

らこさんから、DPP-4阻害剤について、コメント・質問をいただきました。

「10/09/10 らこ
3種類のDPP-4阻害剤の違いを教えて下さい
◎シタグリプチン(商品名:グラクティブ、ジャヌビア)
◎ビルダグリプチン(商品名:エクア)
◎アログリプチン(商品名:ネシーナ)

この3種類のDPP-4阻害剤の違いを教えて下さい。
父がスーパー糖質制限食+現在シタグリプチン(商品名:グラクティブ、ジャヌビア)を100mg/日 飲んでいます。」



DPP-4阻害剤として、現在

①シタグリプチン(商品名:グラクティブ、ジャヌビア)
②ビルダグリプチン(商品名:エクア)
③アログリプチン(商品名:ネシーナ)

の3種類が保険収載されています。

DPP-4阻害剤は、インクレチンというホルモンを血中にとどめる作用があります。インクレチンとは、小腸から分泌されるホルモンであり、GIPとGlp-1があります。

これらは、高血糖時には、SU剤とは異なる機序でインスリン分泌を促進させます。また、インスリン生合成を促進させます。さらに動物モデルでは、膵β細胞の保護作用が確認されています。

血糖値が正常のときには、インスリン分泌を促進させず、食後高血糖の時にインスリン分泌を促進させるので、低血糖も起こしにくいです。

まことに都合のいいホルモンなのですが、DPP-4という酵素によって速やかに分解され、血中の半減期は約2分と短いのです。

このDPP-4という酵素の働きを阻害してやれば、インクレチンは血中に当分存在して、血糖降下作用を発揮してくれることになります。

そこで登場したのが、DPP-4阻害剤です。

①と③は1日1回投与で、②は1日2回投与です。

①と②は、
SU剤、インスリン抵抗性改善剤(アクトス)、メトホルミンなどビグアナイド剤との併用OKです。グルコバイなどα-グルコシダーゼ阻害薬とは健康保険上は併用できません。

③は、
SU剤、メトホルミンなどビグアナイド剤との併用は健康保険上はできません。グルコバイなどα-グルコシダーゼ阻害薬とインスリン抵抗性改善剤(アクトス)は併用できます。

①②③とも、DPP-4阻害剤という範疇で、基本的に同じ作用機序の薬ですので、はっきりした違いと言えば、上記の差くらいです。

DPP-4阻害剤は膵β細胞保護作用など、糖質制限食的にも好ましいところがあるので、コントロールがあと一歩の糖尿人には、使ってみたいお薬ですね。

私も早速、20名以上に処方しましたが、かなりの有効性がありました。

例えば、心は糖質制限食を目指しておられますが、身体が間食を求めるタイプのキャラで、なかなかコントロール良好となりがたい糖尿人・・・(-_-;)

高雄病院入院後、退院して数ヶ月はHbA1c6%くらいをキープしているけれど、徐々に緩んで6.5%、7%、7.5%・・・。

ちょっと引き締めて7.1%・・・。

また緩んで7.3%・・・。

こんな感じで1年あまり、なかなか7%を切れなかった糖尿人が、ジャヌビア内服1ヶ月でHbA1c6.3%と1%改善した例を経験しました。 (^_^)

また、糖質制限食実践で、食後高血糖は速やかに改善しますが、早朝空腹時血糖値だけはなかなか減りがたい場合があります。

このような糖尿人にジャヌビアを投与したところ、翌日にはSMBGで、早朝空腹時血糖値200mg→150mgと改善した例もありました。

2ヶ月経過してさらに早朝空腹時血糖値が100~130mgまで改善されました。

使用経験、9ヶ月ですが、このように明らかな有効例を複数経験しました。

過半数の人には有効で、HbA1cが1ヶ月で1%改善した上述のような例もありましたが、0.3%程度の例もありました。2名の糖尿人は、変化なしでした。

気になる副作用ですが、SU剤などの併用例以外では低血糖はほとんどないようです。吐き気などの副作用も比較的少ないようです。

ただ、どの薬にもあるような、皮膚障害、胃腸障害、肝機能障害、赤血球減少、浮腫・・・などは、頻度は少ないけれど報告されています。

すでに欧米では、4年間の使用経験がありますが、現時点では特に問題となるような副作用は報告されていません。

ただ、10年・20年・30年使ってどうなるかというのは誰にもわかりませんので、私達医師にも処方する責任がありますが、ここらは患者さんも自己判断・自己責任で、ということになります。

私自身は、今ある高血糖をコントロールすることを優先したいと思っていますので、糖質制限食がゆるくて血糖コントロールがいまいちの糖尿人には、DPP-4阻害剤のことを説明して、使用する方向で相談しています。

なおインクレチンの関連薬として、GLP-1の注射薬も承認されました。GLP-1は注射なので、やや使いにくく、私も使用していません。



江部康二

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
【糖質制限食 質問、記事、本に関するお知らせ・お願い】2010年9月
おはようございます。

ブログ読者の皆さんには、いつもコメントいただき、ありがとうございます。

糖質制限食に関する質問についてですが、実際に高雄病院や江部診療所に来院されて診察した患者さんに対しては、医師としての責任・債務がありますので、個別に説明もしっかりさせて頂いていますし、フォローもしております。

一方、ブログ読者の皆さんの質問に関しては、糖質制限食に詳しい医師として、ボランティアで回答させていただいています。

診察もしておりませんしフォローもできませんので、責任もとれません。私の回答は、あくまでも一般論としての参考意見とお考え頂けば幸いです。

また、ブログ記事や本に関しても同様に、糖質制限食に関する一般論としての参考意見とお考え下さい。

従いまして、読者の皆さんが私の参考意見を読まれて、どのように利用されるかは、自己責任でよろしくお願い申し上げます。m(_ _)m

そして読者の皆さんからもご意見いただきましたが、普通のお医者さんに相談可能な個人的な内容の質問は、
ご自分の主治医にご相談頂けば助かります。

質問が増えてきましたので、糖質制限食と関わりがないと判断した質問には、お答えできない場合もありますので、ご了承ください。m(_ _)m

普通のお医者さんでは解答不能の、糖質制限食に関わる質問は、何でもどんどんしていただけば嬉しいです。 (^_^)

掲載OKの質問に関して、読者の皆さんに共有していただきたい情報の場合は、ブログ本文にて、できるだけ順番にお答えしたいと思います。

質問によっては、コメント欄でお早めにお答えする場合もありますのでご了承ください。

一方、質問がかなり増えてきていますので、なかなか即、お答えすることが困難となってきています。

糖質制限食に関わりのある全ての質問に、本文かコメントでお答えするようできるだけ努力はしていますが、できないときはご容赦願います。m(_ _)m

それから、「管理人のみ閲覧できる」「匿名希望」などの質問に関しては、コメント欄にお答えするか、一般的な話題に置き換えてブログに記載するようにしていますので、よろしくお願い申し上げます。



江部康二

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
妊娠糖尿病、糖質制限食で耐糖能改善
こんばんは。

えみこさんから「妊娠糖尿病糖質制限食耐糖能改善」という嬉しいコメントをいただきました。


「10/09/09 えみこ
改善しました
こんにちは。
7月にヘモグロビンA1Cが5.8、8月のぶどう糖負荷テストで空腹時血糖値が93となり、妊娠糖尿病と診断されたえみこです。
昨日から一泊で入院し、血糖値変化をみるために六回の採血をしました。

<結果>
昼食前 77
昼食後2時間 90
夕飯前 77
夕飯後2時間 93
朝食前 76
朝食後2時間 80

いずれも主食白米200g(パン6枚きり二枚)で1800キロカロリーのエネルギー調整食です。
さすがに主食は毎回半分は残しましたが、おかずはすべて食べました。

結果をみた産科の主治医から「診断が間違ってたかなー」との一言(笑)
ホントに糖質制限食に出会えたおかげです!
スーパー、スタンダード、プチ…日によってマチマチで決して真面目に制限したわけではないのに、いい結果で本当に嬉しいです。

いまようやく妊娠19週になりました。今回の結果に油断することなく、これからも今までどおりの糖質制限を続けていきたいと思います!」



えみこさん。
良かったですね。

糖質制限食実践で、明らかに耐糖能が改善しています。

今回のデータなら、妊娠糖尿病の診断基準からはずれて正常人ですね。

このまま美味しく楽しく糖質制限食をお続け下さいね。


江部康二
テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
血液検査と血糖値
こんばんは。

血糖値はいつ測定するのが良いのか、ずばいももさんから、コメント・質問をいただきました。


「10/09/08 ずばいもも
血液検査のことについて
どこにコメントしていいかわからず最新のエントリーにしました。

私の母のことなのですが、病院に2週間ごとの血液検査を受けに行くとき必ず朝食をとってから受けています。

正規の血糖値を知るには最低でも12時間以上空けないといけないと聞いているのですが、食後1時間くらいで測ってもよいものなのでしょうか?

いつも私に「血糖値とコレステロールが高いからもっと減らすように先生にいわれる」と愚痴るのですが、すでに体重は8キロ以上減っていますし、炭水化物もほとんどとってはいません。

母に先生に血液検査するとき朝食をとっていることを告げるように言ったのですが、先生は取っていいと言っていたというのですが、疑問で仕方ありません。

血液検査の時は空腹時が正しいのか?それとも食事をとってからしていいのか?

教えて頂けると幸いです。」


ずばいももさん。

早朝空腹時血糖値の測定は、朝まで10時間以上の絶食のあとで、午前9時頃が好ましいとされています。

早朝空腹時血糖値は、インスリン基礎分泌を反映しています。

早朝空腹時血糖値が高値ということは、基礎分泌インスリンが低下している可能性が高いこととなります。

早朝空腹時血糖値が正常なら、基礎分泌インスリンは確保されていることになります。

早朝空腹時血糖値とインスリン値を測定すれば、インスリン抵抗性(HOMA-R)やインスリン分泌能(HOMA-β)があるていどわかります。


HOMA-Rとはインスリン抵抗指数のことです。

<HOMA-R=空腹時血糖値×空腹時インスリン値÷405>

という式で計算します。

HOMA-Rが大きいほど、インスリン抵抗性が強いと考えられます。

1.6以下が正常で、2.5以上は抵抗性があると考えられます。

HOMA-βは残存した内因性インスリン分泌機能を推定する指数です。

空腹時血糖と空腹時のインスリン値をもとに、計算します。

<HOMA-β=360×空腹時インスリン値(μU/ml)÷(空腹時血糖値mg/ml-63)>

という式で計算します。

正常値:40-60

早朝空腹時インスリン値(基礎分泌インスリン)をもとに計算しますので、HOMA-βは基本的に基礎分泌インスリンを反映しています。

一方、食後1時間ごろ血糖値が一番上昇しやすいので、それを測定すれば、追加分泌インスリンの状態がわかります。

スーパー糖質制限食でも、野菜分の糖質は含まれていますので、少し食後血糖値は上昇します。

スーパー糖質制限食なら、2型糖尿人でも、通常はあまり血糖値は上昇しないのですが、結構上昇した場合は、追加分泌インスリンの分泌能がかなり低下していることがわかります。

このように、空腹時血糖値と食後血糖値の測定は意味が違うので、私は適宜使い分けています。


江部康二

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
ジャヌビアなどDPP-4阻害薬と併用薬
こんばんは。

DPP-4阻害薬と併用薬について、ゆり さん、M.K. さんからコメント・質問をいただきました。


「10/09/08 ゆり
ジャヌビア
こんにちは。低炭水化物の食事療法でHbA1cが9→7.1になり、江部先生にはとても感謝しております。糖尿病歴が長くいろいろな薬を処方されていましたが、現在はジャヌビア50mg/1日と低炭水化物の食事療法です。しかし、外食が重なりついつい炭水化物を摂取することが多くなる場面があり、そういうときにジャヌビアと併用できる薬はないものかと思っています。家での食事はほぼ低炭水化物なので現在のジャヌビアだけでOKだと思うのですが、併用できる食後高血糖を抑えるような薬があれば教えていただきたいのです。先生の著書には「グルコバイ」のことが書かれていましたが、ジャヌビアと併用しても良いものなのでしょうか?」


「10/09/09 M.K.
ジャヌビアとの併用薬
ゆりさんのコメントに関連しての投稿です。
私の主治医は、新薬のジャヌビアを積極的に薦めてくれましたが、その時に教えてくれたのは併用が認められていないのはインスリン分泌を亢進させる薬剤だということです。私はそれまでグルファストとグリコランを服用していましたが、ジャヌビア投与に際してグルファストは中止しました。
まだ3ヶ月ですが、HbA1Cも空腹時血糖も毎月改善されています。江部先生の著書からはグルコバイなども糖質吸収の阻害剤らしいので、大丈夫では?
いずれにしても主治医とは相談されたほうがいいと思います。」



ゆりさん、M.K. さん。

理論的には、ジャヌビアなどのDPP-4阻害剤は、どの薬と併用してもOKと思います。
しかし、健康保険制度の壁があります。

健康保険で併用が認められている薬剤は、ジャヌビア(グラクティブ)、エクアの場合は、SU剤(アマリール、グリミクロンなど)、インスリン抵抗性改善剤のアクトス、ビグアナイド剤(メルビン、グリコランなど)です。

つまり、速効型インスリン分泌促進剤のグルファストやスターシスは、併用は認められていません。

また、α-グルコシダーゼ阻害薬(グルコバイ、ベイスン、セイブル)も、併用は認められていません。

一方、ネシーナの場合は、α-グルコシダーゼ阻害薬とアクトスとの併用は、健康保険で認められていますが、SU剤、ビグアナイド剤は認められていません。また、α-グルコシダーゼ阻害薬も併用は認められていません。


適宜使い分けることが必要なようです。


江部康二
テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
糖質制限食実践で糖尿病腎症3期Aから回復
おはようございます。

今日は、けいさんから、糖質制限食実践で糖尿病腎症3期Aから回復という、嬉しいコメントをいただきました。


「10/09/08 けい
ご報告
本日尿中アルブミンの結果がでまして、ついにTIA法4.6、クレアチニン補正7.6、尿NAG2.4(何の検査か良く分からないのですが・・)と正常になっていました!!!

先生のアドバイスに従い糖質制限食のみ、薬なしでここまで治りました!
本当に有難うございました。

主治医は私の症状を告知しただけで対処法方はカロリー制限以外何も指導してくれませんでした。

江部先生は診察も受けていない私に親切にアドバイスしてくださり、神様のようです!

東海太郎さん、千蔵さん、わたしは主治医から腎症2期と診断されましたが、尿蛋白は+-又は+だったので3期Aだったのかな?と思います。
尿中アルブミンは40程度でしたが、オリーブオイルを中心にカロリー(トータルで2300~2500カロリー位)を稼ぎ、タンパク質は80g程度にして、5ヶ月位で尿蛋白は-になり、糖質制限を始めて約9ヶ月で腎症なおりました。

希望をもってがんばって下さいね!

糖質制限これからもすっと続けていきます。
本当にありがとうございました。」


けいさん。
貴重な体験報告ありがとうございます。

尿蛋白は、+-又は+でしたら仰有る通り、糖尿病腎症第3期Aですね。

実際の体験報告は、説得力があります。ブログ読者の皆さんの励みになると思います。

記事に書きましたが、糖尿病腎症第3期Aまでは、糖質制限食実践で、血糖コントロールを良好に保てば、第1期(腎症前期)まで回復することが期待できます。1型のバーンスイタイン医師もそうですね。

今まで他の読者にも、腎症第3期Aや腎症第2期からの改善を、複数ご報告いただいてます。

他にも改善体験がおありの方は、コメントいただけば幸いです。


江部康二
テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
尿中微量アルブミン尿(糖尿病腎症第2期)と糖質制限食
おはようございます。

昨夜からの雨で、さしもの猛暑も一段落の京都です。

さて今回は、東海太郎さんから、尿中微量アルブミンによる腎症進行期判定についてコメント・質問をいただきました。

「10/09/07 東海太郎
微量アルブミンによる腎症進行期判定
江部先生、初めまして。
 静岡在住の東海太郎と申します。
私、2005年4月にHbA1c13.2%で糖尿病の診断を受けました。その後、アマリールは最低容量飲みましたが、伝統的な低脂肪、高糖質の糖尿病治療食と運動で、HbA1cを4.5%程度の下げ、それを2年間絶えず維持していました(相当努力しました)。が、仕事のストレスから治療を結果的にドロッップアウト。愚かにも2007年7月からちょうど丸3年間放置してしまいました。
 その結果、この8月20日に足底部に痺れを覚え救急で受診。随時血糖555㎎/dl、HbA1c12.4%でDMが悪化しました。後日、糖尿病専門医に診察を受け、神経障害と腎症の発症を告げられました。U-アルブミン(cre換算)50.02(基準値0.00-10.0)mg/g・cre、血清クレアチニン0.8、TG492、BUN、血清シスタチンCは不明…といったデータでした。主治医の先生は腎症第3期Aのステージだとおしゃいました。
 しかし微量アルブミン尿は30~300が早期腎症であると本にありました。私の50.02という数字は第3期を意味する値なのでしょうか?どうかご教示ください。ちなみに随時尿たんぱくは-でした。
 第3期Aは基本的に結局は透析にまで多くの場合進行していくのでしょうか?第2期以前に戻ることはレアな幸運なケースでしょうか?
 今、必死で治療に取り組んでいます(食事と運動、アマリール1㎎)。ARS剤を飲んでいます。この2W間の平均血圧は125/88 朝が123/88 です。先生の御本も3冊求めて、今勉強しています。私の糖尿病のレベルで糖質制限食は危険でしょうか?現在、玄米ご飯を80g×三食とタンパク質5単位を基本とする食事をしています。それぐらいでどうにか朝の空腹時血糖90㎎食後2時間値160㎎前後にコントロールできます。運動もウォークキング60分程度しています。
 盛りだくさんの質問で申し訳ありません。もし、お時間の余裕のあるときがありましたら、お教えいただければ本当に有り難いです。とくに腎症のステージ診断3期Aにどうして相当するのか、とても悩んでいます。」



東海太郎さん。
本のご購入ありがとうございます。

随時蛋白尿(-)で、尿中微量アルブミンが(+)の段階は、ご指摘どおり、糖尿病腎症第2期(早期腎症期)です。腎症第3期Aには、いたっておりません。血清クレアチニンは正常ですので、糖質制限食実践OKです。

早期腎症期なら、糖質制限食で血糖コントロールを良好に保てば、尿中微量アルブミンは正常化することが期待できます。

糖尿病腎症第2期改善のための目標値】
① 空腹時血糖値126mg/dl未満→さらには110mg/dl未満
② 食後2時間血糖値180mg/dlmg/dl未満→さらには140mg/dl未満
③ 理想的には食後1時間血糖値180mg/dl未満
④ HbA1c6.5%未満→さらには5.8%未満


現実に、糖質制限食による血糖コントロールの改善で、薬物なしで微量アルブミンが正常化した人は、私の患者さんでも何人かおられます。

また、本ブログでも数人の方から、微量アルブミンさらには蛋白尿陽性レベルが改善したとのコメントをいただいています。

糖尿病腎症第2期(早期腎症期)であれば、目標値を達成すれば、半年から1年で正常に回復するの可能性が高いです。


江部康二


☆☆☆参考

糖尿病腎症と糖質制限食2010
2010年05月12日 (水)

おはようございます。

糖尿病腎症が始まれば、基本的には、じり貧で進行するのが、現在の西洋医学の常識的認識だと思います。

まあ、ACE阻害薬、または、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の投与により、微量アルブミン尿が改善したという報告はありますが・・・。

糖質制限食による血糖コントロールの改善で、薬物なしで微量アルブミンが正常化した人は、私の患者さんでも何人かおられます。

腎症第3期Aまでは、糖質制限食が可能と過去のブログで述べたのは、所謂EBMに基づくものではありません。

ただ、ご自身が1型糖尿病の米国のバーンスタイン医師は、小児期12才に1型糖尿病を発症され、以後インスリンを打ち続けておられます。「バーンスタイン医師の糖尿病の解決」(メディカルトリビューン)の著者です。

35才、顕性腎症前期(第3期A)となった頃、SMBGで血糖自己測定をしながら食事療法を研究し、徹底した糖質制限食を開始。

尿中微量アルブミンの増加する「早期腎症期」より進行した蛋白尿が出現する段階の「顕性腎症前期」から、糖質制限食で回復しタンパク尿消失。

45才で医学部に入学、49才で医師になり、糖尿病を徹底的に研究。以後、多数の糖尿病患者を診察。

2010年、76才現在、糖尿病合併症もなく、現役医師としてお元気にお過ごしです。

バーンスタイン医師の場合、HbA1c5%くらいでキープしておられると思います。

個人差も当然あるし、糖質制限食のコントロール・スタディなどありません。

従って、糖質制限食で尿中微量アルブミンや顕性腎症前期(第3期A)までなら、必ず改善すると断定したり保証することは当然できません。

ただ、糖質制限食でHbA1c:5.8%未満くらいまでコントロールすれば、バーンスタイン先生のような経過をたどる可能性もありえると思います。

ACCORD研究(2008年)と2010年2月のランセットの研究報告で糖質を摂取して、HbA1cをきっちりコントロールすれば、総死亡率がかえって上昇することが示唆されました。

糖質を摂取することによる食後高血糖、そして過剰な薬物治療による低血糖、これらの繰り返しによる血糖値の乱高下が、死亡率上昇の主たる要因と思います。

同様の理由で、糖質を摂取しながらインスリンなどでHbA1cをコントロールしても、食後高血糖を防ぐことは困難で、糖尿病腎症の進行は防ぎがたいと思います。

このように考察してみると、糖質制限食だけが食後高血糖を生じないし、薬物の使用がないので低血糖も生じないので、糖尿病腎症の進行を防ぎ、また総死亡率も減らす可能性をもっていることがわかります。

患者さんへの説明は、結構難しいですが、

①「血糖コントロールが悪ければ、糖尿病腎症は転がるように進行する。」
微量アルブミン尿→第3期A→第3期B→腎不全→透析

ということをまず説明します。

そして、

②「糖質制限食で血糖コントロールが良くなれば、100%とは言えないが進行が防げる可能性がある。」と説明します。

第3期A(タンパク尿1g/日未満)の段階までは、

<高タンパク食による蛋白尿へのリスク>と<食後高血糖による蛋白尿へのリスク>
を天秤にかけるという言い方もできます。

このような臨床試験はないので、結論は出ませんが・・・。

ただ、第3期A(タンパク尿1g/日未満)の段階までは兎も角として、第3期Bの段階(タンパク尿1g/日以上)の段階になると、糖質制限食も含めて治療に難渋します。

ともあれ、できるだけ早い段階で糖尿病腎症を発見し、糖質制限食実践で血糖コントロールを良好に保つことが、現時点で最善の道と考えられます。

糖尿人は、3ヶ月~半年に1回、尿中微量アルブミンを検査して、早期発見に努めて下さいね。


江部康二
テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
糖尿病ケトアシドーシスはインスリン欠乏が原因、ケトンが原因ではない
昨日、今日とケトン体の安全性を強調してきました。

さらに補強すれば、ケトン食という治療法があります。

総摂取カロリーの70~80%が脂質という食事療法です。

欧米で1920年代から続いている難治性てんかんに対する治療法で、有効性がはっきりと証明されています。

日本でも、小児科領域でケトン食療法は実施されています。2才~5才くらいの年齢で行われることが多いのですが、どうしても味が良くないので、物心ついてきたら、なかなか続けることができないようです。2年間ぐらい継続が一つの目安になります。

当然血中ケトン体は、今の基準値よりはるかに高値となりますが安全です。

しかし、一般には血中ケトン体高値、尿中ケトン体陽性というと、医師でもびびる病態で怖いというのが、医学会の常識です。

何故このような誤解が生じたのでしょうか?

誤解が生じた顛末を考察してみます。


糖尿病ケトアシドーシス

糖尿病はインスリンの作用不足があり、細胞内にうまくブドウ糖が取り込めなくなる病気で、そのため慢性の高血糖状態が生じます。

高血糖にもいろんなレベルがありますが、非常に重症の糖尿病を考えてみましょう。

血糖値が300~500mg/dl以上もあり、口渇・多飲・多尿・腹痛・悪心・嘔吐・脱水・意識レベル低下、尿中ケトン体が強陽性などの症状・所見があれば、糖尿病性ケトアシドーシスと診断できます。

もちろん血中ケトン体も高値であり、生理的食塩水の点滴・速効型インスリンの静注など緊急的治療が必要となります。

糖尿病ケトアシドーシスは、インスリン作用の欠乏による全身の高度の代謝失調状態です。強調しますが、前提にインスリン作用の欠乏があり、それが全ての出発点です。

つまり、インスリン作用の欠乏がなければ、糖尿病ケトアシドーシスは絶対に起こらないのです。

『インスリン作用の極度の低下、インスリン拮抗ホルモンであるグルカゴン・カテコールアミン・成長ホルモンの過剰』

などにより、全身の高度の代謝失調、糖利用の低下・脂肪分解の亢進がおこり、高血糖と高遊離脂肪酸血症を生じます。

遊離脂肪酸は、インスリン欠乏下の肝では、急速な酸化をうけケトン体に分解されます。

インスリン作用欠乏から始まる流れ、

「インスリン作用の欠乏→拮抗ホルモンの過剰→全身の代謝障害→糖利用低下・脂肪分解亢進→高血糖・高遊離脂肪酸→ケトン体産生亢進」

があり、結果としてケトン体が産生されて高値となるわけです。

ケトン体高値は、始まりではなくて、あくまでも結果なのです。

このように糖尿病ケトアシドーシスの本質は、インスリン作用の欠乏による全身の高度の代謝障害です。

その結果として血中ケトン体が高値となり、全身の高度の代謝障害のため緩衝作用がうまく働かなければ、アシドーシスや脱水となり、重症では昏睡にいたります。

結果としてのケトン体高値が、まるで、始まりであり原因であるかのように本末転倒して受けとめられ、誤解が生じたものと考えられます。

インスリン作用が確保されていて、緩衝作用も働いている限りは、ケトン体は極めて安全な物質です。

しかし、インスリン作用が欠落していて、緩衝作用もうまく働かない病態においては、ケトン体そのものに毒性はなくても、酸性の物質なので結果としてアシドーシスになるということです。

即ち現実には「糖尿病ケトアシドーシス時のケトン体産生の亢進」は、インスリン作用の欠乏が前提にある病態であり、1型糖尿病患者さんのシックデイやインスリン注射を中断したときに起こることがほとんどです。

2型糖尿病では、清涼飲料水多飲による、所謂「ペットボトル症候群」でケトアシドーシスを生じることがあります。

断食や 糖質制限食実践に伴う「生理的ケトン体産生の亢進」の場合は、インスリン作用の欠乏はありませんし、血液の緩衝作用も有効に作用していますので何の問題もありません。

例えば断食の初期は一過性にアシドーシスになりますが、緩衝作用で徐々に補正されていきます。

また、健常人が激しい運動をした場合にも、一過性に血中ケトン体は増加しますが、勿論、生理的現象です。

結論です。

インスリン作用が欠乏していて高血糖を伴う高度の代謝障害は、それ自体その時点で重症です。この時結果として血中ケトン体が上昇してくれば、アシドーシスも合併して、さらに危険な病態となります。

一方、インスリン作用が確保されていて高血糖を伴わない血中・尿中ケトン体の上昇は、生理的範囲内の現象であり、人類400万年の歴史のなかで日常的に経験されてきたことなので安全です。



江部康二
テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
エネルギー源としての安全性、ケトン体とブドウ糖
おはようございます。

昨日、血中ケトン体は、心筋・骨格筋や内臓の細胞の日常的なエネルギー源であり、誰でも常に利用していますし、3000~4000μM/L(基準値26~122μM/L)になったとしても、それ自体は安全性の高いものであることを説明しました。

しかし、ブドウ糖は、180mg/dlを超えると、細胞を傷害し毒性をもってくることも説明しました。

日本糖尿病・妊娠学会の基準では、妊娠女性の血糖値コントロール目標は

空腹時100mg/dl以下
食後2時間血糖値120mg/dl以下

と、さらに厳しい目標が設定されています。

これは、120mg/dlを超えてくると胎児に影響が出ると、世界糖尿病・妊娠学会で考察しておられるということですね。

農耕が始まる前の人類にとっては、このような妊娠中の血糖値の目標も当たり前のようにクリアできていたと考えられますが、精製炭水化物を常食する現代の食生活では、結構、厳しい数値目標と言えます。

このようにブドウ糖は、ごく狭い範囲に血糖値を保たないと毒性が生じるので、手っ取り早くて便利だけど、危険なエネルギー源といえます。

「ブドウ糖に毒性がある」などというと、びっくりされるかもしれませんが、妊婦においては120mg、一般人においては180mgを超える血糖値は、毒性をもっているわけで、これは確かなエビデンスに基づく数値です。

一方、ケトン体それ自体は、今の基準値よりはるかに高値となっても毒性はない、極めて安全なエネルギー源といえます。


江部康二
テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
ケトン体の安全性と基準値と糖質制限食・2010
こんにちは

ケトン体の生成と安全性>

血中ケトン体の安全性について、特に妊娠中の女性から質問が過去複数ありました。

ケトン体、なかなかなじみがなくてわかりにくいですよね (∵)?

それで、まず結論を先にいうと、血中ケトン体の安全性は、極めて高いですのでご安心ください。 (^_^)

ケトン体は肝細胞内で、

「脂肪酸→β酸化→アセチルCoA→ケトン体

という順番で日常的に生成されていて、肝臓では使用されずに、他の臓器、脳や筋肉のエネルギー源として供給されます。

糖質を普通に摂取している人の血中ケトン体の基準値は、施設により差はありますが、「26~122μM/L 」くらいです。

つまり、日常的に糖質を摂取している人でも、これくらいの血中ケトン体は常に存在していて、心筋や骨格筋など多くの体細胞の主たるエネルギー源となっているのです。

つまり、人体のごく普通のエネルギー源であり、当然安全性は高いです。

どれくらい安全かを、もう一つのエネルギー源であるブドウ糖と比べてみると、わかりやすいですね。

絶食療法中やスーパー糖質制限食の初期には、血中ケトン体は、3000~4000μM/Lくらいで、基準値の30~40倍の高値になりますが、それ自体は、各細胞において全く安全なものです。

このようなとき、一過性に酸性血症となりますが、人体の緩衝作用によりしばらくして正常のPHに戻ります。

100万年前のご先祖とかでは、獲物が捕れないときなどには日常的に、このような数値を繰り返していたことでしょうし、当然、血管内皮にも無害です。

一方、血中ブドウ糖の基準値は空腹時で「60~109mg/dl」です。

食後とかで血糖値が180mg/dlを超えてくると、リアルタイムに血管内皮を傷害し酸化ストレスを引き起こし、繰り返せば動脈硬化の大きなリスクとなります。

血糖値が高値であれば、胎児にも悪影響があることは確認されています。

血糖値が300mgでも充分危ないですが、3000mgなど想像を絶した数値では、当然生体は生命を保てないでしょう。

そのため、インスリンが速やかに分泌されて、食後血糖値が140~180mg/dlを超えないように、厳しく管理しているわけです。


このように検討してみると、ケトン体はブドウ糖よりは、はるかに安全性の高いエネルギー源ということができますね。

なお、母乳育児中の乳児のケトン体の基準値も、成人の基準値より高値です。

スーパー糖質制限食を実践しているとケトン体は現行の基準値よりは高値となります。

例えば、2002年からスーパー糖質制限食実践中の江部康二の血中ケトン体は、「400~800~1200/μM/L」くらいです。

このくらいが、狩猟・採集だったころ400万年間の人類の基準値、そして生肉・生魚が主食の伝統的食生活を維持していたころのイヌイットの基準値、と思われます。

そして、農耕前の人類もイヌイットもスーパー糖質制限食を実践しながら、妊娠・出産・育児をしてきたという事実もケトン体の安全性を保証するものです。

次回は、念のために、重症の病態である糖尿病性ケトアシドーシスのお話しをします。


江部康二
テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
農耕前の狩猟・採集時代の人類の主食は?2010年9月。
おはようございます。

2010年9月3日のブログ記事で、農耕が始まる前、狩猟・採集時代の人類の主食は、必然的に穀物ではありえないと述べました。

それでは、狩猟・採集時代の人類の主食はいったい何だったのでしょう?

特に、文化が出現する以前の、石器も狩りの技術も未熟な400万年~20万年前の弱々しい人類の主食は?

主食は、種の生存においてとても大きな意味を持つもので、同時代・同地域で主食が競合する種は、どちらかが絶滅していきます。(例えばネアンデルタール人の絶滅→2007.8.6ブログ参照して下さいね)

即ち、自然界においては、一種の動物に一種の主食があるのです。 

「親指はなぜ太いのか」の著者、島田氏のライフワークに、マダガスカル島(外界と遮断された世界)の多種のサルの生態や主食を調べた仕事がありますが、各種のサルで、主食の摂取にピッタリの親指や手指が発達することを見いだしています。

つまり、マダガスカル島に住む様々な種のサルには、それぞれ異なる主食があり食い分けることで、共存しているわけです。

例えば、アイアイというサルの主食は、ラミーという巨木の種子ですが、殻が固くて3cm位の大きさです。

アイアイは、まず非常に太い親指で殻をしっかり固定し歯で削り穴を開けた後、特殊に発達した極めて細い中指を突っ込んで、中身をかき出して食べます。

主食と手指の関係性において、アフリカのチンパンジーのナックルウオークも特徴的です。

彼等は、蔓に覆われた密林で木々の先にある果実を主食として、蔓を持って移動しつつ食事をします。

すなわち、チンパンジーの親指・手指は、蔓をつかんで移動して、主食を得るライフスタイルにぴったりの構造をしています。

そのため、たまに地上に降りたときも、蔓をもつときのナックルのまま歩行するのです。

他のサルのように、手掌をつけて歩くことはしません。

さあそれでは、狩猟・採集時代の人類の主食は??? 

島氏は、

「ライオン等の肉食獣が、大型草食獣を倒して内臓や肉を食べる。その後ハイエナが登場し屍肉を漁る、武器も未熟で狩りもままならない当時の人類は、ハイエナが去るのを待って最後に残った骨(骨髄)を拾って手にもって安全な場所まで二足歩行で移動したあと、石(石器)で骨を割ってそのまま食べたり骨髄をすすったりしていた。主食は常の食物だから握りしめる石は常に持っていなくてはならない。そのため四足歩行がむつかしく二足歩行が必要となった。」

と大胆な仮説を述べています。  

状況証拠として、アフリカ東海岸の人類の遺跡のほとんどに、

『大型肉食獣の歯形の付いた草食獣のかち割られた骨』

が出土しています。

そして人類の親指は、他のサルとは全く異なる極めて特殊な形態をしており、石を握りしめるのに最適な機能を有しているのです。また、骨・骨髄は他の動物とは、全く競合しない、安定して確保できる食糧でもあります。

骨髄には、EPA・DHAもたっぷり含まれています。また、タンパク質・脂質・カルシウム・鉄なども豊富です。

富山県食品研究所によれば、牛骨100gあたりタンパク質19.7%、脂質18.1%、カルシウム7800mg、鉄8.6mgです。

豚骨も鶏骨もまた牛骨と同様、栄養的には申し分のない構成で、骨は人類の主食として、優れたバランス栄養食と言えます。

現世人類の脳の機能が急速に発達した時期(約20万年前~16万年前)は、動物性食品にしか含まれていないEPA・DHA(ω3系必須脂肪酸)の摂取が重要なポイントであり、この頃の人類は、それらが含まれている食品をしっかり摂取していたと考えられます。

EPA・DHAは穀物や野菜・果物・ナッツなど植物性食品にはほとんど含まれていません。一部の海草や苔や肉微小藻類には含まれています。肉微小藻類を食べる水棲小動物や地虫・水鳥・魚・は虫類・両生類・昆虫・肉・臓器・脳・骨髄などの動物性食品にEPA・DHAは含まれています。

狩猟・採集時代の人類の主食が骨・骨髄であるという島氏のこの仮説、一見びっくりするようなものなのですが、私はかなりの説得力を感じました。

骨(骨髄)だけではなく、魚介類や動物の内臓・肉などもふくめて、動物性食品が狩猟・採集時代の人類の主食という仮説もありえると思います。少なくとも、植物性食品が主食では、脳の発達は覚束なかったと考えられます。

今日のお話し、興味がある人は、是非

「親指はなぜ太いのか-直立二足歩行の起原に迫る」(島泰三、中公新書)

をお読みくださいね。

江部康二

テーマ:糖尿病
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「米と糖尿病」を読んで・その3・高炭水化物食への疑問
こんばんは。

玄米魚菜食時代、糖質制限食時代を経て、今、高雄病院では食生活において一人ひとりの年齢・体質・病状・嗜好にあわせた、テーラーメードの食事療法(tailor made diet)を提唱しています。

すなわち、玄米魚菜食も糖質制限食も、テーラーメードの食事療法という枠組みの中では両方ありで、矛盾・対立するものではありません。

高雄病院が主に玄米魚菜食を推奨していたころは、

「日本人がもともと食べていたものは何だったのか?」

ということを考えていました。

その後、糖質制限食の研究を始めて、日本でも縄文時代中期以前には穀物は主食ではなかったということに思い至りました。

そしてさらに、

「日本人という前に、人類そのものは、いったい何を食べて進化してきたのか?」

という根源的な疑問が湧いてきて、いろいろ調べてみました。

本ブログ記事でも何回か書きましたが、農耕が始まる前の人類の主食は、決して穀物ではありません。農耕開始は約1万年前です。

人類が、ゴリラやチンパンジーと分かれたのが約400~500万年前・・・。

その後、3属17種の人類が栄枯盛衰・進化を繰り返し、現在残っているのは、現世人類(ホモ・サピエンス)だけです。

農耕前の399万年間は、必然的に生業は狩猟・採集で、全ての人類が糖質制限食であり、魚貝類・小動物・動物の肉・内臓・骨髄・木の実・ナッツ・果物・野草・昆虫・・・などが日常的な食料でした。

この間、人類の栄養・代謝・生理すべて糖質制限食に適応するように、突然変異を繰り返し進化してきました。

すなわち、現世人類の身体のシステムは、総摂取カロリーの60%を穀物に依存するようには本来できていないのです。

農耕が始まり定着しての4000年間だけが、主食が穀物(糖質)と変化しました。

このことは、人類の歴史を振り返ってみれば明らかですし、私だけが主張しているわけでもありません。

英国の最も権威ある栄養学の本があります。
920ぺージに及ぶ大著です
『ヒューマン・ニュートリション 基礎・食事・臨床 第10版
JS Garrow
WPT james
A Ralph 編
日本語版監修 細谷憲政』

この本の75ページに

『現代の食事では、・・・・・デンプンや遊離糖に由来する「利用されやすいグルコース」を大量に摂取するようになっている。このような食事内容は血漿グルコースおよびインスリン値の定期的な上昇をもたらし、糖尿病、冠状動脈疾患、がん、老化等、多くの点で健康に有害であることが強く指摘されている。
 農業の発明以来、ヒトは穀物をベースとした食物を摂取するようになったが、進化に要する時間の尺度は長く、ヒトの消化管はまだ穀物ベースの食物に適応していない。ましてや高度に加工された現代の食物に対して、到底適応しきれてないのである。』

と記載されています。

このように、ヒューマン・ニュートリションでは、穀物の過剰摂取の害、特に精製炭水化物による「血漿グルコースおよびインスリン値の定期的な上昇」が多くの点で健康に有害と強調しています。

これは私が日頃主張している

「精製炭水化物摂取によるグルコースミニスパイクとインスリンの頻回・過剰分泌が生活習慣病の元凶である。」

という説と、全く同じといっていいと思います。

ともあれ、再度強調しておきたいと思います。

テーラーメードダイエットの枠組みの中で、アトピー性皮膚炎などアレルギー疾患や糖尿病以外の生活習慣病では、玄米魚菜食などでもよいと思います。

しかし、すでに糖尿病の診断がついている人においては、炭水化物(糖質)は必ずや食後高血糖を生じる食物です。

これは、論争の余地などない、生理学的事実です。

野菜分の少量の糖質は許容範囲としても、糖尿人が穀物のような高炭水化物食を、日本糖尿病学会が推奨する総摂取カロリーの60%とか摂取するのは危険です。

まして、佐藤章夫先生の推奨される70~80%の糖質摂取は、糖尿人にとっては自殺に等しい行為といえます。

糖尿人のご同輩、ゆめゆめ惑わされないようにご注意くださいね。


江部康二
テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
「米と糖尿病」を読んで・その2・高炭水化物食への疑問
こんばんは

高雄病院に初めて玄米魚菜食を導入したのは、1984年のことで、私は当時34才でした。

病院給食として玄米を提供したのは、高雄病院が日本初だったと思います。

その頃は、私自身が、

「日本人が弥生時代以後、主食として食べていたのは米であり、現代人も米をしっかり食べるべきである。」

と考えていました。

食養生を指導する医師としては、トップランナーの一人でした。

その後「粗食のすすめ」の幕内秀夫先生が主催されている「学校給食と子供の健康を考える会」に協力して、完全米飯給食をめざす運動を展開していきました。

当然、私自身も病院では玄米、家では胚芽米、外出先では白米・・・。

学会や旅行や講演や列車内では、おにぎりやお弁当で、パン(小麦)はほとんど食べずに、徹底的にお米を食べていました。

油ものやお肉もできるだけ避けていて、和食中心で、おそらく総摂取カロリーの60~70%くらいがお米で、まさに佐藤章夫先生の推奨される、理想的な食生活を送っていたわけです。

ところが、玄米魚菜食で運動もそこそこしていて、そこらのおじさんより、はるかに健康的なライフスタイルを送ってきたのに、40才過ぎからだんだんメタボになっていき、当時は理由がわからず、悩みました。

そしてとうとう、52才の時に、随時血糖値が2回以上、200mg/dlを超えて、はっきり糖尿病の診断基準を満たしてしまいました。

糖尿病発覚時には体重67kg(身長167cm)になって、血圧は160/100、腹囲は86cmと、メタボリック・シンドロームの診断基準も見事に満たしていました。

1999年から兄・江部洋一郎が糖質制限食を高雄病院に導入しており、2001年からは、私も糖尿病患者さんには糖質制限食を指導していました。

糖質制限食の勉強を開始して、初めて自身のメタボ・糖尿病の根本要因が、

「糖質(米)の頻回・過剰摂取による、グルコース・ミニスパイクとインスリンの頻回・過剰分泌であった。」

と確信しました。

その後半年間の糖質制限食で、体重は56kgにおち、血圧も120/70、HbA1Cも正常になり、メタボリック・シンドロームも解消し、学生時代の体型にぴったり戻り、2010年現在も保っています。

高炭水化物食実践8年でメタボになり、18年でついに糖尿病を発症、その後半年間の糖質制限食で正常人に復帰・・・身をもって体験しました。

私一人の体験談では、説得力にかけますが、現在まで1200人以上の糖尿病外来患者さん、400人以上の糖尿病入院患者さんの臨床データが高雄病院にはあり、糖質制限食の効果はしっかり確認しています。

高雄病院では、現在入院患者さんに、糖尿人には糖質制限食、アトピーさんには玄米魚菜食・・・といった形で、給食を提供しています。すなわち、玄米魚菜食も充分肯定していますし、その良さも認めています。

テーラーメードダイエットの枠組みのなかで、糖質制限食と玄米魚菜食を使い分けているわけです。

ただし、糖尿病の診断がついている人には、玄米でも危険ですし、炭水化物全てがNG食材となります。

糖尿人が炭水化物を普通量摂取すれば、99%、200mgを超える食後高血糖を起こすことは明白であり、血管内皮を傷つけ酸化ストレスを亢進させ、危険だからです。

ここで閑話休題。

今でこそ高炭水化物食が人類の主食となっていますが、穀物食の歴史は、人類の歴史に比べれば浅く、ごく短いものに過ぎません

続く


江部康二
テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
「米と糖尿病」を読んで2010年9月
おはようございます。

山梨医科大学名誉教授、佐藤章夫先生が「米と糖尿病」という本を、2010年7月に出版されました。

内容は、基本的に佐藤章夫先生のホームページに記載してあることとほぼ一緒でした。

その中で、「はじめに」 に書いておられることで、かなりの疑問が解けました。

①佐藤先生ご自身が糖尿病である。1989年診断。
②1995年にヒムスワースの論文を発見。
 1935年にヒムスワースが発表した、
 a)正常人の耐糖能に関する論文
 b)糖尿病の疫学の論文。
この2つの論文が、佐藤先生の仮説(高炭水化物食肯定論)の、肝心要な根拠である。
③佐藤先生ご自身の検査データは過去一貫してHbA1c6.5%未満であるが、尿糖陽性の可能性は高い。


①に関して、ご自身が糖尿病なので、薬物に頼らない食事療法に興味を持たれたということで、モチベーションは私と同様ですが、糖質に対する見解が真逆ですね。

私は糖質制限食で、佐藤先生は高糖質食(高炭水化物食)・・・。

これは、私はずっと臨床医で糖尿病患者さんを多数診察していますが、佐藤先生は基礎畑で臨床医ではなく、糖尿病患者さんをほとんど診ておられないという差が大きいと思います。

高雄病院では、1200人以上の糖尿病患者さんに糖質制限食を指導し、顕著な効果を確認しています。入院して糖質制限食を実践され、著明に改善された糖尿病患者さんも400人以上おられて、きっちりデータもあります。


a)ヒムスワースの正常人の耐糖能に関する論文。1935年発表。

「健康人に糖質の少ない食事を1週間与えて糖負荷試験を行った。高糖質食を与えたときには耐糖能は正常であったのに、低糖質食によって糖尿病と判定されるほどに耐糖能が悪化した。」

というのが、ヒムスワースが1935年に発表した論文の結論です。

一方、 1960年、ウィルカーソン(Wilkerson)らが、受刑者を被験者として低糖質食が耐糖能に与える影響を再検討して、糖質の摂取量を1日50グラムに制限しても、耐糖能には大きな影響を及ぼさないという報告を行いました。この報告がNew England Journal of Medicineという影響力の大きな医学誌に掲載されました。

佐藤先生は、「ウィルカーソンは間違っている」と、個人的な見解を述べておられますが、欧米の糖尿病の専門家は、ウィルカーソンの報告を支持しています。

New England Journal of Medicineのような、権威ある医学雑誌においては、まず論文が受理されるまでに、担当編集委員による厳しい審査があります。この第一関門だけでも大変な狭き門です。

また、受理されたとしても、論文として掲載されるまでには、さらに厳密な審査が行われます。

複数の専門家(レフリー)によって、論文の内容に間違いがないか、研究方法に問題はないかなどが徹底的に審査されます。

いったん受理されても、レフリーにより掲載不可になることもあるし、大改訂後掲載可というような判定もあります。

この非常に厳しい第二関門を通過して、初めて医学雑誌に論文として掲載されるわけです。

つまり、一流の医学雑誌に掲載された論文には、当該の一流の複数の専門家のお墨付き・保証があるわけです。
(製薬メーカーなどの利権が絡まない論文は、信用していいと思います。)

ですから、単なる学会報告で論文になってない研究と、一流医学雑誌に論文が掲載された研究では、信頼度にかなりの差があるわけです。

ましてや、佐藤章夫先生の個人的見解と、ニューイングランド・ジャーナルの審査を行った、複数の欧米の専門家の見識と、どちらが信頼度が高いかは、明らかです。

b)ヒムスワースの糖尿病の疫学の論文。1935年発表。

「脂肪の摂取量の多い国ほど糖尿病死亡率が高く、また炭水化物では、これと対照的に摂取量の多い国ほど糖尿病が少ないという傾向がみられる」

というのがヒムスワースの結論です。

これに対して、日本の糖尿病医療を長くリードされてきた後藤由夫先生☆☆☆が、ヒムスワース(Himsworth)の誤解を明快に指摘しておられます。

<後藤由夫 私の糖尿病50年 -糖尿病医療の歩み->
43. 糖尿病の増減
http://dm-medical.net/14/000242.php

2. 脂肪摂取と糖尿病
 「ロンドンのHimsworth(1935、1949年)は各国の糖尿病の死亡率と国民の栄養素摂取量との関係が図2のように、脂肪の摂取量の多い国ほど糖尿病死亡率が高く、また炭水化物ではこれと対照的に摂取量の多い国ほど糖尿病が少ないという傾向がみられると報告した。この成績をもとにHimsworthは脂肪摂取が糖尿病の増加と関係すると結論した。筆者はこれに興味を抱き、追試して同様な成績を得たが、次に粗死亡率ではなく訂正死亡率について関係を求めた。その結果は図3のように相関関係は認められなかった。このことから、Himsworthがみていたのは脂肪摂取量の多い国は豊かで糖尿病罹病年齢まで生存するのに対し、経済的に遅れている国では脂肪摂取量が少なく、安価な炭水化物をエネルギー源として、しかも糖尿病罹病年齢まで生存する者は少なく、若年期に死亡する者が多いことをみているにすぎない、と理解された。このことから脂肪摂取が糖尿病の発症と関係するという説は否定された。動物に大量の脂肪を与える実験も行われたが、これによって糖尿病が現れたという報告もなかった。」

このように、佐藤章夫先生が、「高炭水化物食肯定論」の最大の根拠としておられるヒムスワースの二つの論文そのものが、医学的には既に否定されているわけです。

ヒムスワースの論文は、1935年発表です。その後、医学も疫学も、多大な進歩を遂げました。ヒムスワース論文は、75年前の過去の遺物に過ぎません。


③に関して

佐藤先生ご自身の検査データは65才まで過去一貫して、HbA1c6.5%未満ということですので、6.4%のことは、あったと考えられます。

そうすると平均血糖値

(6.4%-1.7)×30=141mg/dl

です。

また「食後に尿糖がでていると思うがまったく気にしていない。65才以後この8年は検査していない。」と述べておられます。

尿糖が陽性ということは、食後血糖値が180mg/dlを超えている可能性が極めて高く、大血管合併症を起こす可能性も否定できません。

食後高血糖が、糖尿病における動脈硬化の最大のリスク要因であることは、現在世界の医学界の共通認識ですが、佐藤先生は無視しておられ危険です。

是非、血液検査で現在のHbA1c食後血糖値早朝空腹時血糖値など調べていただきたいものです。加えて、頸動脈エコーや心電図も調べていただいた方が無難と思います。

なお、「米と糖尿病」を拝見して、実際に糖尿病患者さんを診察したデータが、皆無です。

健常な学生のデータとラットのデータはありますが、少なくとも本には糖尿病患者さんのデータはありません。

佐藤章夫先生は、基礎畑で予防医学がご専門であり、実際には糖尿病患者さんは、ほとんど診ておられないと思います。

糖尿病診療経験がほとんどない人が、糖尿病の本を書かれること自体が、私には不思議に思えます。

まして糖尿病患者を診察しておられない人が、安易に糖尿人に高炭水化物食を奨めることは、経験もないのに無責任であるといわれてもしかたありません。

もっとも見方を変えれば、

「糖尿病患者をほとんど診察しておられないからこそ、糖尿病臨床現場ではありえない奇妙な仮説を提唱された。」

といえるかもしれません。

佐藤章夫先生が個人的仮説(高炭水化物食肯定論)を提唱されるのはご自由と思いますが、糖尿人がそれを実践すれば、極めて危険であることだけは、指摘しておかなくてはなりません。

例えば、既に糖尿病の診断がついている人に、75g経口ブドウ糖負荷試験を実施することは、倫理的に不可とされています。

必ずや、200mg、300mgの高血糖を引き起こすことがわかっている以上は、危険を冒す意味はないということです。

糖尿人が、佐藤章夫先生の仰有る用に、総摂取カロリーの70~80%を米から摂取すれば、75g経口ブドウ糖負荷試験と同様、かならず食後血糖値は200mg、300mgを超えてきます。

リアルタイムに血管内皮が障害され、酸化ストレスが発生し動脈硬化のリスクとなります。これは、世界中で認められている、生理学的事実です。

糖尿人のご同輩、しっかり自分自身で考えて、糖質制限食と高糖質食(高炭水化物食)のどちらに、理論的根拠・疫学的根拠・臨床データ上の根拠があるのか、判断して、自己責任で自己管理していただきたいと思います。


江部康二


☆☆☆
後藤 由夫先生
1925年10月3日生まれ
県立酒田中学、第二高等学校理乙を経て
東北大学医学部 1948年9月卒業
1年間のインターン後、東北大学内科学第3講座にて研究
ペンシルベニア大学内科客員科学者(1958年-60年)
弘前大学教授(1970年-76年)
東北大学教授(1976年-88年)
東北大学名誉教授(1988年-)
東北厚生年金病院院長(1988年-94年)
東北厚生年金病院名誉院長(1994年-)
日本糖尿病協会理事長(1992年-2000年)
日本臨床内科医会会長(1999年-)

糖尿病の成因、合併症、治療法を研究し、糖尿病モデル動物GKラットの開発に成功。
日本内科学会会頭をはじめ糖尿病学会、老年医学会、動脈硬化学会、臨床栄養学会、膵臓病研究会、体質学会、自律神経学会、過酸化脂質学会、肥満学会、東洋医学会、人間ドック学会、発汗研究会、末梢神経研究会などの会長・会頭をはじめ、糖尿病関係の5つの国際シンポジウムの会長を担当。現在約18,000人の内科医が加入する日本臨床内科医会会長。

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット