2009年03月05日 (木)
おはようございます。
昨日、ケトン体シリーズ最終回とか言いましたが今日は追加編です。
【優介(Yusuke)
『ケトン体上昇時の判断は?』
ケトン体のことで理解しにくかった部分があるので、質問させてください。
インスリン作用があるなら「生理的ケトン体上昇」で問題なく、インスリン作用が欠落していれば「病理的ケトン体上昇」で問題あり、と言う所までは理解できました。
糖尿病の人はインスリン作用が欠落していると考えられるので、ケトン体の上昇だけを見れば、「病理的ケトン上昇」と判断してしまうのではないかと思いましたので、お聞きします。
(お医者様ならそんな判断はされないのかもしれませんが)
もし、糖尿病の人が糖質制限を行って、「生理的ケトン上昇」が見られたとして、その場合にインスリン作用があるのか、欠落しているのか、の区別は可能なのでしょうか?
糖尿病性ケトアシドーシスが見られるかどうかで判断するのでしょうか?
2009/03/03(火) 23:56:20】
優介(Yusuke)さん。コメントありがとうございます。
他にも同じような疑問を持たれた人もおられるでしょう。ケトン体シリーズ、言葉が足りませんでわかりにくいところがあり、すいませんでした。
さて、
糖尿病の人は基本的にインスリン作用不足がありますが、ほとんどの場合インスリン分泌欠落まではいっていません。(*)
例えば、正常人のインスリン分泌能力が10あるとすれば、2型糖尿病を発症した時点で、8~9です。
これが糖尿病歴10年、20年、30年と続き、血糖コントロールが良くなければ、7→6→5→4→3→2→1→0 とインスリン分泌能力が低下していきます。
従って、2型糖尿病の人でも、じり貧でインスリン分泌が減少して、なくなるような病態までいけば、インスリン注射が絶対に必要でインスリン依存状態になりえるわけです。
例えば、1998年に発表されたUKPDSというイギリスの大規模な疫学的研究では、インスリン、経口血糖降下剤、従来の食事療法(高糖質食)で徹底的に強化治療をしても、10年たった時点では、HbA1cは基本的に悪化していて、
「2型糖尿病は慢性の進行性のインスリン分泌障害で不治の病である」
という、恐るべき結論になっています。(=_=;)
まあこの結論は、糖質制限食で変えることができて、進行は止まると私は信じていますが・・・ (^_^)
私も2型糖尿病で、正常人に比べれば、インスリン分泌不足はあります。しかし、私のインスリン、それなりに働いてくれてますので、糖質制限食で生理的ケトン体上昇はありますが、血糖値はほぼ正常です。
病理的ケトン体上昇を伴う糖尿病性ケトアシドーシスは、1型のシック・デイとか2型のペットボトル症候群(**)とか、特殊な重症例でインスリン作用欠落(10→0~1)の時にしか生じません。血糖値は、通常は500mg/dl以上となります。
いきなり急速に発症した1型なら、病理的ケトン体上昇を伴う糖尿病性ケトアシドーシスになりえます。
しかし2型であれば医療機関に全く受診せず放置したとかよほどのことが無い限り、病理的ケトン体上昇を伴う糖尿病性ケトアシドーシスはまずありません。
糖質制限食を実践中の糖尿病患者さんで、血中ケトン体が今の基準値より高くても、血糖コントロールが比較的良好なら、生理的なもので何の問題もありません。
(*)
インスリン分泌不足とインスリン抵抗性(効きが悪い)が合わさってインスリン作用不足となり、糖尿病を発症します。
日本人の場合はインスリン分泌不足が主で、欧米白人はインスリン抵抗性が主とされています。
(**)
ペットボトル症候群
ペットボトルを持ち歩いたりして、清涼飲料水を1日2~3リットル毎日飲み続ける人がいます。
もともと糖尿病の素因を持っていたり、軽度の糖尿病の人が、このように吸収されやすい糖質を多量に摂取していると、飲む度に血糖値が上昇してインスリンが追加分泌されるのですが、ついにはインスリンの供給が追いつかなくなり血糖値が高くなります。
一旦血糖値が高くなると糖毒状態となります。それが続けば、糖尿病性ケトアシドーシスという危険な状態になり、ものの1~2週間で意識の混濁や昏睡に陥るケースもあります。
≪高血糖の持続→インスリン分泌低下とインスリン抵抗性増大→高血糖の持続→≫
この悪循環パターンを、臨床的には「糖毒」 と呼びます。
江部康二
昨日、ケトン体シリーズ最終回とか言いましたが今日は追加編です。
【優介(Yusuke)
『ケトン体上昇時の判断は?』
ケトン体のことで理解しにくかった部分があるので、質問させてください。
インスリン作用があるなら「生理的ケトン体上昇」で問題なく、インスリン作用が欠落していれば「病理的ケトン体上昇」で問題あり、と言う所までは理解できました。
糖尿病の人はインスリン作用が欠落していると考えられるので、ケトン体の上昇だけを見れば、「病理的ケトン上昇」と判断してしまうのではないかと思いましたので、お聞きします。
(お医者様ならそんな判断はされないのかもしれませんが)
もし、糖尿病の人が糖質制限を行って、「生理的ケトン上昇」が見られたとして、その場合にインスリン作用があるのか、欠落しているのか、の区別は可能なのでしょうか?
糖尿病性ケトアシドーシスが見られるかどうかで判断するのでしょうか?
2009/03/03(火) 23:56:20】
優介(Yusuke)さん。コメントありがとうございます。
他にも同じような疑問を持たれた人もおられるでしょう。ケトン体シリーズ、言葉が足りませんでわかりにくいところがあり、すいませんでした。
さて、
糖尿病の人は基本的にインスリン作用不足がありますが、ほとんどの場合インスリン分泌欠落まではいっていません。(*)
例えば、正常人のインスリン分泌能力が10あるとすれば、2型糖尿病を発症した時点で、8~9です。
これが糖尿病歴10年、20年、30年と続き、血糖コントロールが良くなければ、7→6→5→4→3→2→1→0 とインスリン分泌能力が低下していきます。
従って、2型糖尿病の人でも、じり貧でインスリン分泌が減少して、なくなるような病態までいけば、インスリン注射が絶対に必要でインスリン依存状態になりえるわけです。
例えば、1998年に発表されたUKPDSというイギリスの大規模な疫学的研究では、インスリン、経口血糖降下剤、従来の食事療法(高糖質食)で徹底的に強化治療をしても、10年たった時点では、HbA1cは基本的に悪化していて、
「2型糖尿病は慢性の進行性のインスリン分泌障害で不治の病である」
という、恐るべき結論になっています。(=_=;)
まあこの結論は、糖質制限食で変えることができて、進行は止まると私は信じていますが・・・ (^_^)
私も2型糖尿病で、正常人に比べれば、インスリン分泌不足はあります。しかし、私のインスリン、それなりに働いてくれてますので、糖質制限食で生理的ケトン体上昇はありますが、血糖値はほぼ正常です。
病理的ケトン体上昇を伴う糖尿病性ケトアシドーシスは、1型のシック・デイとか2型のペットボトル症候群(**)とか、特殊な重症例でインスリン作用欠落(10→0~1)の時にしか生じません。血糖値は、通常は500mg/dl以上となります。
いきなり急速に発症した1型なら、病理的ケトン体上昇を伴う糖尿病性ケトアシドーシスになりえます。
しかし2型であれば医療機関に全く受診せず放置したとかよほどのことが無い限り、病理的ケトン体上昇を伴う糖尿病性ケトアシドーシスはまずありません。
糖質制限食を実践中の糖尿病患者さんで、血中ケトン体が今の基準値より高くても、血糖コントロールが比較的良好なら、生理的なもので何の問題もありません。
(*)
インスリン分泌不足とインスリン抵抗性(効きが悪い)が合わさってインスリン作用不足となり、糖尿病を発症します。
日本人の場合はインスリン分泌不足が主で、欧米白人はインスリン抵抗性が主とされています。
(**)
ペットボトル症候群
ペットボトルを持ち歩いたりして、清涼飲料水を1日2~3リットル毎日飲み続ける人がいます。
もともと糖尿病の素因を持っていたり、軽度の糖尿病の人が、このように吸収されやすい糖質を多量に摂取していると、飲む度に血糖値が上昇してインスリンが追加分泌されるのですが、ついにはインスリンの供給が追いつかなくなり血糖値が高くなります。
一旦血糖値が高くなると糖毒状態となります。それが続けば、糖尿病性ケトアシドーシスという危険な状態になり、ものの1~2週間で意識の混濁や昏睡に陥るケースもあります。
≪高血糖の持続→インスリン分泌低下とインスリン抵抗性増大→高血糖の持続→≫
この悪循環パターンを、臨床的には「糖毒」 と呼びます。
江部康二
2009年03月04日 (水)
おはようございます。
月、火のブログで「生理的ケトン体上昇」と「病理的ケトン体上昇」の説明をしてきました。その中で、骨格筋や心筋は、日常的には脂肪酸やケトン体が主エネルギー源であり、ブドウ糖は従であると記載しました。
これもまぎれもない生理学的事実で論争の余地などないのですが、念のために補足しておきます。
「ハーパー・生化学」(原著27版)の訳本、155ぺージ・図16-9の説明に、
「心臓のような肝外組織では代謝エネルギー源は次の順に好まれて酸化される。
(1)ケトン体.(2)脂肪酸.(3)グルコース」
との記載があります。
また157ページ左側27行には、
「遊離脂肪酸は肝臓、心臓、骨格筋において好まれて利用される代謝エネルギー源であり、グルコースの消費を節約することができる。」
とあり、
157ページ、左側38行には、
「ケトン体は、骨格筋と心筋の主要な代謝エネルギー源であり、脳のエネルギーの必要性を部分的に満たす。」
とあります。
さて、ケトン体と脳の話がでたところで、シリーズ最終回、ケトン食のお話しです。
<ケトン食と脳、糖質制限食>
ケトン食というと「何、それ?」といった反応が返ってきそうで、一般にはおよそ馴染みのない言葉ですよね。でもそのケトン食、小児科領域では、結構認知度は高いのです。
小児のてんかんで極めて難治性の場合があります。これは、通常のてんかんの薬を飲んでもひきつけの発作が治まらないというものなのですが、その治療として用いられているのがケトン食です。
この食事は、総摂取カロリーの75~80%が脂質という内容で、これによって難治性てんかんの発作が治まるようになるのです。これは、欧米で1920年代から続いている治療法で、有効性がはっきりと証明されています。
日本でも、小児科領域でケトン食療法は実施されています。2才~5才くらいの年齢で行われることが多いのですが、どうしても味が良くないので、物心ついてきたらなかなか続けることができないようです。2年間ぐらい継続が一つの目安になります。
なぜ、難治性てんかんにケトン食が有効なのか未解明のことも多いのですが、血中ケトン体そのものが発作を起きにくくするとされています。また、発作抑制だけでなく、ぼんやりとしていた患児が生き生きとしてきたり、多動な子供が落ちついてきたりなど精神行動面での改善が期待できるのもケトン食療法の利点です。
ケトン食療法は、「糖質制限食」以上の超高脂肪食で脂肪からケトン体への変換を起こし、そのケトン体が、ブドウ糖の代わりのエネルギー源として利用されることにその名前が由来しています。実際、脳を始めとして身体のほとんどのエネルギー源としてケトン体が利用されます。*
以前のブログでも説明しましたが、このように脳は、脂肪の分解産物であるケトン体をしっかり利用します。
「脳はエネルギー源としてブドウ糖しか利用できない」というのは、間違いであることを改めて強調したいと思います。
ケトン食の場合、脳のエネルギー源は、大部分がケトン体になりますが、糖質制限食の場合は、ブドウ糖もケトン体も両方利用していると思います。
ケトン食というのは究極の 糖質制限食ですので、私は以前から興味をもっていました。ケトン食の脂肪摂取率が75~80%ですが、スーパー糖質制限食で約56%です。
なお「ケトン食」及び「糖質制限食」では、血中ケトン体が高値となりますが、これはあくまでも生理的なケトン体上昇で何の問題もありません。インスリン作用が欠落した時に生じる病理的ケトン体上昇とは異なります。
余談ですが、メリル・ストリープ(アカデミー主演女優賞を2度獲得している大女優)が97年2月に「…first do no harm(何よりも害を成すなかれ)」(邦題「メリル・ストリープ誤診」〔ビデオ販売/(株)アクロス〕)という映画を製作しています。
実話に基づいた映画で、難治性のてんかんの子供が、薬物療法が無効で脳の手術をするしかないといわれたが、ケトン食療法で良くなったというストーリーです。 (^_^)
*
赤血球だけは、ミトコンドリアというエネルギー生産装置をもっていないので、人体で唯一、ブドウ糖しか利用できません。従って最低限の血糖値は、赤血球のために絶対に必要なのです。
なお、糖質制限食やケトン食を実践すれば高血糖は改善しますが、低血糖にはなりません。肝臓でアミノ酸やグリセロール(脂肪酸の代謝産物)から糖新生するからです。
江部康二
月、火のブログで「生理的ケトン体上昇」と「病理的ケトン体上昇」の説明をしてきました。その中で、骨格筋や心筋は、日常的には脂肪酸やケトン体が主エネルギー源であり、ブドウ糖は従であると記載しました。
これもまぎれもない生理学的事実で論争の余地などないのですが、念のために補足しておきます。
「ハーパー・生化学」(原著27版)の訳本、155ぺージ・図16-9の説明に、
「心臓のような肝外組織では代謝エネルギー源は次の順に好まれて酸化される。
(1)ケトン体.(2)脂肪酸.(3)グルコース」
との記載があります。
また157ページ左側27行には、
「遊離脂肪酸は肝臓、心臓、骨格筋において好まれて利用される代謝エネルギー源であり、グルコースの消費を節約することができる。」
とあり、
157ページ、左側38行には、
「ケトン体は、骨格筋と心筋の主要な代謝エネルギー源であり、脳のエネルギーの必要性を部分的に満たす。」
とあります。
さて、ケトン体と脳の話がでたところで、シリーズ最終回、ケトン食のお話しです。
<ケトン食と脳、糖質制限食>
ケトン食というと「何、それ?」といった反応が返ってきそうで、一般にはおよそ馴染みのない言葉ですよね。でもそのケトン食、小児科領域では、結構認知度は高いのです。
小児のてんかんで極めて難治性の場合があります。これは、通常のてんかんの薬を飲んでもひきつけの発作が治まらないというものなのですが、その治療として用いられているのがケトン食です。
この食事は、総摂取カロリーの75~80%が脂質という内容で、これによって難治性てんかんの発作が治まるようになるのです。これは、欧米で1920年代から続いている治療法で、有効性がはっきりと証明されています。
日本でも、小児科領域でケトン食療法は実施されています。2才~5才くらいの年齢で行われることが多いのですが、どうしても味が良くないので、物心ついてきたらなかなか続けることができないようです。2年間ぐらい継続が一つの目安になります。
なぜ、難治性てんかんにケトン食が有効なのか未解明のことも多いのですが、血中ケトン体そのものが発作を起きにくくするとされています。また、発作抑制だけでなく、ぼんやりとしていた患児が生き生きとしてきたり、多動な子供が落ちついてきたりなど精神行動面での改善が期待できるのもケトン食療法の利点です。
ケトン食療法は、「糖質制限食」以上の超高脂肪食で脂肪からケトン体への変換を起こし、そのケトン体が、ブドウ糖の代わりのエネルギー源として利用されることにその名前が由来しています。実際、脳を始めとして身体のほとんどのエネルギー源としてケトン体が利用されます。*
以前のブログでも説明しましたが、このように脳は、脂肪の分解産物であるケトン体をしっかり利用します。
「脳はエネルギー源としてブドウ糖しか利用できない」というのは、間違いであることを改めて強調したいと思います。
ケトン食の場合、脳のエネルギー源は、大部分がケトン体になりますが、糖質制限食の場合は、ブドウ糖もケトン体も両方利用していると思います。
ケトン食というのは究極の 糖質制限食ですので、私は以前から興味をもっていました。ケトン食の脂肪摂取率が75~80%ですが、スーパー糖質制限食で約56%です。
なお「ケトン食」及び「糖質制限食」では、血中ケトン体が高値となりますが、これはあくまでも生理的なケトン体上昇で何の問題もありません。インスリン作用が欠落した時に生じる病理的ケトン体上昇とは異なります。
余談ですが、メリル・ストリープ(アカデミー主演女優賞を2度獲得している大女優)が97年2月に「…first do no harm(何よりも害を成すなかれ)」(邦題「メリル・ストリープ誤診」〔ビデオ販売/(株)アクロス〕)という映画を製作しています。
実話に基づいた映画で、難治性のてんかんの子供が、薬物療法が無効で脳の手術をするしかないといわれたが、ケトン食療法で良くなったというストーリーです。 (^_^)
*
赤血球だけは、ミトコンドリアというエネルギー生産装置をもっていないので、人体で唯一、ブドウ糖しか利用できません。従って最低限の血糖値は、赤血球のために絶対に必要なのです。
なお、糖質制限食やケトン食を実践すれば高血糖は改善しますが、低血糖にはなりません。肝臓でアミノ酸やグリセロール(脂肪酸の代謝産物)から糖新生するからです。
江部康二
2009年03月03日 (火)
おはようございます。
前回、「生理的ケトン体上昇」の説明をしました。医師に糖質制限食理論を話すとき、必ずといっていいほど質問されるのがケトン体のことです。糖尿病重症時の「病理的ケトン体上昇」の危険性をよくご存知だからでしょうね。
最も簡潔に言うと、ケトン体が今の基準値(26~122μM/l)より上昇しているとき、
インスリン作用があるなら「生理的ケトン体上昇」
インスリン作用が欠落していれば「病理的ケトン体上昇」
です。
<糖尿病と病理的ケトン体上昇>
糖尿病はインスリンの作用不足があり、細胞内にうまくブドウ糖が取り込めなくなる病気で、そのため慢性の高血糖状態が生じます。
高血糖にもいろんなレベルがありますが、非常に重症の糖尿病を考えてみましょう。
血糖値が500mg/dl以上もあり、尿中ケトン体が強陽性で、口渇・多飲・多尿・腹痛・悪心・嘔吐・脱水・意識レベル低下などの症状があれば、糖尿病性ケトアシドーシスと診断できます。もちろん血中ケトン体も高値であり、生理的食塩水の点滴・速効型インスリンの静注など緊急的治療が必要となります。
ただし、血糖値が300mg/dl程度でも、糖尿病性ケトアシドーシスを生じることもありえるので注意は必要です。
糖尿病性ケトアシドーシスは、インスリン作用の欠乏による全身の高度の代謝失調状態です。「インスリン作用の極度の低下、インスリン拮抗ホルモンであるグルカゴン・カテコールアミン・成長ホルモンの過剰」により、糖利用の低下・脂肪分解の亢進がおこり、高血糖と高遊離脂肪酸血症を生じます。
遊離脂肪酸は、インスリン欠乏下の肝では、急速な酸化をうけケトン体に分解されます。血中のケトン体が過剰に蓄積して血液の緩衝作用を上回ってくると、アシドーシスや脱水となり、重症では昏睡にいたります。
即ち「病理的ケトン体産生の亢進」は、インスリン作用の欠乏が前提にある病態であり、1型糖尿病患者さんのシックデイなどの時にに起こることがほとんどです。
2型糖尿病では、清涼飲料水多飲による、所謂「ペットボトル症候群」でケトアシドーシスを生じることがあります。
断食や 糖質制限食実践に伴う「生理的ケトン体産生の亢進」の場合は、インスリン作用の欠乏はありませんし、血液の緩衝作用も有効に作用しています。
例えば断食の初期は一過性にアシドーシスになりますが、緩衝作用で徐々に補正されていきます。また、健常人が激しい運動をした場合にも、一過性に血中ケトン体は増加しますが、勿論生理的現象です。
結論
インスリンの作用が欠乏していて高血糖を伴う、血中・尿中ケトン体の上昇は極めて危険な病態で、緊急治療が必要です。
一方、インスリンの作用が確保されていて、高血糖を伴わない血中・尿中ケトン体の上昇は、生理的範囲内の現象であり、人類400万年の歴史のなかで日常的に経験されてきたことなのです。
江部康二
前回、「生理的ケトン体上昇」の説明をしました。医師に糖質制限食理論を話すとき、必ずといっていいほど質問されるのがケトン体のことです。糖尿病重症時の「病理的ケトン体上昇」の危険性をよくご存知だからでしょうね。
最も簡潔に言うと、ケトン体が今の基準値(26~122μM/l)より上昇しているとき、
インスリン作用があるなら「生理的ケトン体上昇」
インスリン作用が欠落していれば「病理的ケトン体上昇」
です。
<糖尿病と病理的ケトン体上昇>
糖尿病はインスリンの作用不足があり、細胞内にうまくブドウ糖が取り込めなくなる病気で、そのため慢性の高血糖状態が生じます。
高血糖にもいろんなレベルがありますが、非常に重症の糖尿病を考えてみましょう。
血糖値が500mg/dl以上もあり、尿中ケトン体が強陽性で、口渇・多飲・多尿・腹痛・悪心・嘔吐・脱水・意識レベル低下などの症状があれば、糖尿病性ケトアシドーシスと診断できます。もちろん血中ケトン体も高値であり、生理的食塩水の点滴・速効型インスリンの静注など緊急的治療が必要となります。
ただし、血糖値が300mg/dl程度でも、糖尿病性ケトアシドーシスを生じることもありえるので注意は必要です。
糖尿病性ケトアシドーシスは、インスリン作用の欠乏による全身の高度の代謝失調状態です。「インスリン作用の極度の低下、インスリン拮抗ホルモンであるグルカゴン・カテコールアミン・成長ホルモンの過剰」により、糖利用の低下・脂肪分解の亢進がおこり、高血糖と高遊離脂肪酸血症を生じます。
遊離脂肪酸は、インスリン欠乏下の肝では、急速な酸化をうけケトン体に分解されます。血中のケトン体が過剰に蓄積して血液の緩衝作用を上回ってくると、アシドーシスや脱水となり、重症では昏睡にいたります。
即ち「病理的ケトン体産生の亢進」は、インスリン作用の欠乏が前提にある病態であり、1型糖尿病患者さんのシックデイなどの時にに起こることがほとんどです。
2型糖尿病では、清涼飲料水多飲による、所謂「ペットボトル症候群」でケトアシドーシスを生じることがあります。
断食や 糖質制限食実践に伴う「生理的ケトン体産生の亢進」の場合は、インスリン作用の欠乏はありませんし、血液の緩衝作用も有効に作用しています。
例えば断食の初期は一過性にアシドーシスになりますが、緩衝作用で徐々に補正されていきます。また、健常人が激しい運動をした場合にも、一過性に血中ケトン体は増加しますが、勿論生理的現象です。
結論
インスリンの作用が欠乏していて高血糖を伴う、血中・尿中ケトン体の上昇は極めて危険な病態で、緊急治療が必要です。
一方、インスリンの作用が確保されていて、高血糖を伴わない血中・尿中ケトン体の上昇は、生理的範囲内の現象であり、人類400万年の歴史のなかで日常的に経験されてきたことなのです。
江部康二
2009年03月02日 (月)
<糖質制限食と生理的ケトン体>
糖質制限食を実践すると、血中ケトン体が上昇してきます。これは生理的なもので何の問題もありませんが、かなり誤解を受けていて、体に悪いと勘違いしている人が多いようです。
多くの医師、栄養士が生理的ケトン体上昇と病理的ケトン体上昇を混同しておられますので、一部再掲になりますが、きっちり説明しようと思います。
まずは、一言
「農耕の始まる前は399万年間、人類、皆、糖質制限食で生理的ケトン体上昇は日常」
だったことをお忘れなく。(*^o^)
まず、ケトン体について知っておいて頂きたいのは「正常で生理的な状態で産生が高まるケトン体」があるということです。
これは「糖尿病が大悪化した病理的な状態で産生が高まるケトン体」とは体内の状況が全く異なり、生体への危険性は全くありません。
「生理的な状態のケトン体」と「病理的状態のケトン体」をしっかり区別する必要があります。
アセトン、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸のことをまとめてケトン体といいます。ケトン体は脂肪の分解により肝臓で作られ、血液中に出されます。
ケトン体は心筋、骨格筋、腎臓などさまざまな臓器で日常的にエネルギー源として利用されており、脂肪の合成にも再利用されます。
実際、基礎代謝の大部分を占める骨格筋や心筋は、安静時にはエネルギー源の大部分が脂肪酸-ケトン体です。つまり、私達は、ごく日常的に「脂肪酸-ケトン体」エネルギーシステムを利用して生きているのです。
それで「正常で生理的な状態で産生が高まるケトン体」は、断食した時や 糖質制限食を実践して、「脂肪酸-ケトン体」エネルギーシステムが活発化したときに起こる現象です。この時は血糖値は基本的に正常です。
断食というと特殊に思えますが、人類の400万年の長い歴史の中では食料不足の方が普通ですので、「脂肪-ケトン体」エネルギーシステムは、ごく日常的に活発化したり普通に戻ったりしながら稼働してきたと考えられます。
ケトン体の基準値は26~122μM/lですが、これはあくまでも、現代人が日常的に三食以上糖質を摂取している条件下の基準値です。
断食中や 糖質制限食の初期の段階だと、ケトン体は2000~4000μM/lていど上昇するのが普通です。
江部康二のように4~5年間、スーパー糖質制限食を続けている場合、ケトン体は、300~1400μM/lていどで、これは糖質制限食を実践している場合の正常値と考えられます。(日常的に糖質を摂取している場合は基準値は「26~122μM/l」です。)
要するに「脂肪酸-ケトン体」システムが活発化すれば、単純に血中のケトン体値は高値となりますが、インスリン作用が確保されていて、血糖値が正常なら全く何の問題もありませんし、これは生理的な現象なのです。
また糖質制限食の初期段階では、尿中や呼気中にケトン体が排泄されて、それが体重減少におおいに貢献します。
一方、3ヶ月~半年くらい糖質制限食を継続していると、筋肉などの体細胞が、極めて効率よくケトン体を利用するようになります。
そして、この課程の中で、腎臓や肺ののケトン体再吸収も効率良く高まると思われ、 尿中・呼気中に排泄されなくなります。
例えば最近の江部康二の血中ケトン体は1400μM/lでしたが、尿中ケトン体はマイナスでした。
続く
江部康二
糖質制限食を実践すると、血中ケトン体が上昇してきます。これは生理的なもので何の問題もありませんが、かなり誤解を受けていて、体に悪いと勘違いしている人が多いようです。
多くの医師、栄養士が生理的ケトン体上昇と病理的ケトン体上昇を混同しておられますので、一部再掲になりますが、きっちり説明しようと思います。
まずは、一言
「農耕の始まる前は399万年間、人類、皆、糖質制限食で生理的ケトン体上昇は日常」
だったことをお忘れなく。(*^o^)
まず、ケトン体について知っておいて頂きたいのは「正常で生理的な状態で産生が高まるケトン体」があるということです。
これは「糖尿病が大悪化した病理的な状態で産生が高まるケトン体」とは体内の状況が全く異なり、生体への危険性は全くありません。
「生理的な状態のケトン体」と「病理的状態のケトン体」をしっかり区別する必要があります。
アセトン、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸のことをまとめてケトン体といいます。ケトン体は脂肪の分解により肝臓で作られ、血液中に出されます。
ケトン体は心筋、骨格筋、腎臓などさまざまな臓器で日常的にエネルギー源として利用されており、脂肪の合成にも再利用されます。
実際、基礎代謝の大部分を占める骨格筋や心筋は、安静時にはエネルギー源の大部分が脂肪酸-ケトン体です。つまり、私達は、ごく日常的に「脂肪酸-ケトン体」エネルギーシステムを利用して生きているのです。
それで「正常で生理的な状態で産生が高まるケトン体」は、断食した時や 糖質制限食を実践して、「脂肪酸-ケトン体」エネルギーシステムが活発化したときに起こる現象です。この時は血糖値は基本的に正常です。
断食というと特殊に思えますが、人類の400万年の長い歴史の中では食料不足の方が普通ですので、「脂肪-ケトン体」エネルギーシステムは、ごく日常的に活発化したり普通に戻ったりしながら稼働してきたと考えられます。
ケトン体の基準値は26~122μM/lですが、これはあくまでも、現代人が日常的に三食以上糖質を摂取している条件下の基準値です。
断食中や 糖質制限食の初期の段階だと、ケトン体は2000~4000μM/lていど上昇するのが普通です。
江部康二のように4~5年間、スーパー糖質制限食を続けている場合、ケトン体は、300~1400μM/lていどで、これは糖質制限食を実践している場合の正常値と考えられます。(日常的に糖質を摂取している場合は基準値は「26~122μM/l」です。)
要するに「脂肪酸-ケトン体」システムが活発化すれば、単純に血中のケトン体値は高値となりますが、インスリン作用が確保されていて、血糖値が正常なら全く何の問題もありませんし、これは生理的な現象なのです。
また糖質制限食の初期段階では、尿中や呼気中にケトン体が排泄されて、それが体重減少におおいに貢献します。
一方、3ヶ月~半年くらい糖質制限食を継続していると、筋肉などの体細胞が、極めて効率よくケトン体を利用するようになります。
そして、この課程の中で、腎臓や肺ののケトン体再吸収も効率良く高まると思われ、 尿中・呼気中に排泄されなくなります。
例えば最近の江部康二の血中ケトン体は1400μM/lでしたが、尿中ケトン体はマイナスでした。
続く
江部康二
2009年03月01日 (日)
〔糖質制限食とは〕
食べ物が消化・吸収されたあと、糖質は100%、タンパク質は50%、脂質は10%弱が血糖に変わります。 また糖質は、摂取直後から急峻に血糖値を高く速く上昇させ、2時間以内にほとんどすべてが吸収されます。一方タンパク質の血糖値上昇のピークは食後約3時間で、脂質は消化・吸収に丸一日かかることもあります。
これらは、カロリーとは無関係な三大栄養素の生理学的特質です。
このように糖質、脂質、タンパク質のうち糖質だけが血糖値を急峻に上昇させます。従って、糖質を摂取した時には、インスリンが大量に追加分泌されます。
しかし、脂質やタンパク質は血糖値をほとんど上昇させないので、インスリンの追加分泌は、ほとんどありません。
現在糖尿病において、食後の急激な高血糖が、大きな問題として注目されています。食後高血糖が、心筋梗塞や脳梗塞などの合併症を起こす危険因子として確立されたからです。そして食後高血糖を起こすのは、三大栄養素のなかで糖質だけなのです。
1gの糖質が、体重64kgの2型糖尿病の人の血糖値を約3mg上昇させます。 従って、6枚切りの食パン2枚(約310キロカロリー)食べると、糖質 が約50g含まれているので、血糖値は150mgも上昇します。一方、ロースステーキを300g(約1200キロカロリー)食べても糖質含有量は1gもないので、食後高血糖はほとんど生じないのです。 また、1gの糖質が体重64kgの1型糖尿病の人の血糖値を5mg上昇させます。
糖質制限食の基本的な考え方は、上述のような生理学的事実をベースに、できるだけ糖質の摂取を低く抑えて、食後高血糖を防ぐというものです。簡単に言えば、主食を抜いておかずばかり食べるというイメージになります。抜く必要がある主食とは、米飯・めん類・パンなどの米・麦製品や芋類など糖質が主成分のものです。
3食主食抜きのスーパー糖質制限食(糖質12%、タンパク質32%、脂質56%)なら、薬に頼ることなく速やかにリアルタイムで良好な血糖コントロールが可能です。
一方、上述の食パンとステーキの例でも明らかなように、カロリー計算に基づいて血糖値をコントロールすることは理論的に不可能です。
従って現行の日本糖尿病学会推薦の糖尿病食(糖質60%、タンパク質20%、脂質20%)を実践する限りは、一日の摂取カロリーを1200キロカロリーと低く抑えたとしても、食後高血糖が必ず生じるのです。
糖尿病の改善には、カロリー制限より糖質制限ということがおわかりいただけたと思います。なお糖質制限食は、カロリー無制限ということではありません。一般的な標準摂取カロリーの範囲、すなわち男性なら1600~2000キロカロリー、女性なら1200~1600キロカロリーくらいが目安です。
☆☆☆
『糖質制限食十箇条』 -糖尿病や肥満が気になる人に-
一、魚貝・肉・豆腐・納豆・チーズなどタンパク質や脂質が主成分の食品はしっかり食べてよい。
二、糖質特に白パン・白米・麺類及び菓子・白砂糖など精製糖質の摂取は極力控える。
三、主食を摂るときは未精製の穀物が好ましい(玄米、全粒粉のパンなど)
四、飲料は牛乳・果汁は飲まず、成分未調整豆乳はOK。水、番茶、麦茶、ほうじ茶もOK。
五、糖質含有量の少ない野菜・海草・茸類は適量OK。果物は少量にとどめる。
六、オリーブオイルや魚油(EPA、DHA)は積極的に摂り、リノール酸を減らす。
七、マヨネーズ(砂糖無しのもの)やバターもOK。
八、お酒は蒸留酒(焼酎、ウィスキーなど)はOK、醸造酒(ビール、日本酒、など)は控える。
九、間食やおつまみはチーズ類やナッツ類を中心に適量摂る。菓子類、ドライフルーツは不可。
十、できる限り化学合成添加物の入っていない安全な食品を選ぶ。
『糖質制限食』の3パターン
一、スーパー糖質制限食は三食とも主食なし。効果は抜群で早く、一番のお薦め。
二、スタンダード糖質制限食は朝と夕は主食抜き。
三、プチ糖質制限食は夕だけ主食抜き。嗜好的にどうしてもデンプンが大好きな人に。
*抜く必要がある主食とは米飯・めん類・パンなどの米・麦製品や芋類などの炭水化物。*炭水化物=糖質+食物繊維
☆☆☆
糖質制限食を実践する時のご注意
本にも書きましたが、 糖質制限食によりリアルタイムに血糖値が改善します。このため既に、経口血糖降下剤(オイグルコン、アマリールなど)の内服やインスリン注射をしておられる糖尿人は、低血糖の心配がありますので、必ず主治医と相談して頂きたいと思います。
一方、薬を使用してない糖尿人は、低血糖の心配はないので、「主食を抜けば糖尿病は良くなる」「主食を抜けば糖尿病は良くなる 実践編」「糖尿病が良くなるごちそうレシピ」「 糖質制限食 春のレシピ」「 糖質制限食 夏のレシピ」「糖質制限食 秋のレシピ」「糖質制限食 冬のレシピ」を参考にして、自力で 糖質制限食を実践して糖尿病改善を目指していただけば幸いです。
【コメント・質問に関するお知らせ・お願い】
ブログ読者の皆さんには、いつもコメントいただき、ありがとうございます。
読者の皆さんからご意見いただきましたが、確かに普通のお医者さんに相談可能な個人的な内容の質問は、主治医にご相談頂けば助かります。m(_ _)m
普通のお医者さんでは解答不能の、糖質制限食に関わる質問は、何でもどんどんしていただけば嬉しいです。 (^_^)
掲載OKの質問に関して、読者の皆さんに共有していただきたい情報の場合は、ブログ本文にて、できるだけ順番にお答えしたいと思います。質問によってはコメント欄でお早めにお答えする場合もありますのでご了承ください。
一方、コメント・質問がかなり増えてきていますので、なかなか即お答えすることが困難となってきています。できるだけ全ての質問に本文かコメントでお答えするよう努力はしていますが、できないときはご容赦願います。m(_ _)m
それから、「管理人のみ閲覧できる」「匿名希望」などの質問に関しては、コメント欄にお答えするか、一般的な話題に置き換えてブログに記載するようにしていますので、よろしくお願い申し上げます。
【講演会のお知らせ】
☆☆講座「糖尿病・メタボは必ず良くなる!~糖質制限食のすすめ」
朝日カルチャーセンター京都 http://www.asahi-culture.co.jp/www/kyoto-c.html
TEL 075-231-9693
2009年3月31日(火)10:30~12:00
☆☆講座「糖尿病・メタボは必ず良くなる!~糖質制限食のすすめ」
朝日カルチャーセンター芦屋http://www.asahi-culture.co.jp/www/ashiya-i.html
TEL 0797-38-2666
2009年4月30日(木)13:00~14:30
【糖質制限食コントロール・教育入院のご案内・保険適応】
お問い合わせは高雄病院 http://takao-hospital.jp/
住所:京都市右京区梅ヶ畑畑町3
電話:075-871-0245
ベットが空くまでお待ち頂くこともありますがご了承下さい。
【糖質制限食外来治療のご案内・予約制・保険適応】
高雄病院 電話:075-871-0245
京都市右京区梅ヶ畑畑町3
高雄病院京都駅前診療所 電話:075-352-5050
京都市下京区七条通り烏丸東入ル(50M)北側 ネオフィス 七条烏丸4F
江部診療所 電話:075-712-8133
京都市左京区下鴨高木町6 アトリエ・フォー 2F
江部康二
食べ物が消化・吸収されたあと、糖質は100%、タンパク質は50%、脂質は10%弱が血糖に変わります。 また糖質は、摂取直後から急峻に血糖値を高く速く上昇させ、2時間以内にほとんどすべてが吸収されます。一方タンパク質の血糖値上昇のピークは食後約3時間で、脂質は消化・吸収に丸一日かかることもあります。
これらは、カロリーとは無関係な三大栄養素の生理学的特質です。
このように糖質、脂質、タンパク質のうち糖質だけが血糖値を急峻に上昇させます。従って、糖質を摂取した時には、インスリンが大量に追加分泌されます。
しかし、脂質やタンパク質は血糖値をほとんど上昇させないので、インスリンの追加分泌は、ほとんどありません。
現在糖尿病において、食後の急激な高血糖が、大きな問題として注目されています。食後高血糖が、心筋梗塞や脳梗塞などの合併症を起こす危険因子として確立されたからです。そして食後高血糖を起こすのは、三大栄養素のなかで糖質だけなのです。
1gの糖質が、体重64kgの2型糖尿病の人の血糖値を約3mg上昇させます。 従って、6枚切りの食パン2枚(約310キロカロリー)食べると、糖質 が約50g含まれているので、血糖値は150mgも上昇します。一方、ロースステーキを300g(約1200キロカロリー)食べても糖質含有量は1gもないので、食後高血糖はほとんど生じないのです。 また、1gの糖質が体重64kgの1型糖尿病の人の血糖値を5mg上昇させます。
糖質制限食の基本的な考え方は、上述のような生理学的事実をベースに、できるだけ糖質の摂取を低く抑えて、食後高血糖を防ぐというものです。簡単に言えば、主食を抜いておかずばかり食べるというイメージになります。抜く必要がある主食とは、米飯・めん類・パンなどの米・麦製品や芋類など糖質が主成分のものです。
3食主食抜きのスーパー糖質制限食(糖質12%、タンパク質32%、脂質56%)なら、薬に頼ることなく速やかにリアルタイムで良好な血糖コントロールが可能です。
一方、上述の食パンとステーキの例でも明らかなように、カロリー計算に基づいて血糖値をコントロールすることは理論的に不可能です。
従って現行の日本糖尿病学会推薦の糖尿病食(糖質60%、タンパク質20%、脂質20%)を実践する限りは、一日の摂取カロリーを1200キロカロリーと低く抑えたとしても、食後高血糖が必ず生じるのです。
糖尿病の改善には、カロリー制限より糖質制限ということがおわかりいただけたと思います。なお糖質制限食は、カロリー無制限ということではありません。一般的な標準摂取カロリーの範囲、すなわち男性なら1600~2000キロカロリー、女性なら1200~1600キロカロリーくらいが目安です。
☆☆☆
『糖質制限食十箇条』 -糖尿病や肥満が気になる人に-
一、魚貝・肉・豆腐・納豆・チーズなどタンパク質や脂質が主成分の食品はしっかり食べてよい。
二、糖質特に白パン・白米・麺類及び菓子・白砂糖など精製糖質の摂取は極力控える。
三、主食を摂るときは未精製の穀物が好ましい(玄米、全粒粉のパンなど)
四、飲料は牛乳・果汁は飲まず、成分未調整豆乳はOK。水、番茶、麦茶、ほうじ茶もOK。
五、糖質含有量の少ない野菜・海草・茸類は適量OK。果物は少量にとどめる。
六、オリーブオイルや魚油(EPA、DHA)は積極的に摂り、リノール酸を減らす。
七、マヨネーズ(砂糖無しのもの)やバターもOK。
八、お酒は蒸留酒(焼酎、ウィスキーなど)はOK、醸造酒(ビール、日本酒、など)は控える。
九、間食やおつまみはチーズ類やナッツ類を中心に適量摂る。菓子類、ドライフルーツは不可。
十、できる限り化学合成添加物の入っていない安全な食品を選ぶ。
『糖質制限食』の3パターン
一、スーパー糖質制限食は三食とも主食なし。効果は抜群で早く、一番のお薦め。
二、スタンダード糖質制限食は朝と夕は主食抜き。
三、プチ糖質制限食は夕だけ主食抜き。嗜好的にどうしてもデンプンが大好きな人に。
*抜く必要がある主食とは米飯・めん類・パンなどの米・麦製品や芋類などの炭水化物。*炭水化物=糖質+食物繊維
☆☆☆
糖質制限食を実践する時のご注意
本にも書きましたが、 糖質制限食によりリアルタイムに血糖値が改善します。このため既に、経口血糖降下剤(オイグルコン、アマリールなど)の内服やインスリン注射をしておられる糖尿人は、低血糖の心配がありますので、必ず主治医と相談して頂きたいと思います。
一方、薬を使用してない糖尿人は、低血糖の心配はないので、「主食を抜けば糖尿病は良くなる」「主食を抜けば糖尿病は良くなる 実践編」「糖尿病が良くなるごちそうレシピ」「 糖質制限食 春のレシピ」「 糖質制限食 夏のレシピ」「糖質制限食 秋のレシピ」「糖質制限食 冬のレシピ」を参考にして、自力で 糖質制限食を実践して糖尿病改善を目指していただけば幸いです。
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読者の皆さんからご意見いただきましたが、確かに普通のお医者さんに相談可能な個人的な内容の質問は、主治医にご相談頂けば助かります。m(_ _)m
普通のお医者さんでは解答不能の、糖質制限食に関わる質問は、何でもどんどんしていただけば嬉しいです。 (^_^)
掲載OKの質問に関して、読者の皆さんに共有していただきたい情報の場合は、ブログ本文にて、できるだけ順番にお答えしたいと思います。質問によってはコメント欄でお早めにお答えする場合もありますのでご了承ください。
一方、コメント・質問がかなり増えてきていますので、なかなか即お答えすることが困難となってきています。できるだけ全ての質問に本文かコメントでお答えするよう努力はしていますが、できないときはご容赦願います。m(_ _)m
それから、「管理人のみ閲覧できる」「匿名希望」などの質問に関しては、コメント欄にお答えするか、一般的な話題に置き換えてブログに記載するようにしていますので、よろしくお願い申し上げます。
【講演会のお知らせ】
☆☆講座「糖尿病・メタボは必ず良くなる!~糖質制限食のすすめ」
朝日カルチャーセンター京都 http://www.asahi-culture.co.jp/www/kyoto-c.html
TEL 075-231-9693
2009年3月31日(火)10:30~12:00
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朝日カルチャーセンター芦屋http://www.asahi-culture.co.jp/www/ashiya-i.html
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2009年4月30日(木)13:00~14:30
【糖質制限食コントロール・教育入院のご案内・保険適応】
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住所:京都市右京区梅ヶ畑畑町3
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江部康二