2016年11月07日 (月)
こんばんは。
今日の記事は糖質制限食とAGEs についての考察です。
近年、 AGEs*の血管壁への蓄積が糖尿病合併症の元凶ではないかと言われています。
AGEsには体内で産生されるものと食事由来のものがあります。
糖質制限食では、肉や魚や卵など動物性たんぱく質を焼いて食べることがよくありますので食事由来のAGEsが有害か無害か気になるところです。
この間、同級生や知人の糖尿病専門医に複数尋ねて、AGEsに対する見解をご教示いただき、現時点での結論らしきものに辿り着きました。
A)体内産生される AGEsは有害
1. 体内で高血糖により産生されたAGEsが、細小血管合併症に関わることは、以前から指摘されていました。
細小血管合併症とは、糖尿病網膜症や糖尿病腎症です。
2. さらに近年「高血糖の記憶**」という概念で、米国の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告、
UKPDSの20年後の解析で、大血管合併症にもAGEsが関わっているという説が有力となっています。
大血管合併症とは、心筋梗塞や脳梗塞などです。
高血糖の記憶・借金を残さないためには、糖尿病発症の初期の段階から血糖コントロールを保つことが大切です。
当然、早ければ早いほどいいわけです。
糖尿人の皆さん、カロリー制限食(高糖質食)では必ず、食後高血糖が生じ将来に借金を残します。
是非、糖質制限食で速やかな血糖コントロールを目指して下さいね。
B) 食品由来のAGEsについては、有害か否か不明
食品に含有されるAGEsが人体に有害か否かは、現在論争中です。
米国の文献では、食品中のAGEsも人体に有害という論文もあります。
しかし、日本の糖尿病専門医の多くが、食品に含有されるAGEsは、人体に有害という立場はとっていません。
その間接的証拠といいますか、日本では血中や尿中AGE濃度の検査は、全くといっていいほど実施されていません。
また、歴史的にみると人類が火を使うようになり、食事からの「AGEs」摂取は劇的に増加しました。
しかし、火を使い始めて人類の寿命が縮んだという話は聞いたことがありません。人類が自ら火をおこして日常的に使い始めたのがいつからかは、明確にはわかっていませんが、10万年~20万年前とされているようです。
C) AGEs値の検査
様々な AGEsがあるので、一つの検査法でAGEsの総量を測定することは困難です。
一方、近年各種AGEsの化学構造が解明されたことや抗体作成技術の進歩によって、CML、ピラリン、ペントシジン、クロスリンなど、個別AGEの血液検査での測定法が確立されました。
2006年にはELISA法による血中ペントシジン測定が腎機能検査項目において保険収載(実施料130点)され、臨床検査として測定されるようになりました。
しかし、まだ一般的でなく、研究機関によって測定方法も異なっているなど課題が多い段階です。
現段階で臨床的にどのていどの意義があるのか評価は未定です。
現在、日本最大の検査会社であるSRLにおいても、AGEs値の検査はほとんど行われていません。
AGE測定器(腕に光をあてて測定)も、ありますが、血液検査と同様に、臨床的評価は未定です。
D)私の結論
1)体内の血糖により産生された「AGEs」は、動脈硬化や老化や糖尿病合併症などのリスクとなる。
すなわち、糖質摂取による食後高血糖が大きなリスクとなる。
2)食事由来の「AGEs」は、動脈硬化や老化や糖尿病合併症などのリスクにはならない可能性が高い。
諸説ありますが、私は、現時点でこのように考えています。
*AGE
タンパク質と糖が結びついた物質で、Advanced Glycation End-productの頭文字をとってAGEと呼ばれます。
日本語では終末糖化産物と訳されています。
過剰な血糖は、糖化反応により血管壁のコラーゲンなど様々なタンパク質に付着します。
付着した糖は一部変性してアマドリ化合物(変性ブドウ糖)となります。
このアマドリ化合物からさらに糖化反応が進行するとAGE(終末糖化産物)ができます。
AGEは、糖尿病合併症を引き起こす、重大な原因の1つです。
AGEには多種の物質があります。
それらを総称してAGEsといわれます。
日常よく検査されるグリコヘモグロビンやグリコアルブミンは、糖化反応の前期生成物であるアマドリ転位生成物です。
**高血糖の記憶
糖尿病血管合併症のメカニズムを特徴的に説明する、高血糖の記憶(hyperglycemic memory)と呼ばれる概念があります。
「高血糖の記憶」とは、過去の高血糖レベルとその曝露期間が生体に記憶され、その後の血管合併症の進展を左右するという考え方です。
ヒトの糖尿病において、この「高血糖の記憶」の存在を示すエビデンス(証拠)として、米国の1型糖尿病患者の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告があります。
DCCTでは、1型糖尿病患者を従来の通常療法群と、より厳格に血糖管理を行う強化療法群に分け、平均6.5年間追跡しました。
その結果、通常療法群に比べ強化療法群で平均HbA1c値が1.9%低下し、強化療法群で血管合併症の進展リスクが大幅に減少しました。(☆)
同研究終了後に行われたEDIC-DCCTでは、通常療法群にも強化療法を実施し、両群をさらに平均11年間追跡しました。
つまり「継続的な強化療法群」と「通常療法→強化療法群」の2つのグループの比較が、DCCT終了後11年間行われたことになります。
その結果、開始から3~4年で両群の平均HbA1c値がほぼ同等となったにも関わらず、11年間の心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクは「継続的な強化療法群」の方がやはり低かった(相対リスク57%低下)ことが報告されたのです。(☆☆)
すなわち、糖尿人において一定期間血糖コントロールが不良であれば、高血糖の記憶が「借金」のように生体内に残り、その後良好なコントロールが得られても、血管合併症リスクの差は縮まらないことが示されたわけです。
この借金の正体が、組織沈着AGEsではないかと言われています。
まだ仮説ではありますが、組織に沈着したAGEsが血管を傷害し続け、動脈硬化の元凶となり「高血糖の記憶」を最もよく説明するとされています。
(☆)N Engl J Med 1993; 329: 977-986
(☆☆)N Engl J Med 2005; 353: 2643-2653
今日の記事は糖質制限食とAGEs についての考察です。
近年、 AGEs*の血管壁への蓄積が糖尿病合併症の元凶ではないかと言われています。
AGEsには体内で産生されるものと食事由来のものがあります。
糖質制限食では、肉や魚や卵など動物性たんぱく質を焼いて食べることがよくありますので食事由来のAGEsが有害か無害か気になるところです。
この間、同級生や知人の糖尿病専門医に複数尋ねて、AGEsに対する見解をご教示いただき、現時点での結論らしきものに辿り着きました。
A)体内産生される AGEsは有害
1. 体内で高血糖により産生されたAGEsが、細小血管合併症に関わることは、以前から指摘されていました。
細小血管合併症とは、糖尿病網膜症や糖尿病腎症です。
2. さらに近年「高血糖の記憶**」という概念で、米国の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告、
UKPDSの20年後の解析で、大血管合併症にもAGEsが関わっているという説が有力となっています。
大血管合併症とは、心筋梗塞や脳梗塞などです。
高血糖の記憶・借金を残さないためには、糖尿病発症の初期の段階から血糖コントロールを保つことが大切です。
当然、早ければ早いほどいいわけです。
糖尿人の皆さん、カロリー制限食(高糖質食)では必ず、食後高血糖が生じ将来に借金を残します。
是非、糖質制限食で速やかな血糖コントロールを目指して下さいね。
B) 食品由来のAGEsについては、有害か否か不明
食品に含有されるAGEsが人体に有害か否かは、現在論争中です。
米国の文献では、食品中のAGEsも人体に有害という論文もあります。
しかし、日本の糖尿病専門医の多くが、食品に含有されるAGEsは、人体に有害という立場はとっていません。
その間接的証拠といいますか、日本では血中や尿中AGE濃度の検査は、全くといっていいほど実施されていません。
また、歴史的にみると人類が火を使うようになり、食事からの「AGEs」摂取は劇的に増加しました。
しかし、火を使い始めて人類の寿命が縮んだという話は聞いたことがありません。人類が自ら火をおこして日常的に使い始めたのがいつからかは、明確にはわかっていませんが、10万年~20万年前とされているようです。
C) AGEs値の検査
様々な AGEsがあるので、一つの検査法でAGEsの総量を測定することは困難です。
一方、近年各種AGEsの化学構造が解明されたことや抗体作成技術の進歩によって、CML、ピラリン、ペントシジン、クロスリンなど、個別AGEの血液検査での測定法が確立されました。
2006年にはELISA法による血中ペントシジン測定が腎機能検査項目において保険収載(実施料130点)され、臨床検査として測定されるようになりました。
しかし、まだ一般的でなく、研究機関によって測定方法も異なっているなど課題が多い段階です。
現段階で臨床的にどのていどの意義があるのか評価は未定です。
現在、日本最大の検査会社であるSRLにおいても、AGEs値の検査はほとんど行われていません。
AGE測定器(腕に光をあてて測定)も、ありますが、血液検査と同様に、臨床的評価は未定です。
D)私の結論
1)体内の血糖により産生された「AGEs」は、動脈硬化や老化や糖尿病合併症などのリスクとなる。
すなわち、糖質摂取による食後高血糖が大きなリスクとなる。
2)食事由来の「AGEs」は、動脈硬化や老化や糖尿病合併症などのリスクにはならない可能性が高い。
諸説ありますが、私は、現時点でこのように考えています。
*AGE
タンパク質と糖が結びついた物質で、Advanced Glycation End-productの頭文字をとってAGEと呼ばれます。
日本語では終末糖化産物と訳されています。
過剰な血糖は、糖化反応により血管壁のコラーゲンなど様々なタンパク質に付着します。
付着した糖は一部変性してアマドリ化合物(変性ブドウ糖)となります。
このアマドリ化合物からさらに糖化反応が進行するとAGE(終末糖化産物)ができます。
AGEは、糖尿病合併症を引き起こす、重大な原因の1つです。
AGEには多種の物質があります。
それらを総称してAGEsといわれます。
日常よく検査されるグリコヘモグロビンやグリコアルブミンは、糖化反応の前期生成物であるアマドリ転位生成物です。
**高血糖の記憶
糖尿病血管合併症のメカニズムを特徴的に説明する、高血糖の記憶(hyperglycemic memory)と呼ばれる概念があります。
「高血糖の記憶」とは、過去の高血糖レベルとその曝露期間が生体に記憶され、その後の血管合併症の進展を左右するという考え方です。
ヒトの糖尿病において、この「高血糖の記憶」の存在を示すエビデンス(証拠)として、米国の1型糖尿病患者の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告があります。
DCCTでは、1型糖尿病患者を従来の通常療法群と、より厳格に血糖管理を行う強化療法群に分け、平均6.5年間追跡しました。
その結果、通常療法群に比べ強化療法群で平均HbA1c値が1.9%低下し、強化療法群で血管合併症の進展リスクが大幅に減少しました。(☆)
同研究終了後に行われたEDIC-DCCTでは、通常療法群にも強化療法を実施し、両群をさらに平均11年間追跡しました。
つまり「継続的な強化療法群」と「通常療法→強化療法群」の2つのグループの比較が、DCCT終了後11年間行われたことになります。
その結果、開始から3~4年で両群の平均HbA1c値がほぼ同等となったにも関わらず、11年間の心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクは「継続的な強化療法群」の方がやはり低かった(相対リスク57%低下)ことが報告されたのです。(☆☆)
すなわち、糖尿人において一定期間血糖コントロールが不良であれば、高血糖の記憶が「借金」のように生体内に残り、その後良好なコントロールが得られても、血管合併症リスクの差は縮まらないことが示されたわけです。
この借金の正体が、組織沈着AGEsではないかと言われています。
まだ仮説ではありますが、組織に沈着したAGEsが血管を傷害し続け、動脈硬化の元凶となり「高血糖の記憶」を最もよく説明するとされています。
(☆)N Engl J Med 1993; 329: 977-986
(☆☆)N Engl J Med 2005; 353: 2643-2653
2010年11月14日 (日)
おはようございます。
今回は、高血糖の記憶とAGEについて、トラッキーさんからコメント・質問をいただきました。
【高血糖の記憶とAGE
Botanica?のトラッキーです。京都のフルコース&ライブ+講演も楽しそう。
さて、先月の健康診断での結果は、空腹時血糖値98、HB1AC5.6で、先月とほぼ同じでした。体重も47kgと下げ止まったままです。50kgまでは戻したいのですが。。
また今回は75g糖負荷30分後血糖値も調べ178でした。昔に比べてよいものの、1時間値は200を超えていると思います。いわゆる隠れ糖尿でしょうか?
最近つくづく怖いのはグルコース・スパイクだと思うようになりました。これまで、炭水化物どれだけとっていたかと思うとぞっとします。すると今はともかく、一体それで過去どれくらい血管を痛めていたのだろう、今の血管にどう悪く残っているのだろうと気になってきました。
インターネットでこんな記述を見つけました。「高血糖の記憶」というのですが、
「高血糖の記憶」とは、過去の高血糖レベルとその曝露期間が生体に記憶され、その後の血管合併症の進展を左右するという考え方です。
すなわち、糖尿人において一定期間血糖コントロールが不良であれば、高血糖の記憶が「借金」のように生体内に残り、その後良好なコントロールが得られても、血管合併症リスクの差は縮まらないことが示されたわけです。
まだ仮説ではありますが、組織に沈着したAGEが血管を傷害し続け、動脈硬化の元凶となり「高血糖の記憶」を最もよく説明するとされています。
http://ameblo.jp/ma-ru-ma-ru/entry-10394719655.html
AGEについては
「終末糖化産物(AGEs)」、これは蛋白質と糖が反応して最終的に生成される物質で、AGEsの蓄積量を調べれば糖尿病合併症を早期発見でき、進行度が分かる。さらに、これの検査薬もできたとあります。
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2008/11/007621.php
これらについて先生のご意見をお聞きしたいです。正しければ、AGEを調べることはどこの病院でもやっていただけるのでしょうか?、またいったんAGEが蓄積したらもう改善されることはないのでしょうか?
お時間あるときでもご教授いただければ幸いです。】
トラッキーさん。
コメントありがとうございます。
http://ameblo.jp/ma-ru-ma-ru/entry-10394719655.html
はkokoroさんのブログで、私が以前書いたブログ記事を参考にしておられるようです。
さて、糖尿病血管合併症のメカニズムを特徴的に説明する、高血糖の記憶(hyperglycemic memory)と呼ばれる概念があります。
「高血糖の記憶」とは、過去の高血糖レベルとその曝露期間が生体に記憶され、その後の血管合併症の進展を左右するという考え方です。
ヒトの糖尿病において、この「高血糖の記憶」の存在を示すエビデンス(証拠)として、米国の1型糖尿病患者の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告があります。
DCCTでは、1型糖尿病患者を従来の通常療法群と、より厳格に血糖管理を行う強化療法群に分け、平均6.5年間追跡しました。
その結果、通常療法群に比べ強化療法群で平均HbA1c値が1.9%低下し、強化療法群で血管合併症の進展リスクが大幅に減少しました。(*)
同研究終了後に行われたEDIC-DCCTでは、通常療法群にも強化療法を実施し、両群をさらに平均11年間追跡しました。
つまり「継続的な強化療法群」と「通常療法→強化療法群」の2つのグループの比較が、DCCT終了後11年間行われたことになりますね。
その結果、開始から3~4年で両群の平均HbA1c値がほぼ同等となったにも関わらず、11年間の心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクは「継続的な強化療法群」の方がやはり低かった(相対リスク57%低下)ことが報告されたのです。(**)
すなわち、糖尿人において一定期間血糖コントロールが不良であれば、高血糖の記憶が「借金」のように生体内に残り、その後良好なコントロールが得られても、血管合併症リスクの差は縮まらないことが示されたわけです。
この借金の正体が、組織沈着AGEではないかと言われています。
まだ仮説ではありますが、組織に沈着したAGEが血管を傷害し続け、動脈硬化の元凶となり「高血糖の記憶」を最もよく説明するとされています。(***)
高血糖の記憶・借金を残さないためには、糖尿病発症の初期の段階から血糖コントロールを保つことが大切です。当然、早ければ早いほどいいわけです。
糖尿人の皆さん、カロリー制限食(高糖質食)では必ず、食後高血糖が生じ将来に借金を残します。
是非、糖質制限食で速やかな血糖コントロールを目指して下さいね。
(*)N Engl J Med 1993; 329: 977-986
(**)N Engl J Med 2005; 353: 2643-2653
(***)AGE
タンパク質と糖が結びついた物質で、Advanced Glycation End-productの頭文字をとってAGEと呼ばれます。日本語では終末糖化産物と訳されています。
過剰な血糖は、糖化反応により血管壁のコラーゲンなど様々なタンパク質に付着します。付着した糖は一部変性してアマドリ化合物(変性ブドウ糖)となります。このアマドリ化合物と糖が結合しAGEができます。
AGEは、糖尿病合併症を引き起こす、重大な原因の1つです。
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2008/11/007621.php
2008年11月19日の糖尿病ネットワークの記事ですね。
「終末糖化産物(AGEs)」を糖尿病合併症の早期診断に利用する技術が開発されたということです。
5年後に診断キットが保険適応されることを目指すとのことですのでまだ大分先の話ですね。
様々な AGEがあるので、一つの検査法でAGEsの総量を測定することは困難です。
一方、近年各種AGEsの化学構造が解明されたことや抗体作成技術の進歩によって、CML、ピラリン、ペントシジン、クロスリンなど、個別AGEの測定法が確立されました。
2006年1月にはELISA法による血中ペントシジン測定が腎機能検査項目において保険収載(実施料130点)され、臨床検査として測定されるようになりました。
しかし、まだ一般的でなく、研究機関によって測定方法も異なっているなど課題が多い段階です。現在、日本最大の検査会社であるSRLにおいても、AGE値の検査はほとんど行われていません。
このように現状では、一般臨床の現場では、「終末糖化産物(AGEs)」の検査は、ほとんど行われていません。
江部康二
今回は、高血糖の記憶とAGEについて、トラッキーさんからコメント・質問をいただきました。
【高血糖の記憶とAGE
Botanica?のトラッキーです。京都のフルコース&ライブ+講演も楽しそう。
さて、先月の健康診断での結果は、空腹時血糖値98、HB1AC5.6で、先月とほぼ同じでした。体重も47kgと下げ止まったままです。50kgまでは戻したいのですが。。
また今回は75g糖負荷30分後血糖値も調べ178でした。昔に比べてよいものの、1時間値は200を超えていると思います。いわゆる隠れ糖尿でしょうか?
最近つくづく怖いのはグルコース・スパイクだと思うようになりました。これまで、炭水化物どれだけとっていたかと思うとぞっとします。すると今はともかく、一体それで過去どれくらい血管を痛めていたのだろう、今の血管にどう悪く残っているのだろうと気になってきました。
インターネットでこんな記述を見つけました。「高血糖の記憶」というのですが、
「高血糖の記憶」とは、過去の高血糖レベルとその曝露期間が生体に記憶され、その後の血管合併症の進展を左右するという考え方です。
すなわち、糖尿人において一定期間血糖コントロールが不良であれば、高血糖の記憶が「借金」のように生体内に残り、その後良好なコントロールが得られても、血管合併症リスクの差は縮まらないことが示されたわけです。
まだ仮説ではありますが、組織に沈着したAGEが血管を傷害し続け、動脈硬化の元凶となり「高血糖の記憶」を最もよく説明するとされています。
http://ameblo.jp/ma-ru-ma-ru/entry-10394719655.html
AGEについては
「終末糖化産物(AGEs)」、これは蛋白質と糖が反応して最終的に生成される物質で、AGEsの蓄積量を調べれば糖尿病合併症を早期発見でき、進行度が分かる。さらに、これの検査薬もできたとあります。
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2008/11/007621.php
これらについて先生のご意見をお聞きしたいです。正しければ、AGEを調べることはどこの病院でもやっていただけるのでしょうか?、またいったんAGEが蓄積したらもう改善されることはないのでしょうか?
お時間あるときでもご教授いただければ幸いです。】
トラッキーさん。
コメントありがとうございます。
http://ameblo.jp/ma-ru-ma-ru/entry-10394719655.html
はkokoroさんのブログで、私が以前書いたブログ記事を参考にしておられるようです。
さて、糖尿病血管合併症のメカニズムを特徴的に説明する、高血糖の記憶(hyperglycemic memory)と呼ばれる概念があります。
「高血糖の記憶」とは、過去の高血糖レベルとその曝露期間が生体に記憶され、その後の血管合併症の進展を左右するという考え方です。
ヒトの糖尿病において、この「高血糖の記憶」の存在を示すエビデンス(証拠)として、米国の1型糖尿病患者の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告があります。
DCCTでは、1型糖尿病患者を従来の通常療法群と、より厳格に血糖管理を行う強化療法群に分け、平均6.5年間追跡しました。
その結果、通常療法群に比べ強化療法群で平均HbA1c値が1.9%低下し、強化療法群で血管合併症の進展リスクが大幅に減少しました。(*)
同研究終了後に行われたEDIC-DCCTでは、通常療法群にも強化療法を実施し、両群をさらに平均11年間追跡しました。
つまり「継続的な強化療法群」と「通常療法→強化療法群」の2つのグループの比較が、DCCT終了後11年間行われたことになりますね。
その結果、開始から3~4年で両群の平均HbA1c値がほぼ同等となったにも関わらず、11年間の心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクは「継続的な強化療法群」の方がやはり低かった(相対リスク57%低下)ことが報告されたのです。(**)
すなわち、糖尿人において一定期間血糖コントロールが不良であれば、高血糖の記憶が「借金」のように生体内に残り、その後良好なコントロールが得られても、血管合併症リスクの差は縮まらないことが示されたわけです。
この借金の正体が、組織沈着AGEではないかと言われています。
まだ仮説ではありますが、組織に沈着したAGEが血管を傷害し続け、動脈硬化の元凶となり「高血糖の記憶」を最もよく説明するとされています。(***)
高血糖の記憶・借金を残さないためには、糖尿病発症の初期の段階から血糖コントロールを保つことが大切です。当然、早ければ早いほどいいわけです。
糖尿人の皆さん、カロリー制限食(高糖質食)では必ず、食後高血糖が生じ将来に借金を残します。
是非、糖質制限食で速やかな血糖コントロールを目指して下さいね。
(*)N Engl J Med 1993; 329: 977-986
(**)N Engl J Med 2005; 353: 2643-2653
(***)AGE
タンパク質と糖が結びついた物質で、Advanced Glycation End-productの頭文字をとってAGEと呼ばれます。日本語では終末糖化産物と訳されています。
過剰な血糖は、糖化反応により血管壁のコラーゲンなど様々なタンパク質に付着します。付着した糖は一部変性してアマドリ化合物(変性ブドウ糖)となります。このアマドリ化合物と糖が結合しAGEができます。
AGEは、糖尿病合併症を引き起こす、重大な原因の1つです。
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2008/11/007621.php
2008年11月19日の糖尿病ネットワークの記事ですね。
「終末糖化産物(AGEs)」を糖尿病合併症の早期診断に利用する技術が開発されたということです。
5年後に診断キットが保険適応されることを目指すとのことですのでまだ大分先の話ですね。
様々な AGEがあるので、一つの検査法でAGEsの総量を測定することは困難です。
一方、近年各種AGEsの化学構造が解明されたことや抗体作成技術の進歩によって、CML、ピラリン、ペントシジン、クロスリンなど、個別AGEの測定法が確立されました。
2006年1月にはELISA法による血中ペントシジン測定が腎機能検査項目において保険収載(実施料130点)され、臨床検査として測定されるようになりました。
しかし、まだ一般的でなく、研究機関によって測定方法も異なっているなど課題が多い段階です。現在、日本最大の検査会社であるSRLにおいても、AGE値の検査はほとんど行われていません。
このように現状では、一般臨床の現場では、「終末糖化産物(AGEs)」の検査は、ほとんど行われていません。
江部康二
2010年02月19日 (金)
おはようございます。
今回の記事は昨日の続きで、内科大学院生さんの質問、糖質制限食とAGEについてです。
【こんにちは。内科大学院生です。
先日はたくさんの質問に対し、大変丁寧でわかりやすいご説明を頂き、誠にありがとうございました。
今日は2つ質問させて下さい。
②糖質制限食を実践すると、塩分過剰&血中のAGE増加には繋がらないでしょうか?
醤油や味噌、米酢、コーヒー、コーラや魚の焦げ、加工品のハムやベーコンには、AGEが多く含まれていますよね。先生が執筆&監修されている本は、すべて購入させて頂いているのですが、調味料に醤油を使っている料理も多いと思います。勿論、ビタミンEやカテキンの摂取量なども関係するのでしょうが、食品由来のAGE量を気にしなくても大丈夫なのでしょうか?
ちなみに私は、出来る限り 塩 で味付けをするようにしています。】
内科大学院性さん。
コメントそして全ての本のご購入、ありがとうございます。
「②糖質制限食を実践すると、塩分過剰&血中のAGE増加には繋がらないでしょうか?」
さて、ご質問のAGE*のことですが、まだ評価について、断定的な結論が出るほどの文献や研究が存在しない段階です。
この間、同級生や知人の糖尿病専門医に複数尋ねて、AGEに対する見解をご教示いただきました。それでやっと、現時点での結論らしきものに辿り着きました。
A)AGEについてある程度コンセンサスが得られていること
①体内で高血糖により産生されたAGEsが、細小血管合併症に関わることは、以前から指摘されていました。細小血管合併症とは、糖尿病網膜症や糖尿病腎症です。
②さらに近年「高血糖の記憶**」という概念で、
米国の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告、UKPDSの20年後の解析で、大血管合併症にもAGEが関わっているのではないかという説が浮上しています。大血管合併症とは、心筋梗塞や脳梗塞などです。
B)AGEについてまだコンセンサスが得られていないこと
食品に含有されるAGEが人体に有害か否かは、現在論争中です。
米国の文献では、食品中のAGEも人体に有害という論文もあります。
しかし、日本の糖尿病専門医のほとんどが、食品に含有されるAGEは、人体に有害という立場はとっていません。
その間接的証拠といいますか、日本では血中や尿中AGE濃度の検査は、全くといっていいほど実施されていません。
C)AGE値の検査
様々な AGEがあるので、一つの検査法でAGEsの総量を測定することは困難です。一方、近年各種AGEsの化学構造が解明されたことや抗体作成技術の進歩によって、CML、ピラリン、ペントシジン、クロスリンなど、個別AGEの測定法が確立されました。
2006年1月にはELISA法による血中ペントシジン測定が腎機能検査項目において保険収載(実施料130点)され、臨床検査として測定されるようになりました。
しかし、まだ一般的でなく、研究機関によって測定方法も異なっているなど課題が多い段階です。現在、日本最大の検査会社であるSRLにおいても、AGE値の検査はほとんど行われていません。
結論です。
1)高血糖により体内で産生された、AGEsは糖尿病の血管合併症の原因となる。
2)一方、食材から摂取されたAGEsが、人体に有害か否かは、結論は出ていない。
3)日本では、AGE値の検査自体が、ほとんど実施されていない。
江部康二
*AGE
タンパク質と糖が結びついた物質で、Advanced Glycation End-productの頭文字をとってAGEと呼ばれます。日本語では終末糖化産物と訳されています。
過剰な血糖は、糖化反応により血管壁のコラーゲンなど様々なタンパク質に付着します。付着した糖は一部変性してアマドリ化合物(変性ブドウ糖)となります。このアマドリ化合物と糖が結合しAGEができます。
AGEは、糖尿病合併症を引き起こす、重大な原因の1つです。AGEには多種の物質があります。それらを総称してAGEsといわれます。日常よく検査されるグリコヘモグロビンやグリコアルブミンは、糖化反応の前期生成物であるアマドリ転位生成物です。
**高血糖の記憶
糖尿病血管合併症のメカニズムを特徴的に説明する、高血糖の記憶(hyperglycemic memory)と呼ばれる概念があります。
「高血糖の記憶」とは、過去の高血糖レベルとその曝露期間が生体に記憶され、その後の血管合併症の進展を左右するという考え方です。
ヒトの糖尿病において、この「高血糖の記憶」の存在を示すエビデンス(証拠)として、米国の1型糖尿病患者の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告があります。
DCCTでは、1型糖尿病患者を従来の通常療法群と、より厳格に血糖管理を行う強化療法群に分け、平均6.5年間追跡しました。
その結果、通常療法群に比べ強化療法群で平均HbA1c値が1.9%低下し、強化療法群で血管合併症の進展リスクが大幅に減少しました。(☆)
同研究終了後に行われたEDIC-DCCTでは、通常療法群にも強化療法を実施し、両群をさらに平均11年間追跡しました。
つまり「継続的な強化療法群」と「通常療法→強化療法群」の2つのグループの比較が、DCCT終了後11年間行われたことになりますね。
その結果、開始から3~4年で両群の平均HbA1c値がほぼ同等となったにも関わらず、11年間の心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクは「継続的な強化療法群」の方がやはり低かった(相対リスク57%低下)ことが報告されたのです。(☆☆)
すなわち、糖尿人において一定期間血糖コントロールが不良であれば、高血糖の記憶が「借金」のように生体内に残り、その後良好なコントロールが得られても、血管合併症リスクの差は縮まらないことが示されたわけです。
この借金の正体が、組織沈着AGEではないかと言われています。
まだ仮説ではありますが、組織に沈着したAGEが血管を傷害し続け、動脈硬化の元凶となり「高血糖の記憶」を最もよく説明するとされています。
高血糖の記憶・借金を残さないためには、糖尿病発症の初期の段階から血糖コントロールを保つことが大切です。当然、早ければ早いほどいいわけです。
糖尿人の皆さん、カロリー制限食(高糖質食)では必ず、食後高血糖が生じ将来に借金を残します。
是非、糖質制限食で速やかな血糖コントロールを目指して下さいね。
(☆)N Engl J Med 1993; 329: 977-986
(☆☆)N Engl J Med 2005; 353: 2643-2653
今回の記事は昨日の続きで、内科大学院生さんの質問、糖質制限食とAGEについてです。
【こんにちは。内科大学院生です。
先日はたくさんの質問に対し、大変丁寧でわかりやすいご説明を頂き、誠にありがとうございました。
今日は2つ質問させて下さい。
②糖質制限食を実践すると、塩分過剰&血中のAGE増加には繋がらないでしょうか?
醤油や味噌、米酢、コーヒー、コーラや魚の焦げ、加工品のハムやベーコンには、AGEが多く含まれていますよね。先生が執筆&監修されている本は、すべて購入させて頂いているのですが、調味料に醤油を使っている料理も多いと思います。勿論、ビタミンEやカテキンの摂取量なども関係するのでしょうが、食品由来のAGE量を気にしなくても大丈夫なのでしょうか?
ちなみに私は、出来る限り 塩 で味付けをするようにしています。】
内科大学院性さん。
コメントそして全ての本のご購入、ありがとうございます。
「②糖質制限食を実践すると、塩分過剰&血中のAGE増加には繋がらないでしょうか?」
さて、ご質問のAGE*のことですが、まだ評価について、断定的な結論が出るほどの文献や研究が存在しない段階です。
この間、同級生や知人の糖尿病専門医に複数尋ねて、AGEに対する見解をご教示いただきました。それでやっと、現時点での結論らしきものに辿り着きました。
A)AGEについてある程度コンセンサスが得られていること
①体内で高血糖により産生されたAGEsが、細小血管合併症に関わることは、以前から指摘されていました。細小血管合併症とは、糖尿病網膜症や糖尿病腎症です。
②さらに近年「高血糖の記憶**」という概念で、
米国の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告、UKPDSの20年後の解析で、大血管合併症にもAGEが関わっているのではないかという説が浮上しています。大血管合併症とは、心筋梗塞や脳梗塞などです。
B)AGEについてまだコンセンサスが得られていないこと
食品に含有されるAGEが人体に有害か否かは、現在論争中です。
米国の文献では、食品中のAGEも人体に有害という論文もあります。
しかし、日本の糖尿病専門医のほとんどが、食品に含有されるAGEは、人体に有害という立場はとっていません。
その間接的証拠といいますか、日本では血中や尿中AGE濃度の検査は、全くといっていいほど実施されていません。
C)AGE値の検査
様々な AGEがあるので、一つの検査法でAGEsの総量を測定することは困難です。一方、近年各種AGEsの化学構造が解明されたことや抗体作成技術の進歩によって、CML、ピラリン、ペントシジン、クロスリンなど、個別AGEの測定法が確立されました。
2006年1月にはELISA法による血中ペントシジン測定が腎機能検査項目において保険収載(実施料130点)され、臨床検査として測定されるようになりました。
しかし、まだ一般的でなく、研究機関によって測定方法も異なっているなど課題が多い段階です。現在、日本最大の検査会社であるSRLにおいても、AGE値の検査はほとんど行われていません。
結論です。
1)高血糖により体内で産生された、AGEsは糖尿病の血管合併症の原因となる。
2)一方、食材から摂取されたAGEsが、人体に有害か否かは、結論は出ていない。
3)日本では、AGE値の検査自体が、ほとんど実施されていない。
江部康二
*AGE
タンパク質と糖が結びついた物質で、Advanced Glycation End-productの頭文字をとってAGEと呼ばれます。日本語では終末糖化産物と訳されています。
過剰な血糖は、糖化反応により血管壁のコラーゲンなど様々なタンパク質に付着します。付着した糖は一部変性してアマドリ化合物(変性ブドウ糖)となります。このアマドリ化合物と糖が結合しAGEができます。
AGEは、糖尿病合併症を引き起こす、重大な原因の1つです。AGEには多種の物質があります。それらを総称してAGEsといわれます。日常よく検査されるグリコヘモグロビンやグリコアルブミンは、糖化反応の前期生成物であるアマドリ転位生成物です。
**高血糖の記憶
糖尿病血管合併症のメカニズムを特徴的に説明する、高血糖の記憶(hyperglycemic memory)と呼ばれる概念があります。
「高血糖の記憶」とは、過去の高血糖レベルとその曝露期間が生体に記憶され、その後の血管合併症の進展を左右するという考え方です。
ヒトの糖尿病において、この「高血糖の記憶」の存在を示すエビデンス(証拠)として、米国の1型糖尿病患者の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告があります。
DCCTでは、1型糖尿病患者を従来の通常療法群と、より厳格に血糖管理を行う強化療法群に分け、平均6.5年間追跡しました。
その結果、通常療法群に比べ強化療法群で平均HbA1c値が1.9%低下し、強化療法群で血管合併症の進展リスクが大幅に減少しました。(☆)
同研究終了後に行われたEDIC-DCCTでは、通常療法群にも強化療法を実施し、両群をさらに平均11年間追跡しました。
つまり「継続的な強化療法群」と「通常療法→強化療法群」の2つのグループの比較が、DCCT終了後11年間行われたことになりますね。
その結果、開始から3~4年で両群の平均HbA1c値がほぼ同等となったにも関わらず、11年間の心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクは「継続的な強化療法群」の方がやはり低かった(相対リスク57%低下)ことが報告されたのです。(☆☆)
すなわち、糖尿人において一定期間血糖コントロールが不良であれば、高血糖の記憶が「借金」のように生体内に残り、その後良好なコントロールが得られても、血管合併症リスクの差は縮まらないことが示されたわけです。
この借金の正体が、組織沈着AGEではないかと言われています。
まだ仮説ではありますが、組織に沈着したAGEが血管を傷害し続け、動脈硬化の元凶となり「高血糖の記憶」を最もよく説明するとされています。
高血糖の記憶・借金を残さないためには、糖尿病発症の初期の段階から血糖コントロールを保つことが大切です。当然、早ければ早いほどいいわけです。
糖尿人の皆さん、カロリー制限食(高糖質食)では必ず、食後高血糖が生じ将来に借金を残します。
是非、糖質制限食で速やかな血糖コントロールを目指して下さいね。
(☆)N Engl J Med 1993; 329: 977-986
(☆☆)N Engl J Med 2005; 353: 2643-2653
2009年08月17日 (月)
こんばんは。
今回はAGEについて、モン吉さんから、コメント・質問をいただきました。
『09/07/20 モン吉 AGEは「わかさ」の牧田先生の記事をみる
AGE値について
こんにちは、毎日ブログ拝見させていただいています、
50代男性です。
2年少し前に糖尿病が発覚し、当時食後血糖値 390、HbA1cが10.7ありました。
しばらく食事と運動で様子を見ましょうという事で 薬なしでいきました。数ヶ月後に先生のブログを
知り「主食を抜けば糖尿病は良くなる!」の本も 知りすぐ購入し糖質制限を実行した結果、現在
はずっと薬なしでHbA1c5.5前後で安定しています。 先生のブログと本に出合えて本当に良かったと 大変感謝しております。
お尋ねしたいのは、書店で見た「わか○9月号」 に先生の記事が載っていたので購入し、最後の 方にAGE値についての記事が載っていて初めて 聞く事なので気になりました。
私は、血糖値を押さえてHbA1cを低く安定させて いれば合併症の心配はないと思っていましたし、
主治医もそう仰られていましたが、この記事 を見ると、いくら血糖値を低く保ち続けていても AGE値を低く押さえないと合併症がでるという事でした。現在の病院ではAGE値の検査項目は ありませんが、先生の病院では検査項目に入っているのでしょうか。合併症にはやはりこのAGE 値が関係するのでしょうか?
又、AGE値とコラーゲンの関係も書かれていましたが、私はサプリメントでコラーゲンを摂っていますが、今現在腎臓には異常はありませんが、糖尿病人においてはコラーゲンをずっと摂り続ける事は腎臓にあまり良くないのでしょうか?
少し不安になりご質問させて頂きました。宜しくお願い致します。』
モン吉さん。
コメントそして本のご購入ありがとうございました。
「2年前食後血糖値390mg、HbA1cが10.7%。 現在ずっと薬なしで、HbA1c5.5」
糖質制限食実践で、素晴らしい改善ですね。(^-^)v(^-^)v
薬なしですから、主治医殿もさぞかし驚かれたことでしょう。ヾ(゜▽゜)
さて、ご質問のAGE*のことですが、回答が遅くなって申し訳ありませんでした。この間、同級生や知人の糖尿病専門医に複数尋ねてAGEに対する見解をご教示願いました。それでやっと、現時点での結論らしきものに辿り着きました。
A)AGEについてある程度コンセンサスが得られていること
①体内で高血糖により産生されたAGEsが、細小血管合併症に関わることは、以前から指摘されていました。細小血管合併症とは、糖尿病網膜症や糖尿病腎症です。
②さらに近年「高血糖の記憶**」という概念で、
米国の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告、UKPDSの20年後の解析で、大血管合併症にもAGEが関わっているのではないかという説が浮上しています。大血管合併症とは、心筋梗塞や脳梗塞などです。
B)AGEについてまだコンセンサスが得られていないこと
食品に含有されるAGEが人体に有害か否かは、現在論争中です。米国の文献では、食品中のAGEも人体に有害という論文もあります。
しかし、日本の糖尿病専門医のほとんどが、食品に含有されるAGEは、人体に有害という立場はとっていません。その間接的証拠といいますか、日本では血中や尿中AGE濃度の検査は、全くといっていいほど実施されていません。
C)AGE値の検査
様々な AGEがあるので、一つの検査法でAGEsの総量を測定することは困難です。
一方、近年各種AGEsの化学構造が解明されたことや抗体作成技術の進歩によって、CML、ピラリン、ペントシジン、クロスリンなど、個別AGEの測定法が確立されました。
2006年1月にはELISA法による血中ペントシジン測定が腎機能検査項目において保険収載(実施料130点)され、臨床検査として測定されるようになりました。
しかし、まだ一般的でなく、研究機関によって測定方法も異なっているなど課題が多い段階です。
現在、日本最大の検査会社であるSRLにおいても、AGE値の検査はほとんど行われていません。
結論です。
1)高血糖により体内で産生された、AGEsは糖尿病の血管合併症の原因となる。
2)一方、食材から摂取されたAGEsが、人体に有害か否かは、結論は出ていない。
3)日本では、AGE値の検査自体が、ほとんど実施されていない。
なお、コラーゲンをサプリで摂取すれば、消化管でアミノ酸に分解されて、吸収されます。コラーゲンはタンパク質ですので既に腎障害がある人は控えた方がいいですが、それ以外ででは人体への悪影響はありません。
江部康二
*AGE
タンパク質と糖が結びついた物質で、Advanced Glycation End-productの頭文字をとってAGEと呼ばれます。日本語では終末糖化産物と訳されています。
過剰な血糖は、糖化反応により血管壁のコラーゲンなど様々なタンパク質に付着します。付着した糖は一部変性してアマドリ化合物(変性ブドウ糖)となります。このアマドリ化合物と糖が結合しAGEができます。
AGEは、糖尿病合併症を引き起こす、重大な原因の1つです。AGEには多種の物質があります。それらを総称してAGEsといわれます。日常よく検査されるグリコヘモグロビンやグリコアルブミンは、糖化反応の前期生成物であるアマドリ転位生成物です。
**高血糖の記憶
糖尿病血管合併症のメカニズムを特徴的に説明する、高血糖の記憶(hyperglycemic memory)と呼ばれる概念があります。
「高血糖の記憶」とは、過去の高血糖レベルとその曝露期間が生体に記憶され、その後の血管合併症の進展を左右するという考え方です。
ヒトの糖尿病において、この「高血糖の記憶」の存在を示すエビデンス(証拠)として、米国の1型糖尿病患者の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告があります。
DCCTでは、1型糖尿病患者を従来の通常療法群と、より厳格に血糖管理を行う強化療法群に分け、平均6.5年間追跡しました。
その結果、通常療法群に比べ強化療法群で平均HbA1c値が1.9%低下し、強化療法群で血管合併症の進展リスクが大幅に減少しました。(*)
同研究終了後に行われたEDIC-DCCTでは、通常療法群にも強化療法を実施し、両群をさらに平均11年間追跡しました。
つまり「継続的な強化療法群」と「通常療法→強化療法群」の2つのグループの比較が、DCCT終了後11年間行われたことになりますね。
その結果、開始から3~4年で両群の平均HbA1c値がほぼ同等となったにも関わらず、11年間の心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクは「継続的な強化療法群」の方がやはり低かった(相対リスク57%低下)ことが報告されたのです。(**)
すなわち、糖尿人において一定期間血糖コントロールが不良であれば、高血糖の記憶が「借金」のように生体内に残り、その後良好なコントロールが得られても、血管合併症リスクの差は縮まらないことが示されたわけです。
この借金の正体が、組織沈着AGEではないかと言われています。
まだ仮説ではありますが、組織に沈着したAGEが血管を傷害し続け、動脈硬化の元凶となり「高血糖の記憶」を最もよく説明するとされています。
高血糖の記憶・借金を残さないためには、糖尿病発症の初期の段階から血糖コントロールを保つことが大切です。当然、早ければ早いほどいいわけです。
糖尿人の皆さん、カロリー制限食(高糖質食)では必ず、食後高血糖が生じ将来に借金を残します。
是非、糖質制限食で速やかな血糖コントロールを目指して下さいね。
(*)N Engl J Med 1993; 329: 977-986
(**)N Engl J Med 2005; 353: 2643-2653
今回はAGEについて、モン吉さんから、コメント・質問をいただきました。
『09/07/20 モン吉 AGEは「わかさ」の牧田先生の記事をみる
AGE値について
こんにちは、毎日ブログ拝見させていただいています、
50代男性です。
2年少し前に糖尿病が発覚し、当時食後血糖値 390、HbA1cが10.7ありました。
しばらく食事と運動で様子を見ましょうという事で 薬なしでいきました。数ヶ月後に先生のブログを
知り「主食を抜けば糖尿病は良くなる!」の本も 知りすぐ購入し糖質制限を実行した結果、現在
はずっと薬なしでHbA1c5.5前後で安定しています。 先生のブログと本に出合えて本当に良かったと 大変感謝しております。
お尋ねしたいのは、書店で見た「わか○9月号」 に先生の記事が載っていたので購入し、最後の 方にAGE値についての記事が載っていて初めて 聞く事なので気になりました。
私は、血糖値を押さえてHbA1cを低く安定させて いれば合併症の心配はないと思っていましたし、
主治医もそう仰られていましたが、この記事 を見ると、いくら血糖値を低く保ち続けていても AGE値を低く押さえないと合併症がでるという事でした。現在の病院ではAGE値の検査項目は ありませんが、先生の病院では検査項目に入っているのでしょうか。合併症にはやはりこのAGE 値が関係するのでしょうか?
又、AGE値とコラーゲンの関係も書かれていましたが、私はサプリメントでコラーゲンを摂っていますが、今現在腎臓には異常はありませんが、糖尿病人においてはコラーゲンをずっと摂り続ける事は腎臓にあまり良くないのでしょうか?
少し不安になりご質問させて頂きました。宜しくお願い致します。』
モン吉さん。
コメントそして本のご購入ありがとうございました。
「2年前食後血糖値390mg、HbA1cが10.7%。 現在ずっと薬なしで、HbA1c5.5」
糖質制限食実践で、素晴らしい改善ですね。(^-^)v(^-^)v
薬なしですから、主治医殿もさぞかし驚かれたことでしょう。ヾ(゜▽゜)
さて、ご質問のAGE*のことですが、回答が遅くなって申し訳ありませんでした。この間、同級生や知人の糖尿病専門医に複数尋ねてAGEに対する見解をご教示願いました。それでやっと、現時点での結論らしきものに辿り着きました。
A)AGEについてある程度コンセンサスが得られていること
①体内で高血糖により産生されたAGEsが、細小血管合併症に関わることは、以前から指摘されていました。細小血管合併症とは、糖尿病網膜症や糖尿病腎症です。
②さらに近年「高血糖の記憶**」という概念で、
米国の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告、UKPDSの20年後の解析で、大血管合併症にもAGEが関わっているのではないかという説が浮上しています。大血管合併症とは、心筋梗塞や脳梗塞などです。
B)AGEについてまだコンセンサスが得られていないこと
食品に含有されるAGEが人体に有害か否かは、現在論争中です。米国の文献では、食品中のAGEも人体に有害という論文もあります。
しかし、日本の糖尿病専門医のほとんどが、食品に含有されるAGEは、人体に有害という立場はとっていません。その間接的証拠といいますか、日本では血中や尿中AGE濃度の検査は、全くといっていいほど実施されていません。
C)AGE値の検査
様々な AGEがあるので、一つの検査法でAGEsの総量を測定することは困難です。
一方、近年各種AGEsの化学構造が解明されたことや抗体作成技術の進歩によって、CML、ピラリン、ペントシジン、クロスリンなど、個別AGEの測定法が確立されました。
2006年1月にはELISA法による血中ペントシジン測定が腎機能検査項目において保険収載(実施料130点)され、臨床検査として測定されるようになりました。
しかし、まだ一般的でなく、研究機関によって測定方法も異なっているなど課題が多い段階です。
現在、日本最大の検査会社であるSRLにおいても、AGE値の検査はほとんど行われていません。
結論です。
1)高血糖により体内で産生された、AGEsは糖尿病の血管合併症の原因となる。
2)一方、食材から摂取されたAGEsが、人体に有害か否かは、結論は出ていない。
3)日本では、AGE値の検査自体が、ほとんど実施されていない。
なお、コラーゲンをサプリで摂取すれば、消化管でアミノ酸に分解されて、吸収されます。コラーゲンはタンパク質ですので既に腎障害がある人は控えた方がいいですが、それ以外ででは人体への悪影響はありません。
江部康二
*AGE
タンパク質と糖が結びついた物質で、Advanced Glycation End-productの頭文字をとってAGEと呼ばれます。日本語では終末糖化産物と訳されています。
過剰な血糖は、糖化反応により血管壁のコラーゲンなど様々なタンパク質に付着します。付着した糖は一部変性してアマドリ化合物(変性ブドウ糖)となります。このアマドリ化合物と糖が結合しAGEができます。
AGEは、糖尿病合併症を引き起こす、重大な原因の1つです。AGEには多種の物質があります。それらを総称してAGEsといわれます。日常よく検査されるグリコヘモグロビンやグリコアルブミンは、糖化反応の前期生成物であるアマドリ転位生成物です。
**高血糖の記憶
糖尿病血管合併症のメカニズムを特徴的に説明する、高血糖の記憶(hyperglycemic memory)と呼ばれる概念があります。
「高血糖の記憶」とは、過去の高血糖レベルとその曝露期間が生体に記憶され、その後の血管合併症の進展を左右するという考え方です。
ヒトの糖尿病において、この「高血糖の記憶」の存在を示すエビデンス(証拠)として、米国の1型糖尿病患者の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告があります。
DCCTでは、1型糖尿病患者を従来の通常療法群と、より厳格に血糖管理を行う強化療法群に分け、平均6.5年間追跡しました。
その結果、通常療法群に比べ強化療法群で平均HbA1c値が1.9%低下し、強化療法群で血管合併症の進展リスクが大幅に減少しました。(*)
同研究終了後に行われたEDIC-DCCTでは、通常療法群にも強化療法を実施し、両群をさらに平均11年間追跡しました。
つまり「継続的な強化療法群」と「通常療法→強化療法群」の2つのグループの比較が、DCCT終了後11年間行われたことになりますね。
その結果、開始から3~4年で両群の平均HbA1c値がほぼ同等となったにも関わらず、11年間の心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクは「継続的な強化療法群」の方がやはり低かった(相対リスク57%低下)ことが報告されたのです。(**)
すなわち、糖尿人において一定期間血糖コントロールが不良であれば、高血糖の記憶が「借金」のように生体内に残り、その後良好なコントロールが得られても、血管合併症リスクの差は縮まらないことが示されたわけです。
この借金の正体が、組織沈着AGEではないかと言われています。
まだ仮説ではありますが、組織に沈着したAGEが血管を傷害し続け、動脈硬化の元凶となり「高血糖の記憶」を最もよく説明するとされています。
高血糖の記憶・借金を残さないためには、糖尿病発症の初期の段階から血糖コントロールを保つことが大切です。当然、早ければ早いほどいいわけです。
糖尿人の皆さん、カロリー制限食(高糖質食)では必ず、食後高血糖が生じ将来に借金を残します。
是非、糖質制限食で速やかな血糖コントロールを目指して下さいね。
(*)N Engl J Med 1993; 329: 977-986
(**)N Engl J Med 2005; 353: 2643-2653
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