2017年03月06日 (月)
こんにちは。
本日の記事も、日本人のデータです。
第24回日本疫学会学術総会(2014年1月23日~25日、仙台)で報告されたNIPPON DATA 80の研究成果が論文として、英文雑誌に掲載されました。(☆)
『糖質摂取比率が一番少ないグループは、一番多いグループに比べて、女性においては心血管死のリスクが59%、総死亡のリスクが79%しかない』
という結論です。
NIPPON DATA 80の29年間の追跡結果データを検討したもので、論文の筆頭者の中村保幸先生は、私の京大医学部の同級生です。
この研究は糖質の摂取比率が欧米と比べて多い日本人を対象として、比較的軽度の低糖質食の総死亡率と心臓病などの心血管死のリスクへの影響を検討するのが目的です。
NIPPON DATA(National Integrated Project for Prospective Observation of Non-communicable Disease And its Trends in the Aged)とは、日本で行われた「前向きコホート研究」。
前向きコホート研究とは、ある集団の現在の生活習慣を調査してそこから前向き、つまり未来に向かって追跡調査して疾病などの発症を確認する手法です。
エビデンスレベルは「無作為化比較試験」(RCT=データの偏りを抑えるために被験者をランダムに処置群と比較対照群に割り付けて実施して評価する方法)に次いで高く、非常に信頼性の高い研究手法といえます。
NIPPON DATA 80では、日本全国から選ばれた13771人の30歳以上の住民を対象として、そのうち登録に同意した10546人をその後経過観察しました。
1980年に基礎調査が行われたことからNIPPON DATA 80と呼ばれています。
今回の研究報告は、2009年の時点での死亡データを解析したものです。
登録時のデータがない者、登録時点で心血管イベントの既往のあった者、経過観察ができなかった者を除いて、9200人(女性5160人、男性4040人)での解析が行われました。
9200人を29年間追跡して、
第1分位:糖質を一番摂取している群:糖質摂取比率は総摂取エネルギーの72.7%
第2分位~第9分位
第10分位:糖質制限を一番している群:糖質摂取比率は総摂取エネルギーの51.5%
糖質を一番摂取している群から順番に一番摂取してない群まで10群に分けて検討です。
その結果、
第10分位(糖質摂取比率51.5%)の糖質摂取比率が一番少ないグループは、
第1分位(糖質摂取比率72.7%)の糖質摂取比率が一番多いグループに比べて、
女性においては心血管死のリスクが59%、総死亡のリスクが79%しかないという結論
で、糖質制限食にとって、大きな追い風と言えます。
緩やかな糖質制限食でも、女性では、糖質たっぷり食に比べたら4割以上、心血管死が減るということですね。
男女合わせた解析でも心血管死リスクが74%、総死亡リスクが84%と低下しました。
男性単独では、有意差がでませんでした。
ともあれ、糖質制限食にとって、画期的な信頼度の高いエビデンスが登場したと言えます。
あくまでも私の個人的な意見ですが、緩やかな糖質制限食でこれだけの有意差が出たのなら、スーパー糖質制限食ならもっともっとすごい差がでるでしょうね。
一方、私が実践している糖質摂取比率12%のスーパー糖質制限食に関しては、この報告にはデータがありません。
従って、この報告をそのままスーパー糖質制限食に当てはめることはできません。
しかし、糖尿病でない人においても「食後血糖値上昇」「高インスリン血症」「平均血糖変動幅増大」という酸化ストレスリスクを生じない唯一の食事療法がスーパー糖質制限食ですから、長期的安全性も悪かろうはずがないですね。
信頼度の高いNIPPON DATA 80の研究報告では、糖質制限食群のほうが、糖質たっぷり群に比べて、心血管死、総死亡ともに少ないという結論です。
江部康二
(☆)
Br J Nutr. 2014 Sep 28;112(6):916-24. doi: 10.1017/S0007114514001627.
Low-carbohydrate diets and cardiovascular and total mortality in Japanese: a 29-year follow-up of NIPPON DATA80.
Nakamura Y1, Okuda N2, Okamura T3, Kadota A4, Miyagawa N4, Hayakawa T5, Kita Y6, Fujiyoshi A4, Nagai M4, Takashima N4, Ohkubo T7, Miura K4, Okayama A8, Ueshima H4; NIPPON DATA Research Group.
本日の記事も、日本人のデータです。
第24回日本疫学会学術総会(2014年1月23日~25日、仙台)で報告されたNIPPON DATA 80の研究成果が論文として、英文雑誌に掲載されました。(☆)
『糖質摂取比率が一番少ないグループは、一番多いグループに比べて、女性においては心血管死のリスクが59%、総死亡のリスクが79%しかない』
という結論です。
NIPPON DATA 80の29年間の追跡結果データを検討したもので、論文の筆頭者の中村保幸先生は、私の京大医学部の同級生です。
この研究は糖質の摂取比率が欧米と比べて多い日本人を対象として、比較的軽度の低糖質食の総死亡率と心臓病などの心血管死のリスクへの影響を検討するのが目的です。
NIPPON DATA(National Integrated Project for Prospective Observation of Non-communicable Disease And its Trends in the Aged)とは、日本で行われた「前向きコホート研究」。
前向きコホート研究とは、ある集団の現在の生活習慣を調査してそこから前向き、つまり未来に向かって追跡調査して疾病などの発症を確認する手法です。
エビデンスレベルは「無作為化比較試験」(RCT=データの偏りを抑えるために被験者をランダムに処置群と比較対照群に割り付けて実施して評価する方法)に次いで高く、非常に信頼性の高い研究手法といえます。
NIPPON DATA 80では、日本全国から選ばれた13771人の30歳以上の住民を対象として、そのうち登録に同意した10546人をその後経過観察しました。
1980年に基礎調査が行われたことからNIPPON DATA 80と呼ばれています。
今回の研究報告は、2009年の時点での死亡データを解析したものです。
登録時のデータがない者、登録時点で心血管イベントの既往のあった者、経過観察ができなかった者を除いて、9200人(女性5160人、男性4040人)での解析が行われました。
9200人を29年間追跡して、
第1分位:糖質を一番摂取している群:糖質摂取比率は総摂取エネルギーの72.7%
第2分位~第9分位
第10分位:糖質制限を一番している群:糖質摂取比率は総摂取エネルギーの51.5%
糖質を一番摂取している群から順番に一番摂取してない群まで10群に分けて検討です。
その結果、
第10分位(糖質摂取比率51.5%)の糖質摂取比率が一番少ないグループは、
第1分位(糖質摂取比率72.7%)の糖質摂取比率が一番多いグループに比べて、
女性においては心血管死のリスクが59%、総死亡のリスクが79%しかないという結論
で、糖質制限食にとって、大きな追い風と言えます。
緩やかな糖質制限食でも、女性では、糖質たっぷり食に比べたら4割以上、心血管死が減るということですね。
男女合わせた解析でも心血管死リスクが74%、総死亡リスクが84%と低下しました。
男性単独では、有意差がでませんでした。
ともあれ、糖質制限食にとって、画期的な信頼度の高いエビデンスが登場したと言えます。
あくまでも私の個人的な意見ですが、緩やかな糖質制限食でこれだけの有意差が出たのなら、スーパー糖質制限食ならもっともっとすごい差がでるでしょうね。
一方、私が実践している糖質摂取比率12%のスーパー糖質制限食に関しては、この報告にはデータがありません。
従って、この報告をそのままスーパー糖質制限食に当てはめることはできません。
しかし、糖尿病でない人においても「食後血糖値上昇」「高インスリン血症」「平均血糖変動幅増大」という酸化ストレスリスクを生じない唯一の食事療法がスーパー糖質制限食ですから、長期的安全性も悪かろうはずがないですね。
信頼度の高いNIPPON DATA 80の研究報告では、糖質制限食群のほうが、糖質たっぷり群に比べて、心血管死、総死亡ともに少ないという結論です。
江部康二
(☆)
Br J Nutr. 2014 Sep 28;112(6):916-24. doi: 10.1017/S0007114514001627.
Low-carbohydrate diets and cardiovascular and total mortality in Japanese: a 29-year follow-up of NIPPON DATA80.
Nakamura Y1, Okuda N2, Okamura T3, Kadota A4, Miyagawa N4, Hayakawa T5, Kita Y6, Fujiyoshi A4, Nagai M4, Takashima N4, Ohkubo T7, Miura K4, Okayama A8, Ueshima H4; NIPPON DATA Research Group.
2015年06月08日 (月)
【15/06/07 糖質制限推進Dr@北九州
大腸ガンと動物性脂肪
江部先生 こんばんは
いつもお世話になっております。
先生のブログ、いつも楽しみに読ませていただいております。
さて、先月、俳優の今井雅之さんが大腸ガンで急逝されましたが、大変ショッキングなニュースであり、テレビでも消化器専門医が出てきて、近年のわが国における大腸ガン増加の要因について解説されていて、食事の欧米化にともなう動物性脂肪の摂取の増加が大きな要因である、みたいなコメントをされていました。
糖質制限は必然的に動物性脂肪を増やすことになり、糖質セイゲニストの方の中には、不安に思われている方もおられると推察致します。
おそらくバイアスのかかった疫学的な調査データからの推測であり、有意なエビデンスはないのではないかと思われますが、先生のご意見をお聞かせいただけましたら幸いです。】
糖質制限推進Dr@北九州 さん
コメントありがとうございます。
世界ガン研究基金2011年の報告
結腸・直腸ガンと食べ物のリスク
確定リスク
赤肉
加工肉
酒(男性)
おそらくリスク
酒(女性)
世界ガン研究基金によれば、結腸・直腸ガンの確定リスクは、赤肉・加工肉・酒です。
女性では、お酒はおそらくリスクです。
赤肉ですから、動物タンパクが主成分ですが脂肪もあります。
100g中
和牛赤身ヒレで、
15.0の脂質、19.1gのタンパク質、
サーロインで、
23.7の脂質、17.4gのタンパク質です。
しかしながら、確定リスクの『赤身肉・加工肉・酒 』にしても、糖質を普通に、40~60%食べている集団においてということです。
従って、糖質摂取比率12%くらいの「スーパー糖質セイゲニスト」には、そもそも無関係のお話しです。
正確にはスーパー糖質セイゲニストにおいては『赤身肉・加工肉・酒 』が結腸・直腸ガンのリスクになるかどうか、エビデンスはないということです。
一方、理論的には、発ガンの明白なリスクである「高血糖」と「高インスリン血症」が、一日を通してスーパー糖質セイゲニストではみられないので、発ガン予防の観点からは、大きなアドバンテージと言えます。
さらに、米国医師会雑誌、2006年2月8日号に掲載された3本の論文において
「<低脂肪+野菜豊富な食生活>は乳癌、大腸癌、心血管疾患リスクを下げないし、総コレステロール値も不変であった。」
という報告がなされました。
米国医師会雑誌は、インパクトファクターが高く、ニューイングランドジャーナルに次ぐ権威有る医学雑誌です。
RCT研究論文ですので、エビデンスレベルも信頼度が高いです。
5万人弱の閉経女性を対象に、対照群を置き、平均8年間にわたって追跡した結果です。
高額の費用をつぎ込んだ大規模臨床試験で、二度とできない高いレベルの研究です。
2万5千人ずつにグループ分けをして、一方は、脂肪熱量比率20%で強力に低脂肪食を指導しました。
残るグループは脂肪制限なしなので、米国女性平均なら30数%の脂肪摂取比率です。
平均的米国女性に対して、約半分近くまで脂肪摂取比率を厳格に減らして臨床試験を実施したわけです。
研究をデザインした医師は、
「高脂肪食が大腸ガン、乳ガン、心血管疾患のリスクを増大させる=脂肪悪玉説」
という従来の定説を掲げて、それを証明するためにこのRCTを実施したと思います。
すなわち、
「低脂肪食実践により、大腸ガン、乳ガン、心血管疾患のリスクが減少する」
と信じてこのRCTを開始したと考えられます。
ところが、豈図らんや、低脂肪食は、乳ガン、大腸ガン、心血管疾患リスクを全く下げなかったのです。
これは、即ち、脂肪悪玉説が根底から否定されたということです。
結論です。
『5万人を8年間追跡したJAMA掲載のRCT研究論文で、
少なくとも乳ガン・大腸ガン・心血管疾患に関しては、脂肪悪玉説は否定された。』
ということになります。
脂肪悪玉説を根底から覆す良質の信頼度の高いエビデンスですね。
*Journal of American Medical Association(JAMA)誌
2006年2月8日号の疾患ごとにまとめられた3本の論文で報告。
*Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Invasive Breast Cancer
Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Colorectal Cancer
Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Cardiovascular Disease
: The Women's Health Initiative Randomized Controlled Dietary Modification Trial
JAMA ,295(6):629-642. 643-654. 655-666.
大腸ガンと動物性脂肪
江部先生 こんばんは
いつもお世話になっております。
先生のブログ、いつも楽しみに読ませていただいております。
さて、先月、俳優の今井雅之さんが大腸ガンで急逝されましたが、大変ショッキングなニュースであり、テレビでも消化器専門医が出てきて、近年のわが国における大腸ガン増加の要因について解説されていて、食事の欧米化にともなう動物性脂肪の摂取の増加が大きな要因である、みたいなコメントをされていました。
糖質制限は必然的に動物性脂肪を増やすことになり、糖質セイゲニストの方の中には、不安に思われている方もおられると推察致します。
おそらくバイアスのかかった疫学的な調査データからの推測であり、有意なエビデンスはないのではないかと思われますが、先生のご意見をお聞かせいただけましたら幸いです。】
糖質制限推進Dr@北九州 さん
コメントありがとうございます。
世界ガン研究基金2011年の報告
結腸・直腸ガンと食べ物のリスク
確定リスク
赤肉
加工肉
酒(男性)
おそらくリスク
酒(女性)
世界ガン研究基金によれば、結腸・直腸ガンの確定リスクは、赤肉・加工肉・酒です。
女性では、お酒はおそらくリスクです。
赤肉ですから、動物タンパクが主成分ですが脂肪もあります。
100g中
和牛赤身ヒレで、
15.0の脂質、19.1gのタンパク質、
サーロインで、
23.7の脂質、17.4gのタンパク質です。
しかしながら、確定リスクの『赤身肉・加工肉・酒 』にしても、糖質を普通に、40~60%食べている集団においてということです。
従って、糖質摂取比率12%くらいの「スーパー糖質セイゲニスト」には、そもそも無関係のお話しです。
正確にはスーパー糖質セイゲニストにおいては『赤身肉・加工肉・酒 』が結腸・直腸ガンのリスクになるかどうか、エビデンスはないということです。
一方、理論的には、発ガンの明白なリスクである「高血糖」と「高インスリン血症」が、一日を通してスーパー糖質セイゲニストではみられないので、発ガン予防の観点からは、大きなアドバンテージと言えます。
さらに、米国医師会雑誌、2006年2月8日号に掲載された3本の論文において
「<低脂肪+野菜豊富な食生活>は乳癌、大腸癌、心血管疾患リスクを下げないし、総コレステロール値も不変であった。」
という報告がなされました。
米国医師会雑誌は、インパクトファクターが高く、ニューイングランドジャーナルに次ぐ権威有る医学雑誌です。
RCT研究論文ですので、エビデンスレベルも信頼度が高いです。
5万人弱の閉経女性を対象に、対照群を置き、平均8年間にわたって追跡した結果です。
高額の費用をつぎ込んだ大規模臨床試験で、二度とできない高いレベルの研究です。
2万5千人ずつにグループ分けをして、一方は、脂肪熱量比率20%で強力に低脂肪食を指導しました。
残るグループは脂肪制限なしなので、米国女性平均なら30数%の脂肪摂取比率です。
平均的米国女性に対して、約半分近くまで脂肪摂取比率を厳格に減らして臨床試験を実施したわけです。
研究をデザインした医師は、
「高脂肪食が大腸ガン、乳ガン、心血管疾患のリスクを増大させる=脂肪悪玉説」
という従来の定説を掲げて、それを証明するためにこのRCTを実施したと思います。
すなわち、
「低脂肪食実践により、大腸ガン、乳ガン、心血管疾患のリスクが減少する」
と信じてこのRCTを開始したと考えられます。
ところが、豈図らんや、低脂肪食は、乳ガン、大腸ガン、心血管疾患リスクを全く下げなかったのです。
これは、即ち、脂肪悪玉説が根底から否定されたということです。
結論です。
『5万人を8年間追跡したJAMA掲載のRCT研究論文で、
少なくとも乳ガン・大腸ガン・心血管疾患に関しては、脂肪悪玉説は否定された。』
ということになります。
脂肪悪玉説を根底から覆す良質の信頼度の高いエビデンスですね。
*Journal of American Medical Association(JAMA)誌
2006年2月8日号の疾患ごとにまとめられた3本の論文で報告。
*Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Invasive Breast Cancer
Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Colorectal Cancer
Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Cardiovascular Disease
: The Women's Health Initiative Randomized Controlled Dietary Modification Trial
JAMA ,295(6):629-642. 643-654. 655-666.
2015年03月24日 (火)
こんばんは。
「脂質制限ガイドラインは間違っている?」という記事が、MT Proに掲載されました。
北里研究所病院糖尿病センター山田悟医師が執筆しておられます。
脂質制限食が、本当に心血管疾患を予防できるのか否か、近年、世界で論争となっています。
従来の常識では
「動物性脂肪の主成分の飽和脂肪酸が脳心血管イベントに良くないので、植物性脂肪を中心に不飽和脂肪酸を摂取するのがよい」
ということが過去言われてきました。
これに対して、例えば 2010年のAm J Clin Nutr(臨床栄養学雑誌)に、メタアナリシスと総説が発表されました。
21論文、約35万人をメタアナリシスして、5~23年追跡して1.1万人の脳心血管イベントが発生しました。
そして飽和脂肪摂取量と脳心血管イベントハザード比を検証してみると、飽和脂肪酸摂取量と脳心血管イベント発生は、関係がないことが明らかとなりました。(*)
今回,1983年以前に報告されていたランダム化比較試験(RCT)7論文を、メタ解析した結果「脂肪制限は冠動脈疾患死や全死亡を全く予防できていない」と結論づけた論文がOpen Heart(2015; 2: e000196)に報告されました。
Open HeartはBMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)の姉妹誌です。
さらに、日本人が対象の日本のコホート研究において、脂質摂取とさまざまなアウトカムとの間に相関がないか、負の相関があるそうです。
それも1件だけではなく、複数のコホート研究においてそうした負の相関が認められているとのことです。
つまり脂肪制限どころか、しっかり食べた方が総死亡率が減る可能性が高いわけです。
糖質セイゲニストにとって、大変嬉しい追い風が世界でも日本でも吹いてきましたね。
(*)
Siri-Tarino, P.W., et al., Meta-analysis of prospective cohort studies evaluating the association of saturated fat with cardiovascular disease. Am J Clin Nutr, 2010. 91(3): p. 535-46.
☆☆☆
以下MT Pro記事から一部抜粋
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/doctoreye/dr150303.html
脂質制限ガイドラインは間違っている?
RCTのメタ解析からは脂質制限の結論は得られない
北里研究所病院糖尿病センター 山田 悟
研究の背景:脂質制限に対する批判論が世界的に噴出
多くの学会のガイドラインは心血管疾患の予防のために脂質摂取を制限するよう求めてきた。わが国の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012』でも脂肪エネルギー比を20~25%にするようにとの記述があり(p57),それは『動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002』(p25)から一貫したものである。
米国においては1977年に「Dietary goals for the United States 1st ed.」,英国においては1983年に「A discussion paper on proposals for nutritional guidelines for health education in Britain」と,脂質制限を求めるガイドラインが初めてつくられたが,逆に高脂質食による介入で心血管疾患が予防されることを明らかにしたPREDIMED試験(N Engl J Med 2013; 368: 1279-1290)や,飽和脂肪酸をω-6リノール酸に置換する介入でかえって心血管疾患が増えることを示したSydney Diet Heart Studyの結果が報告されて以降(BMJ 2013; 346: e8707),がぜん,脂質制限に対する批判論が世界的に噴出してきている(Adv Nutr 2013; 4: 294-302,BMJ 2013; 347: f6340,Ann Nutr Metab 2013; 63: 159-167,Eur J Nutr 2015年2月4日オンライン版)。
今回,1983年以前に報告されていたランダム化比較試験(RCT)をメタ解析しても,脂肪制限は冠動脈疾患死や全死亡を全く予防できておらず,こうした英米のガイドラインはその成立時点から間違っていたとする論文がBMJの姉妹誌Open Heart(2015; 2: e000196)に報告されたのでご紹介したい。
研究のポイント1:
6件のRCT,7本の論文をメタ解析の対象に
本研究では,英国・西スコットランド大学を中心とした研究者らが,MEDLINE,Cochrane Libraryのデータベースから,“RCTで,脂質摂取やコレステロール摂取への介入を行い,1年以上の試験期間をもっていて,全死亡率がアウトカムとして報告されている研究”を収集した。EMBASEなどの他の有名なデータベースは,当時の試験の登録数が十分でないことから対象とされなかった。
当初の検索で98本の論文がヒットしたが,題名や抄録から80本が除外され,非ランダム化比較試験であったり,クロスオーバー試験であったりすることなどからさらなる除外をして,最終的に6件の研究,7本の論文が採用された。この検索は2人の研究者が独立して担当し,最終的な6件の研究の採用においては両者が同意したという。6件のうち,3件はアウトカム評価に対して盲検化しており,3件はアウトカム評価に非盲検であった。
研究のポイント2:
脂質制限は全死亡予防にも冠動脈疾患死予防にも無効
その結果,これらのRCTは2,467人の被検者を含んでおり(脂質制限群1,227人,対照群1,240人),計740人が死亡(うち冠動脈疾患死が423人)していた。脂質制限群の死亡者数はいずれも370人で同数であり,死亡率は脂質制限群では30.2%,対照群では29.8%で有意差はなかった(図1)。
dr150303_fig1.jpg
冠動脈疾患死については脂質制限群で207人,対照群で216人であり,やはり両者に有意差はなかった(図2)。
dr150303_fig2.jpg
私の考察:日本においては脂質摂取は奨励されるべき?
世界中が脂質制限食を推奨する契機となった論文として有名なのはSeven Countries Study〔Circulation 1970; 41(4 suppl): I186-I195〕である。しかし,この研究は観察研究であり,今のEvidence-Based Medicine(EBM:科学的根拠に基づく医療)※ではエビデンスレベルが低い研究という位置付けになる。今回の研究者らは1983年に英国の最初の脂質制限ガイドラインができるまでに報告されていたRCTを収集し,1990年代に確立されたEBM(JAMA 1993; 270: 2093-2095)の観点から,それら英米のガイドラインが妥当だったといえるかどうかを検証しようとしたのである。そして,そうした現在のEBMの観点で見ると,1977年や1983年に作成された脂質制限を推奨するガイドラインは,全くもってエビデンスに基づいておらず,そのような結論にはならないはずだというのが今回の論文の著者Harcombe氏らの主張である。
一方,本論文のEditorialで英国保健サービス(NHS)の循環器医であるBahl氏は「今回のRCTのメタ解析で脂質制限食の有効性が示されなかったことは,アドヒアランスのことを考えれば驚くべきものではなく,既存の観察研究における脂質摂取と心血管疾患の正の相関を考えれば,脂質制限を推奨するガイドラインを改訂する必要はない」との反論をしている(Open Heart2015; 2: e000229)。
例えてみれば,「睡眠時間を7時間以上にすれば,居眠り運転を減らせる」という仮説があったとして,そのような指導へのアドヒアランスは実社会で高いわけはなく,そのような指導をすることの価値がRCTで示されなかったとしても,それでも「睡眠時間を7時間以上にすべきだ」という文言をガイドラインに残したい,という主張をしているのがBahl氏であり,そんな指導には実効性がないから意味がないと主張しているのがHarcombe氏らなのかもしれない。そう考えると,両者の主張はそれぞれに理解ができるものとなる。
ただ,そうはならないのがわが国である。わが国の観察研究では,脂質摂取とさまざまなアウトカムとの間に相関がないか,負の相関があるのである。それも1件だけではなく,複数のコホート研究においてそうした負の相関が認められている。ここ数年間で報告された総脂質摂取と死亡率の関係もそうである(JACC; Nutr Metab 2014; 11: 12,J Nutr 2012; 142: 1713-1719)。さらに,トランス脂肪酸を除いて最も心血管イベントと関連すると疑われている飽和脂肪酸に限定して,心血管イベントとの相関を見てもそうである(JPHC; Eur Heart J 2013; 34: 1225-1232,JACC; Am J Clin Nutr 2010; 92: 759-765,LSS; Stroke 2004; 35: 1531-1537)。
そう考えると,仮に欧米のガイドラインに(欧米人の観察研究のデータを基に)脂質摂取を制限すべきだとする文言が残ったとしても,わが国では(日本人の観察研究のデータを基に)脂質摂取を増やすべきだと主張することはあっても,制限すべきだとする根拠は存在しないことになる。
昨年,雑誌Time(2014年6月23日号)が表紙に「Eat Butter」という文字を載せ,脂質制限をやめるように(ending the war on fat)と全米に勧告したが,実は,わが国でも,昨年報告された日本人の食事摂取基準2015で,脂質摂取の目安量がエネルギー比率20~30%とされ,食事摂取基準2010における20~25%が緩和されていた。実は,既にわが国でも脂質制限の時代は終焉を迎え始めているのかもしれない。
「脂質制限ガイドラインは間違っている?」という記事が、MT Proに掲載されました。
北里研究所病院糖尿病センター山田悟医師が執筆しておられます。
脂質制限食が、本当に心血管疾患を予防できるのか否か、近年、世界で論争となっています。
従来の常識では
「動物性脂肪の主成分の飽和脂肪酸が脳心血管イベントに良くないので、植物性脂肪を中心に不飽和脂肪酸を摂取するのがよい」
ということが過去言われてきました。
これに対して、例えば 2010年のAm J Clin Nutr(臨床栄養学雑誌)に、メタアナリシスと総説が発表されました。
21論文、約35万人をメタアナリシスして、5~23年追跡して1.1万人の脳心血管イベントが発生しました。
そして飽和脂肪摂取量と脳心血管イベントハザード比を検証してみると、飽和脂肪酸摂取量と脳心血管イベント発生は、関係がないことが明らかとなりました。(*)
今回,1983年以前に報告されていたランダム化比較試験(RCT)7論文を、メタ解析した結果「脂肪制限は冠動脈疾患死や全死亡を全く予防できていない」と結論づけた論文がOpen Heart(2015; 2: e000196)に報告されました。
Open HeartはBMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)の姉妹誌です。
さらに、日本人が対象の日本のコホート研究において、脂質摂取とさまざまなアウトカムとの間に相関がないか、負の相関があるそうです。
それも1件だけではなく、複数のコホート研究においてそうした負の相関が認められているとのことです。
つまり脂肪制限どころか、しっかり食べた方が総死亡率が減る可能性が高いわけです。
糖質セイゲニストにとって、大変嬉しい追い風が世界でも日本でも吹いてきましたね。
(*)
Siri-Tarino, P.W., et al., Meta-analysis of prospective cohort studies evaluating the association of saturated fat with cardiovascular disease. Am J Clin Nutr, 2010. 91(3): p. 535-46.
☆☆☆
以下MT Pro記事から一部抜粋
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/doctoreye/dr150303.html
脂質制限ガイドラインは間違っている?
RCTのメタ解析からは脂質制限の結論は得られない
北里研究所病院糖尿病センター 山田 悟
研究の背景:脂質制限に対する批判論が世界的に噴出
多くの学会のガイドラインは心血管疾患の予防のために脂質摂取を制限するよう求めてきた。わが国の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012』でも脂肪エネルギー比を20~25%にするようにとの記述があり(p57),それは『動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002』(p25)から一貫したものである。
米国においては1977年に「Dietary goals for the United States 1st ed.」,英国においては1983年に「A discussion paper on proposals for nutritional guidelines for health education in Britain」と,脂質制限を求めるガイドラインが初めてつくられたが,逆に高脂質食による介入で心血管疾患が予防されることを明らかにしたPREDIMED試験(N Engl J Med 2013; 368: 1279-1290)や,飽和脂肪酸をω-6リノール酸に置換する介入でかえって心血管疾患が増えることを示したSydney Diet Heart Studyの結果が報告されて以降(BMJ 2013; 346: e8707),がぜん,脂質制限に対する批判論が世界的に噴出してきている(Adv Nutr 2013; 4: 294-302,BMJ 2013; 347: f6340,Ann Nutr Metab 2013; 63: 159-167,Eur J Nutr 2015年2月4日オンライン版)。
今回,1983年以前に報告されていたランダム化比較試験(RCT)をメタ解析しても,脂肪制限は冠動脈疾患死や全死亡を全く予防できておらず,こうした英米のガイドラインはその成立時点から間違っていたとする論文がBMJの姉妹誌Open Heart(2015; 2: e000196)に報告されたのでご紹介したい。
研究のポイント1:
6件のRCT,7本の論文をメタ解析の対象に
本研究では,英国・西スコットランド大学を中心とした研究者らが,MEDLINE,Cochrane Libraryのデータベースから,“RCTで,脂質摂取やコレステロール摂取への介入を行い,1年以上の試験期間をもっていて,全死亡率がアウトカムとして報告されている研究”を収集した。EMBASEなどの他の有名なデータベースは,当時の試験の登録数が十分でないことから対象とされなかった。
当初の検索で98本の論文がヒットしたが,題名や抄録から80本が除外され,非ランダム化比較試験であったり,クロスオーバー試験であったりすることなどからさらなる除外をして,最終的に6件の研究,7本の論文が採用された。この検索は2人の研究者が独立して担当し,最終的な6件の研究の採用においては両者が同意したという。6件のうち,3件はアウトカム評価に対して盲検化しており,3件はアウトカム評価に非盲検であった。
研究のポイント2:
脂質制限は全死亡予防にも冠動脈疾患死予防にも無効
その結果,これらのRCTは2,467人の被検者を含んでおり(脂質制限群1,227人,対照群1,240人),計740人が死亡(うち冠動脈疾患死が423人)していた。脂質制限群の死亡者数はいずれも370人で同数であり,死亡率は脂質制限群では30.2%,対照群では29.8%で有意差はなかった(図1)。
dr150303_fig1.jpg
冠動脈疾患死については脂質制限群で207人,対照群で216人であり,やはり両者に有意差はなかった(図2)。
dr150303_fig2.jpg
私の考察:日本においては脂質摂取は奨励されるべき?
世界中が脂質制限食を推奨する契機となった論文として有名なのはSeven Countries Study〔Circulation 1970; 41(4 suppl): I186-I195〕である。しかし,この研究は観察研究であり,今のEvidence-Based Medicine(EBM:科学的根拠に基づく医療)※ではエビデンスレベルが低い研究という位置付けになる。今回の研究者らは1983年に英国の最初の脂質制限ガイドラインができるまでに報告されていたRCTを収集し,1990年代に確立されたEBM(JAMA 1993; 270: 2093-2095)の観点から,それら英米のガイドラインが妥当だったといえるかどうかを検証しようとしたのである。そして,そうした現在のEBMの観点で見ると,1977年や1983年に作成された脂質制限を推奨するガイドラインは,全くもってエビデンスに基づいておらず,そのような結論にはならないはずだというのが今回の論文の著者Harcombe氏らの主張である。
一方,本論文のEditorialで英国保健サービス(NHS)の循環器医であるBahl氏は「今回のRCTのメタ解析で脂質制限食の有効性が示されなかったことは,アドヒアランスのことを考えれば驚くべきものではなく,既存の観察研究における脂質摂取と心血管疾患の正の相関を考えれば,脂質制限を推奨するガイドラインを改訂する必要はない」との反論をしている(Open Heart2015; 2: e000229)。
例えてみれば,「睡眠時間を7時間以上にすれば,居眠り運転を減らせる」という仮説があったとして,そのような指導へのアドヒアランスは実社会で高いわけはなく,そのような指導をすることの価値がRCTで示されなかったとしても,それでも「睡眠時間を7時間以上にすべきだ」という文言をガイドラインに残したい,という主張をしているのがBahl氏であり,そんな指導には実効性がないから意味がないと主張しているのがHarcombe氏らなのかもしれない。そう考えると,両者の主張はそれぞれに理解ができるものとなる。
ただ,そうはならないのがわが国である。わが国の観察研究では,脂質摂取とさまざまなアウトカムとの間に相関がないか,負の相関があるのである。それも1件だけではなく,複数のコホート研究においてそうした負の相関が認められている。ここ数年間で報告された総脂質摂取と死亡率の関係もそうである(JACC; Nutr Metab 2014; 11: 12,J Nutr 2012; 142: 1713-1719)。さらに,トランス脂肪酸を除いて最も心血管イベントと関連すると疑われている飽和脂肪酸に限定して,心血管イベントとの相関を見てもそうである(JPHC; Eur Heart J 2013; 34: 1225-1232,JACC; Am J Clin Nutr 2010; 92: 759-765,LSS; Stroke 2004; 35: 1531-1537)。
そう考えると,仮に欧米のガイドラインに(欧米人の観察研究のデータを基に)脂質摂取を制限すべきだとする文言が残ったとしても,わが国では(日本人の観察研究のデータを基に)脂質摂取を増やすべきだと主張することはあっても,制限すべきだとする根拠は存在しないことになる。
昨年,雑誌Time(2014年6月23日号)が表紙に「Eat Butter」という文字を載せ,脂質制限をやめるように(ending the war on fat)と全米に勧告したが,実は,わが国でも,昨年報告された日本人の食事摂取基準2015で,脂質摂取の目安量がエネルギー比率20~30%とされ,食事摂取基準2010における20~25%が緩和されていた。実は,既にわが国でも脂質制限の時代は終焉を迎え始めているのかもしれない。
2009年06月30日 (火)
こんにちは。
世の中相変わらず「脂肪悪玉説」が蔓延っていますね。( ̄_ ̄|||)
糖質制限食を実践すれば、相対的に高脂肪食になります。「脂肪悪玉説」には反論しておかなくてはなりませんせんね。('-^*)☆
以下は、国立健康・栄養研究所 生活習慣病研究部で、2002年に作成された<高脂血症とインスリン抵抗性>という論文の要旨です。
「脂肪摂取量の増大はインスリン抵抗性を引き起こす最も重要な環境因子である。これは、高脂肪食の摂取により肥満が発症し、それによって脂肪組織や筋肉での糖の取り込みが低下するためと考えられている。
その機序として、筋肉や肝臓への脂肪の過剰蓄積による代謝異常、脂肪細胞の肥大化によるTNF-αやレプチンなどの生理活性物質の分泌増加が考えられる。
また、インスリン依存的に血中から脂肪組織に糖を輸送するGLUT4 は、高脂肪食の摂取でmRNA発現量が減少することから、高脂肪食誘導性のインスリン抵抗性発症に関与している可能性がある。
しかし、脂肪には様々な種類があり、摂取する脂肪の質の違いによってインスリン抵抗性の発症は大きく異なる。一般に、飽和脂肪酸はインスリン抵抗性を来しやすい。
また、マウスに高脂肪食を負荷した研究では、リノール酸を多量に含む紅花油の摂取はインスリン抵抗性を発症しやすく、一方、魚油はインスリン抵抗性の発症が改善される傾向にあった。
魚油によるインスリン抵抗性の改善には、肝臓での脂肪合成の抑制と熱産生の増加が寄与していると考えられる。これらの成績は、インスリン抵抗性の予防法として食事療法が重要であることを強く示唆している。」
国立健康・栄養研究所の論文ですから、権威あるものなのでしょうが、「高脂肪食の摂取により肥満が発症」という常識から出発して論じておられます。
しかし、これはマウスにおいては兎も角、少なくともヒトにおいては、根拠のない神話です。
ヒトの体重減少に関しては、2008年のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに、イスラエルの研究報告が発表されました。(NENGLJ MED JULY17,2008、 VOL359. NO.3 229-241)これは、322人を2年間追跡した権威ある疫学的研究です。
<低炭水化物法が最も体重減少。HDL-Cも増加。>
• イスラエルの322人(男性86%)
• (1)低脂肪法(カロリー制限あり)
• (2)オリーブ油の地中海法(カロリー制限あり)
• (3)低炭水化物法(カロリー制限なしのアトキンス式ダイエット)
• 3グループの食事法を2年間経過観察。
• 低炭水化物法が最も体重減少。HDL-Cも増加。
• NENGLJ MED JULY17,2008、 VOL359. NO.3 229-241
「低炭水化物食(糖質制限食)が最も体重を減少させ、HDL-Cを増加させた。」ということで、長年の食事療法の論争に決着がついたと思います。アトキンス式の低炭水化物食ですから、当然高脂肪食です。
このように、ヒトにおいては、高脂肪・低炭水化物食がもっとも体重減少効果があることが証明されましたので、国立健康・栄養研究所の論文は出発点から問題ありですね。
「一般に、飽和脂肪酸はインスリン抵抗性を来しやすい。また、マウスに高脂肪食を負荷した研究では、リノール酸を多量に含む紅花油の摂取はインスリン抵抗性を発症しやすく、一方、魚油はインスリン抵抗性の発症が改善される傾向にあった。」
これもマウスの実験が根拠になっているなら、ヒトに当てはまるかどうかは疑問ですね。
なぜこのような間違いが生じるのでしょうか?。一つには例の脂肪悪玉説という「常識の壁」があります。
もう一つはこれも別の意味の医学界の常識の壁なのですが、どんな研究でも手軽なので、マウスやラットが実験動物として使われやすいことがあります。
しかし、マウスで高脂肪食の実験をすること自体が、根本的なカテゴリー・エラーなのです。(*- -)(*_ _)
なぜなら、マウスなどネズミ類は、本来の主食は草の種子(即ち今の穀物)です。草原が地球上の有力な植生として現れる鮮新世(510万年前)以降ネズミ科の動物が出現して爆発的に繁栄します。510万年間、草原の草の種子(穀物)を食べ続けてきたネズミに、高脂肪食を与えれば、代謝が破綻するのは当たり前です。
これは単純に、マウスの代謝に合わない(主食でない)高脂肪食を与えて病気を作るという実験です。インスリン抵抗性を始めとして、全ての代謝が狂って病気だらけになるのもいわずもがなです。
例えば、ゴリラの主食は「棘の多い大きな蔓や大きな草」です。ゴリラに高脂肪食を食べさせたら、代謝はガタガタになり、マウスと同様、たちどころに様々な病気になるでしょう。
人類の主食が島泰三氏の説(親指はなぜ太いのか・中公新書)の如く「骨、骨髄」であったかは兎も角 、穀物で無かったことは確実です。そして歴史的事実として、農耕の前は人類皆、糖質制限食でした。
またヒトの進化の過程で脳が急速に大きくなり、シナプシスが張り巡らされるためには、EPAとDHAの摂取が不可欠です。EPAとDHAは地上の植物性食品には含まれていません。
従って少なくとも、肉・骨髄・昆虫・地虫・魚貝・・・などの高蛋白・高脂肪食を、脳が急速に発達した20万年前頃、主食として食べてたことは間違いないでしょう。
結論です。
薬物の作用や毒性をネズミ類で動物実験するのは、研究方法として特に問題はないと思います。(動物実験自体の是非はおいておきます。)しかし、本来主食が全く異なるマウス・ラットなどネズミ類で、人類の食物代謝の研究をおこなうのは出発点から根本的に間違っています。
研究者の皆さん、「薬物の動物実験」と「食物の動物実験」は、全く意味が異なることを、認識してほしいと思います。そこのところ、是非よろしくお願い申し上げます。 m(_ _)m
江部康二
世の中相変わらず「脂肪悪玉説」が蔓延っていますね。( ̄_ ̄|||)
糖質制限食を実践すれば、相対的に高脂肪食になります。「脂肪悪玉説」には反論しておかなくてはなりませんせんね。('-^*)☆
以下は、国立健康・栄養研究所 生活習慣病研究部で、2002年に作成された<高脂血症とインスリン抵抗性>という論文の要旨です。
「脂肪摂取量の増大はインスリン抵抗性を引き起こす最も重要な環境因子である。これは、高脂肪食の摂取により肥満が発症し、それによって脂肪組織や筋肉での糖の取り込みが低下するためと考えられている。
その機序として、筋肉や肝臓への脂肪の過剰蓄積による代謝異常、脂肪細胞の肥大化によるTNF-αやレプチンなどの生理活性物質の分泌増加が考えられる。
また、インスリン依存的に血中から脂肪組織に糖を輸送するGLUT4 は、高脂肪食の摂取でmRNA発現量が減少することから、高脂肪食誘導性のインスリン抵抗性発症に関与している可能性がある。
しかし、脂肪には様々な種類があり、摂取する脂肪の質の違いによってインスリン抵抗性の発症は大きく異なる。一般に、飽和脂肪酸はインスリン抵抗性を来しやすい。
また、マウスに高脂肪食を負荷した研究では、リノール酸を多量に含む紅花油の摂取はインスリン抵抗性を発症しやすく、一方、魚油はインスリン抵抗性の発症が改善される傾向にあった。
魚油によるインスリン抵抗性の改善には、肝臓での脂肪合成の抑制と熱産生の増加が寄与していると考えられる。これらの成績は、インスリン抵抗性の予防法として食事療法が重要であることを強く示唆している。」
国立健康・栄養研究所の論文ですから、権威あるものなのでしょうが、「高脂肪食の摂取により肥満が発症」という常識から出発して論じておられます。
しかし、これはマウスにおいては兎も角、少なくともヒトにおいては、根拠のない神話です。
ヒトの体重減少に関しては、2008年のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに、イスラエルの研究報告が発表されました。(NENGLJ MED JULY17,2008、 VOL359. NO.3 229-241)これは、322人を2年間追跡した権威ある疫学的研究です。
<低炭水化物法が最も体重減少。HDL-Cも増加。>
• イスラエルの322人(男性86%)
• (1)低脂肪法(カロリー制限あり)
• (2)オリーブ油の地中海法(カロリー制限あり)
• (3)低炭水化物法(カロリー制限なしのアトキンス式ダイエット)
• 3グループの食事法を2年間経過観察。
• 低炭水化物法が最も体重減少。HDL-Cも増加。
• NENGLJ MED JULY17,2008、 VOL359. NO.3 229-241
「低炭水化物食(糖質制限食)が最も体重を減少させ、HDL-Cを増加させた。」ということで、長年の食事療法の論争に決着がついたと思います。アトキンス式の低炭水化物食ですから、当然高脂肪食です。
このように、ヒトにおいては、高脂肪・低炭水化物食がもっとも体重減少効果があることが証明されましたので、国立健康・栄養研究所の論文は出発点から問題ありですね。
「一般に、飽和脂肪酸はインスリン抵抗性を来しやすい。また、マウスに高脂肪食を負荷した研究では、リノール酸を多量に含む紅花油の摂取はインスリン抵抗性を発症しやすく、一方、魚油はインスリン抵抗性の発症が改善される傾向にあった。」
これもマウスの実験が根拠になっているなら、ヒトに当てはまるかどうかは疑問ですね。
なぜこのような間違いが生じるのでしょうか?。一つには例の脂肪悪玉説という「常識の壁」があります。
もう一つはこれも別の意味の医学界の常識の壁なのですが、どんな研究でも手軽なので、マウスやラットが実験動物として使われやすいことがあります。
しかし、マウスで高脂肪食の実験をすること自体が、根本的なカテゴリー・エラーなのです。(*- -)(*_ _)
なぜなら、マウスなどネズミ類は、本来の主食は草の種子(即ち今の穀物)です。草原が地球上の有力な植生として現れる鮮新世(510万年前)以降ネズミ科の動物が出現して爆発的に繁栄します。510万年間、草原の草の種子(穀物)を食べ続けてきたネズミに、高脂肪食を与えれば、代謝が破綻するのは当たり前です。
これは単純に、マウスの代謝に合わない(主食でない)高脂肪食を与えて病気を作るという実験です。インスリン抵抗性を始めとして、全ての代謝が狂って病気だらけになるのもいわずもがなです。
例えば、ゴリラの主食は「棘の多い大きな蔓や大きな草」です。ゴリラに高脂肪食を食べさせたら、代謝はガタガタになり、マウスと同様、たちどころに様々な病気になるでしょう。
人類の主食が島泰三氏の説(親指はなぜ太いのか・中公新書)の如く「骨、骨髄」であったかは兎も角 、穀物で無かったことは確実です。そして歴史的事実として、農耕の前は人類皆、糖質制限食でした。
またヒトの進化の過程で脳が急速に大きくなり、シナプシスが張り巡らされるためには、EPAとDHAの摂取が不可欠です。EPAとDHAは地上の植物性食品には含まれていません。
従って少なくとも、肉・骨髄・昆虫・地虫・魚貝・・・などの高蛋白・高脂肪食を、脳が急速に発達した20万年前頃、主食として食べてたことは間違いないでしょう。
結論です。
薬物の作用や毒性をネズミ類で動物実験するのは、研究方法として特に問題はないと思います。(動物実験自体の是非はおいておきます。)しかし、本来主食が全く異なるマウス・ラットなどネズミ類で、人類の食物代謝の研究をおこなうのは出発点から根本的に間違っています。
研究者の皆さん、「薬物の動物実験」と「食物の動物実験」は、全く意味が異なることを、認識してほしいと思います。そこのところ、是非よろしくお願い申し上げます。 m(_ _)m
江部康二
2009年05月21日 (木)
こんばんは。
本日は、大阪で第52回日本糖尿病学会年次学術集会があり、東海大学医学部の、山門一平先生、大櫛陽一先生、金大成先生、そして共同演者の江部康二により、
「2型糖尿病における低炭水化物食の有用性とテーラーメード運動処方」
という演題で学会発表が行われました。
日本糖尿病学会では、糖質制限食関係の学術発表は、おそらく初の快挙と思います。ヾ(^▽^)
私も当然、参加する予定でしたが、新型インフルエンザの蔓延地域ということで、誠に遺憾ながら自粛しました。楽しみにしていたのでとても残念でした。 (*_*)
さて、脂肪悪玉説は間違いだった!シリーズの第2弾です。
③メタ解析論文
ハーバート大学のMalik博士ら が2007年、権威ある医学雑誌に
「従来の脂肪制限食は減量における長期有用性および心臓血管病のリスク軽減に関して否定的である。」
とメタ解析論文で報告しました。(*)
この雑誌は、世界心臓連合(WHF)が発行する公式誌で、診断や治療法の研究成果を取り上げています。メタ解析というのは、過去の多数の論文のデータを集めて、改めて分析する手法です。
Malik博士の場合は過去の11の論文を集めて解析しました。
「肥満・心臓病→脂肪の摂りすぎ→脂肪悪玉説」という従来の常識を根底から覆す結論でした。
*V.S.Malik, F.B.Hu: Popular weight-loss diets: from evidence to practice, Nature Clinical Practice Cardiovascular Medicine(2007), 4:34-41 )
④全米健康栄養調査(NHANES)
全米健康栄養調査によれば
1971年 2000年
総カロリーのうち脂質の占める割合 36.9% 32.8%
総カロリーのうち糖質の占める割合 42.4% 49.0%
肥満率 14.5% 30.9%
30年間で、米国における脂質の摂取率は順調に減り続けています。しかし、肥満率は倍増です。この間増え続けたのは、糖質の摂取率です。この調査でも、脂肪悪玉説は、はっきり否定されています。
⑤米国厚生省疾病管理・予防センター(CDC) 発表
1995年 2005年
米国の糖尿病有病数 800万人 2080万人
肥満と同様に、いやそれ以上に糖尿病も増加しています。この間、米国の脂質摂取率は、減り続けています。増えているのは糖質摂取率です。
③④⑤を併せて検討すると、従来の「脂肪悪玉説」は、はっきり否定できます。
メタ解析研究論文において、脂肪摂取を減らしても体重減少効果も無かったし、心臓血管病のリスクも減らないことが確認されました。
また現実の全米健康栄養調査においても、脂質摂取率は減り続けているにも関わらず、肥満倍増が確認され、CDCの発表でも糖尿病も増え続けています。
代わりに浮上するのが「糖質摂取過剰→肥満・糖尿病増加」という構造です。
江部康二
本日は、大阪で第52回日本糖尿病学会年次学術集会があり、東海大学医学部の、山門一平先生、大櫛陽一先生、金大成先生、そして共同演者の江部康二により、
「2型糖尿病における低炭水化物食の有用性とテーラーメード運動処方」
という演題で学会発表が行われました。
日本糖尿病学会では、糖質制限食関係の学術発表は、おそらく初の快挙と思います。ヾ(^▽^)
私も当然、参加する予定でしたが、新型インフルエンザの蔓延地域ということで、誠に遺憾ながら自粛しました。楽しみにしていたのでとても残念でした。 (*_*)
さて、脂肪悪玉説は間違いだった!シリーズの第2弾です。
③メタ解析論文
ハーバート大学のMalik博士ら が2007年、権威ある医学雑誌に
「従来の脂肪制限食は減量における長期有用性および心臓血管病のリスク軽減に関して否定的である。」
とメタ解析論文で報告しました。(*)
この雑誌は、世界心臓連合(WHF)が発行する公式誌で、診断や治療法の研究成果を取り上げています。メタ解析というのは、過去の多数の論文のデータを集めて、改めて分析する手法です。
Malik博士の場合は過去の11の論文を集めて解析しました。
「肥満・心臓病→脂肪の摂りすぎ→脂肪悪玉説」という従来の常識を根底から覆す結論でした。
*V.S.Malik, F.B.Hu: Popular weight-loss diets: from evidence to practice, Nature Clinical Practice Cardiovascular Medicine(2007), 4:34-41 )
④全米健康栄養調査(NHANES)
全米健康栄養調査によれば
1971年 2000年
総カロリーのうち脂質の占める割合 36.9% 32.8%
総カロリーのうち糖質の占める割合 42.4% 49.0%
肥満率 14.5% 30.9%
30年間で、米国における脂質の摂取率は順調に減り続けています。しかし、肥満率は倍増です。この間増え続けたのは、糖質の摂取率です。この調査でも、脂肪悪玉説は、はっきり否定されています。
⑤米国厚生省疾病管理・予防センター(CDC) 発表
1995年 2005年
米国の糖尿病有病数 800万人 2080万人
肥満と同様に、いやそれ以上に糖尿病も増加しています。この間、米国の脂質摂取率は、減り続けています。増えているのは糖質摂取率です。
③④⑤を併せて検討すると、従来の「脂肪悪玉説」は、はっきり否定できます。
メタ解析研究論文において、脂肪摂取を減らしても体重減少効果も無かったし、心臓血管病のリスクも減らないことが確認されました。
また現実の全米健康栄養調査においても、脂質摂取率は減り続けているにも関わらず、肥満倍増が確認され、CDCの発表でも糖尿病も増え続けています。
代わりに浮上するのが「糖質摂取過剰→肥満・糖尿病増加」という構造です。
江部康二