2016年11月11日 (金)
おはようございます。
炭水化物の摂取比率が増え、ジャンクフードを食べるようになるといった食生活の変化は、イヌイットの健康、特にがんについてどのような変化をもたらしたのでしょうか。
イヌイットと糖質制限食とがん
このテーマを調べていると、「ランセット・オンコロジー」2008年9月号に掲載された信頼度の高い論文にたどり着きました(**)。以下はランセット・オンコロジー掲載論文の要約です。
『イヌイットは、アラスカ、カナダ北西、グリーンランドの極地に住んでいる。20世紀初頭まで、イヌイットには悪性腫瘍(がん)はほとんど存在しないと考えられてきた。しかし平均余命が延びることに伴い、ある特徴的なパターンが表れてきた。それは、EBウィルスに関連する鼻咽頭と唾液腺のがんのリスクが高く、白人に多い前立腺がん、精巣がん、造血器腫瘍(血液のがん)のリスクが低いというパターンだ。背景には、イヌイットの遺伝的・環境的要因が関係していると考えられる。
20世紀後半、イヌイットの社会はライフスタイル、生活環境に大きな変化が生じた。喫煙、食事、生殖に関わる要因が変化し、それに続いて肺がん、大腸がん、乳がんなどライフスタイルに関連するがんが大幅に増加した。このレビュー論文は、イヌイット集団におけるがん疫学に関する現在の知識を、イヌイット型のがんの特徴に重点を置いて要約したものである。』
ランセットは、英国の権威ある医学雑誌で、掲載誌は腫瘍学に特化したその姉妹誌です。この論文を基に、イヌイットとがんについて、糖質制限食の視点から考えてみたいと思います。
イヌイットの多くは、アラスカやカナダ、グリーンランドなどの極北地域に住んでいます。20世紀初頭まで約4000年間、小麦などの穀物や野菜はなく、糖質をほとんど取らない伝統的食生活を送っていました。まさにスーパー糖質制限食の実践例そのものと言えると思います。そしてそのころまでは、イヌイットには、がんはほとんど存在しなかったと考えられています。
その後の変化について、さらに(A)1950〜74年(B)75〜87年(C)88〜97年の三つの期間に分けて見てみたいと思います。
(A)、(B)、(C)の期間で、イヌイットの遺伝的、環境的要因から伝統的に多いがん「鼻咽頭(びいんとう)がん、唾液腺がん」と、生活習慣に関係のあるがん「肺がん、大腸がん、乳がん」の発生率を比較してみました。
「鼻咽頭がんと唾液腺がん」は、女性はあまり変化がなく、男性は少しだけ増加していました。一方、「肺がん、大腸がん、乳がん」は、(A)から(B)にかけて、男女共に倍以上に増加し、(B)から(C)にかけても、3〜4割増加していたのです。
「イヌイットとがん」に関して、整理してみます。
(1)イヌイットが伝統的食生活(スーパー糖質制限食)を守っている時は、がんは少なかった。
(2)EBウイルス初感染以後、鼻とのどと唾液腺のがんが急速に増加した。
(3)食生活や社会生活などのライフスタイルの変化と共に、急速に生活習慣に関係のあるがん(肺がん、乳がん、大腸がんなど)が増えていった。
糖質制限食という視点から見ると、イヌイットが伝統的食生活(スーパー糖質制限食)を守っていたときは、生活習慣に関係のあるがんはほとんど見られませんでした。
一方、小麦などの穀物が入ってきて約50年経過したころ、今までイヌイットにほとんどなかった、肺がん、大腸がん、乳がんなど生活習慣に関係のあるがんが増えてきました。
もちろん、たばこや飲酒の浸透も大きく影響したと思われます。しかし重要な鍵の一つである日常的な食生活について、最も大きな変化は、炭水化物の摂取比率の大幅な上昇だと思います。
近年の研究から、がん細胞のエネルギー源はブドウ糖だけであり、正常細胞のように脂肪酸やケトン体をエネルギー源にできないということが分かってきました。
そしてイヌイットとがんの歴史を振り返ってみると、生活習慣と関係のあるがんに関してはスーパー糖質制限食で予防できる可能性が高いと思われます。スーパー糖質制限食なら食後血糖値の上昇と高インスリン血症という酸化ストレスリスクが生じないのもがん予防において大きな利点です。
酸化ストレスは、糖尿病合併症・動脈硬化・老化・がん・アルツハイマー病・パーキンソン病・白内障などの元凶とされ、糖質セイゲニストにおいてはこれらの病気の予防も期待できるので、糖質制限食はまさに人類本来の食事、人類の健康食と言えます。
参考:
(**)Lancet Oncol. 2008 Sep;9(9):892-900.Cancer patterns in Inuit populations.Friborg JT, Melbye M.Department of Epidemiology Research, Statens Serum Institut, Copenhagen, Denmark.
炭水化物の摂取比率が増え、ジャンクフードを食べるようになるといった食生活の変化は、イヌイットの健康、特にがんについてどのような変化をもたらしたのでしょうか。
イヌイットと糖質制限食とがん
このテーマを調べていると、「ランセット・オンコロジー」2008年9月号に掲載された信頼度の高い論文にたどり着きました(**)。以下はランセット・オンコロジー掲載論文の要約です。
『イヌイットは、アラスカ、カナダ北西、グリーンランドの極地に住んでいる。20世紀初頭まで、イヌイットには悪性腫瘍(がん)はほとんど存在しないと考えられてきた。しかし平均余命が延びることに伴い、ある特徴的なパターンが表れてきた。それは、EBウィルスに関連する鼻咽頭と唾液腺のがんのリスクが高く、白人に多い前立腺がん、精巣がん、造血器腫瘍(血液のがん)のリスクが低いというパターンだ。背景には、イヌイットの遺伝的・環境的要因が関係していると考えられる。
20世紀後半、イヌイットの社会はライフスタイル、生活環境に大きな変化が生じた。喫煙、食事、生殖に関わる要因が変化し、それに続いて肺がん、大腸がん、乳がんなどライフスタイルに関連するがんが大幅に増加した。このレビュー論文は、イヌイット集団におけるがん疫学に関する現在の知識を、イヌイット型のがんの特徴に重点を置いて要約したものである。』
ランセットは、英国の権威ある医学雑誌で、掲載誌は腫瘍学に特化したその姉妹誌です。この論文を基に、イヌイットとがんについて、糖質制限食の視点から考えてみたいと思います。
イヌイットの多くは、アラスカやカナダ、グリーンランドなどの極北地域に住んでいます。20世紀初頭まで約4000年間、小麦などの穀物や野菜はなく、糖質をほとんど取らない伝統的食生活を送っていました。まさにスーパー糖質制限食の実践例そのものと言えると思います。そしてそのころまでは、イヌイットには、がんはほとんど存在しなかったと考えられています。
その後の変化について、さらに(A)1950〜74年(B)75〜87年(C)88〜97年の三つの期間に分けて見てみたいと思います。
(A)、(B)、(C)の期間で、イヌイットの遺伝的、環境的要因から伝統的に多いがん「鼻咽頭(びいんとう)がん、唾液腺がん」と、生活習慣に関係のあるがん「肺がん、大腸がん、乳がん」の発生率を比較してみました。
「鼻咽頭がんと唾液腺がん」は、女性はあまり変化がなく、男性は少しだけ増加していました。一方、「肺がん、大腸がん、乳がん」は、(A)から(B)にかけて、男女共に倍以上に増加し、(B)から(C)にかけても、3〜4割増加していたのです。
「イヌイットとがん」に関して、整理してみます。
(1)イヌイットが伝統的食生活(スーパー糖質制限食)を守っている時は、がんは少なかった。
(2)EBウイルス初感染以後、鼻とのどと唾液腺のがんが急速に増加した。
(3)食生活や社会生活などのライフスタイルの変化と共に、急速に生活習慣に関係のあるがん(肺がん、乳がん、大腸がんなど)が増えていった。
糖質制限食という視点から見ると、イヌイットが伝統的食生活(スーパー糖質制限食)を守っていたときは、生活習慣に関係のあるがんはほとんど見られませんでした。
一方、小麦などの穀物が入ってきて約50年経過したころ、今までイヌイットにほとんどなかった、肺がん、大腸がん、乳がんなど生活習慣に関係のあるがんが増えてきました。
もちろん、たばこや飲酒の浸透も大きく影響したと思われます。しかし重要な鍵の一つである日常的な食生活について、最も大きな変化は、炭水化物の摂取比率の大幅な上昇だと思います。
近年の研究から、がん細胞のエネルギー源はブドウ糖だけであり、正常細胞のように脂肪酸やケトン体をエネルギー源にできないということが分かってきました。
そしてイヌイットとがんの歴史を振り返ってみると、生活習慣と関係のあるがんに関してはスーパー糖質制限食で予防できる可能性が高いと思われます。スーパー糖質制限食なら食後血糖値の上昇と高インスリン血症という酸化ストレスリスクが生じないのもがん予防において大きな利点です。
酸化ストレスは、糖尿病合併症・動脈硬化・老化・がん・アルツハイマー病・パーキンソン病・白内障などの元凶とされ、糖質セイゲニストにおいてはこれらの病気の予防も期待できるので、糖質制限食はまさに人類本来の食事、人類の健康食と言えます。
参考:
(**)Lancet Oncol. 2008 Sep;9(9):892-900.Cancer patterns in Inuit populations.Friborg JT, Melbye M.Department of Epidemiology Research, Statens Serum Institut, Copenhagen, Denmark.
2016年11月10日 (木)
こんにちは。
イヌイットに関して、改定版の記事です。
今日の記事は、日本糖質制限医療推進協会発行の
「糖質制限通信 秋号 Vol.6 2016年10月」
に掲載されたものを基に書きました。
イヌイットと糖質制限食
スーパー糖質制限食に近い伝統的食生活を長期間続けてきた民族といえば、イヌイットが思い浮かびます。
グリーンランドで伝統的食生活を保っていたころのイヌイットの3大栄養素摂取比率は、「たんぱく質:47.1%、炭水化物:7.4%、脂質:45.5%」で、まさにスーパー糖質制限食でした。
これは1855年の成人イヌイットの食事をバングらが試算したデータです。
現代の高雄病院のスーパー糖質制限食が「たんぱく質:32%、炭水化物:12%、脂質:56%」ですから、当時のイヌイットでは、糖質摂取の少なさとたんぱく摂取比率の多さが、際立っています。
それが1976年の調査では、「たんぱく質:23%、炭水化物:38%、脂質:39%」に変化しました(*)。
約120年の間に、炭水化物の摂取比率が5倍に急上昇したことが分かります。
生活習慣の変化がもたらしたもの
カナダ東部極北地域では、1910年代にハドソン湾会社などの交易会社が進出し、各地に毛皮交易所が設置されました。そして食生活に大きな変化をもたらしました。例えばこの地域では、交易によって手に入れた小麦を使った「バノク」と呼ばれる無発酵パンが、20年代ごろから広まったとみられます。
このように欧米人との交流が徐々に盛んになるにつれ、がんについては異なるパターンを示すようになりました。
まず、一つ目の大きな変化は、ヘルペスウイルスの仲間である「EBウイルス」が外部からイヌイット社会に持ち込まれたことによって起きました。免疫がなかったことと民族的特性により、EBウイルスによる鼻とのど、そして唾液腺のがんが急速に増えたのです。
二つ目の大きな変化は、交流が活発になり40〜50年が経過した50年代から顕著になりました。たばこや飲酒、食事など生活習慣と関係のあるがん(肺がん、大腸がん、乳がんなど)が増加してきたのです。アルコール、たばこ、麻薬はかつてイヌイット社会になかったものですが、外部から持ち込まれて急速に浸透していき、人々を苦しめ大きな影を落とすこととなりました。
また、定住化、都市化、欧米化の進行により、食生活も大きく変化していきました。冒頭に述べたように、1976年の調査では1855年時と比べて、炭水化物の摂取比率は約30%も上昇しています。
また、1993年のカナダ・マギル大学の先住民栄養環境研究センターの調査に至ると、イヌイットの若者は、ハンバーガーやピザなどを好み、摂取カロリーの大半が、これら糖質を大量に含むジャンクフードでした。
続く。
参考:
(*)Am.J.Clin.Nutr.33:2657-2661.1980.
The composition of the Eskimo food in northwestern Greenland1’2
H. 0. Bang, M.D., Ph.D., J. Dyerberg, M.D., Ph.D., and
H. M. Sinclair, Prof, D.M., D. Sc., FR. C.P.
イヌイットに関して、改定版の記事です。
今日の記事は、日本糖質制限医療推進協会発行の
「糖質制限通信 秋号 Vol.6 2016年10月」
に掲載されたものを基に書きました。
イヌイットと糖質制限食
スーパー糖質制限食に近い伝統的食生活を長期間続けてきた民族といえば、イヌイットが思い浮かびます。
グリーンランドで伝統的食生活を保っていたころのイヌイットの3大栄養素摂取比率は、「たんぱく質:47.1%、炭水化物:7.4%、脂質:45.5%」で、まさにスーパー糖質制限食でした。
これは1855年の成人イヌイットの食事をバングらが試算したデータです。
現代の高雄病院のスーパー糖質制限食が「たんぱく質:32%、炭水化物:12%、脂質:56%」ですから、当時のイヌイットでは、糖質摂取の少なさとたんぱく摂取比率の多さが、際立っています。
それが1976年の調査では、「たんぱく質:23%、炭水化物:38%、脂質:39%」に変化しました(*)。
約120年の間に、炭水化物の摂取比率が5倍に急上昇したことが分かります。
生活習慣の変化がもたらしたもの
カナダ東部極北地域では、1910年代にハドソン湾会社などの交易会社が進出し、各地に毛皮交易所が設置されました。そして食生活に大きな変化をもたらしました。例えばこの地域では、交易によって手に入れた小麦を使った「バノク」と呼ばれる無発酵パンが、20年代ごろから広まったとみられます。
このように欧米人との交流が徐々に盛んになるにつれ、がんについては異なるパターンを示すようになりました。
まず、一つ目の大きな変化は、ヘルペスウイルスの仲間である「EBウイルス」が外部からイヌイット社会に持ち込まれたことによって起きました。免疫がなかったことと民族的特性により、EBウイルスによる鼻とのど、そして唾液腺のがんが急速に増えたのです。
二つ目の大きな変化は、交流が活発になり40〜50年が経過した50年代から顕著になりました。たばこや飲酒、食事など生活習慣と関係のあるがん(肺がん、大腸がん、乳がんなど)が増加してきたのです。アルコール、たばこ、麻薬はかつてイヌイット社会になかったものですが、外部から持ち込まれて急速に浸透していき、人々を苦しめ大きな影を落とすこととなりました。
また、定住化、都市化、欧米化の進行により、食生活も大きく変化していきました。冒頭に述べたように、1976年の調査では1855年時と比べて、炭水化物の摂取比率は約30%も上昇しています。
また、1993年のカナダ・マギル大学の先住民栄養環境研究センターの調査に至ると、イヌイットの若者は、ハンバーガーやピザなどを好み、摂取カロリーの大半が、これら糖質を大量に含むジャンクフードでした。
続く。
参考:
(*)Am.J.Clin.Nutr.33:2657-2661.1980.
The composition of the Eskimo food in northwestern Greenland1’2
H. 0. Bang, M.D., Ph.D., J. Dyerberg, M.D., Ph.D., and
H. M. Sinclair, Prof, D.M., D. Sc., FR. C.P.
2013年09月23日 (月)
【13/09/22 BM
世界ふしぎ発見
初めまして。
糖質制限を実践しHbA1c(JDS)が10.3(12/12/4)から5.0(13/6/5)になり、その後は5%台をうろうろしております。
先生の糖質制限食のお陰です。ありがとうございます。
昨日放送の世界ふしぎ発見でイヌイットの伝統食(生肉中心)は高脂肪食なのに心筋梗塞などの現代病にかかる人が少ないと紹介されていました。
番組では極寒地に住む動物の脂肪は牛や豚のそれとは質が違うため健康に良いと結論付けていましたが、あれは単に糖質制限では?と思いました。
糖質制限食の認知がさらに広がることを願います。】
こんにちは。
BM さんから、「イヌイットの伝統食と心筋梗塞の少なさ」についてコメントいただきました。
ありがとうございます。
BM さん。
糖質制限食でHbA1cがNGSP値なら10.7%→5.4%
で、素晴らしい改善です。
良かったです。
イヌイットは、生肉と生魚が主食という完全無欠の糖質制限食を四千年以上続けてきた民族ですが、有名なダイアベルグ博士の研究によると、心筋梗塞や脳梗塞が極めて少なかったことが報告されています。
同時期、同じくらいの高脂肪食を食べていたデンマーク人においては、心筋梗塞や脳梗塞が多発していたので、その差が注目されました。
このときダイアベルグ先生は、イヌイットの血液中にはデンマーク人に比べてはるかに多くのEPAが多く含まれていて、それがイヌイットに心筋梗塞や脳梗塞が少ない理由であると結論しました。
そして極寒地に住む動物(アザラシ、北極イワナ、シロイルカなど)の脂肪には、EPAが沢山含まれているのです。
これはこれで重要な発見であり、EPAはのちに薬(エパデールなど)となり、保険薬として日本でも販売されています。
しかしながら、血中EPAが高値というだけで心筋梗塞や脳梗塞が予防できるなら、糖尿病の人も肥満の人も、何でも好き放題食べてエパデールさえ内服しておけば、それでOKということになりますが、さすがにそんな都合のいいことはありません。
真実は、BMさんがご指摘のように、スーパー糖質制限食により、常に血流・代謝が常にスムースであり、血糖変動もほとんどなく酸化ストレスもないことの方が、大きな要因であったと思われます。
EPA高値はそれも少しあるかくらいのおまけに過ぎないと思います。
1920年代から、毛皮商人により小麦が持ち込まれるようになり、徐々にバノックという無発酵パンがイヌイットの主食となります。
小麦を日常的に食べるようになってしばらくすると、心筋梗塞や脳梗塞も米国・カナダと同等かそれ以上の頻度となってしまいました。
江部康二
2013年01月25日 (金)
こんばんは
2012年08月29日 毎日新聞の東京朝刊に面白い記事が載っていました。
縄文人の虫歯が結構多かったというお話です。
具体的には縄文人の虫歯率は8.2%で、40%を超える現代人や、農耕が始まった弥生時代の16.2~19.7%よりは低いのです。
しかし、先史時代のアメリカ先住民や近現代のイヌイットが3%未満であるのに比べると、縄文人の虫歯の多さは際だっています。
とても興味深かったので、藤田尚先生の「古病理学辞典」2012年(同成社)を購入して読んでみました。
縄文人:12000~2300年前 狩猟採集 虫歯率8.2%
弥生人(土井ヶ浜):2000年前 農耕 虫歯率19.7%
弥生人(三津):2000年前 農耕 虫歯率16.2%
現代日本人:1993年 虫歯率31.3%
アメリカ先住民:7600年前 狩猟採集 虫歯率0.4%
アメリカ先住民:3000年前 狩猟採集 虫歯率2.4%
オーストラリア先住民:近代 狩猟採集 虫歯率4.6%
イヌイット(グリーンランド):近代 狩猟採集 虫歯率2.2%
イヌイット(アラスカ):近代 狩猟採集 虫歯率1.9%
農耕開始して、穀物(糖質)を食べ始めて、虫歯が倍以上に増加したのは日本だけではなく、世界中で確認されています。
虫歯菌の代表として知られるストレプトコッカス・ミュータンスの餌は糖質なので、さもありなんです。
縄文人は、「狩猟」「採集」「漁労」の、3者が生業であり、ドングリや栗など堅果類を結構食べていました。
これらには、糖質が一定量、含まれています。
日本の旧石器時代人(9万年前~16000前)の生業は、狩猟(ナウマン象、マンモス、エゾ鹿・・・)であり
糖質はほとんんどなく、虫歯率もほぼゼロでした。
ちなみに旧石器時代のほとんどは、地球はウルム氷期と呼ばれる寒い時期で日本列島全体が針葉樹林に覆われており、どんぐりや栗など堅果類はないので採集不能だったのです。
日本の縄文時代でも、北海道の住民には虫歯が少なく2.4%くらいで、イヌイットやアメリカ先住民と同じくらいでした。
北海道には落葉樹がなくて針葉樹林であり、ドングリや栗がなかったので、青森以南の縄文人が「狩猟」「採集」「漁労」の3者が生業だったのに対して北海道縄文人は「狩猟」「漁労」の2者が主で「採集」がほとんどなかったことが、虫歯率が低かった理由です。
アメリカ先住民、オーストラリア先住民、イヌイットの虫歯率が低かったのも縄文人に比べて糖質摂取量が少なかったからです。
げに、糖質恐るべしですね。
江部康二
http://mainichi.jp/feature/news/20120829ddm014040189000c.html
歴史・迷宮解:歯から探る昔の健康/中 縄文、虫歯の陰に歯周病=佐々木泰造
毎日新聞 2012年08月29日 東京朝刊
甘いお菓子を食べる現代人に特有と思われがちな虫歯だが、自然とともに生きた縄文時代人も悩まされていた。藤田尚・新潟県立看護大准教授(47)=自然人類学=が遺跡から出土した古人骨を調べ、昔と今の虫歯のでき方を比較した。虫歯を予防するためには、単にヘルシーな自然食にすればいいというわけではなさそうだ。
縄文時代の早期から晩期までの13遺跡から出土した195体の歯3295本を藤田さんが調べたところ、虫歯が占める割合は8・2%だった。40%を超える現代人よりははるかに低いが、3%に満たない先史時代のアメリカ先住民や近現代のイヌイットに比べると、狩猟採集民としては突出して高い。
その原因として考えられるのが、植物食への依存だ。農耕社会では虫歯が激増することが世界的に知られている。日本列島の古人骨では、稲作農耕が始まった弥生時代の山口県・土井ケ浜遺跡で19・7%、佐賀県・三津遺跡で16・2%、古墳時代8・3%、室町時代14・6%、江戸時代12・1%と報告されている。
炭水化物を多く含む食物は虫歯の原因となりやすい。虫歯の病原菌(ストレプトコッカス・ミュータンス)が出す酵素によって、ショ糖から不溶性グルカン(バイオフィルム)というねばねばした物質が作られる。そこに他の細菌が付着して増殖し、歯垢(しこう)(プラーク)となる。ここで作られた酸が歯のカルシウム分を溶かす。
縄文人が食べかすを捨てた貝塚の考古学調査によって、縄文人はカロリー摂取を炭水化物に富んだ植物食に頼っていたとされている。クリなど木の実のでんぷんを主成分とする「縄文クッキー」は歯に引っ付きやすい。縄文人は炭水化物を虫歯になりやすい調理方法で食べていたようだ。
2012年08月29日 毎日新聞の東京朝刊に面白い記事が載っていました。
縄文人の虫歯が結構多かったというお話です。
具体的には縄文人の虫歯率は8.2%で、40%を超える現代人や、農耕が始まった弥生時代の16.2~19.7%よりは低いのです。
しかし、先史時代のアメリカ先住民や近現代のイヌイットが3%未満であるのに比べると、縄文人の虫歯の多さは際だっています。
とても興味深かったので、藤田尚先生の「古病理学辞典」2012年(同成社)を購入して読んでみました。
縄文人:12000~2300年前 狩猟採集 虫歯率8.2%
弥生人(土井ヶ浜):2000年前 農耕 虫歯率19.7%
弥生人(三津):2000年前 農耕 虫歯率16.2%
現代日本人:1993年 虫歯率31.3%
アメリカ先住民:7600年前 狩猟採集 虫歯率0.4%
アメリカ先住民:3000年前 狩猟採集 虫歯率2.4%
オーストラリア先住民:近代 狩猟採集 虫歯率4.6%
イヌイット(グリーンランド):近代 狩猟採集 虫歯率2.2%
イヌイット(アラスカ):近代 狩猟採集 虫歯率1.9%
農耕開始して、穀物(糖質)を食べ始めて、虫歯が倍以上に増加したのは日本だけではなく、世界中で確認されています。
虫歯菌の代表として知られるストレプトコッカス・ミュータンスの餌は糖質なので、さもありなんです。
縄文人は、「狩猟」「採集」「漁労」の、3者が生業であり、ドングリや栗など堅果類を結構食べていました。
これらには、糖質が一定量、含まれています。
日本の旧石器時代人(9万年前~16000前)の生業は、狩猟(ナウマン象、マンモス、エゾ鹿・・・)であり
糖質はほとんんどなく、虫歯率もほぼゼロでした。
ちなみに旧石器時代のほとんどは、地球はウルム氷期と呼ばれる寒い時期で日本列島全体が針葉樹林に覆われており、どんぐりや栗など堅果類はないので採集不能だったのです。
日本の縄文時代でも、北海道の住民には虫歯が少なく2.4%くらいで、イヌイットやアメリカ先住民と同じくらいでした。
北海道には落葉樹がなくて針葉樹林であり、ドングリや栗がなかったので、青森以南の縄文人が「狩猟」「採集」「漁労」の3者が生業だったのに対して北海道縄文人は「狩猟」「漁労」の2者が主で「採集」がほとんどなかったことが、虫歯率が低かった理由です。
アメリカ先住民、オーストラリア先住民、イヌイットの虫歯率が低かったのも縄文人に比べて糖質摂取量が少なかったからです。
げに、糖質恐るべしですね。
江部康二
http://mainichi.jp/feature/news/20120829ddm014040189000c.html
歴史・迷宮解:歯から探る昔の健康/中 縄文、虫歯の陰に歯周病=佐々木泰造
毎日新聞 2012年08月29日 東京朝刊
甘いお菓子を食べる現代人に特有と思われがちな虫歯だが、自然とともに生きた縄文時代人も悩まされていた。藤田尚・新潟県立看護大准教授(47)=自然人類学=が遺跡から出土した古人骨を調べ、昔と今の虫歯のでき方を比較した。虫歯を予防するためには、単にヘルシーな自然食にすればいいというわけではなさそうだ。
縄文時代の早期から晩期までの13遺跡から出土した195体の歯3295本を藤田さんが調べたところ、虫歯が占める割合は8・2%だった。40%を超える現代人よりははるかに低いが、3%に満たない先史時代のアメリカ先住民や近現代のイヌイットに比べると、狩猟採集民としては突出して高い。
その原因として考えられるのが、植物食への依存だ。農耕社会では虫歯が激増することが世界的に知られている。日本列島の古人骨では、稲作農耕が始まった弥生時代の山口県・土井ケ浜遺跡で19・7%、佐賀県・三津遺跡で16・2%、古墳時代8・3%、室町時代14・6%、江戸時代12・1%と報告されている。
炭水化物を多く含む食物は虫歯の原因となりやすい。虫歯の病原菌(ストレプトコッカス・ミュータンス)が出す酵素によって、ショ糖から不溶性グルカン(バイオフィルム)というねばねばした物質が作られる。そこに他の細菌が付着して増殖し、歯垢(しこう)(プラーク)となる。ここで作られた酸が歯のカルシウム分を溶かす。
縄文人が食べかすを捨てた貝塚の考古学調査によって、縄文人はカロリー摂取を炭水化物に富んだ植物食に頼っていたとされている。クリなど木の実のでんぷんを主成分とする「縄文クッキー」は歯に引っ付きやすい。縄文人は炭水化物を虫歯になりやすい調理方法で食べていたようだ。
2011年07月17日 (日)
おはようございます。
2011.07.15 (Fri)のブログ「糖質制限食のやり方のパターン」でビタミンCの必要性について述べました。
今回はビタミンCとイヌイット、そして糖質制限食と野菜ついて考えてみます。
4000年前、すでにカナダ極北やアラスカに、人類(モンゴロイド)が移住し居住していました。
現在のイヌイット文化と同様の生活様式をしていたとは、必ずしもいえませんが、セイウチ猟などを中心に生業としていたようです。
現在のイヌイットの生活様式の原型ですが、まず10世紀頃、アラスカイヌイットでホッキョククジラが主食の時代がありました。
その後200~300年で他の極北周囲地域、西はチュコト半島、東はグリーンランドまでホッキョククジラ猟が広まりました。この文化は、チューレ文化と呼ばれています。
12世紀から17世紀にかけて極北地域に寒冷化が起こり、それまで豊富だったクジラが少なくなりました。
そのため、クジラ以外のものを主食とせざるを得なくなり、各地域でチューレ文化は多様化して、独自の文化が形成されていきました。
イヌイットといえば、誰でもイメージするような、アザラシ猟をして雪の家に住むという文化は、15世紀頃に形成されました。
その後、ホッキョクイワナ、アザラシ、シロイルカ、カリブーといった食材がイヌイットの主食となっていきました。
この伝統的な食生活のころは、海生動物の生肉・内臓、生魚肉・内臓が主食で、穀物や野菜もなしで、果物もほとんどなしです。
海生動物や魚の内臓には、あるていどのビタミンCが含まれていると思いますが、野菜や果物ほどではありません。
イヌイットの好物であるマクタック(シロイルカの生皮)にビタミンCが含まれているとのことですが、量的には野菜や果物には到底及ばないと思われます。
キビヤックというイヌイット独特の発酵食品があります。
海鳥(ウミスズメ類)をアザラシの中に詰めこみ、地中に長期間埋めて作るそうです。
大変臭いそうですが、ビタミンCが豊富という説もあります。
しかし通常、発酵食品にはビタミンCは含まれていないと思います。
結局ビタミンCが豊富なのは、新鮮な野菜と果物、そしてサツマ芋とジャガ芋です。
内臓には少量含まれてますが、量的には野菜や果物には及びません。
こうなると、イヌイットが伝統的な食生活を続けていたころは、ビタミンCの補充はどうしていたのかという疑問が生じます。
イヌイットの伝統的食生活では、ビタミンC摂取量は少ない可能性が高いですし、ビタミンC血中濃度も低い可能性が高いです。
そして、ビタミンC不足による病気はどうなのでしょう?
1975年発表の、カナダの論文を読んでみました(*)。
やはりイヌイットのビタミンC摂取量は、カナダ白人と比較して、かなり少なかったです。
妊婦のビタミンCが不足していると、新生児高チロシン血症(**)になります。
イヌイットの高チロシン血症は、先天的なものではなく、ビタミンC不足によるものなので、ビタミンC投与で改善したと報告されています。
イヌイットの妊娠中の女性の平均ビタミンC摂取量は、28mg/日で、
血中ビタミンC濃度は、0.25mg/dl。
イヌイットの同年齢の非妊娠女性名の、平均ビタミンC摂取量は26mg/日で、
血中ビタミンC濃度は0.17mg/dl。
カナダの白人妊婦の、平均ビタミンC摂取量は、133mg/日で、
血中ビタミンC濃度は0.97mg/dl。
イヌイットの妊婦のビタミンC血中濃度は低くて、新生児高チロシン血症(**)の頻度が、カナダアングロサクソン人が0.5%に対して14.8%もありました。
イヌイットの血中ビタミンC濃度は、壊血病危険ラインの0.2mg/dl未満の場合も多く、歯肉出血が高率に見られたそうです。
イヌイットの場合は、血中ビタミンC濃度が低値であることは、壊血病と新生児高チロシン血症のリスクを高めていました。
イヌイットとビタミンC不足のことを考慮すると、スーパー糖質制限食においても、基本的には、野菜はしっかり摂取して、ビタミンCを確保することが必要と思います。
一方、アフリカのケニア南部からタンザニア北部にすむマサイ族は、血中ビタミンC濃度はイヌイットと同レベルの壊血病危険ライン0.2mg/dlの場合も多いのに、壊血病がみられないのは、不思議です。
またマサイ族と新生児高チロシン血症の文献は、英文でも発見できませんでした。
人類とビタミンC、謎は深まります。
江部康二
(*)
Neonatal hypertyrosinemia and evidence of deficiency of ascorbic acid
in Arctic and subarctic peoples
624-626 CMA JOURNAL/OCTOBER 4,1975/VOL.113
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1956727/pdf/canmedaj01544-0034.pdf
(**)メルクマニュアルより抜粋
チロシン血症
チロシン血症の子供では、アミノ酸のチロシンを完全に代謝することができません。このアミノ酸の代謝産物が蓄積するため、さまざまな症状が現れます。米国の一部の州では、新生児のスクリーニング検査でこの病気を調べています。
先天性チロシン血症にはI型とII型の2つのタイプがあります。I型チロシン血症が最も多くみられるのは、フランス系カナダ人やスカンジナビア系の子供です。普通、生後1年以内に肝臓や腎臓の機能障害、神経障害が起こります。そのため過敏性やくる病が現れたり、肝不全を起こして死亡することがあります。チロシン制限食はほとんど役に立ちません。治験段階の薬剤の中には毒性の代謝産物の生成を防ぐものがあり、I型チロシン血症の子供に効果があります。I型チロシン血症の子供の多くは、肝臓移植が必要になります。
II型チロシン血症はI型よりもまれな病気です。この病気の子供は精神遅滞を起こすことがあり、眼や皮膚にたびたび潰瘍が発生します。I型チロシン血症と異なり、チロシン制限食で病気の進行を防ぐことができます。
(***)チロシン
必須アミノ酸ではありませんが重要なアミノ酸であるチロシンは、フェニルアラニンという必須アミノ酸から作られます。
チロシンは脳や神経が正常に働くために必要不可欠なアミノ酸で、神経伝達物質であるドーパミン やノルアドレナリンの前駆体となり、脳機能を活性化させる働きがあります。
チロシンは感情や精神機能、性的衝動を脳内でつかさどる重要な神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリン の前駆体です。納豆やチーズ、みそなどの表面に白く析出してくる結晶や、若いタケノコの切り口に見られる白いアクがチロシン で水には溶けにくい性質があります。
2011.07.15 (Fri)のブログ「糖質制限食のやり方のパターン」でビタミンCの必要性について述べました。
今回はビタミンCとイヌイット、そして糖質制限食と野菜ついて考えてみます。
4000年前、すでにカナダ極北やアラスカに、人類(モンゴロイド)が移住し居住していました。
現在のイヌイット文化と同様の生活様式をしていたとは、必ずしもいえませんが、セイウチ猟などを中心に生業としていたようです。
現在のイヌイットの生活様式の原型ですが、まず10世紀頃、アラスカイヌイットでホッキョククジラが主食の時代がありました。
その後200~300年で他の極北周囲地域、西はチュコト半島、東はグリーンランドまでホッキョククジラ猟が広まりました。この文化は、チューレ文化と呼ばれています。
12世紀から17世紀にかけて極北地域に寒冷化が起こり、それまで豊富だったクジラが少なくなりました。
そのため、クジラ以外のものを主食とせざるを得なくなり、各地域でチューレ文化は多様化して、独自の文化が形成されていきました。
イヌイットといえば、誰でもイメージするような、アザラシ猟をして雪の家に住むという文化は、15世紀頃に形成されました。
その後、ホッキョクイワナ、アザラシ、シロイルカ、カリブーといった食材がイヌイットの主食となっていきました。
この伝統的な食生活のころは、海生動物の生肉・内臓、生魚肉・内臓が主食で、穀物や野菜もなしで、果物もほとんどなしです。
海生動物や魚の内臓には、あるていどのビタミンCが含まれていると思いますが、野菜や果物ほどではありません。
イヌイットの好物であるマクタック(シロイルカの生皮)にビタミンCが含まれているとのことですが、量的には野菜や果物には到底及ばないと思われます。
キビヤックというイヌイット独特の発酵食品があります。
海鳥(ウミスズメ類)をアザラシの中に詰めこみ、地中に長期間埋めて作るそうです。
大変臭いそうですが、ビタミンCが豊富という説もあります。
しかし通常、発酵食品にはビタミンCは含まれていないと思います。
結局ビタミンCが豊富なのは、新鮮な野菜と果物、そしてサツマ芋とジャガ芋です。
内臓には少量含まれてますが、量的には野菜や果物には及びません。
こうなると、イヌイットが伝統的な食生活を続けていたころは、ビタミンCの補充はどうしていたのかという疑問が生じます。
イヌイットの伝統的食生活では、ビタミンC摂取量は少ない可能性が高いですし、ビタミンC血中濃度も低い可能性が高いです。
そして、ビタミンC不足による病気はどうなのでしょう?
1975年発表の、カナダの論文を読んでみました(*)。
やはりイヌイットのビタミンC摂取量は、カナダ白人と比較して、かなり少なかったです。
妊婦のビタミンCが不足していると、新生児高チロシン血症(**)になります。
イヌイットの高チロシン血症は、先天的なものではなく、ビタミンC不足によるものなので、ビタミンC投与で改善したと報告されています。
イヌイットの妊娠中の女性の平均ビタミンC摂取量は、28mg/日で、
血中ビタミンC濃度は、0.25mg/dl。
イヌイットの同年齢の非妊娠女性名の、平均ビタミンC摂取量は26mg/日で、
血中ビタミンC濃度は0.17mg/dl。
カナダの白人妊婦の、平均ビタミンC摂取量は、133mg/日で、
血中ビタミンC濃度は0.97mg/dl。
イヌイットの妊婦のビタミンC血中濃度は低くて、新生児高チロシン血症(**)の頻度が、カナダアングロサクソン人が0.5%に対して14.8%もありました。
イヌイットの血中ビタミンC濃度は、壊血病危険ラインの0.2mg/dl未満の場合も多く、歯肉出血が高率に見られたそうです。
イヌイットの場合は、血中ビタミンC濃度が低値であることは、壊血病と新生児高チロシン血症のリスクを高めていました。
イヌイットとビタミンC不足のことを考慮すると、スーパー糖質制限食においても、基本的には、野菜はしっかり摂取して、ビタミンCを確保することが必要と思います。
一方、アフリカのケニア南部からタンザニア北部にすむマサイ族は、血中ビタミンC濃度はイヌイットと同レベルの壊血病危険ライン0.2mg/dlの場合も多いのに、壊血病がみられないのは、不思議です。
またマサイ族と新生児高チロシン血症の文献は、英文でも発見できませんでした。
人類とビタミンC、謎は深まります。
江部康二
(*)
Neonatal hypertyrosinemia and evidence of deficiency of ascorbic acid
in Arctic and subarctic peoples
624-626 CMA JOURNAL/OCTOBER 4,1975/VOL.113
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1956727/pdf/canmedaj01544-0034.pdf
(**)メルクマニュアルより抜粋
チロシン血症
チロシン血症の子供では、アミノ酸のチロシンを完全に代謝することができません。このアミノ酸の代謝産物が蓄積するため、さまざまな症状が現れます。米国の一部の州では、新生児のスクリーニング検査でこの病気を調べています。
先天性チロシン血症にはI型とII型の2つのタイプがあります。I型チロシン血症が最も多くみられるのは、フランス系カナダ人やスカンジナビア系の子供です。普通、生後1年以内に肝臓や腎臓の機能障害、神経障害が起こります。そのため過敏性やくる病が現れたり、肝不全を起こして死亡することがあります。チロシン制限食はほとんど役に立ちません。治験段階の薬剤の中には毒性の代謝産物の生成を防ぐものがあり、I型チロシン血症の子供に効果があります。I型チロシン血症の子供の多くは、肝臓移植が必要になります。
II型チロシン血症はI型よりもまれな病気です。この病気の子供は精神遅滞を起こすことがあり、眼や皮膚にたびたび潰瘍が発生します。I型チロシン血症と異なり、チロシン制限食で病気の進行を防ぐことができます。
(***)チロシン
必須アミノ酸ではありませんが重要なアミノ酸であるチロシンは、フェニルアラニンという必須アミノ酸から作られます。
チロシンは脳や神経が正常に働くために必要不可欠なアミノ酸で、神経伝達物質であるドーパミン やノルアドレナリンの前駆体となり、脳機能を活性化させる働きがあります。
チロシンは感情や精神機能、性的衝動を脳内でつかさどる重要な神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリン の前駆体です。納豆やチーズ、みそなどの表面に白く析出してくる結晶や、若いタケノコの切り口に見られる白いアクがチロシン で水には溶けにくい性質があります。