インスリンと血糖値
こんばんは。

昼間は暑かったけど、夜は涼しいですね。虫の音も、様になってきました。秋は一番好きな季節です。

さて今回は、スターレットさんから、インスリン血糖値についてコメント・質問をいただきました。

「09/09/22 スターレット
ご指導ください
お世話になります。私は、今身長177、体重53です。
少しやせ気味だと思うのですが、糖質制限食をしていいのでしょうか。
あと1Uのノボラピットでどのくらい血糖値が下がるのか?知りたいのですが、1500ルール?がいまいちよくわかりません。
先月から毎回の単位が半分になり1日32Uから18Uになりました。それで計算すると約83となり、しかし測定してみてもそんなに下がりません。平均35〜40位でしょうか。お手数ですが、今一度1Uでどれだけの血糖値が下がるかの予測計算方式や実践結果などを知りたいのですが、よろしくおねがいします。」


スターレットさん。
痩せ気味でも糖質制限食OKですが、脂質・タンパク質はしっかり摂取してエネルギー不足にならないようにしてくださいね。


1単位のノボラピッドインスリンが、どのくらい血糖値を下げるのかは個人差があります。ノボラピッドやヒューマログは超速効型インスリンです。追加分泌インスリンの役割を担っていて、毎食前に注射します。

ランタスやレベミルは長時間作用型のインスリンで、22時間程度持続しますので、基本は1日1回注射ですが、時に1日2回打つこともあります。こちらは基礎分泌インスリンの代わりを担っています。

それでは下記の計算法で、1単位のノボラピッドインスリンが、どのくらい血糖値を下げるか具体的に試してみましょう。

例えば
<朝空腹時血糖値測定>
<朝食前、超速効型インスリンを注射>
<朝食に摂取した糖質のグラム数を計算> 
<朝食後1時間血糖値測定>
を行います。

1gの糖質が体重64kgの2型糖尿人の血糖値を約3mg/dl上昇させます。

スターレットさんは53kgなので、
3mg×64kg/53kg=約3.6mg上昇させます。

これを基に、仮にインスリン注射前の空腹時血糖値が120mgとすれば、糖質50gを摂取すると、(50g×3.6mgで)ピークの食後1時間血糖値は180mg上昇して300mgになるはずです。

6単位の超速効型インスリンを打って、食後1時間の血糖値が160mgなら、インスリン注射により(300mg−160mg)=140mg血糖値が下がったことになります。そうすると1単位のインスリンが(140mg÷6単位)=23mg血糖値を下げたことになります。

1単位のインスリンがどのくらい血糖値を下げるかは、かなり個人差が大きいです。(10mg〜80mgなど)体調により少しはバラつくこともありますが、大雑把に自分のパターンを把握しておけば、血糖値の乱高下は起こりにくいですね。

スーパー糖質制限食を実践する場合は、1回の糖質摂取量が15〜20g程度になるので低血糖にならないよう注意が必要です。

通常今までのカロリー制限食(高糖質食)に比し、糖質制限食を実践するとインスリンの量は1/3程度になります。


江部康二

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
発症初期でのインスリン治療、1型と2型糖尿病
こんにちは。

今日は、お彼岸の法要で妙心寺までいってきました。久しぶりの般若心経と蝉の声がほどよく調和してました。

さて今回は米国のusa さんから、発病初期でのインスリン治療についてコメント・質問をいただきました。


「09/09/23 usa
発病初期でのインスリン治療

いつもお世話になりありがとうございます。こちらではどうしても日本の情報が無いので、またご意見をお聞かせ下さい、お願いします。
先日、発病後初めてCペプチドの検査を行い結果がきました。といっても正確な数値は知らされないのですが、手紙曰く、「low normal pancreatic insulin secretion(すい臓の基礎分泌量低下?)
」なので、食事の際、インスリン注射を始める事が必要だ」との事。インスリンはすい臓を痛めないし、今のあなたの分泌能力を保ち、また向上させるための効果もある」と付け加えています。
この数ヶ月、江部先生の「糖尿人の目標 糖尿病合併症予防のために」の数値を全てクリアしていたので、なぜインスリン注射が必要なのかと疑問に思いました。
そこで、他の日本の文献を調べたところ、同じような見解がでてきました。「発病初期でインスリンを分泌する力が比較的残っていれば、注射をすることで、すい臓のβ細胞は再び十分なインスリン分泌ができるまでに回復してくることもある」また、
すい臓に分泌能力が残っているときに始めないと、拒否し続けたために全く分泌できなくなり、結果的には大量のインスリンを投与しなくてはならなくなると、綴っています。これは本当なのでしょうか?
私は低血糖の副作用もあるし、できれば投与無しでやって行きたいのですが、前記のような魅力的な意見に心が迷ってしまいます。こちらの医師の言うべく今の時期にインスリン投与するべきか、それとも投与する必要がないのか、どのようにお考えになりますか?

私はまだGADの検査もしていないのですが、先日薦められたスターリクスという薬については一切話がなく、インスリンということは、1型なのでしょうか?空腹時血糖値は2時間値が100前後なので、それほど高くないと思うのですが。
2型でも、基礎分泌能力だんだん低下しているという患者さんもこちらのブロ
グにもいらっしゃいますよね。ということは、(失礼な意見かもしれませんが)糖質制限食はハネムーン期間を延ばしますが、いずれ万人のすい臓も分泌能力が無くなるのでしょうか? 1型、2型の区別が今ひとつ難しいです。」


usaさん。

高血糖を放置すると、膵臓のβ細胞がダメージを受けて、インスリン分泌能力が低下していきます。
カロリー制限食では食後高血糖が防げないので、徐々に分泌能力が落ちる可能性が極めて高いのです。

従って、カロリー制限食(高糖質食)を食べている糖尿人は、初期からインスリンを注射する選択肢もあるでしょう。

一方、糖質制限食で血糖コントロール良好となれば、そのようなことはおきません。糖質制限食だと、インスリン追加分泌はごく少量ですみ、膵臓も休養できるので疲弊していたβ細胞の回復も期待できます。

usaさん、糖尿人の目標を達成しておられるなら、インスリン注射はいりません。

糖尿病は、血糖を下げるインスリンというホルモンの作用不足によって引 き起こされる病気で、大きく1型と2型に分類されます。

インスリンには常時、分泌されている基礎分泌と、食事で血糖値が上がった時に分泌される追加分泌があります。

1型糖尿病は、多くが自己免疫疾患です。インスリンを分泌する膵臓のβ-細胞が、ウィルス感染などをきっかけに免疫の誤作動で破壊され、インスリンが分泌されなくなります。小児期におこることが多いです。急速に進行することが多いですが、成人発症の場合徐々に進行する場合もあります。

一方、2型糖尿病は、インスリン分泌低下とインスリン抵抗性の二つの要因により、結果としてインスリン作用不足となり、発症する糖尿病です。

インスリン分泌低下は長年の食生活習慣によるβ細胞の疲弊によることが多く、 インスリン抵抗性は肥満などによってインスリンの効きが悪くなることによります。

日本人の場合は、インスリン分泌不足が主、欧米人は、インスリン抵抗性が主のことが多いとされています。日本の糖尿病患者の95%は、2型糖尿病です。

usaさんも、糖質制限食で簡単に症状改善なのでまず2型糖尿病と考えられます。1型だと、糖質制限食でもインスリンなしでは、そう簡単には血糖コントロールはできませんので・・・


江部康二

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
インスリンその3 人類の食生活3段階
こんばんは。

インスリンシリーズその3です。

インスリンには、24時間少量持続して出ている基礎分泌のインスリンと、食後血糖値が上昇したときに、その10〜20倍の量がでる、追加分泌のインスリンがあります。

人類の歴史を歴史を振り返ってみると、追加分泌のインスリンの必要性は、くっきり3段階に分かれる、興味深い変化をたどっています。

<農耕の始まる前>
人類の歴史が400万年として、農耕が始まる前の399万年間は、食生活の中心は狩猟や採取であり穀物はないのですから、人類皆糖質制限食です。

血糖値を切り口に考えてみると、鮮明に変化が見えてきます。農耕が始まる前の人類の食生活なら、血糖値の上下動がほとんどありません。

例えば空腹時血糖値が100mg/dl程度と仮定して、食後の血糖値はせいぜい110〜120mg/dlくらいで、血糖値上昇の幅は10〜20mgていどの少なさです。これならインスリンの追加分泌はごく少量ですみます。勿論、基礎分泌のインスリンは絶対に必要です。

この頃は、実りの秋に果物やナッツなどを食べると血糖値がある程度上昇するので、初めて追加分泌インスリンの本格的出番がありました。

秋に追加分泌インスリンで果物やナッツから得た血糖を中性脂肪にかえて体内に蓄えて、来るべき冬の飢餓に備えたと考えられます。

<農耕の始まりと血糖値の変化とインスリン>
農耕が定着し、小麦や米のデンプン(糖質)を摂取するようになると、血糖値が急峻に上昇します。
糖質・脂質・タンパク質の三大栄養素の中で血糖値を急峻に上昇させるのは糖質だけです。

穀物(糖質)を摂取すれば、未精製のものでも空腹時血糖値が100mgとして、食後血糖値は140mgていどまで上昇し、インスリンが大量に追加分泌されます。血糖値上昇の幅は40mgもあり、狩猟・採集民だったころに比べると2倍に達しています。

こうなると1回のインスリンの追加分泌は、正常人では基礎分泌レベルの数倍〜10倍以上の量となります。

農耕以後の4000年間は、人類の膵臓β細胞は、それ以前に比べて毎日数倍〜10倍以上働き続けなくてはならず、まるで原罪を背負ったようなものなのです。

<精製炭水化物以後の血糖値とインスリン>
さらに18世紀に欧米で、小麦の精製技術が発明されます。白いパンの登場です。日本では、江戸中期には白米の習慣が定着していきます。すなわち、ここ200年〜300年間、世界で精製された炭水化物が摂取されるようになりました。

現代では、世界中の多くの国で、主食は白いパンか白米などの精製された穀物です。精製された炭水化物は、未精製のものに比して、さらに急峻に血糖値を上昇させます。

これらを食べると、空腹時血糖値が100mgとして、食後血糖値は160〜170mgまで上昇します。血糖値上昇の幅は60〜70mgで、狩猟・採集生活のころに比べると3倍に達しています。

これほど急激に血糖値を上昇させる食品は、400万年の人類史上、類をみないものです。追加分泌のインスリンは、未精製穀物摂取時に比し、さらに大量に分泌せざるを得ません。

インスリンを大量に分泌し続けて40〜50年、膵臓が疲弊すれば分泌能力はは低下し糖尿病になります。インスリン分泌能力が高い人は、さらに出し続けて肥満・メタボリックシンドロームになります。

追加分泌インスリンの必要性とβ細胞の酷使>
このように、人類の歴史をたどってみると、病態の構造がはっきり見えてみます。399万年間ほとんど必要のなかった追加分泌インスリンが農耕後は数倍から10倍レベル必要となりました。

精製炭水化物以後は、更に大量の追加分泌インスリンが必要となり、膵臓β細胞は日常的に酷使されるようになりました。運動不足はそれに拍車をかけます。現代はまさに膵臓受難の時代と言えます。糖尿病が世界中で激増しているのも、宜なるかなですね。


江部康二

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
インスリンその2 糖尿病発症との関係 
おはようございます。
今日で3日間、快晴に近いお天気です。

庭の蝉も出番到来とうるさいくらい鳴いてます。我が家の庭には何種類くらいの蝉がいるのでしょうかね?クマゼミ、アブラゼミ、ニイニイゼミくらいは確認したのですが・・・。

実は高校時代は生物班に所属してました。山に羊歯(しだ)を取りに行ったりとか・・・。
でも植物の名前も昆虫の名前もすっかり忘れてしまいましたね。

さて今回は、糖尿病発症とインスリン分泌能の関係を考えてみます。

2型糖尿病患者の非糖尿病の近親者を調べたら、追加分泌インスリンの第1相が欠如している人が時々いるようです。

つまり、先天的に膵臓のベータ細胞の機能がよろしくない一群の人達がいて、当然、将来糖尿病になりやすいというパターンが一つ存在するわけです。

順天堂大学の河盛隆造教授によれば、2型糖尿病患者の子供や孫など、若い人に経口ブドウ糖負荷試験を行うと、血糖値は正常を保っているが、30分インスリン値も2時間インスリン値も低い例が高率に見られたそうです。

このデータだと、遺伝的に追加分泌の第1相も第2相も不足気味の一群がいるといえます。これらの素因のある方々が長年精製炭水化物を摂取していると、もともと不足気味の追加分泌インスリンが、β細胞の疲弊によりさらに不足して、40代・50代で糖尿病発症ということになります。もともとの日本人に、一番多い糖尿病発症パターンでしょうか。

インスリン分泌指数( insulinogenic index):II  
という検査があります。

75gブドウ糖負荷試験における追加分泌能第1相の指標です。
II=<30分インスリン値−空腹時インスリン値>÷<30分血糖値空腹時血糖値
0.4以上あれば正常です。
0.4未満の場合、現在正常や境界型でも将来糖尿病になりやすいとされています。

一方で、2型糖尿病患者の非糖尿病の近親者を調べたら、インスリン抵抗性*が認められても、インスリン追加分泌の第1相反応は保たれている場合もあります。

例えば、経口ブドウ糖負荷試験で、血糖値が軽度上昇していて、30分インスリン値が高い例が近年増えているようです。(河盛教授)

これは、インスリン抵抗性が高まったため、インスリンが過剰に分泌されているパターンであり、脂肪肝や内臓脂肪肥満を伴っていることが多いようです。こちらは、インスリン分泌能力は保たれていますね。

このように、インスリン分泌低下とインスリン抵抗性(合わせてインスリンの作用不足)で糖尿病を発症しますが、日本人には分泌低下が主の糖尿人が多く、欧米人には抵抗性が主の糖尿人が多いとされています。

しかし、上述の如く、日本でもインスリン抵抗性が主の糖尿病が、少し増えてきているようです。

糖尿病を発症し、一旦、高血糖になってしまうと、高血糖そのものがベータ細胞にダメージを与えてインスリン分泌低下になり、また高血糖そのものがインスリン抵抗性を高めてしまいます。

高血糖インスリン分泌抑制とインスリン抵抗性増大→高血糖

この悪循環パターンを、臨床的には「糖毒」 と呼びます。

なぜ、高血糖自体がインスリン分泌を低下させるのか、インスリン抵抗性を増大させるのか、最先端の研究で調べられてはいるのですが、はっきり言ってまだよくわからないのが現状です。

糖質制限食を実践することで食後高血糖を防ぐことができるので、糖毒の悪循環を断ち切ることが可能です。

江部康二

参考文献
「今日の血糖コントロールの考え方」 
順天堂大学内科学 教授 河盛隆造 日本醫事新報 No.4193(2004年9月4日)

インスリン抵抗性

細胞レベルでインスリンの効きが悪くなることをいいます。
インスリン抵抗性は、HOMA-R指数が参考となります。空腹時の血糖値インスリン濃度から、以下の計算式によって求めます。

<HOMA-R=空腹時血糖値×空腹時インスリン濃度÷405>

インスリン分泌が比較的よく保たれている、軽症の糖尿病患者さんのインスリン抵抗性を把握する方法として、よく利用されています。

この数値が大きいほど、インスリン抵抗性が強いと考えられます。1.6以下が正常で、2.5以上は抵抗性があると考えられます。

しかし、空腹時血糖値140mg以下の場合はいいのですが、140mgを超える場合はやや信頼性が劣ります。


テーマ:糖尿病
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インスリン その1
おはようございます。

昨日、今日と、とてもよいお天気で、蝉が絶好調で鳴いています。8月3日、近畿もやっと梅雨明けだそうで、いよいよ本格的夏到来ですね。

さて今回は、インスリンのお話しです。

インスリンは人体で唯一血糖値を下げるホルモンで、膵臓ランゲルハンス島β細胞でつくられ分泌されます。

24時間少量持続的にでている基礎分泌のインスリンと、食後血糖値が上昇したときにその10〜20倍の量が出る追加分泌のインスリンがあります。

基礎分泌のインスリンの量では、筋肉・脂肪細胞などの糖輸送体*Glut4は、細胞内部に沈んでいるのでほとんど血糖を取り込むことができません。

糖質を摂取し血糖値が急上昇しインスリンが大量に追加分泌されると、Glut4が細胞表面に移動し、筋肉・脂肪細胞が血糖を取り込みます。

このとき余った血糖が中性脂肪に変わるので、インスリンは別名肥満ホルモンと呼ばれています。

追加分泌のインスリンには、即分泌される第1相と少し遅れて出る第2相があります。正常人は、血糖値が上昇し始めたら即インスリンが追加分泌されます。

この第1相反応は、もともとプールされていたインスリンが5〜10分間分泌されて、糖質摂取時の急激な食後高血糖を防いでいます。

その後、膵臓のベータ細胞は、第2相反応と呼ばれるやや少なめの持続するインスリン分泌を行います。

これは、食事における糖質の残りをカバーしています。即ち、糖質を摂取している間は、第2相のインスリン分泌が持続します。

2型糖尿病患者は、通常、第1相反応が低下或いはなくなっていることが多いようです。従って、糖質摂取時に血糖値の急激な上昇(グルコーススパイク)が起きてしまいます。

また、第二相も低下していることが多いので、糖質を摂取する限り、一旦上昇した血糖値はなかなか下がってきません。

糖質制限食ならば、食後高血糖はほとんど生じません。従って、追加分泌インスリンは、ごく少量ですみます。


(*)
糖輸送体(Glut:glucose transporter)

ブドウ糖が細胞膜を通過して細胞内に取り込まれるためには、グルコーストランスポーター(糖輸送体)と呼ばれる膜蛋白が必要です。

Glut1〜Glut12と HMITが報告されています。
Glut1(脳、赤血球、網膜などの糖輸送体)はインスリン非依存性で、常に細胞の表面にあり、
    血流さえあればすぐに血糖を取り込めます。
Glut2(肝臓、膵臓β細胞などの糖輸送体)はインスリン非依存性です。
Glut4(筋肉細胞、脂肪細胞の糖輸送体)はインスリン依存性です。


江部康二
テーマ:糖尿病
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