2016年07月14日 (木)
こんばんは。
糖質制限、長く続けるべきでない理由とは
http://kenko100.jp/articles/160713003987/#gsc.tab=0
という記事が、健康百科というサイトにのりました。
精神科医師Aさんにコメント頂きました。
以下、健康百科から一部抜粋です。
【ご飯やパン、麺類などの主食やイモ類などの炭水化物を減らす「糖質制限ダイエット(糖質制限食)」は、シンプルでわかりやすく、誰でもすぐに始められる人気のダイエット法だ。
ただ、腎臓の機能が落ちている場合など体の状態によっては糖質制限がさらに体調の悪化を招く場合も。
さらに、その減量効果が期待できるのは短い期間だけで、1年以上は続かないばかりか、長期的には死亡率を高めるとの研究結果も報告されているという。
5月19~21日に京都で開かれた日本糖尿病学会のシンポジウム「食事療法の新たなエビデンスを求めて」では、京都府立医科大学大学院内分泌代謝内科学の福井道明教授が、こうした医学的なデータを紹介した上で、糖質制限がどんな人に向いているのか、どんなことに注意すべきかなどについて解説した。】
腎機能障害に関しては、糖質制限食を実践するか否かは、個別対応であり、患者さんとよく相談しながら、毎月検査をして慎重に進めていく必要があります。
糖質制限食の減量効果に関しては、信頼度の高いRCT研究論文で、1年間のもの、2年間のもの、6年間のものが報告されています。
さらに、2015年12月、ランセットに、53のRCTのメタアナリシスによるシステマティック・レビューが掲載され、「低脂肪食よりも糖質制限食の方が減量効果が高い」と結論されています。
Lancet Diabetes Endocrinol 2015 Dec 01;3(12)968-979,
エビデンスレベルは最も上位にランクされますので、減量に関しては糖質制限食の圧勝と言っていいと思います。
さて、EBM(evidence based medicine、証拠に基づく医学)が、医学界を席巻しています。
しかしEBMだけに頼る医療には、明確に限界があります。
例えば糖質制限食に対して肯定的な研究論文もあれば否定的な研究論文もあります。
つまり、同じ糖質制限食に対して現実には結論の異なるEBMが存在するのです。
結局は、自分の頭で考えて、どちらのEBMを選択するかということになります。
次は長期的安全性について。
糖質制限食と「脳心血管疾患」について考えて見ます。
これらは、冠動脈疾患や脳卒中のことですので、ベースには動脈硬化の問題があります。
糖質制限食で動脈硬化のリスク要因となる
「コレステロール、中性脂肪、血糖、血圧、肥満など・・・」
全てが改善しますので少なくとも理論的には、動脈硬化の予防になると思います。
次は、糖質制限食の安全性を示す長期的エビデンスですね。
以下、4つの信頼度の高い研究があります。
1)ニューイングランドジャーナル掲載のコホート研究(冠動脈疾患)
低炭水化物・高脂肪・高タンパク食に冠動脈疾患のリスクなし。
82802人 20年間 2006年掲載 ハーバード大学
炭水化物摂取比率36.8±6.1%グループと58.8±7.0%のグループの比較。
一方総炭水化物摂取量は冠動脈疾患リスクの中等度増加に関連していた。
高GLは冠動脈疾患リスク増加と強く関連していた。
Halton TL, et al. Low-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women. New England Journal of Medicine 2006;355:1991-2002.
82802人の看護師を20年研究ですので、アンケートも緻密でニューイングランドジャーナルですから論文の信頼度も高いです。
炭水化物摂取比率36.8%の一番低い群から、58.8%の一番多い群まで10グループに分けての比較研究です。
GLはGlycemic Lord の略です。
GL(グリセミック・ロード)とは血糖負荷指数といった意味です。
<一人前の分量の食べ物に含まれる糖質のグラム数>×<その食べ物のGI>÷100で計算した数値が、GLです。
20以上が高、19~11が中、10以下が低とされています。
GL値とは、実際の食事でその食品の一人前の糖質分量を考慮して、どれだけ血糖値を上げやすいかを示す目安です。
糖質を多く摂取すると冠動脈疾患のリスクが増加し、糖質摂取比率が少なくても冠動脈疾患のリスクなしです。
2)コホート研究のメタアナリシス(脳心血管疾患)
21論文、約35万人をメタアナリシスして、5~23年追跡して1.1万人の脳心血管イベントが発生。
飽和脂肪摂取量と脳心血管イベントハザード比を検証してみると、飽和脂肪酸摂取量と脳心血管イベント発生は、関係がないことが判明。
Siri-Tarino, P.W., et al., Meta-analysis of prospective cohort studies evaluating the association of saturated fat with cardiovascular disease. Am J Clin Nutr, 2010. 91(3): p. 535-46.
メタアナリシスで、約35万人が対象の巨大な研究で、信頼度も高いです。
糖質制限食では、動物性脂肪の摂取を制限していないので、飽和脂肪酸の摂取量は一般食に比べてかなり多いです。
本研究により、飽和脂肪酸の摂取量は脳心血管疾患とは関係ないことがわかり、糖質制限食には大きな追い風です。
3)前向きコホート試験NIPPON DATA80(心血管死、総死亡率)
前向きコホート試験NIPPON DATA80 9200人 29年間 中村保幸ら。
第10分位(糖質摂取比率51.5%)のグループは、
第1分位(糖質摂取比率72.7%)のグループに比べて
女性においては心血管死のリスクが、59%、総死亡リスクが79%、
男女合わせると、それぞれ、74%、84%しかないという素晴らしい結論で、糖質制限群の圧勝。
Br J Nutr 2014; 112: 916-924
この研究は、日本人の研究です。
9200人を29年間ですので、大きな信頼度の高いコホート研究です。
糖質摂取比率が一番多い群から一番少ない群まで、10グループに分けて比較検討しています。
糖質摂取比率の少ない群は、多い群に比し、心血管死と総死亡リスクが有意に減っていますので、やはり糖質制限食には大きな追い風の研究です。
4)上海コホート研究(心血管疾患)
「糖質摂取量により4群に分けて、
糖質摂取量が多いほど心血管疾患の発症リスクが高い」
女性:糖質264g/日未満、264~282g未満、282~299g未満、299g以上
男性:糖質296g/日未満、296~319g未満、319~339g未満、339g以上
11万7366人を対象に、調べた研究。
女性が6万4,854人で、平均追跡期間が9.8年。
男性が5万2,512人で、mannnin 平均追跡期間が5.4年。
Am J Epidemiol. 2013 Nov 15;178(10):1542-9.
Dietary carbohydrates, refined grains, glycemic load, and risk of coronary heart disease in Chinese adults.
上海の研究です。
糖質を普通に食べている集団を、糖質摂取量により、4群に分けて比較検討しています。
11万7366人を平均9.8年追跡ですから、大きな信頼度の高いコホート研究です。
男女とも、糖質摂取量が多い群ほど心血管疾患の発症リスクが高いというわかりやすい結論です。
糖質の害、恐るべしです。
江部康二
糖質制限、長く続けるべきでない理由とは
http://kenko100.jp/articles/160713003987/#gsc.tab=0
という記事が、健康百科というサイトにのりました。
精神科医師Aさんにコメント頂きました。
以下、健康百科から一部抜粋です。
【ご飯やパン、麺類などの主食やイモ類などの炭水化物を減らす「糖質制限ダイエット(糖質制限食)」は、シンプルでわかりやすく、誰でもすぐに始められる人気のダイエット法だ。
ただ、腎臓の機能が落ちている場合など体の状態によっては糖質制限がさらに体調の悪化を招く場合も。
さらに、その減量効果が期待できるのは短い期間だけで、1年以上は続かないばかりか、長期的には死亡率を高めるとの研究結果も報告されているという。
5月19~21日に京都で開かれた日本糖尿病学会のシンポジウム「食事療法の新たなエビデンスを求めて」では、京都府立医科大学大学院内分泌代謝内科学の福井道明教授が、こうした医学的なデータを紹介した上で、糖質制限がどんな人に向いているのか、どんなことに注意すべきかなどについて解説した。】
腎機能障害に関しては、糖質制限食を実践するか否かは、個別対応であり、患者さんとよく相談しながら、毎月検査をして慎重に進めていく必要があります。
糖質制限食の減量効果に関しては、信頼度の高いRCT研究論文で、1年間のもの、2年間のもの、6年間のものが報告されています。
さらに、2015年12月、ランセットに、53のRCTのメタアナリシスによるシステマティック・レビューが掲載され、「低脂肪食よりも糖質制限食の方が減量効果が高い」と結論されています。
Lancet Diabetes Endocrinol 2015 Dec 01;3(12)968-979,
エビデンスレベルは最も上位にランクされますので、減量に関しては糖質制限食の圧勝と言っていいと思います。
さて、EBM(evidence based medicine、証拠に基づく医学)が、医学界を席巻しています。
しかしEBMだけに頼る医療には、明確に限界があります。
例えば糖質制限食に対して肯定的な研究論文もあれば否定的な研究論文もあります。
つまり、同じ糖質制限食に対して現実には結論の異なるEBMが存在するのです。
結局は、自分の頭で考えて、どちらのEBMを選択するかということになります。
次は長期的安全性について。
糖質制限食と「脳心血管疾患」について考えて見ます。
これらは、冠動脈疾患や脳卒中のことですので、ベースには動脈硬化の問題があります。
糖質制限食で動脈硬化のリスク要因となる
「コレステロール、中性脂肪、血糖、血圧、肥満など・・・」
全てが改善しますので少なくとも理論的には、動脈硬化の予防になると思います。
次は、糖質制限食の安全性を示す長期的エビデンスですね。
以下、4つの信頼度の高い研究があります。
1)ニューイングランドジャーナル掲載のコホート研究(冠動脈疾患)
低炭水化物・高脂肪・高タンパク食に冠動脈疾患のリスクなし。
82802人 20年間 2006年掲載 ハーバード大学
炭水化物摂取比率36.8±6.1%グループと58.8±7.0%のグループの比較。
一方総炭水化物摂取量は冠動脈疾患リスクの中等度増加に関連していた。
高GLは冠動脈疾患リスク増加と強く関連していた。
Halton TL, et al. Low-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women. New England Journal of Medicine 2006;355:1991-2002.
82802人の看護師を20年研究ですので、アンケートも緻密でニューイングランドジャーナルですから論文の信頼度も高いです。
炭水化物摂取比率36.8%の一番低い群から、58.8%の一番多い群まで10グループに分けての比較研究です。
GLはGlycemic Lord の略です。
GL(グリセミック・ロード)とは血糖負荷指数といった意味です。
<一人前の分量の食べ物に含まれる糖質のグラム数>×<その食べ物のGI>÷100で計算した数値が、GLです。
20以上が高、19~11が中、10以下が低とされています。
GL値とは、実際の食事でその食品の一人前の糖質分量を考慮して、どれだけ血糖値を上げやすいかを示す目安です。
糖質を多く摂取すると冠動脈疾患のリスクが増加し、糖質摂取比率が少なくても冠動脈疾患のリスクなしです。
2)コホート研究のメタアナリシス(脳心血管疾患)
21論文、約35万人をメタアナリシスして、5~23年追跡して1.1万人の脳心血管イベントが発生。
飽和脂肪摂取量と脳心血管イベントハザード比を検証してみると、飽和脂肪酸摂取量と脳心血管イベント発生は、関係がないことが判明。
Siri-Tarino, P.W., et al., Meta-analysis of prospective cohort studies evaluating the association of saturated fat with cardiovascular disease. Am J Clin Nutr, 2010. 91(3): p. 535-46.
メタアナリシスで、約35万人が対象の巨大な研究で、信頼度も高いです。
糖質制限食では、動物性脂肪の摂取を制限していないので、飽和脂肪酸の摂取量は一般食に比べてかなり多いです。
本研究により、飽和脂肪酸の摂取量は脳心血管疾患とは関係ないことがわかり、糖質制限食には大きな追い風です。
3)前向きコホート試験NIPPON DATA80(心血管死、総死亡率)
前向きコホート試験NIPPON DATA80 9200人 29年間 中村保幸ら。
第10分位(糖質摂取比率51.5%)のグループは、
第1分位(糖質摂取比率72.7%)のグループに比べて
女性においては心血管死のリスクが、59%、総死亡リスクが79%、
男女合わせると、それぞれ、74%、84%しかないという素晴らしい結論で、糖質制限群の圧勝。
Br J Nutr 2014; 112: 916-924
この研究は、日本人の研究です。
9200人を29年間ですので、大きな信頼度の高いコホート研究です。
糖質摂取比率が一番多い群から一番少ない群まで、10グループに分けて比較検討しています。
糖質摂取比率の少ない群は、多い群に比し、心血管死と総死亡リスクが有意に減っていますので、やはり糖質制限食には大きな追い風の研究です。
4)上海コホート研究(心血管疾患)
「糖質摂取量により4群に分けて、
糖質摂取量が多いほど心血管疾患の発症リスクが高い」
女性:糖質264g/日未満、264~282g未満、282~299g未満、299g以上
男性:糖質296g/日未満、296~319g未満、319~339g未満、339g以上
11万7366人を対象に、調べた研究。
女性が6万4,854人で、平均追跡期間が9.8年。
男性が5万2,512人で、mannnin 平均追跡期間が5.4年。
Am J Epidemiol. 2013 Nov 15;178(10):1542-9.
Dietary carbohydrates, refined grains, glycemic load, and risk of coronary heart disease in Chinese adults.
上海の研究です。
糖質を普通に食べている集団を、糖質摂取量により、4群に分けて比較検討しています。
11万7366人を平均9.8年追跡ですから、大きな信頼度の高いコホート研究です。
男女とも、糖質摂取量が多い群ほど心血管疾患の発症リスクが高いというわかりやすい結論です。
糖質の害、恐るべしです。
江部康二
2015年06月15日 (月)
こんばんは。
糖質制限食と「脳心血管疾患」について考えて見ます。
これらは、冠動脈疾患や脳卒中のことですので、ベースには動脈硬化の問題があります。
糖質制限食で動脈硬化のリスク要因となる
「コレステロール、中性脂肪、血糖、血圧、肥満など・・・」
全てが改善しますので少なくとも理論的には、動脈硬化の予防になると思います。
次は、糖質制限食の安全性を示す長期的エビデンスですね。
以下、4つの信頼度の高い研究があります。
1)ニューイングランドジャーナル掲載のコホート研究(冠動脈疾患)
低炭水化物・高脂肪・高タンパク食に冠動脈疾患のリスクなし。
82802人 20年間 2006年掲載 ハーバード大学
炭水化物摂取比率36.8±6.1%グループと58.8±7.0%のグループの比較。
一方総炭水化物摂取量は冠動脈疾患リスクの中等度増加に関連していた。
高GLは冠動脈疾患リスク増加と強く関連していた。
Halton TL, et al. Low-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women. New England Journal of Medicine 2006;355:1991-2002.
82802人の看護師を20年研究ですので、アンケートも緻密でニューイングランドジャーナルですから論文の信頼度も高いです。
炭水化物摂取比率36.8%の一番低い群から、58.8%の一番多い群まで10グループに分けての比較研究です。
GLはGlycemic Lord の略です。
GL(グリセミック・ロード)とは血糖負荷指数といった意味です。
<一人前の分量の食べ物に含まれる糖質のグラム数>×<その食べ物のGI>÷100で計算した数値が、GLです。
20以上が高、19~11が中、10以下が低とされています。
GL値とは、実際の食事でその食品の一人前の糖質分量を考慮して、どれだけ血糖値を上げやすいかを示す目安です。
糖質を多く摂取すると冠動脈疾患のリスクが増加し、糖質摂取比率が少なくても冠動脈疾患のリスクなしです。
2)コホート研究のメタアナリシス(脳心血管疾患)
21論文、約35万人をメタアナリシスして、
5~23年追跡して1.1万人の脳心血管イベントが発生。
飽和脂肪摂取量と脳心血管イベントハザード比を検証してみると、飽和脂肪酸摂取量と脳心血管イベント発生は、関係がないことが判明。
Siri-Tarino, P.W., et al., Meta-analysis of prospective cohort studies evaluating the association of saturated fat with cardiovascular disease. Am J Clin Nutr, 2010. 91(3): p. 535-46.
メタアナリシスで、約35万人が対象の巨大な研究で、信頼度も高いです。
糖質制限食では、動物性脂肪の摂取を制限していないので、飽和脂肪酸の摂取量は一般食に比べてかなり多いです。
本研究により、飽和脂肪酸の摂取量は脳心血管疾患とは関係ないことがわかり、糖質制限食には大きな追い風です。
3)前向きコホート試験NIPPON DATA80(心血管死、総死亡率)
前向きコホート試験NIPPON DATA80 9200人 29年間 中村保幸ら。
第10分位(糖質摂取比率51.5%)のグループは、
第1分位(糖質摂取比率72.7%)のグループに比べて
女性においては心血管死のリスクが、59%、総死亡リスクが79%、
男女合わせると、それぞれ、74%、84%しかないという素晴らしい結論で、糖質制限群の圧勝。
Br J Nutr 2014; 112: 916-924
この研究は、日本人の研究です。
9200人を29年間ですので、大きな信頼度の高いコホート研究です。
糖質摂取比率が一番多い群から一番少ない群まで、10グループに分けて比較検討しています。
糖質摂取比率の少ない群は、多い群に比し、心血管死と総死亡リスクが有意に減っていますので、やはり糖質制限食には大きな追い風の研究です。
4)上海コホート研究(心血管疾患)
「糖質摂取量により4群に分けて、
糖質摂取量が多いほど心血管疾患の発症リスクが高い」
女性:糖質264g/日未満、264~282g未満、282~299g未満、299g以上
男性:糖質296g/日未満、296~319g未満、319~339g未満、339g以上
11万7366人を対象に、調べた研究。
女性が6万4,854人で、平均追跡期間が9.8年。
男性が5万2,512人で、mannnin 平均追跡期間が5.4年。
Am J Epidemiol. 2013 Nov 15;178(10):1542-9.
Dietary carbohydrates, refined grains, glycemic load, and risk of coronary heart disease in Chinese adults.
上海の研究です。
糖質を普通に食べている集団を、糖質摂取量により、4群に分けて比較検討しています。
11万7366人を平均9.8年追跡ですから、大きな信頼度の高いコホート研究です。
男女とも、糖質摂取量が多い群ほど心血管疾患の発症リスクが高いというわかりやすい結論です。
糖質の害、恐るべしです。
江部康二
糖質制限食と「脳心血管疾患」について考えて見ます。
これらは、冠動脈疾患や脳卒中のことですので、ベースには動脈硬化の問題があります。
糖質制限食で動脈硬化のリスク要因となる
「コレステロール、中性脂肪、血糖、血圧、肥満など・・・」
全てが改善しますので少なくとも理論的には、動脈硬化の予防になると思います。
次は、糖質制限食の安全性を示す長期的エビデンスですね。
以下、4つの信頼度の高い研究があります。
1)ニューイングランドジャーナル掲載のコホート研究(冠動脈疾患)
低炭水化物・高脂肪・高タンパク食に冠動脈疾患のリスクなし。
82802人 20年間 2006年掲載 ハーバード大学
炭水化物摂取比率36.8±6.1%グループと58.8±7.0%のグループの比較。
一方総炭水化物摂取量は冠動脈疾患リスクの中等度増加に関連していた。
高GLは冠動脈疾患リスク増加と強く関連していた。
Halton TL, et al. Low-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women. New England Journal of Medicine 2006;355:1991-2002.
82802人の看護師を20年研究ですので、アンケートも緻密でニューイングランドジャーナルですから論文の信頼度も高いです。
炭水化物摂取比率36.8%の一番低い群から、58.8%の一番多い群まで10グループに分けての比較研究です。
GLはGlycemic Lord の略です。
GL(グリセミック・ロード)とは血糖負荷指数といった意味です。
<一人前の分量の食べ物に含まれる糖質のグラム数>×<その食べ物のGI>÷100で計算した数値が、GLです。
20以上が高、19~11が中、10以下が低とされています。
GL値とは、実際の食事でその食品の一人前の糖質分量を考慮して、どれだけ血糖値を上げやすいかを示す目安です。
糖質を多く摂取すると冠動脈疾患のリスクが増加し、糖質摂取比率が少なくても冠動脈疾患のリスクなしです。
2)コホート研究のメタアナリシス(脳心血管疾患)
21論文、約35万人をメタアナリシスして、
5~23年追跡して1.1万人の脳心血管イベントが発生。
飽和脂肪摂取量と脳心血管イベントハザード比を検証してみると、飽和脂肪酸摂取量と脳心血管イベント発生は、関係がないことが判明。
Siri-Tarino, P.W., et al., Meta-analysis of prospective cohort studies evaluating the association of saturated fat with cardiovascular disease. Am J Clin Nutr, 2010. 91(3): p. 535-46.
メタアナリシスで、約35万人が対象の巨大な研究で、信頼度も高いです。
糖質制限食では、動物性脂肪の摂取を制限していないので、飽和脂肪酸の摂取量は一般食に比べてかなり多いです。
本研究により、飽和脂肪酸の摂取量は脳心血管疾患とは関係ないことがわかり、糖質制限食には大きな追い風です。
3)前向きコホート試験NIPPON DATA80(心血管死、総死亡率)
前向きコホート試験NIPPON DATA80 9200人 29年間 中村保幸ら。
第10分位(糖質摂取比率51.5%)のグループは、
第1分位(糖質摂取比率72.7%)のグループに比べて
女性においては心血管死のリスクが、59%、総死亡リスクが79%、
男女合わせると、それぞれ、74%、84%しかないという素晴らしい結論で、糖質制限群の圧勝。
Br J Nutr 2014; 112: 916-924
この研究は、日本人の研究です。
9200人を29年間ですので、大きな信頼度の高いコホート研究です。
糖質摂取比率が一番多い群から一番少ない群まで、10グループに分けて比較検討しています。
糖質摂取比率の少ない群は、多い群に比し、心血管死と総死亡リスクが有意に減っていますので、やはり糖質制限食には大きな追い風の研究です。
4)上海コホート研究(心血管疾患)
「糖質摂取量により4群に分けて、
糖質摂取量が多いほど心血管疾患の発症リスクが高い」
女性:糖質264g/日未満、264~282g未満、282~299g未満、299g以上
男性:糖質296g/日未満、296~319g未満、319~339g未満、339g以上
11万7366人を対象に、調べた研究。
女性が6万4,854人で、平均追跡期間が9.8年。
男性が5万2,512人で、mannnin 平均追跡期間が5.4年。
Am J Epidemiol. 2013 Nov 15;178(10):1542-9.
Dietary carbohydrates, refined grains, glycemic load, and risk of coronary heart disease in Chinese adults.
上海の研究です。
糖質を普通に食べている集団を、糖質摂取量により、4群に分けて比較検討しています。
11万7366人を平均9.8年追跡ですから、大きな信頼度の高いコホート研究です。
男女とも、糖質摂取量が多い群ほど心血管疾患の発症リスクが高いというわかりやすい結論です。
糖質の害、恐るべしです。
江部康二
2013年01月31日 (木)
おはようございます。
第47回日本成人病(生活習慣病)学会(2013. 1. 15)での能登先生の発表に関する日経メディカルの記事の抜粋が、下記の緑字の文章です。
朝日新聞(2013.1.27)に載った「糖質制限ダイエット、長期は危険?」という記事と同じ発表です。
4コホート研究(6サブグループ)のメタアナリシス。
糖質の割合を高い(60~70%)群に対する低い(30~40%)群のリスク比。
メタアナリシスの、対象者は27万2216人(女性66%、追跡期間5~26年)。
総死亡数は1万5981人。
糖質の割合が低い(30~40%)群と高い(60~70%)群を比較した結果、
総死亡リスクは低糖質群で31%、有意に増加した。
結局、能登論文は中糖質群で総死亡率が上がったという結論です。
2010年に『アナルス・インターナル・メディスン』に発表された論文があります。(Annals of Internal Medicine 2010,153,289-298)
内容の抜粋が下記の青字です。
ハーバード大学の研究者によるコホート研究で、女性8万5千人を26年間、男性4万5千人を20年間追跡し、やはり高糖質食と中糖質食でそう死亡率を比較しています。
その結果、高糖質食のグループに比べて中糖質食のグループのほうが心血管死もがんによる死亡も有意に増えたとしています。
研究では、中糖質グループの総カロリーにおける糖質割合は35.2~37.4%であり、糖質制限食とは言えない範囲です。
がん死亡が増えたのは、動物性食品が多い人だけであり、植物性食品の摂取の多い人では低糖質のグループほど心血管死が減少しており、がん死亡に対するリスクの上昇も見られていません。
この研究も、能登先生のメタ解析と同様、
「中糖質食において動物性食品の摂取が多いと心血管死とがん死亡リスクが上昇する」
という結論ですが、スーパ糖質制限食(糖質12%)に関しては、何も証明してはいないことになります。
糖質30~40%の中糖質食は、「高インスリン血症」「食後高血糖」という明確な「発ガンリスク」「動脈硬化リスク」を改善していないのが、糖質12%のスーパー糖質制限食との大きな違いです。
スーパー糖質制限食なら「高インスリン血症」「食後高血糖」という明確な「発ガンリスク」「動脈硬化リスク」が、改善します。
『アナルス・インターナル・メディスン』の論文を参考にするならば、中糖質食の場合は、動物性食品を控えて植物性食品を増やすなら、心血管死は減少し、がん死亡リスク上昇もありません。
結局、緩い糖質制限食(中糖質食)を実践する場合は、赤身の肉を減らして魚貝やササミを増やし、葉野菜や大豆製品はしっかり摂り、オリーブオイルやエゴマ油で脂質も摂取してエネルギー確保というのが無難かもしれませんね。
勿論、スーパー糖質制限食実践中の私は、11年間、肉、魚、何でも気にせずに食べています。
江部康二
第47回日本成人病(生活習慣病)学会(2013. 1. 15)での能登先生の発表に関する日経メディカルの記事の抜粋が、下記の緑字の文章です。
朝日新聞(2013.1.27)に載った「糖質制限ダイエット、長期は危険?」という記事と同じ発表です。
4コホート研究(6サブグループ)のメタアナリシス。
糖質の割合を高い(60~70%)群に対する低い(30~40%)群のリスク比。
メタアナリシスの、対象者は27万2216人(女性66%、追跡期間5~26年)。
総死亡数は1万5981人。
糖質の割合が低い(30~40%)群と高い(60~70%)群を比較した結果、
総死亡リスクは低糖質群で31%、有意に増加した。
結局、能登論文は中糖質群で総死亡率が上がったという結論です。
2010年に『アナルス・インターナル・メディスン』に発表された論文があります。(Annals of Internal Medicine 2010,153,289-298)
内容の抜粋が下記の青字です。
ハーバード大学の研究者によるコホート研究で、女性8万5千人を26年間、男性4万5千人を20年間追跡し、やはり高糖質食と中糖質食でそう死亡率を比較しています。
その結果、高糖質食のグループに比べて中糖質食のグループのほうが心血管死もがんによる死亡も有意に増えたとしています。
研究では、中糖質グループの総カロリーにおける糖質割合は35.2~37.4%であり、糖質制限食とは言えない範囲です。
がん死亡が増えたのは、動物性食品が多い人だけであり、植物性食品の摂取の多い人では低糖質のグループほど心血管死が減少しており、がん死亡に対するリスクの上昇も見られていません。
この研究も、能登先生のメタ解析と同様、
「中糖質食において動物性食品の摂取が多いと心血管死とがん死亡リスクが上昇する」
という結論ですが、スーパ糖質制限食(糖質12%)に関しては、何も証明してはいないことになります。
糖質30~40%の中糖質食は、「高インスリン血症」「食後高血糖」という明確な「発ガンリスク」「動脈硬化リスク」を改善していないのが、糖質12%のスーパー糖質制限食との大きな違いです。
スーパー糖質制限食なら「高インスリン血症」「食後高血糖」という明確な「発ガンリスク」「動脈硬化リスク」が、改善します。
『アナルス・インターナル・メディスン』の論文を参考にするならば、中糖質食の場合は、動物性食品を控えて植物性食品を増やすなら、心血管死は減少し、がん死亡リスク上昇もありません。
結局、緩い糖質制限食(中糖質食)を実践する場合は、赤身の肉を減らして魚貝やササミを増やし、葉野菜や大豆製品はしっかり摂り、オリーブオイルやエゴマ油で脂質も摂取してエネルギー確保というのが無難かもしれませんね。
勿論、スーパー糖質制限食実践中の私は、11年間、肉、魚、何でも気にせずに食べています。
江部康二
2013年01月20日 (日)
おはようございます。
第47回日本成人病(生活習慣病)学会で発表された発表に関する日経メディカルの記事が、下記の青字の文章です。
4コホート研究(6サブグループ)のメタアナリシス。
糖質の割合を高い(60~70%)群に対する低い(30~40%)群のリスク比。
メタアナリシスの、対象者は27万2216人(女性66%、追跡期間5~26年)。
総死亡数は1万5981人。
糖質の割合が低い(30~40%)群と高い(60~70%)群を比較した結果、
総死亡リスクは低糖質群で31%、有意に増加した。
結局、このメタアナリシスは、高糖質群(60~70%)と中糖質群(30~40%)の比較であり、糖質制限食(糖質10~20%)の群はどこにも登場しません。
中糖質群で、例えば2000kcal/日摂取したら、糖質は150~200g/日
1回の食事の糖質量は50~66gであり、追加インスリンの大量分泌が生じます。食後高血糖も生じます。
インスリンの過剰分泌に発ガンリスクがあることには、多くのエビデンスがあります。
そして食後高血糖にも発ガンリスクのエビデンスがあります。
すなわち中糖質食では、発ガンリスクは減らせないということが言えます。
糖質制限食(糖質10~20%)なら、インスリン過剰分泌と食後高血糖という明確な発ガンリスクが、ほとんど生じないという大きな利点があります。
結論としては中糖質群(30~40%)は高糖質群(60~70%)と比べて、相死亡率が優位に増加したという研究です。
糖質制限食には無関係の研究です。
江部康二
【2013. 1. 15
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/hotnews/int/201301/528564.html
第47回日本成人病(生活習慣病)学会より
糖質制限食の長期的効用は認められず
メタ解析の結果、総死亡リスク増加の懸念も
井田恭子=日経メディカル
関連ジャンル: 食事・栄養 糖尿病
糖質制限食について長期的な効用は認めず、むしろ死亡リスクが有意に増加する。こんなメタアナリシスの結果を1月12日、国立国際医療研究センター病院糖尿病・代謝・内分泌科医長の能登洋氏が第47回日本成人病(生活習慣病)学会で発表した。
近年、減量法や糖尿病治療として炭水化物の摂取量を減らす糖質制限食が注目されている。数週間~数年間の減量や動脈硬化リスクファクター改善の有効性が示唆されているものの、長期的なアウトカムや安全性については明らかになっていない。能登氏らは、MedLine、EMBASEなどの検索エンジンを用いて、“low-carbohydrate diet”や“carbohydrate-restricted diet”などのキーワードで関連する研究を選択し、メタアナリシスを行った。
図1 低糖質群の総死亡リスク (能登氏発表資料より) 4コホート研究(6サブグループ)のメタアナリシスの結果。糖質の割合をLCスコアでスコア化し、高い(60~70%)群に対する低い(30~40%)群のリスク比を求めた。*画像クリックで拡大します。
メタアナリシスの対象として選択された論文は全9件で、対象者は27万2216人(女性66%、追跡期間5~26年)。総死亡数は1万5981人だった。
総カロリーに占める糖質の割合をスコア化し(low-carbohydrate score;LCスコア)、糖質の割合が低い(30~40%)群と高い(60~70%)群を比較した結果、総死亡リスクは低糖質群で31%、有意に増加した(調整リスク比の95%信頼区間は1.07-1.59、図1)。「低糖質・高蛋白質」群と「高糖質・低蛋白質」群を比較した結果(LC/HPスコア)でも、前者で総死亡リスクは22%、有意に増加(同1.02-1.46)。糖質制限食による長期的な効用は認めなかった。
心血管疾患死については低糖質群で10%増加したが、有意差は認めなかった(同0.98-1.24)。また、心血管疾患発症リスクはLCスコアでの検討では有意差はなく、LC/HPスコアで検討していた1文献では有意差を認めていた。
結果について能登氏は、「糖質制限食をし好する人は、脂肪や動物性蛋白質の摂取量が高値となる傾向にあり、総死亡の増加への関与が想定される」と話した。ただし、「今回の検討では糖質の特徴や蛋白質源などの影響は加味されていない。これらの解析を含む長期介入研究が必要だ」とした。
今回検討した論文は、いずれも一般人や医療者を対象にした試験であり、糖尿病患者への影響は不明だ。糖尿病患者の中には医師に告げずに糖質制限食を実践し、血糖コントロールに影響を及ぼしているケースもある。能登氏は「今回の検討結果から糖質制限食に対して賛成・反対は言い切れない。しかし、薬物治療を行っている患者では低血糖リスクも鑑み、バランスよく食事を摂取することの大切さを伝える必要があるのではないか」と話している。】
第47回日本成人病(生活習慣病)学会で発表された発表に関する日経メディカルの記事が、下記の青字の文章です。
4コホート研究(6サブグループ)のメタアナリシス。
糖質の割合を高い(60~70%)群に対する低い(30~40%)群のリスク比。
メタアナリシスの、対象者は27万2216人(女性66%、追跡期間5~26年)。
総死亡数は1万5981人。
糖質の割合が低い(30~40%)群と高い(60~70%)群を比較した結果、
総死亡リスクは低糖質群で31%、有意に増加した。
結局、このメタアナリシスは、高糖質群(60~70%)と中糖質群(30~40%)の比較であり、糖質制限食(糖質10~20%)の群はどこにも登場しません。
中糖質群で、例えば2000kcal/日摂取したら、糖質は150~200g/日
1回の食事の糖質量は50~66gであり、追加インスリンの大量分泌が生じます。食後高血糖も生じます。
インスリンの過剰分泌に発ガンリスクがあることには、多くのエビデンスがあります。
そして食後高血糖にも発ガンリスクのエビデンスがあります。
すなわち中糖質食では、発ガンリスクは減らせないということが言えます。
糖質制限食(糖質10~20%)なら、インスリン過剰分泌と食後高血糖という明確な発ガンリスクが、ほとんど生じないという大きな利点があります。
結論としては中糖質群(30~40%)は高糖質群(60~70%)と比べて、相死亡率が優位に増加したという研究です。
糖質制限食には無関係の研究です。
江部康二
【2013. 1. 15
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/hotnews/int/201301/528564.html
第47回日本成人病(生活習慣病)学会より
糖質制限食の長期的効用は認められず
メタ解析の結果、総死亡リスク増加の懸念も
井田恭子=日経メディカル
関連ジャンル: 食事・栄養 糖尿病
糖質制限食について長期的な効用は認めず、むしろ死亡リスクが有意に増加する。こんなメタアナリシスの結果を1月12日、国立国際医療研究センター病院糖尿病・代謝・内分泌科医長の能登洋氏が第47回日本成人病(生活習慣病)学会で発表した。
近年、減量法や糖尿病治療として炭水化物の摂取量を減らす糖質制限食が注目されている。数週間~数年間の減量や動脈硬化リスクファクター改善の有効性が示唆されているものの、長期的なアウトカムや安全性については明らかになっていない。能登氏らは、MedLine、EMBASEなどの検索エンジンを用いて、“low-carbohydrate diet”や“carbohydrate-restricted diet”などのキーワードで関連する研究を選択し、メタアナリシスを行った。
図1 低糖質群の総死亡リスク (能登氏発表資料より) 4コホート研究(6サブグループ)のメタアナリシスの結果。糖質の割合をLCスコアでスコア化し、高い(60~70%)群に対する低い(30~40%)群のリスク比を求めた。*画像クリックで拡大します。
メタアナリシスの対象として選択された論文は全9件で、対象者は27万2216人(女性66%、追跡期間5~26年)。総死亡数は1万5981人だった。
総カロリーに占める糖質の割合をスコア化し(low-carbohydrate score;LCスコア)、糖質の割合が低い(30~40%)群と高い(60~70%)群を比較した結果、総死亡リスクは低糖質群で31%、有意に増加した(調整リスク比の95%信頼区間は1.07-1.59、図1)。「低糖質・高蛋白質」群と「高糖質・低蛋白質」群を比較した結果(LC/HPスコア)でも、前者で総死亡リスクは22%、有意に増加(同1.02-1.46)。糖質制限食による長期的な効用は認めなかった。
心血管疾患死については低糖質群で10%増加したが、有意差は認めなかった(同0.98-1.24)。また、心血管疾患発症リスクはLCスコアでの検討では有意差はなく、LC/HPスコアで検討していた1文献では有意差を認めていた。
結果について能登氏は、「糖質制限食をし好する人は、脂肪や動物性蛋白質の摂取量が高値となる傾向にあり、総死亡の増加への関与が想定される」と話した。ただし、「今回の検討では糖質の特徴や蛋白質源などの影響は加味されていない。これらの解析を含む長期介入研究が必要だ」とした。
今回検討した論文は、いずれも一般人や医療者を対象にした試験であり、糖尿病患者への影響は不明だ。糖尿病患者の中には医師に告げずに糖質制限食を実践し、血糖コントロールに影響を及ぼしているケースもある。能登氏は「今回の検討結果から糖質制限食に対して賛成・反対は言い切れない。しかし、薬物治療を行っている患者では低血糖リスクも鑑み、バランスよく食事を摂取することの大切さを伝える必要があるのではないか」と話している。】
2012年08月25日 (土)
おはようございます。
消化器医さんから、大腸ガンと脂肪摂取についてコメント・質問をいただきました。
【12/08/24 消化器医
大腸がんと脂肪摂取
江部先生初めまして。
私は内科開業医です。専門は消化器科ですが勤務医の頃から糖尿病の患者さんの診療も多くおこなってきました。従来の食事療法、薬物療法では入院させれば一過性にデータは良くなるものの半年もすればまた元通り、ということの繰り返しでした。また糖尿病患者さんの薬の多さ、高価さにも辟易していました。
先日、糖尿病学会の門脇理事長が糖質制限食が危険であるという声明を発表し、ニュースになりましたね。私は逆にこのニュースで糖質制限食に興味を持ち先生の「主食を抜けば糖尿病は良くなる」をさっそく読んでみました。まったく理に適っている治療法であると思いました。
さて、一部のドクターから脂肪摂取と大腸癌の発生について懸念が寄せられています。
曰く、戦後食生活が欧米化し脂肪摂取が多くなったので日本人の大腸癌が多くなった、という説です。日本人全体の食生活の変化と大腸癌の発生率を比較しただけで、一定のグループについて調査したわけでもなく研究とも言えない説だと思いますが。
数年前、国立がんセンターがコホート調査をおこない、食物線維やEPA、DHAには大腸癌を防ぐ作用はないという発表はありましたが脂肪摂取は項目に入っていないようです。私の探した中では脂肪摂取と大腸癌との相関関係を研究したちゃんとした論文は見つかりません。
医師として患者さんに糖質制限食を強くプッシュするには多少の引っかかりを感ずる点です。
江部先生はこの説についてどうお考えでしょうか。
私の仮説ですが、脂質摂取が発癌と比例するのは脂質の中でもトランス脂肪酸の摂取が増えたからではないかと考えています。】
消化器医さん。
糖質制限食が理にかなった治療法というコメント、ありがとうございます。
ご質問の件ですが、確かに脂肪悪玉説が、戦後、先進国を席巻して、「大腸ガン、乳ガン、心筋梗塞などの元凶は脂肪摂取過剰である。」という(根拠のない)定説がまことしやかに信じられてきたと思います。
これに対して、大変興味深い研究結果が発表されました。
米国医師会雑誌、2006年2月8日号に掲載された3本の論文において
「<低脂肪+野菜豊富な食生活>は乳癌、大腸癌、心血管疾患リスクを下げないし、総コレステロール値も不変であった。」
という報告がなされたのです。
米国医師会雑誌は、インパクトファクターが高く、ニューイングランドジャーナルに次ぐ権威有る医学雑誌です。
RCT研究論文ですので、エビデンスレベルも信頼度が高いです。
5万人弱の閉経女性を対象に、対照群を置き、平均8年間にわたって追跡した結果です。
高額の費用をつぎ込んだ大規模臨床試験で、二度とできない高いレベルの研究です。
2万5千人ずつにグループ分けをして、一方は、脂肪熱量比率20%で強力に低脂肪食を指導しました。
残るグループは脂肪制限なしなので、米国女性平均なら30数%の脂肪摂取比率です。
平均的米国女性に対して、約半分近くまで、脂肪摂取比率を厳格に減らして臨床試験を実施したわけです。
研究をデザインした医師は、
「高脂肪食が大腸ガン、乳ガン、心血管疾患のリスクを増大させる=脂肪悪玉説」
という従来の定説を掲げて、それを証明するためにこのRCTを実施したと思います。
すなわち、
「低脂肪食実践により、大腸ガン、乳ガン、心血管疾患のリスクが減少する」
と信じてこのRCTを開始したと考えられます。
ところが、豈図らんや、低脂肪食は、乳癌、大腸癌、心血管疾患リスクを全く下げなかったのです。
これは、即ち、脂肪悪玉説が根底から否定されたということです。
結論です。
『5万人を8年間追跡したJAMA掲載のRCT研究論文で、少なくとも乳ガン・大腸ガン・心血管疾患に関しては、脂肪悪玉説は否定された。』
ということになります。
脂肪悪玉説を根底から覆す良質の信頼度の高いエビデンスですね。
*Journal of American Medical Association(JAMA)誌
2006年2月8日号の疾患ごとにまとめられた3本の論文で報告。
*Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Invasive Breast Cancer
Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Colorectal Cancer
Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Cardiovascular Disease
: The Women's Health Initiative Randomized Controlled Dietary Modification Trial
JAMA ,295(6):629-642. 643-654. 655-666.
江部康二
消化器医さんから、大腸ガンと脂肪摂取についてコメント・質問をいただきました。
【12/08/24 消化器医
大腸がんと脂肪摂取
江部先生初めまして。
私は内科開業医です。専門は消化器科ですが勤務医の頃から糖尿病の患者さんの診療も多くおこなってきました。従来の食事療法、薬物療法では入院させれば一過性にデータは良くなるものの半年もすればまた元通り、ということの繰り返しでした。また糖尿病患者さんの薬の多さ、高価さにも辟易していました。
先日、糖尿病学会の門脇理事長が糖質制限食が危険であるという声明を発表し、ニュースになりましたね。私は逆にこのニュースで糖質制限食に興味を持ち先生の「主食を抜けば糖尿病は良くなる」をさっそく読んでみました。まったく理に適っている治療法であると思いました。
さて、一部のドクターから脂肪摂取と大腸癌の発生について懸念が寄せられています。
曰く、戦後食生活が欧米化し脂肪摂取が多くなったので日本人の大腸癌が多くなった、という説です。日本人全体の食生活の変化と大腸癌の発生率を比較しただけで、一定のグループについて調査したわけでもなく研究とも言えない説だと思いますが。
数年前、国立がんセンターがコホート調査をおこない、食物線維やEPA、DHAには大腸癌を防ぐ作用はないという発表はありましたが脂肪摂取は項目に入っていないようです。私の探した中では脂肪摂取と大腸癌との相関関係を研究したちゃんとした論文は見つかりません。
医師として患者さんに糖質制限食を強くプッシュするには多少の引っかかりを感ずる点です。
江部先生はこの説についてどうお考えでしょうか。
私の仮説ですが、脂質摂取が発癌と比例するのは脂質の中でもトランス脂肪酸の摂取が増えたからではないかと考えています。】
消化器医さん。
糖質制限食が理にかなった治療法というコメント、ありがとうございます。
ご質問の件ですが、確かに脂肪悪玉説が、戦後、先進国を席巻して、「大腸ガン、乳ガン、心筋梗塞などの元凶は脂肪摂取過剰である。」という(根拠のない)定説がまことしやかに信じられてきたと思います。
これに対して、大変興味深い研究結果が発表されました。
米国医師会雑誌、2006年2月8日号に掲載された3本の論文において
「<低脂肪+野菜豊富な食生活>は乳癌、大腸癌、心血管疾患リスクを下げないし、総コレステロール値も不変であった。」
という報告がなされたのです。
米国医師会雑誌は、インパクトファクターが高く、ニューイングランドジャーナルに次ぐ権威有る医学雑誌です。
RCT研究論文ですので、エビデンスレベルも信頼度が高いです。
5万人弱の閉経女性を対象に、対照群を置き、平均8年間にわたって追跡した結果です。
高額の費用をつぎ込んだ大規模臨床試験で、二度とできない高いレベルの研究です。
2万5千人ずつにグループ分けをして、一方は、脂肪熱量比率20%で強力に低脂肪食を指導しました。
残るグループは脂肪制限なしなので、米国女性平均なら30数%の脂肪摂取比率です。
平均的米国女性に対して、約半分近くまで、脂肪摂取比率を厳格に減らして臨床試験を実施したわけです。
研究をデザインした医師は、
「高脂肪食が大腸ガン、乳ガン、心血管疾患のリスクを増大させる=脂肪悪玉説」
という従来の定説を掲げて、それを証明するためにこのRCTを実施したと思います。
すなわち、
「低脂肪食実践により、大腸ガン、乳ガン、心血管疾患のリスクが減少する」
と信じてこのRCTを開始したと考えられます。
ところが、豈図らんや、低脂肪食は、乳癌、大腸癌、心血管疾患リスクを全く下げなかったのです。
これは、即ち、脂肪悪玉説が根底から否定されたということです。
結論です。
『5万人を8年間追跡したJAMA掲載のRCT研究論文で、少なくとも乳ガン・大腸ガン・心血管疾患に関しては、脂肪悪玉説は否定された。』
ということになります。
脂肪悪玉説を根底から覆す良質の信頼度の高いエビデンスですね。
*Journal of American Medical Association(JAMA)誌
2006年2月8日号の疾患ごとにまとめられた3本の論文で報告。
*Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Invasive Breast Cancer
Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Colorectal Cancer
Low-Fat Dietary Pattern and Risk of Cardiovascular Disease
: The Women's Health Initiative Randomized Controlled Dietary Modification Trial
JAMA ,295(6):629-642. 643-654. 655-666.
江部康二