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脂肪酸は血液脳関門(BBB)を通過できる。
こんばんは。

今まで、「脂肪酸は血液脳関門(BBB)を通過できないがケトン体は通過できる」と述べてきました。

しかし、脂肪酸も血液脳関門を通過できると思われます。

夏井睦医師著「炭水化物が人類を滅ぼす」(光文社新書、2013年)の231、232ページにも記載してあるように、少なくともEPAやDHAという有名な脂肪酸が、現実に脂肪酸は血液脳関門を通過していることは確実です。

1)脂肪酸は血液脳関門を通過する。
2)脂肪酸はアストロサイトのミトコンドリア内でβ酸化されてエネルギー源となる。
3)神経細胞(ニューロン)では細胞膜の原料となるがエネルギー源としては使われない。


現時点で、1)2)3)が正解と考えられます。

アストロサイト(astrocyte)とは、中枢神経系に存在するグリア細胞の1つです。

グリア細胞 ( glial cell)は神経系を構成する神経細胞ではない細胞の総称であり、ヒトの脳では細胞数で神経細胞の50倍ほど存在しているとされています。

アストロサイトは神経細胞を支えて支持してる細胞です。

毛細血管の周囲はアストロサイトの足突起に覆われていて、神経細胞と毛細血管の間には常にアストロサイトが介在しています。

『毛細血管-アストロサイト-神経細胞』を一つの構成単位として捉えるとわかりやすいです。

脂肪酸は神経細胞の細胞膜の原料となりますが、エネルギー源としてはほとんど使われません。

これは、エネルギー源として利用するとき、酸素消費が一番少ないのがケトン体で次がブドウ糖であり、脂肪酸は酸素消費が多いからと思われます。

仮説ではありますが、進化の過程で脳が酸素不足にならないように、神経細胞のミトコンドリアは脂肪酸をエネルギー源としないように脂肪酸を分解する酵素を減らしたと考えられます。

アストロサイトは脂肪酸を分解してケトン体を産生します。

ケトン体は神経細胞に輸送されてミトコンドリアで代謝されてエネルギー源になります。



江部康二


テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
赤血球と脳のエネルギー源、ブドウ糖とケトン体。
【16/09/14 mama

Dr.かるぴんちょのサイトで生化学の教科書が紹介されていて、それによると絶食時でさえも脳のエネルギー源は100%ケトン体にはならないようですが、
http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat18/post_247.html
糖質制限で脳のエネルギーをどの程度ケトン体に頼っているのかというデータはあるのでしょうか。】



こんにちは。

mamaさんから、脳のエネルギー源としてのケトン体についてコメント・質問をいただきました。

ストライヤー生化学の第5版に

「絶食、3日目には脳がエネルギーの33%をケトン体に頼り、数週間後は脳はエネルギーの70%をケトン体に頼る。」

と記載されていると、カルピンチョ先生のサイトにありました。

カルピンチョ先生、いつも信頼できる、貴重な情報をありがとうございます。

さて、ご質問の

「糖質制限食実践者において、エネルギー源として、どのていどケトン体を利用しているか」

について検討してみます。

『イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書27版』(丸善)p154

には、脳はそのエネルギー要求の20%をケトン体でまかなうことができると記載してあります。

それで、脳はどの程度までケトン体をエネルギー源とできるかということなのですが、ハーパー生化学のいう約20%までということはありません。

例えば、

『ガイトン臨床生理学』(米国の有名な医学の教科書です)
監訳・早川弘一、医学書院、1999年、870ページ

によれば、

「炭水化物がエネルギー源として使用できない時、生体のほとんどの細胞のエネルギー源は脂質の代謝により賄われる」

「エスキモー人種は時々完全な脂肪食をとるが・・・中略、・・・前略、通常ブドウ糖しかエネルギー源として利用しない脳の細胞でさえ、数週間後には50~75%のエネルギ-を脂質(ケトン体)から得られるようになっている」

という記載があります。

さらに、糖輸送体(GLUT)1欠損症の場合は、「ケトン食」(☆)が唯一の治療法です。

細胞が血液中のブドウ糖を取り込むためには、糖輸送体が必要です。

現在までGLUT1~14までが発見されています。

脳・赤血球・網膜・生殖腺胚上皮の糖輸送体はGLUT1です。

GLUT1欠損症では、GLUT1に機能不全があるため、脳細胞が血液中のブドウ糖をエネルギー源としてほとんど利用できないので、通常の食事では意識不明やてんかんの発作を頻回に生じます。

ケトン食は、脂質摂取比率87%の、スーパー糖質制限食(脂質摂取比率56%)を上回る糖質制限食です。

ケトン食実践で血中ケトン体が高値(3000~5000μM/L)となり、ケトン体が脳のエネルギー源のほとんどを占めるようになれば、GLUT1欠損症の患者さんも健康な生活をおくれます。

つまりGLUT1欠損症では脳細胞は、ブドウ糖をエネルギー源として使いにくいので、ケトン体が脳の主要なエネルギー源となるのです。

この場合、エスキモーの50~75%より、さらに高い比率で脳はケトン体をエネルギー源としている可能性があります。

また私が34才で、本断食(カロリーゼロ、塩ゼロ、水のみ摂取)をしたとき、血糖は35mg/dlまで下がりました。

しかし普通に意識は清明で外来もしてましたので、この時私の脳は、ブドウ糖ではなくケトン体を主たるエネルギー源として利用していたと考えられます。

本断食でもケトン体は、2000~4000μM/Lになります。

ケトン体が基準値(26~122μM/L)しかなくて、血糖値が35mg/dlなら、脳はエネルギー源が全く不足するので、意識不明で昏睡になります。

糖新生(肝臓でアミノ酸、乳酸、グリセロールなどからブドウ糖を作る)は、脳ではなくて赤血球のために必要なのだと思います。
赤血球は血糖値35mg/dlくらいでも生きていけるようです。


脳に続いて、赤血球のエネルギー源について考えてみます。

赤血球は、脳とは異なり、ミトコンドリアがないので、ブドウ糖しかエネルギー源にできません。

GLUT-1欠損症でも、赤血球のエネルギー源はブドウ糖だけです。

さて、血液脳関門にあるGLUT-1が正常に機能すれば、脳脊髄液中のブドウ糖は、血液中のブドウ糖濃度の60%くらいです。
髄液糖/血糖比、正常は0.6-0.7です。

髄液(脳脊髄液)とは、脳室系とクモ膜下腔を満たす、リンパ液のように無色透明な液体です。

GLUT-1欠損症の場合は、血液中の血糖値が正常値でも髄液検査では、髄液糖は 40 mg/dL 以下です。

髄液糖/血糖比は 0.45 以下(平均 0.35)です。

ということは、平均正常の半分くらいは、ブドウ糖を取り込めていることとなります。

つまりGLUT-1欠損症という診断名がついていても、ブドウ糖取り込み能力がかなり低下しているけれど、ゼロではないということです。

GLUT-1欠損症の赤血球も、脳の血液脳関門と同様にブドウ糖取り込み能力が低下していますが、平均、正常の半分程度は取り込めます。

そうすると、血糖値が100mgとすれば、赤血球内に約50mgくらいは取り込めます。

私が本断食をしたとき、血糖35mg/dlでしたが、脳はケトン体(断食中で高値:2000~3000)をエネルギー源として意識を保ち、赤血球は血糖35mg/dlでも事足りていたのだと思います。

通常、血糖値35mg/dlなら、脳脊髄液のブドウ糖濃度は21mg/dlとなりますので、ケトン体髙値がなければ、意識不明ですね。

血液脳関門にあるGLUT-1が正常に機能すれば、脳脊髄液中のブドウ糖は、血液中のブドウ糖濃度の60%くらいです。


糖尿病専門医研修ガイドブック(改訂第4版、2009年)293ページには、低血糖症の定義として、

「低血糖症状があり血糖値60mg/dl以下」

と記載されています。

血糖値が60mg/dlなら、脳脊髄液のブドウ糖濃度は36mg/dlです。

このように考察すると、赤血球も脳細胞も、それぞれブドウ糖濃度が35~36~37mg/dlくらいで、エネルギー源としては何とか足りているということのようです。

(☆)
1)Ketogenic Diet(ケトン食)は、
2010年版COCHRANE LIBRARLY(コクラン ライブラリー)
2011年版NICE(英国政府ガイドライン)
という国際的に有名な公的治療ガイドラインに難治性小児てんかん治療に採用されました。

2)
日本の厚生労働省も、てんかん食を食事療法として2016年4月1日より保険適用としました。
てんかん食とはケトン食のことです。




江部康二

テーマ:糖質制限食
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ケトン体は安全で人体において極めて有用な物質です。
【16/07/11 沙門

ケトン体が血管を傷つける

江部先生

先日、NHKの番組ためしてガッテンで糖質制限について放送していましたが、その中でケトン体が血管を傷つけるという発言がありましたが、そのような論文や研究があるのでしょうか?私は血管を傷つけるのは糖質だと思っていたので少し驚きました。】



こんにちは。
沙門 さん から、ケトン体と血管についてコメント・質問をいただきました。

沙門 さん、そうですね。
糖質摂取による「食後高血糖」と「平均血糖変動幅増大」が酸化ストレスリスクとなり、血管合併症の元凶となることには、多くのエビデンスがあります。

ケトン体に限らず、結論が異なる論文・研究はいつの時代にもあります。

かつて、確かにケトン体が危険視されていた時代がありましたが、最近の研究では、ケトン体は危険どころか、生体の最も重要なエネルギー源の一つです。 また生体に有用な作用を持っています。


A)
「βヒドロキシ酪酸は内在性のヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤として酸化ストレスの抑制に寄与する」
という大変興味深いScience の論文もあります。
Science は、とても信頼度の高い権威ある科学雑誌です。
酸化ストレスを抑制することで、動脈硬化、癌、アルツハイマー病など様々な病気の予防になり、老化の抑制にもなります。
詳しくは
2013年02月12日 (火)の本ブログ記事
ケトン体が酸化ストレスの抑制に寄与する
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-2416.html
もご参照いただけば幸いです。


B)
また、ぺこぽよ さんからも以下のコメントを頂きました。
「神経内科分野からケトン体のアルツハイマー病への認知機能改善効果の報告が増えています。
動物実験でも認知機能の改善効果があるようです(Neurol.Aging 2012 Feb:33(2) 425 e19-425e27、Adv.Exp.Med.Biol 662:71-75. 2010、Biomaterials.34(30) 7552-7562.2013)。」


C)
さらに、しらねのぞるば さんから、「ケトン体は人体に必須の生化学役割を担っている」という当然とは言え重要なコメントをいただきました。

ディアベテス・リサーチ アンド クリニカル・プラクティスという英文医学雑誌に掲載された最新論文(*)の要約を紹介していただきました。

要約
ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)は、空腹時や運動時において、脂肪組織から末梢組織への便利なエネルギー運搬体である。
しかしながらβ-ヒドロキシ酪酸は、単なる代謝産物ではなく、重要な細胞内シグナル伝達の役割を持っている。
β-ヒドロキシ酪酸はヒストン脱アセチル化酵素の内因性抑制物質であり、少なくとも二つの細胞表面受容体のリガンドである。
それに加えてβ-ヒドロキシ酪酸代謝のダウンストリーム産物(アセチル-CoA、サクシニル-CoA、NAD+を含む)は、それ自体がシグナル活性を持っている。
β-ヒドロキシ酪酸のこれらの調整機能は、細胞機能と遺伝子発現との外部環境リンクに役立ち、2型糖尿病を含む代謝性疾患の病因論と治療に重要な意味をもつ。


論文の本意は
1)
ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)は、空腹時や運動時において、脂肪組織から末梢組織への便利なエネルギー運搬体である。
2)
β-ヒドロキシ酪酸は、エネルギー源であるだけではなく、重要な細胞内シグナル伝達の役割を持っている。
3)
β-ヒドロキシ酪酸は遺伝子の発現の制御にも関与している。
4)
β-ヒドロキシ酪酸のダウンストリーム産物もシグナル活性を持っている。
5)
β-ヒドロキシ酪酸のこれらの調整機能は、細胞機能と遺伝子発現の外部環境リンクに役立つ。
6)
β-ヒドロキシ酪酸のこれらの調整機能は、2型糖尿病を含む代謝性疾患の病因論と治療に重要な意味をもつ。


(*)Diabetes Research and Clinical Practice
Volume 106, Issue 2, Pages 173–181, November 2014
β-hydroxybutyrate: Much more than a metabolite
John C. Newman, Eric Verdin


ということで、A)B)C)を考慮すれば、ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)はエネルギー源としてとても便利なだけではなく、人体の機能が正常に働くために、大変重要な役割を果たしていることは明白です。

すなわちケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)がなければ、そもそも人体の細胞は、まともに機能できないということです。

また、ケトン体は酸化ストレスの抑制やアルツハイマー病改善効果もあり、人体にとって極めて有益な物質です。


ケトン体(βヒドロキシ酪酸)の安全性の最終証明としては、宗田哲男医師の研究(私も共同演者の一人です)があります。

2014年第17回日本病態栄養学会。宗田医師らの発表。
 *胎児の胎盤(絨毛間液)の平均βヒドロキシ酪酸値、平均1730μmol/L(58検体)
 *新生児の血中平均βヒドロキシ酪酸値は、 平均240.4μmol/L(312例、生後4日)
 *成人の現行の基準値は、 βヒドロキシ酪酸値は85 μmol/L以下。

2015年第18回日本病態栄養学会。宗田医師らの発表。分娩時60検体。
 *胎盤組織液の平均βヒドロキシ酪酸値は2235.0μmol/L、臍帯血は平均779.2μmol/L


胎盤のケトン体は成人基準値の約30倍、新生児のケトン体は成人基準値の3~数倍と高値であり、インスリン作用が保たれている限りケトン体は極めて安全な物質です。

宗田医師の研究がもうすぐ論文化される予定ですので、乞うご期待です。


このように大切なケトン体のことを、まるで悪者のように扱う一部の医師には、猛省を促したいですね。



江部康二


たがしゅう先生から、ケトン体に関するわかりやすいコメントをいただきました。
ありがとうございます。


☆☆☆
【16/07/12 たがしゅう

広い視野でケトン体を捉える

江部先生

いつもお世話になっております。

またケトン体の安全性を担保するデータを信頼度の高いものを中心にまとめて頂き有難うございます。おかげさまで頭の中が整理されました。

その中でも宗田先生の研究報告が圧倒的に説得力があると私は思っています。宗田先生の御発表は、糖質制限妊婦だけの話と誤解されがちですが、そうではなくて糖質制限とは無関係に一般の妊婦においても胎児、胎盤、臍帯血のケトン体濃度が高かった事を示しているわけですから。

もしもケトン体が血管に悪いというのなら、ヒトは妊娠の時期からデフォルトで血管に悪い物質をたくさん抱えているのか、というヘンテコな話になってしまいます。

ケトン体を悪くみている医師は言わば「ケトアシドーシスの呪縛」に捉われています。原因と結果をはき違えたまま考えているから本質が見えないのだと思います。

糖尿病診療マスター
2016年6月号(Vol.14 No.6)
特集 食事療法 Revisit

上記の雑誌によれば、山田悟先生が「ケトン体は血管に悪い?」という心配を抱えておられる根拠論文は、いずれも最近早期の動脈硬化を捉える事ができる検査として注目されているFMD(flow mediated dilation; 血流依存性血管拡張反応)という検査について検証したものです。

このFMDという検査、主に上腕をマンシェットで5分程度圧迫して血管にわざと圧力をかけ、解除した時に血管がどのくらい拡がるか、というのをエコー下に計測し、数値化するというものです。

血管の内側を覆う内皮細胞がうまく機能していれば血管圧迫解除後速やかに拡張してくれるのですが、うまく拡張しない場合は内皮細胞の機能低下があるのではないかと考えられています。

内皮細胞の異常は動脈硬化の最初の段階だと考えられており、画像上動脈硬化がまだ見えない段階から内皮の機能を推測できるという点で、この検査は動脈硬化の早期発見に期待されているわけです。

一方でこのFMD、検査自体の信頼度にも問題点が残されている検査でもあります。その辺りは「血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン Guidelines for non-invasive vascular function test (JCS 2013)」に詳しく書かれています。ネットで無料で閲覧可です。

具体的な問題点としては「分母である血管径基礎値が大きければ、たとえ内皮機能が正常であってもFMDは相対的に低く算出される」ことや「検査機器・手技(測定条件、カフの位置、血管径の測定方法、安静時径・最大拡張径の評価方法)の統一がなされていないこともFMD測定値の普遍性(施設間でのばらつき)に影響する」ことなどが挙げられます。

山田先生の根拠論文はコメント末に示す1)-3)ですが、読んでみるといずれも少人数(8~20名程度)、短期間(6週~2か月)での無作為ランダム化比較試験です。いずれの論文でも「低炭水化物食の方でFMDが低下したから、内皮機能が低下している可能性がある」と結論づけています。

おそらく山田先生に言わせればエビデンスレベル1(無作為ランダム化比較試験)だから信頼できる、ということなのでしょうけど、エビデンスレベル1なら何でもいいのか、と言いたくなります。短期間・少人数過ぎますし、2)の論文に至っては低炭水化物食で5日目に低下したFMDでは、60日目に元に戻っているという結果も提示されていました。

またFMDは捉える対象が早期すぎていろいろな条件で変動するようです。こちらのサイト(http://www.mediacross.jp/FMD/1-10.html)では運動でもFMDが低下する事が示されていますが、それだと「運動は血管に悪い?」という話になってしまいます。本当でしょうか?

いくらエビデンスレベルの高い論文だろうと、もともと信頼性に問題が残る検査で、しかも少人数で短期間で検証したようなものは、そのまま鵜呑みにはできないのではないでしょうか。

それに「木を見て森を見ず」にならないように、ケトン体にまつわる状況を俯瞰でみれば真実がどちらにあるかはすぐにわかります。

ケトン体は・・・
Aにとっては○
Bにとっては○
Cにとっては○
Dにとっては○
Eにとっては○
Fにとっては○
Gにとっては○
・・・
でもZにとっては×

そういう状況であれば、「Zの検証方法が間違っているんじゃないの?」と考えるのが普通ではないかと私は思います。

1) Phillips SA, Jurva JW, Syed AQ, et al(2008) Benent of low-fat over low-carbohydrate diet on endothelial health in obesity. Hypertension 51:376-382
2) Buscemi S, Verga S, Tranchina MR,et al(2009) Effects of hypocaloric very-low-carbohydrate diet vs. Mediterranean diet on endothelial function in obese women. Eur J Clin lnvest 39:339-347
3) Varady KA,Bhutani S,Klempel MC,et al(2011) Improvements in vascular health by a low-fat diet, but not a high-fat diet, are mediated by changes in adipocyte biology. Nutr J 10:8】




テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
ケトン食とスーパー糖質制限食の違い。
【16/06/04 おまつ

タンパク質の量

江部先生、こんにちは。

いろいろ調べた上で、最近はハイファットのケトジェニックダイエットに落ち着きました。色々と悪名は高いようですが、体質にあっていたら、しっくりくるような気がします。ホント、ダイエットは何があうか分からないものです。

低糖質の基本は糖質制限ですが、しっかりケトン体を出そうと思ったら新糖生も抑えるよう、タンパク質の制限も大事かと思います。ただし、タンパク質を制限したら「筋肉が落ちる!」って心配をする人も多々いますよね。

先生の推奨されるタンパク質量、または割合をお教えください。

糖質を控えて、お肉を多く食べると、特にプロテインシェークをとらなくてもタンパク質は自然と多く取ってしまうかと思います。

タンパク質の量まで細かくご指導されていらっしゃいますか?

すでに別記事で取り上げていらしたら申し訳ないです。

いつもいつも役立つ記事をありがとうございます。】



こんばんは。

おまつさんから、糖質制限食とケトン食とたんぱく質制限についてコメント・質問を頂きました。

ケトン食とスーパー糖質制限食の違いについて考えてみます。

小児難治性てんかんの治療食として、確立している本格的「ケトン食」は脂質摂取比率が87%くらいです。

血中総ケトン体は、4000~5000μM/L(基準値26~122)レベルとなります。

これくらいケトン体が高値だと、尿中ケトン体も常に陽性です。

つまり、体内で利用しきれない血中ケトン体が尿中に出続けるということであり、難治性てんかんの治療には、それほど高濃度のケトン体が必要となります。


一方、スーパー糖質制限食は脂質摂取比率が56%くらいです。たんぱく質は32%くらい、糖質は12%くらいです。

これらは、高雄病院給食一週間のメニューの平均値ですから、個々の食事ではそこそこのバラツキはあります。

スーパー糖質制限食の場合は、当初は尿中ケトン体が陽性となりますが1~3ヶ月くらいで陰性となります。

血中総ケトン体は、400~800~1200μM/L(基準値26~122)レベルですが、心筋や骨格筋や体細胞がしっかりケトン体を利用して、腎臓の再吸収の効率も良くなるので、尿中には排泄されなくなります。

つまり血中ケトン体は全て体内で利用されています。

スーパー糖質制限食は、狩猟・採集時代700万年間の人類の食生活が目安であり、糖尿病の治療食ではありますが、その本質は人類本来の食事、人類の健康食と言えます。

従いまして、スーパー糖質制限食では、糖質制限をしっかり意識していれば、たんぱく質の計算までは要らないと思います。

スーパー糖質制限食実践では、脂質とたんぱく質は満足いくまで充分量摂取して貰います。

つまり、スーパー糖質制限食では、たんぱく質制限は推奨しません。


<結論>
1、ケトン食は「治療食」である。
2、スーパー糖質制限食は、「人類の健康食」である。


江部康二

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さらなる糖質制限の発展へ。糖質制限と断食はケトン体の有効利用。
【16/02/06 たがしゅう

さらなる糖質制限の発展へ

江部先生

記事にまでして頂き有難うございます。

糖質制限と出会ったおかげで、私は糖質制限と断食(絶食療法)がケトン体の有効利用という点で一本の線でつながるという事を理解する事ができました。

今回紹介した論文のように、たとえ糖質制限に関して直接の言及がなくとも、 絶食療法に関する論文をみても糖質制限への理解を深める事ができます。

また糖質制限の臨床効果を実感を持って知っているからこそ、こうした論文の考察を興味深く読む事ができます。

あるいは、糖質の中毒性について学ぼうと思えば、禁煙関係の論文を読むと理解が深まります。

なぜならば糖質もタバコに含まれるニコチンも、脳の側坐核を中心とした報酬経路をドーパミンという神経伝達物質を介して刺激するという共通点があるからです。

たとえば、禁煙継続の鍵は1年以上継続できるかどうかであるという事を疫学的に実証した研究がありますが(Garcia-Rodriguez O, et al. Probability and predictors of relapse to smoking: results of the National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditions (NESARC). Drug Alcohol Depend. 2013 Oct 1;132(3):479-85. PMID: 23570817)、

この事は理論的な理解なくして高糖質食から糖質制限食へ移行する事の難しさを示唆していると思います。

糖質の中毒性に関して研究された論文は見かけませんが、喫煙の中毒性に関して研究された論文は他にも数多くあります。

そこから学べることは多いです。

そういう意味では、糖質制限がいろいろな分野の話との架け橋となり、既存の医学的事実を見直す大きなきっかけを与えてくれていると思います。

私も糖質制限を知らなければ、おそらく絶食療法の論文や禁煙関係の論文など読もうとすら思わなかったことでしょう。

糖質制限がよいという結論は、多くの実践者が知るところでしょうけれど、 その理論的な裏付けが高まれば高まるほど、実践者にとってさらなる安心を与え、 また一人の人間ができる事には限りがありますが、各分野の専門家がそれぞれの分野の視点からの考察を加えれば、 今までには全くなかった別の視点が見えてくるようになり、さらなる糖質制限の発展へとつながるに違いありません。

そのためにも理論的な裏付けが増える事は大事ですね。

今後も先生のブログで勉強させて頂きながら、 私自身の視点からも引き続き考察を続けていきたいと思います。

今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。】



こんばんは。
神経内科医のたがしゅう先生から
「さらなる糖質制限の発展へ」というコメントを頂きました。
ありがとうございます。


「糖質制限と出会ったおかげで、私は糖質制限と断食(絶食療法)がケトン体の有効利用という点で
一本の線でつながるという事を理解する事ができました。」


同感です。
私は34歳のときに、初めて「本断食」を行いました。

その縁で絶食研究会にも入会したので、脳がブドウ糖だけでなくケトン体を利用できることは、そのとき知識として入りました。

その後1999年に、私の兄江部洋一郎院長(当時)が、高雄病院に糖質制限食を導入しました。

私自身は、2001年から糖質制限食に取り組みました。
スーパー糖質制限食は、脂肪56%、たんぱく質32%、糖質12%です。

糖質制限食がきっかけで、ケトン食にも出会い、興味を持ちました。
ケトン食は、脂肪摂取比率が約90%近い究極の糖質制限食です。

ケトン食は小児難治性てんかんの治療食であり、近年では、がんの治療食としても注目されています。

いずれにせよ、たがしゅう先生がご指摘のごとく、ケトン体がキーワードです。

さらに、宗田先生のご研究により、胎児・胎盤のケトン体は成人の血中濃度の20~30倍もあることが確認されました。

つまり胎児のもっとも重要なエネルギー源はブドウ糖ではなく、ケトン体である可能性が強く示唆されました。

さらに、欧米の論文で、


『ケトン体の一種であるβ-ヒドロキシ酪酸(BHB)が炎症の要となるインフラマソームを直接阻害することで炎症を抑制する可能性が示唆された』


『絶食で過剰な炎症産生源となったインフラマソームの働きを抑制するのは、 ケトン体がサーチュインを介してミトコンドリア機能を改善させる事によって起こるのではないか』

というようなことも判明してきました。

ケトン体は、随分長い間、医学界では悪者にされてきましたが、悪者どころか、とても優れものだということで、おおいに名誉回復です。

「糖質の中毒性について学ぼうと思えば、禁煙関係の論文を読むと理解が深まります。
なぜならば糖質もタバコに含まれるニコチンも、脳の側坐核を中心とした報酬経路をドーパミンという神経伝達物質を介して刺激するという共通点があるからです。」

「たとえば、禁煙継続の鍵は1年以上継続できるかどうかであるという事を疫学的に実証した研究があります。この事は理論的な理解なくして高糖質食から糖質制限食へ移行する事の難しさを示唆していると思います。」


ニコチン依存症やアルコール依存症は有名ですが、糖質依存症の認知度は、まだまだ低いです。

糖尿病専門医や栄養士の指導を鵜呑みにせずに、自分の頭で考えて、判断し、選択するということがとても大切だと思います。

そのためにも、糖質制限食の理論を理解することは大切と思います。

理論を理解して、初めて自分で判断することができます。

糖質制限基礎理論の多くは、シンプルで難しくはありませんので、本を1冊通して読んで頂ければ、医学的知識がなくても速やかに理解できて、実践できると思います。


「糖質制限がよいという結論は、多くの実践者が知るところでしょうけれど、 その理論的な裏付けが高まれば高まるほど、実践者にとってさらなる安心を与え、 また一人の人間ができる事には限りがありますが、各分野の専門家がそれぞれの分野の視点からの考察を加えれば、 今までには全くなかった別の視点が見えてくるようになり、さらなる糖質制限の発展へとつながるに違いありません。 そのためにも理論的な裏付けが増える事は大事ですね。」

賛成です。

患者さんが実践するうえでの基本的糖質制限的知識に加えて我々いろんな分野の医師が、まだわかっていない部分などを
話しあい、協力して、精度を高めていけば、さらなる糖質制限理論の発展や何らかの「ブレーク スルー」が起こる可能性もありますね。


「今後も先生のブログで勉強させて頂きながら、 私自身の視点からも引き続き考察を続けていきたいと思います。
今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。」


こちらこそ、よろしくお願い申し上げます。


江部康二


テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット