2015年04月08日 (水)
江部先生、「糖質制限は危ない」って本当ですか?
(洋泉社)江部 康二 (著) \1404-
2015/4/11刊行。アマゾンで予約受付中。
こんばんは。
今回は、グルコーススパイク(ブドウ糖スパイク)のお話です。
近年の糖尿病の話題として、
『空腹時血糖値と食後高血糖値の差(ブドウ糖スパイク)が大きいほど、リアルタイムに大血管の内皮が傷害されて動脈硬化になりやすく、将来心筋梗塞や脳梗塞などの合併症の危険性が高まる』
ということが明らかとなりました。
糖尿病の人は、当然、ブドウ糖スパイクが大きいわけです。
また食後血糖値が180mg/dlを超えると動脈硬化のリスクとなります。
例えば、空腹時血糖値が100mg/dl~110mg/dl未満などと正常でも、糖質一人前を摂取後の血糖値のピークは200~300mg/dlとなってしまいます。1gの糖質が体重64kgの人で、約3mg血糖値を上昇させるからです。
ちなみに脂質やタンパク質を食べても、血糖値は上昇しないので、ブドウ糖スパイクは起こりません。
つまり、2型糖尿人が従来の糖尿病食(高糖質食)を実践してひもじいのを我慢してカロリー制限しても、糖質を摂取するので食後高血糖は防げません。
炊いたご飯軽く1杯は150gで、250kcalですが、糖質を55g含んでいるので、165mgも血糖値を上げ、グルコーススパイクを必ず生じるのです。
そして食後血糖値と空腹時の血糖変動幅の増加(平均血糖変動幅増大)も血管内皮の障害を生じますが、これを生じるのも糖質摂取時だけです。
スーパー糖質制限食なら、食後高血糖も平均血糖変動幅増大も生じません。
このように将来の糖尿病合併症を予防するためには、糖質制限食以外の食事療法は存在しないのです。
次に、糖尿病がない人でも、精製された炭水化物(高GI食品)を食べれば、糖尿病の人に比べれば小さいとはいえ、ブドウ糖スパイクを生じます。
健常者でも耐糖能には個人差がありますが、一人前の糖質摂取で、30~60mgくらい血糖値が上昇します。
このとき、180mg/dlを超える食後高血糖を防ぐためにインスリンの追加分泌は数倍~30倍でます。
そうすると代謝全般に乱れが生じて、アレルギー疾患や高脂血症・肥満など様々な生活習慣病にも悪影響を与えます。
私は、この小さなブドウ糖スパイクを、『ミニスパイク』と呼んでいます。
この『グルコースミニスパイク』と『インスリンの過剰分泌』を毎日数回繰り返しているのが、現代人の食生活ですが、これこそが、様々な生活習慣病の元凶と考えられます。
精製された炭水化物は、特に血糖を上昇させやすい食品です。
GIの基準となるブドウ糖が100として、マッシュポテトは血糖上昇指数(GI)が87、白パンなどの精製小麦粉製品は75もあります。
ちなみに白米は73、玄米は68、うどんが55、スパゲッティ49、茹でた大豆が15です。(*炭水化物=糖質+食物繊維)
http://www.mendosa.com/gilists.htm
このサイトは、David Mendosaという、「ミスターGI」とも呼べるマニアックなおじさんが運営していて、およそGIのことならなんでも載っています。
英文ですが、GIに興味がある方はお暇なときに覗いてみてください。
やや意外なのは、うどんやスパゲッティの方が玄米よりGIが低いということです。
4/26(土)に『うどん県』で『糖質制限食』の講演ですが、ほんの少しですが、おみやげができました。
糖尿病が無ければ、うどんやスパゲッティや玄米などGIの比較的低いものを主食としていれば、ミニスパイクも生じにくく、血管内皮の障害のリスクも無くなりますし代謝も安定します。
例えば欧米の栄養ガイドラインには、精製された穀物はやめて、未精製の穀物を食べるよう明記してあります。
しかしながら、糖尿病の人は低GI食品でも含まれる糖質の絶対量に応じて血糖が上昇するので、GI値はあまり役に立たず、糖質制限が必要なのです。
過去経験的に、「玄米魚菜食がいろんな病気の改善に良い」と言われ、高雄病院でも1984年から玄米魚菜食を給食で提供してきました。
なぜ良いのか、理論的根拠に長年悩んでいましたが、「ブドウ糖ミニスパイク理論」でやっと説明がつきました。
世界中に、今まで様々な食事療法があり、それぞれ治療効果を謳っていますが、やはり「ブドウ糖ミニスパイクが少ない」という一点で共通していることが多いようです。
なお、スーパー糖質制限食ならミニスパイクも全く起こらず、血糖値は勿論、血流・代謝全てが安定します。
江部康二
(洋泉社)江部 康二 (著) \1404-
2015/4/11刊行。アマゾンで予約受付中。
こんばんは。
今回は、グルコーススパイク(ブドウ糖スパイク)のお話です。
近年の糖尿病の話題として、
『空腹時血糖値と食後高血糖値の差(ブドウ糖スパイク)が大きいほど、リアルタイムに大血管の内皮が傷害されて動脈硬化になりやすく、将来心筋梗塞や脳梗塞などの合併症の危険性が高まる』
ということが明らかとなりました。
糖尿病の人は、当然、ブドウ糖スパイクが大きいわけです。
また食後血糖値が180mg/dlを超えると動脈硬化のリスクとなります。
例えば、空腹時血糖値が100mg/dl~110mg/dl未満などと正常でも、糖質一人前を摂取後の血糖値のピークは200~300mg/dlとなってしまいます。1gの糖質が体重64kgの人で、約3mg血糖値を上昇させるからです。
ちなみに脂質やタンパク質を食べても、血糖値は上昇しないので、ブドウ糖スパイクは起こりません。
つまり、2型糖尿人が従来の糖尿病食(高糖質食)を実践してひもじいのを我慢してカロリー制限しても、糖質を摂取するので食後高血糖は防げません。
炊いたご飯軽く1杯は150gで、250kcalですが、糖質を55g含んでいるので、165mgも血糖値を上げ、グルコーススパイクを必ず生じるのです。
そして食後血糖値と空腹時の血糖変動幅の増加(平均血糖変動幅増大)も血管内皮の障害を生じますが、これを生じるのも糖質摂取時だけです。
スーパー糖質制限食なら、食後高血糖も平均血糖変動幅増大も生じません。
このように将来の糖尿病合併症を予防するためには、糖質制限食以外の食事療法は存在しないのです。
次に、糖尿病がない人でも、精製された炭水化物(高GI食品)を食べれば、糖尿病の人に比べれば小さいとはいえ、ブドウ糖スパイクを生じます。
健常者でも耐糖能には個人差がありますが、一人前の糖質摂取で、30~60mgくらい血糖値が上昇します。
このとき、180mg/dlを超える食後高血糖を防ぐためにインスリンの追加分泌は数倍~30倍でます。
そうすると代謝全般に乱れが生じて、アレルギー疾患や高脂血症・肥満など様々な生活習慣病にも悪影響を与えます。
私は、この小さなブドウ糖スパイクを、『ミニスパイク』と呼んでいます。
この『グルコースミニスパイク』と『インスリンの過剰分泌』を毎日数回繰り返しているのが、現代人の食生活ですが、これこそが、様々な生活習慣病の元凶と考えられます。
精製された炭水化物は、特に血糖を上昇させやすい食品です。
GIの基準となるブドウ糖が100として、マッシュポテトは血糖上昇指数(GI)が87、白パンなどの精製小麦粉製品は75もあります。
ちなみに白米は73、玄米は68、うどんが55、スパゲッティ49、茹でた大豆が15です。(*炭水化物=糖質+食物繊維)
http://www.mendosa.com/gilists.htm
このサイトは、David Mendosaという、「ミスターGI」とも呼べるマニアックなおじさんが運営していて、およそGIのことならなんでも載っています。
英文ですが、GIに興味がある方はお暇なときに覗いてみてください。
やや意外なのは、うどんやスパゲッティの方が玄米よりGIが低いということです。
4/26(土)に『うどん県』で『糖質制限食』の講演ですが、ほんの少しですが、おみやげができました。
糖尿病が無ければ、うどんやスパゲッティや玄米などGIの比較的低いものを主食としていれば、ミニスパイクも生じにくく、血管内皮の障害のリスクも無くなりますし代謝も安定します。
例えば欧米の栄養ガイドラインには、精製された穀物はやめて、未精製の穀物を食べるよう明記してあります。
しかしながら、糖尿病の人は低GI食品でも含まれる糖質の絶対量に応じて血糖が上昇するので、GI値はあまり役に立たず、糖質制限が必要なのです。
過去経験的に、「玄米魚菜食がいろんな病気の改善に良い」と言われ、高雄病院でも1984年から玄米魚菜食を給食で提供してきました。
なぜ良いのか、理論的根拠に長年悩んでいましたが、「ブドウ糖ミニスパイク理論」でやっと説明がつきました。
世界中に、今まで様々な食事療法があり、それぞれ治療効果を謳っていますが、やはり「ブドウ糖ミニスパイクが少ない」という一点で共通していることが多いようです。
なお、スーパー糖質制限食ならミニスパイクも全く起こらず、血糖値は勿論、血流・代謝全てが安定します。
江部康二
2014年10月08日 (水)
こんにちは。
「食品別糖質量ハンドブック」洋泉社 江部康二 監修
2012年10月25日、刊行。
おかげさまで、12刷、10万部突破です。
たくさんの方にご購入いただき、とても嬉しく思います。
糖尿人、メタボ人、生活習慣病の改善を目指す方、健康のために糖質制限食をされる方のお役にたてば幸いです。

この本、¥840- と手軽な価格でよくまとまっています。
じっくり時間をかけて作っていただいたので、とても使いやすい完成度の高いハンドブックとなりました。
写真も鮮明で、糖質量の文字も大きくて、わかりやすいです。
洋泉社さん、ありがとうございます。 m(_ _)m
糖質制限食を指導する立場の医師・栄養士はもちろん、糖質制限食実践中の患者さんにも強い味方となってくれると思います。
江部康二
☆☆☆
以下「食品別糖質量ハンドブック」のはじめにです。
はじめに
2005年に「主食を抜けば糖尿病は良くなる!」(東洋経済新報社)を、日本で初めて「糖質制限食」の理論的な本として上梓しました。その後、理論面の本やレシピ本などを各社から多数出版してきました。この間、糖質制限食を日本に広める役目を確実に果たしてきたかなと自負しています。
特にこの1~2年、テレビ・新聞・雑誌などのマスコミが、こぞって糖質制限食を取り上げ、世間一般の認知度は格段に上がったと思います。
2012年1月15日、京都国際会館で開催された第15回日本病態栄養学会年次学術集会において「糖尿病治療に低炭水化物食は是か?非か?」というディベートセッションが行われ、私は是側の演者として講演しました。通常は3000人規模の学会に4000人の医師・栄養士が参加し大きな反響を巻き起こしました。このことは糖質制限食が医学界の表舞台に初登場したという意味で、大きな一歩といえます。
私のブログ「ドクター江部の糖尿病徒然日記」のアクセス件数もこの日を境に1000件以上増えて、現在1日に15000件のアクセスがある人気ブログとなりました。
さらにこのセッション以降、日本全国の医師会や病院から講演依頼があり、2012年はすでに12回の医師・医療関係者向け糖質制限食講演会を行いました。医学界にも爆発的に糖質制限食が広がり始めていて、嬉しい限りです。
このような状況の中で、糖質制限食を推進しておられる医師や栄養士から、食品や料理の糖質のグラム数がわかり、持ち運びもできるようなハンドブックを是非出版して欲しいとの声が多く聞かれるようになりました。確かにそのようなハンドブックがあればとても便利です。
本書は、身近な食品や料理の糖質量・たんぱく質量・カロリーなどが、写真入りでひとめでわかるように工夫されています。糖質制限食を指導する立場の医師・栄養士はもちろん、糖質制限食実践中の患者さんにも強い味方となってくれると思います。是非ご一読いただければ幸いです。
2012年10月
高雄病院理事長
江部康二
「食品別糖質量ハンドブック」洋泉社 江部康二 監修
2012年10月25日、刊行。
おかげさまで、12刷、10万部突破です。
たくさんの方にご購入いただき、とても嬉しく思います。
糖尿人、メタボ人、生活習慣病の改善を目指す方、健康のために糖質制限食をされる方のお役にたてば幸いです。

この本、¥840- と手軽な価格でよくまとまっています。
じっくり時間をかけて作っていただいたので、とても使いやすい完成度の高いハンドブックとなりました。
写真も鮮明で、糖質量の文字も大きくて、わかりやすいです。
洋泉社さん、ありがとうございます。 m(_ _)m
糖質制限食を指導する立場の医師・栄養士はもちろん、糖質制限食実践中の患者さんにも強い味方となってくれると思います。
江部康二
☆☆☆
以下「食品別糖質量ハンドブック」のはじめにです。
はじめに
2005年に「主食を抜けば糖尿病は良くなる!」(東洋経済新報社)を、日本で初めて「糖質制限食」の理論的な本として上梓しました。その後、理論面の本やレシピ本などを各社から多数出版してきました。この間、糖質制限食を日本に広める役目を確実に果たしてきたかなと自負しています。
特にこの1~2年、テレビ・新聞・雑誌などのマスコミが、こぞって糖質制限食を取り上げ、世間一般の認知度は格段に上がったと思います。
2012年1月15日、京都国際会館で開催された第15回日本病態栄養学会年次学術集会において「糖尿病治療に低炭水化物食は是か?非か?」というディベートセッションが行われ、私は是側の演者として講演しました。通常は3000人規模の学会に4000人の医師・栄養士が参加し大きな反響を巻き起こしました。このことは糖質制限食が医学界の表舞台に初登場したという意味で、大きな一歩といえます。
私のブログ「ドクター江部の糖尿病徒然日記」のアクセス件数もこの日を境に1000件以上増えて、現在1日に15000件のアクセスがある人気ブログとなりました。
さらにこのセッション以降、日本全国の医師会や病院から講演依頼があり、2012年はすでに12回の医師・医療関係者向け糖質制限食講演会を行いました。医学界にも爆発的に糖質制限食が広がり始めていて、嬉しい限りです。
このような状況の中で、糖質制限食を推進しておられる医師や栄養士から、食品や料理の糖質のグラム数がわかり、持ち運びもできるようなハンドブックを是非出版して欲しいとの声が多く聞かれるようになりました。確かにそのようなハンドブックがあればとても便利です。
本書は、身近な食品や料理の糖質量・たんぱく質量・カロリーなどが、写真入りでひとめでわかるように工夫されています。糖質制限食を指導する立場の医師・栄養士はもちろん、糖質制限食実践中の患者さんにも強い味方となってくれると思います。是非ご一読いただければ幸いです。
2012年10月
高雄病院理事長
江部康二
2014年07月15日 (火)
こんにちは。
今日も、血糖変動幅のお話しです。
現在、血糖値が高いときと低いときの差(血糖変動幅)が大きいほど酸化ストレスを生じやすく、動脈硬化が進行し、糖尿病合併症につながりやすいと考えられています。
また糖尿病でない人においても、血糖変動幅の増大は、急性の心筋梗塞や狭心症にも関与することが知られています。
従って血糖変動幅を小さくして、一日を通して食前食後の血糖値の推移をできるだけ平坦に近づければ、急性冠症候群や糖尿病合併症も生じにくいという理屈となります。
すなわち血糖変動幅は、小さければ小さいほどいいのです。
例えば重症ICU入院患者を血糖変動の大きさに応じて、4分して死亡率をみた研究があります。
血糖変動の最も小さいグループの死亡率が12.1%であったのに対し、 血糖変動が大きくなるにつれ患者死亡率は19.9%、
27.7%、そして37.8%と有意に増加しました。(*)
東京慈恵会医科大学附属第三病院 糖尿病・代謝・内分泌内科の森豊診療部長によれば、
「初期の 2 型糖尿病患者と健常者に対して CGM にて血糖日内変動を比較した結果、両者の平均血糖値にはそれほど大きな差がなかったにもかかわらず、糖尿病患者の血糖変動幅の指標はいずれも健常者の 2 ~ 3 倍にのぼり、糖尿病患者ではHbA1c値がそれほど高くない段階から1日のなかで血糖値が大きく変動していることがわかった。」(**)
とのことです。
つまり、HbA1cには大差がなかったのに、糖尿人では健常人に比し、血糖変動幅が2~3倍もあり、それが将来の合併症につながっていくのだと思われます。
血糖値は、食事の内容で、全く違ってきます。
血糖値を上昇させるのは、糖質だけであり、蛋白質・脂質は上げません。
すなわち血糖変動幅を増大させるのは糖質摂取時だけです。
スーパー糖質制限食なら、血糖変動はほとんどなくなり、一日を通してフラットに近づきます。
そうなると、糖尿病合併症や急性冠症候群(心筋梗塞や狭心症)のリスクも大幅に減少します(^^)
日本糖尿病学会推奨の糖尿病食(高糖質食)では、血糖変動幅増大は決して防げず、糖尿病合併症や急性冠症候群(心筋梗塞や狭心症)のリスクも増大の一途なのです(=_=;)
一応、日本糖尿病学会的には、血糖変動は、70mg/dl以上で180mg/dl未満の間であれば、許容範囲としているようです。
しかし、理論的に言えば、血糖変動は小さければ小さいほどいいに決まっているのです。
(*)
Egi M,Bellomo R,Stachowski E,et al:Variability of Blood
Glucose Concentration and Short-term Mortality in Critically
Ill Patients.Anesthesiology 105:244-252,2006
(**)Online DITN 第 408 号 ■ EDITORIAL(1)
2012 Medical Journal Sha Co., Ltd. Online DITN 第 408 号
2012 年(平成 24 年)3 月 5 日発行
江部康二
今日も、血糖変動幅のお話しです。
現在、血糖値が高いときと低いときの差(血糖変動幅)が大きいほど酸化ストレスを生じやすく、動脈硬化が進行し、糖尿病合併症につながりやすいと考えられています。
また糖尿病でない人においても、血糖変動幅の増大は、急性の心筋梗塞や狭心症にも関与することが知られています。
従って血糖変動幅を小さくして、一日を通して食前食後の血糖値の推移をできるだけ平坦に近づければ、急性冠症候群や糖尿病合併症も生じにくいという理屈となります。
すなわち血糖変動幅は、小さければ小さいほどいいのです。
例えば重症ICU入院患者を血糖変動の大きさに応じて、4分して死亡率をみた研究があります。
血糖変動の最も小さいグループの死亡率が12.1%であったのに対し、 血糖変動が大きくなるにつれ患者死亡率は19.9%、
27.7%、そして37.8%と有意に増加しました。(*)
東京慈恵会医科大学附属第三病院 糖尿病・代謝・内分泌内科の森豊診療部長によれば、
「初期の 2 型糖尿病患者と健常者に対して CGM にて血糖日内変動を比較した結果、両者の平均血糖値にはそれほど大きな差がなかったにもかかわらず、糖尿病患者の血糖変動幅の指標はいずれも健常者の 2 ~ 3 倍にのぼり、糖尿病患者ではHbA1c値がそれほど高くない段階から1日のなかで血糖値が大きく変動していることがわかった。」(**)
とのことです。
つまり、HbA1cには大差がなかったのに、糖尿人では健常人に比し、血糖変動幅が2~3倍もあり、それが将来の合併症につながっていくのだと思われます。
血糖値は、食事の内容で、全く違ってきます。
血糖値を上昇させるのは、糖質だけであり、蛋白質・脂質は上げません。
すなわち血糖変動幅を増大させるのは糖質摂取時だけです。
スーパー糖質制限食なら、血糖変動はほとんどなくなり、一日を通してフラットに近づきます。
そうなると、糖尿病合併症や急性冠症候群(心筋梗塞や狭心症)のリスクも大幅に減少します(^^)
日本糖尿病学会推奨の糖尿病食(高糖質食)では、血糖変動幅増大は決して防げず、糖尿病合併症や急性冠症候群(心筋梗塞や狭心症)のリスクも増大の一途なのです(=_=;)
一応、日本糖尿病学会的には、血糖変動は、70mg/dl以上で180mg/dl未満の間であれば、許容範囲としているようです。
しかし、理論的に言えば、血糖変動は小さければ小さいほどいいに決まっているのです。
(*)
Egi M,Bellomo R,Stachowski E,et al:Variability of Blood
Glucose Concentration and Short-term Mortality in Critically
Ill Patients.Anesthesiology 105:244-252,2006
(**)Online DITN 第 408 号 ■ EDITORIAL(1)
2012 Medical Journal Sha Co., Ltd. Online DITN 第 408 号
2012 年(平成 24 年)3 月 5 日発行
江部康二
2011年09月09日 (金)
こんにちは
常々本ブログで、食後高血糖が動脈硬化や発癌のリスクであるというエビデンスを、医学雑誌掲載論文や国際糖尿病連合のガイドラインをもとに示してきました。
今回は、
「繰り返す血糖変動は持続的高血糖よりも、血管内皮機能と酸化ストレスの障害をおこす。」
という論文を紹介ます。(*)
新規(6ヵ月以内)に2型糖尿病と診断され、食事療法のみを実施している15例を対象に、研究が行われました。
持続的に点滴をして操作して、意図的に以下の1)2)3)の状況を作り出して、血管内皮機能の指標(FMD、ニトロチロシン)を調べた研究です。
1) 6時間ごとに270mg/dLと正常化を繰り返す血糖変動
2) 270mg/dLの持続的高血糖の維持
3) 180mg/dLの持続的高血糖の維持
血糖、FMD、ニトロチロシンを6時間ごとに測定。
グラフがなくて文章だけだと、ややわかりにくいのですが
1)は、前が90mg/dl 、点滴でブドウ糖を投与して270mg/dlにして、
また90mg/dlに戻して、もう1回ブドウ糖を投与して270mg/dlにして、
その後126mg/dlに戻してというパターンです。
2)は点滴によりずっとブドウ糖を投与して、24時間、270mg/dlを保つパターンです。
3)は点滴によりずっとブドウ糖を投与して、24時間、180mg/dlを保つパターンです。
2型糖尿病患者において、1)2)3)を、無作為の順に実施し、血糖、FMD、ニトロチロシンに及ぼす影響を検討した研究です。
血糖変動群における高血糖期(12、24時間後)には、持続的高血糖群と比較して、FMDは同程度、または有意な低下、ニトロチロシンは同程度または有意な増加が示されました。
すなわち、この研究では繰り返す血糖変動が、持続的高血糖よりも、血管内皮機能と酸化ストレスの障害を強く起こすことが示されました。
結局、1日3回、主食(糖質)を摂取する従来のカロリー制限食は、まさにこの研究の、「繰り返す血糖変動」を1日3回生じているわけであり、動脈硬化の大きなリスクをわざわざひき起こす危険な食事療法の可能性が高いのです。
糖質制限食なら、「繰り返す血糖変動」は1回も生じませんので、動脈硬化のリスクもありません。
江部康二
(*)
Oscillating Glucose Is More Deleterious to Endothelial Function and Oxidative Stress Than Mean Glucose in Normal and Type 2 Diabetic Patients
Ceriello A, et al:Diabetes, 57:1349-1354,2008
常々本ブログで、食後高血糖が動脈硬化や発癌のリスクであるというエビデンスを、医学雑誌掲載論文や国際糖尿病連合のガイドラインをもとに示してきました。
今回は、
「繰り返す血糖変動は持続的高血糖よりも、血管内皮機能と酸化ストレスの障害をおこす。」
という論文を紹介ます。(*)
新規(6ヵ月以内)に2型糖尿病と診断され、食事療法のみを実施している15例を対象に、研究が行われました。
持続的に点滴をして操作して、意図的に以下の1)2)3)の状況を作り出して、血管内皮機能の指標(FMD、ニトロチロシン)を調べた研究です。
1) 6時間ごとに270mg/dLと正常化を繰り返す血糖変動
2) 270mg/dLの持続的高血糖の維持
3) 180mg/dLの持続的高血糖の維持
血糖、FMD、ニトロチロシンを6時間ごとに測定。
グラフがなくて文章だけだと、ややわかりにくいのですが
1)は、前が90mg/dl 、点滴でブドウ糖を投与して270mg/dlにして、
また90mg/dlに戻して、もう1回ブドウ糖を投与して270mg/dlにして、
その後126mg/dlに戻してというパターンです。
2)は点滴によりずっとブドウ糖を投与して、24時間、270mg/dlを保つパターンです。
3)は点滴によりずっとブドウ糖を投与して、24時間、180mg/dlを保つパターンです。
2型糖尿病患者において、1)2)3)を、無作為の順に実施し、血糖、FMD、ニトロチロシンに及ぼす影響を検討した研究です。
血糖変動群における高血糖期(12、24時間後)には、持続的高血糖群と比較して、FMDは同程度、または有意な低下、ニトロチロシンは同程度または有意な増加が示されました。
すなわち、この研究では繰り返す血糖変動が、持続的高血糖よりも、血管内皮機能と酸化ストレスの障害を強く起こすことが示されました。
結局、1日3回、主食(糖質)を摂取する従来のカロリー制限食は、まさにこの研究の、「繰り返す血糖変動」を1日3回生じているわけであり、動脈硬化の大きなリスクをわざわざひき起こす危険な食事療法の可能性が高いのです。
糖質制限食なら、「繰り返す血糖変動」は1回も生じませんので、動脈硬化のリスクもありません。
江部康二
(*)
Oscillating Glucose Is More Deleterious to Endothelial Function and Oxidative Stress Than Mean Glucose in Normal and Type 2 Diabetic Patients
Ceriello A, et al:Diabetes, 57:1349-1354,2008
2010年09月14日 (火)
こんにちは。
神経内科医のnaoki さんから、イヌイットの平均寿命が短い理由などについて、コメント・質問をいただきました。
「10/09/06 naoki
質問3つ
はじめまして。 大変興味深く拝見しております。
先生に質問させていただくのはこのブログのコメントを使うのでよいのですか?
私は糖尿病は専門外の医師(神経内科)です。
抗加齢医学→溝口徹先生のオーソモレキュラー→糖質制限の話題→江部先生というルートでこのブログにたどり着きました。
ご著書の「主食を抜けば....」の2冊を先に拝読し、現在このブログの過去ログを読み進めております。
9/1からの記事を一気に拝見しました。
いくつかたまってきた疑問を列挙させて下さい。とても素人っぽい質問です(^_^;)。
すでに出た話題でしたら申し訳ありません。
その1:
今年2月15日の記事で最後に紹介されていた柴田博先生のホームページ「食肉の栄養知識」http://kumamoto.lin.gr.jp/shokuniku/eiyochisiki/nihon_ichi/index.html
内の■栄養素摂取の日米比較 で、イヌイット(いつ頃の年代のかは不明)が短命であること、その影響は魚油の摂りすぎ(??)というような記載がありました。
正しいご意見と思われますか?
確かに人類の歴史において、食生活は長らく糖質制限状態だったわけですが、精製糖質過剰状態になった現代の方が、平均寿命は長いですよね。ご先祖様達が短命だったのは、もちろん飢餓(総カロリーの不足)や苛烈な生活環境、衛生状態などが影響しているのでしょうが。しかし、食生活が糖質制限状態で、かつ清潔・快適な環境で長期間過ごした集団が本当に最高に長い平均寿命(健康寿命)を達成できるかどうかの実証はこれからか.....
あ、これは質問というよりつぶやきです。
その2:
糖尿病がない人でも精製された糖質を摂取して生じる「ミニスパイク」。
具体的にはピークでどれくらいの血糖値、あるいは血糖上昇度を考えておられますか?
蛋白質もある程度は血糖値が(遅れて)上がるようですが、多量に食べても(普通に一回に摂取できる量なら)ミニスパイクというほどの上昇はない、と考えてよろしいですか?
その3:
高雄病院でアレルギー疾患の治療のために出されている給食(玄米魚菜食)の、糖質量、一日摂取カロリーの中の割合はどれくらいですか?
もし糖質20~30%なら、アレルギー疾患用の食事も、糖質制限食をベースとした一つのバリエーションということですね。
もし糖質50%以上なら....アレルギーの人だって糖尿病になる可能性があるから...どうでしょう?
肉食を禁じるのは実は健康上問題があるんですよね?そこをあえて禁じるほど玄米魚菜食というのはアレルギー疾患に本当に効果(か、効果があるというエビデンス)があるんでしょうか?(このへんはまったく不勉強です。お許し下さい。)
糖質制限だけでアレルギー疾患にも効果があれば面白いですね。
以上、まとまりがなくて申し訳ありません。
お時間に十分余裕があるときで結構ですのでよろしくお願いします。
患者さんで、DMの診断基準は満たさないけどお腹が出ていたり中性脂肪だけ高かったりする方、いっぱいおられます。食事のアドバイスが従来とがらっと変わることになりますので、最近この勉強にはまっています。自分でも実践中。検査値異常なし、標準体型、BMI20ですがこの3週間で2kgやせました。どこで下げ止まるか、体調不良が出ないか、実験です。
今後ともよろしくお願い申し上げます。長文ご容赦ください。」
naoki さん。
本のご購入ありがとうございます。
その1:
『今年2月15日の記事で最後に紹介されていた柴田博先生のホームページ「食肉の栄養知識」http://kumamoto.lin.gr.jp/shokuniku/eiyochisiki/nihon_ichi/index.html
内の■栄養素摂取の日米比較 で、イヌイット(いつ頃の年代のかは不明)が短命であること、その影響は魚油の摂りすぎ(??)というような記載がありました。 正しいご意見と思われますか?』
柴田博先生のご意見、イヌイット関連以外のかなりの部分に賛成なのですが、魚油の摂りすぎでイヌイットが短命というのは違うと思います。
柴田博先生のホームページ「食肉の栄養知識」http://kumamoto.lin.gr.jp/shokuniku/eiyochisiki/nihon_ichi/index.htm
『イヌイット(エスキモーと呼ばれたことがある)は、魚や海獣をもっぱら食べています。海獣も魚を常食としていますので、体の脂肪酸構成は魚のそれと近似しています。このイヌイットは、世界で最も短命な部族の一つなのです。脳出血や肺動脱出血で死ぬ人が多いのは血液が固まりにくくなっているためです。老化の早いこともよく知られています。最近わが国には、魚油は多く摂るほど体に良いと考えている人もいます。しかし、これはきわめて危険なことです。総脂肪には適正な量と適正な脂肪酸の割合があります。アメリカの目標、あるいは日本の現状を大きく逸脱した摂取は有害なのです。』
イヌイットの平均寿命が短いのは、脳出血や肺動脈出血?のせいではありません。脳出血の頻度は、当時のヨーロッパ人と差はありませんが、多くはありません。脳梗塞は、当時のヨーロッパ人と比べて、はっきり少なかったと報告されています。
イヌイットは、1900年代初頭までは生肉・生魚が主食で、まさに糖質制限食を実践していました。結果、心筋梗塞・糖尿病・癌などが極めて少なかったことが報告されています。しかし、平均寿命は短かったのです。理由は、乳幼児期の死亡が多いことが一番大きいと思います。
何故かといいますと、出産時の死亡、出産前後の死亡、幼児期の自然環境での事故死が非常に多かったのです。感染症での死亡もあります。
また、若者が猟での事故で死亡することも、たびたびありました。なにしろ、当時の死亡順位の一位は、事故死でした。
乳幼児や若者の死亡率が高いので、必然的に平均寿命は短くなります。
人類の進化の歴史で、農耕が始まる前の399万年間は、naokiさんのご指摘通り、イヌイットと同じような状況、さらに飢餓も日常的であり、当然、平均寿命は短かったと考えられます。
「食生活が糖質制限状態で、かつ清潔・快適な環境で長期間過ごした集団が本当に最高に長い平均寿命(健康寿命)を達成できるかどうかの実証はこれからか.....」
糖質制限食実践により、血液検査における動脈硬化のリスク要因、全てが改善します。全身の代謝と血流が改善します。
また、アジア型のガン(胃ガン、肝ガン、子宮頸ガンなど感染症)は兎も角として、世界ガン研究基金がしめす肥満と関係のあるガン(西欧型のガン)に関しては、予防効果が期待できます。大腸・食道・膵臓・腎臓・子宮体・乳腺のガンと胆のうガンです。
これらは、スーパー糖質制限食時代のイヌイットには、極めて少なかったガンです。動脈硬化とガンがあるていど予防できれば、寿命にはおおいに貢献しそうですが、これはまだまだ、あくまで仮説ですね。
その2:
「糖尿病がない人でも精製された糖質を摂取して生じる「ミニスパイク」。
具体的にはピークでどれくらいの血糖値、あるいは血糖上昇度を考えておられますか?
蛋白質もある程度は血糖値が(遅れて)上がるようですが、多量に食べても(普通に一回に摂取できる量なら)ミニスパイクというほどの上昇はない、と考えてよろしいですか? 」
①血糖値を急峻に上昇させるのは、糖質だけである。*
②タンパク質・脂質は血糖値を上昇させない。*
③追加分泌インスリンが大量に必要なのは、糖質だけである。
④タンパク質を摂取すると、少量の追加分泌インスリンがでる。
⑤脂質を摂取しても、追加分泌インスリンは、分泌されない。
⑥糖質制限食で高血糖は改善するが、肝臓の糖新生などにより、低血糖にはならない。
*1997年版のLife With Diabetes(ADA)では、「タンパク質は約半分が血糖に変わり、脂質は10%未満が血糖に変わる」という記載がありますが、2004年版では削除されています。
1) Life With Diabetes:A Siries of Teaching Outlines by the Michigan Diabetes Research and Training Center,American Diabetes Assoiation ,3rd Ed,2004
糖質だけが血糖値を上昇させ、タンパク質、脂質は血糖値を上昇させないというのが、現時点でのADAの見解です。
体重64kgとして
①1gの糖質が、正常人の血糖値を約0.6~0.9mg上昇させます。
②1gの糖質が、2型糖尿人の血糖値を3mg上昇させます。
③1gの糖質が、1型糖尿人の血糖値を5mg上昇させます。
①に関しては、50gくらいまでの糖質ならだいたい、言えますが、200gの糖質を食べたら180mg上昇ということはでは、ありません。
また、20才くらいまでの、耐糖能が完全正常な人は、糖質100g食べても200g食べても、食後血糖値が140mgを超えることはまずありません。
しかし、30代、40代の正常人は、精製炭水化物だと、1gの糖質が、0.9mg血糖値を上昇させます。そうすると食後血糖値が160~170mgとなりえます。
私見ですが、140mgを超えるとグルコースミニスパイクですね。
その3:
「高雄病院でアレルギー疾患の治療のために出されている給食(玄米魚菜食)の、糖質量、一日摂取カロリーの中の割合はどれくらいですか?
もし糖質20~30%なら、アレルギー疾患用の食事も、糖質制限食をベースとした一つのバリエーションということですね。
もし糖質50%以上なら....アレルギーの人だって糖尿病になる可能性があるから...どうでしょう?
肉食を禁じるのは実は健康上問題があるんですよね?そこをあえて禁じるほど玄米魚菜食というのはアレルギー疾患に本当に効果(か、効果があるというエビデンス)があるんでしょうか?(このへんはまったく不勉強です。お許し下さい。)」
高雄病院の玄米魚菜食は、1200~1800キロカロリー/日です。男女差や身長で、適宜摂取カロリーを調整します。 玄米や野菜分の糖質が、50~60%になると思います。
病院給食の限界で、なかなか、糖質30~40%の玄米魚菜食とかは困難です。
まあ、未精製の穀物と野菜の糖質なので、GIは低いです。GIが低い分、ミニスパイクを起こしにくいと思います。
糖尿人ではGIはあまり役に立ちませんが、正常人では一定の意味があります。主食を未精製穀物にすることや運動で、将来の糖尿病発症予防にはなると思います。運動量に応じて、主食の量を加減する必要があると思います。
ここらあたりのことは、2007年10月06日 (土)のブログ「食育3・テーラーメードダイエット」をご参照いただけば幸いです。
玄米魚菜食でも、肉は適宜食べてもらっています。ただ牛肉は高価なので、鶏や豚がおおいです。個人的には、肉を禁じる必要はないと思っています。
優先順位の第一番に大切なのは、グルコースミニスパイクを生じないような食生活と考えています。
江部康二
神経内科医のnaoki さんから、イヌイットの平均寿命が短い理由などについて、コメント・質問をいただきました。
「10/09/06 naoki
質問3つ
はじめまして。 大変興味深く拝見しております。
先生に質問させていただくのはこのブログのコメントを使うのでよいのですか?
私は糖尿病は専門外の医師(神経内科)です。
抗加齢医学→溝口徹先生のオーソモレキュラー→糖質制限の話題→江部先生というルートでこのブログにたどり着きました。
ご著書の「主食を抜けば....」の2冊を先に拝読し、現在このブログの過去ログを読み進めております。
9/1からの記事を一気に拝見しました。
いくつかたまってきた疑問を列挙させて下さい。とても素人っぽい質問です(^_^;)。
すでに出た話題でしたら申し訳ありません。
その1:
今年2月15日の記事で最後に紹介されていた柴田博先生のホームページ「食肉の栄養知識」http://kumamoto.lin.gr.jp/shokuniku/eiyochisiki/nihon_ichi/index.html
内の■栄養素摂取の日米比較 で、イヌイット(いつ頃の年代のかは不明)が短命であること、その影響は魚油の摂りすぎ(??)というような記載がありました。
正しいご意見と思われますか?
確かに人類の歴史において、食生活は長らく糖質制限状態だったわけですが、精製糖質過剰状態になった現代の方が、平均寿命は長いですよね。ご先祖様達が短命だったのは、もちろん飢餓(総カロリーの不足)や苛烈な生活環境、衛生状態などが影響しているのでしょうが。しかし、食生活が糖質制限状態で、かつ清潔・快適な環境で長期間過ごした集団が本当に最高に長い平均寿命(健康寿命)を達成できるかどうかの実証はこれからか.....
あ、これは質問というよりつぶやきです。
その2:
糖尿病がない人でも精製された糖質を摂取して生じる「ミニスパイク」。
具体的にはピークでどれくらいの血糖値、あるいは血糖上昇度を考えておられますか?
蛋白質もある程度は血糖値が(遅れて)上がるようですが、多量に食べても(普通に一回に摂取できる量なら)ミニスパイクというほどの上昇はない、と考えてよろしいですか?
その3:
高雄病院でアレルギー疾患の治療のために出されている給食(玄米魚菜食)の、糖質量、一日摂取カロリーの中の割合はどれくらいですか?
もし糖質20~30%なら、アレルギー疾患用の食事も、糖質制限食をベースとした一つのバリエーションということですね。
もし糖質50%以上なら....アレルギーの人だって糖尿病になる可能性があるから...どうでしょう?
肉食を禁じるのは実は健康上問題があるんですよね?そこをあえて禁じるほど玄米魚菜食というのはアレルギー疾患に本当に効果(か、効果があるというエビデンス)があるんでしょうか?(このへんはまったく不勉強です。お許し下さい。)
糖質制限だけでアレルギー疾患にも効果があれば面白いですね。
以上、まとまりがなくて申し訳ありません。
お時間に十分余裕があるときで結構ですのでよろしくお願いします。
患者さんで、DMの診断基準は満たさないけどお腹が出ていたり中性脂肪だけ高かったりする方、いっぱいおられます。食事のアドバイスが従来とがらっと変わることになりますので、最近この勉強にはまっています。自分でも実践中。検査値異常なし、標準体型、BMI20ですがこの3週間で2kgやせました。どこで下げ止まるか、体調不良が出ないか、実験です。
今後ともよろしくお願い申し上げます。長文ご容赦ください。」
naoki さん。
本のご購入ありがとうございます。
その1:
『今年2月15日の記事で最後に紹介されていた柴田博先生のホームページ「食肉の栄養知識」http://kumamoto.lin.gr.jp/shokuniku/eiyochisiki/nihon_ichi/index.html
内の■栄養素摂取の日米比較 で、イヌイット(いつ頃の年代のかは不明)が短命であること、その影響は魚油の摂りすぎ(??)というような記載がありました。 正しいご意見と思われますか?』
柴田博先生のご意見、イヌイット関連以外のかなりの部分に賛成なのですが、魚油の摂りすぎでイヌイットが短命というのは違うと思います。
柴田博先生のホームページ「食肉の栄養知識」http://kumamoto.lin.gr.jp/shokuniku/eiyochisiki/nihon_ichi/index.htm
『イヌイット(エスキモーと呼ばれたことがある)は、魚や海獣をもっぱら食べています。海獣も魚を常食としていますので、体の脂肪酸構成は魚のそれと近似しています。このイヌイットは、世界で最も短命な部族の一つなのです。脳出血や肺動脱出血で死ぬ人が多いのは血液が固まりにくくなっているためです。老化の早いこともよく知られています。最近わが国には、魚油は多く摂るほど体に良いと考えている人もいます。しかし、これはきわめて危険なことです。総脂肪には適正な量と適正な脂肪酸の割合があります。アメリカの目標、あるいは日本の現状を大きく逸脱した摂取は有害なのです。』
イヌイットの平均寿命が短いのは、脳出血や肺動脈出血?のせいではありません。脳出血の頻度は、当時のヨーロッパ人と差はありませんが、多くはありません。脳梗塞は、当時のヨーロッパ人と比べて、はっきり少なかったと報告されています。
イヌイットは、1900年代初頭までは生肉・生魚が主食で、まさに糖質制限食を実践していました。結果、心筋梗塞・糖尿病・癌などが極めて少なかったことが報告されています。しかし、平均寿命は短かったのです。理由は、乳幼児期の死亡が多いことが一番大きいと思います。
何故かといいますと、出産時の死亡、出産前後の死亡、幼児期の自然環境での事故死が非常に多かったのです。感染症での死亡もあります。
また、若者が猟での事故で死亡することも、たびたびありました。なにしろ、当時の死亡順位の一位は、事故死でした。
乳幼児や若者の死亡率が高いので、必然的に平均寿命は短くなります。
人類の進化の歴史で、農耕が始まる前の399万年間は、naokiさんのご指摘通り、イヌイットと同じような状況、さらに飢餓も日常的であり、当然、平均寿命は短かったと考えられます。
「食生活が糖質制限状態で、かつ清潔・快適な環境で長期間過ごした集団が本当に最高に長い平均寿命(健康寿命)を達成できるかどうかの実証はこれからか.....」
糖質制限食実践により、血液検査における動脈硬化のリスク要因、全てが改善します。全身の代謝と血流が改善します。
また、アジア型のガン(胃ガン、肝ガン、子宮頸ガンなど感染症)は兎も角として、世界ガン研究基金がしめす肥満と関係のあるガン(西欧型のガン)に関しては、予防効果が期待できます。大腸・食道・膵臓・腎臓・子宮体・乳腺のガンと胆のうガンです。
これらは、スーパー糖質制限食時代のイヌイットには、極めて少なかったガンです。動脈硬化とガンがあるていど予防できれば、寿命にはおおいに貢献しそうですが、これはまだまだ、あくまで仮説ですね。
その2:
「糖尿病がない人でも精製された糖質を摂取して生じる「ミニスパイク」。
具体的にはピークでどれくらいの血糖値、あるいは血糖上昇度を考えておられますか?
蛋白質もある程度は血糖値が(遅れて)上がるようですが、多量に食べても(普通に一回に摂取できる量なら)ミニスパイクというほどの上昇はない、と考えてよろしいですか? 」
①血糖値を急峻に上昇させるのは、糖質だけである。*
②タンパク質・脂質は血糖値を上昇させない。*
③追加分泌インスリンが大量に必要なのは、糖質だけである。
④タンパク質を摂取すると、少量の追加分泌インスリンがでる。
⑤脂質を摂取しても、追加分泌インスリンは、分泌されない。
⑥糖質制限食で高血糖は改善するが、肝臓の糖新生などにより、低血糖にはならない。
*1997年版のLife With Diabetes(ADA)では、「タンパク質は約半分が血糖に変わり、脂質は10%未満が血糖に変わる」という記載がありますが、2004年版では削除されています。
1) Life With Diabetes:A Siries of Teaching Outlines by the Michigan Diabetes Research and Training Center,American Diabetes Assoiation ,3rd Ed,2004
糖質だけが血糖値を上昇させ、タンパク質、脂質は血糖値を上昇させないというのが、現時点でのADAの見解です。
体重64kgとして
①1gの糖質が、正常人の血糖値を約0.6~0.9mg上昇させます。
②1gの糖質が、2型糖尿人の血糖値を3mg上昇させます。
③1gの糖質が、1型糖尿人の血糖値を5mg上昇させます。
①に関しては、50gくらいまでの糖質ならだいたい、言えますが、200gの糖質を食べたら180mg上昇ということはでは、ありません。
また、20才くらいまでの、耐糖能が完全正常な人は、糖質100g食べても200g食べても、食後血糖値が140mgを超えることはまずありません。
しかし、30代、40代の正常人は、精製炭水化物だと、1gの糖質が、0.9mg血糖値を上昇させます。そうすると食後血糖値が160~170mgとなりえます。
私見ですが、140mgを超えるとグルコースミニスパイクですね。
その3:
「高雄病院でアレルギー疾患の治療のために出されている給食(玄米魚菜食)の、糖質量、一日摂取カロリーの中の割合はどれくらいですか?
もし糖質20~30%なら、アレルギー疾患用の食事も、糖質制限食をベースとした一つのバリエーションということですね。
もし糖質50%以上なら....アレルギーの人だって糖尿病になる可能性があるから...どうでしょう?
肉食を禁じるのは実は健康上問題があるんですよね?そこをあえて禁じるほど玄米魚菜食というのはアレルギー疾患に本当に効果(か、効果があるというエビデンス)があるんでしょうか?(このへんはまったく不勉強です。お許し下さい。)」
高雄病院の玄米魚菜食は、1200~1800キロカロリー/日です。男女差や身長で、適宜摂取カロリーを調整します。 玄米や野菜分の糖質が、50~60%になると思います。
病院給食の限界で、なかなか、糖質30~40%の玄米魚菜食とかは困難です。
まあ、未精製の穀物と野菜の糖質なので、GIは低いです。GIが低い分、ミニスパイクを起こしにくいと思います。
糖尿人ではGIはあまり役に立ちませんが、正常人では一定の意味があります。主食を未精製穀物にすることや運動で、将来の糖尿病発症予防にはなると思います。運動量に応じて、主食の量を加減する必要があると思います。
ここらあたりのことは、2007年10月06日 (土)のブログ「食育3・テーラーメードダイエット」をご参照いただけば幸いです。
玄米魚菜食でも、肉は適宜食べてもらっています。ただ牛肉は高価なので、鶏や豚がおおいです。個人的には、肉を禁じる必要はないと思っています。
優先順位の第一番に大切なのは、グルコースミニスパイクを生じないような食生活と考えています。
江部康二