2017年03月26日 (日)
こんにちは。
2017年3月21日にアストラゼネカ社から、糖尿病治療薬SGLT2阻害剤の大規模リアルワールドエビデンス試験 「CVD-REAL試験」について、結果が発表されました。
2017年3月19日、第66回米国心臓病学会年次学術集会で発表された研究のプレスリリースです。
『SGLT2阻害剤での治療は総死亡を51%、入院のリスクを39%減少することを示す』
という衝撃的な内容でした。
30万例超の2型糖尿病患者さんを対象とした国際試験ですので、信頼度は高いです。
SGLT2阻害剤での治療は他の糖尿病治療薬(6種類あり)と比較して、心不全による入院率および死亡率を有意に減少させたのですから、素晴らしい効果と言えます。
EPMA-REG OUTCOM試験に続き、SGLT2阻害薬の大規模試験で2回目の衝撃的な成果です。
EPMA-REG OUTCOM試験は、ニューイングランドジャーナルに2015年に研究報告が掲載されました。1)
信頼度の高い研究で、2回とても良い結果がでたので、SGLT2阻害薬は本当に良い薬の可能性が高くなりました。
私も、スーパー糖質制限食でも、早朝空腹時血糖値が正常化しない、年期の入った糖尿人に、最近は積極的に投与して、顕著な効果を得ています。
罹病期間が短い糖尿人なら、薬なしで、スーパー糖質制限食のみでコントロール良好となる場合がほとんどなのですが、罹病期間が長い糖尿人は、一筋縄ではいきません。
現在、SU剤、ビグアナイド剤、αGI剤、グリニド系剤、インスリン抵抗正改善剤、DPP-4阻害剤と、6種類の薬がありますが、いずれも、SGLT2阻害剤のような入院率および死亡率の減少効果はありません。
血糖値を下げるという効果は、7種類の薬全てにあります。
従って、血糖値の改善以外の、SGLT2独自の作用がないとこのような劇的な差は出ません。
EPMA-REG OUTCOM試験の時に、「入院率および死亡率を有意に減少」の作用機序に関して、いろんな仮説が提唱されました。
その中で、イタリア・ピサ大学のFerranniniらと米・カリフォルニア大学サンディエゴ校のMudaliarらは、SGLT2阻害薬投与による臓器保護効果の機序はケトン体であるとしました。2)3)
SGLT2阻害剤内服により、血中ケトン体が一般的な基準値よりはるかに高値となりますが、このケトン体高値そのものが、臓器保護効果を発揮し、短期間で総死亡率や入院率を減少させたという大胆な仮説です。
ケトン体高値という現象に関しては、SGLT2阻害薬以外の他の6種類の薬剤にはありませんので、決定的な違いと言えます。
勿論、私は、この「ケトン体の臓器保護仮説」に大賛成です。
今回の「CVD-REAL試験」の大成功も、「ケトン体高値による臓器保護作用」が効果を発揮した可能性が高いと思われます。
以前も記事にしましたように、SGLT2阻害剤は、「薬物による糖質制限」とみなすことが可能です。
そして、ケトン体高値に、臓器保護作用があるなら、スーパー糖質制限食実践により薬物なしで食事療法だけで、それが可能なわけであり、とても大きなアドバンテージと言えます。
EPMA-REG OUTCOM試験1)
日本を含む世界42か国のハイリスク2型糖尿病患者7,020例が対象。
EMPA-REG OUTCOMEは、米FDAが新規糖尿病治療薬に課している長期投与時の心血管安全性を評価する目的で行われたもの。
対象は、心筋梗塞や脳卒中の既往があり、標準治療を受けている、日本を含む世界42か国のハイリスク2型糖尿病患者7,020例。
降圧薬、抗血小板薬、脂質異常症治療薬などといった標準治療を受けているこれらの症例に、無作為に
①エンパグリフロジン10mg/日投与(n=2345)、
②T同25mg/日投与(n=2,342)、
③プラセボ投与群(n=2,333)
を上乗せで割り付けした3群で評価を行った。
追跡期間中央値は3.1年。
SGLT2投与の2群ではプラセボに比べて、全死亡率が32%減少し、入院率は35%減少した。
1)Zinman B, et al.N Eng J Med 2015;373:2117-2128
2)Diabetes Care 2016;39:1108-1114
3)Diabetes Care 2016;39:1115-1122
江部康二
☆☆☆
以下は、アストラゼネカ社が発表したプレスリリースの日本語訳です。
【https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2017/20170321.html
アストラゼネカ 糖尿病治療薬SGLT2阻害剤の大規模リアルワールドエビデンス試験 「CVD-REAL試験」の結果を発表
公開日
2017年 3月 21日
本資料はアストラゼネカ英国本社が2017年3月19日に発信したプレスリリースを日本語に翻訳し、みなさまのご参考に提供するものです。本資料の正式言語は英語であり、その内容・解釈については英語が優先します。
SGLT2阻害剤での治療は他の糖尿病治療薬と比較し
心不全による入院率および死亡率を有意に減少
30万例超の2型糖尿病患者さんを対象とした国際試験で
SGLT2阻害剤での治療は総死亡を51%、入院のリスクを39%減少することを示す
アストラゼネカ(本社:英国ロンドン、最高経営責任者(CEO):パスカル・ソリオ[Pascal Soriot]、以下、アストラゼネカ)は、糖尿病治療薬SGLT2阻害剤 の治療を受けた2型糖尿病患者さんの、心不全による入院ならびに総死亡のリスクを評価した、最初の大規模リアルワールドエビデンス(RWE)試験「CVD-REAL試験」の結果を、2017年3月19日、第66回米国心臓病学会年次学術集会で発表しました。1
CVD-REAL試験は、世界6カ国30万例超の2型糖尿病患者さんを対象としており、うち87%の患者さんは心血管系疾患の既往歴がありませんでした。同試験では、広範な2型糖尿病患者集団全体において、SGLT-2阻害剤 であるフォシーガ(一般名:ダパグリフロジン、米国での製品名:Farxiga)、カナグリフロジン、エンパグリフロジンによる治療は、他の糖尿病治療薬による治療と比較して、心不全による入院率を39%(p<0.001)、総死亡率を51%(p<0.001)減少したことが示されました。また、心不全による入院と総死亡の複合評価項目の減少率は46%(p<0.001)でした。1
糖尿病に罹患している成人患者さんは、世界中で4億1,500万人にのぼり、2040年までには6億4,200万人(成人の10人に1人)2 に増加すると推定されています。2型糖尿病患者さんの心不全のリスクは通常の人より2~3倍高く、また、心臓発作および脳卒中の高いリスクに晒されています。2型糖尿病患者さんの死因の約50%が心血管疾患です。3,4,5
アストラゼネカのバイスプレジデント兼グローバルメディカルアフェアーズ本部長であるBruce Cooper医学博士は、「糖尿病患者さんが世界的に増えていますが、糖尿病は、高い入院費用を負担するリスクや死亡の危険性を伴う合併症を起こします。6,7今回この試験によって得られたリアルワールドデータが、比較的新しいSGLT2阻害剤クラスの薬による治療で、心不全による入院率や死亡率を約半分に減少するという、興味深いエビデンスを示しました。CVD-REALは、これまで臨床試験で対象とした2型糖尿病の患者さん群よりも、より広範でリスクが低い患者さん群における、SGLT2阻害剤治療の影響を評価した、最初の試験です」と述べました。
心不全による入院率の解析は、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、英国および米国の患者さんの匿名データを用いたもので、使用されたデータの内訳は、フォシーガ(ダパグリフロジン)投与が全患者さんのうちの41.8%、カナグリフロジン投与は52.7%、エンパグリフロジン投与は5.5%でした。一方、総死亡率の解析は、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、英国および米国の患者さんの匿名データを用い、使用されたデータの内訳は、フォシーガ(ダパグリフロジン)投与が全患者さんのうち51.0%、カナグリフロジン投与が42.3%、エンパグリフロジン投与が6.7%でした。
今回の解析結果は、CVD-REAL試験の最初の比較解析結果です。RWEデータの収集は継続しており、今後今回と同じ対象国の解析データセットを採用するだけでなく、他の国々のデータを加えるなどして、複数の解析が実施される予定です。本試験に用いられる解析データは、診療記録、苦情データベースおよび国内登録など、実臨床の情報源から入手された非特定化データです。本解析は、St. Luke’s Mid America Heart Institute(米国、カンザスシティ)の独立研究機関の統計グループにより検証されました。
以上
*****
References
1. The CVD-REAL Study: Lower Rates of Hospitalization for Heart Failure in New Users of SGLT-2 Inhibitors Versus Other Glucose Lowering Drugs — Real-World Data From Four Countries and More Than 360,000 Patients; presented 19 March at ACC 2017
2. International Diabetes Federation. Facts and Figures. Accessed 15 March 2017 http://www.idf.org/WDD15-guide/facts-and-figures.html
3. C, Cooper H, Bowen-Jones D. Mortality in type 2 diabetes mellitus: magnitude of the evidence from a systematic review and meta-analysis. The British Journal of Diabetes & Vascular Disease. 2013;13(4):192-207
4. Morrish NJ, et al. Mortality and causes of death in the WHO Multinational Study of Vascular Disease in Diabetes. Diabetologia. 2001;44 Suppl 2:S14-21.
5. World Heart Federation. Diabetes as a risk factor for cardiovascular disease. Available from: http://www.world-heart-federation.org/cardiovascular-health/cardiovascular-disease-risk-factors/diabetes/
6. World Health Organization. Media Centre: Diabetes Fact Sheet. Reviewed November 2016. Accessed 9 March 2017. http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs312/en/
7. American Diabetes Association. The Cost of Diabetes. Accessed 9 March 2017 http://www.diabetes.org/advocacy/news-events/cost-of-diabetes.html?referrer=https://www.google.com/ 】
2017年3月21日にアストラゼネカ社から、糖尿病治療薬SGLT2阻害剤の大規模リアルワールドエビデンス試験 「CVD-REAL試験」について、結果が発表されました。
2017年3月19日、第66回米国心臓病学会年次学術集会で発表された研究のプレスリリースです。
『SGLT2阻害剤での治療は総死亡を51%、入院のリスクを39%減少することを示す』
という衝撃的な内容でした。
30万例超の2型糖尿病患者さんを対象とした国際試験ですので、信頼度は高いです。
SGLT2阻害剤での治療は他の糖尿病治療薬(6種類あり)と比較して、心不全による入院率および死亡率を有意に減少させたのですから、素晴らしい効果と言えます。
EPMA-REG OUTCOM試験に続き、SGLT2阻害薬の大規模試験で2回目の衝撃的な成果です。
EPMA-REG OUTCOM試験は、ニューイングランドジャーナルに2015年に研究報告が掲載されました。1)
信頼度の高い研究で、2回とても良い結果がでたので、SGLT2阻害薬は本当に良い薬の可能性が高くなりました。
私も、スーパー糖質制限食でも、早朝空腹時血糖値が正常化しない、年期の入った糖尿人に、最近は積極的に投与して、顕著な効果を得ています。
罹病期間が短い糖尿人なら、薬なしで、スーパー糖質制限食のみでコントロール良好となる場合がほとんどなのですが、罹病期間が長い糖尿人は、一筋縄ではいきません。
現在、SU剤、ビグアナイド剤、αGI剤、グリニド系剤、インスリン抵抗正改善剤、DPP-4阻害剤と、6種類の薬がありますが、いずれも、SGLT2阻害剤のような入院率および死亡率の減少効果はありません。
血糖値を下げるという効果は、7種類の薬全てにあります。
従って、血糖値の改善以外の、SGLT2独自の作用がないとこのような劇的な差は出ません。
EPMA-REG OUTCOM試験の時に、「入院率および死亡率を有意に減少」の作用機序に関して、いろんな仮説が提唱されました。
その中で、イタリア・ピサ大学のFerranniniらと米・カリフォルニア大学サンディエゴ校のMudaliarらは、SGLT2阻害薬投与による臓器保護効果の機序はケトン体であるとしました。2)3)
SGLT2阻害剤内服により、血中ケトン体が一般的な基準値よりはるかに高値となりますが、このケトン体高値そのものが、臓器保護効果を発揮し、短期間で総死亡率や入院率を減少させたという大胆な仮説です。
ケトン体高値という現象に関しては、SGLT2阻害薬以外の他の6種類の薬剤にはありませんので、決定的な違いと言えます。
勿論、私は、この「ケトン体の臓器保護仮説」に大賛成です。
今回の「CVD-REAL試験」の大成功も、「ケトン体高値による臓器保護作用」が効果を発揮した可能性が高いと思われます。
以前も記事にしましたように、SGLT2阻害剤は、「薬物による糖質制限」とみなすことが可能です。
そして、ケトン体高値に、臓器保護作用があるなら、スーパー糖質制限食実践により薬物なしで食事療法だけで、それが可能なわけであり、とても大きなアドバンテージと言えます。
EPMA-REG OUTCOM試験1)
日本を含む世界42か国のハイリスク2型糖尿病患者7,020例が対象。
EMPA-REG OUTCOMEは、米FDAが新規糖尿病治療薬に課している長期投与時の心血管安全性を評価する目的で行われたもの。
対象は、心筋梗塞や脳卒中の既往があり、標準治療を受けている、日本を含む世界42か国のハイリスク2型糖尿病患者7,020例。
降圧薬、抗血小板薬、脂質異常症治療薬などといった標準治療を受けているこれらの症例に、無作為に
①エンパグリフロジン10mg/日投与(n=2345)、
②T同25mg/日投与(n=2,342)、
③プラセボ投与群(n=2,333)
を上乗せで割り付けした3群で評価を行った。
追跡期間中央値は3.1年。
SGLT2投与の2群ではプラセボに比べて、全死亡率が32%減少し、入院率は35%減少した。
1)Zinman B, et al.N Eng J Med 2015;373:2117-2128
2)Diabetes Care 2016;39:1108-1114
3)Diabetes Care 2016;39:1115-1122
江部康二
☆☆☆
以下は、アストラゼネカ社が発表したプレスリリースの日本語訳です。
【https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2017/20170321.html
アストラゼネカ 糖尿病治療薬SGLT2阻害剤の大規模リアルワールドエビデンス試験 「CVD-REAL試験」の結果を発表
公開日
2017年 3月 21日
本資料はアストラゼネカ英国本社が2017年3月19日に発信したプレスリリースを日本語に翻訳し、みなさまのご参考に提供するものです。本資料の正式言語は英語であり、その内容・解釈については英語が優先します。
SGLT2阻害剤での治療は他の糖尿病治療薬と比較し
心不全による入院率および死亡率を有意に減少
30万例超の2型糖尿病患者さんを対象とした国際試験で
SGLT2阻害剤での治療は総死亡を51%、入院のリスクを39%減少することを示す
アストラゼネカ(本社:英国ロンドン、最高経営責任者(CEO):パスカル・ソリオ[Pascal Soriot]、以下、アストラゼネカ)は、糖尿病治療薬SGLT2阻害剤 の治療を受けた2型糖尿病患者さんの、心不全による入院ならびに総死亡のリスクを評価した、最初の大規模リアルワールドエビデンス(RWE)試験「CVD-REAL試験」の結果を、2017年3月19日、第66回米国心臓病学会年次学術集会で発表しました。1
CVD-REAL試験は、世界6カ国30万例超の2型糖尿病患者さんを対象としており、うち87%の患者さんは心血管系疾患の既往歴がありませんでした。同試験では、広範な2型糖尿病患者集団全体において、SGLT-2阻害剤 であるフォシーガ(一般名:ダパグリフロジン、米国での製品名:Farxiga)、カナグリフロジン、エンパグリフロジンによる治療は、他の糖尿病治療薬による治療と比較して、心不全による入院率を39%(p<0.001)、総死亡率を51%(p<0.001)減少したことが示されました。また、心不全による入院と総死亡の複合評価項目の減少率は46%(p<0.001)でした。1
糖尿病に罹患している成人患者さんは、世界中で4億1,500万人にのぼり、2040年までには6億4,200万人(成人の10人に1人)2 に増加すると推定されています。2型糖尿病患者さんの心不全のリスクは通常の人より2~3倍高く、また、心臓発作および脳卒中の高いリスクに晒されています。2型糖尿病患者さんの死因の約50%が心血管疾患です。3,4,5
アストラゼネカのバイスプレジデント兼グローバルメディカルアフェアーズ本部長であるBruce Cooper医学博士は、「糖尿病患者さんが世界的に増えていますが、糖尿病は、高い入院費用を負担するリスクや死亡の危険性を伴う合併症を起こします。6,7今回この試験によって得られたリアルワールドデータが、比較的新しいSGLT2阻害剤クラスの薬による治療で、心不全による入院率や死亡率を約半分に減少するという、興味深いエビデンスを示しました。CVD-REALは、これまで臨床試験で対象とした2型糖尿病の患者さん群よりも、より広範でリスクが低い患者さん群における、SGLT2阻害剤治療の影響を評価した、最初の試験です」と述べました。
心不全による入院率の解析は、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、英国および米国の患者さんの匿名データを用いたもので、使用されたデータの内訳は、フォシーガ(ダパグリフロジン)投与が全患者さんのうちの41.8%、カナグリフロジン投与は52.7%、エンパグリフロジン投与は5.5%でした。一方、総死亡率の解析は、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、英国および米国の患者さんの匿名データを用い、使用されたデータの内訳は、フォシーガ(ダパグリフロジン)投与が全患者さんのうち51.0%、カナグリフロジン投与が42.3%、エンパグリフロジン投与が6.7%でした。
今回の解析結果は、CVD-REAL試験の最初の比較解析結果です。RWEデータの収集は継続しており、今後今回と同じ対象国の解析データセットを採用するだけでなく、他の国々のデータを加えるなどして、複数の解析が実施される予定です。本試験に用いられる解析データは、診療記録、苦情データベースおよび国内登録など、実臨床の情報源から入手された非特定化データです。本解析は、St. Luke’s Mid America Heart Institute(米国、カンザスシティ)の独立研究機関の統計グループにより検証されました。
以上
*****
References
1. The CVD-REAL Study: Lower Rates of Hospitalization for Heart Failure in New Users of SGLT-2 Inhibitors Versus Other Glucose Lowering Drugs — Real-World Data From Four Countries and More Than 360,000 Patients; presented 19 March at ACC 2017
2. International Diabetes Federation. Facts and Figures. Accessed 15 March 2017 http://www.idf.org/WDD15-guide/facts-and-figures.html
3. C, Cooper H, Bowen-Jones D. Mortality in type 2 diabetes mellitus: magnitude of the evidence from a systematic review and meta-analysis. The British Journal of Diabetes & Vascular Disease. 2013;13(4):192-207
4. Morrish NJ, et al. Mortality and causes of death in the WHO Multinational Study of Vascular Disease in Diabetes. Diabetologia. 2001;44 Suppl 2:S14-21.
5. World Heart Federation. Diabetes as a risk factor for cardiovascular disease. Available from: http://www.world-heart-federation.org/cardiovascular-health/cardiovascular-disease-risk-factors/diabetes/
6. World Health Organization. Media Centre: Diabetes Fact Sheet. Reviewed November 2016. Accessed 9 March 2017. http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs312/en/
7. American Diabetes Association. The Cost of Diabetes. Accessed 9 March 2017 http://www.diabetes.org/advocacy/news-events/cost-of-diabetes.html?referrer=https://www.google.com/ 】
2017年02月06日 (月)
こんばんは。
精神科医師Aさんから、SGLT2阻害薬とケトン体に関する論文の情報を頂きました。
ありがとうございます。
SGLT2阻害薬は、尿中に血中のブドウ糖を排泄させる薬です。
SGLT2阻害薬投与で健常人のデータでは、毎日50~60gのブドウ糖が尿から排泄されます。
2型糖尿人のデータでは、毎日71~93gのブドウ糖が尿から排泄されます。
当初、私は「糖毒解除など短期的使用には切れ味がよく有用な薬であるが、体重減少効果が半年でなくなるので、基礎代謝が低下していく可能性があり、長期投与は好ましくないのではないか」という懸念を表明してきましたが、この1年、評価が良い方に大きく変化しました。。
2015年11月に、ニューイングランド・ジャーナルにSGLT2阻害薬の研究結果が掲載されました。
【EMPA-REG outcome trial
対象患者 心血管疾患のある2型糖尿病患者7,028例
結論 心血管イベントのリスクが高い2型糖尿病患者において,
標準治療へのempagliflozinの追加は心血管疾患による死亡,心血管イベント,および全死亡の発症率を低下させた。
糖尿病治療薬ではじめての効果。
Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes.
N Engl J Med. 2015 Nov 26;373(22):2117-28.】
現在まで7種類の経口糖尿病薬が開発されてきましたが、その中で、唯一SGLT2阻害薬だけが、
『心血管疾患による死亡,心血管イベント,および全死亡の発症率を低下させた。』
ということで、これは画期的な研究成果と言えます。
SGLT2阻害薬が持つ利尿作用が、心血管死の予防に有利に働いたのではないかという説もありますが、それなら利尿剤を飲めばいいわけで、理屈に合いません。
それよりも、ケトン体値上昇による心保護作用の可能性のほうが魅力ある仮説であり、私もそれに賛成です。
SGLT2阻害薬により増加したケトン体が心臓や腎臓でエネルギー源として利用されるため、EMPA-REG で、心血管、腎臓保護が示された可能性もあります。
また、SGLT2阻害薬は薬物による糖質制限であるという考え方もできます。
SGLT2阻害薬により増加したケトン体に、心血管、腎臓保護作用があるなら、当然、糖質制限食によるケトン体上昇も心血管、腎臓保護作用があることとなります。
実際、高雄病院の入院糖尿病患者さんで、スーパー糖質制限食実践2週間でも、早朝空腹時血糖値が180~200mg/dlから改善せず治療に難渋していた数例の症例において、SGLT2阻害薬投与により、翌朝には100~120mg/dlていどに劇的に改善したことがありました。
外部からの糖質由来の血糖は糖質制限食でリアルタイムに改善しますが、身体内部の糖新生による血糖上昇は糖質制限食でもなかなか良くなりません。
<糖質制限食+SGLT2阻害薬> のコンビにより、糖毒が解除されて、劇的な効果が得られたものと思います。
脱水による脳梗塞などの副作用には細心の注意が必要ですが、SGLT2阻害薬はかなりのポテンシャルのある良い薬の可能性があります。
江部康二
精神科医師Aさんから、SGLT2阻害薬とケトン体に関する論文の情報を頂きました。
ありがとうございます。
SGLT2阻害薬は、尿中に血中のブドウ糖を排泄させる薬です。
SGLT2阻害薬投与で健常人のデータでは、毎日50~60gのブドウ糖が尿から排泄されます。
2型糖尿人のデータでは、毎日71~93gのブドウ糖が尿から排泄されます。
当初、私は「糖毒解除など短期的使用には切れ味がよく有用な薬であるが、体重減少効果が半年でなくなるので、基礎代謝が低下していく可能性があり、長期投与は好ましくないのではないか」という懸念を表明してきましたが、この1年、評価が良い方に大きく変化しました。。
2015年11月に、ニューイングランド・ジャーナルにSGLT2阻害薬の研究結果が掲載されました。
【EMPA-REG outcome trial
対象患者 心血管疾患のある2型糖尿病患者7,028例
結論 心血管イベントのリスクが高い2型糖尿病患者において,
標準治療へのempagliflozinの追加は心血管疾患による死亡,心血管イベント,および全死亡の発症率を低下させた。
糖尿病治療薬ではじめての効果。
Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes.
N Engl J Med. 2015 Nov 26;373(22):2117-28.】
現在まで7種類の経口糖尿病薬が開発されてきましたが、その中で、唯一SGLT2阻害薬だけが、
『心血管疾患による死亡,心血管イベント,および全死亡の発症率を低下させた。』
ということで、これは画期的な研究成果と言えます。
SGLT2阻害薬が持つ利尿作用が、心血管死の予防に有利に働いたのではないかという説もありますが、それなら利尿剤を飲めばいいわけで、理屈に合いません。
それよりも、ケトン体値上昇による心保護作用の可能性のほうが魅力ある仮説であり、私もそれに賛成です。
SGLT2阻害薬により増加したケトン体が心臓や腎臓でエネルギー源として利用されるため、EMPA-REG で、心血管、腎臓保護が示された可能性もあります。
また、SGLT2阻害薬は薬物による糖質制限であるという考え方もできます。
SGLT2阻害薬により増加したケトン体に、心血管、腎臓保護作用があるなら、当然、糖質制限食によるケトン体上昇も心血管、腎臓保護作用があることとなります。
実際、高雄病院の入院糖尿病患者さんで、スーパー糖質制限食実践2週間でも、早朝空腹時血糖値が180~200mg/dlから改善せず治療に難渋していた数例の症例において、SGLT2阻害薬投与により、翌朝には100~120mg/dlていどに劇的に改善したことがありました。
外部からの糖質由来の血糖は糖質制限食でリアルタイムに改善しますが、身体内部の糖新生による血糖上昇は糖質制限食でもなかなか良くなりません。
<糖質制限食+SGLT2阻害薬> のコンビにより、糖毒が解除されて、劇的な効果が得られたものと思います。
脱水による脳梗塞などの副作用には細心の注意が必要ですが、SGLT2阻害薬はかなりのポテンシャルのある良い薬の可能性があります。
江部康二
2016年03月22日 (火)
おはようございます。
今回は、質問もありましたので
DPP-4阻害剤(ジャヌビア、トラゼンタ、ネシーナ、エクアなど)と
SU剤(アマリール、グリミクロン、オイグルコンなど)の
作用機序の違いについて、考えて見ます。
さて、インクレチンがインスリン分泌を促す仕組みと、SU剤がインスリン分泌を促す仕組み(☆)は、異なっています。
まず、SU剤の作用機序です。
難しい箇所は省いて、超簡単に言うと、SU剤はβ細胞表面のSU受容体と結合して、カリウムチャンネルを閉じっぱなしにしてしまい、その結果カルシウムが細胞内に流入してインスリンを分泌させます。
この場合、SU剤の作用時間(12~24時間)の間は、血糖が高かろうが低かろうが関係なく、ずっとインスリンはだだ漏れ状態です。
だから低血糖が生じやすいのですね。
そして、インスリンを分泌しっぱなしのβ細胞が、疲弊していく可能性があるわけです。
まあ、人為的に無理矢理カリウムチャンネルを閉じて、β細胞を騙しているようなものですかね。
次にインクレチンです。
インクレチンは、食事摂取により消化管から分泌され、インスリン分泌を促進するホルモンで、上部小腸にあるK細胞から分泌されるGIPと、下部小腸にあるL細胞から分泌されるGlp1があります。
Glp1の主な生理作用はインスリン分泌促進作用ですが、それ以外に膵グルカゴン分泌抑制作用、消化管運動抑制作用、インスリン感受性亢進作用、そして膵β細胞保護・増殖作用が認められています。
GIPはGlp1に比べると作用は弱いとされています。
そして、Glp1やGIPを分解するDPP-4という酵素を阻害して分解を抑制し、血中濃度を上昇させて保つのがDPP-4阻害剤です。
つまり、通常の食事では半減期が2分で失活が早いインクレチンというホルモンを、DPP-4阻害薬によりDPP-4をブロックすることで、血中に保つわけです。
インクレチンは糖質や脂質を摂取すると消化管から分泌されて、β細胞のインクレチン受容体に作用してβ細胞内のサイクリックAMPを上昇させ、インスリン分泌の増幅経路に働きます。
こちらは、糖質を食べて血糖値が上昇し、β細胞内にとりこまれてATPが産生されて、カリウムチャンネルが閉じてカルシウムが細胞内に入ってきたときだけ、増幅経路に働いてインスリンを分泌させます。
血糖値が下がって108mg/dlくらいになると、β細胞はブドウ糖を取り込まなくなり細胞内カルシウムは増加しないので、インクレチン濃度が高くても増幅経路は作用せず、インスリンは分泌されません。
はてさて、どうころんでも、結構難しいお話しですね。 ε-(-Д-)
<糖質摂取後、インスリン分泌に到る流れ>
以下は、糖質摂取後、インスリン分泌に到る一連の流れです。
①糖質摂取→血糖値上昇→糖輸送体でβ細胞内にブドウ糖取り込み→β細胞内ATP上昇→Kチャンネル閉鎖→脱分極→カルシウムチャンネル活性化→細胞内カルシウム濃度上昇→インスリン分泌
上記の一連の流れの過程において、インクレチンによる「β細胞内サイクリックAMP上昇」が加わると『Kチャンネル閉鎖』や『カルシウムチャンネル活性化』が促進されインスリン分泌が増幅されます。
さらにサイクリックAMP上昇はインスリン分泌を直接促進させるとされています。
このようにインクレチンは、β細胞内サイクリックAMP上昇を増幅させてブドウ糖濃度が高いときにだけインスリン分泌を促します。
こういう作用機序なので、インクレチンは血糖値が高いときのみにインスリン分泌作用を有し、108mg/dl以下に血糖値が下がってきたらインスリン分泌作用がなくなるわけなので、単独使用では低血糖は理論的には起こりません。
またSU剤のように、24時間β細胞を鞭打つといった側面は皆無なので、β細胞も疲弊しないのだと思います。
なお2型糖尿人では、血中Glp1濃度の低下が認められ、膵β細胞におけるGlp1によるインスリン分泌の感受性も低いと言われています。
その意味では、DPP-4阻害剤は、初期の糖尿病患者には特に有効性が高い可能性があります。
江部康二
(☆)<SU剤の作用機序とブドウ糖刺激による一般的なインスリンの分泌経路>
血液中のブドウ糖濃度が上昇すると、ブドウ糖は膵臓のβ細胞の表面に発現するGLUT2(糖輸送体2)により、
細胞の中に取り込まれます。
取り込まれたブドウ糖は代謝を受け、ミトコンドリアでATP(エネルギー)が産生されます。
このATP濃度が増すと、β細胞表面のカリウムチャンネルが閉じます。
そうするとKが細胞外にでなくなり、細胞膜の脱分極が起こり細胞内外で電位差が生じます。
その結果、カルシウムチャンネルが活性化しカルシウムが細胞内に流入します。
カルシウム濃度が上昇すると、β細胞は活発になり、インスリンを分泌します。
この一連の流れが、ブドウ糖刺激による一般的なインスリンの分泌経路です。
SU剤は、カリウムチャンネルの一部を構成するSU受容体と結合して、ATP濃度とは無関係にカリウムチャンネルを閉じてしまいます。
SU剤によりカリウムチャンネルが閉じてしまえば、上述の一般的なインスリン分泌経路の一連の流れと同様に、
(Kが細胞外にでなくなり、細胞膜の脱分極が起こり細胞内外で電位差が生じ、カルシウムチャンネルが活性化し)
カルシウムが細胞内に流入しカルシウム濃度が上昇し、β細胞は活発になりインスリンを分泌します。
この場合、SU剤の作用時間(12~24時間)の間は、血糖が高かろうが低かろうが関係なく、ずっとインスリンはだだ漏れ状態です。
だから低血糖が生じやすいのです。
今回は、質問もありましたので
DPP-4阻害剤(ジャヌビア、トラゼンタ、ネシーナ、エクアなど)と
SU剤(アマリール、グリミクロン、オイグルコンなど)の
作用機序の違いについて、考えて見ます。
さて、インクレチンがインスリン分泌を促す仕組みと、SU剤がインスリン分泌を促す仕組み(☆)は、異なっています。
まず、SU剤の作用機序です。
難しい箇所は省いて、超簡単に言うと、SU剤はβ細胞表面のSU受容体と結合して、カリウムチャンネルを閉じっぱなしにしてしまい、その結果カルシウムが細胞内に流入してインスリンを分泌させます。
この場合、SU剤の作用時間(12~24時間)の間は、血糖が高かろうが低かろうが関係なく、ずっとインスリンはだだ漏れ状態です。
だから低血糖が生じやすいのですね。
そして、インスリンを分泌しっぱなしのβ細胞が、疲弊していく可能性があるわけです。
まあ、人為的に無理矢理カリウムチャンネルを閉じて、β細胞を騙しているようなものですかね。
次にインクレチンです。
インクレチンは、食事摂取により消化管から分泌され、インスリン分泌を促進するホルモンで、上部小腸にあるK細胞から分泌されるGIPと、下部小腸にあるL細胞から分泌されるGlp1があります。
Glp1の主な生理作用はインスリン分泌促進作用ですが、それ以外に膵グルカゴン分泌抑制作用、消化管運動抑制作用、インスリン感受性亢進作用、そして膵β細胞保護・増殖作用が認められています。
GIPはGlp1に比べると作用は弱いとされています。
そして、Glp1やGIPを分解するDPP-4という酵素を阻害して分解を抑制し、血中濃度を上昇させて保つのがDPP-4阻害剤です。
つまり、通常の食事では半減期が2分で失活が早いインクレチンというホルモンを、DPP-4阻害薬によりDPP-4をブロックすることで、血中に保つわけです。
インクレチンは糖質や脂質を摂取すると消化管から分泌されて、β細胞のインクレチン受容体に作用してβ細胞内のサイクリックAMPを上昇させ、インスリン分泌の増幅経路に働きます。
こちらは、糖質を食べて血糖値が上昇し、β細胞内にとりこまれてATPが産生されて、カリウムチャンネルが閉じてカルシウムが細胞内に入ってきたときだけ、増幅経路に働いてインスリンを分泌させます。
血糖値が下がって108mg/dlくらいになると、β細胞はブドウ糖を取り込まなくなり細胞内カルシウムは増加しないので、インクレチン濃度が高くても増幅経路は作用せず、インスリンは分泌されません。
はてさて、どうころんでも、結構難しいお話しですね。 ε-(-Д-)
<糖質摂取後、インスリン分泌に到る流れ>
以下は、糖質摂取後、インスリン分泌に到る一連の流れです。
①糖質摂取→血糖値上昇→糖輸送体でβ細胞内にブドウ糖取り込み→β細胞内ATP上昇→Kチャンネル閉鎖→脱分極→カルシウムチャンネル活性化→細胞内カルシウム濃度上昇→インスリン分泌
上記の一連の流れの過程において、インクレチンによる「β細胞内サイクリックAMP上昇」が加わると『Kチャンネル閉鎖』や『カルシウムチャンネル活性化』が促進されインスリン分泌が増幅されます。
さらにサイクリックAMP上昇はインスリン分泌を直接促進させるとされています。
このようにインクレチンは、β細胞内サイクリックAMP上昇を増幅させてブドウ糖濃度が高いときにだけインスリン分泌を促します。
こういう作用機序なので、インクレチンは血糖値が高いときのみにインスリン分泌作用を有し、108mg/dl以下に血糖値が下がってきたらインスリン分泌作用がなくなるわけなので、単独使用では低血糖は理論的には起こりません。
またSU剤のように、24時間β細胞を鞭打つといった側面は皆無なので、β細胞も疲弊しないのだと思います。
なお2型糖尿人では、血中Glp1濃度の低下が認められ、膵β細胞におけるGlp1によるインスリン分泌の感受性も低いと言われています。
その意味では、DPP-4阻害剤は、初期の糖尿病患者には特に有効性が高い可能性があります。
江部康二
(☆)<SU剤の作用機序とブドウ糖刺激による一般的なインスリンの分泌経路>
血液中のブドウ糖濃度が上昇すると、ブドウ糖は膵臓のβ細胞の表面に発現するGLUT2(糖輸送体2)により、
細胞の中に取り込まれます。
取り込まれたブドウ糖は代謝を受け、ミトコンドリアでATP(エネルギー)が産生されます。
このATP濃度が増すと、β細胞表面のカリウムチャンネルが閉じます。
そうするとKが細胞外にでなくなり、細胞膜の脱分極が起こり細胞内外で電位差が生じます。
その結果、カルシウムチャンネルが活性化しカルシウムが細胞内に流入します。
カルシウム濃度が上昇すると、β細胞は活発になり、インスリンを分泌します。
この一連の流れが、ブドウ糖刺激による一般的なインスリンの分泌経路です。
SU剤は、カリウムチャンネルの一部を構成するSU受容体と結合して、ATP濃度とは無関係にカリウムチャンネルを閉じてしまいます。
SU剤によりカリウムチャンネルが閉じてしまえば、上述の一般的なインスリン分泌経路の一連の流れと同様に、
(Kが細胞外にでなくなり、細胞膜の脱分極が起こり細胞内外で電位差が生じ、カルシウムチャンネルが活性化し)
カルシウムが細胞内に流入しカルシウム濃度が上昇し、β細胞は活発になりインスリンを分泌します。
この場合、SU剤の作用時間(12~24時間)の間は、血糖が高かろうが低かろうが関係なく、ずっとインスリンはだだ漏れ状態です。
だから低血糖が生じやすいのです。
2015年08月03日 (月)
【15/08/03 ゆき
ベイスンとグルコバイの違いについて
江部先生、いつもブログを拝見し、みなさんのコメントや質問を励みに、糖質制限を続けています。
幼い頃からのアトピーも今は症状が治まり、リンデロンやプロトピック軟膏も卒業することができました。しかし今の季節、発汗によるコリン性蕁麻疹や、あと温度差による寒冷蕁麻疹、温熱蕁麻疹は今もあります。糖質制限を続けていたら蕁麻疹の症状も良くなるのでしょうか?
あと、もうひとつお聞きしたいのですが、2型糖尿病もあり外食時はベイスンを服用しています。そこで質問なのですが、ベイスンはαグルコシターゼ阻害剤、グルコバイはαグルコシターゼ阻害に加えαアミラーゼ阻害もあると先生のブログにありますが、αアミラーゼとはでんぷんの事でしょうか?
片栗粉やコーンスターチ、じゃがいもやとうもろこし等に含まれるでんぷんは、ベイスンを服用していてもそのまま血糖値に影響されてしまうのであれば、グルコバイに変更してもらおうかと思っています。
先生、質問ばかりで申し訳ございませんが、よろしくお願いします。】
こんにちは。
ゆきさんから、ベイスンとグルコバイの違いについて、コメント・質問を頂きました。
ゆきさん、アトピーが改善して良かったですね。
スーパー糖質制限食を続けていれば、全身の血流・代謝がよくなるので様々な生活習慣病が改善します。
じんましんの改善も期待できると思いますよ。
今回はα(アルファ)-グルコシターゼ阻害薬剤(α-GI薬)について考えてみます。
デンプンのような多糖類は、α-アミラーゼという消化酵素の作用を得て、二糖類(麦芽糖や蔗糖)やオリゴ糖に分解されます。
つまり、α-アミラーゼは、穀物や芋のデンプンと呼ばれる多くの糖の集合体をまず第一段階で分解して少し大きさを小さくしています。
その後、この二糖類やオリゴ糖は、マルターゼ、スクラーゼ、グルコアミラーゼなどの酵素により、単糖(ブドウ糖、果糖、ガラクトース等)に分解されて小腸から体内に吸収されます。
マルターゼ、スクラーゼ、グルコアミラーゼなどの酵素を総称して、α-グルコシダーゼと呼びます。
この、α-グルコシダーゼの働きを阻害することにより、腸管からの糖質の分解・吸収を遅延させて、食後高血糖を抑制するお薬が、『α-グルコシダーゼ阻害薬』(グルコバイ、ベイスン、セイブル)です。
グルコバイ(アカルボース)はα-グルコシダーゼだけではなく、α-アミラーゼに対する阻害作用も、もっています。
ベイスン(ボグリボース)やセイブル(ミグリトール)は、α-グルコシダーゼの活性を阻害しますが、α-アミラーゼには影響を与えません。
従って、グルコバイの方が少し効果が強いですが、副作用もやや生じやすい。
副作用とは、ガス、腹満、腹痛、軟便などです。
それぞれ常用量で下記程度に血糖値を下げるとされています。
グルコバイ: 1時間値50mg、 2時間値40mg
ベイスン: 1時間値40mg、 2時間値30mg
セイブル: 1時間値60mg、 2時間値20mg
しかし、これほど下がらない人もあります。
セイブルは1時間値を下げるけれど、2時間値はあまり下げないのが特徴です。
いずれの薬も結構個人差が大きいですし、印象としては上記の数字ほど下がらない人のほうが多いです。
作用機序から考えて、膵臓のβ細胞には全く影響を与えないので、SU剤のように疲れた膵臓を鞭打つといった欠点はありません。(^^)
しかし、比較的頻度の多い副作用として、分解が遅れて腸管に残った糖質が醗酵してガスがでたり、お腹が張ったり、下痢をすることがあります。(-_-;)
ガスの貯留により、腸閉塞(イレウス)のような症状になる事があるので、腹部手術歴の有る方は、禁忌とされています。
私自身で行った人体実験では、かなり興味深いことがありました。
グルコバイの常用量を食直前に服用して何種類かの食品を試食してみました。
蕎麦はほとんど腹満がなかったのですが、お餅は最悪で、腹満・腹痛・ガスのフルコースで、病院に行こうか?(∵)?と思ったくらいでした。
うどんやご飯は、蕎麦に比べたらやや腹満・ガスなど出やすかったですね。
個人差はあると思いますが、参考にしていただけばと思います。
現在は、私は、食事の工夫をしてますので、内服薬は一切なしです。
糖尿人でスーパー 糖質制限食の場合は、ほとんど薬はなしですが、お昼だけ主食ありの『スタンダード 糖質制限食』の時は、α-GI薬を内服してもらうことがあります。
従いまして、「糖尿病には糖質制限食」の高雄病院でも比較的使用頻度の高いのが『α-グルコシダーゼ阻害薬』です。
高雄病院入院中にグルコバイ100mgを、食時開始30秒前に内服して、昼食に例えば炊いたご飯100gなどで実験し、食後2時間血糖値値が180mgを超えない量をリサーチすることも多いです。
炊いたご飯お茶碗一杯は約150gで、糖質を55g含んでいますが、それでは糖質が多すぎて太刀打ちできないので、約100gに減らして実験します。
グルコバイ・ベイスン・セイブルを飲み忘れた場合、食べ始めてから飲んでもそれなりに有効です。
食事終了時に内服しても無効です。
基本的に安全性の高い薬ですが、まれに肝障害を来す例があるので、定期的な血液検査を推奨します。
なお、
【片栗粉やコーンスターチ、じゃがいもやとうもろこし等に含まれるでんぷんは、ベイスンを服用していてもそのまま血糖値に影響されてしまう。】
というようなことは、ありません。
でんぷんは、人体のアミラーゼで分解されて、二糖類やオリゴ糖になります。
そのあと、α-グルコシダーゼが二糖類やオリゴ糖を単糖類に分解するのをベイスンが阻害するわけです。
またグルコバイが、アミラーゼを阻害するといっても、ある程度阻害するという意味で100%阻害というようなことはありません。
江部康二
ベイスンとグルコバイの違いについて
江部先生、いつもブログを拝見し、みなさんのコメントや質問を励みに、糖質制限を続けています。
幼い頃からのアトピーも今は症状が治まり、リンデロンやプロトピック軟膏も卒業することができました。しかし今の季節、発汗によるコリン性蕁麻疹や、あと温度差による寒冷蕁麻疹、温熱蕁麻疹は今もあります。糖質制限を続けていたら蕁麻疹の症状も良くなるのでしょうか?
あと、もうひとつお聞きしたいのですが、2型糖尿病もあり外食時はベイスンを服用しています。そこで質問なのですが、ベイスンはαグルコシターゼ阻害剤、グルコバイはαグルコシターゼ阻害に加えαアミラーゼ阻害もあると先生のブログにありますが、αアミラーゼとはでんぷんの事でしょうか?
片栗粉やコーンスターチ、じゃがいもやとうもろこし等に含まれるでんぷんは、ベイスンを服用していてもそのまま血糖値に影響されてしまうのであれば、グルコバイに変更してもらおうかと思っています。
先生、質問ばかりで申し訳ございませんが、よろしくお願いします。】
こんにちは。
ゆきさんから、ベイスンとグルコバイの違いについて、コメント・質問を頂きました。
ゆきさん、アトピーが改善して良かったですね。
スーパー糖質制限食を続けていれば、全身の血流・代謝がよくなるので様々な生活習慣病が改善します。
じんましんの改善も期待できると思いますよ。
今回はα(アルファ)-グルコシターゼ阻害薬剤(α-GI薬)について考えてみます。
デンプンのような多糖類は、α-アミラーゼという消化酵素の作用を得て、二糖類(麦芽糖や蔗糖)やオリゴ糖に分解されます。
つまり、α-アミラーゼは、穀物や芋のデンプンと呼ばれる多くの糖の集合体をまず第一段階で分解して少し大きさを小さくしています。
その後、この二糖類やオリゴ糖は、マルターゼ、スクラーゼ、グルコアミラーゼなどの酵素により、単糖(ブドウ糖、果糖、ガラクトース等)に分解されて小腸から体内に吸収されます。
マルターゼ、スクラーゼ、グルコアミラーゼなどの酵素を総称して、α-グルコシダーゼと呼びます。
この、α-グルコシダーゼの働きを阻害することにより、腸管からの糖質の分解・吸収を遅延させて、食後高血糖を抑制するお薬が、『α-グルコシダーゼ阻害薬』(グルコバイ、ベイスン、セイブル)です。
グルコバイ(アカルボース)はα-グルコシダーゼだけではなく、α-アミラーゼに対する阻害作用も、もっています。
ベイスン(ボグリボース)やセイブル(ミグリトール)は、α-グルコシダーゼの活性を阻害しますが、α-アミラーゼには影響を与えません。
従って、グルコバイの方が少し効果が強いですが、副作用もやや生じやすい。
副作用とは、ガス、腹満、腹痛、軟便などです。
それぞれ常用量で下記程度に血糖値を下げるとされています。
グルコバイ: 1時間値50mg、 2時間値40mg
ベイスン: 1時間値40mg、 2時間値30mg
セイブル: 1時間値60mg、 2時間値20mg
しかし、これほど下がらない人もあります。
セイブルは1時間値を下げるけれど、2時間値はあまり下げないのが特徴です。
いずれの薬も結構個人差が大きいですし、印象としては上記の数字ほど下がらない人のほうが多いです。
作用機序から考えて、膵臓のβ細胞には全く影響を与えないので、SU剤のように疲れた膵臓を鞭打つといった欠点はありません。(^^)
しかし、比較的頻度の多い副作用として、分解が遅れて腸管に残った糖質が醗酵してガスがでたり、お腹が張ったり、下痢をすることがあります。(-_-;)
ガスの貯留により、腸閉塞(イレウス)のような症状になる事があるので、腹部手術歴の有る方は、禁忌とされています。
私自身で行った人体実験では、かなり興味深いことがありました。
グルコバイの常用量を食直前に服用して何種類かの食品を試食してみました。
蕎麦はほとんど腹満がなかったのですが、お餅は最悪で、腹満・腹痛・ガスのフルコースで、病院に行こうか?(∵)?と思ったくらいでした。
うどんやご飯は、蕎麦に比べたらやや腹満・ガスなど出やすかったですね。
個人差はあると思いますが、参考にしていただけばと思います。
現在は、私は、食事の工夫をしてますので、内服薬は一切なしです。
糖尿人でスーパー 糖質制限食の場合は、ほとんど薬はなしですが、お昼だけ主食ありの『スタンダード 糖質制限食』の時は、α-GI薬を内服してもらうことがあります。
従いまして、「糖尿病には糖質制限食」の高雄病院でも比較的使用頻度の高いのが『α-グルコシダーゼ阻害薬』です。
高雄病院入院中にグルコバイ100mgを、食時開始30秒前に内服して、昼食に例えば炊いたご飯100gなどで実験し、食後2時間血糖値値が180mgを超えない量をリサーチすることも多いです。
炊いたご飯お茶碗一杯は約150gで、糖質を55g含んでいますが、それでは糖質が多すぎて太刀打ちできないので、約100gに減らして実験します。
グルコバイ・ベイスン・セイブルを飲み忘れた場合、食べ始めてから飲んでもそれなりに有効です。
食事終了時に内服しても無効です。
基本的に安全性の高い薬ですが、まれに肝障害を来す例があるので、定期的な血液検査を推奨します。
なお、
【片栗粉やコーンスターチ、じゃがいもやとうもろこし等に含まれるでんぷんは、ベイスンを服用していてもそのまま血糖値に影響されてしまう。】
というようなことは、ありません。
でんぷんは、人体のアミラーゼで分解されて、二糖類やオリゴ糖になります。
そのあと、α-グルコシダーゼが二糖類やオリゴ糖を単糖類に分解するのをベイスンが阻害するわけです。
またグルコバイが、アミラーゼを阻害するといっても、ある程度阻害するという意味で100%阻害というようなことはありません。
江部康二
2015年06月01日 (月)
【15/05/31 もり
糖質制限食の効果を確認
3月23日から糖質制限という食事が妻の糖尿病や私のダイエットに効果があることを期待して夫婦で試みております。
妻の場合は、
体重:3月30日に64.3kg→5月31日に60.8kg(2か月で3.5kg減量)
HbA1c:3月26日に7.3→5月2日に6.5
近所の医師は、妻が糖質制限をしていると話したら低血糖症になることを恐れたようで血糖値を下げる薬を出してくれませんでした。やむを得ず別の医院で薬を出してもらいました。妻の場合は、まだ食後血糖値が高いので、血糖値低下薬を服用しながら糖質制限食を続ける必要がありそうです。
私の場合は、
体重:3月30日に75.0kg→5月31日に69.5kg(2か月で5.5kg減量)
私は朝食を元々食べないのですが、昼食も知人と外食するときにしか食べないようにしたので妻より減量が大きかったようです。
2か月の取り組みで、糖質制限食が糖尿病の改善とダイエットに効果があったので、今後も継続するつもりです。】
こんにちは。
もりさんから、夫婦で糖質制限食を実践して、減量成功というコメントをいただきました。
食事療法は長く続けることが大切なので、ご夫婦で、一緒というのはとてもいいですね。
「HbA1c:3月26日に7.3%→5月2日に6.5%」
なら、内服薬は無しでもいけそうに思います。
スーパー糖質制限食なら、食後血糖値の上昇はとても少ないです。
とくに、アマリールなどのSU剤はすぐに中止してください。
低血糖の危険があります。
スーパー糖質制限食なら、グリニド系の速効型インスリン分泌促進剤も、グルコバイやベイスンなどのα-GI薬も必要ないと思います。
スーパー糖質制限食実践中の場合、食後血糖値はまず大丈夫ですが、時に早朝空腹時血糖値が下がりにくいことがあります。
この場合は、メトグルコやDPP-4阻害剤を内服すれば、早朝空腹時血糖値が改善することが多いです。
必要なら両者併用もあります。
江部康二
糖質制限食の効果を確認
3月23日から糖質制限という食事が妻の糖尿病や私のダイエットに効果があることを期待して夫婦で試みております。
妻の場合は、
体重:3月30日に64.3kg→5月31日に60.8kg(2か月で3.5kg減量)
HbA1c:3月26日に7.3→5月2日に6.5
近所の医師は、妻が糖質制限をしていると話したら低血糖症になることを恐れたようで血糖値を下げる薬を出してくれませんでした。やむを得ず別の医院で薬を出してもらいました。妻の場合は、まだ食後血糖値が高いので、血糖値低下薬を服用しながら糖質制限食を続ける必要がありそうです。
私の場合は、
体重:3月30日に75.0kg→5月31日に69.5kg(2か月で5.5kg減量)
私は朝食を元々食べないのですが、昼食も知人と外食するときにしか食べないようにしたので妻より減量が大きかったようです。
2か月の取り組みで、糖質制限食が糖尿病の改善とダイエットに効果があったので、今後も継続するつもりです。】
こんにちは。
もりさんから、夫婦で糖質制限食を実践して、減量成功というコメントをいただきました。
食事療法は長く続けることが大切なので、ご夫婦で、一緒というのはとてもいいですね。
「HbA1c:3月26日に7.3%→5月2日に6.5%」
なら、内服薬は無しでもいけそうに思います。
スーパー糖質制限食なら、食後血糖値の上昇はとても少ないです。
とくに、アマリールなどのSU剤はすぐに中止してください。
低血糖の危険があります。
スーパー糖質制限食なら、グリニド系の速効型インスリン分泌促進剤も、グルコバイやベイスンなどのα-GI薬も必要ないと思います。
スーパー糖質制限食実践中の場合、食後血糖値はまず大丈夫ですが、時に早朝空腹時血糖値が下がりにくいことがあります。
この場合は、メトグルコやDPP-4阻害剤を内服すれば、早朝空腹時血糖値が改善することが多いです。
必要なら両者併用もあります。
江部康二