糖質制限食と膵臓のβ細胞機能。
こんにちは。

「糖質制限食を続けていると、インスリンの必要量が少なくなるので、膵臓のβ細胞が機能低下してしまうのではないか?」

という懸念を表明する医師がいますが、どうなのでしょう?

今回は、このことについて考察してみます。

まず、スーパー糖質制限食実践者において、追加分泌インスリンは少量ですみますが、基礎分泌インスリンは普通にでています。
これは、人類700万年の狩猟・採集時代のパターンと一緒です。

従って糖質制限食で、インスリンをつくっている膵臓のβ細胞が、萎縮するようなことはありませんのでご安心ください。

さて、2型糖尿病で認められる膵β細胞の異常には、質的異常と量的異常があります。

[質的異常]

1. インスリン分泌のリズムが異常

2. 非活性型のプロインスリンの上昇(2型糖尿病の特徴)

3.第1相追加分泌インスリン反応の欠落~不全

4.第2相追加分泌インスリン反応の遅延

[量的異常]

・膵β細胞のアポトーシスの亢進による膵β細胞量の進行性の減少。

質的異常は糖尿人の宿命として、受け入れるしか仕方ありません。

一方、量的異常に関しては何とかなります。

例えば量的異常に関して、SU剤の二次無効という例があります。

「SU剤を内服し続けた場合、徐々に膵臓のβ細胞が障害されていき、インスリン分泌能が低下し薬が効かなくなること」を 「二次無効」といい、過去臨床現場で懸念されてきました。

この二次無効に関しては、日本糖尿病学会の最新の説では

「SU剤の直接の影響ではなく血糖コントロールが悪いことでβ細胞が傷害されていくためである」

というように変化しています。

これは、糖尿病学会の見解ですが、私も高血糖がβ細胞を傷害する最も大きな要因と考えており、この点では一致しています。

即ち、高血糖そのものが、β細胞のアポトーシスを生じる最大のリスクと考えられます。

糖質制限食で食後高血糖が防げますので、β細胞はアポトーシスを起こすことなく保護されます。つまり、糖質制限食でβ細胞の数は、量的に保たれるということですね。

さらに糖質を摂取して、頻回に追加分泌インスリンを大量に出すこと自体が、膵臓への負担となると私は考えています。

基礎分泌インスリンに対して、糖質を摂取したときの追加分泌インスリンは、10~30倍レベルで出ます。

10~30倍というのは人体の代謝において、救急車・消防車レベルの緊急事態であり、β細胞には大変な負担です。

このような事態を、離乳食以降長年頻回に繰り返していくことは、農耕以前の700万年間は全くありえないことであり、β細胞が徐々に疲弊してついには疲れ果てて、インスリン分泌能力が低下して、糖尿病を発症するのもむべなるかなです。

糖質制限食なら、農耕以前の人類と同様に、追加分泌インスリンは、せいぜい2~3倍しかでませんので、β細胞が疲弊することがありません。

結論です。

・糖質制限食なら食後高血糖がないので、β細胞のアポトーシスが生じない。

・糖質制限食なら追加分泌インスリンはごく少量ですむのでβ細胞は疲弊しない。


ということで、安心して、美味しく楽しく糖質制限食をお続け下さい。


江部康二







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膵炎と糖質制限食2。慢性膵炎。
おはようございます。

膵炎と糖質制限食2

慢性膵炎と糖質制限食です。

2)「慢性膵炎」

■慢性膵炎の臨床診断基準
(膵臓24: 645-708,2009)
慢性膵炎の診断項目
① 特徴的な画像所見
② 特徴的な組織所見
③ 反復する上腹部痛発作
④ 血中または尿中膵酵素値の異常
⑤ 膵外分泌障害
⑥ 1日80g以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴

慢性膵炎確診: a、bのいずれかが認められる。
a. ①または②の確診所見。
b. ①または②の準確診所見と, ③④⑤のうち2項目以上。

慢性膵炎準確診:①または②の準確診所見が認められる。
早期慢性膵炎:③~⑥のいずれか2項目以上と早期慢性膵炎の画像所見が認められる。

難病情報センターのサイトから抜粋

定義

膵臓の内部に不規則な線維化、細胞浸潤、実質の脱落、肉芽組織などの慢性変化が生じ、進行すると膵外分泌・内分泌機能の低下を伴う病態である。

膵内部の病理組織学的変化は、基本的には膵臓全体に存在するが、病変の程度は不均一で、分布や進行性も様々である。

これらの変化は、持続的な炎症やその遺残により生じ、多くは非可逆性である。

慢性膵炎では、腹痛や腹部圧痛などの臨床症状、膵外分泌・内分泌機能不全による臨床症候を伴うものが典型的である。
臨床観察期間内では、無痛性あるいは無症候性症例も存在し、このような症例では、臨床診断基準をより厳密に適用するべきである。

慢性膵炎を、成因によってアルコール性と非アルコール性に分類する。

自己免疫性膵炎と閉塞性膵炎は、治療により病態や病理所見が改善する事があり、可逆性である点より、現時点では膵の慢性炎症として別個に扱う。

分類
・アルコール性慢性膵炎
・非アルコール性慢性膵炎(特発性、遺伝性、家族性など)
注 1. 自己免疫性膵炎および閉塞性膵炎は、現時点では膵の慢性炎症として別個に扱う。


慢性膵炎に関して詳しくは
難病情報センターのサイト
http://www.nanbyou.or.jp/entry/193
をご参照いただけば幸いです。


厚生労働省難治性疾患克服研究事業難治性膵疾患に関する調査研究班の全国調査によると、2011年1年間に医療機関を受診した慢性膵炎患者さんの数は約67,000人、人口10万人あたりの数は52.4人と推定されています。

2011年の1年間に新たに慢性膵炎を発病した患者さんは約18,000人でした。

慢性膵炎は、再燃と改善(間欠期)を繰り返しながら、徐々に膵臓が慢性炎症のために壊れて膵機能不全に進行していく病気です。

確定診断には画像診断或いは組織診断が必須です。

慢性膵炎の再燃期は、腹痛があり、アミラーゼ・リパーゼなどが高値となります。

慢性膵炎の再燃期は、急性膵炎に準じる治療が必要なので、絶飲食や、脂肪制限が必要であり、糖質制限食は無理です。

絶飲食の期間を過ぎても、腹痛を有する時期は、禁酒と脂肪制限が必要です。

食事中脂肪は1回摂取量10g以下、1日摂取量30g(0.5g/kg/日)が目安となります。

再燃を予防するには、アルコールを控えることと禁煙が最も重要です。

間欠期で腹痛がない時期も、確定診断がついている慢性膵炎では、高脂肪食は好ましくないので、糖質制限食はNGと思われます。

しかし、本格的に診断基準を満たしている慢性膵炎とアミラーゼが軽度高値だけで腹痛もないというレベルの状態とは違うと思います。

現在、アミラーゼやリパーゼが少し高いだけで、他の検査が正常で、腹痛もなければ糖質制限食はOKと思います。

しかしアルコールとタバコは、膵臓には大変良くないので注意が必要です。


江部康二

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膵炎と糖質制限食。急性膵炎。
こんばんは。

<膵炎と糖質制限食>
今回まずは、急性膵炎のお話です。
次回は慢性膵炎のお話です。

1)「急性膵炎」
診断基準を満たす急性膵炎は、急性腹症の一つであり、軽症と重症に分けられます。

急性膵炎臨床診断基準  (2008年改訂) 
1) 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある。
2) 血中、または尿中に膵酵素の上昇がある。
3) 超音波、CTまたはMRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある。
上記 3項目中 2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断。ただし、慢性膵炎の急性発症は急性膵炎に含める。膵酵素は膵特異性の高いもの(膵アミラーゼ、リパーゼなど)を測定することが望ましい。


急性膵炎で症状があるときは、治療として、まず膵臓を安静に保つために食事や水分の摂取を禁じ、点滴を大量にします。
重症の場合は10%近くが死亡するこわい病気です。
たんぱく分解酵素阻害薬の投与。
感染症を予防するために抗菌薬も投与。
重症急性膵炎では、循環管理や呼吸管理などの集中治療。
動注治療、持続的血液濾過透析などが必要となります。

急性膵炎は、致命的経過をとることがある重症例を除き、一般的には可逆性であり、臨床的回復後約 6 か月経過すると、膵臓は機能的・形態的にほぼ旧に復するとされます。

詳しくは
難病情報センター
http://www.nanbyou.or.jp/entry/119
急性膵炎のサイトをご参照ください。

ともあれ急性膵炎の症状が、治まったら、糖質制限食は実践OKとなります。

一方アルコールが急性膵炎のもっとも多い原因ですから、過度な飲酒を控えることが大変重要です。

1日あたりの飲酒量が増えるに伴い急性膵炎のリスクが上昇することが知られています。


江部康二


☆☆☆
以下、難病情報センター
http://www.nanbyou.or.jp/entry/119
のサイトから一部抜粋。

1. 重症急性膵炎とはどのような病気ですか
急性膵炎とは、食物の消化に必要な消化酵素(炭水化物を分解するアミラーゼ、たんぱく質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼなど)と血糖の調節に必要なホルモン(血糖を下げるインスリンと血糖を高くするグルカゴンなど)を分泌する膵臓に、急激に炎症が起こり激烈な腹痛がおこる病気です。本来、食べ物を溶かす働きをする消化酵素が、膵臓自身を溶かしてしまう病気ともいえます。急性膵炎の中には、膵臓が腫れるだけで容易に回復する比較的軽症のもの(浮腫性膵炎)から、膵臓や周囲に出血や壊死を起こし(壊死性膵炎)、急激に死に至る重症例まで様々あり、その程度により軽症と重症とに分類されています。このうち、重症急性膵炎とは膵臓だけではなく、肺、腎臓、肝臓、消化管などの重要臓器にも障害を起こしたり(多臓器不全)、重篤な感染症を合併する致命率の高い急性膵炎を指します。重症急性膵炎は、10%近くの方が亡くなられる重い病気で、厚生労働省の特定疾患(いわゆる「難病」)に指定されています。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
急性膵炎は通常、持続的で激しい上腹部痛で発症します。急性膵炎の中には、膵臓が腫れただけで容易に回復する比較的軽症のもの(浮腫性膵炎)から、膵臓や周囲に出血や壊死を起こし(壊死性膵炎)、急激に死に至る重症例まで様々あり、その程度により軽症と重症とに分類されています。このうち、重症急性膵炎では膵臓だけではなく、肺、腎臓、肝臓、消化管などの重要臓器にも障害を起こしたり(多臓器不全)、重篤な感染症を合併することがあります。急性膵炎全体では約2%、重症急性膵炎では約8%の方が治療にも関わらず、亡くなられます。急性膵炎の長期予後は比較的良好であり、多くは発症前と同じ状態にまで回復して社会復帰することが可能とされます。しかし、膵臓が広い範囲で壊死に陥った場合には膵臓の機能が欠落し、糖尿病や消化吸収障害などの後遺症が出ることがあります。これらに対しては適切な治療(食事療法やインスリン投与、消化酵素剤の服用)により対応します。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
アルコールが急性膵炎のもっとも多い原因ですから、過度な飲酒を控えることが大変重要です。1日あたりの飲酒量が増えるに伴い急性膵炎のリスクが上昇することが知られています。急性膵炎の発生要因に関する研究によると、急性膵炎発症前24時間に100グラム以上のアルコール相当量を飲酒した場合には、飲酒しなかった場合に比べて膵炎のリスクは4.4倍に上昇します。同様に、膵炎発症前1か月間の飲酒量(アルコール相当量)が1日あたり50-99グラムでは3.5倍、100グラム以上では5.4倍に膵炎リスクが上昇します。


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膵臓60%摘出と糖質制限食
【14/12/18 sakura

すい臓摘出

江部先生、
アメリカ在住の者(70歳)です。
最近このサイトを知り、アマゾンから先生の著書をオーダしました。

私は、12年ほど前にすい臓(60%)、脾臓100%を摘出しました。良性ということでしたが、将来的には糖尿病になると言われ、家系にも糖尿病がおおいです。10月の血液検査では、FingerGlucose=104,Normal Range=70-99とあります。 Hgb A1CIn-house only?=5.9(NR=4.2-5.6)
Lipase,Serum=21(NR0-59)
Cholesterol,Total=205 (NR=100-199) HDL=74LDL(NR>39) VLDL Cholesterol Cal=19(NR 5-40)LDL Cholesterol 112(NR0-99)
ここ数年血糖値が高くなり医者からは、薬の投与を考えてみてはと言われていますが、なるべくら薬無しで行きたいと考えています。

すい臓摘出者でも、主食抜きの生活でも大丈夫なのでしょうか?また、炭水化物が不足すると、思考力低下、体力低下とききましたが、エネルギー源は何からとるのでしょうか?

お忙しいところ申し訳ありません。よろしくお願い致します。なお、アマゾンからは、2,3日で届きます。
このサイトを知り、本当に喜んでおります。】



sakura さん
拙著のご購入、ありがとうございます。

血糖値:104mg(70-99)
HbA1c:5.9%(4.2-5.6)
リパーゼ:21(-59)
総コレステロール:205(100-199)
HDLコレステロール:74(40以上)
LDLコレステロール:112(-99)


確かに膵臓を60%摘出しておられたら、将来糖尿病になりやすいですが、糖質制限食で、内服薬なしで予防できると思います。

血糖値が104mg/dlは日本なら正常範囲のなかでやや高値となります。
早朝空腹時血糖値110mg/dl未満は日本では正常範囲内です。
HbA1c5.9%も、日本なら、基準値内で、正常です。

例えば、検査会社SRL(日本最大手)のHbA1cの基準値は4.6~6.2% (2014年)です。

日本糖尿病学会のコントロール目標(2013年6月)では、

合併症予防のためには、7.0%未満

血糖正常化を目指す際の目標は、6.0未満

です。

「すい臓摘出者でも、主食抜きの生活でも大丈夫なのでしょうか?」

40%の膵臓が残っていますので、大丈夫と思われます。


「また、炭水化物が不足すると、思考力低下、体力低下とききましたが、エネルギー源は何からとるのでしょうか?」

必須アミノ酸、必須脂肪酸はありますが、必須炭水化物はありません。

体内で必要なブドウ糖は、肝臓で糖新生してまかなうので、食物から摂取する必要はないのです。

つまり、炭水化物を摂取しなくても、低血糖になることはありませんし、エネルギー不足にもなりませんので、思考力低下、体力低下もありません。

肝臓の糖新生により、必要な血糖値は常に確保されるように人体は設計されているのです。

肝臓では、アミノ酸、乳酸、グリセロール(脂肪の分解物)などからブドウ糖を作ります。

国際食事エネルギーコンサルテーショングループの報告では、「炭水化物(この場合は糖質とほぼ同義)の理論的な最小必要量はゼロである」(☆)と明記されています。

なお、血糖値の確保は赤血球のために絶対に必要です。

赤血球にはミトコンドリアがないので、ブドウ糖が唯一のエネルギー源なのです。

脳は他の細胞と同様にミトコンドリアを有しているので、ブドウ糖と共にケトン体という脂肪酸の分解物をいくらでもエネルギー源として利用することができます。

脳は、ケトン体だけで、ブドウ糖がなくても充分に活動できます。

このことは、GLUT1欠損症の場合を考察すれば明らかです。

GLUT1欠損症では脳はブドウ糖をほとんど利用できません。

GLUT1欠損症の唯一の治療法は、ケトン食です。

ケトン食により、脳はエネルギー源のほとんどをケトン体から確保できるので健康に生きることが可能となります。

GLUT1欠損症の場合は、ケトン食以外には有効な治療法はないので、赤ちゃんの内に発見して速やかにケトン食を開始することが極めて大切です。

ケトン食を実践しなければ、GLUT欠損症では、発育障害・発達障害・知的障害・生命の危険などが生じます。

ケトン食を実践すれば健康な生活が可能です。

(☆)
Eur J Clin Nutr. 1999 Apr;53 Suppl 1:S177-8.
Report of the IDECG Working Group on lower and upper limits of carbohydrate and fat intake. International Dietary Energy Consultative Group.
Bier DM, Brosnan JT, Flatt JP, Hanson RW, Heird W, Hellerstein MK, Jéquier E, Kalhan S, Koletzko B, Macdonald I, Owen O, Uauy R.


江部康二

テーマ:糖質制限食
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