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甲状腺機能低下症などについて
こんばんは

内分泌医の きよすクリニック 伊藤喜亮先生から、甲状腺機能低下症などについて、メールをいただきました。

伊藤先生は湿潤療法も糖質制限食も達人ですので、とても幅広い診療範囲ですね。


伊藤喜亮先生談

「甲状腺機能を評価するために重要なホルモンである、TSH、フリーT4、フリーT3のうち、下垂体から分泌されるTSHと甲状腺ホルモンであるフリーT3は変動が大きく、甲状腺ホルモンであるフリーT4は半減期が長く変動が少ないため、TSHやフリーT3が異常値を呈した場合には一度で判断せず、再検査を行ってから判断することが多いです。

(問診およびTSHとフリーT4が基準値内で、
フリーT3が低値の場合はほぼ low T3 syndromeと診断できますが)

甲状腺機能低下症の治療にT3製剤ではなくT4製剤を用いるのも半減期が長いためですね。

当院で採用している検査センターにおけるフリーT4の基準値は、0.8-1.9ng/dLですが、甲状腺機能亢進症の症状が出るのは、およそ2.5-3ng/dLより高値の場合のことが多く、多少高い程度では無症状です。

また、甲状腺機能低下症の症状が出るのは、およそ0.5-0.6ng/dLを下回った場合のことが多いです。

甲状腺機能低下症をT4製剤で治療する場合は、フリーT4が基準値内を目指しますが、同時にTSHが基準値内(先に述べたように変動が多いため、1回の採血では判断しない)を目標とします。

甲状腺機能亢進症(バセドウ病)にメルカゾールなどで治療する場合も、フリーT4の正常化およびTSHが基準値内であることを目標とします。

メルカゾールが効き過ぎるとフリーT4が低値となり、ネガティブフィードバックによりTSHが上昇し甲状腺を刺激してしまうので、TSHが上昇しない程度に甲状腺ホルモンを抑える必要があります。

甲状腺機能亢進症(バセドウ病)は、眼球突出・発汗・頻脈・落ち着きがないなどの症状があるため採血をしなくてもかなり見つけられますが、採血では、総コレステロールおよびLDL定値、ALP高値などが認められます。

甲状腺機能低下症の症状は他の疾患でも認められる症状と重なるので、自覚症状だけでは診断できませんが、自覚症状に加え、GOT・LDH・CK(CPK)・総コレステロールおよびLDLが高値であれば、かなりの確率で診断できます。」


江部康二の質問

『「甲状腺機能低下症は、かなり進行していないと、脱毛・筋力低下・生理不順・全身倦怠・痩せすぎ・冷え・無気力・・・などの症状は出ない」という私の個人的経験は一般的にも言えることなのでしょうか?』


伊藤先生

『おっしゃるとおりです。

先のメールに記載したように、
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*甲状腺機能低下症の症状が出るのは、およそ0.5-0.6ng/dLを下回った場合のことが多いです。
*甲状腺機能低下症の症状は他の疾患でも認められる症状と重なるので、自覚症状だけでは診断できませんが、
 自覚症状に加え、GOT・LDH・CK(CPK)・総コレステロールおよびLDLが高値であれば、かなりの確率で診断できます。
===========================

検査データとしては、GOT・LDH・CK(CPK)・総コレステロールおよびLDLが高値になるくらいだと思います。
高コレステロールの場合、GPTでなくGOTが高い、CK、LDHが高いなども認められれば甲状腺ホルモンをチェックする必要があります。(もちろん、心筋梗塞も念頭に置きますが)。

フリーT4がやや低値または、潜在性甲状腺機能低下症(フリーT4が正常下限でTSHが上昇している)程度では、症状はまずありません。

あと、海藻類は低糖質、低カロリーのものが多く、ミネラルも豊富なので、ダイエットや美容のために多く摂取している場合があります。

日本は島国なので、海藻類の摂取量(つまりヨード摂取量)は大陸に住むの欧米人とくらべて格段に多く、日本人の通常の海藻類の摂取量を大きく上回って摂取すると甲状腺に影響を与えることがあります。

「甲状腺機能に影響することがあるので、海藻類は日本人が平均的に食べる程度の量にとどめましょう」と説明しています。』


江部康二の質問

『バーンスタイン医師といいケイト医師といい、米国では「低T3症候群」の知識がないのでしょうか?不思議です。』

伊藤先生

『内分泌医でなければあまり知らないと思いますよ。』


どうやら「Low T3 syndrome(低T3症候群)」は、医師の間でもあまり知られていない概念のようです。ですから、バーンスタイン医師やケイト医師のような誤解を生じたわけですね。

結論として、3ヶ月や半年程度の食事療法やダイエットで、甲状腺機能低下症を発症することはありえません。

そして原発性甲状腺機能低下症の症状や徴候は、基本的には軽微で潜行性です。

すなわち「脱毛・筋力低下・生理不順・全身倦怠・痩せすぎ・冷え・無気力・・・ 」などの症状は、かなり進行した甲状腺機能低下症でないと出現しません。


甲状腺機能低下症の原因は

1)原発性甲状腺機能低下症(慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症)
2)先天的なもの
  先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)
  異所性甲状腺腫(正常な位置に甲状腺がなく、
  舌根部分などに甲状腺組織が認められます)
3)一過性のもの
  産後一過性甲状腺機能低下症
  破壊性甲状腺炎の回復期
4)海草(ヨード)の取りすぎによる甲状腺機能低下症
 (これは、海草(特に昆布)の摂取制限をするだけで改善します)
5)甲状腺の病気の治療によるもの(永続性です)
  術後甲状腺機能低下症
  アイソトープ治療後甲状腺機能低下症

1)2)3)4)5)で網羅していると思います。

他にはないと思います。

すなわち食事療法で甲状腺機能低下症を起こすことは、そもそもあり得ないのです。

ダイエット中やスーパー糖質制限食実践中に出現しうる「脱毛・筋力低下・生理不順・全身倦怠・痩せすぎ・冷え・無気力・・・ 」などの症状は、全て、結果として摂取エネルギーが低すぎたときに生じるものです。

摂取エネルギー過少によるこれらの症状は、1~3ヶ月 でも出現します。

この時血液中のフリーT3が低値でも、フリーT4とTSHは正常値であり、これは「Low T3 syndrome(低T3症候群)」と呼ばれる状態であり、決して甲状腺機能低下症ではないのです。

3日間にわたり、「Low T3 syndrome(低T3症候群)」と甲状腺機能低下症についてしつこく記事にしてみました。

いろいろご教示いただいた、きよすクリニック 伊藤喜亮先生 に深謝いたします。


江部康二




テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット
「Low T3 syndrome(低T3症候群)」は本当の甲状腺機能低下症ではない
こんにちは。

消化器内科医さんから、コメント・アドバイスをいただきましたように「Low T3 syndrome(低T3症候群)」について考えてみます。

T3という甲状腺ホルモンだけが低値で、T4という甲状腺ホルモンは正常で、TSH(甲状腺刺激ホルモン)も正常な病態です。
これは、甲状腺機能低下症ではありません。

ただ、かのバーンスタイン先生でさえも、「低T3症候群」に関して、甲状腺機能低下症と誤解しておられたので、一般の方には特にわかりにくい状況と思います。

それで消化器内科医さんが気にかけられたものと思います。

2012年12月28日 (金)の本ブログ記事

「山田悟先生がバーンスタイン医師をインタビュー③。 MT Pro 。」

に詳しく記載してありますが、下記のバーンスタイン医師の見解(糖尿病患者と甲状腺機能低下症)に対して、きよすクリニック伊藤喜亮先生から、

「見かけ上の甲状腺機能低下症で、本当の低下症ではない」

と、ご意見をいただいたことがありました。


Bernstein医師 

『私の診ている糖尿病患者さんの85%は,私が最初に診た時点では甲状腺機能が低下していました。そうした患者さんは易疲労感などを訴えてクリニックを受診するのですが,検査してみるとかなり進行した糖尿病で,かつ甲状腺機能の低下が認められます。活性型の甲状腺ホルモン(トリヨードサイロニン:T3)と非活性型の甲状腺ホルモン(サイロキシン:T4)では,特に前者の低下が顕著です。

T4の分子中にはヨードが4分子存在し,肝臓や腎臓でそのうちの1個が外れてT3になるのですが,糖尿病に伴い甲状腺機能の低下している人では,このT4からT3への変換がうまくいっていないわけです。

また,通常の甲状腺機能低下症では,T3が低下するとその代償として甲状腺ホルモン分泌刺激ホルモン(TSH)が上昇しますが,糖尿病に伴う甲状腺機能の低下ではTSHは上昇しません。』


きよすクリニック伊藤喜亮先生

『T3が低値で、T4、TSHとも正常な病態は「Low T3 syndrome」と呼ばれます。

記事の中にもあるように、代謝を低下させてエネルギー消費を抑えるための生体反応と考えられています。

甲状腺が悪いのではないので、TSHは上昇していません。

ですから「甲状腺機能低下」という言葉は適切ではなく、疲労感が出るほど悪い状態の糖尿病では、上述のようにエネルギー消費を抑えるために「T3を低く抑えている状態」と言えると思います。』


伊藤先生、ご指摘ありがとうございました。

私も伊藤先生のご意見に全面的に賛成です。

私も、バーンスタイン先生、いくらなんでも85%が甲状腺機能低下症とはありえないと思ってました。

T3が低値で、T4、TSHとも正常な病態「Low T3 syndrome(低T3症候群)」は、臨床上、時々見かけます。

バーンスタイン医師のいうコントロール不良の糖尿病以外にも、慢性消耗性の疾患で低栄養のときにも見かけます。

例えば神経性食思不振症などでは比較的よく見られます。

これらは、見かけ上T3が低値なだけで、本当の甲状腺機能低下症ではありません。

従って、甲状腺ホルモンのチラージンSなどを投与しても無意味です。

治療は原疾患の慢性消耗状態や低栄養状態を改善してやれば、おのずから低T3も改善して正常値となるのです。

スーパー糖質制限食を実践して、ヘロヘロになったり、筋力が落ちたり、髪の毛が抜けたりといった症状を訴える方々が
たまにおられます。

これは糖質制限食のせいではなく、脂質も制限して、結果として摂取エネルギーが低過ぎたために生じる症状です。

この時、血液検査をしてT3が低いと、甲状腺機能低下症と誤診する可能性があります。

しかしこれは「Low T3 syndrome(低T3症候群)」であり、本当の甲状腺機能低下症ではありません。

摂取エネルギーを標準まで増やせば、症状も改善してT3も改善します。



江部康二
テーマ:糖質制限食
ジャンル:ヘルス・ダイエット