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糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化について(7)
こんばんは。

今回の記事は、糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化について(7)
高血糖の記憶についてです。

糖尿病血管合併症のメカニズムを特徴的に説明する、高血糖の記憶(hyperglycemic memory)と呼ばれる概念があります。

「高血糖の記憶」とは、過去の高血糖レベルとその曝露期間が生体に記憶され、その後の血管合併症の進展を左右するという考え方です。

ヒトの糖尿病において、この「高血糖の記憶」の存在を示すエビデンス(証拠)として、米国の1型糖尿病患者の大規模臨床研究・DCCTのフォローアップ試験であるEDIC-DCCTの報告があります。

DCCTでは、1型糖尿病患者を従来の通常療法群と、より厳格に血糖管理を行う強化療法群に分け、平均6.5年間追跡しました。

その結果、通常療法群に比べ強化療法群で平均HbA1c値が1.9%低下し、強化療法群で血管合併症の進展リスクが大幅に減少しました。(*)

同研究終了後に行われたEDIC-DCCTでは、通常療法群にも強化療法を実施し、両群をさらに平均11年間追跡しました。

つまり「継続的な強化療法群」と「通常療法→強化療法群」の2つのグループの比較が、DCCT終了後11年間行われたことになりますね。

その結果、開始から3~4年で両群の平均HbA1c値がほぼ同等となったにも関わらず、11年間の心筋梗塞、脳卒中、心血管死のリスクは「継続的な強化療法群」の方がやはり低かった(相対リスク57%低下)ことが報告されたのです。(**)

すなわち、糖尿人において一定期間血糖コントロールが不良であれば、高血糖の記憶が「借金」のように生体内に残り、その後良好なコントロールが得られても、血管合併症リスクの差は縮まらないことが示されたわけです。

この借金の正体が、組織沈着AGEではないかと言われています。

まだ仮説ではありますが、組織に沈着したAGEが血管を傷害し続け、動脈硬化の元凶となり「高血糖の記憶」を最もよく説明するとされています。(***)

高血糖の記憶・借金を残さないためには、糖尿病発症の初期の段階から血糖コントロールを保つことが大切です。
当然、早ければ早いほどいいわけです。

糖尿人の皆さん、カロリー制限食(高糖質食)では必ず、食後高血糖が生じ将来に借金を残します。

是非、糖質制限食で速やかな血糖コントロールを目指して下さいね。

「高血糖の記憶」が存在すれば、例え糖質制限食で血糖コントロール良好になっても、半年後や1年後や2年後に、過去の借金の動脈硬化のために、狭心症や心筋梗塞など糖尿病合併症をおこしえるということですね。


(*)N Engl J Med 1993; 329: 977-986

(**)N Engl J Med 2005; 353: 2643-2653

(***)AGE
タンパク質と糖が結びついた物質で、Advanced Glycation End-productの頭文字をとってAGEと呼ばれます。日本語では終末糖化産物と訳されています。

過剰な血糖は、糖化反応により血管壁のコラーゲンなど様々なタンパク質に付着します。付着した糖は一部変性してアマドリ化合物(変性ブドウ糖)となります。このアマドリ化合物と糖が結合しAGEができます。AGEは、糖尿病合併症を引き起こす、重大な原因の1つです。


江部康二


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ジャンル:ヘルス・ダイエット
糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化(6)
こんばんは。

好ましくない症状・変化シリーズ第6弾、「便秘について」です。

糖質制限食と便通に関しては、よく質問があります。

過去、外来患者さん・入院患者さん・ブログ読者さんから、それぞれいろんな情報をもらってきました。
個人差があり、何種類かのパターンがあります。

Aさんは、3日に一度ひどい腹痛・下痢だったのが、糖質制限食の実践により、有形の写真に撮って飾りたくなるような、綺麗なUNKOに改善したそうです。

Bさんは、ひどい便秘だったのが、毎日便通があるようになったそうです。

Cさんは、糖質制限食を始める前は毎日あった便通が、糖質制限食を始めて10日目くらいから、便秘ぎみになったそうです。

でも「野菜をよく噛むようにして多めに摂って、1ヶ月目くらいから少しずつ改善し、3ヶ月目からは、快便」とのこと、良かったです。

さて、糖質制限食により、下痢が治った人、便秘が治った人、初期便秘になった人、三者三様の変化がでました。

私自身も、当初の三ヶ月間、普通の便の時と、便秘気味になったり、逆に急に下痢したりと定まらなかったのですが、四ヶ月目くらいから快便となり安定してきました。

今までと全く異なる食生活になるので、腸内細菌が安定するまで約2~3割程度の人に便通の変化が起こるようです。

一旦便秘気味になったとしても、糖質制限食で代謝全てが改善するので、しばらく経過したらCさんのように、便通も好調になることがほとんどです。

高雄病院にコントロール・教育入院した、800名以上の糖尿病患者さんの場合は、約7~8割の人は便通に特に問題はありませんでした。残りの2~3割くらいに便秘気味になる人がありました。

入院中、ダイエット希望も兼ねて、女性で1200kcal/日ていどに低めのエネルギー摂取だと、運動もあまりしないこともあり、便秘しやすいようです。単純に低カロリーで食事摂取量が少ないと便秘しやすいことがあります。

入院中、女性で1600kcal、男性で1800kcal/日くらいにしていくと、便通もましになることが多いです。

外来患者さんでは、便秘の訴えはそれほど多くありません。

運動量にもよりますが、 糖質制限食として、厚生労働省のいう標準必要カロリーくらい、身体活動レベルが低い人でも

男性:1850~2250キロカロリー/日  
女性:1450~1700キロカロリー/日

くらいは食べた方が、便通には良いと思います。

肉類や魚貝類や豆腐などと共に、Cさんの如く野菜や海藻や茸をたっぷりよく噛んで摂取するのが、食物繊維も補充できて便通のコントロールには良いように思います。


江部康二


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糖質制限食実践中生じることがある好ましくない症状・変化(5)
こんばんは

糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化について(1)(2)(3)(4)と記事にしてきました。

糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化について(1)
2013年10月22日 (火)
全身倦怠、筋力低下、無気力、体重減りすぎなど→摂取エネルギー不足が主たる要因

糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化について(2)
2013年10月22日 (火)
腓返り

糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化について(3)
2013年11月1日 (金)
高尿酸血症→摂取エネルギー不足が主たる要因

糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化について(4)
2013年11月2日 (土)
高LDL血症


結局、こむら返りと高LDL血症以外は、好ましくない症状・変化のほとんどにおいて、摂取エネルギー不足が、主たる要因と考えられます。

糖質制限食開始時に、おそらく長年の習慣で脂質まで制限してしまう方々がおられます。

この場合「糖質制限+脂質制限」となりますので、食べるものはたんぱく質と葉野菜や海藻・茸の類いです。

こうなると、本人は気がつかないまま、摂取エネルギーはかなり少なくなり、厚生労働省のいう「標準必要エネルギー」を大幅に下回り、様々な症状と検査データの変化が生じます。

摂取エネルギー不足により生じる様々な症状を以下にまとめてみました。

<摂取エネルギー不足によって生じうる症状>
 
全身倦怠、筋力低下、無気力、髪がぬける、生理不順、体重減りすぎ
低体温、冷え、色素性痒疹・・・、

これらの症状は、甲状腺機能低下症でも見られるので、区別がつきにくいかもしれませんね。

ただ甲状腺機能低下症では、体重が増加することが多い(約6割)ので参考になると思います。

また、甲状腺機能低下症は橋本病(慢性甲状腺炎)など原疾患が無い限り、そんなに簡単に発症することはありません。

気になれば、甲状腺機能検査をすれば明白になります。

遊離T3(FT3)基準値:2.1 - 3.8 pg/mL
遊離T4(FT4)基準値:0.82 - 1.63 ng/dL
甲状腺刺激ホルモン(TSH)基準値:0.38 - 4.31 μU/mL

FT4、TSHが正常なら、甲状腺機能は正常と考えていいです。

FT3が低値で、FT4、TSHとも正常な病態を「Low T3 syndrome」といい、摂取エネルギー不足や低栄養のとき見られます。

<摂取エネルギー不足によって生じうる検査データの変化。>

1)低T3症候群
FT3が低値で、FT4、TSHとも正常な病態を「Low T3 syndrome」と言います。コントロール不良の糖尿病など慢性消耗性の疾患で低栄養のとき、時々見かけます。例えば神経性食思不振症などでの摂取エネルギー不足でも見られます。これらは、見かけ上T3が低値なだけで、本当の甲状腺機能低下症では、ありません。

2)高尿酸血症

3)低ChE(コリンエステラーゼ)血症
肝機能検査の一つですが、摂取エネルギー不足で低下します。

4)血清アルブミン値の低下
人体の大事なたんぱく質です。摂取エネルギー不足で血清アルブミン値が低下します。
基準値は「3.8~5.3g/dL」ですが、4.3g/dl以上は確保しないと健康度が維持できません。

結論です。

糖質制限食開始後にみられる好ましくない症状(全身倦怠、筋力低下、無気力・・・)のほとんどが、摂取エネルギー不足からきています。

甲状腺機能低下症といきなり飛躍したりせずに、普通に摂取エネルギー不足を考慮してみてくださいね。


江部康二


テーマ:糖質制限食
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糖質制限食実践中生じることがある好ましくない症状・変化(4)
こんばんは。

糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化について(4)

今回は、高LDL血症です。

日本動脈硬化学会のガイドラインにおいて、総コレステロール(TC)は評価項目から外れています。

評価対象は、HDLコレステロールとLDLコレステロールです。

糖質制限食で、HDLコレステロールは増加するので、良いことです。

LDLコレステロールに関しては、<低下・不変・増加>の3パターンがあります。

当初、何故3パターンがあるかよくわかりませんでした。

何故3パターンか?ということを突き止めるために、まずはコレステロールの成り立ちを考えてみます。

コレステロールは、生体のあらゆる細胞膜の構築に必須の物質であり、肝臓で合成し腸肝循環によって制御・調節されています。

このように、コレステロールは、人体にとって必要不可欠な、重要な構成成分の一つです。

ヒトだけではなく、約2億2500万年前に哺乳類が誕生して以来、生命現象の根幹をなす細胞膜などの原料として一貫して利用されてきたのです。

そのため血清コレステロール値は、摂取された食物のコレステロールが少ない場合は肝臓での合成が高まり、一方、摂取コレステロールが多い場合は、肝臓での合成が徐々に減少して、一定量を必ず確保するよう調整しています。

例えば玄米菜食の実践により「コレステロールを食事からあまりとらない食生活」だったとすれば、肝臓でのコレステロール合成能力はかなり高まっています。

玄米菜食的な食生活をしていて糖尿病を発症した人が、糖質制限食を開始して、食事からコレステロールがたくさん入ってきたら、「肝臓のコレステロール合成増強+食事からのコレステロールの増加」となりますので、普通の食事だった人に比し、血清コレステロールが高値となりやすいです。

この場合、基準値(140mg/dl未満)だったコレステロール値が、総コレステロールで300mg超え、LDLコレステロールで200mg超えなどに一旦上昇します。

しかし、一旦上昇したコレステロールも、肝臓が徐々にコレステロール産生を調整するので、1年、2年単位で基準値に落ち着いてきます。

LDL高値が気になる人は、ゼチーアが食材から体内へののコレステロール吸収を減らすので、しばらくの間、内服するのもありと思います。

もともと卵とか肉とかコレステロールを多く含むものをよく食べていた人は、糖質制限食を実践しても血清コレステロール値はあまり変化ないと思います。

このように糖質制限食開始前の食生活において、コレステロールをどの程度摂取していたかで、開始後のコレステロール値が、かなり影響を受けると考えられます。

いずれにせよ、スーパー糖質制限食を長期間実践している人は、皆さん、LDLコレステロールも基準値となっています。


江部康二


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糖質制限食実践中生じることがある好ましくない症状・変化(3)
こんばんは。

2013年10月22日 (火)の本ブログ記事

糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状について(1)

全身倦怠感、筋力低下、痩せ過ぎ・・・摂取エネルギー不足の改善で解決。

2013年10月23日 (水)の本ブログ記事

糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状について(2)

腓返り・・・カルシウム・マグネシウム、マルチビタミンの補充で解決。

に続いて今回は、

糖質制限食実践中に生じることがある好ましくない症状・変化について(3)

「高尿酸血症」

です。

高尿酸血症もスーパー糖質制限食実践中によく見かける所見の一つです。

尿酸(UA)値に関してスーパー糖質制限食開始後<減少、不変、増加>の3パターンがあるのですが、当初は理由がわからず、経過観察が一般的対応策でした。

まあそれで殆どの場合、自然に基準値になっていきました。

自らが痛風患者であり、痛風専門医でもある、元鹿児島大学病院内科教授、納(おさめ)光弘先生によれば、食事よりストレスや肥満のほうが、尿酸値への影響が大きいとのことです。(*)

尿酸値を確実に上昇させるのは、重要なものから順番に

1、ストレス
2、肥満
3、大量の飲酒
4、激しい運動
5、プリン体の摂りすぎ

です。

納先生の指摘されているストレスは、精神的なもののようです。

これらの5項目に加えて、特殊例として肉体的ストレスである「断食や極端な低カロリーのときは尿酸値上昇」というのがあります。

実は高雄病院では、1984年以来、絶食療法(断食療法)を実施しています。

最近はスーパー糖質制限食で絶食療法に匹敵する効果が得られるので、入院して絶食療法をする患者さんは、まれとなりました。

一方、1984年から10数年間は年間100人以上、絶食療法を行ってきました。トータルすれば2000人以上ですね。

そして絶食療法を行った場合、殆ど全ての人において、尿酸値が急上昇します。

尿酸(UA)の基準値は3.4~7.0mg/dlです。

もともと基準値内だった人が、絶食療法中に、8~9~11mg/dlと急上昇します。

幸いそれで、痛風発作を起こす人は、ありませんでした。

それで、いよいよ今回の記事の肝です。

私自身の患者さんで、スーパー糖質制限食実践後、本来正常だった尿酸値が、基準値を超えて上昇した人が、約10名くらいおられたのですが、絶食療法の経験を思い出して、よくよくきっちり問診したら、結局全員が摂取エネルギー不足だったのです。

しっかり脂質・たんぱく質を摂取してエネルギーを確保したら、速やかに高尿酸血症は改善しました。

ちなみに、私も兄も、高たんぱく食で、140~160g/日のたんぱく質を摂取しています。

それでも、摂取エネルギーは充分確保しており、尿酸値は、何回測定しても、二人共、2.7~3.7mg/dlくらいです。

尿酸値に関しては体質もあるていど関係していると思いますが、急に上昇した場合は、摂取エネルギー不足が、ポイントです。

もし、スーパー糖質制限食を開始して、今まで正常値だった尿酸値が急に上昇してきたときは、摂取エネルギー不足を考慮していただけば幸いです。


(*)参考
「痛風はビールを飲みながらでも治る」(小学館文庫)2004年
鹿児島大学病院内科教授、納(おさめ)光弘先生 著


江部康二


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