ACCORDとLancet誌2010年2月6日号の報告、HbA1cの目標値は?
こんにちは。

今回は、ACCORD後シリーズの最後です。

ACCORDは、米国とカナダの77施設の10251例による大規模臨床試験です。

2008年2月、厳格血糖管理群における総死亡率および心血管死亡率が、通常血糖管理群を有意に上回ることが確認され、同試験は5年間の期間満了を待たずに平均追跡期間3.4年で中止となりました。

中止時の平均HbA1cは、厳格血糖管理群6.4%、通常血糖管理群7.5%でした。

この結果は2008年の米国糖尿病学会で報告されました。

さらに

「2型糖尿病患者の死亡率はHbA1c7.5%前後が最も低い」

という衝撃的な後ろ向きコホート研究報告が、英国の医学雑誌Lancet誌2010年2月6日号に、英Cardiff大学のCraig J Currie氏により発表されました。

以下ランセット誌からの抜粋です。

【1986年11月から2008年11月に登録された患者の中から、50歳以上の2型糖尿病患者を選出、2つのコホートを作成。

コホート1は経口血糖降下薬の単剤投与を受けた後に、スルホニルウレアとメトホルミンの併用に切り替えられた患者2万7965人。

コホート2は経口糖尿病薬からインスリンの単剤投与、またはインスリンを他の経口薬と併用するレジメンに変更された患者2万5人。

コホート1においてもコホート2に置いても、治療中の2型糖尿病患者の全死因死亡や大血管イベントのリスクは、
HbA1c値が7.5%前後のグループで最も低かった。】


「今後の研究で確認されれば、ガイドラインのHbA1cを特定の値より下げすぎないよう指示する必要が出てくるだろう。」

との見解を著者らは述べています。

HbA1cが9%、10%のグループの死亡率が、7.5%のグループより高いことは容易に頷けますが、6.5%のグループの死亡率も7.5%のグループより高かったことは、従来の常識では考えられないことであり、世界の医学界は衝撃を受けました。

結局、北米と英国の大規模臨床試験において、HbA1c6.4%と厳格に薬物治療すると、HbA1c7.5%ていどのグループに比較して、かえって総死亡率および心血管死亡率が上昇するという、同一のパラドックスが報告されたわけです。

このパラドックスの理由については、2011.07.20 (Wed)の本ブログ記事

「ACCORD後の血糖管理・推奨HbA1cは? 2011年米国糖尿病学会」

において考察しました。

すなわち<薬物療法+糖質摂取>による血糖値の乱高下が、死亡率上昇の大きな要因と考えられます。

こうなると、従来の糖尿病食(糖質たっぷり)を摂取しながら、インスリン注射や経口血糖降下薬などを内服している糖尿人は、ある程度の合併症はやむをえず受け入れても総死亡率を減らすためには、コントロール目標はNGSP値でHbA1c7.5%(日本のJDS値7.1%)くらいを目指すのが最も安全ということができます。

日本の糖尿人のほとんどが、糖質を普通に食べているわけなので、従来のHbA1cの目標値(6.5%未満)も考え治す必要があるかもしれません。

勿論、糖質制限食実践中の糖尿人は、日本のJDS値6.1%未満(NGSP値6.5%未満)をめざすのがよいと思います。

糖質制限食なら、血糖値の乱高下は生じず、合併症の心配もなく、安全に血糖コントロールが可能です。


江部康二

テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
ACCORD後の血糖管理・推奨HbA1cは? 2011年米国糖尿病学会
おはようございます。

2008年の米国糖尿病学会学術集会で、ACCORDという大規模臨床試験の結果が報告されました。

ハイリスクな糖尿病患者を対象に、HbA1cの目標値を従来より低く設定して厳格な血糖管理を行い、大血管合併症予防効果を検討した試験でした。

その結果は、予想を大きく覆し、「厳格血糖管理群」の死亡率が「通常血糖管理群」を有意差をもって上回るという、衝撃的な結果となり、2008年2月、同試験は期間満了を待たずに平均追跡期間3.4年で中止となりました。

中止時の平均HbA1cは厳格血糖管理群6.4%、通常血糖管理群7.5%でした。

単純に考えたら

「インスリ注射や内服薬で厳格な血糖管理をしたらかえって死亡率が上昇する」

という結論になります。

このACCORDの結果は世界中でかなりの物議を醸しました。

あれから3年が経過した2011年の米国糖尿病学会学術集会において、ACCORDの結果を踏まえて、

「血糖とHbA1cのコントロール目標をどう設定するのがいいのか?」

というシンポジウムが行われました。

異なる立場の3名の医師が講演しました。

まずHandelsman氏が、HbA1c値は多くの患者で6.5%未満に管理すべきだと述べました。

HbA1c値の上昇とともに糖尿病合併症や死亡のリスクが増加し、その閾値は6.5%前後にあると推定されることが根拠です。

ついでBuse氏は、HbA1cの管理目標値は7.0%未満とすべきだという立場から講演しました。

Buse氏はACCORDの強化療法群でHbA1c値を6.4%まで低下させたところ、標準療法群(HbA1c値7.5%)に比べて死亡リスクが上昇したことを重視しました。

最後にO’Conner氏は、HbA1cの管理目標値は8.0%未満にすべきだという立場から講演しました。

O’Conner氏は、Craig J Currie氏らがLancet誌2010年2月6日号に

「2型糖尿病患者の死亡率はHbA1c7.5%前後が最も低い」

と報告したことも引用し、治療法にかかわらず、死亡リスクが最も低くなるのはHbA1c値が7.5~8.0%のときだと主張しました。

3方とも立場は違いますが、患者の個別の状況(年齢、ハイリスク・・・など)に応じて、HbA1cの目標は柔軟に運用するというのは共通していました。

それにしても、ACCORD後3年経っても、米国糖尿病学会としての統一見解が出せない状況なのには、少々驚きました。

これらの混乱は、結局、『糖質を普通に摂取しながら薬物療法を行う』という従来のパターンから脱却できない限りは、解決しないと思います。

糖質を普通に摂取して、インスリン注射や内服薬で、厳格に血糖コントロール良好を目指すならば、ACCORDで明らかなように低血糖の確率は必ず上昇します。

一方、糖質のグラム数の管理と薬物の量のマッチングをよほど上手く実行しないと、食後高血糖も生じます。

このようにして生じる血糖値の乱高下が最も生体の恒常性を障害し、動脈硬化を生じ、総死亡率を上昇させるリスクとなります。

総摂取カロリーの40%が糖質という「米国的糖質制限食」では、糖質は1回の食事で50g以上摂取することとなり食後高血糖は防げません。これでは総摂取カロリー60%が糖質の場合とそんなに変わりません。

私は、スーパー糖質制限食(糖質は総摂取カロリーの12%)を実践しながら、Handelsman氏の言うように、
HbA1c6.5%未満(日本のJDS値6.1%未満)を目指すのが、コントロール目標として良いと思います。

この方法なら、インスリンや経口糖尿病薬も不要か必要最低限となりますので、まず低血糖の確率が大幅に減少し、ほとんどなくなります。

また食後高血糖も基本的に生じなくなります。これは私個人の考えに過ぎませんが、理論的には低血糖、食後高血糖、血糖値の乱高下を防ぎうる唯一の治療法と思います。


江部康二


☆☆☆☆☆参考 2011年6月29日のm3.comの記事から転載

第71回米国糖尿病学会学術集会の第4日目(6月27日)、
“Post-ACCORD-Is Glycemia a Moving Target? Defining and Individualizing Glucose Targets”と題するシンポジウムが開催され、ACCORDまでの臨床試験の結果を踏まえて、
血糖コントロールの目標値をどこに設定すべきかについて、
米国の3名のエキスパートが講演を行った。

まずHandelsman氏は、HbA1c値は多くの患者で6.5%未満に管理すべきだという立場から論じた。なぜなら、HbA1c値の上昇とともに糖尿病合併症や死亡のリスクが増加し、その閾値は6.5%前後にあると推定されるからである。もちろん安全に血糖値を低下させることは何よりも重要だが、若年で合併症がなければ6.0%未満を目指すことも選択肢となり、高齢で合併症がある場合7.0%未満に目標値を緩めることも推奨した。また、診断基準(6.5%以上)と管理目標値が合致してもいるのも受け入れやすいと述べた。さらに同氏は、ACCORDやADVANCEの強化療法群ではHbA1c値は約6.5%まで低下したが、これらの試験を含め、最近のランダム化比較試験のメタ解析を行うと、強化療法群では標準療法群に比べて死亡リスクは同等、冠動脈疾患のリスクは有意に低下したと解説し、管理目標値を6.5%未満とする根拠を提示した。

次にBuse氏は、HbA1cの管理目標値は7.0%未満とすべきだという立場から講演した。これまでに実施された臨床試験では、HbA1cを下げるほど細小血管障害のリスクは低下するが、大血管障害のリスクに有意な低下は認められていなかった。しかしUKPDSの長期観察研究から、早期に強化療法を行うことで2型糖尿病患者の長期予後が改善し、大血管障害や死亡のリスクまで有意に低下することが示された。一方でACCORDの強化療法群でHbA1c値を6.4%まで低下させたところ、標準療法群(HbA1c値7.5%)に比べて死亡リスクが上昇した。同氏はこのリスクを考慮して、「自分の母親、娘が糖尿病であり、特に子供にはこれから何十年も生きてもらいたい」と家族の立場からの心情も述べた上で、HbA1cの管理目標値は7.0%未満とするのが妥当と説明した。ただし、管理目標値は患者の病態に応じて個別に設定することが重要であり、7.0%未満は目安に過ぎないと付け加えた。

最後にO’Conner氏は、HbA1cの管理目標値は8.0%未満にすべきだという立場から反論した。同氏は英国の実地診療において、血糖コントロールと臨床転帰との関連性を検討したCurrieらの報告を引用し、治療法にかかわらず、死亡リスクが最も低くなるのはHbA1c値が7.5~8.0%のときだと主張した。米国の退役軍人を対象としたAguilarらの報告でも、死亡リスクが最も低いのはHbA1c値が7.1~7.8%のときであった。一方、ACCORDの対象はADVANCEに比べて糖尿病罹病期間が長く、HbA1cが高値で、インスリン使用例も多かったことから、同氏は強化療法を行った対象が心血管イベントのハイリスク集団であったことが、ACCORDで死亡リスクの上昇を認めた理由ではないかと考察した。こうした知見から同氏は、ハイリスク例ではHbA1c値を7.0%未満に低下させても得られるベネフィットは少ないとし、HbA1cの管理目標値は患者の病態に合わせて6.0~7.9%の範囲内で個別に設定することが重要だと結論した。

山岸 倫也(医学ライター)
テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット
ACCORD試験の死亡リスクと低血糖とSMBGサブ解析2011
こんにちは。

2008年の米国糖尿病学会学術集会で、ACCORDという大規模臨床試験の結果が報告されました。

ハイリスクな糖尿病患者を対象に、HbA1cの目標値を従来より低く設定して厳格な血糖管理を行い、大血管合併症予防効果を検討した試験でした。

大血管合併症とは、心・脳血管の障害で心筋梗塞や脳卒中のことです。

その結果は、予想を大きく覆し、有意な大血管障害予防効果は、証明できませんでした。しかも「厳格血糖管理群」の死亡率が、「通常血糖管理群」を上回るという、衝撃的な結果となりました。

ACCORDは、米国とカナダの77施設から10251例が登録されました。

厳格血糖管理群の目標HbA1cは6.0%未満、予定追跡期間は5年間でした。

しかしながら、2008年2月、ACCORDの厳格血糖管理群における総死亡率および、心血管死亡率が通常血糖管理群を有意に上回ることが確認され、同試験は期間満了を待たずに平均追跡期間3.4年で中止となりました。

中止時の平均HbA1cは厳格血糖管理群6.4%、通常血糖管理群7.5%でした。

総死亡のリスク比は、厳格血糖管理群が通常血糖管理群の1.22倍、心血管死は1.35倍で、いずれも統計的に有意の差がありました。

単純に考えたら

「インスリ注射や内服薬で厳格な血糖管理をしたらかえって死亡率が上昇する」

というとんでもない結論になります。

このACCORD試験の死亡リスクと低血糖のSMBG(血糖自己測定)サブ解析結果が、2011年6月開催の第71回 米国糖尿病学会で報告されました。

強化療法群では標準療法群と比し、SMBGで測定した血糖値は有意に低く(126.0mg/dL vs 157.6mg/dL)、
HbA1c値(6.7% vs 7.7%)も有意に低値でした。

1日の血糖値の変動をみると、両群ともに夜間から早朝にかけて低下し、早朝から日中を通じて徐々に上昇するサイクルを示しました。

1日のいずれの測定ポイントにおいても、強化療法群の血糖値は、標準療法群に比べて有意に低値でした。

また、少なくとも1回の低血糖を経験した集団では、夜間から早朝にかけての血糖値の低下幅が大きく、死亡例ではその変化がさらに急激でした。

低血糖(<70mg/dL)の頻度は、強化療法群で標準療法群に比べて約3倍でした。

死亡リスクは、強化療法群では低血糖を経験した集団で高くでました。

報告したBergen氏は、血糖コントロールを安全に行うためのポイントとして、

「血糖値やHbA1c値が目標値から著しく低下した場合には、治療の強度を緩め、低血糖が起こらないようにすることが重要」

と述べました。

結局、低血糖を防ぐことが、死亡リスクを減らすことにおいて最も重要という結論です。

この結論は

「強化療法を行ってインスリンやSU剤などで厳格にHbA1cを6.4%ていどに下げるように管理すれば死亡リスクが上昇する」

と、認めているに等しいですね。

結局、カロリー制限が主体の従来の糖尿病食(高糖質食)では、薬物療法を強化して血糖コントロールを良くしようとすれば、必ず低血糖の確率が増加します。

しかも、強化療法をしていても、糖質を一定量以上摂取すれば食後高血糖を起こす可能性も高いです。

食後高血糖が、大血管障害に強く関与していることは、複数の研究で明らかになっています。

糖質・脂質・タンパク質の中で食後高血糖を起こすのは、糖質だけです。

薬物に頼らずに、血糖コントロールを保ちHbA1c値を良好にするのは、唯一糖質制限食だけです。

糖質制限食VSカロリー制限食(高糖質食)

どちらがリーズナブルか、糖尿人の皆さんよくよくお考えくださいね。

**

なお米国のHbA1c値は、国際標準のNGSP値です。

同一の検体で測定すると日本のJDS値より0.4%高値になります。
つまり<NGSP値6.4%=JDS値6.0%>です。


江部康二



☆☆☆☆☆参考
m3.com 臨床トピックス 2011年6月30日 より転載

第71回 米国糖尿病学会(ADA2011) 【開催期間:2011年6月24日~28日】

血糖値が目標値を超えて著しく低下すると死亡リスク上昇:ACCORDのSMBGサブ解析

2型糖尿病患者を対象に強化療法と標準療法を比較したACCORDでは、強化療法群で死亡リスクが有意に上昇したが、その理由として強化療法群では重度低血糖が高頻度で発現したことが指摘されている。今回、米国ミネアポリスのRichard M. Bergen氏らは、ACCORD参加者の血糖自己測定(SMBG)のデータを解析し、その結果を第71回米国糖尿病学会学術集会の最終日(6月28日)に行われたLate Breaking Clinical Studiesで報告した。

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本研究の対象はACCORDの参加者10,251例のうち、少なくとも180日分のSMBGデータが得られた5,347例(52.2%)とした。対象の背景を見ると、SMBGデータが十分に得られなかった集団と比べ、地域の偏りは大きかったが、年齢、性別、糖尿病罹病期間、HbA1cなどは比較的マッチしていた。なお、SMBGデータが測定された期間は平均で約2年間であった。

対象のうち、強化療法群は2,691例、標準療法群は2,656例で、強化療法群では標準療法群と比し、SMBGが測定された日数(762.3日 vs 683.2日)、1日の測定回数(2.7回 vs 2.0回)が有意に多く、血糖値(126.0mg/dL vs 157.6mg/dL)、HbA1c値(6.7% vs 7.7%)は有意に低かった(いずれもp<0.0001)。

1日の血糖値の変動をみると、両群ともに夜間から早朝にかけて低下し、早朝から日中を通じて徐々に上昇するサイクルを示した。しかし、1日のいずれの測定ポイントにおいても強化療法群の血糖値は標準療法群に比べて有意に低かった(p<0.0001)。また、少なくとも1回の低血糖を経験した集団では夜間から早朝にかけての血糖値の低下幅が大きく、死亡例ではその変化がさらに急激であった。

低血糖(<70mg/dL)の頻度は、強化療法群で標準療法群に比べて約3倍高く、高血糖(>200mg/dL)は標準療法群で強化療法群に比べて約2倍多かった。また、死亡リスクは強化療法群では低血糖を経験した集団で高く、標準療法群では低血糖あるいは高血糖を経験した集団で高かった。

こうした結果を踏まえてBergen氏は、血糖コントロールを安全に行うためのポイントとして、「血糖値やHbA1c値が目標値から著しく低下した場合には、治療の強度を緩め、低血糖が起こらないようにすることが重要」と述べて講演を終えた。

山岸 倫也(医学ライター)
テーマ:糖尿病
ジャンル:ヘルス・ダイエット