2016年01月02日 (土)
こんばんは。
RIO さんから、マサイ族の伝統的食生活(牛乳・ヨーグルト・牛の生き血)と健康度についてコメント・質問をいただきました。
まず、マサイ族と同様に、野菜と果物の摂取が、ほぼ無かったイヌイットと比較してみます。
イヌイットが伝統的食生活の頃は、野菜と果物の摂取が、ほぼ無かったので結果として、ビタミンC摂取不足があり、新生児高チロシン血症と壊血病のリスクがありました。
動物の内臓や血液にもビタミンCは少量含まれていますが、野菜や果物に比べるとごく少量なのです。
マサイ族の伝統的食生活においても、ビタミンC摂取が少ないことが知られています。
しかし、マサイ族はイヌイットと異なり、新生児高チロシン血症と壊血病のリスクはなく、また貧血もありません。
伝統的食生活の頃のマサイ族の主たる食事は、牛乳とヨーグルトと牛の生き血なのですが、健康度は高かったようです。
今回は、以下の論文をもとに、マサイ族のビタミンC血中濃度などについて考えてみます。
①Low ascorbate status in the Masai of Kenya
The American Journal of Clinical Nutrition 27: MARCH 1974, pp. 3 10-314.
http://www.ajcn.org/cgi/reprint/27/3/310.pdf
①を参考にして、アフリカのマサイ族の食生活を、検討してみました。
マサイ族は、牛乳及びヨーグルトを2~3リットル/日摂取します。
毎日、何キロも歩いて牛の放牧をし、腰に牛乳を入れた『キブユ』という瓢箪(ひょうたん)をぶら下げて歩くので、数日間で自然醗酵され、ヨーグルトになります。このように、マサイ族の主食は、牛乳とヨーグルトです。
放牧しながら飲むとすれば、どちらかというと、2~3日経過した牛乳や発酵してヨーグルトになったものの方が、新鮮な牛乳よりも主となります。
これらだけの食料で不足する鉄分は、牛の生き血で補っています。牛の生き血は、週に数回、牛乳に混ぜて飲んでいます。
マサイ族は、野菜や果物は一切食べないそうですので、ビタミンCをどうやって摂取しているのか不思議です。
ビタミンCは、ヒトは体内で合成できないので、必ず食物から摂取することが必要です。
牛は財産ということで、殺したりしませんので、牛肉も食べません。
山羊や羊も飼っていて、こちらは、お祝い事や家族に病人が出て、栄養をつけたいときに食べるそうです。
この時、山羊の生レバや生小腸も食べるそうです。
牛生レバのビタミンCは100g中に30mg
牛小腸のビタミンCは100g中に15mg
です。
ちなみに、100gあたりのビタミンCは
赤ピーマン170mg、パセリ120mg、柿70mg、イチゴ62mg、ブロッコリー54mg・・・です。
山羊の生レバや生小腸は、五訂日本食品標準表に載っていないのですが、牛に準する程度と思います。
したがって、山羊の生レバや生小腸はビタミンCがあるていど含まれていますが、日常的に摂取しているわけではありません。
牛の血漿中のビタミンC濃度は、1.4~3.6mg/dLであり、
人の血漿中ビタミンC濃度0.6–1.4mg/dLより高値です。
しかし、それでも、牛の血を1リットル飲んでもせいぜい30mgですから、やはり、牛の血でビタミンCが充分量摂取できるとは言えません。
①によれば
マサイの牛の新鮮な牛乳の中には、ビタミンC2.2mg/dl含まれています。
瓢箪(ひょうたん)に入れて、数日間発酵させてから飲むとすれば、ビタミンCの含有量は減少します。
例えば、瓢箪の中で4日間経過した牛乳は、ビタミンC0.4mg/dlに減ります。
そうなると、牛乳、ヨーグルト、生き血から得られる日々のビタミンC摂取量は、せいぜい30mg/日ていどでしかありません。
厚生労働省の推奨量が、100mg/日として、全然足りません。
①によれば
伝統的な食事をしているマサイ族の血清アスコルビン酸濃度は、0.16mg/dlとかなり低くなっています。
バンツー族は、0.56mg/100mlでやや低値ですが、マサイ族よりは、かなり高値です。
白血球の中の、ビタミンC濃度も、マサイ族はバンツー族の半分以下と低値です。
ビタミンB12は、マサイ族は1188pg/mlでバンツー族は404pg/mlで、マサイ族の方が高値でした。
赤血球中の葉酸はマサイ族は低値でした。
血清総タンパクはマサイ族がバンツー族よりやや高値でした。
上記検査データは、マサイ族が21名、バンツー族が24名の平均値です。
バンツー族は、ケニアやタンザニアの同じ地域に住んでいて、食生活はマサイ族とは異なり、穀物・野菜など何でも食べています。
他に、赤血球数、ヘモグロビン、白血球数、血小板数、血清鉄も検査されていますが、マサイ族、バンツー族ともに、異常はありませんでした。
結論として、マサイ族の血中ビタミンC濃度が低いのは、単純に食物から摂取するビタミンCが低いからと考えられます。
血漿ビタミンC濃度がこれほど低値なのに、壊血病や貧血は見られず、さらなる研究が必要と締めくくられています。
ちなみに、日本の厚生労働省の第6次改定「日本人の栄養所要量」によると、100mg/日のビタミンC摂取を推奨し、血漿中ビタミンC濃度基準値を0.7mg/dl以上に設定しています。
マサイ族の0.16mg/dlは兎も角として、人類の本当のビタミンC基準値はどのていどなのでしょう?
そして人類の本当のビタミンC摂取必要量はどのくらいなのでしょう?
人類が700万年の進化の過程でいったい何を食べてきたのかを考察するのに、人体で合成できないビタミンCの必須量が気になります。
7属23種の人類が生まれては消え、現在残っているのは現世人類(ホモ・サピエンス)だけです。
7属23種の人類は全てビタミンCは合成できなかったので、野草や果実からビタミンCを摂取していたと考えられます。
現世人類においても、伝統的食生活の頃のマサイ族やイヌイット以外は、野草や果実からビタミンCを摂取していたと考えられます。
ウィキペディアによれば
哺乳類ではテンジクネズミ(モルモットなど)や直鼻猿亜目の霊長類(サル、類人猿、ヒトなど)が、ビタミンCを合成できません。
霊長目でこビタミンCを合成する酵素の活性が失われたのは約6300万年前であり、直鼻猿亜目(酵素活性なし)と曲鼻猿亜目(酵素活性あり)の分岐が起こったのとほぼ同時だそうです。
江部康二
RIO さんから、マサイ族の伝統的食生活(牛乳・ヨーグルト・牛の生き血)と健康度についてコメント・質問をいただきました。
まず、マサイ族と同様に、野菜と果物の摂取が、ほぼ無かったイヌイットと比較してみます。
イヌイットが伝統的食生活の頃は、野菜と果物の摂取が、ほぼ無かったので結果として、ビタミンC摂取不足があり、新生児高チロシン血症と壊血病のリスクがありました。
動物の内臓や血液にもビタミンCは少量含まれていますが、野菜や果物に比べるとごく少量なのです。
マサイ族の伝統的食生活においても、ビタミンC摂取が少ないことが知られています。
しかし、マサイ族はイヌイットと異なり、新生児高チロシン血症と壊血病のリスクはなく、また貧血もありません。
伝統的食生活の頃のマサイ族の主たる食事は、牛乳とヨーグルトと牛の生き血なのですが、健康度は高かったようです。
今回は、以下の論文をもとに、マサイ族のビタミンC血中濃度などについて考えてみます。
①Low ascorbate status in the Masai of Kenya
The American Journal of Clinical Nutrition 27: MARCH 1974, pp. 3 10-314.
http://www.ajcn.org/cgi/reprint/27/3/310.pdf
①を参考にして、アフリカのマサイ族の食生活を、検討してみました。
マサイ族は、牛乳及びヨーグルトを2~3リットル/日摂取します。
毎日、何キロも歩いて牛の放牧をし、腰に牛乳を入れた『キブユ』という瓢箪(ひょうたん)をぶら下げて歩くので、数日間で自然醗酵され、ヨーグルトになります。このように、マサイ族の主食は、牛乳とヨーグルトです。
放牧しながら飲むとすれば、どちらかというと、2~3日経過した牛乳や発酵してヨーグルトになったものの方が、新鮮な牛乳よりも主となります。
これらだけの食料で不足する鉄分は、牛の生き血で補っています。牛の生き血は、週に数回、牛乳に混ぜて飲んでいます。
マサイ族は、野菜や果物は一切食べないそうですので、ビタミンCをどうやって摂取しているのか不思議です。
ビタミンCは、ヒトは体内で合成できないので、必ず食物から摂取することが必要です。
牛は財産ということで、殺したりしませんので、牛肉も食べません。
山羊や羊も飼っていて、こちらは、お祝い事や家族に病人が出て、栄養をつけたいときに食べるそうです。
この時、山羊の生レバや生小腸も食べるそうです。
牛生レバのビタミンCは100g中に30mg
牛小腸のビタミンCは100g中に15mg
です。
ちなみに、100gあたりのビタミンCは
赤ピーマン170mg、パセリ120mg、柿70mg、イチゴ62mg、ブロッコリー54mg・・・です。
山羊の生レバや生小腸は、五訂日本食品標準表に載っていないのですが、牛に準する程度と思います。
したがって、山羊の生レバや生小腸はビタミンCがあるていど含まれていますが、日常的に摂取しているわけではありません。
牛の血漿中のビタミンC濃度は、1.4~3.6mg/dLであり、
人の血漿中ビタミンC濃度0.6–1.4mg/dLより高値です。
しかし、それでも、牛の血を1リットル飲んでもせいぜい30mgですから、やはり、牛の血でビタミンCが充分量摂取できるとは言えません。
①によれば
マサイの牛の新鮮な牛乳の中には、ビタミンC2.2mg/dl含まれています。
瓢箪(ひょうたん)に入れて、数日間発酵させてから飲むとすれば、ビタミンCの含有量は減少します。
例えば、瓢箪の中で4日間経過した牛乳は、ビタミンC0.4mg/dlに減ります。
そうなると、牛乳、ヨーグルト、生き血から得られる日々のビタミンC摂取量は、せいぜい30mg/日ていどでしかありません。
厚生労働省の推奨量が、100mg/日として、全然足りません。
①によれば
伝統的な食事をしているマサイ族の血清アスコルビン酸濃度は、0.16mg/dlとかなり低くなっています。
バンツー族は、0.56mg/100mlでやや低値ですが、マサイ族よりは、かなり高値です。
白血球の中の、ビタミンC濃度も、マサイ族はバンツー族の半分以下と低値です。
ビタミンB12は、マサイ族は1188pg/mlでバンツー族は404pg/mlで、マサイ族の方が高値でした。
赤血球中の葉酸はマサイ族は低値でした。
血清総タンパクはマサイ族がバンツー族よりやや高値でした。
上記検査データは、マサイ族が21名、バンツー族が24名の平均値です。
バンツー族は、ケニアやタンザニアの同じ地域に住んでいて、食生活はマサイ族とは異なり、穀物・野菜など何でも食べています。
他に、赤血球数、ヘモグロビン、白血球数、血小板数、血清鉄も検査されていますが、マサイ族、バンツー族ともに、異常はありませんでした。
結論として、マサイ族の血中ビタミンC濃度が低いのは、単純に食物から摂取するビタミンCが低いからと考えられます。
血漿ビタミンC濃度がこれほど低値なのに、壊血病や貧血は見られず、さらなる研究が必要と締めくくられています。
ちなみに、日本の厚生労働省の第6次改定「日本人の栄養所要量」によると、100mg/日のビタミンC摂取を推奨し、血漿中ビタミンC濃度基準値を0.7mg/dl以上に設定しています。
マサイ族の0.16mg/dlは兎も角として、人類の本当のビタミンC基準値はどのていどなのでしょう?
そして人類の本当のビタミンC摂取必要量はどのくらいなのでしょう?
人類が700万年の進化の過程でいったい何を食べてきたのかを考察するのに、人体で合成できないビタミンCの必須量が気になります。
7属23種の人類が生まれては消え、現在残っているのは現世人類(ホモ・サピエンス)だけです。
7属23種の人類は全てビタミンCは合成できなかったので、野草や果実からビタミンCを摂取していたと考えられます。
現世人類においても、伝統的食生活の頃のマサイ族やイヌイット以外は、野草や果実からビタミンCを摂取していたと考えられます。
ウィキペディアによれば
哺乳類ではテンジクネズミ(モルモットなど)や直鼻猿亜目の霊長類(サル、類人猿、ヒトなど)が、ビタミンCを合成できません。
霊長目でこビタミンCを合成する酵素の活性が失われたのは約6300万年前であり、直鼻猿亜目(酵素活性なし)と曲鼻猿亜目(酵素活性あり)の分岐が起こったのとほぼ同時だそうです。
江部康二
2014年04月26日 (土)
こんにちは。
イヌイットが伝統的食生活の頃は、結果として、ビタミンC摂取不足があり、新生児高チロシン血症と壊血病のリスクがあるということを昨日の記事にしました。
今回は、復習を兼ねて、マサイ族の伝統的食生活とビタミンC摂取、ビタミンC血中濃度などについて考えてみます。
①Low ascorbate status in the Masai of Kenya
The American Journal of Clinical Nutrition 27: MARCH 1974, pp. 3 10-314.
http://www.ajcn.org/cgi/reprint/27/3/310.pdf
②京大名誉教授の家守先生の調査 http://www.zennyuren.or.jp/milk_no_yakata/jimu/hitori/hitori_03.htm
③サファリガイド加藤直邦さんのブログ、
僕は見習いナチュラリスト
http://naturanger.blog25.fc2.com/blog-entry-111.html
①②③を参考にして、アフリカのマサイ族の食生活を、再検討してみました。
マサイ族は、牛乳及びヨーグルトを2~3リットル/日摂取します。
毎日、何キロも歩いて牛の放牧をし、腰に牛乳を入れた『キブユ』という瓢箪(ひょうたん)をぶら下げて歩くので、数日間で自然醗酵され、ヨーグルトになります。このように、マサイ族の主食は、牛乳とヨーグルトです。
放牧しながら飲むとすれば、どちらかというと、2~3日経過した牛乳や発酵してヨーグルトになったものの方が、新鮮な牛乳よりも主となります。
これらだけの食料で不足する鉄分は、牛の生き血で補っています。牛の生き血は、週に数回、牛乳に混ぜて飲んでいます。トウモロコシの粉『ウガリ』も牛乳に混ぜて飲みます。
マサイ族は、野菜や果物は一切食べないそうですので、ビタミンCをどうやって摂取しているのか不思議です。
ビタミンCは、ヒトは体内で合成できないので、必ず食物から摂取することが必要です。
牛は財産ということで、殺したりしませんので、牛肉も食べません。
山羊や羊も飼っていて、こちらは、お祝い事や家族に病人が出て、栄養をつけたいときに食べるそうです。この時、山羊の生レバや生小腸も食べるそうです。
牛生レバのビタミンCは100g中に30mg
牛小腸のビタミンCは100g中に15mg
です。
山羊の生レバや生小腸は、五訂日本食品標準表に載っていないのですが、牛に準する程度と思います。
したがって、山羊の生レバや生小腸はビタミンCが豊富と思われますが、日常的に摂取しているわけではありません。
家守先生は、牛の生き血からビタミンCを摂取していると述べておられます。
牛の血漿中のビタミンC濃度は、1.4~3.6mg/dLであり、人の血漿中ビタミンC濃度0.6–1.4mg/dLより高値です。
しかし、それでも、牛の血を1リットル飲んでもせいぜい30mgですから、やはり、牛の血でビタミンCが充分量摂取できるとは言えません。
①によれば
マサイの牛の新鮮な牛乳の中には、ビタミンC2.2mg/dl含まれています。
瓢箪(ひょうたん)に入れて、数日間発酵させてから飲むとすれば、ビタミンCの含有量は減少します。
例えば、瓢箪の中で4日間経過した牛乳は、ビタミンC0.4mg/dlに減ります。
そうなると、牛乳、ヨーグルト、生き血から得られる日々のビタミンC摂取量は、せいぜい30mg/日ていどでしかありません。厚生労働省の推奨量が、100mg/日として、全然足りません。
①によれば
伝統的な食事をしているマサイ族の血清アスコルビン酸濃度は、0.16mg/dlとかなり低くなっています。
バンツー族は、0.56mg/100mlでやや低値ですが、マサイ族よりは、かなり高値です。
白血球の中の、ビタミンC濃度も、マサイ族はバンツー族の半分以下と低値です。
ビタミンB12は、マサイ族は1188pg/mlでバンツー族は404pg/mlで、マサイ族の方が高値でした。
赤血球中の葉酸はマサイ族は低値でした。
血清総タンパクはマサイ族がバンツー族よりやや高値でした。
マサイ族が21名、バンツー族が24名の平均値です。
バンツー族は、ケニアやタンザニアの同じ地域に住んでいて、食生活はマサイ族とは異なり、穀物・野菜など何でも食べています。
他に、赤血球数、ヘモグロビン、白血球数、血小板数、血清鉄も検査されていますが、マサイ族、バンツー族ともに、異常はありませんでした。
結論として、マサイ族の血中ビタミンC濃度が低いのは、単純に食物から摂取するビタミンCが低いからと考えられます。
血漿ビタミンC濃度がこれほど低値なのに、壊血病や貧血は見られず、さらなる研究が必要と締めくくられています。
ちなみに、日本の厚生労働省の第6次改定「日本人の栄養所要量」によると、100mg/日のビタミンC摂取を推奨し、血漿中ビタミンC濃度基準値を0.7mg/dl以上に設定しています。
マサイ族の0.16mg/dlは兎も角として、人類の本当のビタミンC基準値はどのていどなのでしょう?
そして人類の本当のビタミンC摂取必要量はどのくらいなのでしょう?
人類が700万年の進化の過程でいったい何を食べてきたのかを考察するのに、人体で合成できないビタミンCの必須量が気になります。
7属23種の人類が生まれては消え、現在残っているのは原始人類(ホモ・サピエンス)だけです。
7属23種の人類はおそらく全てビタミンCは合成できなかったと思います。
一方7属23種の人類において、穀物はほとんどないので食べてないですが、主食はそれぞれ異なっていた可能性があります。
さて、日本脂質栄養学会の浜崎先生が
「超低炭水化物食だとビタミン C が尿細管で再吸収されるため、ビタミン C の必要量が極端に減る」
とされている根拠の
Cunningham JJ. Altered vitamin C transport in diabetes mellitus. Med Hypotheses
26:263-265, 1988.
という論文が手に入ったので検討します。
江部康二
イヌイットが伝統的食生活の頃は、結果として、ビタミンC摂取不足があり、新生児高チロシン血症と壊血病のリスクがあるということを昨日の記事にしました。
今回は、復習を兼ねて、マサイ族の伝統的食生活とビタミンC摂取、ビタミンC血中濃度などについて考えてみます。
①Low ascorbate status in the Masai of Kenya
The American Journal of Clinical Nutrition 27: MARCH 1974, pp. 3 10-314.
http://www.ajcn.org/cgi/reprint/27/3/310.pdf
②京大名誉教授の家守先生の調査 http://www.zennyuren.or.jp/milk_no_yakata/jimu/hitori/hitori_03.htm
③サファリガイド加藤直邦さんのブログ、
僕は見習いナチュラリスト
http://naturanger.blog25.fc2.com/blog-entry-111.html
①②③を参考にして、アフリカのマサイ族の食生活を、再検討してみました。
マサイ族は、牛乳及びヨーグルトを2~3リットル/日摂取します。
毎日、何キロも歩いて牛の放牧をし、腰に牛乳を入れた『キブユ』という瓢箪(ひょうたん)をぶら下げて歩くので、数日間で自然醗酵され、ヨーグルトになります。このように、マサイ族の主食は、牛乳とヨーグルトです。
放牧しながら飲むとすれば、どちらかというと、2~3日経過した牛乳や発酵してヨーグルトになったものの方が、新鮮な牛乳よりも主となります。
これらだけの食料で不足する鉄分は、牛の生き血で補っています。牛の生き血は、週に数回、牛乳に混ぜて飲んでいます。トウモロコシの粉『ウガリ』も牛乳に混ぜて飲みます。
マサイ族は、野菜や果物は一切食べないそうですので、ビタミンCをどうやって摂取しているのか不思議です。
ビタミンCは、ヒトは体内で合成できないので、必ず食物から摂取することが必要です。
牛は財産ということで、殺したりしませんので、牛肉も食べません。
山羊や羊も飼っていて、こちらは、お祝い事や家族に病人が出て、栄養をつけたいときに食べるそうです。この時、山羊の生レバや生小腸も食べるそうです。
牛生レバのビタミンCは100g中に30mg
牛小腸のビタミンCは100g中に15mg
です。
山羊の生レバや生小腸は、五訂日本食品標準表に載っていないのですが、牛に準する程度と思います。
したがって、山羊の生レバや生小腸はビタミンCが豊富と思われますが、日常的に摂取しているわけではありません。
家守先生は、牛の生き血からビタミンCを摂取していると述べておられます。
牛の血漿中のビタミンC濃度は、1.4~3.6mg/dLであり、人の血漿中ビタミンC濃度0.6–1.4mg/dLより高値です。
しかし、それでも、牛の血を1リットル飲んでもせいぜい30mgですから、やはり、牛の血でビタミンCが充分量摂取できるとは言えません。
①によれば
マサイの牛の新鮮な牛乳の中には、ビタミンC2.2mg/dl含まれています。
瓢箪(ひょうたん)に入れて、数日間発酵させてから飲むとすれば、ビタミンCの含有量は減少します。
例えば、瓢箪の中で4日間経過した牛乳は、ビタミンC0.4mg/dlに減ります。
そうなると、牛乳、ヨーグルト、生き血から得られる日々のビタミンC摂取量は、せいぜい30mg/日ていどでしかありません。厚生労働省の推奨量が、100mg/日として、全然足りません。
①によれば
伝統的な食事をしているマサイ族の血清アスコルビン酸濃度は、0.16mg/dlとかなり低くなっています。
バンツー族は、0.56mg/100mlでやや低値ですが、マサイ族よりは、かなり高値です。
白血球の中の、ビタミンC濃度も、マサイ族はバンツー族の半分以下と低値です。
ビタミンB12は、マサイ族は1188pg/mlでバンツー族は404pg/mlで、マサイ族の方が高値でした。
赤血球中の葉酸はマサイ族は低値でした。
血清総タンパクはマサイ族がバンツー族よりやや高値でした。
マサイ族が21名、バンツー族が24名の平均値です。
バンツー族は、ケニアやタンザニアの同じ地域に住んでいて、食生活はマサイ族とは異なり、穀物・野菜など何でも食べています。
他に、赤血球数、ヘモグロビン、白血球数、血小板数、血清鉄も検査されていますが、マサイ族、バンツー族ともに、異常はありませんでした。
結論として、マサイ族の血中ビタミンC濃度が低いのは、単純に食物から摂取するビタミンCが低いからと考えられます。
血漿ビタミンC濃度がこれほど低値なのに、壊血病や貧血は見られず、さらなる研究が必要と締めくくられています。
ちなみに、日本の厚生労働省の第6次改定「日本人の栄養所要量」によると、100mg/日のビタミンC摂取を推奨し、血漿中ビタミンC濃度基準値を0.7mg/dl以上に設定しています。
マサイ族の0.16mg/dlは兎も角として、人類の本当のビタミンC基準値はどのていどなのでしょう?
そして人類の本当のビタミンC摂取必要量はどのくらいなのでしょう?
人類が700万年の進化の過程でいったい何を食べてきたのかを考察するのに、人体で合成できないビタミンCの必須量が気になります。
7属23種の人類が生まれては消え、現在残っているのは原始人類(ホモ・サピエンス)だけです。
7属23種の人類はおそらく全てビタミンCは合成できなかったと思います。
一方7属23種の人類において、穀物はほとんどないので食べてないですが、主食はそれぞれ異なっていた可能性があります。
さて、日本脂質栄養学会の浜崎先生が
「超低炭水化物食だとビタミン C が尿細管で再吸収されるため、ビタミン C の必要量が極端に減る」
とされている根拠の
Cunningham JJ. Altered vitamin C transport in diabetes mellitus. Med Hypotheses
26:263-265, 1988.
という論文が手に入ったので検討します。
江部康二
2014年04月25日 (金)
こんにちは。
今回はビタミンCとイヌイットついて考えてみます。
4000年前、すでにカナダ極北やアラスカに、人類(モンゴロイド)が移住し居住していました。
現在のイヌイット文化と同様の生活様式をしていたとは、必ずしもいえませんが、セイウチ猟などを中心に生業としていたようです。
現在のイヌイットの生活様式の原型ですが、まず10世紀頃、アラスカイヌイットでホッキョククジラが主食の時代がありました。
その後200~300年で他の極北周囲地域、西はチュコト半島、東はグリーンランドまでホッキョククジラ猟が広まりました。この文化は、チューレ文化と呼ばれています。
12世紀から17世紀にかけて極北地域に寒冷化が起こり、それまで豊富だったクジラが少なくなりました。
そのため、クジラ以外のものを主食とせざるを得なくなり、各地域でチューレ文化は多様化して、独自の文化が形成されていきました。
イヌイットといえば、誰でもイメージするような、アザラシ猟をして雪の家に住むという文化は、15世紀頃に形成されました。
その後、ホッキョクイワナ、アザラシ、シロイルカ、カリブーといった食材がイヌイットの主食となっていきました。
この伝統的な食生活のころは、海生動物の生肉・内臓、生魚肉・内臓が主食で、穀物や野菜もなしで、果物もほとんどなしです。
海生動物や魚の内臓には、あるていどのビタミンCが含まれていると思いますが、野菜や果物ほどではありません。
イヌイットの好物であるマクタック(シロイルカの生皮)にビタミンCが含まれているとのことですが、量的には野菜や果物には到底及ばないと思われます。
キビヤックというイヌイット独特の発酵食品があります。
海鳥(ウミスズメ類)をアザラシの中に詰めこみ、地中に長期間埋めて作るそうです。
大変臭いそうですが、ビタミンCが豊富という説もあります。
しかし通常、発酵食品にはビタミンCは含まれていないと思います。
結局ビタミンCが豊富なのは、新鮮な野菜と果物、そしてサツマ芋とジャガ芋です。
内臓には少量含まれてますが、量的には野菜や果物には及びません。
こうなると、イヌイットが伝統的な食生活を続けていたころは、ビタミンCの補充はどうしていたのかという疑問が生じます。
イヌイットの伝統的食生活では、ビタミンC摂取量は少ない可能性が高いですし、ビタミンC血中濃度も低い可能性が高いです。そして、ビタミンC不足による病気はどうなのでしょう?
1975年発表の、カナダの論文を読んでみました(*)。
この論文は、ケベック遺伝子医学ネットワークの調査などに基づいたものであり信頼度は高いと思います。
やはりイヌイットのビタミンC摂取量は、カナダ白人と比較して、かなり少なかったです。
妊婦のビタミンCが不足していると、新生児高チロシン血症(**)になります。
イヌイットの新生児高チロシン血症は、先天的なものではなく、ビタミンC不足によるものなので、妊婦へのビタミンC投与で改善したと報告されています。
イヌイットの妊娠中の女性の平均ビタミンC摂取量は、28mg/日で、血中ビタミンC濃度は、0.25mg/dl。
イヌイットの同年齢の非妊娠女性名の、平均ビタミンC摂取量は26mg/日で、血中ビタミンC濃度は0.17mg/dl。
カナダの白人妊婦の、平均ビタミンC摂取量は、133mg/日で、血中ビタミンC濃度は0.97mg/dl。
イヌイットの妊婦のビタミンC血中濃度は低くて、新生児高チロシン血症(**)の頻度が、カナダアングロサクソン人が0.94%に対して14.8%もありました。
イヌイットの血中ビタミンC濃度は、壊血病危険ラインの0.2mg/dl未満の場合も多く、歯肉出血が高率に見られたそうです。
イヌイットの場合は、血中ビタミンC濃度が低値であることは、壊血病と新生児高チロシン血症のリスクを高めていました。
このことに関しては、調査に基づく事実なので議論の余地はありません。
イヌイットとビタミンC不足のことを考慮すると、スーパー糖質制限食においても、基本的には、野菜はしっかり摂取して、ビタミンCを確保することが必要と思います。
一方、アフリカのケニア南部からタンザニア北部にすむマサイ族は、血中ビタミンC濃度はイヌイットと同レベルの壊血病危険ライン0.2mg/dlの場合も多いのに、壊血病がみられないのは、不思議です。
またマサイ族と新生児高チロシン血症の文献は、英文でも発見できませんでした。
血中ビタミンC濃度が、同レベルに低い「イヌイット」と「マサイ族」ですが、新生児高チロシン血症や壊血病リスクが生じたのはイヌイットだけで、マサイ族には生じなかったのは、何故なのか不思議です。
江部康二
(*)
Neonatal hypertyrosinemia and evidence of deficiency of ascorbic acid
in Arctic and subarctic peoples
624-626 CMA JOURNAL/OCTOBER 4,1975/VOL.113
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1956727/pdf/canmedaj01544-0034.pdf
(**)メルクマニュアルより抜粋
チロシン代謝障害
チロシンは,いくつかの神経伝達物質(例,ドパミン,ノルエピネフリン,エピネフリン),ホルモン(例,サイロキシン),およびメラニンの前駆物質であり,その代謝に関与する酵素の欠損は様々な症候群を引き起こす。
新生児一過性チロシン血症: ときに,代謝酵素(特に4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ)の一過性の未成熟により血漿チロシン濃度の上昇が発生し(通常は未熟児,特に高蛋白食を与えられているものに起こる),その代謝産物がPKUのルーチン新生児スクリーニングで検出されることがある。患児の大半は無症状であるが,嗜眠と哺乳不良を呈することがある。チロシン血症は,血漿チロシン高値によってPKUと鑑別される。
大部分は自然消失する。症状のある患児には,食事性チロシンの摂取制限(2g/kg/日)とビタミンC,200〜400mg,経口,1日1回を実施する。
チロシン血症Ⅰ型: この障害は,フマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(チロシン代謝に重要な酵素)欠損に起因する常染色体劣性の遺伝形質である。疾患としては,新生児期には劇症肝不全として,また乳児期後期および幼児期には無痛性不顕性肝炎,有痛性末梢神経障害,および尿細管障害(例,正アニオンギャップ性代謝性アシドーシス,低リン酸血症,ビタミンD抵抗性くる病)として発症する。長期生存者では肝癌のリスクが増大する。
診断は,血漿チロシン高値によって示唆され,血漿または尿中サクシニルアセトン高値および血球または肝生検標本におけるフマリルアセト酢酸ヒドラーゼの活性低下によって確定される。2(2-ニトロ-4-トリフルオロメチルベンゾイル)-1,3-シクロ-ヘキサンジオン(NTBC)による治療が急性発作に有効であり,また進行を遅らせる効果もある。低フェニルアラニン・低チロシンの食事療法が推奨される。肝移植が有効である。
チロシン血症Ⅱ型: チロシンアミノ基転移酵素の欠損によって引き起こされる常染色体劣性遺伝のまれな疾患である。チロシンの蓄積により皮膚と角膜に潰瘍を来す。無治療の場合,フェニルアラニンの二次的増加により,軽度ではあるが神経精神医学的異常を来すことがある。診断は,血漿チロシン高値,血漿中または尿中のサクシニルアセトンの欠如,および肝生検における酵素活性減少の測定によって行われる。本疾患は,食事性フェニルアラニンおよびチロシンの軽度から中等度の摂取制限により,容易に治療可能である。
(***)チロシン
必須アミノ酸ではありませんが重要なアミノ酸であるチロシンは、
フェニルアラニンという必須アミノ酸から作られます。
チロシンは脳や神経が正常に働くために必要不可欠なアミノ酸で、神経伝達物質であるドーパミン やノルアドレナリンの前駆体となり、脳機能を活性化させる働きがあります。
チロシンは感情や精神機能、性的衝動を脳内でつかさどる重要な神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリン の前駆体です。納豆やチーズ、みそなどの表面に白く析出してくる結晶や、若いタケノコの切り口に見られる白いアクがチロシン で水には溶けにくい性質があります。
今回はビタミンCとイヌイットついて考えてみます。
4000年前、すでにカナダ極北やアラスカに、人類(モンゴロイド)が移住し居住していました。
現在のイヌイット文化と同様の生活様式をしていたとは、必ずしもいえませんが、セイウチ猟などを中心に生業としていたようです。
現在のイヌイットの生活様式の原型ですが、まず10世紀頃、アラスカイヌイットでホッキョククジラが主食の時代がありました。
その後200~300年で他の極北周囲地域、西はチュコト半島、東はグリーンランドまでホッキョククジラ猟が広まりました。この文化は、チューレ文化と呼ばれています。
12世紀から17世紀にかけて極北地域に寒冷化が起こり、それまで豊富だったクジラが少なくなりました。
そのため、クジラ以外のものを主食とせざるを得なくなり、各地域でチューレ文化は多様化して、独自の文化が形成されていきました。
イヌイットといえば、誰でもイメージするような、アザラシ猟をして雪の家に住むという文化は、15世紀頃に形成されました。
その後、ホッキョクイワナ、アザラシ、シロイルカ、カリブーといった食材がイヌイットの主食となっていきました。
この伝統的な食生活のころは、海生動物の生肉・内臓、生魚肉・内臓が主食で、穀物や野菜もなしで、果物もほとんどなしです。
海生動物や魚の内臓には、あるていどのビタミンCが含まれていると思いますが、野菜や果物ほどではありません。
イヌイットの好物であるマクタック(シロイルカの生皮)にビタミンCが含まれているとのことですが、量的には野菜や果物には到底及ばないと思われます。
キビヤックというイヌイット独特の発酵食品があります。
海鳥(ウミスズメ類)をアザラシの中に詰めこみ、地中に長期間埋めて作るそうです。
大変臭いそうですが、ビタミンCが豊富という説もあります。
しかし通常、発酵食品にはビタミンCは含まれていないと思います。
結局ビタミンCが豊富なのは、新鮮な野菜と果物、そしてサツマ芋とジャガ芋です。
内臓には少量含まれてますが、量的には野菜や果物には及びません。
こうなると、イヌイットが伝統的な食生活を続けていたころは、ビタミンCの補充はどうしていたのかという疑問が生じます。
イヌイットの伝統的食生活では、ビタミンC摂取量は少ない可能性が高いですし、ビタミンC血中濃度も低い可能性が高いです。そして、ビタミンC不足による病気はどうなのでしょう?
1975年発表の、カナダの論文を読んでみました(*)。
この論文は、ケベック遺伝子医学ネットワークの調査などに基づいたものであり信頼度は高いと思います。
やはりイヌイットのビタミンC摂取量は、カナダ白人と比較して、かなり少なかったです。
妊婦のビタミンCが不足していると、新生児高チロシン血症(**)になります。
イヌイットの新生児高チロシン血症は、先天的なものではなく、ビタミンC不足によるものなので、妊婦へのビタミンC投与で改善したと報告されています。
イヌイットの妊娠中の女性の平均ビタミンC摂取量は、28mg/日で、血中ビタミンC濃度は、0.25mg/dl。
イヌイットの同年齢の非妊娠女性名の、平均ビタミンC摂取量は26mg/日で、血中ビタミンC濃度は0.17mg/dl。
カナダの白人妊婦の、平均ビタミンC摂取量は、133mg/日で、血中ビタミンC濃度は0.97mg/dl。
イヌイットの妊婦のビタミンC血中濃度は低くて、新生児高チロシン血症(**)の頻度が、カナダアングロサクソン人が0.94%に対して14.8%もありました。
イヌイットの血中ビタミンC濃度は、壊血病危険ラインの0.2mg/dl未満の場合も多く、歯肉出血が高率に見られたそうです。
イヌイットの場合は、血中ビタミンC濃度が低値であることは、壊血病と新生児高チロシン血症のリスクを高めていました。
このことに関しては、調査に基づく事実なので議論の余地はありません。
イヌイットとビタミンC不足のことを考慮すると、スーパー糖質制限食においても、基本的には、野菜はしっかり摂取して、ビタミンCを確保することが必要と思います。
一方、アフリカのケニア南部からタンザニア北部にすむマサイ族は、血中ビタミンC濃度はイヌイットと同レベルの壊血病危険ライン0.2mg/dlの場合も多いのに、壊血病がみられないのは、不思議です。
またマサイ族と新生児高チロシン血症の文献は、英文でも発見できませんでした。
血中ビタミンC濃度が、同レベルに低い「イヌイット」と「マサイ族」ですが、新生児高チロシン血症や壊血病リスクが生じたのはイヌイットだけで、マサイ族には生じなかったのは、何故なのか不思議です。
江部康二
(*)
Neonatal hypertyrosinemia and evidence of deficiency of ascorbic acid
in Arctic and subarctic peoples
624-626 CMA JOURNAL/OCTOBER 4,1975/VOL.113
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1956727/pdf/canmedaj01544-0034.pdf
(**)メルクマニュアルより抜粋
チロシン代謝障害
チロシンは,いくつかの神経伝達物質(例,ドパミン,ノルエピネフリン,エピネフリン),ホルモン(例,サイロキシン),およびメラニンの前駆物質であり,その代謝に関与する酵素の欠損は様々な症候群を引き起こす。
新生児一過性チロシン血症: ときに,代謝酵素(特に4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ)の一過性の未成熟により血漿チロシン濃度の上昇が発生し(通常は未熟児,特に高蛋白食を与えられているものに起こる),その代謝産物がPKUのルーチン新生児スクリーニングで検出されることがある。患児の大半は無症状であるが,嗜眠と哺乳不良を呈することがある。チロシン血症は,血漿チロシン高値によってPKUと鑑別される。
大部分は自然消失する。症状のある患児には,食事性チロシンの摂取制限(2g/kg/日)とビタミンC,200〜400mg,経口,1日1回を実施する。
チロシン血症Ⅰ型: この障害は,フマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(チロシン代謝に重要な酵素)欠損に起因する常染色体劣性の遺伝形質である。疾患としては,新生児期には劇症肝不全として,また乳児期後期および幼児期には無痛性不顕性肝炎,有痛性末梢神経障害,および尿細管障害(例,正アニオンギャップ性代謝性アシドーシス,低リン酸血症,ビタミンD抵抗性くる病)として発症する。長期生存者では肝癌のリスクが増大する。
診断は,血漿チロシン高値によって示唆され,血漿または尿中サクシニルアセトン高値および血球または肝生検標本におけるフマリルアセト酢酸ヒドラーゼの活性低下によって確定される。2(2-ニトロ-4-トリフルオロメチルベンゾイル)-1,3-シクロ-ヘキサンジオン(NTBC)による治療が急性発作に有効であり,また進行を遅らせる効果もある。低フェニルアラニン・低チロシンの食事療法が推奨される。肝移植が有効である。
チロシン血症Ⅱ型: チロシンアミノ基転移酵素の欠損によって引き起こされる常染色体劣性遺伝のまれな疾患である。チロシンの蓄積により皮膚と角膜に潰瘍を来す。無治療の場合,フェニルアラニンの二次的増加により,軽度ではあるが神経精神医学的異常を来すことがある。診断は,血漿チロシン高値,血漿中または尿中のサクシニルアセトンの欠如,および肝生検における酵素活性減少の測定によって行われる。本疾患は,食事性フェニルアラニンおよびチロシンの軽度から中等度の摂取制限により,容易に治療可能である。
(***)チロシン
必須アミノ酸ではありませんが重要なアミノ酸であるチロシンは、
フェニルアラニンという必須アミノ酸から作られます。
チロシンは脳や神経が正常に働くために必要不可欠なアミノ酸で、神経伝達物質であるドーパミン やノルアドレナリンの前駆体となり、脳機能を活性化させる働きがあります。
チロシンは感情や精神機能、性的衝動を脳内でつかさどる重要な神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリン の前駆体です。納豆やチーズ、みそなどの表面に白く析出してくる結晶や、若いタケノコの切り口に見られる白いアクがチロシン で水には溶けにくい性質があります。
2014年04月24日 (木)
こんにちは。
OKさんとヘルミさんから、スーパー糖質制限食とビタミンC必要量などについて、コメント・質問をいただきました。
日本脂質栄養学会の浜崎先生が
「超低炭水化物食だとビタミン C が尿細管で再吸収されるため、ビタミン C の必要量が極端に減る」
とされている根拠は
Cunningham JJ. Altered vitamin C transport in diabetes mellitus. Med Hypotheses
26:263-265, 1988.
という論文です。
取り寄せて読んでみようと思います。
「医学仮説」という雑誌に掲載された『糖尿病における変化するビタミンC輸送』という論文です。
手元にある要約では、
「・・・試験管内ではブドウ糖濃度が膜輸送機構に影響を与える。これによれば糖尿病においてはビタミンCの状態が障害される。・・・」
結局、本文を読まないとよくわかりませんので、本文が届いてから、本格的に検討しようと思います。
しかし、この論文、あくまでも試験管内のできごとに基づく仮説です。
高血糖だとビタミンCが尿中に排泄されて、体内のビタミンCが不足する可能性を指摘していますが、確定したものではないと思います。
そして、イヌイットは生肉と生魚が主食の伝統的食生活の頃は、まさにスーパー糖質制限食を実践していたわけですが、ビタミンC不足で壊血病やその予備軍が問題でした。こちらは仮説ではなくて、歴史的事実です。
従いまして、私はスーパー糖質制限食実践中においても、普通に葉野菜やブロッコリを摂取してビタミンCを補充しておいた方が無難と考えています。
スーパー糖質制限食で、ビタミンC必要量が減る可能性があるかどうかは、論文の本文を読んで考えてみます。
江部康二
【14/04/23 OK
最低ビタミンC必要量
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jln/19/1/19_1_59/_pdf
日本脂質栄養学会の浜崎先生や沖縄の渡辺先生は「超低炭水化物食だとビタミン C が尿細管で再吸収されるため、ビタミン C の必要量が極端に減る」を引用されていますが、スーパー糖質制限食の糖質量ではビタミンCの必要量は減らないのでしょうか?
もし減るのであれば、プチ・スタンダード・スーパーにおける最低ビタミンC必要量を定量的にご教示頂けると幸いです。】
【14/04/23 ドクター江部
Re: 最低ビタミンC必要量
OK さん
ビタミンCと糖質制限食のことは記事にしようと思いますが、 とりあえず普通に葉野菜やブロッコリを摂取してビタミンCを補充しておいた方が無難です。
イヌイットは伝統的食生活のころ、ビタミンC不足で壊血病やその予備軍が問題でしたので・・・。】
【14/04/24 OK
Re: 最低ビタミンC必要量
イヌイットの件がありビタミンCゼロにしてはいけないことは承知していますが、次回記事にして頂けるのであれば、「スーパー糖質制限によってビタミンCの必要量は減るのか変わらないのか?」についての考察もぜひお願い致します。
『食後血糖の上昇がなければ、糖が尿細管にあまり排出されず、類似構造のビタミン C の再吸収が亢進するためである。』という説明は非常にもっともらしく聞こえます。
Cunningham JJ. Altered vitamin C transport in diabetes mellitus. Med Hypotheses
26:263-265, 1988.】
【14/04/24 ヘルミ
ビタミンCの件
江部先生おはようございます。
「糖が尿細管にあまり排出されず、類似構造のビタミン C の再吸収が亢進するためである」とすると、強制的に尿糖として糖を排泄させるSGLT2阻害薬は壊血病の原因になりますか?
そこについてもご考察いただけるとありがたいです。】
OKさんとヘルミさんから、スーパー糖質制限食とビタミンC必要量などについて、コメント・質問をいただきました。
日本脂質栄養学会の浜崎先生が
「超低炭水化物食だとビタミン C が尿細管で再吸収されるため、ビタミン C の必要量が極端に減る」
とされている根拠は
Cunningham JJ. Altered vitamin C transport in diabetes mellitus. Med Hypotheses
26:263-265, 1988.
という論文です。
取り寄せて読んでみようと思います。
「医学仮説」という雑誌に掲載された『糖尿病における変化するビタミンC輸送』という論文です。
手元にある要約では、
「・・・試験管内ではブドウ糖濃度が膜輸送機構に影響を与える。これによれば糖尿病においてはビタミンCの状態が障害される。・・・」
結局、本文を読まないとよくわかりませんので、本文が届いてから、本格的に検討しようと思います。
しかし、この論文、あくまでも試験管内のできごとに基づく仮説です。
高血糖だとビタミンCが尿中に排泄されて、体内のビタミンCが不足する可能性を指摘していますが、確定したものではないと思います。
そして、イヌイットは生肉と生魚が主食の伝統的食生活の頃は、まさにスーパー糖質制限食を実践していたわけですが、ビタミンC不足で壊血病やその予備軍が問題でした。こちらは仮説ではなくて、歴史的事実です。
従いまして、私はスーパー糖質制限食実践中においても、普通に葉野菜やブロッコリを摂取してビタミンCを補充しておいた方が無難と考えています。
スーパー糖質制限食で、ビタミンC必要量が減る可能性があるかどうかは、論文の本文を読んで考えてみます。
江部康二
【14/04/23 OK
最低ビタミンC必要量
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jln/19/1/19_1_59/_pdf
日本脂質栄養学会の浜崎先生や沖縄の渡辺先生は「超低炭水化物食だとビタミン C が尿細管で再吸収されるため、ビタミン C の必要量が極端に減る」を引用されていますが、スーパー糖質制限食の糖質量ではビタミンCの必要量は減らないのでしょうか?
もし減るのであれば、プチ・スタンダード・スーパーにおける最低ビタミンC必要量を定量的にご教示頂けると幸いです。】
【14/04/23 ドクター江部
Re: 最低ビタミンC必要量
OK さん
ビタミンCと糖質制限食のことは記事にしようと思いますが、 とりあえず普通に葉野菜やブロッコリを摂取してビタミンCを補充しておいた方が無難です。
イヌイットは伝統的食生活のころ、ビタミンC不足で壊血病やその予備軍が問題でしたので・・・。】
【14/04/24 OK
Re: 最低ビタミンC必要量
イヌイットの件がありビタミンCゼロにしてはいけないことは承知していますが、次回記事にして頂けるのであれば、「スーパー糖質制限によってビタミンCの必要量は減るのか変わらないのか?」についての考察もぜひお願い致します。
『食後血糖の上昇がなければ、糖が尿細管にあまり排出されず、類似構造のビタミン C の再吸収が亢進するためである。』という説明は非常にもっともらしく聞こえます。
Cunningham JJ. Altered vitamin C transport in diabetes mellitus. Med Hypotheses
26:263-265, 1988.】
【14/04/24 ヘルミ
ビタミンCの件
江部先生おはようございます。
「糖が尿細管にあまり排出されず、類似構造のビタミン C の再吸収が亢進するためである」とすると、強制的に尿糖として糖を排泄させるSGLT2阻害薬は壊血病の原因になりますか?
そこについてもご考察いただけるとありがたいです。】
2013年07月24日 (水)
こんにちは。
「糖質制限食」という言葉は日本において、大分浸透してきました。
特に2012年以降は、知っている人がかなり増えたと思います。
その中で、
1)スーパー糖質制限食(1回の食事の糖質量20g以下)
2)山田悟先生の緩い糖質制限食(1回の食事の糖質量30~40g)
3)釜池豊秋先生の糖質ゼロ食(1日1食で、夕食、糖質は5g以下)
などがあり、1回の糖質摂取量設定に違いがあります。
さて、それでは糖質はどこまで減らせるのでしょう?
まず、理論的に考察すると、人体内で合成できない必須アミノ酸、必須脂肪酸、必須ビタミン、必須ミネラルは食事から摂る必要があります。
一方、必須糖質と呼ばれる物質は存在しません。
糖質摂取ゼロでも、肝臓で糖新生してブドウ糖を確保できるからです。
実際、国際食事エネルギーコンサルテーショングループの報告では、
「炭水化物(この場合は糖質とほぼ同義)の理論的な最小必要量はゼロである」(*)
と明記されています。
すなわち、理論的には、ヒトは糖質摂取ゼロで生きていけることになります。
しかしながら、哺乳類の中でヒトとサルとモルモットだけが、ビタミンCを作れません。
従って、食事からビタミンCを摂取しなくてはなりません。
進化の過程の食生活を通して、そのような身体を獲得したと考えられます。
それでは年間を通して、食べることができるビタミンC源にはどのようなものがあるでしょう。
チンパンジーと分岐して以降約700万年間、人類は狩猟・採集を生業としており、日常的な食料は、魚貝類、小動物や動物の肉・内臓・骨・骨髄、野草、野菜、キノコ、海藻、昆虫などです。
ときどき食べることができたのは、ナッツ類(種実類)、果物、山芋・百合根などの根茎類でしょうか。
上記のなかで、ビタミンCが豊富なのは、野草、野菜、果物です。
果物は、実りの秋といいますが、実は年間通して旬の物があります。
ただ野生種で小さいし、木になる果物は、サルやチンパンジーなどと競合しており、樹上生活者の猿のおこぼれくらいが人類の手に入ったのでしょうが、日常的なビタミンC補充には、足らなかったと思います。
野イチゴなどが、人類の先祖のほうが手に入れやすかったと思いますが、少量でしょう。
野草は年間通して、確実に獲得できるビタミンC供給源だった可能性があります。
せり、つくし、のびる、ふき・ふきのとうなどには、ビタミンCが豊富に含まれています。
他の野草にもビタミンCはあると思いますし、野草なら年間を通して何か常に摂取することが可能です。
種子類のなかでシイ、ギンナン、クリなどにはビタミンCが豊富に含まれています。
ともあれ、農耕前の人類は野草、果物などから、年間を通してビタミンCを補充していたのでしょう。
サルも基本的には、ヒトと同じような食物からビタミンCを摂取していたのだとと思いますが、果物獲得に関してはヒトより有利ですね。
次はモルモットです。
モルモットは完全な草食性動物で、野生では、野草や草の実、穀類などを食べています。
モルモットの場合は、ビタミンCの供給源は、ほとんど野草だったと考えられます。
このように考えてくると、ヒトにおいても、野草がビタミンC補給には、一番頼りになっていた気がします。
結論としては、ビタミンCを補充するための食材には、少量ながらも必ず糖質が含まれているということになります。
従って、理論的に糖質ゼロでOKでも、人類700万年間の進化の過程で、現実には充分量のビタミンCを得るためには糖質(野草、野菜、果物)も必然的に摂取していたこととなります。
高雄病院で推奨する「スーパー糖質制限食」ですが、給食のメニューにおいて、葉野菜などを中心に約10gくらいの糖質が含まれています。
その野菜分でビタミンCも補充できるので、サプリは要らないのです。
糖質が約10gなのは、食後高血糖予防や平均血糖変動幅増大予防、そしてインスリン追加分泌を抑えるためです。
釜池豊秋先生の糖質ゼロ食は、ビタミンC確保に留意して、つらくなくできる人はいいと思います。
山田悟先生の緩い糖質制限食は、食後高血糖予防や平均血糖変動幅増大にどのように対処するかですが、個人差もあると思います。
ちなみに、生肉・生魚が主食のころのイヌイットは、ビタミンC不足であり、イヌイットの血中ビタミンC濃度は、
壊血病危険ラインの0.2mg/dl未満の場合も多く、歯肉出血が高率に見られたそうです。
イヌイットの場合は、血中ビタミンC濃度が低値であることは、壊血病と新生児高チロシン血症のリスクを高めていました。(**)
(*)
Eur J Clin Nutr. 1999 Apr;53 Suppl 1:S177-8.
Report of the IDECG Working Group on lower and upper limits of carbohydrate and fat intake. International Dietary Energy Consultative Group.
Bier DM, Brosnan JT, Flatt JP, Hanson RW, Heird W, Hellerstein MK, Jéquier E, Kalhan S, Koletzko B, Macdonald I, Owen O, Uauy R.
(**)
Neonatal hypertyrosinemia and evidence of deficiency of ascorbic acid
in Arctic and subarctic peoples
624-626 CMA JOURNAL/OCTOBER 4,1975/VOL.113
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1956727/pdf/canmedaj01544-0034.pdf
江部康二
「糖質制限食」という言葉は日本において、大分浸透してきました。
特に2012年以降は、知っている人がかなり増えたと思います。
その中で、
1)スーパー糖質制限食(1回の食事の糖質量20g以下)
2)山田悟先生の緩い糖質制限食(1回の食事の糖質量30~40g)
3)釜池豊秋先生の糖質ゼロ食(1日1食で、夕食、糖質は5g以下)
などがあり、1回の糖質摂取量設定に違いがあります。
さて、それでは糖質はどこまで減らせるのでしょう?
まず、理論的に考察すると、人体内で合成できない必須アミノ酸、必須脂肪酸、必須ビタミン、必須ミネラルは食事から摂る必要があります。
一方、必須糖質と呼ばれる物質は存在しません。
糖質摂取ゼロでも、肝臓で糖新生してブドウ糖を確保できるからです。
実際、国際食事エネルギーコンサルテーショングループの報告では、
「炭水化物(この場合は糖質とほぼ同義)の理論的な最小必要量はゼロである」(*)
と明記されています。
すなわち、理論的には、ヒトは糖質摂取ゼロで生きていけることになります。
しかしながら、哺乳類の中でヒトとサルとモルモットだけが、ビタミンCを作れません。
従って、食事からビタミンCを摂取しなくてはなりません。
進化の過程の食生活を通して、そのような身体を獲得したと考えられます。
それでは年間を通して、食べることができるビタミンC源にはどのようなものがあるでしょう。
チンパンジーと分岐して以降約700万年間、人類は狩猟・採集を生業としており、日常的な食料は、魚貝類、小動物や動物の肉・内臓・骨・骨髄、野草、野菜、キノコ、海藻、昆虫などです。
ときどき食べることができたのは、ナッツ類(種実類)、果物、山芋・百合根などの根茎類でしょうか。
上記のなかで、ビタミンCが豊富なのは、野草、野菜、果物です。
果物は、実りの秋といいますが、実は年間通して旬の物があります。
ただ野生種で小さいし、木になる果物は、サルやチンパンジーなどと競合しており、樹上生活者の猿のおこぼれくらいが人類の手に入ったのでしょうが、日常的なビタミンC補充には、足らなかったと思います。
野イチゴなどが、人類の先祖のほうが手に入れやすかったと思いますが、少量でしょう。
野草は年間通して、確実に獲得できるビタミンC供給源だった可能性があります。
せり、つくし、のびる、ふき・ふきのとうなどには、ビタミンCが豊富に含まれています。
他の野草にもビタミンCはあると思いますし、野草なら年間を通して何か常に摂取することが可能です。
種子類のなかでシイ、ギンナン、クリなどにはビタミンCが豊富に含まれています。
ともあれ、農耕前の人類は野草、果物などから、年間を通してビタミンCを補充していたのでしょう。
サルも基本的には、ヒトと同じような食物からビタミンCを摂取していたのだとと思いますが、果物獲得に関してはヒトより有利ですね。
次はモルモットです。
モルモットは完全な草食性動物で、野生では、野草や草の実、穀類などを食べています。
モルモットの場合は、ビタミンCの供給源は、ほとんど野草だったと考えられます。
このように考えてくると、ヒトにおいても、野草がビタミンC補給には、一番頼りになっていた気がします。
結論としては、ビタミンCを補充するための食材には、少量ながらも必ず糖質が含まれているということになります。
従って、理論的に糖質ゼロでOKでも、人類700万年間の進化の過程で、現実には充分量のビタミンCを得るためには糖質(野草、野菜、果物)も必然的に摂取していたこととなります。
高雄病院で推奨する「スーパー糖質制限食」ですが、給食のメニューにおいて、葉野菜などを中心に約10gくらいの糖質が含まれています。
その野菜分でビタミンCも補充できるので、サプリは要らないのです。
糖質が約10gなのは、食後高血糖予防や平均血糖変動幅増大予防、そしてインスリン追加分泌を抑えるためです。
釜池豊秋先生の糖質ゼロ食は、ビタミンC確保に留意して、つらくなくできる人はいいと思います。
山田悟先生の緩い糖質制限食は、食後高血糖予防や平均血糖変動幅増大にどのように対処するかですが、個人差もあると思います。
ちなみに、生肉・生魚が主食のころのイヌイットは、ビタミンC不足であり、イヌイットの血中ビタミンC濃度は、
壊血病危険ラインの0.2mg/dl未満の場合も多く、歯肉出血が高率に見られたそうです。
イヌイットの場合は、血中ビタミンC濃度が低値であることは、壊血病と新生児高チロシン血症のリスクを高めていました。(**)
(*)
Eur J Clin Nutr. 1999 Apr;53 Suppl 1:S177-8.
Report of the IDECG Working Group on lower and upper limits of carbohydrate and fat intake. International Dietary Energy Consultative Group.
Bier DM, Brosnan JT, Flatt JP, Hanson RW, Heird W, Hellerstein MK, Jéquier E, Kalhan S, Koletzko B, Macdonald I, Owen O, Uauy R.
(**)
Neonatal hypertyrosinemia and evidence of deficiency of ascorbic acid
in Arctic and subarctic peoples
624-626 CMA JOURNAL/OCTOBER 4,1975/VOL.113
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1956727/pdf/canmedaj01544-0034.pdf
江部康二