2022年06月16日 (木)
【22/06/15 みっちゃん
インスリンが諸悪の根源
江部先生と同じ京都大学医学部を卒業されて、
現在はクリニックを開業されている新井圭輔医師の書籍を読んで、目から鱗でした。
江部先生と同じく、糖質制限を提唱しておられますが、
高血糖に関しては少し主張が異なります。
血糖値やA1cは少々高くても合併症の危険はほとんどなく、
その原因となるのはインスリンであるとの見解です。
多くの疾患や合併症の原因となる動脈硬化ですが、
それはインスリンの記憶とのことでした。
私もそう思います。
江部先生は、これについて如何お考えでしょうか?】
こんにちは。
みっちゃんから、
【『過剰のインスリンの害』はあるけれど
『高血糖の害』はないのではないか?】
という意見・コメントを頂きました。
結論から言いますと、
『高血糖の害』は確実に存在します。
高血糖はガンや血管障害の独立したリスクです。
1)
高血糖のリスクも、独立して明確に存在。
①早朝空腹時血糖値が140mgを超えてくるとがんのリスク。
②食後高血糖もガンや血管障害のリスク(国際糖尿病連合2007、2011)
2)
インスリン注射やSU剤がない時代から糖尿病は存在。
高血糖の害による合併症で平均寿命は短かった。
3)
日本初代糖尿人の藤原道長は、51歳の頃には高血糖による合併症オンパレードで、
1027年、61歳で死亡。
勿論、インスリン、SU剤なし。
4)
インスリン過剰の害とは別に、独立して高血糖の害が存在する。
昨日の記事では、過剰インスリンの害についても述べました。
結論は、
「インスリンは絶対に必要なホルモンであるが、少なくてすめばすむほど身体には優しい」
ということです。
今日の記事の結論は、「空腹時血糖高値」も「食後血糖高値」もいずれもインスリンとは無関係に、ガンや合併症や血管障害のリスクとなるということです。
A)韓国のJee等は空腹時血糖値140mg/dl以上で、
男女とも悪性腫瘍の発症リスクが有意に上昇すると報告。(2005年)
JAMA. 2005;293(2):194-202.
B)国際糖尿病連合・2011年「食後血糖値の管理に関するガイドライン」
国際糖尿病連合・2011年発表
「食後血糖値の管理に関するガイドライン」
http://www.idf.org/sites/default/files/postmeal%20glucose%20guidelines.pdf
の内容の抜粋を紹介します。
2007年の国際糖尿病連合「食後血糖値の管理に関するガイドライン」
http://www.idf.org/webdata/docs/Guideline_PMG_final.pdf
から、4年ぶりの改訂です。
以下、まずは
国際糖尿病連合(International Diabetes Federation:IDF)2007年
「食後血糖値の管理に関するガイドライン」
から抜粋です。
• 食後および負荷後高血糖は大血管疾患の独立した危険因子である。
• 糖負荷(GL*)の低い食事は食後血糖値のコントロールに有益である。
• 食後血糖値をコントロールするためには、食事療法および薬物療法を考慮すべき である。
• 食後高血糖は糖尿病網膜症と関係する。
• 食後高血糖はIMT肥厚と関係する。
• 食後高血糖は、酸化ストレスを生じ、血管内皮を障害する。
• 食後高血糖は認知障害にも関係する。
• 食後高血糖は癌発症リスク上昇と関連する。
• 食後血糖と空腹時血糖を共にターゲットにすることは、血糖コントロール達成の 最善の戦略である。
• HbA1cは6.5%未満が目標。
• 空腹時血糖値は100mg/dl未満をめざす。
• 食後2時間血糖値は140mg/dLを超えないようにする。
*GL(glycemic lord)
GI値を100で割り、その食品1食分に含まれる糖質のグラム数をかけた数値。
GIよりGLのほうが、実際に食事をするときの参考になりやすい。
GL値10以下の食品が、低GL食品。
国際糖尿病連合2007年発表の「食後血糖値の管理に関するガイドライン」と比べて、
2011年のガイドラインはそれほど大きな変化はないように思います。
いずれも食後高血糖のリスクを、列挙して明示しています。
違いですが、私の発見したところでは、
*SMBG(血糖自己測定)を、食後高血糖チェックに一押しで推奨。
*食後血糖値は、食後1~2時間で測定されるべきで、
160mg/dl未満が目標というのが追加。
*食後高血糖は心筋の血液量と血流を減らすと新たに言及。
*CGMが普及してきて、薬、食事、ストレス、運動など
様々な要素が血糖に影響を与えるのをチェックできる。
これらが、2007年版に追加で、加わりました。
C)
国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター
予防研究グループ
http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3753.html
ヘモグロビンA1c(HbA1c)とがん罹患との関連について
多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告
Int J Cancer. 2016 Apr 1;138(7):1741-53.
これまでのコホート研究により糖尿病患者では大腸がん、膵がん、肝がん、子宮内膜がんなどのがん罹患リスクが1.5~4倍高く、
全がんも約1.2倍高いと報告されています。
今回の報告では、非糖尿病域の高HbA1c値でも全がんリスクが高いことが判明しました。
本研究結果は、慢性的な高血糖が全がんリスクと関連することを示唆しています。
D)
日本初代糖尿人、後一条天皇の摂政太政大臣藤原道長。
日本の歴史の中で、糖尿病と関わりがある有名人はかなりいると思いますが、文献上の初代は、おそらく藤原道長(966~1027年)でしょう。
後一条天皇の摂政太政大臣であり、紫式部の『源氏物語』の主人公である光源氏のモデルとも言われています。
道長は平安貴族のなかでも、栄耀栄華の頂点を極めた人物と言えます。
しかし、自ら著した『御堂関白記(みどうかんぱくき)』によれば、30才をすぎた頃から病(胸病)を患っていたようです。
胸痛や胸苦しさを繰り返し起こしているので、いわゆる心臓神経症だったのかはたまた狭心症だったのか、まあ、あまり健康ではなかったようです。
51才のとき三条天皇を譲位させ、後一条天皇を擁立して外祖父となり、ゆるぎない地位を確立しました。
53才のとき娘の威子(いし)を後一条天皇の中宮としました。
このときの宴で詠んだのが
「この世をば我が世とぞ思ふ望月(もちづき)の欠けたることもなしと思へば」
という有名な歌です。
この歌は、同時代の貴族である右大臣の藤原実資(957~1046年)の著した『小右記(しょうゆうき)』に記載されています。
藤原実資は、藤原道長のライバルともいえ、数少ない道長に隷属しない対等の関係の人物でした。
その『小右記』に、道長が51才のとき、「外出中に気分が悪くなり帰途についたが、そのおりしきりに水をほしがっていた」とあります。
道長はしばしば口の渇きを訴え、昼夜なく水をほしがり、脱力感にもおそわれていました。
これは客観的にみて、かなり進行した糖尿病の症状です。
53才で「この世をば・・・」を詠んだときには、糖尿病はさらに進行していたことでしょう。
事実、目の具合がかなり悪くなっていたことが『御堂関白記』に書いてあり、
糖尿病網膜症あるいは糖尿病白内障を患っていたと思われます。
道長は、61歳で亡くなりましたが、晩年は糖尿病合併症による症状のオンパレードに苦しめられていたようです。
最終的に背中に大きな膿瘍ができて、感染コントロール不能となり死亡したようです。
栄耀栄華を極めたとは言え、頂点のころには視力低下、脱力感など、決して幸せではなかったと思われます。
江部康二
インスリンが諸悪の根源
江部先生と同じ京都大学医学部を卒業されて、
現在はクリニックを開業されている新井圭輔医師の書籍を読んで、目から鱗でした。
江部先生と同じく、糖質制限を提唱しておられますが、
高血糖に関しては少し主張が異なります。
血糖値やA1cは少々高くても合併症の危険はほとんどなく、
その原因となるのはインスリンであるとの見解です。
多くの疾患や合併症の原因となる動脈硬化ですが、
それはインスリンの記憶とのことでした。
私もそう思います。
江部先生は、これについて如何お考えでしょうか?】
こんにちは。
みっちゃんから、
【『過剰のインスリンの害』はあるけれど
『高血糖の害』はないのではないか?】
という意見・コメントを頂きました。
結論から言いますと、
『高血糖の害』は確実に存在します。
高血糖はガンや血管障害の独立したリスクです。
1)
高血糖のリスクも、独立して明確に存在。
①早朝空腹時血糖値が140mgを超えてくるとがんのリスク。
②食後高血糖もガンや血管障害のリスク(国際糖尿病連合2007、2011)
2)
インスリン注射やSU剤がない時代から糖尿病は存在。
高血糖の害による合併症で平均寿命は短かった。
3)
日本初代糖尿人の藤原道長は、51歳の頃には高血糖による合併症オンパレードで、
1027年、61歳で死亡。
勿論、インスリン、SU剤なし。
4)
インスリン過剰の害とは別に、独立して高血糖の害が存在する。
昨日の記事では、過剰インスリンの害についても述べました。
結論は、
「インスリンは絶対に必要なホルモンであるが、少なくてすめばすむほど身体には優しい」
ということです。
今日の記事の結論は、「空腹時血糖高値」も「食後血糖高値」もいずれもインスリンとは無関係に、ガンや合併症や血管障害のリスクとなるということです。
A)韓国のJee等は空腹時血糖値140mg/dl以上で、
男女とも悪性腫瘍の発症リスクが有意に上昇すると報告。(2005年)
JAMA. 2005;293(2):194-202.
B)国際糖尿病連合・2011年「食後血糖値の管理に関するガイドライン」
国際糖尿病連合・2011年発表
「食後血糖値の管理に関するガイドライン」
http://www.idf.org/sites/default/files/postmeal%20glucose%20guidelines.pdf
の内容の抜粋を紹介します。
2007年の国際糖尿病連合「食後血糖値の管理に関するガイドライン」
http://www.idf.org/webdata/docs/Guideline_PMG_final.pdf
から、4年ぶりの改訂です。
以下、まずは
国際糖尿病連合(International Diabetes Federation:IDF)2007年
「食後血糖値の管理に関するガイドライン」
から抜粋です。
• 食後および負荷後高血糖は大血管疾患の独立した危険因子である。
• 糖負荷(GL*)の低い食事は食後血糖値のコントロールに有益である。
• 食後血糖値をコントロールするためには、食事療法および薬物療法を考慮すべき である。
• 食後高血糖は糖尿病網膜症と関係する。
• 食後高血糖はIMT肥厚と関係する。
• 食後高血糖は、酸化ストレスを生じ、血管内皮を障害する。
• 食後高血糖は認知障害にも関係する。
• 食後高血糖は癌発症リスク上昇と関連する。
• 食後血糖と空腹時血糖を共にターゲットにすることは、血糖コントロール達成の 最善の戦略である。
• HbA1cは6.5%未満が目標。
• 空腹時血糖値は100mg/dl未満をめざす。
• 食後2時間血糖値は140mg/dLを超えないようにする。
*GL(glycemic lord)
GI値を100で割り、その食品1食分に含まれる糖質のグラム数をかけた数値。
GIよりGLのほうが、実際に食事をするときの参考になりやすい。
GL値10以下の食品が、低GL食品。
国際糖尿病連合2007年発表の「食後血糖値の管理に関するガイドライン」と比べて、
2011年のガイドラインはそれほど大きな変化はないように思います。
いずれも食後高血糖のリスクを、列挙して明示しています。
違いですが、私の発見したところでは、
*SMBG(血糖自己測定)を、食後高血糖チェックに一押しで推奨。
*食後血糖値は、食後1~2時間で測定されるべきで、
160mg/dl未満が目標というのが追加。
*食後高血糖は心筋の血液量と血流を減らすと新たに言及。
*CGMが普及してきて、薬、食事、ストレス、運動など
様々な要素が血糖に影響を与えるのをチェックできる。
これらが、2007年版に追加で、加わりました。
C)
国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター
予防研究グループ
http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3753.html
ヘモグロビンA1c(HbA1c)とがん罹患との関連について
多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告
Int J Cancer. 2016 Apr 1;138(7):1741-53.
これまでのコホート研究により糖尿病患者では大腸がん、膵がん、肝がん、子宮内膜がんなどのがん罹患リスクが1.5~4倍高く、
全がんも約1.2倍高いと報告されています。
今回の報告では、非糖尿病域の高HbA1c値でも全がんリスクが高いことが判明しました。
本研究結果は、慢性的な高血糖が全がんリスクと関連することを示唆しています。
D)
日本初代糖尿人、後一条天皇の摂政太政大臣藤原道長。
日本の歴史の中で、糖尿病と関わりがある有名人はかなりいると思いますが、文献上の初代は、おそらく藤原道長(966~1027年)でしょう。
後一条天皇の摂政太政大臣であり、紫式部の『源氏物語』の主人公である光源氏のモデルとも言われています。
道長は平安貴族のなかでも、栄耀栄華の頂点を極めた人物と言えます。
しかし、自ら著した『御堂関白記(みどうかんぱくき)』によれば、30才をすぎた頃から病(胸病)を患っていたようです。
胸痛や胸苦しさを繰り返し起こしているので、いわゆる心臓神経症だったのかはたまた狭心症だったのか、まあ、あまり健康ではなかったようです。
51才のとき三条天皇を譲位させ、後一条天皇を擁立して外祖父となり、ゆるぎない地位を確立しました。
53才のとき娘の威子(いし)を後一条天皇の中宮としました。
このときの宴で詠んだのが
「この世をば我が世とぞ思ふ望月(もちづき)の欠けたることもなしと思へば」
という有名な歌です。
この歌は、同時代の貴族である右大臣の藤原実資(957~1046年)の著した『小右記(しょうゆうき)』に記載されています。
藤原実資は、藤原道長のライバルともいえ、数少ない道長に隷属しない対等の関係の人物でした。
その『小右記』に、道長が51才のとき、「外出中に気分が悪くなり帰途についたが、そのおりしきりに水をほしがっていた」とあります。
道長はしばしば口の渇きを訴え、昼夜なく水をほしがり、脱力感にもおそわれていました。
これは客観的にみて、かなり進行した糖尿病の症状です。
53才で「この世をば・・・」を詠んだときには、糖尿病はさらに進行していたことでしょう。
事実、目の具合がかなり悪くなっていたことが『御堂関白記』に書いてあり、
糖尿病網膜症あるいは糖尿病白内障を患っていたと思われます。
道長は、61歳で亡くなりましたが、晩年は糖尿病合併症による症状のオンパレードに苦しめられていたようです。
最終的に背中に大きな膿瘍ができて、感染コントロール不能となり死亡したようです。
栄耀栄華を極めたとは言え、頂点のころには視力低下、脱力感など、決して幸せではなかったと思われます。
江部康二
こんにちは。高血糖の原因は主に、インスリン抵抗性とインスリン分泌低下が挙げられると思いますが、合併症はインスリン抵抗性の場合に起こりやすく、インスリン分泌低下の場合は、稀に、合併症が起こらない場合もある...と推論することはできないでしょうか?インスリン値の自己測定器があれば、インスリン抵抗性についてもっと明らかになると思うのですが、どこか発売してほしいものです。
新井圭輔医師No2「糖質制限・ケトン体高値」と「低インスリン療法」
https://youtu.be/L3n-4phbjHQ
新井圭輔医師No2「糖質制限・ケトン体高値」と「低インスリン療法」
https://youtu.be/L3n-4phbjHQ
2022/06/18(Sat) 22:18 | URL | ジョー | 【編集】
ジョー さん
仰る通り、
<インスリン分泌不足 + インスリン抵抗性>
により
<インスリン作用不足>
が生じて、糖尿病を発症します。
①インスリン分泌能力がアジア人は欧米人より低い。
②欧米人の糖尿病はインスリン抵抗性が主。
③アジア人の糖尿病はインスリン分泌不足が主。
インスリン分泌不足による高血糖により、普通に合併症は発症します。
1)
高血糖のリスクも、独立して明確に存在。
①早朝空腹時血糖値が140mgを超えてくるとがんのリスク。
②食後高血糖もガンや血管障害のリスク(国際糖尿病連合2007、2011)
2)
インスリン注射やSU剤がない時代から糖尿病は存在。
高血糖の害による合併症で平均寿命は短かった。
3)
日本初代糖尿人の藤原道長は、51歳の頃には高血糖による合併症オンパレードで、
1027年、61歳で死亡。
勿論、インスリン、SU剤なし。
4)
インスリン過剰の害とは別に、独立して高血糖の害が存在する。
仰る通り、
<インスリン分泌不足 + インスリン抵抗性>
により
<インスリン作用不足>
が生じて、糖尿病を発症します。
①インスリン分泌能力がアジア人は欧米人より低い。
②欧米人の糖尿病はインスリン抵抗性が主。
③アジア人の糖尿病はインスリン分泌不足が主。
インスリン分泌不足による高血糖により、普通に合併症は発症します。
1)
高血糖のリスクも、独立して明確に存在。
①早朝空腹時血糖値が140mgを超えてくるとがんのリスク。
②食後高血糖もガンや血管障害のリスク(国際糖尿病連合2007、2011)
2)
インスリン注射やSU剤がない時代から糖尿病は存在。
高血糖の害による合併症で平均寿命は短かった。
3)
日本初代糖尿人の藤原道長は、51歳の頃には高血糖による合併症オンパレードで、
1027年、61歳で死亡。
勿論、インスリン、SU剤なし。
4)
インスリン過剰の害とは別に、独立して高血糖の害が存在する。
2022/06/19(Sun) 13:00 | URL | ドクター江部 | 【編集】
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