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糖尿病治療の目標と治療の優先順位。2022年5月。
こんにちは。
今回は、糖尿病治療の目標と治療の優先順位のお話です。

糖尿病治療の目標は、

『健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)の維持、
健康な人と変わらない寿命の確保。
 血糖、体重、血圧、血清脂質の良好なコントロール状態の維持。
糖尿病細小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害)および
動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、脳血管障害、末梢動脈疾患)の発症、進展の阻止。』


ということとなります。

日本糖尿病学会 糖尿病治療ガイド2022-2023 (文光堂) 、36ページに、
・・・・・・・・・・・抜粋ここから・・・・・・・・・・・・
3.治療
B. 治療方針の立て方

1.インスリン非依存状態

1)食事療法と運動
患者自身が、糖尿病の病態を十分理解し、
適切な食事療法と運動療法を行うよう指導する。
・・・中略
食事療法、運動療法を2~3ヶ月続けても、
なお目標の血糖コントロールを達成できない場合薬物療法を行う。

2)薬物療法
・・・経口血糖降下薬や注射薬を少量からはじめ徐々に増量する。(以下略)・・・・・・・・・・・抜粋ここまで・・・・・・・・・・・・

 上記治療方針が、記載してあります。

 インスリン非依存状態というのは、
内因性インスリン(自分自身で分泌するインスリン)が残っていて、
インスリン注射の必要がないという意味です。
ほとんどの場合は2型糖尿病です。

1型糖尿病などで、内因性インスリンがゼロレベルの糖尿人は、
インスリン依存状態という分類となり、インスリン注射が絶対に必要です。

このように糖尿病治療ガイドには、糖尿病治療の優先順位の一番は、
食事療法と運動療法と明記してあります。
残念なのは、49ページからの食事療法の項目では、
摂取エネルギー量にしか言及がなくて、
「血糖値を直接上昇させるのは糖質だけで、タンパク質・脂質は上げない」
という、食事療法で最も肝腎な事実が無視されていることです。

この点、米国糖尿病学会では、患者用テキストブックにおいて、
「血糖値を直接上昇させるのは糖質だけで、タンパク質・脂質は上げない」
ということを、きっちり教育します。

「食事療法、運動療法を2~3ヶ月続けても、
なお目標の血糖コントロールを達成できない場合薬物療法を開始する」


この優先順位の2番目の薬物療法開始という前に、
食事療法の選択肢の一つである糖質制限食を何故考慮しないのか理解に苦しみます。
2019年4月、米国糖尿病学会は、
「成人糖尿病患者または予備軍患者への栄養療法」コンセンサス・レポート
において『糖質制限食』がエビデンスが最も豊富であるとして
一番積極的に推奨しています

その後、2020年、2021年のガイドラインでも、同様の見解です。

食事療法で改善するのなら、経口血糖降下薬も注射薬も必要ありません。
糖尿病だけでなく、どんな病気においても、
食事療法で改善するなら薬は要らないと思います。
食事療法と薬物療法の優先順位という話なら、
医者や医療関係者でなくても、誰でも理解できると思います。

繰り返しますが、優先順位の一番は、食事療法と運動療法なのです。

さて、食事療法と運動療法が効果がないときにやむを得ず、
仕方ないので開始するのが、優先順位の2番目の「薬物療法」です。

その、薬物療法、すごい勢いで種類が増えてきました。
年々、創薬が相次いで、内服薬で9種類、
注射薬で2種類の糖尿病薬が勢揃いです。

1) 経口血糖降下剤(SU剤)
2) α-グルコシダーゼ阻害薬(グルコバイ、ベイスン)
3) ビグアナイド剤(メトホルミン、グリコラン、メルビンなど)
4) インスリン抵抗性改善薬(チアゾリジン誘導体・アクトス)
5) 速効型インスリン分泌促進剤(グルファスト、スターシス)
6) DPP-4阻害剤(ジャヌビア、ネシーナなど)
7)SGLT2阻害薬(スーグラ、ルセフィ、ジャディアンスなど) 
8)GLP-1受容体作動薬(リベルサス)
9)ツイミーグ(イメグリミン塩酸塩)

A)インスリン注射
B)GLP-1注射薬(インクレチン関連薬)

 糖尿病学会は、「いろんな種類の糖尿病薬が開発され、
治療効果が期待し易くなったが、それには専門的知識が必要」

といった見解ですが、なんだが本末転倒と思うのは私だけでしょうか?

つまり糖尿病学会推奨のエネルギー制限食(カロリ-制限食)が、
本当に効果があるのなら、何故、9種類もの内服薬が必要なのでしょう?
次々と新薬が開発されて、とうとう9種類に達したということは、
カロリー制限食と運動では、どうにもならなかったので、
ひたすら薬物の創薬が行われたということにほかなりません。

端的に言えば、カロリー制限食が糖尿病治療に、
あまり効果がないので、これだけ薬物に頼らざるを得なかったということです。


さらに言えば、糖尿病から年間新たに、16000人以上の人工透析、
3000人以上の失明、3000人以上の足切断
に至るという厳しい現実の、
責任はいったい誰にあるのでしょうか?

カロリー制限食を実践し、薬を飲んで注射もしても、
これだけの合併症の犠牲者が多発していることは厳然たる事実であり、
日本の糖尿病治療が決して上手く行っていない動かぬ証拠と言えます。

日本糖尿病学会のお歴々は、この事実を真摯に受けとめて、
しっかりご自分の頭で考えて真実を見つめ直す義務があると私は思います。
そしてアメリカ糖尿病学会が、2019年4月のコンセンサス・レポートで
2型糖尿病患者に対して糖質制限食を一番に推奨した
ことや、
2020年、2021年のガイドラインでも、同様の見解であることを、
日本の医師や糖尿病患者にに知らせることが急務と思います。

 
江部康二

コメント
糖質制限
いつも勉強させて頂いております、内科医です。
本当に先生のおっしゃるとおりと思います。
当方在住県の糖尿病のリーダー的人物も糖質制限に否定的です。また、講演会に来た全国的に知名度のある人物は糖質の取り過ぎは良くないと言及していましたが、それは素人でも分かる事。
残念でなりません。何故糖質制限についてのエビデンスを受け入れられないのか?
糖質制限に否定的ならどんどんその理由を発信すべきと思う次第です。
私自身は、少なくとも緩やかな制限であれば何のハードルもないと考えています。
2022/05/02(Mon) 20:33 | URL | としの | 【編集
ノンシュガー飲料で大失敗
昨日、サービスエリアのコンビニでお昼ご飯を買って食べたところ、予想よりも血糖値がはるかに高くなっており、「???」

よく考えてみると、あるメーカーのノンシュガーのカフェラテを飲んだのを思い出し、再度計算してみました。
この製品、「糖類ゼロ」なのですが、炭水化物9.4g含んでおり、炭水化物のほとんどが「糖質」だったようです。
成分を見るとデキストリンが含まれており、これが原因と思われます。

以下のように消去法で総カロリーからタンパク質と脂質のカロリーを差し引き残りを糖質量として計算すべきでしたが、後の祭りですね。

糖質量=(カロリー ―(タンパク質×4+脂質×9))÷4

ノンシュガーは砂糖は使っていませんと言う事であり、したがって糖類(単糖類、2糖類等)はゼロですが、その他の炭水化物(多糖類)を含んでいないとは限らない(多くは含んでいる)ので要注意です。
久しぶりの失敗体験でした。
2022/05/03(Tue) 06:39 | URL | 西村 典彦 | 【編集
Re: 糖質制限
としの さん

米国糖尿病学会は、2019年4月のコンセンサスレポートで
「糖質制限食が最もエビデンスが豊富」と明言したあとは
2020年、2021年のガイドラインでも同様の見解です。
低炭水化物または非常に低炭水化物の食事パターンどちらもということです。


2022年のADAガイドラインでは、
『前糖尿病または2型糖尿病予防のための食事パターンに関連して利用可能な最も強力な研究は、
地中海スタイル、低脂肪、または低炭水化物の食事計画です。』

という記載があります。

低炭水化物または非常に低炭水化物の食事パターン
低炭水化物の食事パターン、特に超低炭水化物(VLC)の食事パターンは、
A1Cと抗高血糖薬の必要性を減らすことが示されています。
これらの食事パターンは、2型糖尿病で最も研究されている食事パターンの1つです。』

という記載もあります。
2022/05/03(Tue) 07:42 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: ノンシュガー飲料で大失敗
西村 典彦 さん

興味深い情報をコメント頂き、ありがとうございます。
参考になります。

糖質量=(カロリー ― (タンパク質×4+脂質×9)) ÷ 

これなら、「炭水化物・食物繊維・糖質」の表示がなくても、糖質量を正確に知ることができますね。

糖類(単糖類、2糖類等)以外の甘味料で、最もよく使用されているのは
糖アルコールの一つである<マルチトール>です。
マルチトールはブドウ糖の半分くらい血糖値を上昇させます。
2022/05/03(Tue) 07:48 | URL | ドクター江部 | 【編集
落下星の部屋
https://rakkasei.syogyoumujou.com/

カロリー制限の成れの果てです(涙
2022/05/03(Tue) 08:19 | URL | らこ | 【編集
ありがとうございました
詳細なコメント誠に有難うございます。
良く分かりました。
糖尿病薬が沢山出てきて、基本的な事をつい忘れがちになっています。ただ、リベルサスが食欲を抑えてくれ、間食や過食をスムーズ止めれるケースが多いのは事実です。
食事の嗜好や、食欲というのを抑える事は大変な事と感じます。
薬に頼らなくても食事、運動療法がうまくいく方も時にいます。そのような方は私の努力や技量というより、勝手にうまくやる感じです。
多くは緩い糖質制限どころかお菓子を止める事さえできない感じです(少しの期間はできても)。
私自身が耐糖能異常があり、糖質摂取後の血糖値の上昇に驚き、過剰な糖質摂取は自然と出来ています。ただ「食欲」を抑えるのはしばしば困難です。本当に情けなく、とほほです。
食事指導について何かポイントはあるでしょうか(糖質制限、及び過剰なカロリーを摂らないようにするには)
もし宜しければアドバイスお願い申し上げます。
野菜を沢山食べる、毎日の体重測定、食べるならそれ以上に運動する、等指導はしておりますが。
2022/05/03(Tue) 23:46 | URL | としの | 【編集
Re: ありがとうございました
としの さん

糖尿病の場合は、血糖値という数字がでるので、糖質制限食の効果が一目瞭然です。

①普通にパンかご飯を食べて1時間後に受診して貰い採血して、血糖値上昇(180~200mg/dl以上)を確認する。
②違う日に、肉、魚貝、豆腐、納豆などだけ食べてもらい、1時間後に受診して貰い採血して、血糖値上昇なしを確認する。

可能ならば、血糖自己測定器(SMBG)を購入して貰えば、糖質・蛋白質・脂質のうち
血糖値を上昇させるのは糖質だけということが、スッキリ確認できるので
糖質制限食実践のモチベーションとなります。
2022/05/04(Wed) 07:37 | URL | ドクター江部 | 【編集
ありがとうございます
早々のご回答ありがとうございました!
先生の仰るような手法をどんどんやっていこうとおもいます。リブレもすすめてみる事も有用と考えていますが、費用と面倒がる方が多いですね。
外来には、糖尿、高血圧、脂質異常、肝機能障害、OSASなど肥満に関係する疾患を持つ方は非常に多い。
「食欲、食べすぎ」を抑える効果的な方法はあるでしょうか?
とても食欲が強い方は、ある意味仕方ないかと、半分諦めている次第です。
ストレス回避、身体を動かす、毎日体重測定、
かさが多くカロリーの少ない食品を摂る、等を考えますが、なかなかうまくいかないです。心理的アプローチ?等も聞いた事があるようにも思いますが。
スーパー糖質制限をするしかないですか。
アドバイス頂ければとても嬉しいです。
度々申し訳ありません。
2022/05/04(Wed) 09:51 | URL | としの | 【編集
カロリー制限食
この記事を素直に読めば

日本糖尿病学会のお歴々は、

カロリー制限食という効果の薄い方法を

分かっていて、薬物療法を開始するための

言い訳に使っているとしか思えませんね。
2022/05/04(Wed) 13:03 | URL | 眞次 | 【編集
糖質と膵臓がんの関係について教えて下さい。
2022/05/04(Wed) 16:03 | URL | いしかわ | 【編集
Re: タイトルなし
いしかわ さん

国立がん研究センターの研究によれば、(肝臓癌を除外すれば)
正常の段階から、HbA1cが高値であるほど、全ガンのリスクが上昇していきます。

糖質摂取と血糖値上昇とインスリン過剰分泌が、活性酸素を発生させ、がんのリスクを上昇させると思われます。
2022/05/04(Wed) 17:58 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: ありがとうございます
としの さん

本人のやる気につきますね。
そのためには、SMBGやCGMの利用が役に立つと思います。
2022/05/04(Wed) 18:01 | URL | ドクター江部 | 【編集
ブログに助けられました。
アメリカに住んでいます。自分の体を省みる余裕のない生活を送ってきてしまい、HbA1cの値が高くなってしまいました。
今日、江部先生のこちらのブログを拝見し、大変励まされました。本当にありがとうございます。

当地の人たちは、甘いものを目の前にしたとき、はっきりと「私は食べられません」と言い切られます。コーヒー・ショップやスーバーで売られているお弁当類の中には、一切、炭水化物が含まれていないものが必ずあります。
それほど糖質制限が糖尿病患者の常識としていきわたっているのに対して、まだ日本の医師会が「カロリー制限」論を標榜していることは不思議でなりません。なにか機構的な問題があるのでしょうか。
2022/11/22(Tue) 12:59 | URL | まつやま | 【編集
Re: ブログに助けられました。


まつやま さん

コメントをありがとうございます。
とても参考になります。

ブログ視聴、ありがとうございます。
本ブログが、少しでもお役に立てれば、嬉しい限りです。


『当地の人たちは、甘いものを目の前にしたとき、はっきりと「私は食べられません」と言い切られます。
コーヒー・ショップやスーバーで売られているお弁当類の中には、一切、炭水化物が含まれていないものが必ずあります。
それほど糖質制限が糖尿病患者の常識としていきわたっているのに対して、
まだ日本の医師会が「カロリー制限」論を標榜していることは不思議でなりません。
なにか機構的な問題があるのでしょうか。』


アメリカは、エビデンスがでれば、すぐにそれに対応し商品も販売されるようですね。
2019年4月の米国糖尿病学会コンセンサスレポートの
『糖質制限食がもっともよく研究されている食事療法である』という記載から
はっきり流れが変わったようです。

日本の医師は、エビデンスより、面子に拘る保守的なタイプが多い気がします。
自分の頭で考えずに、糖尿病学会のガイドラインに縛られている感じです。
もっとも近年は、糖質制限賛成派の医師がどんどん増えているのは心強いです。
2022/11/22(Tue) 16:56 | URL | ドクター江部 | 【編集
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