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人体の臓器や細胞のエネルギー源。小腸と大腸は特殊。
【20/08/26 naochabin
質問です。
なぜ人間は本当は糖質を必要としない(糖質は体に害を及ぼすしかない)のに細胞は糖質をエネルギー源とするのですか?
昔の狩猟民族の時は穀物がなかったため動物の細胞は糖質ではなくてタンパク質、脂質をエネルギーとしていたのですか?
教えて下さい。】


こんばんは。
naochabin さんから、糖質、脂質、タンパク質の役割や、
人体のエネルギー源について、質問を頂きました。

人体のエネルギー源として
A)脂肪酸-ケトン体エネルギーシステム
B)ブドウ糖-グリコーゲンエネルギーシステム
があります。
人体のほとんどの細胞が、A)B)をエネルギー源として使用しています。

A)脂肪酸-ケトン体エネルギーシステム
体内の脂肪組織の中性脂肪は、分解されて脂肪酸とグリセロールになります。
脂肪酸は脳と赤血球以外の人体組織のエネルギー源となります。
ケトン体は肝細胞内で、
「脂肪酸→β酸化→アセチルCoA→ケトン体」
という順番で誰においても日常的に生成されていて肝臓では使用されずに、
他の臓器、脳や筋肉のエネルギー源として供給されます。
これは、最も効率のよいエネルギー源であるケトン体を、
自らは使用せずに他の臓器に優先的に回すという趣旨です。
脂肪酸-ケトン体エネルギーシステムは、安静時や空腹時や睡眠時は、人体の主たるエネルギーシステムです。


B)ブドウ糖-グリコーゲンエネルギーシステム
ブドウ糖は、筋肉と肝臓にグリコ-ゲンとして蓄えられています。
通常成人男子では90~150gが肝臓に肝グリコーゲンとして貯蔵されていて、
100~400gのグリコーゲンが筋肉内に存在します。
筋肉中のグリコーゲンは筋肉細胞のエネルギー源となりますが、血糖にはなりません。
糖質摂取後最初の3~4時間は消化管から吸収されたブドウ糖が身体のエネルギー源となり、
その後余った血糖は肝・筋・脂肪組織にグリコーゲンや中性脂肪として蓄えられます。
肝臓のグリコーゲンは、食後3~4時間くらいが経過したら、血糖確保のために使用されます。
さらに食後数時間が経過すると、肝臓では糖新生をして、血糖を正常値に維持します。
ブドウ糖-グリコーゲンエネルギーシステムは、本来は緊急時(逃走・闘争など)の手っ取り早いエネルギー源です。
あとは、30分以上歩いて、筋肉の収縮が維持されると、GLUT4が細胞表面にトランスロケーションして、
インスリン非依存的に筋肉細胞が血糖を取り込みます。
糖質を摂取してインスリンが分泌されると、筋肉細胞や脂肪細胞のGLUT4が細胞表面にトランスロケーションして
血糖を取り込みます。



A)B)以外の例外のエネルギー源として、グルタミンと短鎖脂肪酸があります。

C)グルタミン

小腸はグルタミンが主たるエネルギー源です。
グルタミンが50~60%、ケトン体が15~20%、ブドウ糖は5~7%とごく少ないです。
グルタミンは血中に最も多く含まれている遊離アミノ酸です。
小腸がグルタミンを主たるエネルギー源にしているのは、食べものを消化吸収したとき、
ブドウ糖や脂肪酸などは他の臓器に優先的に供給するためと思われます。

D)短鎖脂肪酸
大腸は、短鎖脂肪酸しか、エネルギー源として使いません。
大腸は腸内細菌が、食物繊維を分解して作った短鎖脂肪酸をエネルギー源として利用しています。
また体内で産生された短鎖脂肪酸もエネルギー源とします。



さて、A)B)がエネルギー源となっているほとんどの細胞について整理してみます。

キーワードは、ミトコンドリアです。

ミトコンドリアは細胞内にあるエネルギー生産装置です。
赤血球以外の全ての臓器や組織は細胞内にミトコンドリアを持っています。

ミトコンドリアがあると、TCAサイクルを回して、脂肪酸やケトン体をエネルギー源として利用することができるのです。
血液脳関門は、脳細胞の毛細血管にあり、脳細胞を物理的かつ化学的に守っています。

1)赤血球
 ミトコンドリアを持っていないので、「ブドウ糖」しかエネルギー源として利用できません。
 人体でミトコンドリアを持っていないのは、赤血球だけです。

2)脳
①ブドウ糖、脂肪酸、ケトン体は血液脳関門を通過する。
②脂肪酸はアストロサイトではミトコンドリア内でβ酸化されてエネルギー源となる。
③脂肪酸は神経細胞では細胞膜の原料となりエネルギー源としては使われない。

 従って、脳は「ブドウ糖+ケトン体」をエネルギー源として、利用します。

3)筋肉・内臓・脂肪など、ほとんどの肝外体組織

 ミトコンドリアを細胞内に有しているので、
「ブドウ糖+ケトン体+脂肪酸」をエネルギー源として 利用します。
興味深いのは、
主たるエネルギー源はケトン体と脂肪酸でありブドウ糖ではないことです。

「ハーパー・生化学」(原著27版)の訳本、155ぺージ・図16-9の説明に、
「心臓のような肝外組織では代謝エネルギー源は次の順に好まれて酸化される。
(1)ケトン体.(2)脂肪酸.(3)グルコース」

との記載があります。


4)肝臓
 肝細胞のなかで、ケトン体が生成されますが、肝細胞自らはケトン体を利用せず、
血中に送り込んで他の 組織に供給します。
 従って肝細胞は 「ブドウ糖+脂肪酸」をエネルギー源として利用します。


江部康二
コメント
LDLコレステロール
昨年の4月1日から6月30日まで、スーパー糖質制限を行い、10キロ減量できました。昨年5月初旬に献血をした所、コレステロール値がとても高く、病院で、血液検査をしました。
先生のブログに中性脂肪値が低く、HDLコレステロールが高ければ問題ないとのことが載っていたので大丈夫かなとは思っていたのですが、昨年9月の江部先生の大阪でのセミナーに参加させていただき、直接質問させて頂いた所、気にしなくても大丈夫ですよ!と太鼓判を押していただいたので、その後の経過観察として、血液検査のみ受け、薬は飲んでいません。
半年で数値がすごく良くなったのでコメントさせて頂いております。お医者さんには、不思議だなあ〜、ほんとに不思議だと言われました(笑)

19/8/14
中性脂肪 57
HDLコレステロール 85.3
LDLコレステロール 223
HbA1C 5.6

20/2/5
中性脂肪 86
HDLコレステロール 93.1
LDLコレステロール 192
HbA1C 5.7

20/8/26
中性脂肪 52
HDLコレステロール 78.4
LDLコレステロール 131
HbA1C 6.0

となりました。
現在は、ほぼ、主食は食べてなく、たまに外食の時は気にせず食べています。

体重は、3キロほど増え、女性58歳165センチ56キロ程です。

HbA1C の値が少しづつ増えているのがちょっときになるのですが、もう少しちゃんと、糖質制限した方が良いでしょうか?

ただ、運動ができていないので、もう少し動いたら、大丈夫かなあとも思っています。

もう少し糖質制限しながら、軽い運動をやり始めようかと思っています。
2020/08/28(Fri) 12:22 | URL | 岡安 | 【編集
ありがとうございます。
詳しく説明していただいてありがとうございます。
赤血球はミトコンドリアを持たないので糖質しかエネルギー源にならないと記載がありますが、狩猟民族の赤血球は糖質を取らないのに何をエネルギーとしていたのですか?
2020/08/28(Fri) 12:48 | URL | naochabin | 【編集
Re: ありがとうございます。
naochabin さん

絶食状態でも、糖質制限食実践でも、
肝臓がアミノ酸、乳酸、グリセロールから、ブドウ糖を新たに作ります。
これを糖新生といいます。
糖新生により、絶食時でも空腹時でも睡眠時でも、血糖値は一定の濃度に保たれ
赤血球のエネルギー源となります。

2020/08/28(Fri) 19:29 | URL | ドクター江部 | 【編集
質問の答えが違います。
僕が質問してるのは、狩猟民族は糖質を摂取していないのになぜ、赤血球が糖質を必要とするシステムになったのか?
糖質を必要としていなければ赤血球は蛋白や脂質でエネルギー供給するシステムになっていたはず。
またなぜ狩猟民族の肝臓が糖新生というシステムが備わっていたかということです。
糖質が必要なければ糖新生なんていうシステムは必要ないはずです。
僕は江部先生の糖質不要論をものすごく理解したいのですが、こういったことが納得できずにいるため先生への不信感が拭えずにいます。
納得できる説明をお願いします。
それができなければ先生の糖質不要論は根本から成り立つ事はないと思います。
2020/08/28(Fri) 23:03 | URL | naochabin | 【編集
Re: 質問の答えが違います。
naochabin さん

狩猟・採集民族だけではなく全人類が、赤血球のために糖新生でブドウ糖を産生しています。
人類は糖質は必要としていません。
糖質を摂取しなくても、ブドウ糖は、体内で肝臓が作ってくれるからです。
つまり、必須糖質はありませんが、ブドウ糖は必要なので体内で作るということです。

人類のご先祖は、狩猟・採集時代は、獲物が捕れればいいですが、
1~2週間は獲物がなく、水だけで過ごすこもとよくあったと思います。

それで、細胞膜の原料であるコレステロールも肝臓で作り、
食材のコレステロールがなくても生きていけるシステムとなっています。
ヒトを始めとして哺乳類においてはコレステロールは細胞膜の原料となります。

肝臓がブドウ糖を作るのも、同様で、水だけで過ごすときも、
赤血球のためにブドウ糖を作って生きていけるシステムになっているということです。
ヒトを始めとして哺乳類においても糖新生でブドウ糖を作っています。
2020/08/29(Sat) 07:49 | URL | ドクター江部 | 【編集
そもそもなぜ赤血球だけがブドウ糖をエネルギー源とするようになったのですか?
他の細胞と同じようにブドウ糖以外のものをエネルギーとした方が能率がいいと思うのですが。
何故たった1種類の細胞のために糖質が必要でわざわざ糖新生のシステムを作り出したのか分かりません。
この疑問が払拭できないと糖質不要論は理解できません。
教えて下さい。
2020/08/29(Sat) 09:17 | URL | naochabin | 【編集
Re: 質問の答えが違います。
naochabin さん

赤血球は人体の細胞で唯一、内部にミトコンドリアを持っていません。
ミトコンドリアは細胞内にあるエネルギー生産装置で、脂肪酸やケトン体をエネルギーに変えることができます。
赤血球は成熟する最終段階でミトコンドリアを含むいくつかの細胞内器官を捨て去り、
乾燥重量の約9割を、酸素を運ぶためのヘモグロビンが占めるという特殊な細胞になります。

もう少し詳しく言うと、子宮の中にいる胎児の血液には、
成熟する前の幼若な赤血球である「赤芽球」がたくさんあります(健康な成人には骨髄の中にしかありません)。
この赤芽球はミトコンドリアを豊富に持っており、その生み出すエネルギーによってヘモグロビンが合成されます。
赤芽球が成熟して赤血球になるにつれて、細胞質はヘモグロビンで満たされていき、
完全に成熟した赤血球ではヘモグロビンの合成は行われません。

こうして、赤血球は酸素運搬に特化した機能を得ることと引き換えに、
ブドウ糖しかエネルギー源にできなくなります。
赤血球にミトコンドリアがあれば、酸素を消費するので、その面でもリーズナブルです。

2020/08/29(Sat) 13:47 | URL | ドクター江部 | 【編集
赤血球について
江部先生

いつもブログを参考にさせていただいています。
ありがとうございます。

さて、赤血球について、以下の論文を見つけました。
Journal of Japanese Biochemical Society 89(3): 359-367 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890359

参考になったのは以下です。
・赤血球は赤芽球からの成熟の最終段階で、細胞核・ミトコンドリア・リボゾームなどの細胞小器官を捨て去る。

・これは、赤血球内のヘモグロビンの量を増やし、酸素運搬の効率を上げるため。また、遺伝子変異でのがん化を回避するため(がん化した赤血球が毎日2000億個も産生されたらあっという間に個体は死ぬ)という説。

・核のない赤血球は、ほぼ哺乳類のみ。約2億5千万年前のペルム紀と三畳紀に起きた大量絶滅後の中生代の低酸素環境下で哺乳類と恐竜類が同時進化。この厳しい環境下で、より効率的に酸素を体内に供給するため、脱核し嫌気性解糖系によるエネルギー代謝を選択したとの説。

>>
このように、生体にとって重要な赤血球のエネルギー源がグルコースだけになってしまったため、四六時中それを補給する糖新生も合わせて自己完結型システムとして、ヒトは進化してきたのではないでしょうか。
2020/08/29(Sat) 15:33 | URL | ひっ跳べ | 【編集
Re: 赤血球について
ひっ跳べ さん

コメント、ありがとうございます。
とても参考になります。
2020/08/29(Sat) 16:27 | URL | ドクター江部 | 【編集
赤血球の詳細??!!
都内河北 鈴木です。

赤血球の詳細が、判明しなければ、
江部先生『糖質制限理論』を理解出来なければ、
実践には至らない事のようですが、
では何故『糖質を食べるのかを、理解して食べているのですか??!!』
と発言したいです!!

何故なら、私は江部先生『糖質制限理論』を理解把握して、実践で、
『生還、覚醒、再覚醒、』している現実があります!!

<<『医療デ~タ存在してます!!』>>

「日本糖尿病学会」へ質問してください!!
「糖質は、何故食べるのか??!!」をです!!

ここ数年、私の区役所「血糖改善教室」講義では、質問する事を、
何故なのか??、拒否されています??!!

江部先生には、『生還、覚醒、再覚醒、』でき、
感謝尽きません!!
ありがとうございます!!
敬具
2020/08/29(Sat) 18:10 | URL | 都内河北 鈴木 | 【編集
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