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日本の糖尿病食・糖質制限食の歴史。
<プロローグ>
こんにちは。

現在ではファミリーレストランのガストやリンガーハットでも、くら寿司でも
糖質オフメニューがあります。
ローソンやファミリーマートでも、糖質制限なパンが販売されています。

2016/7/20(水)、NHKクローズアップ現代で糖質制限食が特集されました。
NHKによれば、糖質制限食が空前のブームだそうで、
関連の市場は当時で¥3184億円とのことでした。

今や2018年で、糖質制限市場はさらに加速して拡大しています。
とうとう中国からも原稿の依頼が来ました。

私は、糖質制限食はブームではなく、科学的な真理そのものと考えています。
従ってブームのように消え去ることはなく、今後もどんどん繁栄していくと思います。

今回は、その糖質制限食と糖尿病食の歴史を考察してみました。

<夏目漱石と糖尿病と厳重食>
文豪夏目漱石(1867~1916年)は、糖尿病でした。
大正5年(1916)正月、右の上膊(上腕)神経に強い痛みと右上膊(上腕)の不全麻痺。
薬、マッサージは無効。4月、糖尿病と診断。
教え子の医師真鍋嘉一郎により、5月から、当時の最先端治療の「厳重食」を開始。尿糖は消失。
7月終わりには、右の上膊神経に強い痛みと右上膊の不全麻痺が改善。
神経衰弱の症状も減退。糖尿病も改善。11月、胃潰瘍が再発。
12月9日、胃潰瘍による出血で死亡。
厳重食で、糖尿病と糖尿病神経障害は著明改善ですが、残念ながら胃潰瘍のために死去しています。

<厳重食=スーパー糖質制限食>
昭和13年、18年の女子栄養大学の以下の「厳重食」の解説をみると、まさに、「厳重食=スーパー糖質制限食」です。

『肉類(牛、豚、鶏、魚肉、内臓、心臓、肝臓、舌、膈、腎臓、骨髄)、貝類、卵類(鶏卵、鳥卵、魚卵)、脂肪類(バター類、豚脂、ヘッド、肝油、オリーブ油、ごま油、)、豆類(豆腐、油揚げなど)、
味噌は少量、野菜(含水炭素5%以下)小松菜、京菜、白菜、筍、レタス、蕗、大根、アスパラ、果実(含水炭素の少ないもの)びわ、すもも、苺、いちじく、メロン、パイナップル、パパイヤ、りんご、蜜柑、夏みかん・・・
*梨、ブドウ、柿、バナナはやや糖質が多いので警戒を要する。』


夏目漱石と厳重食1)2)については、
精神科医師Aこと中嶋一雄医師に資料を提供して頂きました。ありがとうございました。

<日本における糖尿病食事療法の変遷>
日本でも、昭和18年(1943年) 頃は、まだ厳重食のほうが、幅を利かせていたようです。

そして日本糖尿病学会のバイブルのような食品交換表初版が1965年に発行されました。
この時、適正なカロリーということが強調されました、。
解説には、食事療法の原則として
「①適正なカロリー②糖質量の制限③糖質、たんぱく質、脂質のバランス④ビタミンおよびミネラルの適正な補給」
と記載されています。
なんと、2番目には驚くべきことに「糖質量の制限」と明記してあります。
これが、1969年の第2版になると
「①適正なカロリー(カロリーの制限)②糖質、たんぱく質、脂質のバランス③ビタミンおよびミネラルの適正な補給」
と変更されて、
「糖質量の制限」という文言が削除されています。
糖尿病食事療法の原則から、「糖質制限」が消えて、「カロリーの制限」が登場したのが2版です。

これ以降の食品交換表は、2013年、11年ぶりに改訂された第7版にいたるまで、「カロリー制限」一辺倒でした。

2013年10月の米国糖尿病学会の「栄養療法に関する声明」では、全ての糖尿病患者に適した“one-size-fits-all(唯一無二の)”食事パターンは存在しないとの見解を表明しました。
これに対して、日本糖尿病学会は、唯一無二の糖尿病食事療法として「カロリー制限・高糖質食」を、
1969年以来、現在まで推奨し続けています。

<日本における糖質制限食の歴史>
 戦前までは、厳重食があったのですが、1969年以降はすっかり消えてしまいました。
その後の糖質制限食の臨床実践は、1999年から釜池医師が宇和島で開始し、
同時に高雄病院でも筆者の兄江部洋一郎医師が開始し有効例を重ねました。

その経験を踏まえ医学文献では、2004年に筆者が本邦初の糖質制限食有効例の報告を行いました3)。
2005年には筆者が本邦初の一般向けの本を出版しました4)。

2006年荒木医師が「断糖宣言」、2007年釜池医師が「糖質ゼロの食事術」を刊行しました。
坂東医師、中村医師は約1000人を肥満外来で治療し糖質制限食の有効性を2008年に報告しました5)。
2009年、2010年、医学雑誌に筆者が小論文を発表しました6)7)。

その後、2012年に山田悟医師、白澤医師、2013年に夏井医師、2014年に渡辺信幸医師、
2015年に宗田医師が一般向け糖質制限食の本を出版しました8)9)10)11)12)。
糖質制限食の広がり、いよいよ加速がついてきました13)14)15)。


1)香川綾: 女子栄養大学「栄養と料理」 第4巻第4号 p46
  糖尿病の手当と食餌療法、昭和13年(1938年)
2)香川昇三:女子栄養大学「栄養と料理」 第9巻第5号 p27 
  糖尿病患者の厳重食、 昭和18年(1943年)
3)江部康二他:糖尿病食事療法として糖質制限食を実施した3症例,
      京都医学会雑誌51(1):125-130、2004
4)江部康二:主食を抜けば糖尿病は良くなる!糖質制限食のすすめ、
  2005年(東洋経済新報社)
5)坂東浩,中村巧:カーボカウントと糖質制限食, 治療,90(12):3105-3111,2008
6)江部康二:主食を抜けば(糖質を制限すれば)糖尿病は良くなる!,
  治療,91(4):682-683,2009
7)江部康二:低糖質食(糖質制限食carbohydrate restriction)の意義,
  内科,105(1):100-103,2010
8)山田悟:糖質制限食のススメ、2012年(東洋経済新報社)
9)白澤卓二:<白澤式>ケトン食事法、2012年(かんき出版)
10)夏井睦:「炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学」、光文社新書、2013年
11)渡辺信幸:日本人だからこそ「ご飯」を食べるな 肉・卵・チーズが健康長寿をつくる 、2014年(講談社)
12)宗田哲男:「ケトン体が人類を救う 糖質制限でなぜ健康になるのか」、光文社新書、2015年
13)江部康二:「人類最強の『糖質制限』論 ケトン体を味方にして痩せる、健康になる」、SB新書、2016年
14)江部康二:外食でやせる! 「糖質オフ」で食べても飲んでも太らない体を手に入れる、2017年(毎日新聞出版)
15)江部康二:江部康二の糖質制限革命」2017年(東洋経済新報社)
コメント
血糖値測定
こんばんは、いつも興味深く読ませて頂いています。

血糖自己測定にて、食パン(糖質27グラム)と、ウインナー二本(糖質不明)を朝食にとり

前90 一時間116 一時間半123 二時間106

という結果でありました。

血糖値少し高め、ゆるゆるゆるゆる糖質制限しています。
やはり、健常人はもう少し低いものですよね?
2018/06/24(Sun) 22:55 | URL | マコロン | 【編集
日本糖尿病医療の不思議??
都内河北 鈴木です。

本日記事を読んでも不思議に思います??

私は「糖尿病」治療に通院して重症化21年、
江部先生「糖質制限理論」をテレビで垣間見て知り実践して、
翌日より効果有り、3か月足らずで正常化!!
以降「生還、覚醒」を再三コメントしています!!

「糖質制限理論」で「生還、覚醒」している「確証デ~タ」あるから申し上げます。
私は不思議でなりません!!
「日本糖尿病学会」という組織です!!

治療改善への「無知の医療」を固持して、
何の意味あるのかと思います。

私はハッキリ言います!!
「日本糖尿病学会の被害者」で
江部先生「糖質制限理論」食生活、実践で
「生還、覚醒してゆく現在が有ります!!」 

ネットグロ~バル時代です。
世界知識が知ることが可能な時代なんです。

私は治療したいから病院へ行き、
「都内名の有る病院組織役職有る経営病院」で、「日本糖尿病学会公認担当医」
に7年間隠蔽され悪化し、「脳梗塞」救急搬送され殺されかけていたんです。

何故その様な事が言えるのか??
自力で江部先生の理論を理解把握したからです。

そして「ヘモグロビン正常数値」の結果を出したからです。
すると病院は「圧力三昧」の「転院要求」。

再三コメントしていますが、現実社会ではネットにも触れず、
病院を過信している知人たちがいることは事実です。

今月末には区行政者に来訪していただき
「何故、脳梗塞、眼に後遺症ある区民患者が無料区役所主催の「糖尿病専門医」の「糖尿病教室」へ参加できないのか??」を訪ねるつもりです。

現在後遺症の為にも「質問満載」だからです!!

その際には、自身の「糖質制限理論」で「生還、覚醒」医療デ~タを提示するつもりです。
現実の事実だからです!!

しかし区行政者は、「糖質制限理論」無知でしたが。
会話だけでもする価値は、有るかと思います。

江部先生には、感謝尽きません!!
ありがとうございます。
敬具
2018/06/25(Mon) 00:59 | URL | 都内河北 鈴木 | 【編集
Re: 血糖値測定
マコロン さん

ウィンナー2本で、薬gの糖質ですので、合計28gの糖質摂取です。

食後血糖値のピークが90分で、33mg上昇しています。

<33mg ÷ 28g = 1.18mg>

1gの糖質が1.18mg血糖値を上昇させています。
正常型だと思います。

1gの糖質が体重64kgの糖尿人の血糖値を3mg上昇させます。
1gの糖質が体重64kgの境界型の血糖値を2mg上昇させます。
2018/06/25(Mon) 06:53 | URL | ドクター江部 | 【編集
夏目漱石の「明暗」
朝日新聞1916年7月28日
「明暗」連載第60回
https://yahoo.jp/box/Oe1Tsq

 当時の糖尿病食の光景が描写されている。自己の体験による表現と思える

  ◇  ◇

 「お延、叔父さんは情けない事になっちまったよ。日本に生まれて米の飯が食えないんだから可哀想だろう」

 糖尿病の叔父は既定の分量以外の澱粉質を摂取する事を主治医から厳禁されてしまったのである。「こうして豆腐ばかり食ってるんだがね」

 叔父の膳にはとても一人では平らげ切れないほどの白い豆腐が生のままで供えられた。

 むくむくと肥え太った叔父の、わざとする情なさそうな顔を見たお延は、大して気の毒にならないばかりか、かえって笑いたくなった。

 「少しゃ断食でもした方がいいんでしょう。叔父さんみたいに肥って生きてるのは、誰だって苦痛に違ないから」
2018/06/27(Wed) 20:47 | URL | 中嶋一雄 | 【編集
提案
①記録に残る日本の糖尿病患者第1号=藤原道長

②インスリン発見者の誕生日=世界糖尿病デー (WHO制定)


このことをヒントにして、こう定めてはどうでしょうか

1) 記録に残る日本の糖質制限医療患者第1号=夏目漱石

2) 朝日新聞の連載小説「明暗」に糖質制限に関する内容が掲載された「7月28日」を「糖質制限デー」とする
2018/06/27(Wed) 20:48 | URL | 中嶋一雄 | 【編集
戦前の「栄養と料理」
デジタルアーカイブでみられます

http://www.eiyotoryoris.jp/keywords/573?this_row=%E3%81%9F
2018/06/27(Wed) 20:51 | URL | 中嶋一雄 | 【編集
Re: 提案
中嶋一雄 先生

興味深いご提案、ありがとうございます。
2018/06/27(Wed) 21:24 | URL | ドクター江部 | 【編集
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