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「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」の読後感。
こんばんは。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)助教授の
津川 友介氏の著書
「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」
を読みました。

以下の緑文字の文章は、出版社の内容紹介です。

内容紹介
ハーバード大学を経てUCLA助教授として活動する医師が、
あなたに教える不動のルール

健康になるための「体に良い食品」はこれだけ!
あらゆる食品をエビデンスベースで5グループに分類

●バターコーヒーは×
●グルテンフリーは×
●100%果汁でもジュースは×
●βカロテンは×
●白米は×

今あなたが信じている健康情報は本当に正しい情報でしょうか。
お医者さんや栄養士さんが言っていたから正しいと思っていないでしょうか。
専門の資格を持っていると正しいことを発信しているように見えますが、
そうとは限りません。

せっかく健康意識の高い人が、テレビや本の誤った情報を信じてしまうことで、
その努力が無駄になったり、不健康になってしまうのはとても残念なことです。
実は、巷に溢れる「体に良い食事」には、個人の経験談だったり、
健康に良いという研究結果がごく少数のものも含まれています。

本書では、最新の膨大な研究論文をもとに複数の質の高い研究で
体に良いことが科学的に証明されている食事を紹介しています。
まずは2週間ほど本書で説明している食事法を続けてみてください。
自分の体が変わってきたことを実感できるようになるはずです。


おおむね、良い内容と思ったのですが、
糖質制限食を否定しておられるので反論します。


A)

8ページに、「科学的根拠のない健康情報」として
①炭水化物は健康に悪く、食べると太る。
が取り上げられています。

しかし、
「炭水化物は健康に悪く、食べると太る。」
には、信頼度の高いエビデンスがあります。
エビデンスのグレードの最上位に
ランダム化比較試験(Randomised Controlled Trial, RCT)があります。
以下、「糖質制限食が脂肪制限食より減量に有効」というRCTを列挙します。


低糖質食 vs. 低脂質食、減量や脂質データなどCVD(心血管疾患)リスク低減で、
低糖質食の圧勝。148人の肥満者を、1年間研究。
低糖質食は40g/日未満。
Effects of low-carbohydrate and low-fat diets: a randomized trial.
Bazzano LA et all
Ann Intern Med. 2014 Sep 2;161(5):309-18


低炭水化物食で一番体重減少・ HDL-C増加 
脂肪制限食(カロリー制限)、                          地中海食(カロリー制限)、                           低炭水化物食(カロリー無制限)の3群
低炭水化物群のみカロリー無制限のハンディがあったが、
結局3群全て同じだけのカロリーが減少。満足度と満腹度。
当初糖質20g/日以下。3ヶ月後から120g/日以下を目指すも、
結局女性150g/日、男性180g/日で40%の糖質。
糖質約50%の低脂肪食群、地中海食群(高糖質群)
DIRECT(Dietary Intervention Randomized Controlled Trial)         
322人を3群に分けて、2年間の研究。
Iris Shai,et all:Weight Loss with a Low-Carbohydrate,Mediterranean,or Low-Fat Diet. NENGLJ MED JULY17,2008、VOL359.NO.3  229-241


体重減少、中性脂肪減少、HDL-C増加は低炭水化物食が低脂質・低カロリー食に比し有効。13の電子データベースの2000年1月~2007年3月の低炭水化物食と低脂質食比較RCTをメタ解析。
Systematic review of randomized controlled trials of low-carbohydrate vs. low-fat/low-calorie diets in the management of obesity and its comorbidities M. Hession,et all
Obesity Reviews(国際肥満研究連合の公式ジャーナル)
Volume 10, Issue 1, pages 36–50, January 2009


23レポートのメタ解析によって
研究期間にかかわらず糖質制限食が体重,脂質,血糖,血圧を改善させる。
Obes Rev 2012; 13: 1048-1066Systematic review and meta-analysis of clinical trialsof the effects of low carbohydrate diets oncardiovascular risk factorsobr_1021


アトキンス、ゾーン、ラーン、オーニッシュダイエットのそれぞれの1年間の体重減少効果などをみた。311人の女性を上記4グループに分けて追跡。これら4種のダイエット法は、いずれも米国でポピュラーなものである。
アトキンスは低炭水化物食(スーパー糖質制限食)、ラーンとオーニッシュは高炭水化物、低脂肪食、ゾーンは炭水化物40%
低炭水化物食が体重を最も減少させて、HDL-CとTGを改善。
Comparison of the Atkins, Zone, Ornish, and LEARN Diets for Change in Weight and Related Risk Factors Among Overweight Premenopausal Women
The A TO Z Weight Loss Study: A Randomized Trial ,JAMA297:969-977


B)
結局、
津川 友介氏は、GIに着目されていて、
「精製された穀物は体に悪いが未精製の穀物は体に良い」
という立場です。
つまり白米は体に悪いが、玄米は体に良いということです。

それで、11ページに、厚生労働省と農林水産省が共同で発表した
「食事バランスガイド」に、ご飯を1日3~5杯食べることが
推奨されているのに対して
「白米を1日2~3杯ですでに糖尿病発症リスクが上がりはじめる可能性がある」
というエビデンスがあるのに、ガイドラインが歪められていると
批判しておられます。

しかし、本書において根本的に欠落しているのが
「高インスリン血症」と「食後高血糖」の概念です。
「高インスリン血症」と「食後高血糖」が、
発ガンリスクや肥満・メタボなど様々な生活習慣病リスクとなることには
国際糖尿病連合・2011年「食後血糖値の管理に関するガイドライン」 など
多くのエビデンスがあります。

そして、食後高インスリン血症と食後高血糖を生じるのは
糖質摂取時だけであり、脂質・蛋白質では生じません。
これは、エビデンス以前の生理学的事実です。

白米摂取で生じる「食後高インスリン血症と食後高血糖」は
玄米でも生じます。
例えば2型糖尿病である私の実験で
白米を茶碗1杯食べると食後血糖値のピークが240mgくらいですが
玄米を茶碗1杯だと、220mgくらいになります。
この程度の差は臨床的には全く無意味です。

まず、糖尿人においては、玄米も「食後高血糖」を起こす
危険な食材ということです。


また未精製穀物といえども、インスリンが大量に分泌されるので
発ガンリスクや肥満・メタボなど様々な生活習慣病リスクとなるということです。



C)
43ページに果糖が血糖をすごく上げると記載してありますが
果糖のGIは20と低く、血糖値はブドウ糖ほどは上げません。
しかし肝臓でブドウ糖より早く中性脂肪に変わります。
それで、果糖は太りやすいのです。
果糖が速やかに中性脂肪に変わるという性質は
狩猟・採集時代の700万年間においては、
飢餓へのセーフティーネットという意味では大きな役割を果たしていたと思います。
一方、果糖はブドウ糖よりはるかにAGEsという身体に悪い物質に変換されやすく
それを防ぐために肝臓でさっさと中性脂肪に変えていたという意味もあります。

さらに、近年の果物は、狩猟・採集時代の物と異なり、
糖度が高くなり、大きさも大きくなっていますので、
ブドウ糖も果糖もショ糖も過剰に増えています。
従って、現在の果物は、極めて太りやすいし、AGEsも生じやすいし
かなり危険な食物といえ、要注意です。

津川 友介氏は、果物は健康に良いとしていますが、
少なくとも現代の果物は、多く摂取すれば危険食材と言えます。


D)
155ページ
「透析患者さんの場合、たんぱく質をたくさんとると、
たんぱく質を分解することで出てくるリンというミネラルも体に蓄積されてしまう」

という記載がありますが、これは誤解です。
透析になる前の段階の腎不全では「低たんぱく食」が推奨されていますが、
一旦透析になればある程度の「高たんぱく食」が推奨されています。
例えば腎不全期(第4期)は、0.6~0.8g/kgの低たんぱく食ですが、
透析療法期(第5期)は、0.9~1.2g/kgのあるていどの高たんぱく食です。



以上、
「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」
の読後感でした。

江部康二
コメント
とても分かりやすい解説書でした。

バターコーヒーについては江部先生はどのようにお考えなのでしょうか?

お時間があるときに、ご回答頂けると嬉しいです。
2018/06/03(Sun) 22:42 | URL | ちゃっちゃん | 【編集
大変よくわかりました。ありがとうございました。
2018/06/04(Mon) 06:12 | URL | T.長谷川 | 【編集
脂質の摂取について
先生のブログや著書、講演会などでいつもお勉強させて頂いております。
今回、スーパー糖質制限をする際の脂質について質問なのですが、先生は飽和脂肪酸、オメガ3.6.9をどれくらいの割合でとられていますでしょうか?
わたくしは実はオメガ6が非常に多いナッツを山のようにナッツを食べるため、オメガ6の割合がとても多いです。しかし体調はとても良く、ナッツのオメガ6は身体に良いのではと自分の中で解釈しています。
先生の脂質についての考えをお聞かせ頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。
2018/06/04(Mon) 06:27 | URL | プードル | 【編集
リンについて
エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013修正版
https://cdn.jsn.or.jp/guideline/pdf/CKD_evidence2013/03honbun_teisei.pdf

 透析患者に食品添加物を含んだ食事を避けるように指導することで,血清リンが0.6mg/dL減少することがRCTで示されており…

 同量の植物性たんぱく質と動物性たんぱく質では,同じリン/たんぱく質比であっても植物性たんぱく質のほうがリンの吸収が少なく,血清リン値がより低くなることがCKD患者を対象としたクロスオーバー試験で示されている。これは、ヒトが植物中のリンと結合しているフィチン酸を分解する酵素をもたず、吸収効率が悪いことが理由と考えられているが…

  ◇

 ナッツのリンは大丈夫そうです
2018/06/04(Mon) 12:37 | URL | 中嶋一雄 | 【編集
Re: 脂質の摂取について
プードル さん

私はかなりの面倒くさがりです。

それでいちいち計算したことはありませんが、
魚と肉と半々くらいに摂取しています。
魚もよく食べるのでオメガ3はまあ足りていると思います。
牛肉もよく食べるので、オレイン酸や飽和脂肪酸も摂取しています。
オリーブオイルも食べてます。
エゴマ油も使ってます。

私も、ナッツは良く食べます。
こちらは、酒の摘まみという位置づけなので、山のようにではないですね。
なおリノール酸の取り過ぎには注意がいると思いますので、ナッツもやはり適量が好ましいです。
2018/06/04(Mon) 18:50 | URL | ドクター江部 | 【編集
Re: リンについて
中嶋一雄 先生

コメント、ありがとうございます。
2018/06/04(Mon) 18:53 | URL | ドクター江部 | 【編集
朝日新聞より
「○○食べれば健康によい」は疑って あふれる食の情報

https://www.asahi.com/articles/photo/AS20180608003483.html
2018/06/11(Mon) 12:34 | URL | ABC | 【編集
Re: 朝日新聞より

ABC さん

津川友介・UCLA助教授のご著書
「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」(東洋経済新報社)


基本、良い本と思います。

しかし、本書において根本的に欠落しているのが
「高インスリン血症」と「食後高血糖」の概念です。

その概念が欠落しているので
「糖質制限食」を否定しておられますが、
これに関しては知識とエビデンス不足です。

「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」の読後感。
2018年06月03日 (日)
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-4580.html


をご参照頂けば幸いです。
2018/06/11(Mon) 17:37 | URL | ドクター江部 | 【編集
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